Tetsu-to-Hagane
Online ISSN : 1883-2954
Print ISSN : 0021-1575
ISSN-L : 0021-1575
Review
Automatic Chemical Analysis for Sophistication of Steelmaking Processes
Takeshi YamaneMichihiro Aimoto
Author information
JOURNAL OPEN ACCESS FULL-TEXT HTML

2014 Volume 100 Issue 7 Pages 832-845

Details
Synopsis:

Chemical methods of analysis of steel samples are significantly considered in the perspective of precision, trueness and accuracy of analytical results, as the standardization for control of iron and steel making process. On the other hand, automatic apparatus for wet chemical analysis have been required, in relation to rationalize the analytical procedures with complicated pre-treatment steps taking a lot of skill and time. In the present paper, Automatic Photometric Analyzers, Technicon AutoAnalyzers and Flow Injection Analysis (FIA) systems for the automation of wet chemical analysis, which have been developed during the last several decades, were reviewed. Especially, FIA systems has been examined studiously due to low reagent and sample consumption, good reproducibility and repeatability, minimal sample contamination in a closed analytical system, and reduced skill and time for analysis. Applications of FIA for Bi, Mn, N, B, Mo, and Cr in steel samples, and electrolytic decomposition method of steel samples were mentioned particularly. The prospective developments of automatic techniques of chemical analysis in future were also proposed.

1. 緒言

日本の鉄鋼業は戦後の低迷期を1950年代半ば頃に脱却し,生産能力と製造技術力を伸長させた。その礎となった技術の一つが,製造工程を管理し,新たな鋼種の研究開発を助長し,あるいは製品品質を保証する分析技術の進歩であることに疑念の余地はない。鉄鋼分析では,鉄鋼試料を酸などで分解して分析に供する化学分析法と,固体のままで分析に供する機器分析法に大別されるが,1970年代から化学分析法に吸光光度分析法が,機器分析法にスパーク発光分光分析法や蛍光X線分析法が導入され,定量感度,迅速性が著しく向上し,現在に繋がる鉄鋼分析の基礎が形成された。ここで,機器分析法で検量線作成や装置管理に用いられる標準物質の認証値の決定の観点から,機器分析法は化学分析法との符合により成立するものであり,鉄鋼製造工程の管理にとって,化学分析法は依然として重要な役割を担っている。

旧来の化学分析法は,鉄鋼試料を溶解して目的とする元素を含有する溶液とし(溶解),その溶液に反応試薬を加えて化学的に反応させ(化学反応),反応完結時点での生成物の質量,反応試薬の消費量や,生成物に起因する吸光度などを測定し,測定値から目的元素量を算出(定量)するのが一般的な方法である。化学分析法の中でも吸光光度分析法は,導入された当時としては高感度および高選択性を有する分析方法として,特に鉄鋼試料中の微量元素の定量値を提供したことは,高度成長期における製造技術力の伸長に大きく貢献した。吸光光度分析法は原子吸光光度法(AAS)や誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-OES)のような原子スペクトル分析法が普及した今日でも鉄鋼分析には不可分な分析方法として,多種の元素,含有量レベル,鋼種について日本工業規格に規定されている。

一方で日本の鉄鋼業は,高度成長期以降から生産量に加え品質を重視するようになり,鉄鋼分析も従来の迅速性や感度に加え,精度もあわせて追求する必要が生じた。吸光光度分析法においても,高感度,高選択性を担保しつつ,分析精度面での向上を目的として方法全体を新しい角度から再検討し,製造工程管理,製品保証をより厳格に実施することが必要となった。しかし吸光光度分析法の精度は発色条件や用いる器具,そして何よりも分析者の操作方法,手順,技量や習熟度に影響され易い。そこで,従来の吸光光度分析法の「手操作」部分の簡略化,あるいは自動化により高精度化を図るとともに,吸光光度分析法の本来の特微である高感度,迅速性などについても一段と向上させることに意義を置いた検討がなされるようになった。このような背景の中で吸光光度分析法全体(溶解,化学反応,測定)を全自動システム化し,操作簡易性,迅速性などもあわせて向上させることが検討され,開発されたのが,2章で述べる吸光光度法を用いた鉄鋼自動分析装置である。なお,この様な開発と並行して,1970年代にはAAS1),1980年代にはICP-OES2)といった分析機器を用いた化学分析法が鉄鋼業でも実用化されるようになったが,分析精度や信頼性の観点で従来の化学分析法も変わらず重視された。3・2・2項でも述べるが,ICP-OESやAASに代表される各種分析機器を用いた元素分析法において,目的成分の分離や濃縮などの前処理操作を本論で述べる自動化システムで自動化するなど「住み分け」しつつ,双方が発展してきた経緯がある。

更に,1990年代以降は,長期に及ぶ景気低迷の中での相次ぐ鉄鋼試験分析部門の分社化や,鉄鋼会社同士の統合に伴う経営合理化の中で熟練技能者の養成が困難になってきたこともあり,スキルフリー化の観点からの化学分析の自動化への要求が顕著になっている。

本論では,鉄鋼化学分析の自動化において,我が国における諸検討の経過に眼をやるとともに,特に「流れ分析」と呼ばれるフローインジェクション分析法(Flow Injection Analysis, FIA)の適用による更なる迅速,簡便な鉄鋼材料の分析方法の開発動向に関して概説する。

2. 初期の自動鉄鋼化学分析

吸光光度分析法においては,原則として発色反応は完結した状態で,また測定は常温で行われ,さらに一連の操作は原則として直列につなげられている。また鉄鋼試料の溶解操作については,元素ごとに異なる溶解方法(酸の種類や濃度)が選定されており,共通的な操作で行われておらず,煩雑で長時間を要し,さらに次段階である化学反応操作に移る前には定容操作が必須である。また,測定操作については,人為的な誤測定や,分析者の習熟度による分析結果のばらつきを考慮する必要がある。分析の自動化においては,これら前提条件によらない手法を開発することが必須とされた。そのために,1970年代当時の最新の自動制御などの技術が導入された。この様な思想の下,開発された分析システムの一例3)Fig.1に示す。

Fig. 1.

 Schematic diagram of the developed Automatic Photometric Analyzer3). 1.Sample changer, 2.Recorder, 3.Spectrophotometer, 4.Sample solution injection tube, 5,19.Solenoid valve, 6.Water tank, 7.Reagent solution tank, 8,10,11,12,20.Electric cock, 9.Level regulator, 13.Condenser, 14.Reaction vessel, 15.Heater, 16 Bubble eliminator, 17.Cell, 18.Air blowing tube, 21.Program timer.

鉄鋼材料中には,鉄マトリクス以外に多くの元素が含有され,分析対象となる。これらの元素は,原料に由来する不純物と,材料の物理的化学的性質を向上させる目的で製鋼工程で添加されるものに分類される。特に鉄鋼材料中の徴量元素として,固溶硬化や高温・低温脆性,焼き入れ性,粒度微細化など冶金学的に重要なP,Mn,Si,Al,Bおよび酸可溶性Nの6元素の分析が代表的な微量元素として検討された。

発色反応の自動化においては,加熱発色反応槽を主体とし,槽下部に吸光度測定装置を通過する循環管をもち,槽上部に試料溶液添加口,発色試薬などの添加口が付された。このシステムにより,加熱状態や不活性ガス雰囲気での発色反応過程の吸光度が連続測定され,複数試薬の同時添加が自動でできるようになった。分析条件が厳密に時間制御されるので再現性が向上した。また加熱状態で測定することにより冷却操作を省略できるため,トータルでの分析時間短縮に寄与した。不活性ガス雰囲気で発色させることにより,とくに酸化されやすい発色試薬の場合に分析精度・感度の向上に寄与した。以上により,モリブデン青吸光光度分析法を基本とし,0.0005~0.1 mass%のP4,5)を1試料6分間で,同じくモリブデン青吸光光度分析法により,0.001~1 mass%のSi6)を6分間で,過よう素酸酸化吸光光度分析法を基本とし,0.001~1 mass%のMn7)を5分間で,エリオクロムシアニンR吸光光度分析法を基本とし,0.0002~0.01 mass%のAl8)を6分間で,クルクミン直接発色吸光光度分析法を基本とし,0.00002~0.005 mass%のB9,10)を10分間で,ネスラー吸光光度分析法を基本とし,0.0002~0.05 mass%の酸可溶性N11,12)を6分間で分析する方法が確立された。手操作での分析に比較し,分析精度は約2倍,分析感度は2~5倍,分析所要時間は約10分の1にすることができ,分析操作も簡易化された。この方法は,鉄鋼材料だけでなく表面処理浴分析13)や排水14,15,16)にも適用された。しかし,この方法は当時としては高価な電算機を活用し,分析システムを特注で手作りする必要があったこと,また一度分析システムとして構築した場合,反応場が固定であるため変更可能な分析条件が限られること,ガラス細工を含め,特別に製作する必要があるため,高価かつ破損・老朽時に交換部品の入手が容易でないことなど,幾つかの課題もあった。そこで,自動化における思想はそのままに,より単純なシステムでフレキシブル,かつ安価な「流れ分析法」,いわゆるFIAの鉄鋼材料への適用が進められた。

3. 流れ分析法による鉄鋼化学分析の自動化

化学分析を実行する過程では,試料の採取,秤量,希釈,試薬の添加,かき混ぜ,加熱,温度制御,溶液の移し替え,測定,洗浄など多数の操作が含まれる。そして,ピペット,メスフラスコ,ビーカー,分液漏斗,ろ過器,加熱器などの様々な実験器具を目的に応じて,また,各操作段階に応じて手際よく使う必要があり,全体として長時間と熟練技術が必要となる。このような人手によって行われる各単位操作をロボットや機械に代行させてコンピューター制御下でそれを繋いでいく,いわゆるディスクリートタイプの自動化方式ではシステムが複雑,かつ大規模になりやすく,しかも機械的な可動部が多いので長時間の安定な運転,設置場所,コスト,維持管理面などにおいて問題点が多いとされている。Fig.1に示すような自動分析装置では,重力による試薬溶液の添加や気体のバブリングによる溶液のかき混ぜ,反応容器と吸光度測定セルの直結などの斬新なアイデアにより上述のような問題点を大きく改善するものとして注目されるところである。その一方で,この装置には前述のような課題のほかに検出方法は吸光度検出が主であって,装置の小型化や後述の分離濃縮などの前処理との直結が難しいなど汎用性においてなお改善すべき点が残る。

本稿で述べるFIAは,細管内での溶液の流れを利用し,試料や試薬溶液などの輸送や反応と検出・測定を連続的に行わせる比較的新しい分析法(システム)である。1975年にRůžička and HansenによりFIAという名称を使った論文17)が発表されて以来,化学分析の迅速化,簡便化,さらには自動化への有力な手法として注目され急速な発展を遂げつつある。

同様に溶液の流れを用いる自動分析法として,1957年に臨床検査用として開発されたTechnicon(現 SEAL Analytical社,日本国内ではビーエルテック社)のAutoAnalyzerがある。肥料分析,水質,食品分析等,様々な分野で利用され,現在では河川水質試験方法,海洋観測指針,下水道法などで公定法の一部に採用されている。AutoAnalyzerでは試料の両端を空気泡(Air segment)ではさむのが大きな特長の一つである。これはチューブ内を移動する過程でのキャリーオーバーを防ぎ,また試料や試薬溶液の混合を促進するのに効果があるとされるが,それだけシステムが複雑になるため,装置のコンパクト化やコスト削減に問題が残り,また吸光度検出が主で他の検出法の利用や各種分離とのインライン結合などについては不明な部分がある。このAutoAnalyzerの鉄鋼業への応用も継続的に検討されてきた18,19)が,当初は,鉄マトリクスなど妨害成分の除去,抑制が課題となった。加えて,長時間の静奥,微妙な調整,多くの単位操作,多種類の試薬を必要とすることなどから,鉄鋼分析への適用は困難を極めた。そのため,まずは比較的に成分系が単純な環境試料に多く適用され,工場排水中のN,Pや,鉄鋼スラグの溶出水中のFの分析などで活用された。しかしながら,その処理能力の高さから鉄鋼中微量Cr20),Mo21),Ni22),Si23)への応用が継続的に図られ,1980年代頃からは,特に吸光光度分析法で分析操作の難しい微量のP,B等24)の分析に実用化されている。

AutoAnalyzerやFIAをまとめて“流れ分析法”と称することもあるが,本論で述べるようにFIAは空気分節を用いないことや必ずしも平衡状態での測定ではないことなどの点でAutoAnalyzerとは本質的に異なるところがあり,これらが後述するような数多くの特色を持った分析システムを生み出す主要因となっている。

我が国での鉄鋼関連分析でのFIAについては,鉄鋼中のCr25)および清浄鋼中のP26)の定量がすでに1983年に報告されているが,その後は1990年代半ばまではSi27),P29,30),B31),Mn34),Zn32,33),N28,35,36,37)などの検討例が散見される程度で,少なくとも表面上はそれほどの拡がりが見られなかった。本格的な検討がスタートしたのは,1997年に(一社)日本鉄鋼協会評価・分析・解析部会で「FIAシステムを用いた鉄鋼関連化学分析に関する研究」フォーラムが設置された頃からと考えられ,そこでは自動化を含めた鉄鋼分析の迅速・簡便化,高精度化,高感度化などの視点から種々議論された。2000年には,上記フォーラムでの検討結果を基にFIAシステムを基盤とする熟練を要しない(スキルフリーな)鉄鋼化学分析技術開発に向けて,「鉄鋼製造プロセス化学分析技術のスキルフリー化」研究会が設置されて組織的な研究が展開され,これらの成果は2003年に開催されたシンポジウムや学会誌等に発表されており,2004年の研究会の成果報告書38)にも多くの研究例が掲載されているので参照されたい。研究会終了後も研究活動は継続され,これまでにステンレス鋼中の主成分としてのCr39)およびNi40),鉄鋼中のAs41,42,43),S44,45),B46,47),Sb48),Mo49),Bi50),Zn51,52),P53),Pb54),Cd55)などの新規な興味深い分析法や,酸分解溶液からの除鉄方法56)等,優れた研究成果が報告されている。最近では,2010年,2012年に日本鉄鋼協会秋季講演大会において関連のシンポジウムが開催されている。

また,このような活動に加えて,経営合理化にともなう化学分析の熟練技術者の確保や技術伝承の難しさへの危機感もあって,鉄鋼各社においてもFIAの鉄鋼化学分析への応用に関する検討は徐々にではあるが拡大しつつあり,幾つかの特定成分については,実用段階に近いものもあるのではないかと推察される。

3・1 FIAシステムと自動鉄鋼化学分析法の概要

FIAを理解するための分かりやすい実例として,鉄鋼中の微量BiのFIAシステムの模式図をFig.2に示す50)。なお,JIS57)にはBiのよう化物錯体を形成させ,TOPO/MIBK抽出フレームAAS法,および電気加熱AAS法(ET-AAS)を用いて測定する方法が規定されており,適用含有率範囲は,それぞれ,0.0005~0.015 mass%および0.0001~0.0020 mass%であるが,最近では鉄鋼中含有率で数μg/gまで定量できることが望ましいとされている。

Fig. 2.

 Schematic flow diagram for determination of bismuth: (a) manifold for optimizing variables in spectrophotometric detection of bismuth with KI; (b) manifold for determining bismuth in steel samples50). C.Carrier (sulfuric acid solution), C1.Carrier (0.2 M HCl), R.Potassium iodide solution, R1: Eluent (0.5 M H2SO4), R2. 0.2 M potassium iodide solution containing 5.0×10–3 M ascorbic acid, SL. Sample loop (0.5 mm i.d., 10 m long), RC. Reaction coil (0.5 mm i.d., 1 m long), V1. Sample injection valve, V2. Switching valve, IC. Separation column (Dowex 1X8, 2 mm i.d., 4 cm long), D. Spectrophotometer (460 nm), W. Waste.

FIAシステムは基本的には,①送液部(P:ポンプ)②試料の計量と注入部(V:試料ループ(SL)付注入バルブ)③輸送・反応部(RC:反応コイル)④検出・記録部(D:フローセル付検出器および自記記録計またはコンピューター),から構成される。③は特殊な例を除き,内径0.5 mm程度で,長さ数10 cmから数m程度のコイル状に巻いたチューブ(材質は耐薬品性の高いPTFE製など)でできており,①から④までは同様な細いチューブで最短でつながっている。

Fig.2(a)は,微量Bi定量のための基本的システムである。試料を輸送する役目のキャリヤーと呼ばれる溶液(C:0.2 M塩酸)と試薬溶液(R:よう化カリウム溶液)を送液ポンプにより連続的に流しておき,試料ループ(SL)付注入バルブ(V1)によりSLに充填された微量(例えば100 μL)の試料溶液をCの流れに注入する。試料溶液はCの流れに乗って下流に運ばれる過程で試薬(R)と合流し,混合され,試料中のBiがRと反応しながら反応コイル(RC)を経て更に下流の検出器(D)に運ばれ,反応生成物の波長460 nmの吸光度が連続的に検出記録される。検出シグナルの強度(シグナルピークの高さ,または面積)から試料溶液中のBiの濃度が算出される。

ここで用いられたBiのよう化物錯体の生成に基づく吸光度検出では,多量の鉄イオンの共存により干渉を受ける。そのため,鉄マトリクスからのBiの分離・濃縮機能を付加するために陰イオン交換カラムを導入したのがFig.1(b)である。塩酸酸性の溶液中でBi(III)およびFe(III)はクロロ錯イオンを生成するが,これらの陰イオン交換樹脂に対する分配係数(Kd)はBi(III)の方がはるかに大きく,その吸着性の差をBi(III)の分離,濃縮に活用している。

鉄鋼試料を適切な酸で分解後,塩酸0.2~1.5 mol/Lに調節した試料溶液をバルブ(V1)の切り替えによりキャリヤー(C1:0.5 mol/L塩酸)に注入する。試料溶液がC1の流れによってカラム(IC)を通過する際にBi(III)はカラムに強く吸着されるがFe(III)は吸着されずに排出される。次いでバルブ(V2)の切替えにより溶離液(R2:0.2 M硫酸)の流れがカラムに導入されると,吸着されたBiは容易に溶離され,下流で試薬Rと合流することでFig.2(a)の基本的な検出システムにつながる。このような分離と検出のスムースなインライン直結ができるように分離濃縮とBi-よう化物錯体の生成条件が同じになるように工夫されている。試料ループ長さを10 mとし,鉄が10 mg/mL共存するBi溶液を注入した場合,Bi濃度とピーク高さをプロットして得られた検量線は0.005~0.30 μg/mLの範囲で良好な直線(相関係数:0.999)となった。このシステムで得られるBiのシグナルプロファイルおよび検量線の例をそれぞれFig.3およびFig.4に示す。

Fig. 3.

 Typical signal traces for injection of 0.10 μg/mL and 0.20 μg/mL Bi solutions50). Experimental conditions as Fig.2(b).

Fig. 4.

 Calibration curve of Bi in the presence of iron (10 mg/mL)50). Experimental conditions as Fig.2(b).

本分析システムによるNIST標準試料(SRM 362,SRM 363)の分析結果をTable 1に示す。この場合,試料1 gを王水10 mLで加熱分解し,残さはろ紙(No.5B)でろ過し,ろ液を100 mLに定容した溶液をそのまま注入した。これらの結果は参考値および下記のような他の方法による分析結果(μg/g)と良好な一致を示している。SRM 362試料:ET-AAS58)(19.05±0.8),AAS59)(23.4,18.4),FIA-AAS60)(23.3±0.3),SRM 363試料:ET-AAS58)(7.7±0.3),AAS59)(5.0±1.0),FIA-AAS60)(6.0±0.02),ET-ICP質量分析法(ICP-MS)61)(5.4, 4.5)。

Table 1. Results of the analysis of CRM for bismuth by the proposed FIA system.
SampleBi in sample×10–4 (mass%)Reference value (mass%)
NBS 36225.7 ± 0.20.002
NBS 3635.89 ± 0.040.0008

また,相対標準偏差(Relative Standard Deviation, RSD)は0.8%以下で精度も良好である。定量下限はJIS法よりも一桁近く低い0.2 μg/gであった。1回の測定時間は約10分と迅速である。この場合,鉄鋼試料を酸で分解後の試料溶液の塩酸濃度の許容幅が広いので面倒な酸濃度の調節が不要なこと,鉄共存のままでシステムに注入できること,また,1回の測定が終わるとすぐに次の試料溶液の注入による連続的な繰り返し測定が可能であることなども本分析システムの大きな特色である。選択性も良好である。

試料ループ長さ(試料溶液の注入量に関係する)の増大とともにBiのピーク高さは比例的に増加するので,多量の鉄マトリクスの共存でもサブμg/gレベルの微量のBiを定量的に分離濃縮できる。試料ループの長さ(試料注入量に直接関係する)を変えることで定量範囲(検量線の範囲)を簡単に変えることが出来ることもFIAシステムの特長である。

このFIAシステムによる分析で注目すべきは,従来の化学分析で必要なガラスビーカーやピペットなどの実験器具や人手による各単位操作が不要なことである。これはキャリヤー流れに注入された試料溶液が細管内を移動する過程で生じる試料ゾーンの拡がり(後述の分散)が希釈や試薬溶液との混合および検出対象となる化学種の生成にも寄与しており,しかも,試料溶液や試薬溶液の添加はポンプ送液により制御され,耐薬品性の高いPTFE製の細管内が試料溶液の計量,試料溶液と試薬溶液の混合,反応,および測定の場となっているからである。つまり,バッチによる一連の分析操作を行ったのと同様な効果を細管中の溶液の流れの中で自動的に得ることが出来るうえに,インライン直結された検出器により連続的,自動的に検出測定ができるため,試料注入からシグナルアウトプットまで基本的に人手を介さない,自動化学分析システムが可能である。

FIAシステムによる化学分析の自動化の概要を述べたが,このFIAシステム本来の特徴を改めて整理し,まとめると次の通りである。(a)システム構成が単純で低コスト,(b)様々な検出器が適用できる,(c)細管の接続を変えるだけで様々な分析対象成分に対応したシステムを簡単に構築できるので汎用性が高い,(d)反応,分離等と測定との直結による自動化学計測システム,(e)精度の高い測定が可能である(RSD<1%も難しくない),(f)分析速度が大(試料注入後,数分でシグナル応答が得られる),(g)触媒反応を用いる超高感度分析や反応速度差による動的二成分分析法に適している,(h)試料や試薬の使用量の大幅な削減(廃液量も減少),(i)閉鎖系(微量成分分析におけるコンタミネーションの防止,実験環境を汚さないので作業員の健康被害防止),(j)各種前処理をオンラインで検出器と結合できる,(k)自動化に不可欠なコンピューターとの適合性も良い,などが挙げられる。

3・2 FIAシステムの構築

FIAシステムを構築するための要点を簡単に記す。ここでは必ずしも鉄鋼化学分析に特化したものではなく,FIA全般についての記述であることをご了解いただきたい。

3・2・1 基本的なFIAマニフォールドと運転モード

FIAを実際に応用する場合にはFig.2に示すような基本的な構成や各要素の配置と組合せを目的に応じてさまざまに変えた形で行われる。その代表的なものを以下に挙げる。

(1)シングルチャネルとマルチチャネル

シングルチャネルマニフォールド(Fig.5(a))は化学反応をともなわずに元の試料組成をそのまま測定する場合,例えばpHや原子吸光の測定の際の試料導入手段に用いられる。もちろん,注入試料を分散により希釈後に測定する場合や試薬溶液をキャリヤーとして化学反応後に測定する場合にも利用できる。

Fig. 5.

 Fundamental flow manifold of FIA system. C.Carrier, R.Reagent(s), P.Pump, SC.Separation column, S.Sample, RC.Reaction coil, D.Detector, W.Waste.

化学反応等により目的成分を適当な化学種に変換し,測定するような場合(例:吸光光度法)には,複数の流路を利用するマルチチャネルマニフォールドが用いられる。Fig.2(a)は2チャネルであるが,Fig.2(b)のように流路をさらに増やすことにより,多機能なFIAシステムが可能となる。

(2)逆FIA方式

Fig.2のようにキャリヤーや試薬溶液の流れに試料溶液を注入する方式が通常モードであるが,Fig.5(b)のようにキャリヤーまたは試料溶液の流れに試薬溶液を注入する逆FIAモードもあり,高価な試薬の消費量の削減が必要な場合や,排水のモニタリングのように連続監視や試料が多量に供給できる場合に有用である。

(3)ストップトフロー方式

キャリヤーに注入された試料がシステム内の適当な場所(例えばフローセル)に到達すると一定時間,流れを停止し,その間の時間対シグナル強度の変化を測定する。すなわち,反応速度の測定に基づく分析法に適している。また,反応速度が遅い系では,反応コイルを長くする代わりに,流れを停止することにより,分散を抑えて反応量を増やし,検出感度を上げる手段としても有用である。

(4)マージングゾーン方式

Fig.5(c)のように二つのキャリヤー流れ(C1,C2)のそれぞれに試料溶液と試薬溶液を同期注入し,下流でそれぞれが合流,混合し,反応生成物が検出測定される方式である。試薬溶液と試料溶液の両者の節約になるだけでなく,1本のキャリヤーをY字型コネクターで分割すれば,2種類の溶液を1台のポンプによる送液で間に合わせることも出来る。

(5)分離濃縮と検出のインライン結合

FIAシステムでは,分離・濃縮などの前処理をシステム内に導入し,しかも検出系とインラインで結合した自動分析システムの構築が容易であり(Fig.5(d)),応用範囲の拡大に役立っている。また,これによりシステム全体が準閉鎖系であるために汚染や損失の可能性が少ないので特に極微量成分分析に有用である。このような分析システムでは,熟練技術を必要とせず(スキルフリー),分析の高精度化,高感度化(検出下限の低減)および迅速・簡便化にもつながることになる。もちろん,このような特長をもつ分析システムを開発するためには,分析目的に応じた,かつFIAシステムの特性に適した検出反応系や分離・濃縮法を新たに創出したり,これらを有機的に結合させるためのフローマニフォールドの設計と構築が重要課題となる。

3・2・2 検出法

検出法としては,紫外可視吸収(UV・VIS)吸光光度法,AAS,ICP-OES,蛍光光度法,化学発光法などの光学的方法,およびポテンシオメトリー,アンペーロメトリー,ボルタンメトリーなどの電気化学的方法など様々な方法が利用可能である。手持ちのこれら機器を有効活用出来るのがFIAの特徴でもあるが,溶液の流れの中の測定対象化学種を連続的に検出可能なフロースルータイプの測定セルを備え,かつ,セル容量が小さいものを選んで使用するのがポイントである。

FIAでは単成分の迅速な検出定量が一般的であるが,複数成分の同時定量も様々な方法が工夫されている。紙数の関係で詳細は省くが,検出器関係だけ紹介する。近年,PDAやCCDを用いた検出器が比較的安価に入手できるようになり,多波長測定により得られる豊富な情報を使って多成分同時定量や反応速度論的定量への展開も可能である。また,数台の同種,あるいは異種の検出器を直列につなぐことによって,数成分を同時定量することも可能である。ICP-MSを検出手段として鉄鋼中の3成分を同時定量した例も報告されている。

3・2・3 分散とタイミングの制御

細管中のキャリヤー流れにプラグ(栓)状に注入された試料溶液はゾーン(Zone)を形成し,下流へと移動する過程で対流や拡散により希釈されながら軸方向へと拡がり,その拡がったゾーン内で濃度勾配をもつようになる。これは細管の中心部の溶液の流れが内壁近くのそれに比べて著しく速いことによる。このような試料ゾーンの拡がりは分散(Dispersion)と呼ばれ,試料の希釈による検出感度の低下や試料注入間隔を長くさせるなどの好ましくない影響を与える。その一方では,分散により試薬との混合が促進されるというプラスの面も考慮する必要がある。前述のAutoAnalyzerではこの分散を空気分節で抑えようとしているが,FIAでは細いチューブの使用とそれをコイル状に巻いて半径方向への拡散を促進させるような工夫により,この分散を巧みに制御しながらキャリーオーバーの問題なしに,迅速な試料の繰り返し注入を可能にしている。

分散の程度を表わすパラメーターとして分散係数Dが定義されている。キャリヤー中に注入された試料溶液の希釈されない状態でのシグナル強度をH0,細管中を移動して分散した試料ゾーンの極大点のシグナル強度(ベースラインからのシグナルピークの高さ)をHmaxとすると,ピークにおける分散,Dmaxは次のように計算できる。   

Dmax=Ho/Hmax

便宜上,Dの大きさによって小分散(limited,D=1~3),中分散(medium,D=3~10),および大分散(large,D>10)というように区別されることもある62)D=1は,まったく分散がない(混合希釈がない)ことを意味する。希釈を目的とする場合には大分散を,また試薬との混合と反応が必要ではあるが,試料の希釈による感度低下を避けたいような場合には中分散を,というようにFIAシステムの設計にあたっては目的に応じた分散の大きさを使い分ける必要がある。

Fig.6に,反応コイル長さの増加にしたがって検出ピークが低くなるとともにピーク幅が広がっていく様子を示す。これは注入された試料溶液の検出器までの移動距離が増えて分散の増加により試料ゾーンが希釈されていることに関係している。一方で,流速が一定では試料注入から検出器までの移動時間は反応コイル長さの増加とともに大きくなるので,化学反応を伴うような検出では反応時間の増加は感度の増加につながることから,シグナル応答は分散と反応時間のバランスにより決まる。

Fig. 6.

 FIA recordings obtained for different length of reactor tubings: (a) 100 cm (b) 200 cm (c) 300 cm (d) 700 cm. Sample solution of same sample size (concentration and loop length) is injected at S point for each run.

この例からもわかるように,FIAでは必ずしも混合が完全であったり,反応が完結した状態ではなく,非平衡,過渡的状態での測定であることが大きな特徴である。したがって迅速分析の点からは非平衡での測定とキャリーオーバーを小さく抑えることが,また分析感度には,注入された試料の希釈の程度,および反応時間が関係するので上述の試料ゾーンの分散とタイミング(試料注入から検出器に到達するまでの時間:反応時間)の厳密な制御が重要であり,これらに関係する流速,細管内径,試料注入量,反応コイル長さ,細管の形状(コイル状または直線状というような)などについて適切な条件を設定しなければならない。適切に設計されたFIAシステムではこの分散と反応時間の厳密な制御が容易に行えるために迅速な試料のくりかえし注入が可能で,かつ精度の良い測定が可能である。

4. FIAによる鉄鋼化学分析の自動化の実施例

FIAシステムによる鉄鋼化学分析の自動化例の多くは数~0.01 mass%程度の成分(主要元素),およびそれ以下の微量成分の分析に関するものに大別され,前者の分析では分離濃縮機能が含まれないものが多く,後者には目的成分の鉄マトリクスからの分離や濃縮が加えられている例が多い。分離や濃縮を含まないシステムは,選択性が十分な検出反応,あるいは検出器が使える場合,また,目的成分の含有量がある程度大きく,鉄マトリクスや共存成分の濃度が相対的に小さくなるため,それらの干渉が無視出来るような場合に用いられている。分離濃縮機能を持たせたシステムでは,インラインで分離濃縮を行い,検出と直結するような工夫が多く見られる。これは,前述のようにFIAシステムの特質を十分生かすものとして当然のことと言える。分離濃縮をインラインで検出とつなぐには,分離濃縮と検出のための溶液組成,あるいは反応条件が適度にマッチしていることや,分離濃縮で用いられた溶液成分が検出の障害とならないことである。分離濃縮法としては,固相抽出(イオン交換を含む),溶媒抽出,ガス拡散,透析,共沈分離などが用いられているが,それぞれには流れ系に導入できるように,かつ流れ系でその特長が発揮されるような工夫が施されている。

その他に少数ではあるが,主成分の高精度分析の可能性を検討する例も見られる。高合金鋼の主成分分析のようにRSDで0.1%程度の高精度が要求される場合は,重量法や容量法で分析を行うが,前述のようにこれらの化学分析法では改善すべき多くの問題点があることから,FIAによる高精度定量の試みが行われている。これらの実際例での検出手段としては主にUV・VIS吸光光度法,蛍光法,AAS,ICP-OES,ICP-MSなどが用いられている。

FIAによる鉄鋼化学分析の実際例全般についての紹介は著者らの解説63)や総説64)に譲るが,これらの中から抜粋して分析対象成分を元素別にまとめたものをTable 2に示す。鉄鋼化学分析における,これまでのバッチによる手分析に対してFIAシステムの導入による自動化のメリットが大きく,特徴的なもののいくつかを以下にやや詳しく紹介する。

Table 2. Application of FIA system to chemical analysis of steel samples.
ElementSampleDetectionSeparation and/or concentrationDetermination range/limit of detection (LD)Reference
AlSteelVIS0.01~0.13 mass%74)
AsLow alloy steelGF-AASHydride generation0.01 μg/L75)
AsSteelVISSolvebt Extraction10 μg/mL (LD)41)
BSteelFLSP Extraction (Sephadex Gel)0.1 μg/g (LD)46)
BSteelICP-OESCation exchange76)
BiSteelVISAnion exchange0.2 μg/mL (LD)50)
BiSteelET-AASSP extraction (activated carbon)0.048 μg/L58)
CdSteelVISAnion exchange0.05 μg/g55)
CeCarbon/low alloy steelFL77)
CoSteelAASChelate resin0.15 μg/g78)
CoSteelVISSolid phase extraction (C18)0.03 μg/mL79)
CrSteel alloyVIS20-60 mg/L80)
CrStainless SteelCL2×10–6 M39)
CuSteelVISSolid phase extraction (C18)79)
CuSteel, copper-base alloyVIS0.13 μg/mL81)
FeSteel alloyVIS25-200 mg/L80)
MnSteelVIS5 μg/mL34)
MoSteelVISSolvent extraction0.11 μg/mL (LD)82)
MoSteelICP-OESAnion exchange8 μg/g49)
NSteelVISGas-diffusion membrane2 μg/g (LD)35)
NiSteelVISSP extraction (polyurethan foam)77 ng/mL83)
NiSteel alloyVIS5-51 mg/L80)
NiStainless steelVISCation exchange5-25 mass%40)
PSteelVISCo-precipitation (Be-hydroxide)0.0021-0.017 mass%53)
PbSteelAASPb-selective resin0.05 μg54)
PbNi-base alloyICP-MS0.04 μg/mL84)
SSteelVIS44)
SbLow alloy steelAASHydride Generation0.05 μg/L75)
SbSteelVISPTFE-tubing0.3 μg/mL48)
SeLow alloy steelGF-AASHydride Generation/GF collection0.011 ng/mL85)
SiSteelMPT-OESCation exchnage10.8 μg/mL86)
SiHigh silicon steelVIS87)
TeLow alloy steelGF-AASHydride Generation/GF collection0.007 ng/mL85)
TlNi-base alloyICP-MS0.001 μg/mL84)
ZnSteelAASAnion excahnge52)

VIS: Absorption spectrophotometry, GF-AAS: Graphite furnace atomic absorption spectrometry, ET-AAS: Electrothemal atomic absorption spectrometry, FL: Fluorometry, ICP-OES: Inductively-coupled plasma optical emission spectrometry, ICP-MS: Inductively-coupled plasma mass spectrometry, MPT-OES: Microwave plasma torch optical emission spectrometry.

Table 3. Comparison of the proposed FIA system with other methods (JIS G 1228) for nitrogen determination.
Analytical method and sample taken (g)NH3 Separation time (min)Determination time (min)Detection limit (μg/g)
JIS G1228 Titration method 51018
Bispyrazolone-spectrophotometry 410306
Indophenol Spectrophotometry 110155
Proposed FIA method 152

4・1 ブランク同時測定FIAシステム(鉄鋼中のMnの定量)

JISのMnの定量方法(過よう素酸ナトリウム酸化吸光光度法)65)では,酸分解による試料溶液の調製後,各試薬溶液のピペットによる採取と添加,反応溶液のかき混ぜ,加熱(煮沸)および冷却,反応溶液のメスフラスコへの移しかえ,定容,反応後の溶液のセルへの移しかえ,吸光度の測定,さらに反応溶液に亜硝酸ナトリウム溶液を加えて再び吸光度を測定(ブランク測定)するまでの単位操作は合わせて十数回以上である。このような複雑,かつ面倒な操作の簡便,迅速化と精度の向上を計るためにFIAシステムによる自動化が検討されており,その提案されたシステムの概略をFig.7に示す34)。試料ゾーンとぺルオキソ二硫酸カリウム溶液が合流混合してMnがMnO4に酸化されて発色し,さらにその発色ゾーンの一部に亜硝酸ナトリウム溶液を3・2・1項(4)のマージングゾーン方式により合流させて還元し,MnO4とブランクの吸光度が同時に,かつ自動的に測定されるシステムである。JIS法では酸化促進のための煮沸時間を一定とし,酸化が終了したら速やかに吸光度を測定しないとMnO4の分解が起こりやすく再現性が乏しくなるので細心の注意と厳密な操作が要求される。FIAシステムでは試料注入から吸光度測定までが自動化されるので,熟練技術なしに簡単に,かつ精度の高い分析が可能であり,分析時間も注入後5分でシグナル応答が得られ,大幅な時間短縮となった。

Fig. 7.

 Manifold of FIA system for determination of manganese in iron and steel34). C1. Carrier (0.25 M phosphoric acid solution), C2. Carrier (water), R1. Ammonium peroxidisodium sulfate solution (5.0%), R2. 0.05% sodium nitrite solution (200 cm loop), SL. Sample loop (600 cm long, 0.5 mm i.d.), RC1. Reaction coil (500 cm long, 0.5 mm i.d.), RC2. Reaction coil (100 cm long, 0.5 mm i.d.), CC. Cooling coil (100 cm long, 0.5 mm i.d.), DC. Delay coil (300 cm long, 0.5 mm i.d.), TB. Temperature controlled bath (60 ºC), D. Spectrophotometer (525 nm), V: Double 6-way valve, W. Waste, BC. Back-pressure coil.

本FIAシステムにより4種類の日本鉄鋼認証標準物質(JSS 151-1, JSS 154-2, JSS 156-3, JSS 061-1)および3種類の鉄鋼試料を分析した結果はそれぞれ認証値およびICP-OESによる結果と良い一致を示し,本分析システムの正確さが確認された。RSDも日時を変えて分析したにもかかわらず1%以下であり,これまでのJIS吸光光度法よりもすぐれた精度が得られた。

4・2 分離濃縮機能を導入したFIAシステム

(1)吸光度検出による鉄鋼中の微量Nの定量

鉄鋼中の微量Nの定量には,アンモニア蒸留分離滴定法,アンモニア蒸留分離吸光光度法,および不活性ガス融解−熱伝導度法がJIS66)に規定されている。これらのうち,定量下限が最も低いのはアンモニア蒸留分離インドフェノール青吸光光度法(N含有量:0.000 5 mass%以上)であるが,近年はさらに低含有量のN定量への要求も増えている。また,この方法では複雑な構造のガラス器具を用いる水蒸気蒸留に加えてFig.8に示すような多段階の発色操作に手間と時間がかかり,そのうえ,かなりの熟練を必要とする。水蒸気蒸留分離の代わりにガス拡散膜を用いた鉄マトリクスからのNの分離と,迅速,かつ高感度な発色が可能な1-ナフトールによる吸光度検出を直結し,試料注入から計測までを自動化したFIAシステムをFig.9(a)に示す35)。アンモニアの分離ユニット(セパレーター)はFig.9(b)に示すようなテフロンまたはガラスチューブ(外管)の内側にそれよりも径の小さい疎水性のガス透過性膜チューブ(細孔径1 μmの多孔性テフロン膜)を組み込んだ二重構造のものである。内管と外管の間を流れる溶液中のNH3は容易に膜を透過して膜チューブの内側を流れる発色試薬溶液中に移動出来るが,イオンなどは透過しにくいので,鉄マトリクスや塩類からの分離が達成できる。

Fig. 8.

 Flow chart of conventional manual method (JIS G 1228) for determining trace nitrogen in steel samples.

Fig. 9.

 Schematic diagram of FIA system for determination of N in steel samples, modified after reference35). S. Sample injection port (1.4 mL), P. Pump, C. Carrier (water, 0.2 mL/min), R1. Reagent 1 (150 g/L tartaric acid in 5 M NaOH, 0.2 mL/min), R2. Reagent 2 (NaOCl, 0.05% effective Cl, 0.4 mL/min), R3. Reagent 3 (0.5% 1-naphthol in 35 v/v% acetone, 0.4 mL/min), SP. Gas-liquid Separator, WB: Water bath (40 ºC), RC1: Reaction coil (100 cm long, 0.5 mm i.d.); RC2: Reaction coil (500 cm long, 0.5 mm i.d.); BC: Back pressure coil (200 cm long, 0.5 mm i.d.), D. Spectrophotometer (732 nm), W. Waste.

鉄鋼試料を6 M塩酸に溶解して調製された試料溶液はキャリヤーに注入され,下流に移動する過程で酒石酸を含むNaOH溶液と合流して,試料溶液中のNH4+がNH3に変換される。酒石酸によりマスクされた鉄マトリクスは分離ユニット中で溶液中に残るがNH3は膜を透過し,内側の発色試薬の流れに吸収され,その流れの中で発色反応が進行しながら検出器に運ばれて732 nmの吸光度が自動的に測定記録される。この間,分離や発色反応,測定記録まで人手は不要であり,Fig.8に含まれる分析操作に該当するほとんどの部分が自動化されている。本FIAシステムによる日本鉄鋼認証標準物質および炭素鋼の分析結果(Table 4Table 5)はそれぞれ認証値およびJIS法による分析結果と良い一致を示した。なおこの検討では,鉄鋼試料を塩酸で分解しており,測定された値は鋼中酸可溶性Nであるが,一般の鉄鋼中には塩酸に難溶の窒化物態でNが含有される場合がある。認証値とよく一致した理由として,選択した鉄鋼認証標準物質が純鉄であり,塩酸に難溶の窒化物がほとんど含まれていなかったことが推測される。本FIAシステムによる自動化のメリットをまとめてTable 3に示す。定量下限は従来法の5 μg/g(試料量:2 g)から2 μg/g(試料量:1 g)へと改善され,分析時間は約30分から5分へと短縮された。RSDは4%以下で再現性も良好であった。また,同様のシステムを光導波長光路吸収管36)に接続し,更に高感度化した例37)も報告されている。

Table 4. Analytical results by the proposed FIA system for nitrogen in CRM (μg/g).
CRMCertified Valuen=1n=2XR/d2
JSS 001-3(2)2.82.42.600.36
JSS 366-498.09.08.500.89
JSS 003-31411.313.012.151.51
JSS 033-13129.031.430.202.13
Table 5. Analytical results by the proposed FIA system for determining nitrogen in carbon steel (μg/g).
SampleProposed method (n=3)JIS method
A12.3 ± 0.311
B15.5 ± 0.616
C55.9 ± 1.555

(2)蛍光検出による鉄鋼中の極微量Bの定量

鉄鋼中の微量Bの定量には,クルクミンまたはメチレンブルー吸光光度法がJIS化学分析法67)として規定されているが,数μg/gが定量限界とされる。クルクミン法では,ほう酸メチルとして蒸留分離後,蒸発乾固と,強酸中での発色という煩わしい操作を伴う欠点があり,メチレンブルー法も有害な1,2-ジクロルエタンを用いる抽出操作が必要である。

新たに提案されたFIAシステム46)では,流れ系に挿入されたSephadexカラムへの選択的吸着により極微量Bを鉄マトリクスから分離濃縮した後,微少量の0.1M 塩酸溶液で溶離し,溶出液中のBがクロモトロープ酸溶液の流れと合流し,生成したB錯体が蛍光光度法により高感度検出される。これらの分離濃縮と蛍光検出はインライン直結され,吸着,溶離,試薬との混合,検出という一連のプロセスは細管中の流れの中で自動的,連続的に行われ,分析の自動化と高感度化が図られている。

3種の日本鉄鋼標準認証物質(JSS 001-4,JSS 361-1,JSS 362-1),および5種の鉄鋼試料(A~E)を本FIAシステムで分析した結果をそれぞれ認証値および蒸留分離後ICP-OESによる分析結果(参照値)とともに以下に示す。また,各試料を酸分解後の溶液に既知量のBを添加して同様にFIAシステムにより分析した(標準添加法)結果を*付カッコ内の数値で示した。分析値の単位は(μg/g)である。

JSS 001-4:0.16±0.01(0.15*)(認証値0.2),JSS 361-1:9.7±0.2(10.0*)(認証値9),JSS 362-1:18.3±0.3(18.5*)(認証値18),鉄鋼試料A:1.23±0.06(1.2*)(参照値1),鉄鋼試料B:2.17±0.02(2.1*)(参照値2),鉄鋼試料C:3.04±0.07(参照値3),鉄鋼試料D:6.31±0.09(6.2*)(参照値6),鉄鋼試料E:9.70±0.08(参照値9)。FIAシステムによる検量線法の結果は標準添加法の結果や認証値または参考値と良く一致し,精度も良好であり,本FIA法が鉄マトリクス(および共存する他成分)の影響を受けずにホウ素を正確に定量出来ることが示された。これらの試料のうち,とくに,JSS 001-4は高純度鉄であって,0.2 μg/gという極微量Bを熟練の必要なしに短時間に定量できることが確認された。本FIAシステムでは,定量下限が鉄鋼中含有率で0.1 μg/g,一回の分析に要する時間は10分と迅速である。JISの化学分析法にくらべて,定量下限,精度,および迅速・簡便性において格段の向上を図ることができた。また,微量Bの定量ではガラス器具からの汚染が問題となるため,石英ガラスやPTFE製の器具の使用が不可欠であるが,FIAシステムは反応から検出まですべてがPTFE細管内で行われ,しかも閉鎖系なので汚染の危険が少なく,本自動分析システムは極微量Bの定量に望ましい要件を備えたものと言える。

(3)ICP-OES検出による鉄鋼中の微量Moの定量

鉄鋼中の微量Moの定量には,Mo-チオシアナート錯体の抽出吸光光度法(0.001 mass%以上)がJIS法68)に採用されている。本法は人体に有害な有機溶媒と塩化スズ(II)を使用し,操作が煩雑で熟練を要するため,ICP-OES検出自動化学分析システム(Fig.10)49)が提案された。このシステムでは,ジデシルメチルオクチルアンモニウム塩を疎水性樹脂に担持したTEVA樹脂(粒径100~150 μm,Eichrom Industries, Inc., Darien, IL, USA)を充填した小カラム(内径2.1 mm,長さ100 mm)による陰イオン交換分離とICP-OESによる検出がインライン直結されている。Mo(VI)は0.05 M硫酸溶液からTEVA樹脂に強く吸着されるが,Fe(III)は吸着されない。

Fig. 10.

 Block diagram of FIA system for determination of Mo49). E. Eluent (7 M nitric acid), C&W. Conditioning and washing solution (0.05 M sulfuric acid), P1, P2. Shiseido 3001 type HPLC pump, V1, V2. Shiseido 3011 type six-way valves.

次のような流れでMoが定量される。①0.05 M硫酸でカラムをコンデショニングする(15 min),②50 μLの試料溶液をカラムに流してMoを吸着させる,③カラムを0.05 M硫酸で洗浄する(3.5 min),④7 M硝酸をカラムに①~③の流れ方向とは逆向きに流してMoを溶離する,⑤溶出液を超音波ネブライザー付きICP-OESに直接導入する(2 min)。波長202.03 nmにおけるピーク高さを用いて外部検量線法により定量する。これら一連の動作は分析システムのポンプ,バルブ,およびオートサンプラーをコンピューターにより制御することで自動連続分析を可能としている。

鉄鋼試料50 mgをはかり取り,2 mLの硝酸,1 mLの塩酸,2 mLのふっ化水素酸,0.5 mLの硫酸(1:1)とともにテトラフルオロメタキシール製試料分解容器(内容積100 mL)に入れて分解し,残留液を除去する。放冷後,0.05 M硫酸で25 mLとし,試料溶液とする。検出限界は8 μg/gのMoに相当する。2種類の日本鉄鋼標準認証物質,ニッケルクロム鋼SNC 236(JSS 503-6,認証値0.013 mass%),およびステンレス鋼SUS 430(JSS 650-10,認証値0.021 mass%,の分析値はそれぞれ0.0118±0.003 mass%および0.0221±0.0005 mass%であり,認証値と良く一致し,RSDは2.3~2.5%であった。1回の測定に要する時間は約7分であり,1時間に8回の測定ができる。

4・3 FIAシステムによる主成分分析(ステンレス鋼中Crの定量)

ステンレス鋼中のCrの定量法は,JISの鉄および鋼中のCr定量法に準じて,過マンガン酸カリウム酸化過マンガン酸カリウム滴定法などの酸化還元滴定が用いられている69)。これらの方法では,酸分解試料液中のCrを二クロム酸に酸化し,その後マンガンを分解する前処理操作が必要である。そのうえ,高精度な定量にはかなりの熟練が必要である。その迅速,簡便な自動分析法として,ブリリアントスルホフラビン(BSF)増感化学発光反応を利用した化学発光(CL)検出FIAシステムをFig.11に示す。Fig.11(a)は主にCr3+定量の条件検討を目的として構築したフローシステムであり,Fig.11(b)は実試料の分析に用いたフローシステムである。CL検出器として内容量70 μLの渦巻き型フローセル付きルミフローLF800(マイクロテック・ニチオン製)を,また,流路および混合コイルには内径0.8 mmのテフロン管を用いた。注入された試料溶液(100 μL)はマスキング剤のクエン酸三ナトリウム/リン酸緩衝液混合溶液と合流混合され,続いてH2O2溶液と混合,最後にフローセル内においてBSF/NaOH/CH3CN混合溶液と混合される。フローセル内で生じたCLはCL検出器で検出され,CL応答として記録されたピーク高さを測定した。検量線は3×10−6~3×10−4の範囲で良好な直線関係が得られた。

Fig. 11.

 Recommended FI-CL systems for the determination of Cr, (a) for optimization, (b) for real sample analysis39). Optimum operating conditions: R1. 0.03 M citrate/phosphate buffer (0.03 M Na2HPO4/0.07 M Na2HPO4), R2. 0.03 M H2O2, R3. 1×10–3M BSF/0.03 M NaOH/3% CH3CN, S. Sample injection valve with a sample loop (100 μL), MC1. Mixing coil (2 m), MC2. Mixing coil (5 m), D. Detector. Flow rates of each solution were specified in the figure.

2種類のステンレス鋼(日本鉄鋼標準認証物質),JSS 650-5(認証値16.18 mass%),およびJSS 651-12(認証値18.26 mass%),の分析値はそれぞれ16.3±0.2 mass%(RSD=0.9%)および18.2±0.2 mass%(RSD=1.1%)であり,認証値と良く一致し,RSDは,それぞれ0.9%および1.1%であった。この方法は酸分解後の試料溶液に対する前処理が不要なため多数の試料を短時間(試料処理数30/h)で処理できる。有効数字4桁の高精度定量にはまだ及ばないものの,物理的な用件(恒温化や送液ポンプのグレードアップなど)の整備により更なる精度向上が可能と考えられる。

4・4 電解溶解による試料調製

鉄鋼の化学分析では一般に機器による測定前に試料の溶液化が必要であるが,FIAによる自動化学分析システムにおいても全く同様である。これは鉄鋼試料から切削粉を調製し,正確に秤量した上で分析対象試料や元素に適した酸で分解・溶液化し,更に正確に定容した上で分析に供する必要があるため,手間が掛かり熟練を必要とする操作である。これを迅速化し,工程管理分析に適用するため,オンライン電解による試料分解法が提案されている。

試料迅速電解装置の概略図をFig.12に示す。電解液を定流量ポンプで電解セル内に供給し,エアシリンダによって固定されたブロック状試料を作用電極,セル内に組み込まれたグラファイトを対極として,作用電極である試料面を電解させる方式である。理論的な試料の電解された物質の質量は,ファラデーの法則に基づきクーロン量から計算できる。試料の電解を,1.5 A定電流電解(電流密度1.9 A/cm2),電解液流量5 mL/minで行った場合,60秒間で26 mgのFeが電気分解され,電解液中に約5200 μg/mLのFeが溶解される。即ち,酸分解と定容操作を電解に担わせている。電解液は連続的にICP-OESに導入して分析される。

Fig. 12.

 Flow injection manifold for steel sample electrolysis, modified after58). E. Electrolyte, P. Pump, PS. Electric power supply, AS. Air cylinder, S. Sample, EC. Electrolysis chamber, CE. Cell electrode, GLS. Gas-liquid separator (0.5 mL), W. Waste.

この方法により,鋼中のSi,Mn,Ni,Cu,Al,Ti,Crなどの多くの元素を迅速に定量することが可能となった70)。特にTiについては,電解液を塩酸+硝酸+水(1+1+2)の混酸とし,0.8~1 V(vs Ag/AgCl参照電極)で定電位電解することにより,難分解性の析出物を形成していると想定されるTiについても定量することが可能であった。またSiについては,バッチ式の酸分解では加熱するために加水分解を生じ分析を妨害するが,常温での電気分解のため高ケイ素鋼でも加水分解を生じず分析することが可能であった71)。Sについては,電解時の発生期の水素と結合してH2Sとして溶存するため,バッチ式で酸分解して分析するよりも高感度で分析することが可能であった72)。一方でPについては,電解液の分析での高感度化が困難であったため,Pが水素化してガス化することを利用し,試料を加熱しつつ電解し,生じる電解ガスを分析することにより感度良く分析できた73)。分析時間は試料をセットしてから数分程度であり,実際の製鋼工程管理にも活用された迅速な分析方法である。

5. おわりに

鉄鋼業における化学分析の自動化について,1970年代から今日に至るまでの変遷について紹介するとともに,近年,注目されているFIAシステムを用いた鉄鋼化学分析の自動化への取組の現状と将来展望について概説した。長い歴史を経て,鉄鋼や,鉄鋼業をとりまく様々な試料中の多くの成分・元素の迅速,自動分析が可能となり,一部は実用化されて活用されている。これまでの鉄鋼化学分析の自動化の変遷は,試料分解,分離・濃縮,反応などのいわゆる前処理の段階で,いかに人手の介在する部分を減らし,あるいは無くし,後に続く機器測定やデータ処理とスムースに連携する技術を生み出すことに主眼があったと言えよう。このような観点からFIA法は,これまでの方法とは一味違った特長と可能性をもった化学分析の自動化への有力な手法として期待される。

化学分析は,機器分析法に比べ一般に高感度,高精度であるが,機器分析よりも時間がかかり,熟練を必要とするような多くの単位操作が含まれ,かつ鉄鋼試料の溶解に酸を用いる必要がある。そのため,分析雰囲気を上手く制御しないと周辺の機器を腐食させてしまうなどの課題があり,スパーク発光分光分析法や蛍光X線分析法などの機器分析法が一般化して以降は工程管理には活用されてこなかった。FIA法に代表される自動化学分析システムは,閉鎖系で分析がなされ,かつ迅速・簡便なため工程分析で活用できる可能性があり,高感度,高精度な分析が必要とされる鋼種に適用するなど,機器分析法の不十分な点を補完する目的で充分に活用できる可能性を秘めている。そのためには,鉄鋼試料の分解から分析まで一連のシステムとし,かつメンテナンスフリーな分析システムを完成させる必要があるため,分析装置メーカーとの連携が必須であろう。

一方で,近年では鉄鋼材料は勿論のこと,鉄鋼スラグ,焼却主灰や飛灰,排水など環境試料中の元素がどの様な化学状態で存在するか,すなわち化学状態解析(キャラクタリゼーション)が,鉄鋼材料の場合には鋼材の特性や製造工程の最適化,環境試料の場合には環境影響の観点から非常に重要となっている。例えば,鉄鋼材料中の微量成分は,固溶されているもの以外に,μmオーダーの介在物や,更に微細な析出物として材料中に存在している。これらの化学状態の解析は,主に光学顕微鏡,電子顕微鏡やアトムプローブ電界イオン顕微鏡など,微細領域への表面分析的なアプローチでなされることが多い。しかし,材料全体の定量的な代表値を得るには,従来の元素分析と同様に,最低でも鉄鋼試料数g~数10 g,できれば数kg程度を処理して分析することが重要となる。この場合は,鉄鋼試料の電気分解などにより目的とする介在物や析出物を残すようなマトリクスの選択的な溶解操作を行い,未溶解で残留した介在物や析出物の元素分析を行った上で,X線回折法などで化学状態解析を行うこととなり,非常に煩雑で手間がかかる。つまり,化学状態解析の自動化はまだ遅れていると言わざるを得ない。分析化学研究者,技術者が,材料系の研究開発者,プロセス技術開発者,環境科学研究者など多方面の研究者・技術者とより密な連携をとることで,FIAを中心とした分析の自動化技術が,元素分析だけでなく化学状態解析の世界に展開していくことを期待したい。

文献
 
© 2014 The Iron and Steel Institute of Japan

This article is licensed under a Creative Commons [Attribution-NonCommercial-NoDerivatives 4.0 International] license.
https://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/4.0/
feedback
Top