Tetsu-to-Hagane
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Direct Measurement of Agglomeration Force Exerted between Alumina Particles in Molten Steel
Katsuhiro Sasai
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2015 Volume 101 Issue 5 Pages 275-283

Details
Synopsis:

As a fundamental study to clarify the agglomeration and coalescence of alumina inclusions in molten steel from the viewpoint of interfacial chemical interactions, it has been experimentally verified for the first time that significant agglomeration force is exerted between alumina particles in aluminum deoxidized molten steel by using a newly established experimental method. In this method, the agglomeration force exerted between alumina particles in molten steel is directly measured separately from the effect of molten steel flow. In addition, it has been quantitatively demonstrated that the contact angles measured between aluminum deoxidized molten steel and an alumina plate are larger than those between the molten iron-oxygen alloy and the alumina plate, which have already been measured by other researchers. Moreover, it has also been indicated by analyzing the actual measurement values of agglomeration force with an interaction model taking contact angles and interfacial properties into consideration that the agglomeration force between the alumina particles in aluminum deoxidized molten steel derives not from the van der Waals force but from the cavity bridge force occurring due to molten steel, which is unlikely to wet the alumina particles. Meanwhile, it has been assumed that the agglomeration force on spherical alumina inclusions in aluminum deoxidized molten steel calculated on the basis of the interaction model according to the cavity bridge force is greater than the buoyant force and drag force, and the alumina inclusions once coming into contact are therefore not prone to be simply dissociated even under molten steel flow. Thus, they maintain the agglomeration state and are subsequently sintered and form comparatively solidly bonded alumina clusters.

1. 緒言

通常,精錬後の溶鋼は比較的安価で高い脱酸能を有するアルミニュウムにより脱酸されるが,生成した数ミクロン程度のアルミナ介在物は衝突・凝集合体を経てアルミナクラスターを形成し,鋳片内に一部残留することにより表面欠陥や内部欠陥発生の原因となる。製鋼工程では溶鋼の攪拌や流動制御によりアルミナ介在物の凝集合体を促進し,浮上分離に有利な粗大介在物として溶鋼中から確実に除去する必要があり,そのためには溶鋼中におけるアルミナ介在物の凝集機構を科学的に解明することが極めて重要となる。

溶鋼中の介在物挙動に関する初期の研究では,溶鋼中の酸素濃度変化と急冷サンプル中における脱酸生成物の粒度分布に基づき溶鋼脱酸の速度論的な解明が精力的に行われ,脱酸速度の律速過程は脱酸生成物の凝集・分離過程にあることが示された。近年になって,Taniguchi and Kikuchiは介在物の凝集合体に対する流体力学的な作用として,ブラウン凝集,層流剪断による凝集,乱流凝集,差動衝突による凝集を取り上げ詳細に解説する1)と共に,疑似介在物粒子を用いた水モデル実験2)および溶融アルミニュウムモデル実験3)を行い,粒子間相互作用としてvan der Waals力を考慮した凝集係数により乱流凝集挙動を評価している。また,Yinら4)は,共焦点走査型レーザー顕微鏡と赤外線イメージ炉を組み合わせた実験装置を用いて,溶鋼表面で漂う介在物挙動をその場観察し,特にアルミナ介在物間にCapillary力に起因する強い凝集力が働くことを示した。さらに,Nakajima and Mizoguchi5)は,溶鋼表面での粒子間相互作用としてCapillary力に基づく凝集力を介在物のサイズ,形状,組成および界面物性を考慮して定量的に解析し,その凝集力が介在物の相状態(固相,液相,固・液共存相)と接触角に強く影響されることを明らかにしている。このように,溶鋼中介在物の凝集合体について,流体力学的な作用に加えて粒子間の界面化学的な相互作用の重要性が指摘されるようになった。しかし,溶鋼急冷サンプルにおける介在物の粒度分布評価,疑似介在物粒子を用いた水・溶融アルミニュウムモデル実験,或いは溶鋼表面上での介在物直接観察だけでは,溶鋼中の介在物間に働く界面化学的な相互作用だけを独立に抽出して詳細に調査することは難しく,溶鋼中アルミナ介在物の凝集機構は未だ十分には解明されていない。

本報では,溶鋼中アルミナ介在物の凝集機構を界面化学的な相互作用の観点から明らかにするための基礎研究として,アルミニュウム脱酸溶鋼とアルミナ基板との接触角を実測し,その妥当性を定量的に検証すると共に,溶鋼中のアルミナ粒子間に働く凝集力を溶鋼流動の影響と分離して直接測定した。実測された凝集力を溶鋼とアルミナ粒子との界面物性を考慮した相互作用モデルにより解析し,溶鋼中のアルミナ粒子間に作用する凝集力の起源を明らかにした。さらに,球形アルミナ介在物を対象に,相互作用モデルから計算される凝集力を浮力や抗力と比較することにより,アルミナ介在物が溶鋼流動下で凝集状態を維持する機構についても検討した。

2. 実験方法

2・1 接触角測定実験

接触角測定用の鋼試料は,電解鉄(C濃度=0.001 mass%,S濃度=0.0001 mass%,O濃度=0.005 mass%)をArガス雰囲気中で高周波溶解し,溶鋼温度1600°Cで所定量のAlを添加して脱酸した後,凝固させた鋼塊から3 mm角に切断して製造した。鋼試料中のAl濃度は0.006~0.057 mass%であった。Al2O3基板については,純度99.9 mass%の高純度アルミナ試薬を圧力196 MPaで直径10 mmの円柱状タブレットに一軸圧縮成形したものを,温度1600°CのArガス雰囲気中で90分間焼結させ,さらに表面を平滑に研磨して厚み7 mmの基板試料とした。

接触角の測定に用いた実験装置の概略をFig.1に示す。接触角測定実験には,高周波誘導加熱されたグラファイト円筒を発熱体とする抵抗加熱炉を用いた。Al2O3基板を底部に配置した内径12 mm,高さ25 mmのアルミナ製管を内径21 mm,高さ45 mmのアルミナ製るつぼ内に入れ,底面と側面の隙間をアルミナ試薬で埋めて固定した。このアルミナ製るつぼ全体を内径52 mm,高さ160 mmのグラファイトるつぼ内に納めて,溶解炉内に設置した。Al2O3基板上に3 mm角の所定Al濃度の鋼試料を置き,Arガス雰囲気中で1600°Cまで昇温した。溶鋼滴とAl2O3基板を30分間接触させた後,溶解炉の電源を切り,溶鋼滴を溶融時の形状で凝固させ,そのまま室温まで冷却した。実験後に回収した滴形状の凝固試料を水平台上に乗せ,正面から試料形状を写真撮影した。この写真から左右の接触角を直接評価し,それらの平均値を溶鋼とAl2O3基板との接触角とした。

Fig. 1.

 Schematic view of the experimental apparatus for contact angle measurement.

2・2 凝集力測定実験

溶鋼中におけるAl2O3粒子間の凝集力を測定するための実験装置をFig.2に示す。凝集力測定実験には,溶鋼流動を極力抑制する目的で,接触角測定と同様の抵抗加熱炉を使用した。凝集力測定のために,内径40 mm,高さ150 mmのアルミナ製るつぼの内側壁に,所定直径のAl2O3円柱を垂直に固定した。一方,外径8 mm,長さ380~440 mmのアルミナ製保護管の下端にも,同一直径で長さ30 mmの凝集力測定用Al2O3円柱を取り付けた。このアルミナ製保護管の上端を溶解炉上のアルミニュウムロッドにつなぎ,るつぼ内の溶鋼中でAl2O3円柱同士が平行に接触するように配置した。アルミニュウムロッドの上端から40 mm下の位置を回転軸として,アルミナ製保護管は滑らかに回転できる機構となっている。力計測器をガイドレール上の可動ステージに固定し,さらにワイヤーで駆動モーターに連結した。アルミニュウムロッドの回転軸から30 mm上方の位置に力計測器を水平にフックでつなぎ,駆動モーターによりアルミニュウムロッドを引っ張ると,溶鋼中のAl2O3円柱間の凝集力に抗して発生する牽引力が力計測器からチャートレコーダーに出力される。

Fig. 2.

 Schematic view of the experimental apparatus for agglomeration force measurement.

Al2O3円柱を内側壁に固定したアルミナ製るつぼに接触角測定実験と同成分の電解鉄600 gを入れ,Arガス雰囲気中で溶解した。溶鋼温度を1600°C一定にした後,所定量のAlを添加して脱酸した。アルミナ製保護管の下端に取り付けたAl2O3円柱を溶鋼中に浸漬し,るつぼ底から10 mmの位置で,るつぼ内側壁のAl2O3円柱と平行に接触させた。実験条件として,凝集力測定用Al2O3円柱の直径を6~10 mmの範囲で変化させた。駆動モーターにより可動ステージを速度0.16 mm・s−1でアルミニュウムロッドから離れる方向に移動させると共に,力計測器から出力される牽引力をチャートレコーダーにより記録し,その牽引力変化から後述の方法で凝集力を評価した。凝集力を測定したAl2O3円柱は全て純度99.6 mass%の高純度Al2O3製である。実験時の溶鋼成分を正確に把握するため,凝集力測定の前後で内径6 mmの透明石英管により溶鋼試料を採取し,溶鋼中Al濃度の分析に供した。実験時の溶鋼中Al濃度は,凝集力測定前後における分析結果の平均値で0.005~0.073 mass%であった。

3. 実験結果

3・1 Al脱酸溶鋼とAl2O3基板との接触角

溶鋼滴の半径が(1)式から計算される毛管長λCL(m)よりも十分小さい時には,溶鋼滴の形状は重力よりも表面張力によって支配され,部分球と見なすことができる。   

λ CL = ( σ Fe ρ Fe 1 g 1 ) 1 / 2 (1)

σFeは溶鋼の表面張力(N・m−1),ρFeは溶鋼の密度で7000 kg・m−3,gは重力の加速度(m・s−2)である。この場合,滴形状と接触角θAl2O3-Fe(°)の関係は(2)式で表される。   

tan ( θ Al 2 O 3 Fe / 2 ) = 2 h D / d C (2)

hDは溶鋼滴の高さ(m),dCは溶鋼滴と基板との接触面の直径(m)である。ItohらのAl脱酸平衡の熱力学的再評価値6)を用いて,実験条件である1600°CでAl濃度0.006~0.057 mass%の溶鋼滴と平衡する酸素濃度を求めると,0.0005~0.0020 mass%であった。この範囲の酸素濃度において後述するTable 2から計算される表面張力1.784~1.939 N・m−1を(1)式に適用することにより,毛管長として5.10~5.32 mmが得られた。一方,本実験のように比較的酸素濃度の低い溶鋼はAl2O3基板と濡れ難い(その接触角は90°以上)ため,溶鋼滴の形状は完全球形(接触角180°に相当)から半球形(接触角90°に相当)までの範囲で変化すると見なし,3 mm角の鋼試料が形成する溶鋼滴の半径を計算すると1.94~2.44 mmとなった。この範囲の溶鋼滴半径であれば,先に求めた毛管長よりは十分小さいため,本実験の溶鋼滴形状は部分球と想定され,(2)式を適用して近似的に接触角を評価できる。

接触角測定実験の一例としてAl濃度[Al]=0.057 mass%の凝固滴試料を正面から撮影した写真をFig.3に示す。毛管長の計算から予想したように,凝固滴試料は比較的均一な球形状を示すことが確認できる。そこで,直接測定した接触角を,凝固滴試料の写真から滴形状hD/dCを読み取り,(2)式を用いて間接的に算出した接触角と比較してTable 1に示す。両者の接触角はほぼ一致しており,より詳細に見れば直接測定した接触角の方が若干大きい。厳密には重力の影響により滴形状が少々扁平するので,実際の接触角は滴形状を球と仮定した(2)式による計算値よりも僅かだけ大きい。したがって,直接測定した接触角は妥当な値であり,高精度に評価できているものと判断される。

Fig. 3.

 Photograph of a solidified drop specimen obtained in the contact angle measurement experiment ([Al] = 0.057 mass%, θAl2O3-Fe = 150°).

Table 1.  Comparison between directly measured contact angles by an angle gauge and indirectly calculated contact angles from 2hD/dC by assuming a spherical drop shape.
[Al] (mass%) Measured θAl2O3-Fe by an angle gauge (°) Calculated θAl2O3-Fe from 2hD/dC by assuming a spherical drop shape (°)
0.006 138.5 138.2
0.021 155.3 154.9
0.057 150.0 148.1

直接測定された溶鋼とAl2O3基板との接触角におよぼす溶鋼中Al濃度の影響をFig.4に示す。溶鋼中Al濃度の増加と共に接触角は増大するが,Al濃度が0.02 mass%以上になるとほぼ一定の接触角を示す。溶鋼中Al濃度が0.02 mass%未満の領域では,Al濃度の増加に伴い界面活性元素である酸素濃度が減少するため接触角は増大するが,Al濃度が0.02 mass%以上の領域では溶鋼は十分に脱酸され,酸素の影響は無視できるため一定の接触角をとるものと考えられる。本研究では,十分に脱酸されたAl濃度0.02 mass%以上の溶鋼で得られた接触角155.3°と150.0°を,Al脱酸溶鋼とAl2O3基板との接触角とした。

Fig. 4.

 Effect of the Al concentration in molten steel on the contact angle between molten steel and the Al2O3 plate.

3・2 Al脱酸溶鋼中におけるAl2O3円柱間の凝集力

凝集力測定実験において力計測器から出力された牽引力FT(N)の変化を溶鋼中Al濃度0.005 mass%と0.063 mass%の二例についてFig.5に示す。なお,dCYはAl2O3円柱の直径(mm),LDは回転軸からAl2O3円柱下端までの距離(mm),LUは回転軸から力計測器取り付け位置までの距離(mm),LはAl2O3円柱の長さ(mm)である。Fig.2の実験装置において可動ステージを駆動モーター側に移動させると,溶鋼中のAl2O3円柱同士を引き離す方向に力が加わり,力計測器により測定される牽引力は時間の経過と共に徐々に増大する。Al2O3円柱同士を引き離す牽引力がAl2O3円柱間の凝集力を超えた瞬間,2つのAl2O3円柱は分離すると共に,その牽引力も急激に低下する。溶鋼中Al濃度を変化させても,測定される牽引力の挙動は同じであり,その絶対値のみ溶鋼成分に応じて変化している。このため,Al2O3円柱同士が離れる瞬間の最大牽引力FT,Max(N)はそのAl濃度の溶鋼中におけるAl2O3円柱間の凝集力に相当すると考えられ,本実験方法により溶鋼中Al2O3円柱間の凝集力を溶鋼成分に応じて直接測定できることが分かる。

Fig. 5.

 Changes in the traction force outputted from the force gauge in the agglomeration force measurement experiment.

Al2O3円柱間に働く真の凝集力FA(N・m−1)は,力計測器により測定された最大牽引力から,てこの原理を用いて(3)式のように求められる。   

F A = L U / { ( L D L / 2 ) L } F T,Max (3)

Fig.6に溶鋼中Al2O3円柱間の凝集力におよぼす溶鋼中Al濃度の影響を示す。溶鋼中のAl濃度が増加するとAl2O3円柱間の凝集力は増大し,Al濃度が0.02 mass%以上になるとほぼ一定の14.86 N・m−1となる。0.02 mass%よりも低いAl濃度域で凝集力が小さくなるのは,接触角測定実験と同様に界面活性元素である溶鋼中酸素の影響と考えられるが,詳細は今後の課題である。本研究では,溶鋼中Al濃度が0.02 mass%以上で得られる一定の凝集力をAl脱酸溶鋼中におけるAl2O3円柱間の凝集力とする。Fig.7にAl脱酸溶鋼中におけるAl2O3円柱間の凝集力とAl2O3円柱の直径との関係を示す。Al2O3円柱の直径が大きくなるにつれて,溶鋼中のAl2O3円柱間に働く凝集力も大きくなる。

Fig. 6.

 Effect of the Al concentration in molten steel on the agglomeration force between the Al2O3 cylinders in molten steel.

Fig. 7.

 Relation between the agglomeration forces between the Al2O3 cylinders in Al deoxidized molten steel and the diameter of the Al2O3 cylinders.

Al濃度0.064 mass%の溶鋼中でAl2O3円柱同士を接触させ,そのまま溶解炉の電源を切って急冷した凝固鋼塊中におけるAl2O3円柱の断面写真をFig.8に示す。Al脱酸溶鋼中のAl2O3円柱同士の接触部には,空隙架橋が形成されていることが分かる。

Fig. 8.

 Cross-sectional photograph of the Al2O3 cylinders in a solidified steel ingot ([Al] = 0.064 mass%, dCY = 8 mm).

4. 考察

4・1 溶鋼とAl2O3間の接触角におよぼすAl脱酸の影響

溶鋼とAl2O3基板との接触角におよぼす溶鋼中酸素濃度[O](mass%)の影響をFig.9に示す。なお,本実験の溶鋼中酸素濃度は前述したように溶鋼中Al濃度からItohらのAl脱酸平衡の熱力学的再評価値6)を用いて求めた1600°Cにおける平衡酸素濃度,Nakashimaら7),Takiuchiら8,9)およびOginoら10)のそれらはAl脱酸していないFe-O合金の酸素分析値である。彼らの報告7,8,9,10)では,0.005 mass%以下の低酸素濃度域で溶鋼中酸素濃度の減少に伴い溶鋼とAl2O3基板との接触角は115~135°程度まで低下するが,著者の測定では150.0~155.3°と大きな接触角が得られている。彼らが測定した溶融Fe-O合金とAl2O3基板との接触角が低酸素濃度域で減少するのは,Al2O3基板の解離に起因すると報告されている7,8,9)。著者の測定結果は,溶存Alが0.02 mass%以上存在するAl脱酸溶鋼を対象としているため,Al2O3基板の解離はなく,接触角が大きくなったものと推定されるが,その詳細については以下で定量的に考察する。

Fig. 9.

 Effect of oxygen concentration in molten steel on the contact angle between molten steel and Al2O3 plate.

溶鋼とAl2O3間の接触角は,(4)式のYoungの式で表される。   

cos θ Al 2 O 3 Fe = ( σ Al 2 O 3 σ Al 2 O 3 Fe ) / σ Fe (4)

σAl2O3はAl2O3の表面張力(N・m−1),σAl2O3-Feは溶鋼とAl2O3間の界面張力(N・m−1)である。Oginoらの報告10)では,1600°CでのAl2O3の表面張力が0.75 N・m−1の一定値をとることから,溶鋼とAl2O3間の接触角は溶鋼の表面張力およびAl2O3との界面張力のバランスにより決まることが分かる。そこで,他の研究者らが測定した溶融Fe-O合金の表面張力とAl2O3との接触角7,8,9,10,11)から,溶融Fe-Al-O合金の表面張力およびAl2O3との界面張力を定式化し,それらを(4)式に適用することにより溶融Fe-Al-O合金とAl2O3間の接触角を定量的に予測する。

4・1・1 溶融Fe-Al-O合金の表面張力の定式化

Oginoら10,11),Takiuchiら8,9)およびNakashimaら7)は溶融Fe-O合金の表面張力におよぼす溶鋼中酸素濃度の影響を調査し,Table 2に示すように酸素吸着による表面張力の低下を考慮できるSzyszkowskiの式12)に基づいて測定結果を整理している。aOは溶鋼中酸素の活量を表す。なお,Table 2のNakashimaらの実験式は,彼らの測定結果7)に基づいて,著者が後述する界面張力の場合と同様の手順で定式化したものである。Keene13)は,溶融Fe-Al合金の表面張力におよぼすAl濃度の影響として,dσFe/d[Al]=−0.037 N・m−1・mass%−1を報告している。溶鋼中Al濃度が0.1 mass%程度まで増加しても表面張力の低下量は0.0037 N・m−1であり,溶融純鉄の表面張力1.90~1.97 N・m−1に比べて非常に小さい。よって,本研究のAl濃度範囲であればその影響は無視でき,溶融Fe-O合金に関するTable 2の実験式により溶融Fe-Al-O合金の表面張力も適正に評価できる。

Table 2.  Effects of oxygen concentration in molten steel on the surface tension of molten Fe-O alloy.
σFe = 1.91-0.358·ln (1+210·aO) (N·m–1) at 1873 K, Ogino et al.11)
σFe = 1.97-0.318·ln (1+200·aO) (N·m–1) at 1823 K, Takiuchi et al.8)
σFe = 1.90-0.327·ln (1+96·aO) (N·m–1) at 1873 K, Takiuchi et al.9)
σFe = 1.97-0.288·ln (1+280·aO) (N·m–1) at 1873 K, Nakashima et al.7)

4・1・2 溶融Fe-Al-O合金とAl2O3間の界面張力の定式化

溶鋼とAl2O3間の界面張力についても,表面張力と同様に,溶鋼中酸素を界面活性元素とする(5)式のSzyszkowskiの式12)を適用する。   

σ Al 2 O 3 Fe = σ Al 2 O 3 Fe P R T Γ O,I S ln ( 1 + K O,I a O ) (5)

ここで,σPAl2O3-Feは溶融純鉄とAl2O3間の界面張力(N・m−1),Rは気体定数(N・m・K−1・mol−1),Tは絶対温度(K),ΓSO,Iは溶鋼とAl2O3間の界面における酸素の飽和過剰量(mol・m−2),KO,Iは溶鋼とAl2O3間の界面における酸素の吸着係数である。また,溶鋼中酸素が溶鋼とAl2O3間の界面に吸着する場合,酸素の界面過剰量ΓO,I(mol・m−2)は(6)式のGibbsの等温吸着式で表される。   

Γ O,I = 1 / ( R T ) d σ Al 2 O 3 Fe / d ( ln a O ) (6)

Fig.10に溶鋼とAl2O3間の界面張力におよぼす溶鋼中酸素濃度の影響を示す。図中のデーターは,Table 2の表面張力,Fig.9の接触角およびAl2O3の表面張力0.75 N・m−1を用いて(4)式から求めた溶融Fe-O合金とAl2O3間の界面張力である。Fig.9の接触角と同様に,溶鋼中の酸素濃度が0.005 mass%以下になると,Al2O3の解離に起因する界面張力の低下が生じている。しかし,溶融Fe-Al-O合金ではAl2O3の解離が生じないため,酸素濃度が0.005 mass%以下まで減少してもその界面張力は低下せず,酸素濃度の減少と共に(5)式に沿って増加すると予想される。一方,高酸素濃度の溶鋼とAl2O3基板との界面にはFeO・Al2O3(ハーシナイト)が生成することが,Oginoら14),Takiuchiら8)およびNakashimaら7)により報告されている。McLean and Ward15)によれば1600°CにおいてAl2O3とFeO・Al2O3が共存する酸素濃度は0.058 mass%であることから,厳密にはその酸素濃度以上のデーターは,界面に存在するFeO・Al2O3の影響を受ける可能性がある。よって,溶融Fe-Al-O合金とAl2O3間の界面張力は,Fig.10のAl2O3解離とFeO・Al2O3生成のない溶鋼中酸素濃度0.005~0.058 mass%におけるデーターを満足する(5)式により定式化することができる。σPAl2O3-FeFig.10のデーターを酸素濃度0 mass%まで外挿することにより,またΓSO,IはσAl2O3-Feとln aOとの関係に(6)式を適用して得られるΓO,Iの飽和値より求めた。さらに,ここで得られたσPAl2O3-FeとΓSO,Iを代入した(5)式によりFig.10の酸素濃度0.005~0.058 mass%におけるデーターを最もよく表すように,KO,Iの値を試行錯誤的に決定した。なお,Oginoら10,11),Takiuchiら8,9)およびNakashimaら7)の測定では溶融Fe-O合金を用いていること,解析対象は0.058 mass%以下の酸素濃度域であり,学振推奨平衡値16)を用いて酸素の活量係数を見積もっても1~0.98程度であることから,aO≒[O]と見なすことができた。これにより得られた溶融Fe-Al-O合金とAl2O3間の界面張力に関する実験式をTable 3にまとめて示すと共に,その計算値を研究者別にFig.10に示す。これらの計算値は,酸素濃度0.005~0.058 mass%の範囲で,各研究者による溶融Fe-O合金とAl2O3間の界面張力のデーターとほぼ一致し,0.005 mass%以下の低酸素濃度域でも酸素濃度の減少と共に増加することから,Table 3の実験式は溶融Fe-Al-O合金とAl2O3間の界面張力を概ね再現すると考えられる。

Fig. 10.

 Effect of oxygen concentration in molten steel on the interfacial tension between molten steel and Al2O3 plate.

Table 3.  Effects of oxygen concentration in molten steel on the interfacial tension between molten Fe-Al-O alloy and Al2O3.
σAl2O3-Fe = 2.60-1.049·ln (1+176·aO) (N·m–1) at 1873 K, Ogino et al.
σAl2O3-Fe = 2.60-0.660·ln (1+208·aO) (N·m–1) at 1823 K, Takiuchi et al.
σAl2O3-Fe = 2.60-0.834·ln (1+121·aO) (N·m–1) at 1873 K, Takiuchi et al.
σAl2O3-Fe = 2.20-0.275·ln (1+635·aO) (N·m–1) at 1873 K, Nakashima et al.

4・1・3 Al脱酸溶鋼とAl2O3間の接触角に関する妥当性の検証

溶融Fe-Al-O合金に関して定式化したTable 2の表面張力とTable 3の界面張力を(4)式に代入して計算した溶融Fe-Al-O合金とAl2O3間の接触角を,研究者別にFig.9に示す。実測値のばらつきを考慮すると,計算された接触角はAl2O3の解離がなく,且つ界面にFeO・Al2O3が生成しない条件,すなわち0.005~0.058 mass%の酸素濃度範囲で,各研究者による測定値と比較的よく一致するため,0.005 mass%以下の低酸素濃度域まで含めて溶融Fe-Al-O合金とAl2O3間の接触角を適正に表していると考えられる。

そこで,本実験で測定されたAl脱酸溶鋼とAl2O3間の接触角をこれらの計算結果と比較することにより,その妥当性を検証する。Fig.4の接触角とFig.6の凝集力の両者が0.02 mass%以上のAl濃度で一定値を示すことから,Al脱酸溶鋼の代表Al濃度を0.02 mass%として,その平衡酸素濃度を求めると0.0009 mass%6)を得る。Fig.9から分かるように,この酸素濃度において見積もられるAl脱酸溶鋼とAl2O3間の接触角は,各々156.4°(Oginoら,1600°C),154.8°と160.2°(Takiuchiら,1550°Cと1600°C),および134.0°(Nakashimaら,1600°C)で,それらの平均接触角は151.3°となる。実測されたAl脱酸溶鋼とAl2O3間の接触角150.0°と155.3°は,研究者別に計算された接触角の範囲(点線と二点鎖線の間で134.0~160.2°の範囲)内にあると共に,その平均接触角152.6°は先に計算された接触角の平均値ともよい一致を示す。したがって,実測値から求めた平均の接触角152.6°は,Al脱酸溶鋼とAl2O3間の接触角として妥当な値と判断される。

4・2 溶鋼中Al2O3円柱間に働く凝集力の起源

溶鋼中のAl2O3円柱間に働く凝集力として,(a)Al2O3に濡れ易い溶融酸化物による液架橋力,(b)van der Waals力,(c)溶鋼がAl2O3と濡れ難いことに起因する空隙架橋力が考えられる17,18,19)

(a)について,著者らは溶鋼の激しい再酸化で生成した溶融FeOやCa処理で生成した溶融TiO2-CaO-Al2O3がAl2O3介在物間に液架橋を形成し,溶鋼中でAl2O3介在物同士が凝集することを報告している17,18,19)。しかし,本実験では通常のAl脱酸溶鋼と同様に,溶鋼はAlで十分に脱酸され,溶鋼中にFeO等の溶融酸化物が存在しないこと,さらにAl2O3円柱間にも溶融酸化物は観察されないことから,Al2O3円柱間の凝集力は(a)液架橋力によるものとは考えられない。

そこで,以下では溶鋼中のAl2O3円柱間に働く凝集力が,(b)van der Waals力と(c)空隙架橋力の何れに起因して発生するかを,各相互作用モデルを用いて定量的に検討する。

4・2・1 van der Waals力による凝集力

一般に,液体中で固体粒子同士が接近した時に働く相互作用は,主に拡散電気二重層の重なり合いによる反発力と分散力(van der Waals力)からなる。溶鋼中のAl2O3粒子においては拡散電気二重層を考慮する必要がないため1),本実験の二等円柱Al2O3同士には近似的に(7)式で示されるvan der Waals力による凝集力FA,V(N・m−1)のみが作用する20)。   

F A,V = H r CY 0.5 / ( 16 a 2.5 ) (7)

ここで,HはHamaker定数(J),rCYはAl2O3円柱の半径(m),aはAl2O3円柱間の表面距離(m)でa≪rCYの条件を満たす。実験で使用したAl2O3円柱は真円ではなく,表面に粗さを持っている。Al2O3円柱の粗さ(凹凸差)をb(m)とし,平均的なAl2O3円柱の形状を凹凸の中間位置にその表面がある真円とすると,Al2O3円柱間の表面距離は近似的にaからa+bに遠ざかったものと見なせる。このため,表面粗さを考慮した二等円柱Al2O3間のvan der Waals力による凝集力は(8)式で表され,表面粗さのないそれの{a/(a+b)}2.5倍に低下する。   

F A,V = H r CY 0.5 / { 16 ( a + b ) 2.5 } = { a / ( a + b ) } 2.5 H r CY 0.5 / ( 16 a 2.5 ) (8)

鉄を媒介とするAl2O3粒子間のHamaker定数はTaniguchiら2)により報告されており,2.3×10−20 Jである。(8)式から分かるようにvan der Waals力は二物体が接近するにつれて大きくなるため,最大凝集力を見積もる意味で最近接の表面距離として4×10−10 mを用いた21)。また,実験に使用したAl2O3円柱の断面を写真撮影し,表面の凹凸差を評価したところ表面粗さの平均値は4.6×10−6 mであった。以上の値を(8)式に代入し,6~10 mm直径の二等円柱Al2O3間のvan der Waals力による凝集力を計算すると,1.78×10−9~2.30×10−9 N・m−1となる。この凝集力はFig.7の凝集力に比べて非常に小さいことから,溶鋼中の二等円柱Al2O3間に働く凝集力の起源は,van der Waals力ではないと考えられる。

4・2・2 空隙架橋力による凝集力

溶鋼との濡れ性が悪いAl2O3円柱同士が接触すると,Fig.8に示すようにAl2O3円柱間に空隙架橋が形成される。この場合,二等円柱Al2O3間に生じる凝集力FA,S(N・m−1)は空隙架橋と溶鋼間の圧力差ΔPFe(Pa)と,溶鋼の表面張力に起因する力の和で表され,(9)式となる。   

F A,S = 2 X 4 Δ P Fe + 2 σ Fe (9)

X4は空隙架橋頸部の半幅(m)である。幾何学的条件から(10)式の関係が得られる。   

X 4 2 + 2 R 3 X 4 + 2 R 3 r CY cos θ Al 2 O 3 Fe = 0 (10)

R3は空隙架橋の曲率半径(m)である。Laplaceの関係より(11)式が成り立つ。   

Δ P Fe = σ Fe / R 3 (11)

(10)式および(11)式よりR3を消去して整理すると,X4に関して(12)式が得られる。   

Δ P Fe X 4 2 + 2 σ Fe X 4 + 2 σ Fe r CY cos θ Al 2 O 3 Fe = 0 (12)

(12)式からX4を求めると(13)式となる。   

X 4 = { σ Fe + ( σ Fe 2 2 σ Fe Δ P Fe r CY cos θ Al 2 O 3 Fe ) 0.5 } / Δ P Fe (13)

したがって,(13)式を用いてX4を求め,この値を(9)式に代入することにより,空隙架橋力による二等円柱Al2O3間の凝集力を算出することができる18,19)

Table 2の各式からAl脱酸溶鋼の平衡酸素濃度0.0009 mass%において算出した表面張力の平均値1.884 N・m−1をAl脱酸溶鋼の表面張力とした。さらに,Al脱酸溶鋼とAl2O3間の接触角は152.6°であった。これらの値とΔPFeの予想値を用いて,(9)式と(13)式から計算した二等円柱Al2O3間の単位長さ当たりの凝集力をFig.7に示す。空隙架橋内の圧力は正確には分からないが,Feの蒸気圧8.2 Pa(1600°Cで)以上であり,溶鋼静圧+大気圧1.05×105 Paよりも小さな値と考えて良い。空隙架橋内の圧力をFeの蒸気圧,すなわちΔPFeを1.05×105 Paと仮定すると,Fig.7の点線で示される凝集力の計算値は実験値の5倍程度と少し大きくなるが,両者はオーダー的には等しく,凝集力に対するAl2O3円柱の直径依存性も類似している。さらに,空隙架橋内の圧力を1.01×105 PaとするとΔPFeは3.86×103 Paとなり,実線で示される凝集力の計算値は実験値と良く一致する。また,ΔPFeが3.86×103 Paの場合,(13)式から求まるX4の値は1.44 mmであり,Fig.7の空隙架橋頸部の半幅1.35 mmともほぼ対応する。

以上の結果から,溶鋼中のAl2O3粒子間に働く凝集力は,Al脱酸溶鋼と濡れ難いAl2O3粒子間の空隙架橋力を起源として発生するものと考えられる。

4・3 溶鋼中Al2O3介在物の凝集維持機構

本実験結果を基にAl脱酸溶鋼中の球形Al2O3介在物に作用する凝集力を見積もる。Fig.8のように,二等球Al2O3介在物間に空隙架橋が形成されると,その凝集力FA,S(N)は(14)式で表される。   

F A,S = π R 4 2 Δ P Fe + 2 π R 4 σ Fe (14)

ここで,R4は空隙架橋頸部の半径(m)である。Al2O3介在物が球形状であっても,円柱形状の場合の(10)式と同様に,(15)式の幾何学的条件が成立する。   

R 4 2 + 2 R 3 R 4 + 2 R 3 r cos θ Al 2 O 3 Fe = 0 (15)

rは球形Al2O3介在物の半径(m)である。Laplaceの関係より(16)式が成り立つ。   

Δ P Fe = σ Fe ( 1 / R 3 1 / R 4 ) (16)

(15)式および(16)式よりR3を消去して整理すると,R4に関して(17)式が得られる。   

Δ P Fe R 4 2 + 3 σ Fe R 4 + 2 σ Fe r cos θ Al 2 O 3 Fe = 0 (17)

(17)式からR4を求めると(18)式となる。   

R 4 = { 3 σ Fe + ( 9 σ Fe 2 8 σ Fe Δ P Fe r cos θ Al 2 O 3 Fe ) 0.5 } / ( 2 Δ P Fe ) (18)

よって,(18)式を用いてR4を求め,この値を(14)式に代入することにより,空隙架橋力による二等球Al2O3介在物間の凝集力を算出できる18,19)。Al脱酸溶鋼の表面張力を1.884 N・m−1,Al脱酸溶鋼とAl2O3介在物の接触角を152.6°,ΔPFeを3.86×103 Paとして,空隙架橋力による二等球Al2O3介在物間の凝集力とAl2O3介在物粒径d(μm)との関係を計算し,Fig.11に実線で示す。溶鋼中でアルミナクラスターを構成している個々のAl2O3介在物は1~10 μm程度の粒径であるから,Al脱酸溶鋼中のAl2O3介在物間には3.50×10−6~3.51×10−5 Nの凝集力が作用することが分かる。

Fig. 11.

 Relation between the agglomeration force between two isospherical Al2O3 inclusions due to cavity bridge force and the diameter of Al2O3 inclusions.

Al2O3介在物に働く浮力FB(N)は(19)式により評価できる。   

F B = 4 π r 3 ( ρ Fe ρ Al 2 O 3 ) g / 3 (19)

ρAl2O3はAl2O3介在物の密度で3970 kg・m−3である。球形Al2O3介在物に働く浮力とその粒径との関係を(19)式から算出し,Fig.11に点線で示す。粒径1~10 μmの球形Al2O3介在物には,1.56×10−14~1.56×10−11 Nの浮力が作用する。また,Al2O3介在物が溶鋼との相対運動によって受ける抗力FD(N)は(20)式で表される。   

F D = C D ρ Fe v 2 S / 2 (20)

CDは抗力係数,vは溶鋼流速(m・s−1),Sは介在物粒子の流動方向への投影面積(m2)で球形介在物ではπ・r2である。抗力係数は粒子のReynolds数ReP(=2r・v/ν)が1000以下で実験値とよく一致する(21)式21)を用いて推定できる。   

C D = 24 ( 1 + 0.158 Re P 2 / 3 ) / Re P (21)

なお,溶鋼の動粘性係数νは7.14×10−7 m2・s−1とした。Fig.11に(20)式を用いて計算した球形Al2O3介在物に働く抗力とその粒径との関係を一点鎖線で示す。ここで,溶鋼流速としては,連続鋳造工程で最も速いと考えられる浸漬ノズル内の溶鋼流速を想定し,2 m・s−1とした。粒径1~10 μmの球形Al2O3介在物に作用する抗力は,1.24×10−7~2.32×10−6 Nである。Fig.11の空隙架橋力による二等球Al2O3介在物間の凝集力は,Al2O3介在物に働く浮力や抗力に比べて大きいため,一旦空隙架橋を生成して接触したAl2O3介在物同士は容易に分離されることなく凝集状態を維持し,その後焼結して比較的強固に結合したアルミナクラスターを形成するものと考えられる。

5. 結言

溶鋼中でのA2O3介在物の凝集合体を界面化学的な相互作用の観点から明らかにするための基礎研究として,溶鋼中のA2O3粒子間に働く凝集力を溶鋼流動の影響と分離して直接測定すると共に,Al脱酸溶鋼とAl2O3基板との接触角を実測し,その値の妥当性を定量的に検証した。さらに,これらの結果と界面物性を考慮した相互作用モデルに基づき,溶鋼中のA2O3粒子間に作用する凝集力の起源およびA2O3介在物が溶鋼流動下で凝集状態を維持する機構を解析した。得られた結論は以下の通りである。

(1)Al脱酸溶鋼(Al濃度≧0.02 mass%)とAl2O3基板との接触角は152.6°であり,既に他の研究者らにより測定された溶融Fe-O合金とAl2O3基板との接触角よりも大きな値を示す。これは,溶融Fe-O合金中ではAl2O3基板が解離するのに対し,Al脱酸溶鋼中では溶存Alの影響でAl2O3基板の解離が起こらないためだと考えられる。

(2)Nakashimaら,Takiuchiら,およびOginoらが測定した溶融Fe-O合金の表面張力とAl2O3基板との接触角から,溶融Fe-Al-O合金の表面張力およびAl2O3基板との界面張力を定式化し,それらをYoungの式に適用することにより溶融Fe-Al-O合金とAl2O3間の接触角を定量的に予測した。本研究で得られたAl脱酸溶鋼とAl2O3基板との接触角をこれらの予測値と比較することにより,その妥当性を検証した。

(3)溶鋼中のA2O3粒子間に働く凝集力を溶鋼流動の影響と分離して直接測定する新たな実験手法を確立し,これを用いてAl脱酸溶鋼中のA2O3粒子間に大きな凝集力が作用することをはじめて実証した。

(4)Al脱酸溶鋼中におけるA2O3粒子間の凝集力は,van der Waals力ではなく,溶鋼がAl2O3と濡れ難いために発生する空隙架橋力に起因する。

(5)Al脱酸溶鋼中における空隙架橋力によるA2O3介在物間の凝集力は,Al2O3介在物に働く浮力や抗力に比べて大きいため,一旦接触したAl2O3介在物同士は溶鋼流動下でも容易に分離されることなく凝集状態を維持し,その後焼結して比較的強固に結合したアルミナクラスターを形成する。

文献
 
© 2015 The Iron and Steel Institute of Japan

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