Tetsu-to-Hagane
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Spark Discharge Optical Emission Spectrometric Analysis of Inclusions Assisted by Particles Adhering to Sample Surface
Hirofumi KurayasuToru Takayama
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2015 Volume 101 Issue 3 Pages 198-203

Details
Synopsis:

A rapid size and composition analysis of inclusions in steel was investigated. We found that the spark discharges hit not only the particles but also the inclusions without rolling up the steel matrix when spark discharge optical emission spectrometry (SD-OES) was applied to the sample adhering particles to its surface. The discharge pulses which held a low Fe emission intensity were selected as inclusion pulses. The size distribution and chemical composition of the inclusions were calculated from the emission intensities of elements constituting the inclusions of these inclusion pulses. We applied the method to alumina inclusions containing MgO, obtaining the size distribution and MgO (mass%) well enough. This method is useful for a relative evaluation of inclusions in a short time.

1. 緒言

鋼中介在物の大きさと組成に関する情報が迅速に取得できるようになれば,介在物が性能を左右する鋼材の品質管理あるいは性能改善に向けた技術開発に活用できる。しかし,通常の介在物分析技術(検鏡,SEM/EDS,化学的な抽出分離分析法など)では分析に長時間を要するので迅速な対応は難しい。

近年,スパ−ク放電発光分光分析(SD-OES)を用いて介在物を迅速に分析する試みがいくつか報告されている1,2,3,4,5)。スパ−ク放電発光分光分析においては,試料と対極間に断続的なスパ−ク放電を起こさせ,放電により蒸発した原子の発光スペクトルを測定する。放電が介在物に当たると介在物構成元素の発光強度が高くなるが,このことを利用してある閾値以上の発光強度をもつ放電パルスを介在物に由来するものとして選別し,それらの発光強度を解析することにより介在物の大きさと組成に関する情報を求めるというものである。

一方,筆者らもスパ−ク放電発光分光分析による介在物分析法を研究している。今回,試料表面に物質粒子を付着させてスパ−ク放電発光分光分析を行うことによって,地鉄の影響の少ない介在物情報が取得できること,また,より数多くの介在物情報が得られることがわかり,これを利用した介在物の大きさと組成を求める方法を検討したので,以下に報告する。

2. 実験

2・1 試料

MgOを含むアルミナ系介在物を含有する鋼を検討の題材とした。試料中のアルミナ系介在物を酸分解法により抽出分離した後,加圧酸分解−ICP発光分光分析法によりAlおよびMgを定量し,Al2O3量(μg/g-鋼),MgO量(μg/g-鋼)およびMgO(mass%)を求めた。また,抽出分離したアルミナ系介在物をSEM/EDS−画像処理により粒度分布を求めた。Table 1に,試料のAl2O3量(μg/g-鋼),MgO量(μg/g-鋼),MgO(mass%)および平均粒径(μm)をまとめる。

Table 1. Analytical results of alumina inclusions.
sampleAl2O3 (μg/g-steel)MgO (μg/g-steel)MgO (mass%)average diameter (μm)
S137.61.64.02.36
S244.71.12.42.89
S317.00.52.91.44
S425.91.86.62.05
S520.20.73.21.63
S627.22.17.1
S723.21.77.0
S818.31.26.3

2・2 スパ−ク放電発光分光分析

スパ−ク放電発光分光分析装置には(株)島津製作所製PDA-7000を用いた。基本的な分析条件としては,試料を3M製トライザクト型研磨ベルトSiC#180(ベルトに塗布された研磨剤が砕けながら研磨が進行するタイプの研磨ベルト;以下,研磨ベルトAという)にて研磨した後,放電条件をモ−ド5(回路定数:4 μF,8 μH),300 V,333 Hzとして測定を行い,放電開始から2000放電パルス分の各元素の発光強度デ−タを放電毎に取り込んだ。なお,測定波長はFe 287.2 nm,Al 394.4 nm,Mg 280.2 nm,Si 212.4 nmとした。

物質粒子を試料表面に付着させる実験では,まず通常型研磨ベルトである理研コランダムSiC#180(以下,研磨ベルトBという)にて試料を研磨した後,各種物質を研磨面に載せて軽く押しつけ,さらに刷毛で払い落としてから測定に供した。

放電条件を変える実験では,分析装置で選択できる4種のモ−ド[モ−ド8(回路定数:2 μF,198 μH),モ−ド2(2 μF,16 μH),モ−ド1(2 μF,8 μH),モ−ド5(4 μF,8 μH);この順で放電電流のピ−クトップが高くなる]と2種の電圧[300 V,500 V]を組み合わせて検討を行った。

3. 結果および考察

3・1 物質粒子付着による介在物パルスの出現

鋼の表面に各種物質粒子を付着させてスパ−ク放電発光分光分析を行い付着粒子の発光特性を調査しているときに判明したことであるが,付着させた物質の構成元素の発光と同時に鋼中介在物の構成元素の発光が観察された。Fig.1に,試料S8を用いて(a)物質粒子付着前の研磨ベルトBによる研磨,(b)SiO2付着,(c)SiC付着の場合における各放電パルスのSi,Al,Mg発光強度をFe発光強度に対してプロットしたものを示す。放電の後期(1501-2000パルス)においては,いずれの場合も地鉄におけるSi,Al,Mgの含有率を反映した傾きを持つプロット群が観察された。一方,放電の初期(1-500パルス)においては,(a)では認められないが,物質粒子を付着させた(b)(c)の場合はFe発光強度が低い領域(図中点線で囲った)に付着粒子の構成元素であるSiと鋼中介在物の構成元素であるAl,Mgの発光強度が増大しているプロット群が確認できた。

Fig. 1.

 Discharge to inclusions induced by adhering particles on sample surface (Inclusion pulses). (Online version in color.)

さらに,Fig.1(d)には研磨ベルトAで試料研磨した場合の結果を示す。この研磨ベルトでは塗布された研磨剤が砕けながら研磨が進行するので研磨粉が試料表面に残留するため,(b)(c)の場合と同様に,付着粒子の構成元素であるSiと鋼中介在物の構成元素であるAl,Mgの発光強度が増大しているプロット群が認められた。

Fig.1の放電初期(1-500パルス)においてFe発光強度が低い領域(Fe<1500)に出現するプロット群を介在物パルスと呼ぶことにする。また,介在物パルスの出現の仕方は試料表面に付着する物質によって少し異なるようだが,今回の検討では試料の研磨と物質粒子の付着が同時に実現できる研磨ベルトAを用いることにした。

Fig.2に,アルミナ系介在物のMgO含有率が異なる試料S2(MgO 2.4 mass%)およびS6(MgO 7.1 mass%)で得られた介在物パルスのAl発光強度とMg発光強度の相関を示す。試料毎に異なった相関が認められ,回帰式の傾きはS2で0.17,S6では0.60が得られMgO含有率の違いに対応したものになった。

Fig. 2.

 Mg-Al intensity correlation of inclusion pulses.

Fig.3に,酸分解抽出−SEM/EDS−画像処理により求めた試料S2およびS3のアルミナ系介在物の粒度分布測定結果を示す。一方,Fig.4には介在物パルスのAl発光強度1/3乗[アルミナ系介在物の粒径の指標;発光強度が質量(体積)に比例すれば発光強度の1/3乗は粒径に比例]のヒストグラムを示す。Fig.3のアルミナ系介在物の粒度分布の違いに対応した分布が得られた。

Fig. 3.

 Size distribution of alumina inclusions with acid extraction-SEM/EDS.

Fig. 4.

 (Al intensity)1/3 histogram of inclusion pulses with OES.

以上,物質粒子を付着させたときに出現する介在物パルスは介在物由来の大きさと組成の情報を保有していることを示した。なお,緒言で述べた従来の技術ではFig.1(a)の実線で囲ったプロット群を介在物由来のものとして利用している。

3・2 物質粒子付着の効果

Fig.5に,研磨ベルトA(研磨粉残留型)と研磨ベルトB(通常型)を用いて,放電回数を10回および500回で止めたときの試料表面の状態を示す。放電10回においては研磨ベルトBでは深くえぐれた放電痕が観察されたのに比べて,研磨ベルトAでは多くの小さな放電痕が観察された。また,放電500回においては研磨ベルトBでは研磨筋が消えてしまっているのに比べて,研磨ベルトAでは研磨筋が残ったままであった。

Fig. 5.

 SEM images of sample surface after discharges.

Fig.6の模式図に示すように,物質粒子が試料表面に存在すると地鉄よりも優先して付着粒子に放電が当たり,それと同時に試料表面近傍に存在する介在物にも放電が当たる。その際に地鉄をあまり巻き込まないため地鉄の影響の少ない,即ちFeの発光強度が低い介在物パルスが得られ,また,放電による試料表面の荒れが抑制されるためにより数多くの介在物パルスが得られるものと推定される。

Fig. 6.

 Schematic diagram of spark discharge to sample surface with adhering particles.

3・3 粒度分布およびMgO組成の算出

介在物パルスのデ−タからアルミナ系介在物の粒度分布およびMgO組成の求め方を以下に例示するが,変換係数の具体的な値は使用する分析装置によって異なることになる。

まず,試料S2における介在物パルスのAl発光強度1/3乗ヒストグラムと酸分解抽出−SEM/EDS−画像処理により求めたアルミナ系介在物の粒度分布測定結果を対比させることにより,Al発光強度1/3乗の値25を大略アルミナ粒径5 μmに当てはめることにした。即ち,Al発光強度1/3乗の値に変換係数0.2を乗じて粒径(μm)に変換し粒度分布を算出することにした。

続いて,Al発光強度の値15625(=253)はAl2O3質量260 pg(=5 μm径)に相当することになるので,Al発光強度に変換係数0.0166を乗じてAl2O3質量に変換することにした。さらに,介在物パルスのAl発光強度の合計に相当するAl2O3質量とMg発光強度の合計に相当するMgO質量からMgO(mass%)を計算するが,試料S6において計算されるMgO(mass%)が酸分解抽出法により求めたMgO(mass%)に大略等しくなるようにMg発光強度からMgO質量への変換係数を決定した。

なお,測定は試料毎に10回程度行い,粒度分布は各測定を合算して,MgO(mass%)は各測定の平均を算出して試料の分析結果とした。

各試料の介在物パルスのデ−タから上述のようにしてアルミナ系介在物の粒度分布(平均粒径)とMgO(mass%)を算出した。Fig.7に試料S1~S5の平均粒径,Fig.8に試料S1~S7のMgO(mass%)について酸分解抽出法により求めた値との比較を示す(各試料2回の分析結果)。まずまずの相関が認められた。

Fig. 7.

 Comparison of alumina diameter between acid extraction-SEM/EDS and OES.

Fig. 8.

 Comparison of MgO (mass%) between acid extraction-ICP and OES.

試料表面に付着した物質粒子量が平均粒径およびMgO(mass%)に及ぼす影響を調査した。なお,付着物質粒子量のモニタ−としては各測定における介在物パルスのSi発光強度の和(ΣSi)を用いた。Fig.9およびFig.10に,試料S1およびS3についての結果を示すが,付着物質粒子量によって測定毎の平均粒径およびMgO(mass%)の値に偏りは認められなかった。

Fig. 9.

 Effect of quantity of adhering particles on Al2O3 diameter.

Fig. 10.

 Effect of quantity of adhering particles on MgO (mass%).

3・4 放電条件の及ぼす影響

Table 2に,試料S5およびS6について放電条件(モ−ド,電圧)を変えた場合の介在物パルス個数,アルミナ系介在物の平均粒径およびMgO(mass%)を示す(放電条件毎に10回測定)。なお,放電条件を変えると感度も変化するので,試料S6の各放電条件における放電後期(1501-2000パルス;地鉄の情報)の各元素の発光強度和を算出し,基準条件(モ−ド5,300 V)での値との比を各放電条件の各元素の感度補正係数として,発光強度の補正を行った。また,粒径および質量への変換係数は基準条件で設定したものを用いた。さらに,介在物パルスのMg発光強度1/3乗(MgO成分を粒子とみなした場合の粒径指標)ヒストグラムを作成しその平均をTable 2に合わせて示した。

Table 2. Effect of discharge conditions on inclusion analysis by OES.
dischage modesamplevoltage
300 V500 V
number of inclusion pulsesAl2O3 average diameter (μm)MgO (mass%)(Mg-Int.)1/3 averagenumber of inclusion pulsesAl2O3 average diameter (μm)MgO (mass%)(Mg-Int.)1/3 average
mode 8S54950.944.12.83641.072.43.0
S65851.136.74.54541.296.64.8
mode 2S55971.542.04.12541.603.64.8
S66981.735.86.22941.858.58.1
mode 1S55671.731.64.11311.922.05.5
S65121.814.86.21432.066.18.0
mode 5S52351.932.15.1691.883.25.4
S62022.066.48.1622.197.99.7

(mode 8: 2 μF, 198 μH, mode 2: 2 μF, 16 μH, mode 1: 2 μF, 8 μH, mode 5: 4 μF, 8 μH)

検出された介在物パルス個数は,電圧300 Vより500 Vの方が少なかった。また,モ−ドについては8→2→1→5の順に少なくなった。即ち,放電電流のピ−クトップが高く強い放電の方が付着粒子(介在物)に優先的に当たる確率が低くなる傾向にあると考えられる。

アルミナ平均粒径については,電圧300 Vより500 Vの方が大きくなった。また,モ−ドについては8→2→1→5の順に大きくなった。これは,放電電流のピ−クトップが高く強い放電の方が介在物を効率的に蒸発・発光させることができるため,Al発光強度が高くなり,見かけ上平均粒径が大きくなっているものと推定される。

Mg発光強度1/3乗の平均についてもアルミナ平均粒径と概ね同様の傾向が認められた。しかし,放電条件の影響の程度に関しては両者異なるので,MgO(mass%)においてはこれを反映した値となっているものと考えられる。

なお,いずれの放電条件においても試料S5とS6の相対的な大小関係は維持されている。したがって,各放電条件で変換係数を設定して分析を実施すれば相対的な介在物評価は行うことができるといえる。

3・5 本手法の特徴と限界

スパ−ク放電発光分光分析では数百Hzで放電が行われる。今回のように333 Hzで2000パルス分のデ−タ取得だと6 secで1回の測定は完了する。したがって,デ−タ処理の分析装置内蔵化は必要だが,10回程度の測定および試料研磨の時間を勘案しても数分以内の迅速分析は十分期待できる。

ところで,本手法で検出できる介在物の大きさには限界がある。Fig.11に放電クレ−タ−内に残留した介在物の残骸を示す。放電が介在物に当たった証拠ではあるが,介在物が大き過ぎる場合には放電が当たっても蒸発しきれないことを示している。本手法で分析できる介在物はμmオ−ダ−を中心としたものと推定される。

Fig. 11.

 Wreckage of inclusion in discharge crater.

さらに,Fig.5に示したように,放電回数10回でも放電痕は10個以上観察されているため,1回の放電で複数箇所に放電が当たっていることになる。即ち,1回の放電パルスのデ−タが必ずしも1個の介在物に対応してはいないということになる。但し,これまでに述べたように試料の違いは検出できているので,本手法は相対的な分析法としては有用といえる。

4. 結言

スパ−ク放電発光分光分析手法による介在物分析法を検討した。試料表面に物質粒子を付着させることにより,地鉄の影響の少ない介在物情報(大きさと組成)を取得できることがわかった。MgOを含むアルミナ系介在物の分析に適用したところ,酸分解抽出法による分析結果を基準として,粒度分布およびMgO(mass%)を良好に求めることができた。なお,本手法は介在物の大きさと組成を迅速に求めることのできる相対的な分析法として有用である。

文献
  • 1)   W.  Tanimoto and  A.  Yamamoto: CAMP-ISIJ, 14(2001), 813.
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  • 5)   A.  Pissenberger and  E.  Pissenberger: BHM, 152(2007), No.1, 13.
 
© 2015 The Iron and Steel Institute of Japan

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