Tetsu-to-Hagane
Online ISSN : 1883-2954
Print ISSN : 0021-1575
ISSN-L : 0021-1575
Regular Article
High-temperature in-situ TEM Straining of the Interaction with Dislocations and Particles for Cu-added Ferritic Stainless Steel
Shuhei KobayashiKenji KanekoKazuhiro YamadaMasao KikuchiNorihiro KannoJun-ichi Hamada
Author information
JOURNAL OPEN ACCESS FULL-TEXT HTML

2015 Volume 101 Issue 6 Pages 315-318

Details
Synopsis:

Cu is always present in the matrix when ferritic steels were prepared from ferrous scrap. When the ferritic steels are aged thermally, Cu precipitates start appearing and dispersing finely and homogeneously, which may result the steels strengthened by precipitation hardening. In this study, the interactions between Cu precipitates and dislocations were examined via high-temperature in-situ TEM straining. Cu-added ferritic stainless steel (Fe-18.4%Cr-1.5%Cu) was used in the present study. Specimen was aged at 1073 K for 360 ks. Microstructure of specimen was analyzed by JEM-3200FSK and high-temperature in-situ TEM straining was conducted using JEM-1300NEF. Progressing dislocations in matrix contacted with the Cu precipitate at right angle. This result implies that there is an attractive interaction between dislocations and the Cu precipitate. Furthermore, dislocations pass through the particle after contacting it, so that the interaction with dislocations and particles should be explained by Srolovitz mechanism.

1. 緒言

現在,鉄鋼材料においては二酸化炭素排出量の抑制や資源のリサイクルのため鉄スクラップの再利用が進められている。しかしながら,鉄スクラップは様々な鉄鋼製品のスクラップの集合体であるため,鉄以外の不純物元素の混入が不可避である。中でもCuやSnを始めとするトランプエレメントは酸化精錬等による除去が非常に困難であり1),リサイクルを繰り返すと鉄スクラップ中で残留量が増加してしまう。特にCuは自動車内の電装部品,例えばワイヤーハーネスやモーターに多く含まれていることから2),今後電気自動車の利用が増加するにつれ,これらの電装部品の使用量が増加し鉄スクラップ中のCuの残留は避けられない。その結果,高温で残留したCuが粒界に浸潤し加工の際に表面に割れが生じる赤熱脆性の要因となる3)。そのため赤熱脆性の原因であるCuの除去を試みる研究がこれまで行われてきているが4,5),未だコストなどの面からCuの完全な除去は実用化には至っていない。一方,圧延技術の発達により赤熱脆性を引き起こさない温度での熱間加工が可能となったこと6)や赤熱脆性の抑制に有効なNiやBなどの元素の添加7,8)により,赤熱脆性が発現することなく加工が行えるようになりつつある。そのため,最近では資源の有効利用のため鉄スクラップ中に残留するCuを強化元素として活用することが期待されている。また,ステンレス鋼では赤熱脆性が生じないため9),耐食性10),抗菌性11)および耐熱性12)の観点からCuが積極的に添加される場合がある。

鉄中に存在するCu原子はC原子に比べ拡散が遅いため13),析出するCu粒子の成長はセメンタイトに比べ遅く,母相中で微細かつ均一に分散することが知られ14),粒子分散強化による鉄鋼材料の更なる高強度化が期待されている。粒子分散強化は析出物が転位の運動を妨げるなど転位と析出物が相互作用を起こすことにより材料が強化されるものである。当然ながら,粒子のサイズや転位組織など微視的な構造によって転位と析出物の相互作用の機構は異なる。このため,粒子分散強化メカニズムの解明には転位と析出物の相互作用の機構を決定する必要があり,その際微視的な構造の把握が必要不可欠である。

フェライト系Cu含有鋼は時効処理の結果,析出強化することが知られている15)。これまでにCu析出物と転位の相互作用のメカニズムは,引張前後の静的な観察結果を元に議論され,室温で粒子径が70 nm以下のCu粒子の場合,転位が粒子をせん断して通過するCutting機構であると推測されている15)。また,高温(873 K)では室温の場合と異なり,転位/Cu粒子間の相互作用がSrolovitz機構に基づくことが示唆されている16)。しかしながら,実時間で転位が鉄母相中をどのように運動し,Cu粒子と転位がどのような相互作用を起こすのかといった動的な観察結果は得られておらず,これまでは静止画像からの判断に頼らざるを得なかったため早くから動的な観察が望まれていた。

動的な観察を行う一つの手法として,電子顕微鏡内で引張加重をかけながらの観察が可能な引張その場観察が挙げられる。FraczkiewiczらはFe-Al-Ni-B合金に対しTEM内引張その場観察を行い,転位のすべり面,すべり方向,さらに転位の分解・収縮反応を解明している17)。またYamadaらはTi,Mo添加鋼に対してTEM内引張その場観察を行い,転位の正確な張り出し角や分散粒子によって転位のすべり運動が抑制される様子を捉え,粒子分散強化における機構の決定を行っている18)。このようにTEM内引張その場観察を用いると,転位と粒子の動的な観察を行うことが可能であるため,粒子分散強化機構を解明する上で欠かせない手法である。

本研究では,超高圧電子顕微鏡を用い高温引張変形中の試料内部の析出物と転位の動的な観察を行うことで,Cu添加フェライト系ステンレス鋼における高温強化機構の解明を行うことを目的とした。

2. 実験方法

2・1 供試鋼と熱処理

供試鋼の組成をTable 1に示す。試料の熱処理は真空溶解後Fig.1に示すとおり,1473 Kで3.6 ks加熱し板厚50 mmに熱間鍛造を行い,その後1423 Kで3.6 ks加熱し板厚5 mmに熱間圧延を施し空冷した。その後1273 Kで60 s焼鈍処理を行い,板厚0.3 mmに冷間圧延を施し,1223 Kで焼鈍処理を行い空冷した。本研究では数百nm程度のCu粒子の高温その場観察を行うため,引張試験と同温度である1073 Kで360 ksの時効処理を行い,鉄母相中にCu粒子を分散させた。

Table 1. Chemical compositions of steel (mass%).
CSiMnPSNiCrMoCu
0.0010.030.0010.0010.00060.118.40.011.53
Fig. 1.

 Processing and heat treatments.

2・2 TEM観察用試料作製

Fig.1に示す熱処理を施した試料から,ワイヤーカット放電加工機(ファナック(株)製 FANUC ROBOCUT α-0iC)を用いてFig.2に示す高温引張その場観察用の試料を切り出した。試料中央にあるV字型のノッチにより破断領域を限定することが出来る形状となっている。放電加工機で試料を成形後,エメリー紙による湿式研磨,アルミナ懸濁液によるバフ研磨を行った。薄膜領域の作製には集束イオンビーム(FEI社製,Quanta 3D 200i)法を用い,V字型ノッチの直下に約10 μm×10 μm,厚さ約300~500 nmの薄膜領域を作製した。また,静的TEM観察に用いた試料はbcc-Feの磁性の影響を低減させるため,研磨後の試料からFIB法を用いて微小領域を抽出しMoグリッドに貼り付け,TEM薄膜試料とした。

Fig. 2.

 Shape of the sample for high-temperature in-situ TEM straining experiment.

2・3 静的観察(TEM観察)

静的観察には日本電子社製JEM-3200FSK(加速電圧:300 kV)を用い,透過型電子顕微鏡(TEM)により析出物と転位の明視野像,暗視野像および制限視野回折像を得た。さらにそれぞれの元素の分布状態を把握するため,走査型透過電子顕微鏡(STEM)とエネルギー分散型X線分光法(EDS)法を組み合わせ,元素マップを取得した。

2・4 動的観察(TEM内高温引張その場観察)

TEM内高温引張その場観察には,超高圧電子顕微鏡(JEM-1300NEF,加速電圧:1250 kV)と加熱・引張用の一軸傾斜ホルダー(GATAN社製,Model 672)を用いた。引張試験温度は,耐熱フェライト系ステンレス鋼でCu添加による高温強度向上が報告12)されている1073 Kとした。引張試験を行う際,転位の運動を確認後引張を一時停止し残留応力による転位の運動を観察した。これを試料の一部が破断するまで繰り返し行った。

3. 実験結果

3・1 析出物の組成および結晶構造

高温引張を行う前の試料の明視野像をFig.3に示す。視野中では矢印で示すように1 μm~2 μmの長さを有する棒状の析出物や,数百nm程度の楕円体状の析出物が分散しており,数密度は0.188/μm2である。明視野像の上部と下部ではコントラストが大きく異なっているが,これは試料上部に行くに従い試料が厚くなっていることに起因する。

Fig. 3.

 Low-magnified bright-field TEM image of the region of interest before conducting the high-temperature in-situ TEM straining experiment.

試料の元素分布を調べるためSTEM-EDSを行い得た元素マップをFig.4に示す。析出物中ではCuが濃くなっており,FeやCrなど他の元素は母相と比べ薄くなっていることから,析出物がCuを含むことが判明した。

Fig. 4.

 Bright-field STEM image (a) and EDS elemental maps of the region including precipitate, (b) Cu, (c) Fe and (d) Cr, respectively. (Online version in color.)

次に別視野での析出物の明視野像,暗視野像およびその制限視野電子線回折像をFig.5に示す。明視野像では視野中央に長さが約300 nm程度の楕円体状の析出物が存在している。また,電子線回折像より灰色の丸で囲んだ回折斑点から得られた暗視野像では,明視野像の析出物に対応した粒子が明るくなっていることから丸で囲んだ回折斑点は析出物起因の回折斑点であると考えられる。さらに,その回折斑点の解析を行った結果fcc構造のCuであることが確認された。電子線回折像より母相を構成しているFeとCu析出物の間にはKurdjumov-Sachsの方位関係(011)bcc-Fe//(111)fcc-Cu,〔1-11〕bcc-Fe//〔0-11〕fcc-Cuが存在することが判明した。

Fig. 5.

 Bright-field TEM image (a), dark-field TEM image (b) and selected-area electron-diffraction pattern (c) from the region including precipitate.

3・2 析出物と転位の相互作用

TEM内高温引張その場観察で得られた析出物と転位の相互作用に着目した動画の一部とその際の模式図をFig.6に示す。Fig.6-(a)の視野中央には,粒子径が約80 nmのCu析出物が存在しており,転位は析出物から離れた位置に存在している。Fig.6-(b)では転位は析出物に引き寄せられるように進入している。Fig.6-(c)では転位が析出物に引きずられており,更に新しい転位が析出物に進入している様子が観察された。Fig.6-(d)では,Fig.6-(a)から存在していた転位が粒子を完全に通過し,Fig.6-(c)で析出物に進入してきた新たな転位は析出物に引きずられている。その際,転位は[1-1-1]方向にすべっており,析出物に対して垂直に接していた。

Fig. 6.

 Bright-field TEM images from (a) to (d) for high-temperature in-situ TEM straining showing the interaction between dislocations and precipitates, and schematic diagram of them from (a)’ to (d)’, respectively.

4. 考察

Fig.6に示すように転位が析出物を通過する際,転位は析出物に引き寄せられるような動きをしており,さらにCu析出物に対して垂直に接していた。この結果から,Cu添加フェライト系ステンレス鋼の高温(1073 K)における粒子分散強化機構は引力型であるSrolovitz機構19)であると考えられる。

これまでの研究により粒子分散強化機構がSrolovitz機構を示す場合,転位の応力場が格子拡散と粒子/母相間の界面拡散,すべりによって緩和されることがわかっている19)。アレニウスの法則に従い1073 Kおよび室温での拡散係数をそれぞれD1,D2とすると   

D1=D0exp(Q/RT1)(1)
  
D2=D0exp(Q/RT2)(2)

となる。ここで,Qは格子拡散の活性化エネルギー(239 kJ/mol)20),D0は拡散定数,Rは気体定数,T1,T2はそれぞれの温度である。ここで,(1)式および(2)式よりD1/D2を計算すると約1030となるため,1073 Kでは格子拡散が容易に起こると考えられる。またChadwickらやWatanabeらの報告によると粒界拡散や界面すべりに関して整合性が悪い場合,粒界拡散係数および界面すべり速度が大きくなることが分かっている21,22)。このため本研究においては,bcc構造のフェライト鉄中にfcc構造のCu析出物が存在していることから整合性が悪く,粒界拡散係数および界面すべり速度も大きいと考えられる。そのためCu添加フェライト系ステンレス鋼の1073 Kにおける粒子分散強化機構は格子拡散,粒子/母相間の界面拡散,またすべりによって転位の応力場が緩和された結果,Srolovitz機構を示したと考えられる。

5. 結言

Cu添加フェライト系ステンレス鋼の高温(1073 K)における粒子分散強化機構を解明するため,TEM内高温引張その場観察を行い転位と粒子の相互作用について調査し,以下の結論を得た。

(1)析出物はfcc構造のCuからなり,母相とはKurdjumov-Sachsの関係(011)bcc-Fe//(111)fcc-Cu,〔1-11〕bcc-Fe//〔0-11〕fcc-Cuを有していた。

(2)粒子分散強化機構は引力型であるSrolovitz機構であり,これは格子拡散と粒子/母相間の界面拡散とすべりによって転位の応力場が緩和されたためと考えられる。

文献
 
© 2015 The Iron and Steel Institute of Japan

This article is licensed under a Creative Commons [Attribution-NonCommercial-NoDerivatives 4.0 International] license.
https://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/4.0/
feedback
Top