Tetsu-to-Hagane
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Fabrication of Equipments Treating Iron and Steel Slags with Highly-Pressurized Hot Water and Investigation of Leaching of Constituents from the Slags
Nobuo UeharaKyoko FujimotoKazutoshi HanadaKeiji Watanabe
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2014 Volume 100 Issue 8 Pages 1014-1020

Details
Synopsis:

Two types of apparatus to treat steel slags with highly pressurized hot water were fabricated and examined in terms of leaching of constituents from the slags. The batch-type apparatus was consisted with a stainless steel vessel and a sand bath; a flow-type apparatus was composed of a stainless steel column, a column oven, an HPLC pump, a backpressure valve, and a fraction collector. In the batch-treating system, the concentrations of the elements leached from slags tended to increase as increase in the treating temperature while pH of the solution shows no obvious relations to the solution temperature. In the case of flow-treating system, on the other hand, a unique dependency of pH of the leachate on the treating temperature was observed in the obtained flow profiles. The flow profiles of the pH highly related to those of the concentration of calcium ion and sulfate. Treating 5.1 g of blast-furnace slag with 350 mL of water by the flow system at 250 ºC enabled to leach 22.5% of phosphorus, 97.1% of sulfur, and 0.89% of calcium from the slag. New depositions without sulfur on the treated slags were observed in SEM images, indicating that not only dissolution but also deposition occurred simultaneously during the treatment with highly pressurized hot water in the column. Thus, using highly pressurized hot water is promising method to treat steel slags for reuse of steel slags as environmental-friendly materials.

1. 緒言

鉄鋼スラグは鉄鋼の製造過程で産生する人工鉱物であり,大きく高炉スラグと製鋼スラグに分類される。鉄鋼スラグは計画的に産生されること,鉱物としての物性が研究されていること,および品質が比較的安定しているといった理由から,路盤材,セメント材料,肥料,環境修復材等に幅広く活用されている1,2,3,4)。鉄鋼スラグの改質はスラグの品質の安定化のためだけでなく,無機材料としてのスラグの機能化に対しても重要な役割を果たす。鉄鋼スラグを機能化することで,鉄鋼スラグの付加価値が高まり,利用拡大につながるものと期待されている。

水蒸気エージングや水砕スラグの調製など,鉄鋼スラグの改質処理には水を用いる方法が使われている。水は無機物質に対して良溶媒となることが多い。また最も安価で安全な溶媒であり,わが国では豊富に利用することができる。更に,有害物質を含む水の浄化技術が進歩していることから,排出時の環境への負荷も他の溶媒に比べて著しく低く抑えることができるといった利点がある。このような理由から,水は鉄鋼産業に限らず多くの産業において広く使用されている。

溶質の水に対する溶解性は高温ほど高くなることが多い。しかしながら,溶解性を上げるために熱水を使用するとしても,常圧では液体として水を使用できる温度は沸点(100 °C)に限られる。それ以上の温度の水を液体として使用するためには加圧が必要となってくる。水の圧力と温度を上げて行くと,やがて臨界点(374 °C,22.1 MPa)に達する。臨界点を超えた状態の水は超臨界水と呼ばれ,浸透性,流動性が向上するなど,液体状態の水に比べてその物性が大きく異なることが知られている5,6,7)。超臨界水に到達する以前の状態は亜臨界水と呼ばれこの状態では,水分子の熱振動による反応性の向上に加え,イオン積の増大に伴う,H+イオンとOHイオンの濃度が上昇する。このため亜臨界水では常圧の水に比べ,加水分解能の向上が期待できる。このようなことから超臨界水あるいは亜臨界水などといった高温高圧水を用いる水熱処理に関する研究は幅広い分野で盛んに行われている8)

高温高圧水の応用研究として,下水汚泥の処理9)や木材の廃棄物のリサイクル7)などが検討されている。しかしながら,これまでのところを鉄鋼スラグの改質処理のために高温高圧水を適用した報告はなされていない。類似する研究として,沿岸海域に埋設したスラグ成分の溶液中への溶出挙動が検討されているものの,検討は常温で行われている10,11,12,13)。そこで,ここでは高温高圧水による鉄鋼スラグの水熱処理に関する基礎データを得ることを目的に,バッチ系およびフロー系の処理装置を試作し,構成成分の溶出挙動の検討と処理したスラグの表面観察を行った。高温高圧水を用いるスラグ処理はスラグの改質だけなく,エージング条件下における加速試験としても適用できるものと期待される。

2. 実験

2・1 試薬

水には蒸留後イオン交換したものを原水としてMilli-Q超純水製造装置を用いて更に精製したもの(18 MΩ・cm以上)を用いた。それ以外の薬品は全て市販の特級品を用いた。二種類の高炉徐冷スラグと二種類の製鋼スラグを用いた。これらのスラグに含まれる主な構成元素をTable 1に示す。鉄鋼スラグは乳鉢で粉砕後,粒径を500 μm以下に篩分けしたものを使用した。

Table 1. Composition (%) of elements contained in the slags used in this study.
AlCaFeMgMnPSSi
Blast furnace slag 1N.E.N.E.N.E.N.E.N.E.< 0.010.49N.E.
Blast furnace slag 27.1928.40.284.10.220.0140.6015.8
Steel making slag 12.925.822.644.12.20.650.0184.5
Steel making slag 22.127.830.00.520.210.061.792.8

* Each content was determined by X-ray fluorescence spectrometry. N.E.: Not examined.

2・2 高温高圧処理装置の作製

高温高圧水で粉末試料を処理するために,バッチ方式とカラム方式の装置を試作した。装置の模式図をFig.1に示す。Fig.1Aに示すバッチ方式の処理容器は内径15.7 mm,長さ60.2 mmのSUS製チューブ(内容量,12 mL,耐圧25.4 MPa,耐熱温度537 °C)とSUS製のねじ口栓とから構成した。100 °C以下の場合には水浴を,100 °C以上の場合には石英砂を充填したサンドバスを用いて処理容器を加熱した。ここではステンレス製容器の耐圧(25.4 MPa)を考慮して,仕込み時の気−液の体積比を1:1として行った。

Fig. 1.

 Schematics of highly-heated and highly-pressurized water systems for treating steel slag.

Fig.1Bに示すフロー方式の装置は,HPLCポンプ,昇温コイル(SUS316製パイプ,内径0.25 mm,長さ2 m),試料を充填した反応カラム(内径8.5 mm,長さ3 cm,内容量1.7 mL,耐圧25.4 MPa,耐熱温度537 °C),背圧コイル,およびカラムオーブン(100~290 °C)から構成した。昇温コイルはカラムの入口に設け,カラムに入る水の温度が設定温度に達するようにした。また,背圧弁を安定に作動させるために背圧弁の後に背圧コイルを接続し,これらを室温に設定した水浴中に浸漬した。

2・3 操作

2・3・1 バッチ系

反応容器にスラグ試料2.00 gと純水6.00 mLを入れ密閉し,所定温度,所定時間加熱した。なお,加熱装置の性能とステンレス容器の熱による変形を考慮して,処理最高温度を300 °Cまでとした。反応容器を取り出し室温になるまで放冷した後,内容物を5Cろ紙上に移す。15.0 mLの水でろ紙上に残った処理スラグをすすいだ。すすぎ液とろ液を合わせたのち,水で最終体積を25.0 mLとした。これを処理水試料としてpHの測定と溶出した元素の測定を行った。溶出した元素は定量ICP-AESを用いて測定した。ろ紙上に残った処理スラグは90 °Cで6時間乾燥し,SEMにより表面観察を行った。

2・3・2 フロー系

ステンレスカラムにスラグ試料を可能な限り密に充填し(5-6 g),加熱オーブン内に設置する。ポンプ流速は使用したHPLCポンプの送液性能を考慮して,流速を安定した送液を行える0.6 mL/minに設定した。この流速で水を送液した際,圧力が臨界点近傍の18-20 MPaになるように背圧弁を調整した。カラムの入口圧力はHPLCポンプの圧力計により測定した。送液は10時間行い,最初の1時間は10分間隔でそれ以降は15分間隔で溶出液を分画した。スラグをカラムへ充填する際のばらつきが結果に影響を与えないように,同一のスラグ試料を充填した2本のカラムを調製し,その各々について水熱処理を行い,圧力プロファイルに大きな違いがないことを確認した。プロファイルに違いのない測定において得られた溶出液について溶出成分の測定を行った。処理後のスラグを処理水の流入直後の部分,流入口付近,中央部,出口付近の4個所に分割し,90 °Cで6時間乾燥したのち,SEM観察を行った。なお,加熱装置の性能とステンレス容器の熱による変形を考慮して,処理最高温度を290 °Cまでとした。

いずれの条件において繰り返し水熱処理を行っても,背圧コイルに目詰まりは生じなかった。

3. 結果と考察

3・1 バッチ系による水熱処理

バッチ系における水熱処理実験は,フロー系の予備実験として行った。気−液の体積比を1:1とした条件における容器内の圧力と気相と液相の密度変化を温度の関数として計算した結果をFig.2に示す14)。液相からの水分の蒸発とボイル−シャルルの法則により,容器内の圧力は温度とともに上昇する。これに相応して気相の密度も大きくなる。この条件では水はまだ臨界温度に達していないことから,処理水は液体の状態でスラグと接している。一方,液相の密度は温度上昇による体積膨張のために徐々に減少する。なお,300 °Cにおける気相圧力は8.6 MPaであり,容器の耐圧限界に達していない。

Fig. 2.

 Thermodynamic calculation of saturation properties of water14). Volumetric ratio of water to vessel is 1:2 for the calculation. 〇, Pressure of gas phase; △, density of vapor phase; □, density of liquid phase.

スラグを構成する成分元素の溶出に対する処理温度の影響を検討したところ,明確な温度依存性が観察された。一例として,ナトリウム,カリウム,カルシウムおよびマグネシウムの溶出に及ぼす処理液温度の影響をFig.3に示す。スラグの主要構成成分であるカルシウムは,検討したいずれのスラグにおいても,200 °C以上でほぼ一定の値となった。一方,他の元素では300 °Cまで温度の上昇とともに溶出量が増加した。

Fig. 3.

 Plots of concentrations of a) Ca2+, b) Mg2+, c) K+ and d) Na+ in leachate vs. temperature of vessel in a batch system. 2 g of slag and 6 mL water were heated in a 12 mL of vessel at prescribed temperature. 〇, Blast furnace slag 1; □, Blast furnace slag 2; △,Steel making slag 1; ▽, Steel making slag 2.

処理水の温度上昇は溶媒として水に反応性の向上と溶解性の低下といった相反する影響を与える。反応性の向上は温度上昇に伴うイオン積の増大の結果生じる。イオン積の増大に伴い水中の反応活性種(H+イオンやOHイオン)の濃度が増加する。水分子の衝突に加え,これらの反応活性種もスラグ表面を攻撃することで,構成成分の溶解反応が進むものと考えられる。10 MPa以下の圧力では水のイオン積は250 °C付近で最大値(約10−11)をとる15)

一方,液温の上昇により水の比誘電率は低下し,結果として無機化合物の溶解度が低下する。ここでは先ず,代表的な元素としてカルシウム分の溶解に関して考える。スラグに含まれるフリーライム(遊離石灰)分は水との反応により水酸化カルシウムとなる。すなわち,水酸化カルシウムはスラグに含まれる代表的な可溶性カルシウム分と見なすことができる。水酸化カルシウムの溶解度は温度の上昇とともに低下し,100 °Cでは9.8×10−3 mol/kg16)となる。この値は,Fig.3(a)における150 °C以上のカルシウム濃度7~10×10−3 mol/Lとほぼ同等である。100 °Cを超える温度条件でのCa(OH)2の溶解度に関するデータは調べた限り見当たらなかったが,誘電率の低下に伴い更に低下するものと考えられる。以上のことから推測すると,150 °C以上の高温高圧水で処理した場合,溶解しているカルシウムの濃度はほぼその温度での溶解度(すなわち飽和状態)に達しているものと考えられる。従って150 °C以上に加熱しても溶解するカルシウムの量は増えないものと推測される。このため,処理水に溶解するカルシウムイオンの濃度は150 °C 以上でほぼ一定となるものと推測される。

一方,カルシウム分とは異なり,ナトリウムイオンやカリウムイオン,およびマグネシウムイオンの場合,もともと鉄鋼スラグに含まれている割合が小さいので,溶出濃度はいずれも約10−4 mol/L程度となっており,この濃度は相当する金属水酸化物の溶解度と比べ十分に低い。このため,温度上昇に伴う金属水酸化物としての溶解度の低下はあまり影響しない。ここでは,温度上昇に伴う溶媒としての水の反応性が増大したことにより,溶解してくる各イオンの濃度が増加したものと考えられる。

処理後の溶液のpHについて検討したところ,どのスラグを用いた場合でも検討した処理温度において処理液のpHは9から11の範囲内にあった。この時のpHには明確な温度依存性は見られなかった。この原因として,バッチ系の場合,酸性成分やアルカリ性成分の両方が同時に溶出することと,溶出液はこのpH範囲に緩衝能を持たないことの二つの要因が考えられる。このために,溶出する酸性成分やアルカリ性成分の濃度がわずかにずれるだけで,pHは大きく変動してしまったものと考えられる。

3・2 フロー系による各種スラグの水熱処理

フロー系の水熱処理装置では,設定温度まで昇温した高温高圧水が一定流速でスラグを充填したカラム内を通過することになるため,処理温度の影響を明確に検討することができる。ここでは処理温度の影響が明確に観察された高炉徐冷スラグの結果を中心に述べる。製鋼スラグについては3・2・4で述べる。

3・2・1 圧力およびpHプロファイルに及ぼす処理温度の影響

高炉徐冷スラグ2を用い,処理温度が溶出液の圧力とpHに及ぼす影響について検討した。Fig.4に150 °Cから290 °Cにおける圧力と積算溶出量の関係を示す。検討したどの温度においても,積算溶出量が100 mLを超えたあたりから圧力が少しずつ高くなった。これはスラグ成分の溶解による新たな流路の形成とスラグ成分の再析出により流路の狭まりが生じ,これが圧力上昇を引き起こしているものと推測される。スラグ表面での再析出物の形成は後述するSEM観察によっても支持される。また,特徴的な挙動として,初期にパルス状の圧力上昇がいずれのプロファイルでも観察され,このパルス状のピークは,処理温度が290 °Cの時に顕著になった。このピークが出現する原因は今のところ不明である。

Fig. 4.

 Plots of column pressure vs. accumulated elution volume of water. Flow rate, 0.6 ml/min; Column dimension, 8.5 mm i.d.×30 mm; Heating temperature, 250 ºC.

処理液のpHはスラグから溶出した成分の濃度に強く影響を受ける。150 °Cから290 °Cにおける溶出液のpHとスラグ溶出成分の積算溶出量の関係をFig.5に示す。いずれの処理温度においても積算溶出量30 mLまでの初期に急激なpHの上昇が観察された。この溶出画分からは強い硫化水素臭が認められたことから,亜臨界という激しい条件下でイオウ分と水が反応して酸性の硫化水素が生じているものと考えられる。Fig.5におけるpHの上昇は酸性の硫化水素が流出し終わることに対応しているものと考えられる。処理液のpHは初期に急激上昇した後,pH 10.5付近でほぼ一定の値をとる。pHは溶出体積が100 mLを超えた付近においてステップ状に低下し,その後ほぼ一定の値をとる。このような台形状のプロファイルは処理温度が250 °Cと290 °Cの時に顕著に観察された。このプロファイルは,次節で検討するアルカリ分(主にカルシウム)の溶出と高い相関関係が認められた。この挙動は以下の反応モデルを想定すると上手く解釈できる。

Fig. 5.

 Plots of pH of leachate from blast furnace slag 2 vs. accumulated elution volume of water at prescribe temperature. Flow rate, 0.6 ml/min; Column dimension, 8.5 mm i.d.×30 mm.

温度の上昇に伴うイオン積の増大により,水中のH+イオンとOHイオンとが増加する6,7)。H+イオンは塩基性物質である金属硫化物と反応し硫化水素を遊離させる。その一方,OHイオンはスラグ表面のシラノール基など固体表面の酸性官能基と反応する。OHイオンはスラグに含まれるライム成分の溶解によっても生成する。カラムに充填されたスラグが液体クロマトグラフィーの充填剤として作用するため,遊離状態にある硫化水素とスラグ表面に捕捉されているOHイオンとではカラム内の通過速度が異なる。硫化水素は速やかに溶出するため,初期の溶出画分に多く存在し,pHを低下させる。これに対して,OHイオンはスラグ表面に保持されながら出口後方へとゆっくり移動する。OHイオンの溶出が終了するとpHが定常状態に戻る。この結果,10.5程度であったpHは階段状に低下する。このとき,溶液の電気的中性を保つため,OHイオンの溶出には対イオンとしてCa2+イオンなどの陽イオンを伴うので,カルシウムの溶出プロファイルとも連動するものと推測される。

通常,スラグのエージング処理において分離場が形成されることはないので,塩基性のスラグに含まれる金属硫化物から硫化水素が遊離することはないものと考えられる。これに対して,カラム法では酸性成分と塩基性成分とがクロマトグラフィー分離され,酸性成分は金属硫化物から硫化水素を遊離させるため,初期の溶出画分はpHが低く,硫化水素臭が認められたものと考えられる。

3・2・2 スラグ構成成分の溶出プロファイルに及ぼす処理温度の影響

スラグの代表的な構成成分であるナトリウム,カルシウム,イオウ,およびリンの溶出プロファイルの温度依存性をFig.6に示す。各成分とも,200 °Cと250 °Cの溶出プロファイルは類似している。しかしながら,両温度での結果を比較してみると,Fig.5のpHプロファイルで観察された台形状の上辺部分に相当する溶出画分における各々のイオンの溶出濃度は,200 °Cより250 °Cで高くなっている。この原因は,約250 °Cまで水のイオン積の増大に伴う反応活性種の濃度が増加することによる。一方,更に高温の290 °Cでは各成分とも溶出濃度が著しく低下している。この温度では,水のイオン積が逆に250 °Cよりも小さくなることに加え,誘電率の低下の影響が加わることで無機イオンの溶解力が低下してしまい,各元素の溶出濃度が低下したものと考えられる。

Fig. 6.

 Elution profiles of P, Na, S and Ca from blast furnace slag 2 filled in a column at prescribe temperature. Flow rate of eluent, 0.6 ml/min; Column dimension, 8.5 mm i.d.×30 mm.

高温条件で得られたプロファイルと比較すると,150 °Cの溶出プロファイルは全く異なる挙動を示した。興味深いことに,カルシウムとイオウは,積算溶出体積が200 mLを越えた時点から溶出濃度が徐々に高くなった。推定される理由として以下の可能性が考えられる。処理温度150 °Cでは処理水の反応性が低いことに加え,亜臨界状態にも達していないことから,処理液のスラグ内部への浸透性は低くなっているものと考えられる。このためスラグの構成成分はゆっくりとスラグから溶出することになり,結果としてブロードなピークが200分以降に出現したものと考えられる。処理温度の増加に伴い,処理液の反応性と浸透性が上昇するために,鋭いピークとして早い時間に溶出するようになる。

高炉徐冷スラグ2から溶出する各構成成分の量を積算した値を蛍光X線分析法で測定した含有量で除すことにより,溶出割合を算出した。カルシウム,イオウ,およびリンについて溶出割合を積算溶出体積の関数としてプロットした結果をFig.7に示す。ナトリウムについては,蛍光X線分析法では正確な含有量が測定できなかったために,ここでは検討しなかった。各成分ともFig.6に示す溶出プロファイルを見ると,250 °Cの溶出ピークの方が200 °Cのピークよりも鋭くなっている。しかしながら,積算溶出量で両者を比較するとそれほど大きな違いはない。カルシウムの積算溶出量が200 °Cの条件で250 °Cより高くなっているのは3・2で考察したのと同様に,温度上昇による溶解度の低下が原因であると考えられる。イオウの場合では,200 °Cあるいは250 °Cいずれの処理温度でも300 mLの積算溶出量でほぼ100%に近い溶出が達成されている。この結果は,高温高圧水を用いる水熱抽出によりイオウ成分が効率よくスラグから抽出されることを示している。150 °Cの場合は,Fig.6に示すように積算溶出体積が200 mLを越えた辺りから溶出濃度が高くなるために,Fig.7では各元素ともこの領域から溶出量の積算値が上昇し始める。

Fig. 7.

 Leaching ratio of Ca, P and S from blast furnace slag 2 filled in a column at prescribed temperature. low rate, 0.6 ml/min; Column dimension, 8.5 mm i.d.×30 mm. 〇, 150 ºC; □, 200 ºC; △, 250 ºC; ▽, 290 ºC.

3・2・3 製鋼スラグにおけるpH,圧力および元素の溶出プロファイル

イオン積が最も大きくなる処理温度250 °Cにおいて製鋼スラグ2の水熱処理を行った。この時の圧力,溶出液のpHおよび構成成分の溶出プロファイルをFig.8に示す。この圧力プロファイルと同じ温度の高炉徐冷スラグの圧力プロファイルとを比較すると,両者は類似してはいるものの製鋼スラグの方が単純なプロファイルとなっている。詳細に観察すると,最初にパルス状に圧力が上昇した後,しばらく一定の値を保持し,また徐々に圧力が上昇した。

Fig. 8.

 Temperature dependence of pressure and pH profiles of a column filled with steel making slag 2. Flow rate, 0.6 ml/min; Column dimension, 8.5 mm i.d.×30 mm.

製鋼スラグ2を充填したカラムにおけるpHプロファイルは圧力プロファイル以上に単調な変化を示した。Fig.9に示す主要な溶出成分であるイオウとカルシウムが互いに類似した溶出プロファイルを示すことから,両成分による酸塩基の中和が起こり,結果としてpHがあまり変化しなかったものと推測される。

Fig. 9.

 Elution profiles of P, Na, S and Ca from steel making slag 2 filled in a column at prescribe temperature. Flow rate, 0.6 ml/min; Column dimension, 8.5 mm i.d.×30 mm.

Fig.9に示した溶出成分で見た場合,イオウ成分は300 mLの積算溶出量でほとんど検出されなくなる。この時点での積算溶出量は蛍光X線分析法により測定したイオウの含有量と一致することから,フロー系の水熱抽出法により,製鋼スラグに対してもほぼ完全にイオウ成分が除去されたものと考えることができる。

3・3 SEMによる表面観察

フロー系の処理装置を用い250 °Cで処理した各スラグの表面をSEM-EDXにより観察した。いずれのスラグでも処理前には観察されなかった析出物の形成が確認された。ここでは,明確に析出物が観察された高炉徐冷スラグ1の結果をFig.10に示す。処理した高炉徐冷スラグ1をカラム流入口付近,カラム中央付近,および出口付近から採取した。カラムの流入口付近から出口に向かって処理水と充填したスラグとの接触時間が長くなる。

Fig. 10.

 SEM images and EDX spectra of blast furnace slag 1 treated with highly-pressurized and highly-heated water by using flow system at 250 ºC.

未処理スラグでは,比較的平坦な表面上に板状や粒状の構造物が観察された。これに対して,流入口面の処理スラグでは処理水により浸食された窪みと未処理スラグには見られない粒状析出物が新たに観察された。この結果は高温高圧水を用いる鉄鋼スラグ水熱処理では,単に鉄鋼スラグの構成成分が抽出されるだけでなく,同時に溶存物質の再析出も起こることを示している。観察された粒状析出物は流入口付近,中央部と処理水との接触時間が長くなるにつれて,その数を増した。EDXのデータからわかるように,未処理スラグの粒状物質はイオウを含んでいるものの,処理スラグの粒状物質はイオウを含んでいない。XRD測定の結果から,未処理スラグには見られないCaSiO3(Larnite)がいずれの場所から採取した処理スラグでも観察された。この結果は,水熱処理によりイオウ成分が除去されていることを支持している。

4. まとめ

高温高圧水を用いる鉄鋼スラグの水熱処理装置を試作し,水熱処理による鉄鋼スラグの処理効果について検討した。イオン積が最大となる処理温度250 °Cにおいて処理液の反応性が上がることから,この温度で最も効果的な処理が可能であった。フロー系の水熱処理により,製鋼スラグおよび高炉徐冷スラグ中のイオウ成分をほぼ完全に溶出させることができた。水熱処理後のスラグ表面には,イオウを含まない新たな析出物が形成した。以上の結果から,高温高圧水を用いる鉄鋼スラグの水熱処理は黄水の原因となるイオウの除去に有効であることが示された。

文献
 
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