Tetsu-to-Hagane
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Development of High Efficiency Dephosphorization System in Decarburization Converter Utilizing FetO Dynamic Control
Yasushi OgasawaraYuji MikiYuichi UchidaNaoki Kikuchi
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2014 Volume 100 Issue 8 Pages 935-942

Details
Synopsis:

Laboratory experiments were carried out with the aim of adapting a (FetO) dynamic control technique, in which (FetO) is estimated by calculating the oxygen balance during blowing, to the hot metal decarburization process. The rephosphorization condition in the higher decarburization rate period was then clarified based on those experiments. Next, (FetO) control experiments were carried out in a commercial-scale plant converter. (FetO) generation was promoted by increasing the oxygen flow rate and raising the lance height in the early stage of blowing, and the amount of dephosphorization during blowing was increased. Finally, a dephosphorization model was constructed by combining the coupled reaction model and the (FetO) estimation model. This model suggested an increase of the amount of dephosphorization during blowing, and the effect was confirmed by an experiment with a commercial 240 ton converter.

1. 背景

精錬プロセスにおけるスラグ発生量低減,低コスト化を実現するためには,溶銑予備処理および転炉脱炭精錬での脱りん能力の向上が必要である。1980年代から日本国内では溶銑予備処理技術が発展し,各社の設備条件に応じて,溶銑鍋ないしはトピードカー型の溶銑予備処理法,あるいは転炉型の溶銑予備処理法が開発された。近年,極低りん鋼の需要の高まりや,スラグリサイクルを指向したフッ素レス化の要求を受け,溶銑予備処理のみならず,転炉脱炭精錬においても低りん化技術の必要性が生じてきた。

JFEスチールでは,FeO生成モデル1)に基づき,転炉型溶銑予備処理法における低りん化技術の開発が行われている。この技術においては,脱りん能の高いスラグ生成のために,(FetO)生成の制御が重要である。本研究では,極低りん鋼溶製のため,転炉脱炭精錬における(FetO)のダイナミック制御技術の適用による脱りん向上を目的とする。

転炉精錬でのダイナミック制御についてはこれまで様々な報告があり,吹錬終点における[C]濃度および温度推定に関しては多くの報告がある2,3,4,5,6,7,8,9,10,11,12,13)。また,脱りん制御についても,いくつかの報告がある。Vortrefflichら13)は,特殊サブランスを用いてスラグ中の酸素活量を測定し,(FetO)濃度を推定した。(FetO)濃度の推定精度は実測値との差異が±2%以内であり,得られた(FetO)濃度から終点[P]濃度が計算される。その他の技術としては,脱りん促進を目的とした吹錬中の音波測定によるスラグ高さ制御14,15)や,排ガス流量および組成から計算される脱炭速度の制御16)が報告されている。

しかしながら,転炉精錬での(FetO)ダイナミック制御による低りん化技術については,転炉型溶銑予備処理法における(FetO)ダイナミック制御の適用16)が報告されているのみである。スラグ中(FetO)濃度は,脱りんだけでなく復りんにも影響を及ぼす。復りんに及ぼす(FetO)濃度の影響については,転炉型溶銑予備処理条件下での報告17)はあるが,転炉脱炭精錬の条件下では明らかとなっていない。そこで本研究では,(FetO)ダイナミック制御の転炉脱炭精錬への適用に際して,小型溶解炉試験により脱炭最盛期における復りん条件について調査を行なった後に,実転炉にて(FetO)制御試験を行なった。上述の本研究と従来技術の比較をTable 1に示す。

Table 1. Comparison with conventional studies.
Ref-No.Target ProcessMethodDifference from this study
1,16Dephosphorization ConverterControl of (FeO) by utilizing exhaust gas analysisNot applied todecarburization converter.
2~12Decarburization ConverterControl of end point such as [C], [O] and temperature by utilizing exhaust gas analysis(FetO) was not controlled by these methods.
13Decarburization ConverterEstimation of [P] at end point by measuring oxygen activity in slag
14Decarburization ConverterControl of slag height by sonic meter
15Decarburization ConverterControl of decarburization rate by exhaust gas analysis
This studyDecarburizationConverterControl of (FetO) by utilizing exhaust gas analysisRephosphorization condition is not clarified quantitatively.

2. 実験方法

2・1 小型溶解炉による復りん調査実験

高周波誘導炉により(FetO)濃度の復りんに及ぼす影響について調査した。実験条件をTable 2に示す。実験装置の概略図および実験フローをFig.1,2にそれぞれ示す。

Table 2. Experimental conditions of laboratory experiments.
ConditionHeat size, kg[%C]initial[%Si]initialOxygen flow rate Nm3/min/tLance height m
12003.300.302.250.15
23.050.260.20
33.000.310.25
4102.960.472.000.04
Fig. 1.

 Schematic illustration of experimental apparatus.

Fig. 2.

 Schematic diagram of experimental procedure.

まず,10 kgないし200 kgの純鉄をマグネシア坩堝内で溶融させ,Table 2に示す成分値に調整した。粉石灰(粒径0.25~1.0 mm)を上添加後,上吹きランスにて送酸を開始した。一定時間送酸脱りんを行った後,酸素供給を停止し,底吹きアルゴンガスにより16-40分間脱りんスラグを攪拌した。底吹きガス攪拌中は,測温プローブにより溶銑温度を連続的に測定し,1770~1820 Kで概ね一定となるよう誘導加熱量を調整した。スラグ中(FetO)の還元および溶銑の脱りん/復りん挙動について評価するため,溶銑およびスラグサンプルを一定間隔で採取した。送酸脱りん期のランス高さは水準1,2,3の順に増加させ,(FetO)生成促進を図った。水準4においては,初期[Si]濃度を増加させ,スラグ塩基度の低減を図った。

2・2 240 ton規模実転炉での(FetO)濃度推定

転炉脱炭精錬において吹錬中の酸素バランスから(FetO)濃度を推定した。JFEスチール西日本製鉄所福山地区における上底吹き転炉,および排ガス設備の概略をFig.3に示す。上吹きランスから供給される気体酸素量および酸化鉄中に含有される酸素量の和をインプットとし,溶銑中の[Si],[Mn],[P]および[C]燃焼に消費される酸素量の和をアウトプットとする。[Si],[Mn]および[P]燃焼に消費される酸素量は,式(1)のように溶銑成分変化を仮定して計算した。   

[M]=[M]i×exp(RM×[O2] input)(1)

Fig. 3.

 Schematic illustration of (FetO) calculation by oxygen balance in converter.

ここで,[M]は溶銑中の[Si],[Mn]および[P]濃度,[O2]inputは酸素供給量(Nm3/t),RMは1次の反応速度定数である。脱炭反応に消費される酸素量は1次燃焼および2次燃焼での消費量の和であり,排ガス流量および排ガス中のCO,CO2ガス含有率から計算される。炉内の1次燃焼および2次燃焼酸素量を正確に評価するためには,炉内のCOガス酸化に寄与する炉口からの巻込み空気量を推定する必要がある。巻込み空気量は,空気中の窒素および酸素の存在比を4:1とし,排ガス中の窒素濃度から算出した。排ガス中の窒素濃度は,COおよびCO2ガス濃度からN2(%)=100−CO(%)−CO2(%)として計算した。排ガス分析の分析遅れ時間は,ガス流速と配管長さから計算し,16秒とした。上記に基づき,FetO生成に消費される酸素量を式(2)から2秒間隔で計算した。   

ΔWO2= 0 tn(A+B+C1/2DEF)dt (2)

ここで,ΔWO2:ti(s)間でFetO生成に消費される酸素量[Nm3/t],A:気体酸素量[Nm3/t],B:酸化鉄中の酸素量[Nm3/t],C:炉口でのCO燃焼に消費される巻込み空気中の酸素量[Nm3/t],D:排ガス中のCOガス量[Nm3/t],E:排ガス中のCO2ガス量[Nm3/t],F:[Si],[Mn]および[P]燃焼に消費される酸素量[Nm3/t],t:吹錬開始からの経過時間[s],index n:n番目の計算である。(%FetO)は上記の酸素バランスおよびスラグボリュームから計算される。スラグボリュームはFetO生成量,副原料投入量,およびSi,Mn,P酸化物生成量の和として求めた。また,実機スラグの(%FeO)/(%Fe2O3)の平均値から,FeOとFe2O3の生成比率をFeO:Fe2O3=33.2:66.8として,(%FetO)を計算した。

転炉脱炭精錬における酸素バランスの一例をFig.4に示す。(%FetO)の推定精度について検証するため,終点スラグを採取し,スラグ組成の計算値と化学分析値とを比較した。

Fig. 4.

 Oxygen balance during decarburization in top and bottom blowing converter.

3. 実験結果および考察

3・1 小型溶解炉における実験結果

高塩基度条件(条件1-3)における実験結果の一例として,溶銑中の[P]濃度推移とスラグ中の(FetO)濃度推移をFig.5に示す。(FetO)濃度は(FeO)濃度と(Fe2O3)濃度の和である。Fig.5に示すように,送酸脱りん後の(FetO)濃度は,水準1,2,3の順に,ランス高さ増加と呼応して高くなった。従って,送酸脱りん中のFetO生成は,ソフトブローにより促進されたと考えられる。水準1,2においては,送酸脱りん後に溶銑中の[P]濃度がわずかに上昇し,復りんが認められたが,水準3においては送酸脱りん後の復りんは確認されなかった。

Fig. 5.

 Changes in [mass%P] and (mass%FetO) under conditions 1-3.

高塩基度条件下の復りん挙動についてわかりやすく示すために,送酸脱りん後に微量の復りんが認められた水準2における[P]濃度推移と(FetO)濃度推移をFig.6に示す。送酸脱りん後の溶銑中[C]濃度は1.9-2.1 mass%,溶銑温度は1760-1820 K,スラグ塩基度は2.4-2.7であった。

Fig. 6.

 Changes in [mass%P] and (mass%T.Fe) under condition 2.

水準1-3より低塩基度である水準4における[P]濃度推移と(FetO)濃度推移をFig.7に示す。Fig.7に示すように,溶銑中の[P]濃度は,送酸脱りん直後は減少したが,約10分後に増加に転じた。送酸脱りん後の溶銑中の[C]濃度は1.8-2.1 mass%,溶銑温度は1760-1820 K,スラグ塩基度は1.0-1.2であった。

Fig. 7.

 Changes in [mass%P] and (mass%T.Fe) under condition 4.

小型溶解炉での復りん挙動について明らかにするため,過去知見18)に基づき熱力学的に考察した。Ohguchiら19)によると,脱りん反応温度は十分に高いため,脱りんは界面反応ではなく,スラグ/メタル間の物質移動に律速される。従って,酸化鉄含有スラグと溶銑との脱りん速度は以下の式(3)で表される。   

d[%P]dt=SkmρmWm([%P][%P]i)=AksρsWm((%P)i(%P))(3)

ここで,t:時間[s],k:物質移動係数[m/s],S:スラグ/メタル間の幾何学反応界面積[m2],W:溶銑量[kg],ρmおよびρs:溶銑およびスラグ密度[kg/m3],index i:スラグ/メタル界面である。

溶銑への酸素供給がないと,溶銑中の炭素により(FetO)が還元され,(FetO)の還元により脱りんから復りんに転じた時点において,d[%P]/dt=0になると考えられる。

ここで,気体/スラグ系においてフォスフェイトキャパシティーCPO43−を式(4)のように導入する。   

CPO43=(%PO43)PO25/4/PP21/2(4)

また,P2ガスの溶鉄への溶解反応は式(5)20)にように表され,スラグ相の酸素ポテンシャルは式(6)21)のように表される。   

ΔG0=RTlnaPPP21/2=157700+5.4T(5)
  
logPO2=2logaFetO22710/T+3.87(6)

式(4)-(6)に基づき,スラグ/メタル界面における平衡りん分配比LP*は式(7)のように表される。   

logLp*=logCPO43+5/2logaFetO+logfP36628/T+4.63(7)

フォスフェイトキャパシティーCPO43−はスラグ組成から式(8)22)および式(9)に基づき推定することができる。   

log C p =0.0938{ ( %CaO )+0.50( %MgO )+0.30( % Fe t O ) +0.35( % P 2 O 5 )+0.46( %MnO ) }+32500/T17.74 (8)
  
logCPO43=logCp+21680/T+1.87(9)

式(7)-(9)に基づき,小型溶解炉試験における水準2および水準4における平衡りん分配比LP*とaFetOとの関係が求まる。結果をFig.8に示す。式(7)における活量係数fPは相互作用係数eCPおよびePPから計算される。ここでeCPおよびePPは,0.126,0.05420)とそれぞれ与えられる。Fig.8には水準2および水準4におけるLPaFetOの実績値の推移も示している。aFetOの実績値は,Iwase and Ichise21)が実機スラグにおいて報告しているγFetO=2から算出した。Fig.8より,水準2および水準4ともに,(FetO)濃度の減少に伴いLPの実績値が平衡りん分配比LP*より大きくなった場合に,復りんが起こると解釈される。水準2において復りんが微量にしか認められなかったのは,水準2におけるLPaFetOの実績値の関係が,平衡りん分配比LP*とaFetOの関係と概ね一致したためと考えられる。一方,水準4において明確な復りんが認められたのは,水準4におけるLPaFetOの実績値の関係と,平衡りん分配比LP*とaFetOの関係との乖離が大きかったためと考えられる。脱りん/復りんの臨界点は,LPaFetOの推移線と平衡りん分配比LP*とaFetOの関係線の交点より求まる。Fig.8より,脱りん/復りんの臨界点におけるaFetOは,水準2においては0.15,水準4においては0.35とそれぞれ読み取れる。上述の式(6)に代入し,脱りん/復りんの臨界点におけるスラグ相中の酸素ポテンシャルが得られる。結果をFig.9に,Miyamotoら23)の溶銑予備処理条件下([C]=3.7−4.0 mass%,T=1623±10 K)での報告値と合せて示す。Miyamotoら23)は,溶銑予備処理条件下において,脱りん/復りんの臨界点におけるスラグ相中の酸素ポテンシャルは塩基度の減少に伴いわずかに増加すると報告している。同様の傾向が,脱炭最盛期を模擬した本実験においてもFig.9に示すように認められた。本研究において得られた酸素ポテンシャルが溶銑予備処理条件下で得られた酸素ポテンシャルよりも高かったのは,脱炭最盛期における[C]濃度と温度が,溶銑予備処理条件における[C]濃度と温度よりも高かったためと考えられる。

Fig. 8.

 Changes in aFetO and LP under conditions 2 and 4.

Fig. 9.

 Oxygen potential in slag at critical point of rephosphorization.

3・2 240 ton規模実転炉におけるFetO制御試験

3・2・1 脱炭精錬における(FetO)の推定精度

Fig.10に転炉脱炭精錬終点における(FetO)濃度の計算値と実測値の比較を示す。計算値は実績値とよく一致した。Fig.10に示すように,|(T.Fe)obs.−(T.Fe)calc.|はほぼ5%以内であり,|(T.Fe)obs.−(T.Fe)calc.|の平均値は2.4%,標準偏差は1.5%であった。したがって,(FetO)の推定精度は±約5%である。

Fig. 10.

 Comparison of observed and calculated (FetO) in decarburization process in converter.

3・2・2 転炉脱炭精錬における脱りん挙動

240 ton規模転炉における代表的な2チャージに関して,[P]濃度と計算(T.Fe)濃度の推移をFig.11に比較して示す。これらのチャージにおいて,石灰原単位とスラグ塩基度は同等であった。吹錬進行度は供給酸素量のチャージにおける総供給酸素量に対する割合のことである。チャージBにおいては,吹錬初期に計算(FetO)が不連続に推移している。これは,Si源が添加され,それが直ちに消費される計算となっているため,酸素バランスが不連続になったからである。炭素濃度および温度を測定するため,吹錬85-95%においてサブランスが投入される。以降は,サブランス投入時の吹錬期間をサブランス段階と記述する。Fig.11に示すように,チャージAにおいては,吹錬初期からサブランス段階までの脱りん速度がチャージBよりも高く,計算(%FetO)は,吹錬初期よりチャージBに比して高位に推移した。吹錬初期より(%FetO)が高位に推移したことでCaOの溶解が促進され,吹錬初期からサブランス段階までの脱りん量が増加したと考えられる。FetOは吹錬初期,主に吹錬40%までに生成される。これは,吹錬40%以降の供給酸素のほぼ全量が脱炭反応に消費されるためである。

Fig. 11.

 Comparison of changes in (%T.Fe)calc. and [mass% P].

以上の観点から,吹錬40%までのFetO生成と吹錬初期からサブランス段階までの脱りん挙動の関係について調査した。結果をFig.12に示す。Fig.12に示されるように,吹錬初期からサブランス段階までの脱りん量は,吹錬40%までの計算(FetO)濃度の増加に伴い増大した。これは,吹錬開始から吹錬40%までの脱りんが吹錬初期のFetO生成促進により進行し,スラグ/メタル界面の酸素ポテンシャルが高まったため,3・1節にて考察したように,復りんが阻害されたためと考えられる。

Fig. 12.

 Relationship between (FetO) generation in early stage of blowing and amount of dephosphorization during blowing.

3・2・3 上吹き送酸条件変更による(FetO)制御

吹錬初期におけるFetO生成促進のため,吹錬40%までのFetO生成に及ぼす送酸速度とランス高さの影響について調査した。ランス高さが工程操業よりも0.5 m高い条件下で,送酸速度を工程操業よりも増加させ,吹錬40%までのFetO生成速度について評価した。ランス高さを高くしたのは,送酸速度を増加させた際に,浴面動圧が工程操業条件とほぼ一致するようにするためである。結果をFig.13に示す。吹錬40%までのFetO生成速度は,吹錬40%までのFetO生成量を吹錬40%までの経過時間で除して算出した。Fig.13に示すように,吹錬初期におけるFetO生成は,送酸速度およびランス高さ増加により促進される。

Fig. 13.

 Influence of oxygen top blowing condition on (FetO) generation in the early stage of blowing.

3・2・4 転炉脱炭精錬における脱りんモデル

240 ton規模実転炉において,脱りんに有効な指針を提案するため,脱りんモデルの構築を試みた。従来研究としては,Ohguchiら19)が溶銑脱りんプロセスにおいて競合反応モデルを提案しており,Kitamuraら24)によりモデルの拡張が行われている。本研究では,競合反応モデルとFetO推定法とを以下のように組合せ,脱炭精錬における脱りんモデルについて提案した。

式(10)および式(11)に示される反応に関して,スラグおよびメタル相における物質移動が反応の律速であると仮定すると,式(10)の反応速度は式(12)のように表される。脱炭反応に関しては,COの現象論的発生速度定数GCOを導入するすると,脱炭反応速度は式(13)のように表される。溶銑中の酸素の移動速度は式(14)のように表される。   

[M]+n[O]=(MOn)(10)
  
[C]+[O]=CO(11)
  
JM={kmρm/(100NM)}{[%M]b[%M]i}  ={ksρs/(100NMOn)}{(%MOn)i(%MOn)b}(12)
  
JC={kmρm/(100NC)}{[%C]b[%C]i}=GCO(PiCO/P11)(13)
  
JO={kmρm/(100NO)}{[%O]b[%O]i}(14)

ここで,JM:各成分のモル流束[mol・cm−2・sec−1],NM:各成分の分子量[g/mol],GCO:現象論的発生速度定数[mol・cm−2・sec−1],PiCO:界面における飽和CO分圧[atm],P1:大気圧[atm],km:溶銑側の物質移動係数[cm/s],ks:スラグ側の物質移動係数 [cm/s]。

界面におけるそれぞれの反応の平衡分配比(有効平衡定数)は,式(15)および式(16)のように表される。溶銑各成分における平衡定数および活量係数は,既往の熱力学データ19)より算出した。スラグ中の各成分における活量係数は,BanyaのCaO-SiO2-MnO-MgO-FeO-Fe2O3-P2O5系における正則溶体モデル25)から計算した。   

EM=(%MOn)i[%M]iaOin=100CNMOnfMKMρSγMOn(15)
  
EC=PiCO[%C]iaOi=fCKC(16)

ここで,EM:各成分の有効平衡定数[-],KM:各成分の平衡定数[-],fM:各成分の活量係数[-],C:スラグ相中の全モル濃度[mol/cm3],γMOn:各成分の活量係数[-],aOi:酸素のスラグ/メタル界面におけるヘンリー基準の活量。aOiは次の式(17)で定義される。酸素の活量係数fOは,JOへの影響がほとんどないことから,1とした。   

aOi=fO[%O](17)

これらの式および式(18)で表される電気的中性の式からaOiが算出され,溶銑およびスラグ中の各成分の成分変化が計算される。   

2JSi+JMn+JFe+2.5JP+JCJO2GO2=0(18)

ここで,GO2:火点における上吹き酸素供給速度[mol・cm−2・sec−1]。GO2は上吹き送酸速度を転炉内の溶銑断面積で除して見積もった。

今回の計算で用いられた計算緒元をTable 3に示す。溶銑中の物質移動係数(km)はKitamuraら24)により提案された式(19)より求めた。スラグ中の物質移動係数(ks)は式(20)より計算した。   

logkm=1.98+0.5log(εH2/L/100)(125000/(RT))/2.3(19)
  
ks=aexp(37000RT)εb(20)

Table 3. Parameters used in dephosphorization model.
Mass transfer coefficient of slag, kscm/s0.01-0.19 (based on Eq. (20))
Mass transfer coefficient of metal, kmcm/s0.1-2.0 (based onEq. (19))
Metal density, ρmg/cm37
Slag density, ρsg/cm33
Temperature, TK1500-1960
Total molar concentration in slag, Cmol/cm30.035
Oxygen activity coefficient, fo1
Partial pressure of CO gas, PCOatm1

ここで,ε:攪拌動力密度[W/t],H:浴深[cm],L:炉内径[cm],R:気体定数[J・mol−1・K−1],a and b:フィッティングパラメータ[-]。式(20)においては,Matsuiら1)と同様にaおよびbをそれぞれ1.7,0.25とした。温度は脱炭精錬における実測値を用いた。(FetO)濃度は式(2)に基づき2秒間隔で計算し,式(12)中の(%FeO)bに代入した。

GCOは,吹錬中の計算[C]濃度推移が実績推移と一致するよう求めた。本研究では,吹錬初期においてGCOは5×10−9であり,脱炭最盛期においては3×10−6とした。上記により得られた[C]濃度の計算推移を実績値推移と合せてFig.14に示す。吹錬初期におけるGCOが脱りんプロセスにおけるMatsuiら1)の報告値(GCO=8×10−7)より小さいのは,溶銑中の[Si]濃度が0.24%とMatsuiら1)の計算([Si]=0.10−0.12)よりも高く,脱炭速度が低位であったためと考えられる。

Fig. 14.

 Change in [%C] estimated by dephosphorization model in decarburization process.

本モデルにより得られた[P]濃度推移を実績値推移とともにFig.15に示す。計算の[P]濃度推移は実績値と概ね一致した。

Fig. 15.

 Change in [%P] estimated by dephosphorization model in decarburization process.

3・2・5 脱りんモデルに基づく転炉脱炭精錬での底吹き流量増加の効果

上記脱りんモデルを用いて,吹錬初期における底吹きガス流量が脱りんに及ぼす影響について推定した。吹錬初期における底吹きガス流量を変化させ,[P]濃度推移を計算した。これらの計算においては,式(2)より2秒間隔で計算される(FetO)濃度が,3・2・3節に記載した送酸速度あるいはランス高さ増加によるFetO生成増加のアクションにより,底吹きガスを増加させても変化しないと仮定して計算した。計算結果をFig.16に示す。吹錬初期における脱りん速度は,底吹きガス流量の増加に伴い増加し,底吹きガス流量を工程操業条件の7倍にまで増加させると,脱りん速度は20%増加することが示された。これは,底吹き流量増加により溶銑中の物質移動係数が式(18)に従い増加し,結果として脱りんが促進されたためと考えられる。これらの計算結果に基づき,240 ton規模実転炉において吹錬初期の底吹き流量を増加させる試験を行った。結果をFig.17に示す。底吹き流量増加によりFetO生成量は減少したが,サブランス段階までの脱りん量は増加した。以上より,脱りんモデルにより提案された底吹きガス流量増加による脱りん促進の効果が,実転炉において発現することを確認した。

Fig. 16.

 Changes in [%P] in early stage of blowing estimated by dephosphorization model in case bottom gas flow rate is increased.

Fig. 17.

 Amount of dephosphorization in early stage of blowing when bottom gas flow rate was increased in actual plant.

4. 結言

小型溶解炉により脱炭最盛期における復りんについて調査し,界面平衡を仮定して熱力学的に考察した。上底吹き転炉における脱炭精錬への(FetO)制御技術の適用を試みた。結果を以下に示す。

1.小型溶解炉試験において,脱炭最盛期における脱りん/復りんの臨界点におけるスラグ相中の酸素ポテンシャルが得られた。その値は溶銑予備処理における文献値よりも高位であった。

2.240 ton規模実転炉の脱炭精錬において,(FetO)のダイナミック制御技術を導入した。(FetO)の推定精度は,スラグの化学分析値に対する誤差が5 mass%以下であった。

3.(FetO)生成は,吹錬初期の送酸速度およびランス高さの増加により促進され,吹錬中の脱りん量が増加した。

4.競合反応モデルと(FetO)推定モデルを組み合わせることにより,脱りんモデルを構築した。本モデルにより脱りん量増加の指針が提案され,240 ton規模実転炉においてその効果が確認された。

文献
 
© 2014 The Iron and Steel Institute of Japan

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