2015 Volume 101 Issue 6 Pages 319-328
Model rolling experiment has been conducted to investigate strip warpage behavior during single roll driven rolling. It became clear that direction of strip warpage changes with change in so-called rolling shape factor which is defined as ratio of contact arc length to strip thickness. In case of the shape factor being small, rolled strip tends to warp toward the idle roll side, which is the consequence of larger exit velocity of the rolled strip for the driven roll side due to higher peripheral velocity of the driven roll. On the other hand, in case of larger shape factor, rolled strip tends to warp toward the driven roll side owing to larger forward slip ratio caused by larger thickness reduction for the idle roll side. In addition, two dimensional steady-state rolling analyses by a rigid plastic finite element method have been conducted to investigate mechanism of the strip warpage behavior. Utilizing fine FE mesh and precise boundary conditions, the results of analyses have shown good agreement both qualitatively and quantitatively in strip warpage behavior with the experimental results mentioned-above. Moreover elaborate mechanical investigation based on the FE analyses have revealed the fact that rolling deformation is realized by a set of macroscopic shear bands which penetrate strip thickness and are inclined with respect to the strip thickness direction, and it is concluded that intensity and configuration of the shear bands determine strip warpage behavior.
通常の板圧延プロセスでは,上下のワークロール(以下WR)は上下対称な圧延変形を実現するようにミルモータによって回転数を制御される。これとは対照的に,異周速圧延技術は被圧延材の非対称変形による,様々な効果を得るために開発されてきた。片側駆動圧延は,上下WRの一方を駆動し,他方を非駆動とする,最も単純な異周速圧延法の一つであり,圧延荷重を低減する効果的な方法として検討がなされている1)。これは,非対称圧延においてはロールバイト(以下RB)内にいわゆるクロスシャー領域が発生するためである。
異周速圧延にはこのような利点がある一方で,問題になるのが被圧延材の反りである。圧延ラインにおいて,被圧延材に過大な反りが発生すると,圧延設備に深刻な損傷を与えると共に,予定外のライン停止を生じることとなる。それゆえ,圧延における反り挙動に関してはこれまでにも多くの研究がなされている。Collins らは,すべり線場法を用いて,異周速圧延では高速WR側の方向に反りが発生する場合があること,圧下率により反り方向が逆転することなどを説明した2,3)。Motomura and Tanakaは,モデル圧延実験を行い,上下異径ロール圧延における反り特性を示した4)。Kiuchi and Hsiangは,極限解析法を用いて圧延反り挙動に与える入射角の影響について報告した5)。Hamauzuらは,モデル圧延実験により被圧延材の変形抵抗上下差,および摩擦係数の上下差が圧延反り挙動に与える影響について調査した6)。
このように多くの報告がなされているが,片側駆動圧延における圧延反り挙動についての報告は1960年代にZorowski and ShuttやHolbrook and Zorowskiによる検討があるものの7,8,9),その後の報告事例は少ない10,11)。そこで本報では,広範な圧延条件下でモデル圧延実験および剛塑性有限要素法による数値解析を行い,片側駆動圧延における圧延反り挙動について調査し,反り特性に関わる主因子とその作用,メカニズムについて検討した結果について述べる。
片側駆動圧延における圧延反り挙動の特性を調査するため,Table 1に示す条件でモデル圧延実験を実施した。本実験では被圧延材としてアルミ板を用い,無潤滑条件で圧下率を2%から40%まで変化させた。
Rolled material | Aluminum (A1050-H24) |
---|---|
Material dimensions [mm] | 3.0t × 50w × 1250L |
Roll diameters [mm] | Work roll: 80 Backup roll: 160 |
Drive mode | 1. Top driven/Bottom idle 2. Top idle/Bottom driven |
Reduction in thickness [%] | 2, 5, 7, 10, 15, 20, 30, 40 |
Peripheral speed of driven WR [rpm] | 4.0 |
Lubrication | Dry |
Fig.1に圧延実験の概略図を示す。片側駆動圧延を実行するために,ツインドライブ圧延機の一方のWRについて駆動装置とのジョイントを外し,非駆動とした。この処置により,非駆動WRの回転数が測定できなくなるため,ロータリーエンコーダをWRに接触させ,WRの周速度を測定した。また,自重の影響を調査するため,上WR駆動−下WR非駆動条件と,上WR非駆動−下WR駆動条件の両条件で圧延した。圧延は被圧延材の噛み込みからおよそ6秒程度行った後にミルモータの駆動を停止し,噛み止めた。
Schematic view of the single roll driven rolling experiment. (Online version in color.)
Fig.2に圧延後の被圧延材反り形状を示す。駆動WRを上下入れ替えた場合,反り形状もほぼ上下対称に反転しており,今回の圧延条件の範囲では自重の影響は有意でないと考えられる。
Warped strip shapes after single roll driven rolling. (Online version in color.)
Fig.3に,本実験結果における圧延形状比と反り曲率との関係を示す。圧延形状比Γは投影接触弧長ldとRB内の平均板厚hmとの比であり,式(1)で算出した。ここで,ldは式(2)で,hmは式(3)でそれぞれ示される。R'は扁平WR半径,H,hはそれぞれ入側板厚,出側板厚である。扁平WR半径R'は実績荷重からHitchcockの扁平ロール式を用いて算出した。また,ρはFig.4に例示するように圧延後の試験材反り形状を,RB圧痕部を除き円弧近似した曲率半径である。Fig.3では,反り曲率半径ρをWR半径Rで規格化している。
(1) |
(2) |
(3) |
Strip curvature change with the shape factor.
Approximated radius of warped strip shape. (Online version in color.)
Fig.3より,圧延形状比が1.2以下では板は非駆動WR側に反り,一方で圧延形状比が1.2より大きい条件では反り方向が反転し,板は駆動WR側に反ることが確認できる。
この実験で得られた反り挙動についてより詳細に考察を行うため,WR周速度および先進率について調査を行った。
(1)WR周速度
Fig.5にロータリーエンコーダで測定した上下WR周速度の測定例を示す。データ測定開始から約4秒後に被圧延材が噛み込み,それから停止していた非駆動側の上WRが回転を開始しているが,非駆動側の上WR周速度は駆動側の下WR周速度に対し常に低速側にあり,異周速状態となっている。なお,噛み込み直後には駆動側の下WR周速度が約0.3秒間減速しているが,これは被圧延材の噛み込みによってミルモータの負荷トルクが急激に増加し,WRの回転速度が低下する,いわゆるインパクトドロップ現象であったと考えられる。Fig.2やFig.3で評価した反り形状はこのWR周速度が非定常な状態で圧延された部分を含むが,その部分の長さは5 mm未満であり,Fig.2から判断できるように今回反り曲率を評価した圧延長に比べ非常に短いこと,および当該部分に顕著な反り形状の差異が観察されなかったことを考慮し,本報告ではこの噛み込み直後の非定常な被圧延部分の影響は無視して考えた。
Evolutions of WR peripheral speed. (Top: idle/Bottom: driven)
Fig.6(a)にロータリーエンコーダによるWR周速度の測定値を目標周速度で除した値と圧延形状比との関係を,またFig.6(b)に上下WRの異周速率と圧延形状比との関係を示す。ここで,異周速率χは式(4)の通り,上WR周速度VTと下WR周速度VBとの差を高速(駆動)側のWR周速度VHiで除したものと定義する。
(4) |
Relationship between WR peripheral speeds and the shape factor.
これらの図より,圧延形状比の増加に伴い,上下WRの速度差も増大することが判る。特に,圧延形状比が1.2を超過する付近から非駆動WRの速度低下が顕著であり,本実験においては圧延形状比が3.2程度(圧下率40%)で異周速率がおよそ18%と,非常に大きな値となっている。
以上の結果より,片側駆動圧延は非駆動WRが低速となる異周速状態であって,かつ圧下率の増加に伴い異周速率が増大することが本実験より観察された。
(2)先進率
先進率は上下WRに等間隔に刻んだケガキ線が,被圧延材表裏面に転写された間隔から求めた。Fig.7(a)に先進率と圧延形状比との関係について,Fig.7(b)に先進率の上下差と圧延形状比との関係について示す。圧延形状比が1.0以下である領域では駆動WR側の先進率がわずかに大きいが,圧延形状比が1.0を上回ると上下差が逆転し,非駆動WR側の先進率が大きくなる。さらに圧延形状比が増加すると,駆動WR側の先進率はほぼゼロに停留するのに対し,非駆動WR側の先進率は顕著に増大し,その差が拡大していくことが観察される。
Variation of forward slip ratio with the shape factor.
前章では,圧延実験で得られた反り曲率やWR周速度,先進率のデータに基づき,片側駆動圧延における板材の反り挙動と特性について詳細に観察した。本章では,剛塑性有限要素法による数値計算を行い,片側駆動圧延におけるRB内の応力・ひずみ状態を明らかにし,反り現象のメカニズムについて考察を行う。
3・1 解析条件計算はYamadaらが報告している剛塑性FEMモデル12)を用い,Table 2に示す条件で2次元平面ひずみ定常圧延解析を行った。解析条件は前章で実験を行ったモデル圧延機を想定している。ロールは剛体とした。非駆動である上WRの周速度は,上WR圧延トルクが駆動側である下WR圧延トルクの±2%以下に到達するまで,定常圧延解析フロー12)における接触解析処理(接触開始接点の移動と流線形状の修正処理)に加えて収束計算し,決定した。板厚方向の要素分割数は60,圧延方向の要素分割数は圧延条件によって異なるがRB内で30~120である。降伏条件式は引張試験で測定した応力−ひずみ曲線からべき乗近似式として求めた。摩擦係数は3条件で計算し,実験結果との比較から適正な摩擦係数を選定することとした。
Material thickness [mm] | 3.0 |
---|---|
Roll diameter [mm] | Work roll: 80 |
Drive mode | Top idle/Bottom driven |
Reduction in thickness [%] | 2, 5, 7, 10, 15, 20, 30, 40 |
Peripheral speed of driven WR [rpm] | 4.0 [Bottom] |
Yield stress [MPa] | 158.9 ε0.063 (ε: Equivalent strain) |
Friction coefficient | 0.2, 0.3, 0.4 |
前章の実験で得られた片側駆動圧延時の規格化反り曲率と,FEM解析結果との比較をFig.8に示す。実験で確認した圧延形状比により反り方向が反転する現象が解析結果でも得られており,反り方向が急変する圧延形状比1.0~2.0を除けば曲率の絶対値も良い一致を示している。
Comparison of curvature between experiments and calculations. (Top: idle/Bottom: driven)
今回使用した剛塑性FEMモデルは,同じ剛塑性FEMを用いた圧延反り解析に関する既報告6,13)に比べ,下記項目の改良を加えており,それらが計算精度の向上に寄与したと考えられる。
(1)解析領域出口の剛体接続境界条件について,既報告モデルではモーメントのみをフリーとしていたが,今回モデルではモーメントに加え,せん断力もフリーとした。
(2)接触解析機能を開発,導入し,RB入出口点の計算精度を高めた。
(3)メッシュ分割数を既報告モデルに比べ板厚方向,圧延方向のいずれも約10倍程度に増やした。
また,今回の計算は定常解析であるが,実験結果と良い一致を示しており,実験の圧延長さは圧延挙動が停留し定常状態となるのに十分であったと考えられる。
Fig.8より,摩擦係数を0.2とした条件が実験結果と最も良い反り曲率の一致を示しており,以降,全て摩擦係数0.2での解析結果を採用する。
圧延トルクおよび先進率についても実験結果との比較を行った。Fig.9(a)(b)に示すとおり,両者とも実験結果と解析結果は良い一致を示している。
Comparison between experiments and calculations. (Top: idle/Bottom: driven)
ここでは実験および数値計算によって得られた片側駆動圧延の特徴について,圧延トルクの観点から考察を行う。
WRと被圧延材との境界面に作用する垂直応力の合力はほぼWR中心に向かうので圧延トルクには寄与せず,圧延トルクに寄与するのはWRと被圧延材との境界面に作用する摩擦応力である。Fig.10に,Table 2の上WR非駆動条件で解析した,RB内の被圧延材上下面に作用する摩擦応力を,2つの圧延形状比(Γ=1.01,2.50)について示す。ここで,圧延方向位置xは被圧延材上下面のうち先にRB出口に達した側のRB出口点を原点,圧延方向を正として表現している。
Evolution of friction stress at both surfaces. (Top: idle/Bottom: driven)
片側駆動圧延における非駆動WR側の境界面では,圧延トルクを零とするために逆方向の摩擦応力が中立点を挟んでほぼ等しくなるように発生する。一方駆動WR側の境界面では,圧延に必要なトルクを全て供給する必要があり,被圧延材を引き込む方向の摩擦応力が作用する範囲,すなわち後進域が先進域よりも大きくなる。また圧下率が大きく,すなわち今回の計算条件の場合には圧延形状比が大きくなると,必要となる圧延トルクがより大きくなるため,Fig.10(a)と(b)との比較からもわかるように,駆動WR側の後進域と先進域との差がさらに大きくなり,中立点がRB出口へと近づく。
被圧延材の入側速度は上下面とも同じであるから,後進域が大きく,すなわち後進率が大きくなることは,相対的にWR速度が速くなることを意味する。つまり圧下率が大きく,圧延形状比が大きくなると,相対的に駆動側WR速度が速くなる。従って駆動WRを基準とすると非駆動WRが遅くなるという,Fig.6の結果が説明できる。
また,非駆動WR側は常に中立点が接触弧長のほぼ中央に存在するため,圧下率の増大すなわち圧延形状比の増大によって先進率も単調に増加する。一方,駆動WR側は圧下率の増大すなわち圧延形状比の増大によって圧延トルクが増大する。このため後進域が拡大し中立点はRB出口へと移動,先進率は次第に零に近づくことになり,Fig.7の結果が理解できる。
3・3・2 RB内の塑性変形挙動と片側駆動圧延における反り発生機構(1)せん断帯に着目した圧延変形形態の理解と反り現象との関係
非対称圧延における反り現象の発生メカニズムを検討するためには,RB内の応力・ひずみ状態を,上下対称圧延と対比しながら理解することが有効であると考えられる。圧延形状比Γと反り量,反り方向との関係には,圧延変形によりRB内に生じる塑性変形によるすべり線(塑性ひずみの集中帯)の形態が強く影響するとの知見2,3)があり,これを参考とし,Fig.11にはTable 2の解析条件において上下同周速とした場合の相当塑性ひずみ速度の分布を,Fig.12にはTable 2に示すとおり上WRを非駆動とした場合の相当塑性ひずみ速度の分布を,代表的な3つの圧延形状比(Γ=0.52:ほぼ反り無し,Γ=1.01:上反り極大,Γ=2.50:下反り最大,飽和)について示す。なお,これより,圧延方向をx方向,板厚方向をy方向として記述する。
Equivalent strain rate distributions around the roll-bite. (symmetric conditions)
Equivalent strain rate distributions around the roll-bite. (asymmetric conditions; Top: idle/Bottom: driven)
Fig.11,Fig.12より,相当塑性ひずみ速度の集中した領域が,上下のRB入口に始まり,圧下方向に対しおおよそ45°方向に帯状に伝播し,板厚中央で互いに交差し,反対側の表面へと進行していることが判る。
この塑性ひずみ速度集中帯についてさらに考察する。Fig.13,Fig.14には主せん断ひずみ速度の大きさをコンタ図で示し,主せん断応力の向きを矢印で示す。Fig.13は上下同周速条件,Fig.14は上WR非駆動条件である。これらの図と,Fig.11,Fig.12の相当塑性ひずみ速度分布を比較することで,相当塑性ひずみ速度の実体はほぼ主せん断ひずみ速度であることが確認できる。すなわち相当塑性ひずみ速度の集中帯はせん断塑性変形の集中した,いわゆるせん断帯であると判断できる。さらにFig.13,Fig.14の主せん断応力の向きはせん断帯の進展方向に大略一致しており,せん断帯中のせん断変形はせん断帯に沿う方向のせん断変形が主体となっていることも確認できる。
Principal shear strain rate distributions around the roll-bite. (symmetric conditions)
Principal shear strain rate distributions around the roll-bite. (asymmetric conditions; Top: idle/Bottom: driven)
Fig.15には上下同周速条件,Fig.16には上WR非駆動条件におけるRB内の被圧延材上下面圧延方向速度を示している。Fig.11,Fig.13とFig.15,およびFig.12,Fig.14とFig.16との対比により,被圧延材表面の速度はせん断帯が被圧延材表面と交差する位置で集中的に変化していることが観察される。上記したようにRB内のせん断帯はせん断帯に沿う方向のせん断変形が主体となっており,このせん断帯が圧下方向に対して傾きを有することで,圧延方向の速度増加成分が得られる。この観察結果は,上下対称圧延条件に限定しても,スラブ法による古典圧延理論において仮定してきた速度分布とは異なるものであるが,RB内の変形形態を剛塑性FEMによって詳細に解析することで得られた結果であり,この観察結果が実際の変形形態に近いと考えられる。
Evolution of material velocity along rolling direction at both surfaces. (symmetric conditions)
Evolution of material velocity along rolling direction at both surfaces. (asymmetric conditions; Top: idle/Bottom: driven)
さてここで圧延反り現象に着目してさらに考察を進める。Fig.11,Fig.12等から観察されるように,明確なせん断帯の出現によりRB中央部の被圧延材表面近傍には必然的に非変形領域が現れる。そしてFig.15,Fig.16から,被圧延材の表面速度はRB出口に最も近い非変形領域においてWR速度に一致していることが観察される。さらにこれにRB出口のせん断帯で生じる速度変化が加わって被圧延材のRB出口速度が決まり,この速度上下差によって圧延反りの方向および曲率が決定されていると理解することができる。つまりFig.14およびFig.16より,上WR非駆動条件の場合,圧延形状比Γ=1.01の条件では,下面側のRB出口近傍非変形域の材料速度が既に上面側より大きく,さらにRB出口のせん断帯における速度増加も大きくなるため上側に反ると考えられ,圧延形状比Γ=2.50の条件では,RB出口近傍には上面側にのみせん断帯が存在し,上面側の速度増加が顕著となる。
このとき,圧延形状比Γ=2.50の上WR非駆動条件に対してRB出口近傍の速度増加が上面側に限定されることは言えるが,WR速度については下側の駆動WRの方が速いので,上面側の材料速度が下WR速度,すなわち下面側材料速度を追い越すかどうかについては疑問の余地が残る。追い越すことの必然性が説明できなければ,下反りを説明することができない。そこで,上下同周速条件および上WR非駆動条件について,圧延形状比Γ=2.50における圧延方向速度分布を示したものがFig.17である。図中には,Fig.13およびFig.14で示した主せん断ひずみ速度の大きさの分布を等高線として合わせて示している。また図中点線は材料速度が駆動WR速度と一致する位置を示している。
Material velocity distributions along rolling direction around the roll-bite. (Γ=2.50)
上WR非駆動条件のFig.17(b)において,下面側から上面側に生じているRB出口のせん断帯の出側境界に沿って材料速度が加速していることが観察される。当該せん断帯出側境界の下面端の材料速度は下WR速度,そして下面の出側材料速度にほぼ等しい。そこで下面出側速度を出発点として当該せん断帯出側境界に沿って次第に加速して上面出側速度に達するので,上面出側速度は下面出側速度より速くなり,圧延形状比Γ=2.50の上WR非駆動条件では下反りになることが理解できる。
しかしながら,上下同周速条件のFig.17(a)を見ると,板厚中心部から上面側および下面側に伸びるRB出口のせん断帯出側境界に沿った材料速度の加速は観察されない。上WR非駆動条件と上下同周速条件とでこのような違いを生じる原因について以下に考察する。
Fig.18にせん断帯の出側境界における材料速度成分と座標系の定義を示す。せん断帯出側境界に垂直な座標をξ,ξ方向の材料速度成分をvξ,せん断帯出側境界に沿う座標をη,η方向の材料速度成分をvηとする。また圧延方向x,板厚方向yの座標系での材料速度成分をそれぞれvx,vyとする。
Definition of material velocity components and corresponding coordinate systems at the exit boundary of the shear band.
今問題としている材料速度は圧延方向速度vxであり,せん断帯出側境界に沿うη方向のvxの変化である。これをξ方向およびη方向の材料速度成分vξ,vηで表現すると,ξ軸,η軸のx軸に対する方向余弦をそれぞれℓξ,ℓηとしてvx=vξℓξ+vηℓηとなるから次式を得る。
(5) |
一方,せん断帯出側境界近傍におけるせん断帯に沿う方向のせん断ひずみ速度
(6) |
式(6)より
(7) |
が得られるから,これを式(5)に代入すると次式を得る。
(8) |
なお式(8)の最後の変形には次式で表される体積保存則を用いた。
(9) |
式(8)右辺の材料速度成分のξに関する偏微係数は,非変形領域に繋がるせん断帯出側境界ではFig.15,Fig.16においても確認できるように零になるべきであるので,次式を得る。
(10) |
式(10)の意味するところは,せん断帯出側境界における圧延方向速度のせん断帯に沿う加速はせん断ひずみ速度と等価である,ということである。Fig.11~Fig.14で確認したように圧延変形の実体はせん断帯に沿うせん断変形であるので,圧延速度がせん断帯に沿って加速することは圧延変形そのものを促進することになる。一方,せん断帯出側境界のさらに出側領域は非変形領域であるので,∂vx/∂η≠0となるためには出側材料が剛体回転する必要がある。すなわち,反りの発生が圧延変形を促進していることが理解できる。このことからも,反りが発生するような非対称圧延では,一般に圧延荷重が対称圧延よりも低下することも定性的に理解できる。これに対して対称圧延の場合,せん断帯が板厚中心で交差して上下対称に発生するため,上下の材料が互いに拘束して∂vx/∂η=0となり反りが発生しない。以上の考察から,RB出口近傍せん断帯の出側境界における材料速度の加速が上WR非駆動条件において発生し,上下同周速圧延では発生しないことが理解できる。
(2)せん断応力場に着目したせん断帯形成メカニズムと反り現象の考察
ここまで反りの発生形態とせん断帯との関係について考察したが,次にせん断帯の形態と圧延条件との関係について考察する。被圧延材が圧延方向に延伸する,すなわち圧延が成立するためには,せん断帯が圧下方向に対し傾きを持ち,かつ板厚方向に貫通して,全断面が塑性変形しなければならない。このせん断帯は,被圧延材に負荷される偏差応力によって生じるが,xy座標系における2次元問題の場合,その成分は垂直応力の差σx-σyとせん断応力τxyである。これらのうち,τxyは駆動方式と直接関連付けられるので特に重要である。
Fig.19に上下同周速とした場合のxy座標系でのせん断応力τxyの分布を,Fig.20には上側WRを非駆動とした場合のxy座標系でのせん断応力τxyの分布を,圧延形状比毎に示す。図中にはFig.13およびFig.14で示した主せん断ひずみ速度の大きさの分布を等高線として合わせて示している。
Shear stress τxy distributions around the roll-bite. (symmetric conditions)
Shear stress τxy distributions around the roll-bite. (asymmetric conditions; Top: idle/Bottom: driven)
以下,Fig.13,Fig.14,Fig.19およびFig.20を参照しながらせん断応力場とせん断帯との関係について考察を行う。上下同周速条件の場合,圧延形状比Γ=0.52およびΓ=1.01では,下面側RB入側の予変形域および上面側RB入口から出側板厚中央に向かう正のせん断応力場,そして上面側RB入側予変形域および下面側RB入口から出側板厚中央に向かう負のせん断応力場が発生しており,それぞれ予変形域を起点に,同符号のせん断応力領域を縫うように板厚を貫通するせん断帯が発生している。また圧延形状比Γ=2.50の場合では,圧延形状比の低い条件と同様のせん断応力場に加え先進域に有意なせん断応力場が発生するため,下面→上面→下面,上面→下面→上面と板厚方向に一往復をするようにせん断帯が発生している。すなわちせん断帯は予変形域を起点とし,板厚方向に被圧延材を貫通すべく,近接した同符号のせん断応力場を選択し,伝播するものと考えられる。
一方,上側WR非駆動条件の場合,圧延形状比Γ=1.01では,下側WR側の被圧延材を引き込む方向の摩擦応力がより大きいために後進域から発生する負のせん断応力も大きくなり,上面側RB入側の予変形域から下面側の後進域に向かって板厚を貫通する強いせん断帯が形成されている。このため下面側のRB出口近傍の塑性変形量が大きくなり,その結果上下面のRB出口の被圧延材速度差がWR周速度の上下差よりさらに拡大し,被圧延材は上側へ反る。また圧延形状比Γ=2.50の場合では,圧下率の増大に伴い圧延トルクが大きくなるため,圧延トルクを供給する下WRの後進域が拡大,すなわち下WR側の中立点がRB出口に近づき,圧延トルクに対応する負のせん断応力領域が顕著になるとともに,先進域および正のせん断応力場はほぼ消失している。このため,下WR側の出口近傍にはせん断帯が発生せず,逆に下面側RB中央部から上面側RB出口近傍に至るせん断帯が強くなり,前述したように上面側RB出口近傍の材料が加速されて下反りとなる。
(3)せん断応力場の形成メカニズム
以上で反り現象を支配するせん断帯の形態がせん断応力場によってほぼ決まることが理解できた。そこでここではせん断応力場の形成メカニズムについてFig.19およびFig.20を参照しながら考察を行う。
全ての圧延形状比条件において,RB入口直前に,顕著なせん断応力場が生じている。このせん断応力場は後進域に発生する被圧延材を引き込む方向のせん断応力とは逆符号であること,そして圧延の実体であるせん断帯の発生起点となっている点が特筆される。そこでまずこのせん断応力場の発生メカニズムについて,Fig.21の略図を用いて説明する。RB内部では塑性変形により被圧延材の板厚が減少しているため,この影響で連続体であるRB外の隣接部にもせん断応力が作用することとなる。このせん断応力がRB入口直前において被圧延材の板厚が減少し始める現象,すなわち予変形の原因である。
Shear stress acting on entry side of roll-bite and pre-deformation area. (Online version in color.)
また,後進域の板表面には,前述した予変形域に作用するせん断応力とは逆符号の高いせん断応力が作用しているが,これは被圧延材を引き込むための摩擦せん断応力である。さらに圧延形状比Γ=2.50の条件では,RB出口近傍でのせん断応力も顕著である。これは接触弧長が増大し,先進域の摩擦せん断応力の影響が顕著になったためである。
さらに特徴的な挙動として,前述した後進域の板表面で発生したせん断応力領域は,板厚中央部に近づくにつれてRB出口側へ移動していることが観察される。このようなせん断応力場があって初めて,Fig.19,Fig.20に示したように予変形域を起点とするせん断帯が傾きを持って板厚方向に貫通できるので,このせん断応力分布は重要である。この原因について次に考察する。
Fig.22は,圧延材表面に逆方向の摩擦応力,すなわちせん断応力が作用した場合の圧延材内部へのせん断応力の拡散を示すコンタ図の模式図である。表面の摩擦応力以外に外部から力が作用しない場合,Fig.22に示したように,摩擦応力が反転する位置の境界線に関して左右対称に内部のせん断応力は拡散する。この状況は,応力の符号は逆であるが,Fig.20(c)の上面のせん断応力分布に近い。Fig.20(c)の上WRは非駆動であるので,中立点は接触弧長のほぼ中央となり,中立点を境に摩擦応力が反転しているからである。
Diffusion of shear stress acting on plane surface. (Online version in color.)
このようなせん断応力の拡散状況を念頭に置いて,RB入口近傍の圧延材内部のせん断応力の拡散状況を推定した模式図がFig.23である。RB入口では,WRとの接触域が後進域であるので圧延材を引き込む方向の摩擦応力が作用する一方,WRと接触していない予変形域の表面には摩擦応力は作用しない。しかしながら予変形域にはFig.21に示したように後進域とは逆符号のせん断応力が作用している。
Diffusion of shear stress acting on entry side of roll-bite and pre-deformation area. (Online version in color.)
このせん断応力の影響を考慮するため,圧延材をWRとの接触開始点を通る鉛直線で仮想的に切断して考えると,その切断面には予変形域のせん断応力が作用するためFig.23に示すように後進域の圧延材に対して上向きのせん断応力が外力として作用することと等価となる。従って,この切断面とWR表面とで囲まれた圧延材中のせん断応力の拡散を考えるとき,圧延材とWRとの接触開始点を通り略45°の傾斜を有する右下がりの直線を対称線としてせん断応力が作用することになり,Fig.23に示したように後進域の圧延材表面に作用するせん断応力は板厚中心方向に伝播するにつれてRB出側へと張り出すことになる。つまり,予変形域に作用するせん断応力場は,RB内部の応力場にも有意に影響を与え,しかも予変形域は全ての圧延条件に対して圧延変形の実体であるせん断帯の起点になるという点で,極めて重要な役割を果たしていることが理解できる。
以上のRB内の塑性変形挙動に関する考察を総括すると,WR駆動条件を含めた圧延条件によってRB入口およびRB内のせん断応力場が決まり,このせん断応力場に従って圧延変形の実体であるせん断帯が発生し,RB出口のせん断帯の強度と形態によって反り挙動が決まることが理解できた。
片側駆動圧延における圧延反り挙動について,広範な条件でモデル圧延実験および剛塑性有限要素法による数値解析を行い,以下の結果を得た。
(1)モデル圧延実験によって,片側駆動圧延では圧延形状比の変化に伴い反りの方向が変化すること,具体的には,圧延形状比の低い領域では非駆動WR側に反るが,圧延形状比が増加すると非駆動WR側の先進率が増加し,圧延形状比が1.2近傍を超えると反り方向は反転し板材は駆動WR側へ反ることが明らかとなった。
(2)剛塑性FEMモデルを用いて2次元定常圧延解析を行い,片側駆動圧延の反り特性について,実験結果をほぼ再現することができた。
(3)剛塑性FEMによる詳細な力学的分析の結果,圧延変形の実体はRB入口およびRB内に発生するせん断帯であり,このせん断帯の強度と形態によって反り挙動が決まることが明らかとなった。
なお本研究は片側駆動圧延を対象としたが,ここで明らかにした反り現象のメカニズムは,被圧延材入射角や上下ロール径差,上下摩擦係数差など,他の上下非対称外乱により引き起こされる反り挙動についても成立すると考えられる。