2014 Volume 100 Issue 9 Pages 1049
「鉄と鋼」の100巻記念事業として企画された特集号は,第1号の発行記念特集号に続き,第2号の製銑,第4号の製鋼,第6号の環境,第7号の分析と各特集号がすでに発行され,あと3号分が残されるばかりとなった。そのうち本号および次号の2冊の誌面にて材料特集号が掲載されることになる。本号の準備に当たっては,先行する上記5冊の特集号企画の動きを見ながらの実施であったためスムーズに進められたことは確かであるが,大所帯の材料ならではの難しさがあった。例えば,2号分の特集号に対してテーマ(タイトル)を決めなければならないが,多岐にわたる材料の分野を2つのカテゴリーに分割することは簡単ではなかった。結局,9号のテーマを「組織制御と材料特性」,10号のテーマを「材料評価技術」と決めるに至ったが,これについては複数の方々から有り難いご意見を頂いた。この誌面上をお借りして感謝の意を申し上げたい。
さて,本号に限らず100巻記念特集号の目玉はなんといってもレビュー記事であり,そのコンセプトは「重鎮と若手の連携により学術・技術の推移を示す特集号」となっている。各分野の科学技術の歴史については,過去に多くのレビュー記事が既に出されており,それらと同じでは意味が無い。過去のレビューとの差別化を図り,本特集号の特徴を生かすため提案されたのがこのコンセプトであった。しかしそれを実現するには,著者の方々にかかる負担が通常のレビューの場合以上に大きくなる。まず中心となる重鎮の方に執筆をお引き受け頂いた後,その方に相棒となる若手の選定,若手への執筆の依頼,両者の方向性を揃えた論文構成の検討,完成原稿全体の仕上げを全てお任せすることになる。必ずしも普段から両者間で研究の交流があるとは限らないわけであり,代表著者の方にはとくにご苦労をおかけしたに違いない。しかしながら,皆様方の精力的なご尽力のおかげで,従来にはないたいへん興味深い記事が仕上がったと思う。
第9号での特集号のテーマは「組織制御と材料特性」であり,レビュー記事として「状態図と合金設計」「加工熱処理」「転位論・強化機構」「表面科学」の4分野について著名な先生方に執筆を依頼した。読者の方々には,これらのレビュー記事における著者の面々,そしてその組み合わせに注目して頂きたい。師弟関係で重鎮と若手の連携がなされているものもあれば,意外な組み合わせで共著されているものもある。通常の論文では考えられない夢のコラボといえば言い過ぎだろうか。価値観の異なる重鎮と若手が協力して書き上げた論文を読み通して頂ければ,きっとその研究分野における時間の流れを感じて頂けるものと思う。
一方,本号において「復刻論文−私の選んだ一編−」として選定されていただいた論文は,西沢泰二先生の「単相鋼と二相鋼における結晶粒成長」と田村今男先生の「TRIP鋼について」である。いずれも現在の組織制御,特性制御のキーテクノロジーである結晶粒微細化,加工誘起変態に関する研究の原点とも言える論文であり,今や教科書にも記載される標準的な知見となっている。本研究分野に関係する読者は,本号に載せた解説文のみならず,原著も是非お読み頂きたいと思う。ところで,これはあとで気づいたことであって,決して意図的ではなかったのであるが,両先生は,本号のレビューをご担当頂いた先生方の恩師にあたる方々である。両研究室の伝統の重みを感じるばかりである。
依頼記事以外の一般公募論文としても,10件の関連論文が投稿されている。いずれも新規性が高く読み応えのある内容となっている。こちらも是非お目通し頂きたい。
本特集号の内容を振り返ってみると,特集号タイトルである「組織制御と材料特性」を網羅した内容になっておらず,担当委員の趣向に偏った内容になっている点は否めない。当然ながら,もっと違った記事を入れるべきだったとのご意見はたくさんあるはずである。担当委員の力量不足の結果ではあるが,委員会メンバーで知恵を絞り,限られたページ内になるべく濃い内容を盛り込めるよう努力した点はご理解いただきたい。是非,全編を通してご覧頂き,担当委員へご意見やご感想をお聞かせ頂ければたいへん有り難いと思う。