2015 Volume 101 Issue 1 Pages 19-24
It is thought that numerical simulation model for estimation of temperature distribution in the iron ore sintering process is useful tool for stable operation of this process. The purpose of this study is to develop new numerical simulation model based on a combination of Hottel’s equation and coke combustion rate equation in quasi-particle derived from previous study. The following results were obtained. More practical temperature distribution could be calculated using coke combustion rate from previous work than in case of using only Hottel’s equation. Decrease of temperature distribution in the sintering layer was found with consideration of the liquid phase formation effect on coke combustion rate. This effect will increase with increasing of fine coke amount in the process.
焼結プロセス層内の温度分布は,安定操業を行うために最も重要な管理項目の一つである。それゆえ,焼結層内温度分布を見積もるための数値シミュレーションモデルは,焼結鉱品質の向上,操業条件の決定,新技術の開発等において,非常に有用なツールとして考えられている。
既存の焼結プロセス数値シミュレーションモデルでは,コークス燃焼速度式にHottelの式1)が用いられてきた。このHottelの式では,炭素単一球の燃焼挙動を表現することが可能である。しかしながら,実際の焼結プロセスにおけるコークスの賦存状態は,炭素単一球のみならず,疑似粒子を構成する微粉としても存在しうる。疑似粒子の内部においては,微粉層内部における酸素拡散を考慮したうえで燃焼速度を計算する必要があるため,Hottelの式では燃焼挙動を正しく表現できない。それゆえ,Hottelの式を基礎とした数値シミュレーションを用いて,実際の焼結プロセスを表現するためには,パラメーターによる補正が必要とされてきた2)。
本研究では,Hottelの燃焼速度式と,前報3)で導出した疑似粒子中のコークスの燃焼式を組み合わせた新しい数値シミュレーションモデルを開発することを目的としている。
本研究では,数値シミュレーションを用いて焼結原料層内の温度分布を推算することを目的としている。この数値シミュレーションモデルでは,ドワイト−ロイド型焼結機において点火されてから焼結ケーキとして排出されるまでを計算領域とする。支配方程式は焼結層を微小なコントロールボリュームに分割することによって離散化した。焼結原料層内の温度分布は,差分近似式を計算することにより推算した。本研究では,この温度分布の推算を単純化するために,次に示す仮定をおいた。
1.放射伝熱は考慮しない。
2.全ての反応熱は固相の温度変化に用いられる。
3.疑似粒子内部の温度は均一である。
4.コークス燃焼,石灰石の分解,水分の蒸発および凝集,カルシウムフェライトの溶融および凝固を焼結層内で生じ得る反応とする。
5.燃焼反応中の焼結層の構造変化は無視する。
2・2 支配方程式熱力学第一法則を基礎としたエネルギー保存式は,対流伝熱,伝導伝熱,対流によるエネルギー持ち込み,コントロールボリューム内の反応熱の熱収支を考慮して導出され,コントロールボリューム内のエネルギー保存式は次のようになる。
固相の熱収支
(1) |
気相の熱収支
(2) |
コントロールボリューム内の連続の式は次式で表される。
(3) |
コントロールボリューム内は微粉で充填されているため,コントロールボリューム内流体の圧力損失を考慮する必要がある。本研究では,充填層中の圧力損失を算出するのにErgan式4)を用いた。
(4) |
本シミュレーションの単純化のために,コントロールボリューム内の代表粒径dは初期条件から算出される値で一定とした。
2・3 反応式 2・3・1 単一球コークスの燃焼反応本研究では単一球コークスの燃焼反応速度の算出に,Muchi and Higuchiの報告5)を用いた。燃焼式は次のように表される。
(5) |
(6) |
ただし,前報3)の燃焼実験おいてはCO2のみしか検出されなかったため,単純化のため本シミュレーションでは式(6)の反応は考慮していない。
単一球コークスの物質収支は式(7)のようになる。
(7) |
式(5)の反応速度は次式のように与えられる。
(8) |
燃焼後の灰の層は多孔質なので灰層中の拡散抵抗は無視する。それゆえ,本考察ではガス境膜内の拡散抵抗と化学反応抵抗のみを考慮すれば良い。ガス境膜内の物質移動係数はRanz-Marshallの式6)から算出し,化学反応速度定数は式(9)に示すHottelの式1)から見積もった。
(9) |
単一球コークス燃焼の総括反応速度式は式(10)で与えられる。
(10) |
微粉コークスで構成された単一疑似粒子中の物質移動は次式のようになる。
(11) |
燃焼速度式は(12)式のように表される。
(12) |
前報の結果3)から,総括反応速度式は次に示すようになる。
(13) |
(14) |
(15) |
(16) |
(17) |
融液生成を考慮したtortuosity factor τの補正式は,微粉層へのコークスの配合率によって次のように場合分けされる3)。
(18) |
(19) |
(20) |
本研究において,石灰石の分解反応速度はTsukamotoらの報告7)を用いて算出した。分解反応は次式で与えられる。
(21) |
単一石灰石粒子の物質移動は式(22)のように与えられる。
(22) |
分解反応速度は式(23)のように与えられる。
(23) |
Yagiら8)は,分解反応は未反応相であるCaCO3と反応生成物相であるCaOとの接触界面で生じており,その界面で発生したCO2ガスは多孔性のCaO相を拡散し,さらに粒子外表面のガス境膜内を通して気流本体へ流出すると報告している。
ガス境膜内物質移動係数はRanz-Marshallの式から算出した。化学反応速度定数はYagiら8)によって式(24)の様に報告されている。
(24) |
生成物層内におけるガス拡散係数8,9)は式(25)のように報告されている。
(25) |
本研究では,水の蒸発期間を恒率乾燥期間と減率乾燥期間に分けて考えるMuchi and Higuchiの報告5)を採用して扱った。恒率乾燥期間とは固体の含水率が限界含水率を上回っている場合であり,その間は水分移動が容易に起こる。この期間における乾燥速度は式(26)で与えられる。
(26) |
減率乾燥期間とは固体の含水率が限界含水率を下回るほどに少なくなっており,固体内の水分移動が水分蒸発の律速となっている場合を指す。この期間における乾燥速度は式(27)で与えられる。
(27) |
水分の凝縮に関しては,本研究ではWajimaモデル10)を参考にした。温度低下により,ガス中の湿度が飽和湿度に達した段階で水分の凝集が始まる。ここで飽和湿度曲線は次式で与えられる。
(28) |
式(27)における湿度とガス温度の関係を満たしながら,凝集過程は進んでいるものと考えると,水分の凝縮速度は次式で与えられる。
(29) |
生成した液体の水は固相が含む水分として存在すると仮定し,流動性は無視した。また鉱石中に含まれる結晶水も大きな影響を及ぼすと考えられるが,本研究では簡単のため無視した。
2・3・5 カルシウムフェライト融液の生成および凝固2成分系カルシウムフェライト融液は,式(30)に示すように,石灰石の分解反応によって生じたCaOとヘマタイトが反応して生成する。
(30) |
反応速度式は式(31)で与えられる。
(31) |
反応速度定数kCFの温度関数は,前報11)から次式のように与えられる。
(32) |
カルシウムフェライト融液の凝固に関しては,CaOとFe2O3の2成分系状態図に従うものとし,凝固時の固相率は状態図中で天秤の法則を用いて算出した。単位体積あたり固相率がΔgs増大したとき,その潜熱放出量は式(33)で表される。
(33) |
潜熱の放出を考えずに温度解析を行い,微小時間Δt間の液相線温度TLからの温度低下量ΔT(=TL−T)を求める。
(34) |
式(33)と(34)から以下の式が導かれる。
(35) |
この計算では潜熱の放出のかわりに固相率の増加を考え,固相率が1になったら凝固は終了したものとする。
実際の焼結層内ではコークスは様々な賦存状態をとると考えられる。本研究では数学モデルの高精度化を目的として,コークス賦存状態の異なる3種のCase studyを実施した。Hidaら12)はコークスの賦存状態をFig.1に示すように3種類に分類した。コークスが単体で存在するものをS’型,ヘマタイトとコークスの微粉粒子同士がヘマタイト核粒子表面に付着したものをC型,ヘマタイトとコークスの微粒子同士が混合されたものをP型とした。
Classification of coke distribution situation in quasi-particle.
Case 1は層内のコークスが全てS’型であると仮定し,コークスの燃焼速度にHottelの式のみを用いて計算した場合である。
Case 2はS’型コークスに加え,微粉層内のコークス(C,P型)を考慮した条件である。S’型のコークスの燃焼はHottelの式を用いて計算を行い,C,P型コークスに対しては前報3)で求めた実験式を適用させた。また,各コークスの割合は実機でのデータを基に決定した。
Case 3は,微粉コークスが極端に多い例として,S’型コークス40%に対してP型コークスが60%存在する条件で計算を行った。このCase 3では,P型コークスがS’型コークスよりも燃焼し難いことから熱不足が発生することが予測されるため,焼結層内のコークス量を4.5 mass%へ増量させている。さらに,Case 2と3において融液生成による微粉層内tortuosity factorの補正を行わない計算を実施し,層内温度に及ぼす融液生成の影響を調査した。Table 1には焼結機の実操業条件に基づく共通の計算条件を,Table 2には計算に用いる,疑似粒子中のコークス賦存状態の条件を示した。計算に必要な各物性値は文献9)より引用した。
Condition of Sinter Bed | Depth | 450 mm | |
---|---|---|---|
Porosity | 40 vol% | ||
Mixing condition of Materials | Hematite | 84 mass% | 2.5 mm: 0.25 mm= 50: 50 |
Lime Stone (CaO) | 10 mass% | 2.0 mm | |
Moisture | 6 mass% | ||
Coke | 4.0 mass%, 4.5 mass% | Excluded from the total | |
Operation condition | Initial temperature | 298 K | |
Ignition condition | 1573 K | 90 s | |
Gas flow rate (outlet) | 0.6 m/s | ||
Calculation condition | Calculation cell | 5 mm | |
Time step | 0.001 s | ||
Courant number | 0.2 |
Distribution Pattern of Coke | Coke amount in Sinter Bed | Note | |||
S'-type (dp:0.25-1.5 mm) | C-type (dp:0.125 mm) | P-type (dp:0.125 mm) | [Excluded from the total (mass%)] | ||
Quasi-particle's diameter (mm) | 1.5 1.25 0.75 0.375 [in the same mass ratio] | 3.4 | 2.0 | ||
Case 1 | 100 | 0 | 0 | [4.0] | Hottel's equation |
Case 2 | 70 | 25 | 5 | [4.0] | – |
Case 2-n,r | 70 | 25 | 5 | [4.0] | Disregard Slag (l) |
Case 3 | 40 | 0 | 60 | [4.5] | – |
Case 3-n,r | 40 | 0 | 60 | [4.5] | Disregard Slag (l) |
Fig.2にCase 1と2の温度分布の計算結果を可視化したものを示す。この数値シミュレーションの計算結果から,燃焼帯が時間とともに進行していく様子がモデル上で再現されることが確認された。
Simulation results of temperature distribution in Case 1 and 2.
Case 1とCase 2の,点火後500 sの時点での層内の温度分布,コークス燃焼量の計算結果をFig.3に示す。Hottelの式のみを用いたCase 1の場合,1273 K以上の高温層の幅が250 mm程度になっている一方で,前報3)で求めた燃焼速度式を導入したCase 2では高温層幅の拡大を抑えることができ,より現実的な温度分布が得られた。また,その時点で燃焼しているコークスの燃焼量を比較すると,Case 1ではコークスが一瞬で燃え尽きていることが分かる。すなわち,Hottelの式を用いた場合では過剰にコークスが燃焼してしまうため,燃焼帯の進行速度が実際より速くなり,高温層の幅が実操業よりも大きく見積もられてしまったと考えられる。
Temperature distributions at 500 s of Case 1 and 2.
融液生成が温度分布に及ぼす影響について検討するため,Case 2とCase 3において融液生成を考慮しない場合とした場合の比較をFig.4に示した。これらは,焼結層の表面から400 mm地点での温度履歴および,C型,P型擬似粒子の反応界面の直径の変化を示した結果である。この図から融液生成を考慮した結果では反応界面の直径の減少速度が緩やかになっており,本モデル内で融液生成によるコークスの燃焼速度の変化が再現できていることが確認された。しかし,Case 2の比較においては,融液生成の影響を受けるC,P型コークスが少なかったため,両者の温度履歴に有意な差は認められなかった。一方で,Case 3においては,融液の生成を考慮することで温度分布が約100 K低温側へ移行する傾向が示された。即ち微粉コークスが焼結層内に多く含まれる条件においては,コークス燃焼速度に融液生成を考慮する必要が有ることが分かった。
Variations in the sinter bed at 400 mm of temperature and reaction interface diameter of Case 2 and 3 with time.
焼結層内温度分布を見積もるための数値シミュレーションモデルを改良するために,Hottelの燃焼速度式と,前報3)で導出した疑似粒子中のコークスの燃焼式を組み合わせた新しい数値シミュレーションモデルを開発し,以下に示す結果を得た。
1.前報のコークス燃焼速度式を使用し計算を行った結果,Hottelの式を単独で用いるよりも現実的な温度分布が得られた。
2.融液生成がコークス燃焼速度に与える影響を考慮すると,焼結層内の温度分布は低下することがわかった。この影響はプロセス中に微粉コークスの量が多くなるほど増大する。
Cadd:疑似粒子微粉層中のコークスの重量割合(mass%)
CO2,CO2:気相におけるO2またはCO2濃度(mol/m3)
C*CO2:石灰石分解反応のCO2平衡濃度(mol/m3)
CP・(s,g):固体および気体の比熱(J/kg/K)
De:アルミナ粉層中の酸素の有効拡散係数(m2/s)
DLime:CaO層内のCO2の拡散係数(m2/s)
d:コントロールボリューム内代表粒子径(m)
dCoke:コークスの粒子径(m)
G:空気の移動速度 (kg(dry)/m2/s)
gs:固相率(−)
Hg・s:飽和水蒸気曲線の温度関数(kg(H2O)/kg(dry))
HCoke:コークス燃焼熱(J/mol)
HLime:石灰石分解熱(J/mol)
HH2O・V:水の蒸発熱(J/mol)
HH2O・C:水の凝縮熱(J/mol)
HCF・G:カルシウムフェライトの溶融熱(J/mol)
HCF・S:カルシウムフェライトの凝固潜熱(J/mol)
h:対流伝熱係数(J/m2/s/K)
k(s,g):固体および気体の熱伝導度(J/m/s/K)
k':総括反応速度定数(m/s)
kc:界面化学反応速度定数(m/s)
kCF:カルシウムフェライト融液生成における反応速度定数(kg/m2/s)
kf:ガス境膜内物質移動係数(m/s)
kr:コークス単一粒子の化学反応速度定数(m/s)
L:凝固完了までの単位体積あたりの潜熱放出量(J/m3)
MCoke,Lime,Ore,H2O:コークス,石灰石,鉄鉱石,水の分子量(kg/mol)
n(Coke,Quasi-particle,Lime,Ore):単位体積中のコークス,擬似粒子,石灰石,鉄鉱石粒子の個数(/m3)
ΔP:充填層内圧力損失(atm)
Q:単位体積あたりの凝固潜熱の放出量(J/m3)
R:ガス定数(J/mol/K)
rx*:成分xの生成速度(kg/s/m3)
r(Coke,Quasi-particle,Lime,Ore):コークス,擬似粒子,石灰石,鉄鉱石粒子の中心から反応界面までの距離(m)
r*(Coke,Quasi-particle,Lime):コークス,擬似粒子,石灰石粒子一個あたりの反応速度(mol/s)
r*(H2O・V,H2O・C):単位体積あたりの水の蒸発および凝縮速度(mol/s/m3)
r*(CF・G,CF・S):単位体積あたりのカルシウムフェライトの溶融・凝固速度(mol/s/m3)
T:温度(K)
Ts,g:コントロールボリューム内固体および気体温度(K)
TL:液相線温度(K)
t:時間(s)
U:空塔速度(m/s)
u:ガス流速(m/s)
VCF:微粉層中の融液の体積割合(−)
w:固体の含水率(−)
wc:限界含水率(−)
we:平衡含水率(−)
Xc:擬似粒子における微粉層中のコークスの体積割合(−)
Z:一次元方向の座標(m)
ΔZ:コントロールボリュームの長さ(m)
τ:Tortuosity factor(−)
τ':融液生成を考慮したTortuosity factor(−)
ρCoke,Lime:コークスまたは石灰石の密度(kg/m3)
ρx:成分xの密度(kg/m3)
ρs,g:固体および気体の密度(kg/m3)
ε:燃焼後の微粉層中空隙率(−)
εa:コントロールボリューム内の空隙率(−)
φ:(粒子と同体積の球の表面積)/(粒子の外部表面積)(−)
μg:空気の粘度(kg/m/s)