Tetsu-to-Hagane
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Large Eddy Simulation of Cavity Formation by a Top-blown Jet on Liquid Surface
Osamu NakamuraTetsuya YamamotoKazuyuki UenoKouji Takatani
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2015 Volume 101 Issue 2 Pages 88-92

Details
Synopsis:

Numerical simulation of lance-jet impinging on a liquid free surface was carried out and validated against the experimental data of Ueno et al. [Tetsu-to-Hagané, 101 (2015), 74]. Computational domain was separated to lance domain and water-bath domain. Lance domain was solved as single phase of compressible gas and the result was used to inlet boundary condition of water-bath domain by volume of fluid method (VOF) solver. Large eddy simulation (LES) was used and both solver are a part of OpenFOAM, open source CFD toolkit. The time average of depth and diameter of cavity was almost consistent with the experiment. The standard deviation was 10-20% of the time average and slightly larger than that of the experiment. Simulation showed that sloshing of water surface might enhance the spitting phenomena.

1. 緒言

鉄鋼精錬プロセスにおける転炉やRH等で使用される重要な技術にランスからの酸素ジェットの湯面への吹きつけによる溶鉄や溶鋼への酸素供給がある。ここでは,溶鉄や溶鋼からの脱炭や溶鋼内あるいは気相での酸化反応による熱付与等,重要な機能を担っており,また粉体供給にも使用され,多機能化も進められている。これに対し,そこで見られる流動現象は千数百度の溶鉄や溶鋼に室温に近いガスを高速で供給するもので激しい反応場でもあり,直接的な観察や広範な箇所での計測は困難なため数値解析を用いた実機内流動現象の予測手法の確立が期待されている。

気液界面に吹きつけたガスジェットによる界面挙動においては,水モデル実験によりキャビティの形成とそれに伴う液相流動,およびスピッティングなどの現象が観察されており,そのような気液界面の大変形をともなう現象に対し,数値解析の解析可能性と精度の確認が重要と思われる。これまで,ランスからの超音速ジェットの形成については実験や数値解析により多くの検討が行われており,また気流ジェットの浴面への吹付けに伴うキャビティ生成現象に関し実験的な検討は行われてきた1,2,3)

これに対し,同状況の数値解析による検討事例4),さらには転炉全体の数値解析まで幾つか事例は見られる5,6)が,気流ジェットが2次元軸対称として扱われて乱流挙動の影響が十分に考慮されていず,また実験結果との比較が十分ではないなど,基本現象である気流ジェットによる浴面へのキャビティ形成に対する数値解析の精度検証はまだ十分とは言えない。これより,本検討ではUenoら7)が行った上吹きジェットによる液面キャビティの観察実験に対しLESによる数値解析を行い,キャビティ挙動の再現に関する検討を行った結果について以下に示す。

2. 検討内容

気液界面の挙動の混相流解析手法としては,Volume Of Fluid(VOF)法に代表される1流体モデルによるものが多く使用される。1流体モデルにおいては気液界面形状の時間推移を精緻にとらえて混相流流動を解析するものであるが,着目する現象を捕捉するには同現象の規模を十分に解像できる格子解像度が必要であり,精錬プロセスの実機規模の解析においては総格子数の大きい大規模並列計算が必要となることが予想される。これに対し,近年,その利用が国内外を問わず広まりを見せているフリーのCFDソフトウェアであるOpenFOAM8)においては,PCクラスタ等の一般的なHPC環境に加えスーパーコンピュータ「京」でも動作報告がある9)など大規模解析への対応も進んでおり,本検討の最終的な目的である実機規模の解析への適用も期待できる。また,同ソフトウェアは,GPLライセンスでソースコードから公開されているものであり,必要に応じて機能拡張も可能と考えられる。これより,本検討では OpenFOAMの一流体解析モデルを使用した解析を行った。

本報告での検討対象は,単相であるが非常に高速なガスジェットの領域と比較的低速ながら複雑な形状変化を伴う気液界面の領域という,性質の大きく異なる流動の領域から構成されている。ここでは,Odenthalらの検討6)に見られるような単相ジェットの解析結果を境界条件として混相流解析を行う構成とした。

Uenoら7)による報告から代表的な実験条件に対する数値解析を行い,同報告での液面キャビティ深さの時間推移の観察結果との比較を行った。本検討で解析を行った実験条件をFig.1Table 1に示し,計算環境をTable 2に示す。使用したOpenFOAMはver.2.1.1である。同実験条件下では流量4 L/min以上で音速となるため,気体の圧縮性を考慮した数値解法が必要となる。OpenFOAM2.1.1における混相流解析ソルバは等温過程に対するもので超音速ジェットには適用できないため,ここでは(a)ランスジェット領域(Lance Domain)と(b)気液界面を含む水槽領域(Water bath domain)とに分けて領域ごとに別解法とし,ランスジェット領域の計算結果を水槽領域の境界条件として使用する手法とした。各領域で使用したOpenFOAMでのソルバとその概要をTable 3に示す。このような領域を分けて異なる解析手法を用いる目的としては,Odenthalら6)においては圧縮性流体とVOF法の連成計算の不安定性を回避するためとされており,Andoら10)の報告でも同様の記述が見られる。Odenthalら6)においては,ノズル出口を混相流解析領域の入り口境界として,軸対称単相ジェットの定常解析結果からノズル出口における運動量を求めその運動量が保存されるよう混相流解析の入り口境界条件を定めたとあるが,本検討では3次元非定常流動解析による圧縮性単相でのガスジェットの解析と圧縮性等温混相流での水槽部の解析とを組み合わせた構成とした。支配方程式を以下に示す。ランスの解析領域の支配方程式は,

Lance Domain(Domain 1)   

ρ t + ( ρ u ) = 0 (1)
  
( ρ u ) t + ( ρ uu ) = P + Θ S G S (2)
  
ρ e t + ( ρ u e ) = k C v ( e ) P u (3)
  
e = C v T (4)
  
ρ = P / ( R T ) (5)

Fig. 1.

 Side view of lance and cavity.

Table 1.  Specification of experiment.
Gas N2 1.0, 2.0, 4.0, 6.0 L/min (stp)
Lance outer diameter: 5 mm, inner diameter: 3 mm
Nozzle diameter: 0.5 mm, Length: 1 mm (straight)
distance from water surface: 30 mm
Water tank diameter: 159 mm, height: 395 mm
Liquid water, depth: 100 mm, 24 ºC
Estimation measurement of depth of cavith from photo (60 sheets/sec)
Table 2.  Calculation system.
CPU Intel (R) Xeon (R) CPU E5-2690 2 CPU/node
Memory 6 GB/node
Network Infiniband QDR
OS CentOS 6.3
Table 3.  Domains and used solver of OpenFOAM.
Domain Solver (spec.)
Lance domain sonicFoam
(compressible, single phase, LES (standard smagorinsky model))
Water bath domain compressibleInterFoam
(Volume of Fluid (VOF), iso thermal, LES)

であり,ここで,

ρ:密度[kg.m−3],u:流速[m/s],P:圧力[Pa],ΘSGS:粘性応力,e:内部エネルギー[J.kg−1],Cv:定積比熱[J.kg−1.K−1],k:熱伝導度[W.K−1.m−1],T:温度[K],R:気体定数[J.kg−1.K−1]

である。水槽の解析領域の支配方程式は

Water tank Domain (Domain 2)   

ρ t + ( ρ u ) = 0 (6)
  
( ρ u ) t + ( ρ uu ) = P + Θ S G S + f s t + ρ g (7)
  
F t + ( F u ) = 0 (8)
  
ρ = ρ l F + ρ g ( 1 F ) (9)
  
ρ l = c o n s t . (10)
  
ρ g = P / ( R T 0 ) (11)

であり,ここで,

ρ:密度[kg.m−3],u:流速[m/s],P:圧力[Pa],ΘSGS:粘性応力[kg.m−2.s−2],fsf:表面張力項[kg.m−2.s−2],g:重力加速度[m/s2],F:液相率[−],ρl,g:液相,気相密度[kg.m−3],R:気体定数[J.kg−1.K−1],T0:ベース温度[K]

である。

質量,エネルギー(ランス領域)および液相率(水槽領域)の保存式を時間進展し,運動方程式をPISO法により解いて流速,圧力を更新し,乱流成分を更新する。乱流モデルとして標準SmagorinskyモデルによるLESを使用した。運動量の移流スキームは2次中心差分とし,液相率に関してはTVDスキーム(van Leer)を用いた。解析領域の構成をFig.2に示す。ランス領域(Domain 1)として静止水面位置を壁とした解析範囲とし,水槽領域(Domain 2)として静止水面から1.5 cm上方までとした。また,ランス領域の計算結果を水槽領域の境界条件として与える位置(Domain 2 inlet)を水面からの高さ0.5 cmでφ1 cmの円形領域とした。

Fig. 2.

 Setup of 2 domains.

解析の手順としては,まずランス領域(Domain 1)において気相単相での解析を実施し,ジェットが十分に発達した時点で計算を終了し,その計算結果からOpenFOAMのユーティリティmapFieldsにより水槽領域(Domain 2)のinlet境界に値を補間して設定し,水槽領域での混相流解析を実施した。

水槽領域の境界条件へのランス領域の解析結果の与え方として,理想的には十分に小さい時間刻み,例えば水槽領域の計算の時間刻み毎に更新していくことが考えられるが,計算手順の煩雑さや処理時間の増大が問題となる。これに対し,まず,ランス領域の解析結果の平均値を使用することを試みたがキャビティ深さが深くなる傾向が強く見られたため,ここではランス領域の計算終了時点の瞬時値を継続して使用することとした。平均値の使用によりキャビティ深さが深くなる理由としては,ジェットの半径方向速度分布に関し,瞬時値と比較してピーク流速が低くブロードな流速分布となりジェットの安定性が過剰となるため,等が考えられる。

3. 結果

Fig.3に,観察結果と対比して,形成されたキャビティの側面からの代表的形状を示す。ここで,キャビティは液相率F=0.5の等値面により示した。形成されるキャビティは各流量条件に対応して大きくなり,大きさや形状に関し観察結果とも比較的よい一致が見られた。また,実験において液滴の飛散が見られた4 L/min以上の流量条件では,解析においても液面の乱れが顕著になった。

Fig. 3.

 Side view of cavity.

Fig.4にキャビティ深さの時間推移をUenoら7)の実験結果と併せて示す。ここで,キャビティの深さは液相率F=0.5の等値面の最深点と静止時水面との鉛直距離とした。解析結果の方がキャビティ深さはやや深く大きめの振幅を示す傾向にあるが,全体として流量に対するキャビティ深さおよびその時間推移に伴う振動の様子は概ね再現されているものと思われる。なお,(b)2 L/minの条件においては,観察と比し解析では振動がより規則正しく大きい振幅での推移となっている。ここでは,形成されるキャビティが最深部の面内位置を変えながら揺れ動くような状況で振動しつつ形成されており,観察での時間推移においてもある程度の類似した状況は見られているがそれがより顕著に発生しているものである。解析において同状況が顕著に見られた原因については不明であるが,気液界面の解析で境界面inletについてランスジェットからの計算値を固定して使用している影響が等考えられ,今後検討が必要と思われる。また同様に,解析結果においてキャビティ深さが深めの傾向になっている原因としても,境界でのランスジェットが固定され中心軸からぶれにくい状況となっていたことによる可能性が考えられる。

Fig. 4.

 Typical histories of cavity depth.

キャビティ深さの時間平均値と標準偏差についてUenoら7)の実験結果との比較をFig.5Fig.6に示す。平均値は各ガス流量において実験結果と比較的よく一致している。標準偏差においてはガス流量1 L/minを除いて計算値の方が大きく,特により規則正しく振幅の大きい振動が見られた2 L/minや突発的に深いキャビティの形成が見られた6 L/minでは液面の振動が実験より過大に再現されているが,平均値に対して10%~20%の範囲であり,全体的な挙動としては妥当に再現されているものと思われる。また,キャビティ径についてUenoらの計測方法と同様に最大深さの50%の深さ位置での径の測定を形状変動の1周期分について行った結果をUenoらの結果と併せてFig.7Fig.8に示す。実験結果と比較的よく一致しており,キャビティ形状はガス流量の増大とともに単調な半球状から複雑な形状へと変化しその径の評価も困難となるが,各ガス流量において概ね妥当に再現されているものと思われる。

Fig. 5.

 Time average of cavity depth.

Fig. 6.

 Standard deviation of cavity depth.

Fig. 7.

 Time average of cavity diameter.

Fig. 8.

 Standard deviation of cavity diameter.

実験では4 L/min以上の流量において液滴の飛散が顕著に見られており,解析においても同様の傾向となっている。解析における液滴飛散の発生状況の一例をFig.9に示す。本条件における解析では計算時間の経過とともに,ランス直下を横切る波,あるいはスロッシングの発生が見られるようになる。そのような周囲液相の流動によりキャビティ底部での噴流の反転の方向が振れ,反対側からきた波に反転した噴流が衝突することで,そのキャビティエッジより液滴の飛散が発生している様子が見られる。ガス流量の増大に伴い液面に与えられる運動エネルギーも増大すると考えられ,それにより発生する波立ちとランスジェットの反転流はガス流量とともに増大するためガス流量に対応して液滴の飛散が顕著になるものと思われる。

Fig. 9.

 Water surface movement and gas flow (4 L/min).

4. 結言

上吹きジェットによる液面キャビティの挙動に対しOpenFOAM2.1.1による解析を行い,実験観察の再現性を検討した。圧縮性単相流によるランスジェット領域の解析結果を境界条件として,VOF法により気液界面領域の混相流解析を行う2領域に分割した解法を適用した。この結果,キャビティの深さや形状について実験結果との比較的よい一致を見,液滴飛散の発生条件では液面の乱れが増大することを示した。また,液滴飛散の発生メカニズムとして,ランスジェットの反転流と液面の波立ちとの相互作用による可能性を示した。

文献
 
© 2015 The Iron and Steel Institute of Japan

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