Tetsu-to-Hagane
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Utilization of Waste Organic Substances for Biological Denitrification
Toyoshi YamaguchiYasuhiro Katsuki
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2014 Volume 100 Issue 8 Pages 1029-1035

Details
Synopsis:

Waste organic substances were evaluated as an alternative nutrient source for biological denitrification in nitrogenous wastewater. In common, methanol is used as nutrient source for denitrifying bacterium. By using of organic wastewater discharged from steel making plant, substituting this wastewater for methanol is focused. In this study, four kinds of candidate steel industry wastewater were examined. In the first step, water quality analysis was conducted as simplified evaluation. BOD/CODcr was defined as the ratio of biological degradable organic substances to total organic substances, candidate wastewater were evaluated for BOD/CODcr. By this test, three kinds of candidate wastewater were selected. In the second step, continuous biological denitrification treatments were demonstrated. Two kinds of candidate wastewater were significantly effective for a nitrogen removal equivalent to methanol. By the water quality analysis and the continuous treatment test, the selection process of organic wastewater as alternative methanol was facilitated and it made possible to perform in a short period of time.

1. 諸言

従来,下水処理をはじめとする水処理の分野では,放流先閉鎖性水域の富栄養化対策として窒素・りん除去の向上が課題となっている。東京湾,伊勢湾および瀬戸内海については,水質汚濁防止法等に基づき昭和54年以来6次にわたり総量規制が適用されており,平成26年4月からは第7次の総量規制基準が設置される1)。さらに,これら全国一律の基準に加えて,各自治体にて条例等で規定する上乗せ基準が設定されている場合も多く,これら基準の遵守が求められる。工場廃水も例外ではなく,地方自治体などが定める基準値を満足するため,窒素・りんの除去がなされる。このうち,窒素については,生物学的窒素処理法が広く用いられている。この方法は,高い除去効率,処理の安定性と信頼性,維持管理が容易,他の方法と比較して安価,といった利点を有している。

Fig.1に,最もシンプルな循環法による生物学的窒素処理プロセスのフローを示す2)。生物学的脱窒方法は,亜硝酸体(性)あるいは硝酸体(性)窒素を含有する廃水を,酸素添加(曝気)のない嫌気的条件下で微生物の作用を利用して窒素として還元除去する技術である。脱窒素に関与する微生物は増殖に有機物を必要とする従属栄養細菌であり,分子状酸素の存在する好気性条件下では酸素呼吸を行い,嫌気性条件下では硝酸,あるいは亜硝酸を酸素の代わりに利用し硝酸呼吸のできる通性嫌気性細菌である。このような微生物は,Pseudomonas denitrificansP.stutzeriをはじめ,多くの細菌が報告されている。

Fig. 1.

 Schematic diagram of biological denitrification treatment system.

実際の処理においては,硝酸体窒素(亜硝酸体窒素)を含有する廃水を処理槽に導き,有機炭素源(有機物)の混在化で硝酸体窒素と有機物を窒素,二酸化炭素,水まで分解する。その後,後段にて曝気を行い,残留する有機物を通常の酸素呼吸にて二酸化炭素と水まで分解することで,廃水中より窒素,有機物の除去を行う。廃水中に窒素と共に有機物が含まれている場合には脱窒素反応に利用できるが,不足する場合には外部より有機物を添加する。外部添加有機物としては,現状ではコスト等の観点からメタノールが一般的に用いられている。しかしながら,メタノールも購入する以上はコストが掛かるため,このメタノールを,工場から発生する他の副生成物で代用できれば,メタノールコストを削減することができる。このような研究は,有機物の多い食品系産業などの分野で行われている3,4)

製鉄所においても,多種多様な廃水が発生しており,これらの廃水には,メタノール代替になる有機炭素源を含む廃水が存在する可能性がある。製鉄所で発生する廃水を調査して,メタノール代替の可能性を検討した。

2. 実験方法

2・1 廃水の特性調査

メタノール代替可能な有機炭素源を含む廃水に求められる性質として,まず,メタノールと同等の窒素除去能力,すなわち,高い生分解性を有していることが必要である。

このことを念頭に,製鉄所内にて聞き取り調査を行い,生物が利用できる形態として適していると考えられる,水溶性(または分散している状態)の有機物を含む廃水を4種,候補として取り上げた。これら4種の廃水について,メタノール代替になりうる廃水か否かを検討するにあたり,すべての候補について連続脱窒処理実験等を行った場合,非常に長い時間と労力を必要とする。今回,これら候補廃水の使用可否をできるだけ迅速に決定するため,まず簡易な方法で特性調査を行い,予備的な選別を行った。

各廃水を約1 L程度サンプリングし,まず,すべての候補廃水について予め全窒素T-Nを測定し,窒素分がほとんど含有されていないことを確認した上で,以下の実験を行った。

それぞれの廃水についてBOD(生物学的酸素要求量)およびCODcr(重クロム酸カリウムによる酸素消費量),を測定し,CODcrに対するBODの比,BOD/CODcrを算出した。この数値が,0.4を上回る廃水を,次の連続脱窒素処理実験へ供することとした。

多少誤差はあるものの,BODは,微生物が利用可能な有機物量の代替指標として,一方CODcrは全有機物量の代替指標として考えた場合,CODcrに対するBODの比,BOD/CODcrは,廃水中の全有機物量に対する微生物が利用可能な有機量の比と定義することができる。

Fig.2は,これまで筆者らが調査,実験等を行った下水処理設備,産業排水処理設備等で採取した,流入水のBOD/CODcr値の度数分布と累積比率を示したものである。Fig.2から,累積比率が0.5以上となるBOD/CODcr値は0.4以上であるので,この条件を満たす廃水を,安定した窒素除去を行うことのできる候補として選定することが適当であると考えた。

Fig. 2.

 Frequency distribution and cumulative ratio of influent BOD/CODcr in various wastewater treatment plants.

CODcrの分析はJIS K 0102 13に従い,BODの分析はJIS K 0102 21に従った。

なお,日本の水処理分野においては,CODとしては過マンガン酸カリウムによる酸素消費量CODMn(JIS K0102 13)が一般的であるが,過マンガン酸カリウムの酸化力は重クロム酸カリウムに比較して弱いため,酸化できない有機物が多く存在する。したがって全有機物の指標としては不適切であることから,本実験においてはCODcrを全有機物の指標として用いた。

このように今回の検討では,廃水の評価項目をBODとCODcrに絞って実施した。微生物の栄養源としての廃水という観点では,1)必要な栄養素が,種類,量ともに不足していないか,2)微生物の生育を阻害するような有害物質が混入していないか,を考慮する必要がある。1)については,今回,購入メタノールの代替のみを考慮していることから,栄養素の種類としては微生物が利用可能な有機物(炭素)のみを考慮すればよく,この指標としてはBODが適している。通常このような廃水処理設備では,微生物の増殖に必要な有機物以外の栄養素(N,P,微量栄養元素など)の多くは,原水中に含有されており,必要に応じてP等を別途少量添加する場合もあるが,基本的に不足するのは有機物である。また2)の観点においては,BODは実際に微生物を増殖させ,その酸素消費量を測定することから,有害物質が微生物の増殖に影響を与えるほど含有されていれば,その時点でBODが極端に低下するため,選別可能であると考えた。ただBOD測定時には候補廃水をかなり大きな倍率で希釈することから,測定時に有害物質濃度が生物の増殖に影響を与えない程度に低下する懸念はある。しかしながらその場合でも,続く連続実験においては希釈等行わず廃水を評価することで選別可能なことから,1次的な簡易選別である程度の選別漏れが生ずるのは,やむを得ないと考えた。

また,BODとして計測されないような,生物難分解性の有機物が多量に存在する場合には,有機物全体の分解が非常に緩慢で脱窒処理に上手く活用されなかったり,微生物に対する阻害作用があったりする場合が多いことから,CODcrを全有機物の代替指標として測定し,BODとの比率を求めることで,簡易評価が可能と考えた。

2・2 連続脱窒素処理実験

連続実験装置をFig.3に示す。実験には,有効容積3 Lの反応器で,含窒素廃水投入,嫌気(脱窒工程),好気(後曝気工程),沈澱分離,処理水排出を1ターンとし,これを繰り返し行う回分式反応装置を用いた。1回の廃水の入れ替え量を1 Lとし,3ターンにて廃水の全量が入れ替わるというfill and draw法にて処理を行うことにより,擬似的に連続処理を行った。

Fig. 3.

 Experimental apparatus for continuous denitrification treatment.

原水となる含窒素廃水として,製鉄所のSUS酸洗工程から発生する実廃水を供した。しかしながら実廃水には濃度変動があるため,廃水のサンプリングごとに全窒素濃度を測定し,試薬硝酸ナトリウムを添加するか,または蒸留水で希釈することにより,原水中の全窒素濃度を常に150 mg/Lになるように調整した。なお,廃水が含有する窒素は,全て硝酸性窒素であった。活性汚泥も実際のSUS廃水処理設備から採取して供した。

反応器内のpHは7.0に制御した。曝気工程での曝気量は,1 L/minとした。反応器の水理学的滞留時間(HRT)は72時間より開始し,短縮していくことで窒素負荷を制御した。最終的にHRTは12時間まで短縮して実験を行った。別途行った予備実験の結果から,いずれのHRTの場合にも,嫌気工程と好気工程の時間比を,おおよそ2:1となるように設定した。HRT12時間のときの各行程における設定時間を,Table 1に示す。

Table 1. Detailed set values for continuous experiment (HRT=12 h).
Value
Reactor volume3 L
Fill and draw volume1 L/batch
Anaerobic treatment2.2 h/batch
Aerobic treatment1.2 h/batch
Settling0.5 h/batch
Others (fill, draw)0.1 h/batch
Aeration rate1 L/min
pH (controlled)7.0

使用したSUS廃水中には微生物の栄養源となる有機物はほとんど含有されていなかったため,必要な有機物は,メタノールあるいは候補廃水の形ですべて外部から添加した。これら有機物は,SUS廃水の入れ替えの際に,SUS廃水と同時に添加した。添加量は,以下の考え方に基づいて決定した。

硝酸が脱窒される際の反応は,以下の両論式で表される。   

2NO3+5H2N2+4H2O+2OH(1)

脱窒反応で消費されるH2(=水素供与体としての有機物)は,BODに換算すると,1モルのH2は1/2モルのO2(すなわちBOD)に相当する。   

H2+1/2O24H2O(2)

したがって,硝酸体窒素1 mgが脱窒されたときには,   

(5×1/2O2(=32))/(2×N(=14))=2.9mg(3)

のBODが消費される。

上記が,脱窒反応に必要なBODの理論必要量であるが,実際の処理では有機物すべてが脱窒に利用されるわけではなく,反応槽表層部の気液界面においては微量に溶け込んだ酸素による通常の呼吸反応が生じたり,一部は残留して後段の曝気工程で好気的に分解されたりしていると考えられる。実用上は,理論必要量に対して30-40%程度,余剰のBOD添加が適当と考えられていることから5),2.9×1.3=3.8≒4,すなわち,除去すべき窒素1 mgに対してBOD4 mgとなるように各有機物を添加した。

候補廃水を2週間以上反応器に供給して,活性汚泥の馴養(微生物群を環境に適応させる)を行ったのち,各候補廃水の窒素除去性能を評価した。有機物として候補廃水を添加した系と同時に,メタノールを添加した系も対照系として実験を行い,処理前後の窒素濃度から算出した各候補廃水使用時の窒素除去率を,メタノール使用時の除去率と比較した。

3. 実験結果および考察

3・1 廃水の特性調査

製鉄所から発生する,4種の候補廃水の特性調査結果を,Table 2に示す。廃水は,CODcrで370000 mg/L~2000 mg/L,BODで660 mg/L~43000 mg/Lと,広い分布を持っていた。BOD/CODcrの値は,1種の廃水(No.2)は0.1であったが,残りの3種は0.7,0.4,0.4となり,基準値の0.4以上を満たした。BOD/CODcrが0.1であったNo.2の候補廃水は,廃水中に一部タール状のものが分離しており,これらを生物分解できなかったために,CODcrに対してBODが低くなったと考えられた。また候補廃水No.1は,BOD/CODcrが0.7と,メタノールとほぼ同等の値を有しており,高い生分解性を有していると考えられた。

Table 2. BOD/CODcr ratio of candidate wastewater.
NutrientCODcrBODWater quality analysis
(Simplified evaluation)
[mg/L][mg/L]Biodegradable ratio BOD/CODcr [-]
ReferenceMethanol (58%)6500004300000.7
Candidate wastewaterNo.164000430000.7
No.2370000270000.1
No.3320012000.4
No.420006600.4

このように,簡易な特性調査によって,候補廃水の予備的な絞込みを行うことができた。

3・2 連続脱窒素処理実験1(候補の選別)

前項にて選別を行った3種の候補廃水を添加して連続脱窒素処理実験を行った。Fig.4に,連続実験における典型的な脱窒能の発現について示す。Fig.4では,有機物としてメタノールを用い,HRTは72 hで行った実験結果である。実験開始後,2週間程度は原水と処理水の窒素濃度はほぼ等しく,すなわち反応器内で脱窒反応が生じていないことが分かる。しかしながら,実験を続けていくと反応器内の微生物が環境に順応(あるいは,微生物相が環境に応じて変化)し,脱窒反応が生じるようになった。この時,処理水中のCODMn(処理水管理項目としての測定であるので,CODcrではなく一般的なCODMnを測定している)も同時に低下し,脱窒反応に反応液中の有機物を利用していることも同時に確認できた。反応器内のpHは7.0に制御していたが,脱窒反応の進行により溶液中から硝酸が除去されるため,制御を行わないと次第にpHが上昇した。したがって,本実験では,酸(塩酸)を添加することにより,反応器内のpHを7に制御した。

Fig. 4.

 Expression of denitrification during continuous treatment.

また,硝酸体窒素は,一般的には以下の代謝経路により窒素ガスにまで分解されるが,処理が不完全な場合には主として硝酸体窒素と亜硝酸体窒素が蓄積する。このことから,実験時の処理水については硝酸体窒素と共に,亜硝酸体窒素も同時に測定した。

  

N O 3 N O 2 NO N 2 O N 2

Fig.5に,有機炭素源としてメタノール,および候補廃水3種について連続脱窒素処理実験を行った結果を示す。対照系であるメタノールの試験(Fig.5(a))においては,装置の不具合によって処理が不完全になった期間を除くと,大部分の期間で残留窒素濃度は1 mg/L未満になっており,ほぼ完全な窒素除去処理が行われていることが確認できた。このことから,今回構築した実験系にて脱窒処理の評価が可能であると考えられた。HRTを12 hに設定した期間の平均窒素除去率は,98%となった(装置不具合期間除く)。

Fig. 5.

 Effluent NO3-N and NO2-N concentrations and HRT during continuous denitrification treatment. The nutrient source was (a) methanol, (b) candidate wastewater No.1, (c) No.3 and (d) No.4.

候補廃水No.1は,ポンプ異常によって廃水添加量が減少し,脱窒が不完全になった期間を除いて,メタノールと比較して遜色ない窒素除去能が得られた(Fig.5(b))。安定稼動時の平均窒素除去率は98%となり,メタノールと全く同じ除去率が得られた。

候補廃水No.3も,実験開始当初は馴養が不完全だったと考えられる窒素分の残留が見られたが,その後処理水窒素濃度はスムーズに低下し,ほぼ0 mg/Lで一定となった(Fig.5(c))。実験の都合上,HRT12 hで試験した期間は約72 hと短かったが,一般にはHRTの3~5倍(この場合36~60 h)処理を行えば定常状態に達したと考えられるため,HRT12 hでの実験をこのまま継続したとしても,引き続き良好な処理が行われたと考えられた。処理が安定していた期間の窒素除去率は99%となり,ほぼすべての流入窒素分が,脱窒反応によって生物学的に除去されていることが確認できた。

一方候補廃水No.4は,処理が不完全で,硝酸,亜硝酸共に残留した(Fig.5(d))。処理が不完全であったため,HRTは実験終了まで36 hのままで,短縮することができなかった。安定処理時の平均窒素除去率は70%となり,メタノールと同等の脱窒処理を行うことはできなかった。

Table 3に,今回の実験結果をまとめて示す。4種の候補廃水を,まず簡易な特性評価によって3種に絞り,3種の候補廃水をメタノールの代わりに添加して連続脱窒素処理実験を行った。その結果,2種の廃水(No.1,No.3)でメタノールと同等の窒素除去率が得られ,メタノール代替可能な廃水であると評価できた。このように,簡易な特性評価と連続処理実験を組合せた手法により,メタノール代替可能な廃水を短期間で選定することができた。

Table 3. Summary of experimental results.
NutrientWater quality analysis
(Simplified evaluation)
Continuous denitrification treatment
Biodegradable ratio
BOD/CODcr [-]
Nitrogen removal ratio
ReferenceMethanol0.798%
Candidate wastewaterNo.10.798%
No.20.1
No.30.499%
No.40.470%

各候補廃水は,BOD/CODcrの数値などに違いはみられるものの,連続実験においてはすべての候補排水についてBOD量を揃える形で添加しているにもかかわらず,脱窒処理の程度には違いが見られ,特定の廃水のみが使用可能であった。

このような違いの一因としては,含有されているBOD成分の違い,さらに言えば含有BOD成分の分解速度の違いが考えられる。BODの測定(培養)期間は5日間であるため,BODはこの5日間に分解された有機物量(=消費された酸素量)として測定される。しかしながら,今回の連続実験のHRTは12 hで,うち脱窒が行われる嫌気時間は6.6 h(2.2 h×3バッチ)である。反応器内溶液の97%以上が入れ替わるのがおおよそHRTの3倍であるので,嫌気時間すなわち各廃液が脱窒反応に利用される時間としては約20 h程度(6.6 h×3)である。この間に分解されるBOD成分でなければ脱窒反応には利用されず,後段の曝気工程で分解されるか,あるいは,最後まで分解されずに処理水中に残留するものと考えられる。このようにBOD(有機物)成分には,簡単に短時間で分解される易分解性有機物と,複雑な反応により時間を掛けて分解される遅分解性有機物とに分別されると考えられており6),この各有機物の含有比が,候補排水ごとに異なっていたと考えられる。このため,BOD量を揃えて添加しても,廃水ごとにBOD成分の分解速度に差があり,従って,脱窒速度にも違いが生じたものと考えられる。

Table 4に,候補排水No.1を用いて処理を行った際,HRT12 h(設定最大負荷)にて運転した26日間(Fig.5(b)15d~41d)における,窒素除去量と添加BOD量の収支をまとめた結果を示す。窒素1 mgを除去するためにBODが3.8 mg必要であった。本連続実験後に,添加BOD量を減少させる実験も実施したが,BOD添加量をこれ以上減少させると処理液中に窒素が残留し,処理が不完全になることを確認している。窒素1 mgを除去するために必要なBODの理論量は,実験方法式③に示す通り,2.9 mgであるが,今回の実験では,3.8 mg必要であり,脱窒に利用されるBOD量は,添加BOD量の76%程度であった。これは,実験方法において言及した,実用上適当と考えられている数値と一致しており,今回の実験においては,実機における脱窒処理をある程度模擬できていたと考えられる。通常の脱窒処理においては,ほぼ完全な窒素除去のためには,若干のBODの過剰投入が必要であると考えられた。

Table 4. Material balance of nitrogen and BOD in continuous denitrification treatment (candidate wastewater No.1 15d-41d HRT12 h).
Nitrogen removal (mg/day)Additive amount of BOD (mg/day)BOD/N (-)
89034003.8

3・3 連続脱窒素処理実験2(メタノールとの混合および間欠添加処理)

前節までの実験によって,各候補廃水を単独で使用した場合の適用可否については評価でき,選別を行った。しかしながら,候補廃水を有機炭素源として,脱窒のための必要量を常に取得できるか(候補廃水が必要量排出されるか)否かは,排出源の操業,処理状況等によって異なる。得られる候補廃水量が元来少ない場合や,状況により一時的に取得量が減少する場合などは,メタノールと候補廃水を併用する必要が生ずる可能性が高い。その場合には,微生物群である汚泥がメタノールと候補排水を同時に消費し,脱窒反応を進行させることが必要である。さらに,設備の不具合などにより一定期間,候補廃水の取得自体が困難になった場合などでは,候補廃水の添加を一時的に中止せざるを得ず,その場合にはすべての有機炭素源をメタノールで補う必要が生ずる。その後また候補廃水の取得が可能になった場合には,候補廃水添加を再開し,メタノールコストを低減することが望ましい。しかしながら,そのような有機炭素源の短期間の変動に,微生物が追従できるか否かは確認が必要である。そこで,前項にて選別を行った候補廃水No.1を用いて,メタノールとの混合処理実験および間欠添加実験を行った。まず,前節と同様,流入水量と流入水中の硝酸濃度より,脱窒のために添加すべき有機物量(BOD量)が算出できるが,この必要な有機物量のうち,75%分をメタノールで,25%分を候補廃水No.1で添加する実験を行った。また,必要有機物量の75%分のみをメタノールで添加する,すなわち,栄養源が不足している条件での実験も同時に行った。

次に,必要有機物量の,75%分をメタノールで,25%分を候補廃水No.1で添加している状態から,一時的に1週間,候補廃水の添加をやめ,メタノールの添加量を増量し,必要有機物量の全てをメタノールで添加した。1週間後,再び,メタノール添加量を必要有機物量の75%分まで落とし,25%分を候補廃水No.1で補う状態に戻し,処理を継続した。その他,詳細な実験条件は前節に従った。なお,両実験とも,メタノール+候補廃水で十分馴養を行ったのち,実験を開始した。

メタノール,候補廃水No.1混合添加実験の結果をFig.6に示す。必要有機物量の75%分のメタノールのみの添加系では,処理開始2日後から処理水中の硝酸濃度が上昇し始め,4日後には大量の硝酸が未処理のまま処理水中に検出され,処理が破綻した。このことから,必要有機物量の75%分のメタノールのみの添加では,実際の処理においても栄養源が不足することが確認できた。一方,不足の栄養分を候補廃水No.1で補った系では,処理水中に硝酸はほとんど検出されず,約20日間に渡って安定な処理が行われた。これらの結果から,メタノールと候補廃水の混合添加系においても,メタノールと候補排水は同時に消費され,安定な窒素処理が行われていることが確認できた。

Fig. 6.

 Effect of the mixed nutrient source on effluent NO3-N plus NO2-N concentrations during continuous denitrification treatment.

一方,候補廃水の間欠添加に関する実験結果を,Fig.7に示す。実験開始後4日目に,候補廃水の添加を停止し,メタノールの添加量を増量,必要有機物量の全てをメタノールで補う処理に切り替え,約1週間処理を行った後,再び混合添加系に戻した。この期間中,処理水中の硝酸濃度の上昇は見られず,ほぼ完全に窒素除去が行われていた。この結果は,一度安定な処理状態が構成できれば,その後,1週間程度の栄養源の変更では,特に改めて馴養等を行う必要がなく,対応可能であることを示している。

Fig. 7.

 Effect of the short-term change of nutrient source on effluent NO3-N plus NO2-N concentrations during continuous denitrification treatment.

これらの結果より,今回のような脱窒処理プロセスは,メタノールとの混合添加でも問題なく脱窒に利用され,また,実運用上生じやすいような栄養源の変動においてもある程度の適応力があり,特別な維持管理は不要であることが分かった。

4. 課題

今回の連続実験では,窒素除去率について評価を行ったが,処理水のCODMn濃度については評価を行わなかった。これは,処理時間(滞留時間)を短縮していくと,メタノール添加のみの,実機を模擬した系でも,実機を上回るCODMn濃度が検出され,処理水CODMnは実機の処理を模擬できなかったためである。今回の処理装置では,処理水中に若干汚泥フロックの混入が認められ,実機ほどの固液分離性が確保されていないようであった。処理水を再度濾過して処理水とすることも考えたが,実機の処理を模擬するろ過径が不明であるため,今回検討を行わなかった。処理水CODMnの評価まで行うためには,もう少し大型の実験装置を用いるか,実機での実験を実施することなどで,確認することが必要であると考えられる。

5. 結言

製鉄所廃水の中から,生物学的脱窒素処理の栄養源として用いられているメタノールの代替として,利用可能性のある廃水を探索,調査し,以下の知見を得た。

(1)簡易評価

製鉄所から発生する廃水を調査し,4種の候補廃水を選定した。BOD/CODcrを全有機物中の微生物利用可能な有機物の比率と定義し,簡易評価を行った。BOD/CODcrの比は,1種の廃水は0.1であったが,残りの3種は0.7,0.4,0.4であり,これらを連続脱窒素処理実験に供した。

(2)連続脱窒素処理実験

3種の候補廃水をメタノールの代わりに添加して連続脱窒素処理実験を行った。その結果,2種の廃水でメタノールと同等の窒素除去率が得られ,メタノール代替可能な廃水であると評価できた。このように,簡易評価と連続処理実験を組合せた手法により,メタノール代替可能な廃水を短期間で選定することができた。

また,メタノールと候補廃水の混合処理や,一時的に候補廃水の添加を停止する間欠処理なども実施し,実運用上の条件変動にも十分対応可能であることが分かった。

文献
  • 1)  第7次総量削減 化学的酸素要求量,窒素含有量およびりん含有量に係る総量削減基本方針(平成23年6月),環境省ホームページ,http://www.env.go.jp/, (参照2013-03-04).
  • 2)  新・公害防止の技術と法規2006,公害防止の技術と法規 編集員会編,丸善,東京,(2006), 279.
  • 3)    B.  Hansson and  L.  Gunnarson: Chem. Water Wastewater Treat., (1990), 531.
  • 4)    T.  Ueda,  Y.  Shinogi and  M.  Yamaoka: Nogyogijyutsu, 60(2005), 562.
  • 5)  井出哲夫:水処理工学 理論と応用,技報堂出版,東京,(1976), 286.
  • 6)   IWA Task Group on Mathematical Modelling for Design and Operation of Biological Wastewater Treatment., Activated sludge models ASM1, ASM2, ASM2d and ASM3. Scientific and Technical Report No. 9. IWA Publishing, London, (2000).
 
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