2015 Volume 101 Issue 4 Pages 237-243
We have developed an analytical method which enables highly precise and rapid quantitative analysis of ultra low sulfur contained in steel sample. The developed method is “ultraviolet fluorescence method after combustion”, which combined high frequency induction furnace and the continuous UV fluorescence analyzer of sulfur dioxide. Despite easy operation like the conventional IR method, the newly developed method showed high sensitivity and good precision. The quantitation limit of sulfur in steel was 0.5 mass ppm. In addition, it was shown that this equipment has sufficient stability as a process control analysis apparatus of the iron mill which continues operation without resting.
鉄鋼中の硫黄成分は,粒界に偏析して脆性破壊を助長させたり,Mnと結合してMnSを形成し水素誘起割れの起点となったりするなど,鉄鋼製品の諸特性に影響を与えることが知られている。特に,原油や天然ガスの輸送に用いられるラインパイプは,強度,靭性,溶接性の他に,耐水素誘起割れ性(耐HIC性)や耐応力腐食割れ性(耐SCC性)などの耐サワー性を高めるために,鋼中の硫黄含有率を低下させることが必要とされている。そのため近年では,実操業で精錬される溶鋼の硫黄濃度は5 mass ppm以下にまで到達している1)。
一方,鉄鋼中の硫黄定量法は,重量法2,3),吸光光度法4),赤外線吸収法5),発光分光分析法6)および蛍光X線分析法7)が日本工業規格(JIS)で規定されている。これらの方法の中で真度や精度の高さあるいは迅速性や簡便性などの点から,実際の製鋼工程分析の現場では燃焼−赤外線吸収法が用いられることが多い8)。しかし,適用下限が5 mass ppmの燃焼−赤外線吸収法に対し,実操業で既に5 mass ppm以下の極低硫鋼が出鋼されている現状を考えると,この方法は特に微量域の硫黄に対して決して十分な分析精度を持つとは言えなくなってきている。このような点から,感度を高めた燃焼−赤外線吸収法の分析装置が市販されている。この装置では二酸化硫黄ガスの吸着濃縮カラムを用いることで5 mass ppm以下の定量下限が得られているが,測定時間が長くなってしまうため製鋼工程分析の現場では適用範囲が限られている。鋼中の微量硫黄を高精度に定量する方法として,これまでに多くの技術が報告されてきたが9,10,11,12,13),煩雑さや分析時間が長いことが妨げとなって製鉄所での実用化には至らなかった。
製鉄所で用いられている燃焼−赤外線吸収法は,高周波燃焼炉を用いて鋼中の硫黄を酸素中で急速に燃焼させて測定している。本研究では一般に吸光法よりも高感度とされる蛍光法に着目し,迅速性という長所を持つ高周波燃焼法と組み合わせることで,迅速性と高精度を両立した新たな鋼中微量硫黄定量法を開発したので報告する。
実験にはTable 1およびTable 2の鉄鋼認証標準物質を使用した。特に断りのない限り,試料重量を約1.0 g,助燃剤としてSn約0.4 gとW約1 gを用い,磁製ルツボは1050°C×3時間の空焼き処理を行って実験に供した。脱水カラムには過塩素酸マグネシウムを充填して使用した。
CRMs | C | Si | Mn | P | S | Ni | Cr | Mo | Cu | V | Al | N |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
JSS 001-6 | 2.4* | 1* | (0.03)* | (0.5)* | 1.5* | (0.2)* | (< 0.6)* | (< 0.2)* | 0.36* | (< 0.3)* | (< 1)* | 2.1* |
JSS 242-9 | 0.030 | |||||||||||
JSS 244-9 | 0.0020 | |||||||||||
JSS 652-14 | 0.0358 | 0.624 | 1.177 | 0.0315 | 13.5* | 10.60 | 16.88 | 2.06 | 0.177 | 0.0030 | 0.0191 | |
JSS 653-14 | 0.0564 | 0.621 | 1.575 | 0.0307 | 9.4* | 13.74 | 22.36 | 0.146 | 0.201 | 0.005 | 0.039 | |
JSS 654-14 | 0.0421 | 0.680 | 0.880 | 0.0193 | 4.2* | 19.13 | 24.90 | 0.0361 | 0.0430 | 0.112 | 0.0099 | 0.0214 |
SRM 131 g | 35.3* | 4.255* |
*: mass ppm, (): reference value.
CRMs | C | Si | Mn | P | S | Ni | Cr | Mo | V | Co | W | N |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
JSS 606-8 | 0.76 | 0.28 | 0.31 | 0.016 | 0.0008 | 0.065 | 4.00 | 0.58 | 0.83 | 0.12 | 17.16 | 0.0290 |
JSS 608-8 | 0.80 | 0.36 | 0.33 | 0.025 | 0.0028 | 0.044 | 3.99 | 0.41 | 0.99 | 9.09 | 17.03 | 0.0320 |
JSS 611-8 | 0.86 | 0.37 | 0.30 | 0.025 | 0.0013 | 0.13 | 3.97 | 4.88 | 1.88 | 0.40 | 6.27 | 0.0548 |
本実験で用いた実験装置の構成をFig.1に示した。高周波燃焼炉(堀場製作所製EMIA510)と蛍光チャンバーを接続し,鉄鋼試料を助燃剤とともに磁製ルツボに入れ酸素気流中(3.0 L/min.)で燃焼させ,発生した燃焼ガスを連続的に蛍光チャンバーに導入した。蛍光チャンバーでは励起光を燃焼ガスに照射し,燃焼ガスからの蛍光をツェルニターナ型分光器で分光してICCD検出器で測定した。光源はキセノンフラッシュランプを用い,モノクロメータで単色化して励起光とした(波長220 nm,半値幅20 nm)。分光器は堀場製作所製イメージングスペクトロメータiHR320,ICCD検出器はANDOR製DH-520-18F-05を用いた。光源の点灯周波数は10 Hzとし,パルスジェネレータ(スタンフォードリサーチシステム製DG535)を用いてICCD検出器の測光と光源の点灯とを同期させた。また,分光器の入口にロングパスフィルター(250 nm)を設置して励起光の迷光をカットした。
Schematic diagram of experimental system with ICCD detector.
次に,Fig.2に示すように分光器とICCD検出器に代えて,紫外透過可視吸収フィルター(中心波長340 nm)と光電子増倍管(Photo multiplier tube:PMT)を用いて二酸化硫黄の蛍光を選択的に測定した。蛍光チャンバーの出口部分には,圧力センサーを設置してチャンバー内の圧力を連続的に計測した。得られた蛍光強度値は,チャンバー内の圧力値で逐一規格化してから,一定時間積算して鋼中硫黄量と対応させた。さらに,燃焼ガス中の水分の影響を評価するために,燃焼炉と蛍光セルの間に過塩素酸マグネシウムを充填した脱水カラムを設置し,3方コックで経路を適宜切り替えて鉄鋼認証標準物質を測定した。同様の実験を赤外吸収法でも行い,いずれの方法においても,脱水カラムを装着しない場合の信号値を脱水カラム装着して作製した検量線で硫黄濃度に変換して認証値と比較した。
Schematic diagram of experimental system with UV filter and PMT.
製鉄所分析室への設置を目指し,Fig.3に示すように高周波燃焼−炭素硫黄分析装置(堀場製作所製EMIA920V2)と硫黄酸化物濃度測定装置(同APSA-360)とを接続して装置を作製した。接続にあたりキセノンフラッシュランプの点灯タイミングとPMTでの測光を同期させ,PMTで得られた蛍光強度は,(1)式のように蛍光モジュール内の光源監視用フォトダイオードの信号値でパルス毎に光量補償を行い,60秒間または蛍光強度がピーク値の1%になるまで積算して鋼中硫黄の定量計算に供した。これは,光源や光学系の経時劣化の進行により励起光の強度が減少し,硫黄分析値に影響を与えることを防止するためである。
(1) |
F:二酸化硫黄の蛍光強度補正値
F':二酸化硫黄の蛍光強度測定値
I0:励起光強度初期値
I':励起光強度測定値
Schematic diagram of analyzer for process control analysis.
なお,通常設置する高周波溶解炉の後段の脱水試薬を除去したこと以外は,試料の燃焼やガス流量などは標準的な条件で実験を行った。また,本装置を従来の赤外線吸収法と比較するために,高周波燃焼−炭素硫黄分析装置(堀場製作所製EMIA510)を使用した。
2・4 製鉄所分析室での長期試験Fig.3の装置を製鉄所分析室に設置し長期試験を行った。Table 3に示したように既設の燃焼−赤外線吸収分析装置とほぼ同等の校正頻度,分析処理試料数となるような条件とし,実操業で発生する試料も適宜測定して装置の処理本数を増加させた。励起光の強度は経時的に低下するため,励起光強度が実際に低下した状態,あるいは光源の印加電圧を下げて意図的に励起光強度を低下させた状態で鉄鋼認証標準物質を適宜測定して,励起光の強度低下が分析精度に与える影響を調査した。また,室内再現精度を測定し現行装置と比較した。
Light source (Xe flash lamp) | uninterrupted operation |
---|---|
Moisture trap | Nothing |
Sample | JSS654-14 |
Sample weight | 0.5 g |
Calibration interval | One month |
Fig.1の装置を用いて鉄鋼試料を酸素気流中で溶解し,その燃焼ガスに220 nmの励起光を照射して得られたスペクトルの経時変化をFig.4に示す。JSS001-6の燃焼ガスでは観察されるスペクトルに変化は認められないが,JSS242-9の燃焼ガスでは二酸化硫黄と思われる300から350 nmにかけての連続スペクトルが燃焼開始10秒後から出現することが確認できた。
Fluorescence spectra of combustion gas flow of steel samples, (A)JSS001-6, (B)JSS242-9.
硫黄濃度の高い鉄鋼試料の燃焼ガスで特徴的な蛍光スペクトルが確認できたので,次にFig.2のように紫外透過可視吸収フィルター(中心波長340 nm透過半値幅70 nm)とPMTを用いて,Table 1の鉄鋼認証標準物質を燃焼させ,約300から400 nmの波長の光を選択的に測定した。各試料の燃焼ガスからの蛍光強度の経時変化をFig.5に示す。またFig.5の各ピークの面積と鉄鋼試料中の硫黄量との関係をFig.6に示す。なお,鉄鋼試料の燃焼初期に蛍光チャンバー内の圧力が大きく変化したため,Fig.5の蛍光強度は圧力値で規格化された値である。Fig.6に示すように,鉄鋼試料中の硫黄量と蛍光強度が高い相関を示したことから,Fig.4の連続スペクトルは二酸化硫黄の蛍光が観察されたものであり,その強度を計測することで鉄鋼中の硫黄濃度を測定できることが確認できた。
Time-dependent-changes of fluorescence intensity of SO2 generated from steel CRMs.
Relationship between fluorescence intensity and sulfur weight in steel CRMs.
大気中の二酸化硫黄濃度を紫外蛍光法で測定する技術は,SchwarzらやOkabeらによって研究され14,15),共存成分Mの分圧[M]と二酸化硫黄の蛍光強度の関係が(2)式のStern-Volmerの関係式として示されている。
(2) |
(2)式でF0とF(M)はそれぞれ共存成分が存在しない場合の二酸化硫黄の蛍光強度と共存成分Mが存在する場合の二酸化硫黄の蛍光強度を表している。Okabeは,亜鉛ランプ(波長216 nm)を光源に用いた実験から,Table 4に示すようなStern-Volmer定数aMを求めている16)。(2)式から,酸素中と大気中の二酸化硫黄の蛍光強度の比は(3)式のように表される。(3)式にTable 4の定数を代入すると,酸素中の二酸化硫黄の蛍光強度は大気中に比べて0.62になると算出された。つまり,本研究では主成分ガスの酸素によって二酸化硫黄の蛍光強度が著しく消光しているはずだが,二酸化硫黄の発生量が多かったために検出できたと考えられる。
(3) |
Quenching gas | Quenching constant, aM (10–3 Torr–1) |
---|---|
Air | 1.16 ± 0.01 |
O2 | 2.68 ± 0.09 |
CO2 | 0.74 ± 0.07 |
酸素気流中で溶融された鉄鋼試料の燃焼ガスには,二酸化硫黄と主成分の酸素以外に鋼中炭素を起源とする一酸化炭素や二酸化炭素,あるいは鋼中の水素が酸化されて生じた水分が含まれている。そこで,Table 2の高炭素鋼試料を測定して,一酸化炭素や二酸化炭素が二酸化硫黄の蛍光測定に与える影響を調査した結果をTable 5に示した。Table 5から明らかなように,炭素濃度の高い鉄鋼認証標準物質を測定した場合でも本分析法による硫黄分析値は認証値とよく一致したことから,一酸化炭素や二酸化炭素の影響はほとんど無視できるものと考えられる。
Sample | C, mass % | S, mass ppm | |
---|---|---|---|
Certified | Analyzed | ||
JSS606-8 | 0.76 | 8 | 6.7 |
JSS608-8 | 0.80 | 28 | 27.2 |
JSS611-8 | 0.86 | 13 | 12.5 |
ここで,燃焼ガス中に二酸化炭素が存在する場合の二酸化硫黄の蛍光強度の変化を計算し,上述の結果を確認した。炭素濃度1%の鋼試料1 gを流量3
L/minの酸素気流中で燃焼させた場合を想定して計算する。試料中に含まれる炭素10 mgがすべて酸化して二酸化炭素になると標準状態で約18.7 mLになり,Fig.5の二酸化硫黄の抽出曲線と同様にこの二酸化炭素のすべてが30秒間で鋼試料から発生して,その発生量の変化が正規分布曲線を描くと仮定すると,二酸化炭素の発生速度の最大値は,18.7/5
(4) |
鋼中に含まれる炭素がすべて二酸化炭素になる前提での計算結果ではあるが,炭素濃度1%の高炭素鋼を分析したとしても,燃焼−紫外蛍光法での硫黄分析値はわずかな影響しか受けないことが計算の上でも示された。
次に,燃焼ガス中に含まれる水分の影響を調べるために,脱水剤を使用しない場合の燃焼−紫外蛍光法による鉄鋼試料の測定結果を燃焼−赤外吸収法の結果と共にTable 6に示した。赤外線吸収法では,二酸化硫黄の分析波長に水蒸気の光吸収帯が重なっているため,脱水剤を用いないと硫黄分析値に約30 mass ppmに相当する正誤差が生じたが,燃焼−紫外蛍光法では脱水剤の有無でほとんど差の無い結果であった。これは,紫外光では赤外光に比べて水蒸気の光吸収が少ないことと二酸化硫黄の蛍光が水蒸気にほとんど消光されなかったためと推察された。脱水試薬の過塩素酸マグネシウムは脱水能力が低下しても外見上の変化に乏しいため,実作業では試薬の交換時期を見極めるのが難しい。燃焼−紫外蛍光法は燃焼−赤外吸収法のように脱水試薬を必要とせず,そのため脱水試薬の劣化が原因で起こる異常分析値の発生のリスクもない分析法であることが確認できた。
Sample | Certified, mass ppm | Analyzed, mass ppm | |
---|---|---|---|
UV fluorescence | IR absorption | ||
JSS001-6 | 1.5 | 1.5 | 37.3 |
SRM131 g | 4.255 | 4.3 | 33.7 |
JSS653-14 | 9.4 | 9.5 | 38.2 |
JSS652-14 | 13.5 | 13.5 | 46.7 |
これまでの検討結果を元に従来の燃焼−赤外吸収法の分析装置と同等な操作性・迅速性を目指して,製造現場に設置可能な鋼中微量硫黄分析装置を作製した。本装置を用いて鉄鋼認証標準物質を繰り返し測定した結果を燃焼−赤外吸収法の結果とともにTable 7に示す。いずれの試料,鋼種においても燃焼−赤外吸収法と比べて3~10倍優れた併行精度が得られた。また,空試験の併行精度が0.05 mass ppmであることから,本装置の定量下限は0.5 mass ppmと見積もられた。Fig.7に0.5 gのJSS001-6を測定したときの抽出曲線を本装置と燃焼−赤外吸収法とで比較したが,本装置は赤外吸収法と比較して著しく高いS/N比を示した。
Sample | Steel type | Certified value mass ppm | Repeatability error (n=10), mass ppm | |
---|---|---|---|---|
UV fluorescence | IR absorption | |||
Blank (*) | – | – | 0.05 | 0.24 |
JSS001-6 | Pure iron | 1.5 | 0.04 | 0.26 |
SRM131g | Low alloy silicon steel | 4.255 | 0.04 | 0.41 |
JSS653-14 | SUS 309 S | 9.4 | 0.16 | 0.55 |
JSS652-14 | SUS 316 | 13.5 | 0.07 | 0.52 |
JSS244-9 | Carbon steel | 20 | 0.07 | 0.52 |
(*): accelerators only
Comparison of SO2 extraction curves obtained by combustion of JSS001-6. (A) UV fluorescence, (B) IR absorption.
上記の製造現場仕様装置を実際に製鉄所分析室で使用するにあたって,蛍光ランプの劣化等に起因する励起光強度の経時変化が分析精度に与える影響を評価した。励起光強度と併行精度の関係をFig.8に示した。試験開始時の励起光強度を100%とし光学系を交換せずに試験を続けていくと,標準物質の併行精度は励起光強度が45%程度にまで低下しても0.08 mass ppm(CV2.0%)以下の優れた結果を示した。さらに,ランプの電圧を下げて励起光強度を20%未満としたところ,併行精度はやや低下して0.10 mass ppmを示したことから,励起光強度の管理基準値を20%とした。Fig.9に励起光強度の経時変化を示した。励起光強度は運転開始当初の2ヶ月で約80%まで急速に低下したが,その後は緩やかに減少して12ヶ月後に約45%となった。この時点でランプを新品に交換すると,励起光強度は約75%まで回復した。100%まで回復しないのは,ランプ以外にレンズやフィルターも劣化しているためである。引き続き試験を続けると,励起光強度はランプ交換後15ヶ月(通算27ヶ月)で当初の約20%にまで低下した。ここで励起光強度が管理基準値に達したため,ランプとレンズを新品に交換したところ,励起光強度は約20%から約60%まで回復した。今回の強度回復量が前回よりも増加したのはランプとレンズを同時に交換したためであり,さらにフィルターも交換すれば励起光強度は100%近くまで回復することが期待できる。以上から,本装置は励起光強度を常時管理し必要に応じてメンテナンスを行うことで,製鉄所における工程管理分析装置としての安定性と信頼性を維持できるものと考えられる。また,本分析装置と既設装置(燃焼−赤外吸収法)との比較として,空焼き処理しないルツボを使用して20日間の室内再現精度をほぼ同等の条件で測定したところ,本分析装置が0.27 mass ppm,既設装置が0.54 mass ppmと明らかな違いを確認することができた。
Relationship between excitation light intensity and repeatability error of sulfur in JSS654-14 analyzed by UV fluorescence method. ●, performed during factory examination ; ○, performed under the low excitation condition of intensity.
Decrease of incident light intensity with time.
これまで微量硫黄の定量にはルツボの空焼きが必須とされてきた。そこで本装置を用いてルツボ中の硫黄を定量した。Fig.10は0.5 gの高純度鉄(JSS001-6)の二酸化硫黄の抽出曲線をルツボの空焼き処理の有無で比較した一例である。Fig.10から明らかなように,空焼き処理を行うと二酸化硫黄の抽出ピークが大きく低下し,空焼き処理したルツボと未処理ルツボのピークの差は0.4~0.5 μgの硫黄に相当することがわかった。本分析法における高純度鉄(JSS001-6)の硫黄分析値の併行精度は,空焼き処理したルツボを用いた場合の0.04 mass ppmに対し,空焼き処理しないルツボを用いた場合は0.13 mass ppmであった。ルツボ空焼き処理による鋼中微量硫黄の定量精度向上の効果が,燃焼−紫外蛍光法を用いることでこれまで以上に明確に示された。
Extraction curves of SO2 for crucibles with and without preheat.
現行の燃焼−赤外線吸収法とほぼ同等の測定時間や簡便な操作によって,現行法の約1/5の定量下限0.5 mass ppmで鋼中の微量硫黄定量を可能とする燃焼−紫外蛍光法を開発した。本法は水分の影響を受けないことから,脱水試薬が不要となるのでメンテナンス性でも現行法より優れているものと考えられる。また,長期試験の結果から,24時間365日の操業を続ける製鉄所の工程管理分析装置として,本装置は十分な安定性を有することがわかった。
本研究の遂行にあたり,株式会社堀場製作所の平野彰弘氏,井上貴仁氏,ならびに岩崎俊典氏には多大なご協力を頂きました。ここに深く謝意を表します。