Tetsu-to-Hagane
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Effect of Grain Boundary Fe2Nb Laves Phase on Creep of Austenitic Heat Resistant Steel of Fe-20Cr-30Ni-2Nb in Steam Atmosphere
Yu MisosakuImanuel TariganTakahiro KimuraNaoki TakataMitsutoshi UedaToshio MaruyamaMasao Takeyama
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2014 Volume 100 Issue 9 Pages 1158-1164

Details
Synopsis:

Creep of carbon free Fe-20Cr-30Ni-2Nb (at.%) steels strengthened by Fe2Nb Laves phase on grain boundaries has been examined in air and steam atmospheres at 1073 K/70 MPa. Sufficiently covering grain boundaries by stable Laves phase can reduce the creep rate, resulting in a significant extension of the creep rupture life without a loss of creep ductility in steam atmosphere as well as air. This effect becomes remarkable in higher area fractions of Laves phase on grain boundaries (ρ) than 80%. The creep rupture strain slightly decrease by steam atmosphere, which would be associated with the interglanular oxidation and its related cracks propagation along grain boundaries enhanced by steam atmosphere in the creep acceleration stage. Its effect can be suppressed by covering grain boundaries by Laves phase (increasing ρ). Therefore, Grain Boundary Precipitation Strengthening by stable Laves phase is a key mechanism for use of materials for boiler tubes in the innovative advanced ultra-super critical (A-USC) thermal power plants to be operated above 973 K.

1. 緒言

東日本大震災による原発事故以降,我が国の総発電量の8割以上が火力発電によって賄われている。今後,原子力発電による電力供給が不透明の中,エネルギーの安定供給の観点から火力発電の重要性が増すと予想される。一方,我が国のCO2総排出量の3割は火力発電プラントからである。したがって,石炭火力による発電プラントの高効率化を実現し,エネルギー安定供給と温室効果ガスの排出量削減を同時に達成する必要がある1)。現在,我が国の火力発電プラントの蒸気温度は世界最高の620 °C(25 MPa)に到達し,その発電効率は43%である。現在,これを700 °C,25 MPaとして発電効率を48%まで向上させる700 °C級先進超々臨界圧(A-USC)火力発電プラントの研究および開発が進められている2,3)。このプラントの実現には,700 °C,105 hのクリープ破断強度が100 MPa以上となる耐熱材料が必要とされ,これを満たす材料として鍛造Ni基合金の開発が進められている2,3)。しかし,Niは高価であり経済的にはより安価なオーステナイト系耐熱鋼の使用が望ましい。しかし,炭化物相を強化相とする既存のオーステナイト系耐熱鋼の高温クリープ強度はこの目標値より遥かに低い4)。これは炭化物相の粗大化による組織不安定性に起因する。

そこでTakeyamaらは,Fe-Ni-M(M:遷移金属元素)3元系実験および計算状態図の系統的な研究5,6,7,8,9)から,平衡相である金属間化合物相を強化相とした,炭素無添加の新規オーステナイト系耐熱鋼Fe-20Cr-30Ni-2Nb(at. %)を提案した10,11,12,13)。本鋼は700 °Cにおいて,粒界にTCP(Topologically close-packed)相であるFe2Nb Laves相,粒内にGCP(Geometrically close-packed)相であるNi3Nb相を析出させる組織設計指導原理により,既存のオーステナイト系耐熱鋼よりも優れた長時間クリープ破断強度を有することを実証した11,12,13)。また,この優れたクリープ強度は熱力学的に安定なLaves相の粒界析出に起因することを見出し14,15,16),粒界析出強化機構(Grain Boundary Precipitation Strengthening)を提唱した。この粒界析出強化は,800 °Cにおいても有効に作用する17)。ところで,この鋼をA-USC火力発電プラントに適用するには,材料の優れたクリープ破断強度に加えて良好な耐水蒸気酸化特性も重要な課題となる。山下ら18),Lytaら19)は973 Kおよび1073 Kにおいて本鋼の大気酸化および水蒸気酸化試験を行い,本鋼が既存のオーステナイト耐熱鋼に比べ優れた耐水蒸気酸化特性を示すことを見出した。しかし,クリープ変形が起きる一定応力下における耐水蒸気酸化特性の評価も重要な検討課題である。

そこで本研究では,水蒸気雰囲気下でクリープ試験可能な装置を新たに開発し,この試験機を用いてFe-20Cr-30Ni-2Nb鋼の800 °Cにおけるクリープ特性を調査し,大気雰囲気下における実験結果と比較することで,水蒸気雰囲気下における粒界析出強化の効果を検討する。

2. 実験方法

2・1 供試鋼

供試鋼は,Fe-20Cr-30Ni-2Nb(at. %)を化学組成とする基本鋼,これにLaves相の粒界被覆率を向上させるため0.03 at.%のBを添加したB添加鋼である20)。これらの鋼は真空高周波炉にて約7 kgのインゴットに溶製した後,1473~1553 Kにおいてφ12 mmの丸棒に熱間鍛伸した。この棒材に1523 K/1 h(基本鋼)および1473 K/2 h(B添加鋼)の溶体化処理を施し,結晶粒径を約150 μmとした。また,各々の溶体化材にFe2Nb相のみが析出する1073 K10,12)において240 hの時効を施し,意図的にLaves相の粒界被覆率(ρ)を制御した。

2・2 クリープ試験

上記の手順により作製した鋼から標点距離28 mm,φ6 mmの丸棒つば付き試験片(JIS-G0567 II-6)を作製し,大気および水蒸気雰囲気中において1073 K/70 MPaのクリープ試験を行った。Fig.1に,本研究にて独自に開発した雰囲気制御型クリープ試験機の模式図を示す。本試験機の特徴は,試験片に取り付けた伸び計および作動トランス全体を透明石英管と下部ステンレス製チャンバー内に格納し,水蒸気雰囲気においてクリープ伸びを正確に測定できることである。本試験機には,耐熱性と防水性を有し,鉄心可動域20 mmを有するアンプ内蔵型差動トランスを用いた。空気をバブリングさせた水蒸気タンクから,4×10−3 l/min(水換算)の蒸留水を473 Kに加熱した蒸発器に送り,水蒸気を発生させ,これを試験機に導入した。

Fig. 1.

 Schematic illustration showing the controlled atmosphere type creep test machine.

2・3 組織観察

組織観察用試料はエメリー研磨,バフ研磨により準備し,光学顕微鏡(OM)および電界放出型走査型電子顕微鏡(FE-SEM)により観察した。粒界被覆率(ρ)は,2000倍のFE-SEM像を用いて,各試料について全粒界長さ1000 μm以上を計測し,その平均値として求めた。

3. 実験結果

3・1 1073 K時効後の組織

Fig.2に1073 K/240 hの時効を施した基本鋼およびB添加鋼の反射電子像(Backscattered Electron Image, BEI)を示す。基本鋼に240 hの時効を施すと(Fig.2(a)),粒界の43%が長さ約1 μm,厚さ約0.5 μmの板状のLaves相で覆われる。また,粒内には長さ約1 μmの棒状のLaves相が析出する。一方,B添加鋼に240 hの時効を施すと(Fig.2(b)),粒界に析出した長さ約2 μmのLaves相が互いに連結し,粒界の80%を被覆する。粒内に析出したLaves相の密度は基本鋼よりも低い。Fig.3に1073 Kにおける両鋼の時効に伴うLaves相の粒界被覆率(ρ)の変化を示す。両鋼とも粒界においてLaves相の析出は数分で開始する10)。基本鋼のρは24 h時効後に32%に,3600 h後に54%に増大する。B添加鋼のρは,24 h時効後に基本鋼の2倍以上の70%に増大する。その後もρは増加し,1200 h時効後には89%に達する。以上の結果より,Bの添加はLaves相の粒界析出を促進させ,Laves相の粒界被覆率を著しく向上させることが明らかとなった。

Fig. 2.

 Microstructures of (a) the base steel with ρ = 43% and (b) the B-doped steels with ρ = 80%. Both steels aged at 1073 K for 240 hours.

Fig. 3.

 Change in the area fraction of Laves phase on grain boundary (ρ) with aging time at 1073K.

3・2 クリープ特性

Fig.4にLaves相の粒界被覆率(ρ)を43%および80%とした鋼(基本鋼およびB添加鋼の1073 K/240 h予時効材)の1073 K/70 MPa,水蒸気雰囲気中における(a)クリープ速度/時間曲線および(b) クリープ速度/ひずみ曲線を大気中の実験結果と併せて示す。両鋼ともクリープ速度は約100 hまで緩やかに減少し,その後破断時間(tr)の約8割までほぼ一定値を示す。これは,大気中および水蒸気雰囲気中とも同じである。すなわち,クリープ特性に及ぼす雰囲気の影響は小さい。ρ=43%とした鋼の最小クリープ速度( ε ˙ m )は1.6×10−3 h−1であり,ρ=80%の ε ˙ m (7.0×10−4 h−1)の倍以上の値を示す。また,両鋼のtrに及ぼす雰囲気の影響は認められない。ρ=43%およびρ=80%とした鋼の大気中と水蒸気雰囲気中で得られたtrの平均はそれぞれ約255 hと約825 hであり,ρ=80%のtrはρ=43%のものより3倍以上大きい。一方,いずれの試料も破断ひずみ(εr)は約0.6であり,粒界の8割をLaves相で覆っても延性は低下しない。

Fig. 4.

 (a) Creep rate/time curves and (b) creep rate/strain curves of the steels with ρ = 43% (base) and ρ = 80% (B-doped) at 1073 K/70 MPa in steam and air atmospheres.

3・3 クリープ破断材の外観

Fig.5に,ρ=43%(a, b)およびρ=80%(d, e)とした鋼における水蒸気(a, d) および大気(b, e)雰囲気でのクリープ試験後の破断材の外観写真を示す。また,試験片平行部の断面積減少率から算出した試験片平行部の巨視的なひずみの変化(c, f)を併せて示す。いずれの試験片も破断部近傍に近づくにつれて,巨視的なひずみは大きくなる。しかし,ρ=80%とした鋼において破断部近傍のくびれが顕著であり,破断部近傍の巨視的なひずみは非常に高い。破断材の表面の色を比較すると,大気中での両鋼の試験片は全体的に灰色を呈するが,水蒸気雰囲気中で試験した鋼はいずれも赤みを帯びている。

Fig. 5.

 (a, b, d, e) Appearance of creep ruptured specimens of the steels with ρ = 43% and 80% and (c, f) corresponding macroscopic strain in the gauge portion: (a) ρ = 43% in steam, (b) ρ = 43% in air, (d) ρ = 80% in steam, (e) ρ = 80% in air.

3・4 クリープ破断材の組織

3・4・1 試験片中心部

Fig.6に,Fig.5に示した両鋼の破断部からつば部に渡る試験片全体の光学顕微鏡像を示す。ρ=43%とした鋼(Fig.6(a, b))では,いずれの雰囲気においても破断部近傍において微細なキャビティやき裂が多数認められる。これらのキャビティやき裂の数は破断部からの距離が離れるほど減少する。水蒸気雰囲気中では破断部近傍の表面直下におけるキャビティやき裂の数は明らかに多い。一方,ρ=80%とした鋼 (Fig.6(c, d))では,キャビティやき裂は明らかに少ない。これらの光学顕微鏡像を用いてクリープ破断材に発生したキャビティの面密度(Γ)を定量化し,クリープ破断材平行部の断面積減少率から算出した巨視的ひずみ(Fig.5(c, f))を用いて整理した結果をFig.7に示す。ρ=43%とした鋼において,キャビティの密度はひずみの増加に伴って増加し,εrに対応するひずみ0.6にて最大値(45×10−6 m−2)を示す。一方,ρ=80%とした鋼のキャビティ密度はひずみ0.4まで10×10−6 m−2以下とほぼ一定であるが,ひずみ0.4を超えると若干増加する。その最大値は約20×10−6 m−2であり,ρ=43%とした鋼の半分以下である。これら傾向は,大気および水蒸気雰囲気に依らず同じである。以上の結果より,ρの増加はクリープ変形に伴うキャビティの生成を抑制し,試験片内部に発生するキャビティ密度は雰囲気の影響を受けないことが明らかとなった。

Fig. 6.

 Optical micrographs of the creep ruptured specimens of the steels with ρ = 43% and 80%: (a) ρ = 43% in steam, (b) ρ = 43% in air, (c) ρ = 80% in steam, (d) ρ = 80% in air.

Fig. 7.

 Change in the cavity density as a function of macroscopic strain in creep rupture specimens of the steels with (a) ρ = 43% and (b) ρ = 80% .

3・4・2 試験片表面近傍

Fig.6に示したρ=43%およびρ=80%とした水蒸気雰囲気におけるクリープ破断材の表面近傍の反射電子像(BEI)を,大気の結果と併せて,それぞれFig.8およびFig.9に示す。ここで,左側の像はひずみ(ε)約0.3,右側の像はひずみ(ε)0.5~0.7(破断部近傍)の領域に相当する。ρの低い鋼(Fig.8)では,粒界酸化物を伴うき裂およびキャビティは主に応力軸に垂直な粒界に認められ,その長さはひずみが小さい場合には数μmから数十μmである。ひずみの大きい領域では,大気下において表面から内部に向かって深さ約200 μmの粒界酸化物を伴うき裂が認められるが,水蒸気雰囲気中では,き裂深さは500 μm以上まで達しており,それらのき裂周辺の酸化はより顕著である。一方,ρの高い鋼(Fig.9)では,低ひずみ(ε<0.4)の領域において少数のキャビティしか認められず,破断部近傍(ε=0.5~0.7)において酸化皮膜で覆われた深さ約100 μmの表面き裂が認められる。このき裂はρの低い鋼とは大きく異なり,内部へ拡大している様相は認められない。この試験片表面の組織は,雰囲気に依らずほぼ同じである。

Fig. 8.

 BEIs showing the surface of creep ruptured specimens of the steel with ρ = 43% in (a, b) steam and (c, d) air atmospheres: (a) ε = 0.25, (b) ε = 0.60, (c) ε = 0.32, (d) ε = 0.59.

Fig. 9.

 BEIs showing the surface of creep ruptured specimens of the steel with ρ = 80% in (a, b) steam and (c, d) air atmospheres: (a) ε = 0.27, (b) ε = 0.49, (c) ε = 0.33, (d) ε = 0.70.

Fig.10に(a)ρ=43%および(b)ρ=80%とした鋼の試験片の両雰囲気中におけるクリープ破断材から粒界における酸化物で覆われた表面き裂の深さをその酸化領域も含めて定量化し,巨視的ひずみ(ε)を用いて整理した結果を示す。ρが低い場合(Fig.10(a)),表面き裂によって生じる粒界酸化の深さは,大気下ではε<0.6までは約100 μmと一定であり,0.6<ε<0.75ではεの増加に伴って,約300 μmまで増加する。一方,水蒸気雰囲気中では,ε<0.4までは大気下と同様その深さは約100 μmである。しかし,ε>0.4以上になると深さは大きく増大し,ε=0.75で約500 μmに達する。ρ=80%とした鋼(Fig.10(b))の粒界酸化の深さは,大気下においてε~0.9までほぼ100 μmと一定である。また水蒸気雰囲気中においては,ρ=43%とした鋼と同様,その深さはε~0.4までは大気中と差はなく,ε>0.4以上では増加する。しかし,その増加の程度は,ρ=43%とした鋼と比べて小さく,ε=0.75における値は約200 μmであり,ρ=43%とした鋼に比べて半分以下である。

Fig. 10.

 Change in the depth of intergranular oxide as a function of macroscopic strain in creep rupture specimens of steels with (a) ρ = 43% and (b) ρ = 80% .

4. 考察

4・1 クリープ特性に及ぼす粒界Laves相の影響

本研究では,破断時間が1000 h以内での結果において,1073 K/70 MPaのクリープ特性をLaves相の粒界被覆率を用いて評価した。Fig.11に水蒸気雰囲気中における破断時間(tr)および破断ひずみ(εr)のρに伴う変化を大気下のもの17)と併せて示す。なお,大気中の実験データは基本鋼およびB添加鋼の溶体化材および1073 K/1200 h予時効材の結果17)を含む。また,ρは予時効時間と応力時効時間(破断時間)を合計した時間を用い,単純時効に伴うρの変化(Fig.3)から読み取った。trは大気中においてρ<80%でほぼ一定(約250 h)であるが,ρ>80%になると3倍以上に増大する。これは,水蒸気雰囲気中においても変わらない。一方,εrは大気中においてρの大小に依らず約60%である。εrは水蒸気雰囲気によって数%低下する傾向があるものの,大気のものとほぼ同じである。したがって,1073 Kにおいて粒界に存在するLaves相は大気中と同様,水蒸気雰囲気中においてもクリープ延性を損なうことなくクリープ破断時間を増大させる効果があり,その効果は80%以上被覆することにより顕著になる。また,このクリープ破断時間の著しい増加は,平衡相であるLaves相を用いた粒界析出強化によるクリープ抵抗の増大(Fig.5)に起因する。以上のことから,粒界析出強化は水蒸気雰囲気においても有効に作用することが,本研究から明らかとなった。

Fig. 11.

 Change in (a) rapture time (tr) and (b) rupture strain (εr) as a function of area fraction of Laves phase on grain boundaries (ρ).

4・2 クリープ特性に及ぼす水蒸気雰囲気の影響

本研究のクリープ破断材の組織観察は,ひずみ0.4以下において表面き裂を伴う粒界酸化物の進展に及ぼす水蒸気の影響は小さいが,ひずみ0.4以上(クリープ加速域)において,水蒸気雰囲気は表面き裂およびそれに伴う粒界酸化を促進することを明らかにした(Fig.10)。この傾向は,Laves相の粒界被覆率(ρ)が低い鋼において顕著である。ρ=43%とした鋼のキャビティ密度はひずみの増加に伴い増加し(Fig.7(a)),表面き裂を伴う粒界酸化深さはクリープ加速域(ε>0.4)で著しく増大する(Fig.10(a))。これは,表面で発生した粒界酸化物と試験片内部のキャビティの連結に起因する(Fig.8(b,d))この粒界酸化の進行は,80%までρを増大することによって明らかに低減される(Fig.7Fig.10)。これは,Laves相による粒界被覆が水蒸気雰囲気により促進される粒界酸化の進行を抑制することを示す。したがって,ρの増大は粒界でのキャビティの発生を抑制すると考えられ,粒界酸化物の内部への拡大を助長する水蒸気の効果を低減させる。なお,水蒸気雰囲気はクリープ破断ひずみ(εr)の数%低下させる。これは,クリープの加速の末期において変形が不均一になり,くびれによって変形量が増大した部分において顕在化する水蒸気の影響(粒界酸化の試験片中央部への進行)によるものであると考えられる。そのため,水蒸気雰囲気はクリープ加速末期の延性のみ低下させるため,クリープ破断時間にほとんど影響を及ぼさない。

Fig.12に,粒界被覆率(ρ)の異なる鋼の水蒸気雰囲気におけるクリープ速度/ひずみ曲線とその試験片表面の組織の模式図を示す。遷移クリープにおいて,ρの高い鋼のクリープ速度はLaves相による粒界析出強化によって著しく減少し,ρの低い鋼よりも低い ε ˙ を示す(Fig.12(a))。ρが低い鋼の場合,クリープ変形に伴って粒界上にキャビティが発生するが(Fig.12(b)),ρの高い鋼の場合,粒界被覆したLaves相はキャビティ生成を抑制する(Fig.12(d))。加速クリープにおいて,水蒸気雰囲気により促進される粒界酸化は試験片内部に進行する。ρが低い鋼の場合,粒界酸化物はキャビティと連結し,それによって発生したき裂は粒界を伝播する(Fig.12(c))。一方,ρが高い鋼において粒界被覆したLaves相はキャビティの生成を抑制するため,キャビティとの連結による粒界酸化の進行を抑制する(Fig.12(e))。したがって,Laves相による粒界析出強化は低応力長時間クリープ破断強度を向上させる重要な強化機構であるのみならず,水蒸気雰囲気によるクリープ特性の低下を低減させる優れた強化機構である。

Fig. 12.

 Schematic illustration showing the effect of grain boundary Fe2Nb Laves phase on creep of the Fe-20cr-30Ni-2Nb steel in steam atmosphere.

5. 結言

本研究では,Fe-20Cr-30Ni-2Nb鋼のLaves相のみが析出する800 °Cにおいてクリープ試験を行い,クリープ特性に及ぼす水蒸気雰囲気の影響を粒界Laves相に着目して大気中での結果と比較検討し,以下のことを明らかした。

1)水蒸気雰囲気におけるクリープ抵抗および強度は,大気中での結果と同様,Laves相による粒界被覆率ρの増加に伴って増大する。しかし,破断延性はわずかに減少する。

2)クリープ破断材の表面近傍には,粒界に沿ってき裂およびキャビティが認められ,それらはLaves相で覆われていない粒界で生成する。大気および水蒸気雰囲気において,キャビティ数密度はρの低下に伴い増大する。

3)水蒸気環境は,クリープひずみが0.4以上(クリープ加速域)の場合,試験片表面近傍のき裂およびキャビティの連結を伴う粒界酸化を促進する。しかし,その効果はρの増加により抑制される。

4)粒界析出強化は,低応力長時間クリープ破断強度の向上に加え,水蒸気雰囲気における粒界酸化を抑制する。

謝辞

本研究の一部は,独立行政法人科学技術振興機構(JST)が実施する先端的低炭素化技術開発(ALCA)における公募課題「革新的800 °C級火力発電プラント用超耐熱鋼の設計原理」としての研究成果であり,ここに特記して謝意を表す。

文献
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