Tetsu-to-Hagane
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Characteristics of Heat Transfer at Elastic Contact between Die and Material in Hot Working
Satoshi UeokaHideo KijimaNaoki Nakata
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2015 Volume 101 Issue 6 Pages 329-335

Details
Synopsis:

In the hot rolling and the forging processes, the temperature of the material being processed is decreased by contact with the work rolls or dies. In addition, the scale layer, which was thermally insulated, was generated on surface of the material. The temperature in the working process can be crucial to the mechanical property of the product. It is important to evaluate contact heat transfer quantitatively. In this study, the contact heat transfer coefficient was investigated in two materials with different surface roughness and scale layer. The materials used were copper and SUS304 stainless steel. Thermocouples were inserted inside the test pieces to estimate the heat flux through the contacting surface. The contact surfaces of the test pieces were roughened to various Ra from 0.15 µm to 2.0 µm by lapping and lathing. The oxide layer was made of FeO and Al2O3 by thermal spray. In the experiment, the copper test piece was first heated to 500 K, after which it was pressed onto the stainless steel test piece, which was at room temperature at various contact pressures from 0.2 MPa to 80 MPa. As the result of the experiment, the heat transfer coefficient became higher as the contact pressure was increased. Applying a parameter based on a theory of total thermal resistance in a composite plane wall, a proportional relationship was shown to exist between surface roughness over thermal conductivity and the heat transfer coefficient.

1. 緒言

近年,鋼板の高強度化・高靭化のニーズに対応するため,鋼の結晶組織の微細化を目的として,熱間加工時の温度を高精度に制御する必要性が増している。熱間圧延や熱間鍛造工程において,高温の被加工素材は,圧延ロール,搬送ロール,プレス金型等の低温物との接触により温度が低下する。目標の加工温度に制御する点から,予め温度を推定することが多く,その計算時に,接触熱伝達を考慮する必要がある。

接触熱伝達についてはTachibana1),Sanokawa2,3,4,5)の検討があり,支配因子として,接触荷重,表面粗さ,接触固体の硬度,熱伝導率,表面酸化が挙げられており,粗さを矩形突起と仮定することでそのメカニズムが定性的に説明されている。また,Tsukizoe and Kumon6)は,ある粗さを持つ2つの面が接触した時の真実接触点の数を考慮した理論式を提案し,接触電気抵抗の測定値と比較することで,その妥当性の確認をしている。また,Fukuokaら7)は,異なる金属素材間での接触熱伝達率の測定を実験的に行い,接触荷重,表面粗さ,硬度,接触固体の熱伝導率の関数として実験式を提案している。

熱間加工では,被加工素材の温度は1000~1300°C程度まで加熱されることが多く,例えば熱延圧延時に被加工素材の表面には数10 μm程度の厚みを持つ酸化物皮膜が生成している8)。上記1,2,3,4,5,6,7)は,常温で生成する厚みの薄い酸化物皮膜について検討をしているが,熱間加工プロセスを想定した厚い酸化物皮膜の影響を考慮したものはない。この点に着目して,Nakashima9)らは鍛造工程を想定して,鋼材を大気酸化することで,最大600 μm程度の厚みを持つ酸化物皮膜を生成させて,接触熱伝達の検討を行っている。酸化物皮膜の厚みの増大により,接触熱伝達率が減少することを確認するとともに,酸化物皮膜自体の熱抵抗と固体接触部の熱抵抗の和で,接触熱伝達率を算出する手法を提案しているが,酸化物皮膜の表面粗さの影響に関しては考慮されていない。

そこで,本研究では熱間加工中の材料の接触熱伝達の特性に関して,特に酸化物皮膜と表面粗さの影響について,基礎的な調査を行った。鋼材を大気酸化で酸化物皮膜を付与すると,表面粗さの調整が困難なため,溶射皮膜を用いて,酸化物皮膜を模擬した。酸化物皮膜は熱伝導率が異なるFeO,Al2O3とすることで,酸化物皮膜の熱物性値の影響を確認した。また,皮膜がなく表面粗さを変更した試験片と比較することで,酸化物皮膜の表面粗さの影響を考察した。表面粗さの影響に関して過去の検討では真実接触点の数や粗さの標準偏差などの測定困難なパラメータが含まれることから,実際のプロセスに適用するのは容易ではない。そこで,弾性変形範囲における金属間接触と酸化物皮膜/金属間の接触についての実験結果と,工業的な適用が容易であると共に表面粗さの影響を考察しやすいTachibanaが提案した矩形突起モデルによる接触伝熱機構1)との比較から,酸化物皮膜を含めた接触熱伝達率の支配因子の考察をした。

2. 接触熱伝達の検討方法

2・1 実験方法

実験装置をFig.1に,実験条件をTable 1に示す。純銅(タフピッチ銅)とステンレス鋼(SUS304)を素材とする直径20 mm,高さ20 mmの円筒状の試験片を準備し,それぞれの試験片の中心軸上深さ方向に4ヶ所(接触面から2,5,10,15 mmの位置)に直径1.0 mmのK型シース熱電対を挿入した。

Fig. 1.

 Experimental apparatus.

Table 1. Test-pieces condition in laboratory test.
High temperature sideSpecimenTough-Pitch Copper 20 φ×20 h
Heating temp.500 K
LayerNo-layer
Low temperature sideSpecimenSUS304 20 φ×20 h
Initial temp.Room temp. (303 K)
LayerNo-layer
Layer (FeO, Al2O3)
Contact load0.2~80 MPa

試験片の接触面における表面処理方法と粗さをTable 2に示す。ステンレス鋼試験片は,酸化物皮膜を付けたものと付けていないものを準備した。酸化物皮膜は,FeOおよびAl2O3粉末を溶射により付着させ,表面研磨により厚さ80 μmに厚みを調整後,ラッピング研磨を施した。酸化物皮膜がない試験片は,ラッピング研磨および旋盤加工を施して表面粗さを変更した。試験片の表面粗さは,接触式表面粗さ計(東京精密 HANDYSURF E-35B)を用い,算術平均粗さRaはJIS0601に基づき,λc=0.8 mm Lc=4.0 mmで計測した。また,レーザー顕微鏡(KEYENCE VX100)を用いて,表面の観察と局所的なプロフィールの測定も行った。試験片の表面をレーザー顕微鏡で観察した結果をFig.2に示す。

Table 2. Surface treatment condition of test-pieces.
NameSurface LayerProcessRa [μm]Hardness (Hv)
High temperature side (Copper)No-Layer1No layerLapping0.29113
No-Layer2No layerLathing1.09
Low temperature side (SUS304)No-Layer1No layerLapping0.15340
No-Layer2No layerLathing3.35
Layer1FeO (80 μm)Lapping0.22
Layer2Al2O3 (80 μm)Lapping0.35
Fig. 2.

 Comparison of test piece surface by micro-scope observation.

高温側の試験片は,加熱時に試験片の周方向および軸方向の温度差を少なくするために,熱伝導率が高い銅を素材とした。低温側の試験片は,熱流束の計算精度を確保することを目的に,中心軸深さ方向にある程度の温度差を付けるために,銅よりも熱伝導率の低いステンレス鋼とした。

実験では,銅試験片をヒーターにより500 Kまで加熱後,スクリュー機構によりステンレス鋼試験片に接触させ,最大80 MPaまで垂直荷重を付与した。銅およびステンレス鋼の500 Kでのヤング率はそれぞれ130 GPa,210 GPaであり,低ヤング率側の銅における歪は0.062%となることから,素材全体は弾性変形範囲内と推察される。接触時間は最大300 secとした。各熱電対の指示値をデータロガーにより100 msec間隔で記録した。

なお,高温にすると,高温酸化の進行により表面の状態が変化することから,加熱温度を500 Kとした。

2・2 接触熱伝達率の計算方法

本実験は非定常で行うので,接触面の熱伝達率を求めるためには,各時刻における熱流束と2つの試験片の表層温度が必要になる。高温側の銅試験片は,内部の実測温度分布から最小二乗法を用いて外挿することにより表層温度Thを算出した10など)。低温側のステンレス鋼の試験片は,熱伝導率が低く,高い熱伝達率で冷却した場合,温度分布が平衡状態になるまで時間がかかるため,中心軸方向の熱の流れのみを考慮した熱伝導方程式を1次元差分で計算した。この時,鋼板内部の温度Tは,中心軸深さ方向xとして,熱伝導方程式(1)で表せる。   

Tτ=λρCp2Tx2(1)

ここで,τは時間,λは熱伝導率,Cpは比熱,ρは密度である。熱伝導方程式は,λ=15.9(W/m K),Cp=0.5(J/kg K),ρ=7850(kg/m3)の一定値の物性値を用いて解析を行った11)。表層部の境界条件を熱流束として式(2)で与え,内部の境界条件を5,10,15 mm位置のいずれかの1点を選択して,式(3)の通り実測温度Texpとして与えた。表層に近い2 mm位置の測定値と解析値が一致するように,収束計算により表層部の境界条件である熱流束qを求めた。この際に,ステンレス鋼の表層温度Tlも合わせて算出した。さらに,内部の境界条件である実測温度は3ヶ所(5,10,15 mm)測定しているので,各位置の温度について上記の計算を行って熱流束q,表層温度Tlを算出し,平均値を各条件における値として用いた。

各時刻の実測値に基づいて,上記の計算で得られた熱流束q,および,銅試験片の表層温度Thとステンレス鋼試験片の表層温度Tlの差ΔTから,式(4)を用いて接触熱伝達率hを求めた。   

q=λTx(2)
  
T=Texp(3)
  
h=q(ThTl)(4)

Fig.3に実験および解析結果の例を示す。試験片各位置の温度および計算により求めた試験片の表層温度の時間履歴をFig.3(a)に示す。銅試験片では中心軸深さ方向の温度差は小さいが,スレンレス鋼試験片では,大きな温度差が発生している。試験片に付与した荷重の時間履歴をFig.3(b)に示す。スクリュー機構で負荷をかけたため,接触開始から荷重が安定するまで約5 sec要していることから,荷重が安定した13 sec以降の熱伝達率を用いた。計算から求めた高温側と低温側の試験片の表層温度差ΔTをFig.3(c)に示す。本実験では複数の熱電対を使用しており,その測定誤差が0.1 K程度存在していた。接触熱伝達率の逆算精度は,表層温度差ΔTの誤差に影響することから,測定値のばらつきによる誤差を10%以下とするために固体間の表層温度差がΔT>1 Kとなる領域の熱伝達率を用いた。本実験では28 sec以前の熱伝達率を用いた。

Fig. 3.

 An example of the experimental and analytical results. (Load p: 31 MPa, high temp. side: No-Layer1, low temp. side: No-Layer1)

低温側の試験片の熱流束を算出した結果をFig.3(d)に示す。Fig.3(c)に示した表層温度差ΔTと,Fig.3(d)に示した熱流束から,熱伝達率を算出した結果をFig.3(e)に示す。この実験例では13~28 secの区間における熱伝達率の平均値を実験値として採用した。なお,酸化物皮膜がある場合も,金属部の最表層の温度を計算で求め,その結果から接触熱伝達率を算出した。

3. 実験結果

3・1 接触熱伝達率におよぼす表面粗さの影響

Fig.4に酸化物皮膜がない場合の荷重pと接触熱伝達率hの関係を示す。接触熱伝達率は荷重に対して増加するが,荷重が高くなるにつれ,接触熱伝達率が上昇する勾配は小さくなっている。接触熱伝達率は,荷重が高い時にばらつきがあるが,銅試験片の表面粗さには依存しておらず,ステンレス鋼試験片の表面粗さによる変化が支配的である。表面粗さの小さいラッピング研磨では,表面粗さの大きい旋盤加工よりも接触熱伝達率が大きくなっている。

Fig. 4.

 Relationship between load and calculated heat transfer coefficient without scale layer.

3・2 接触熱伝達率におよぼす酸化物皮膜の影響

Fig.5に,銅試験片の表面をラッピング研磨した条件について,ステンレス鋼試験片の表面に溶射した酸化物皮膜の種類を変更した場合の荷重pと接触熱伝達率hの関係を示す。比較として酸化物皮膜がない条件も記載している。接触熱伝達率は,皮膜無し,FeO皮膜,Al2O3皮膜の順に小さくなり,酸化物被膜が熱抵抗層であることが確認された。また,Fig.4と同様,接触熱伝達率は荷重に対して増加し,荷重が高くなるにつれ接触熱伝達率が上昇する勾配が小さくなっている。

Fig. 5.

 Relationship between load and calculated heat transfer coefficient for different oxide layer. (High temp. side: No-Layer1)

3・3 接触熱伝達率におよぼす荷重の影響

Fig.6に,銅およびステンレス鋼試験片の表面をラッピング研磨した条件について,荷重pと接触熱伝達率hの関係を示す。同図の通り,近似線は荷重pの2/3乗に比例する結果となった。図中には代表的な実験式5,7)も記載しているが,荷重pの2/3乗に比例するとしたFukuokaらの実験式と同様の傾向となった。

Fig. 6.

 Comparison with past knowledge between load and calculated heat transfer coefficient. (High temp. side: No-Layer1, low temp. side: No-Layer 1)

4. 考察

4・1 接触熱伝達率におよぼす因子の整理

接触熱伝達の因子を模式的に説明した図をFig.7に示す。

Fig. 7.

 Schematic illustration of factor of contact heat transfer.

2つの接触面では,表面の突起が局所的に接触していると考えられる。そこで,接触熱伝達を構成する項目として,真実接触部における接触熱伝達hc1,非接触部に介在する物質中の熱伝達hc2,酸化物皮膜を介した熱伝達hc3が考えられる。接触界面におけるモデルの模式図をFig.8に示す。Tachibana1)の考え方に基づき,Fig.8(a)のように粗さを矩形突起と仮定する。また,積層平板の伝熱理論12)から固体間における定常状態の接触熱伝達は,Fig.8(b)に示すような電気回路と等価になる。そのため,各因子に基づいた接触熱伝達率,hc1,hc2,hc3は,(5)~(7)の関係式となる。   

hc1=1R1=Aoδ1/λ1+δ2/λ2(5)
  
hc2=1R2=[λiδ1+δ2+σ(T12+T22)(T1+T2)](1Ao)(6)
  
hc3=1R3=λ2δ3(7)

Fig. 8.

 Schematic illustration of theoretical model of contact heat transfer.

また,総括接触熱伝達率htは,式(8)の関係式となる。   

1ht=Rt=11R1+1R2+R3(8)

ここで,総括熱抵抗Rt,真実接触部における熱抵抗R1,非接触部に介在する物質中の熱抵抗R2,酸化物皮膜を介した熱抵抗R3,矩形突起の高さδ1・δ2,酸化物皮膜厚みδ3,接触面の熱伝導率λ1・λ2,介在物質の熱伝導率λi,ステファン・ボルツマン定数σ(5.67×10−8 W/m2 K4),真実接触面積率A0である。式(6)の介在物質中の熱伝達率hc2は,熱伝導と輻射伝熱を考慮した。

固体間の接触熱伝達率を示す式(5)を計算するには,矩形突起の高さδを表面粗さから算出する必要がある。また,真実接触面積率A0の算出も必要である。

式(8)から,真実接触面積率A0が微小の場合では,介在物質による熱伝達率hc2の影響を受けやすくなることが示唆される。本実験は,大気雰囲気で行ったことから,介在物質は空気となる。介在物質中の熱伝達率hc2において,空気の熱伝導率起因と輻射起因の熱伝達率を比較した結果をFig.9に示す。輻射項は電磁波による伝熱のためギャップの影響は無いが,熱伝導項ではギャップが小さくなるほど熱伝達率は大きくなる。本実験では,試験片加熱温度が500 Kと低く,表面粗さRaは数μm程度であり,ギャップも同程度と推定されることから,熱伝導項に対して輻射項は微小となり,省略することができる。

Fig. 9.

 Comparison between conductive heat transfer and radiative heat transfer through air gap. (Ao=0)

4・2 接触熱伝達率におよぼす荷重依存性

Fig.4,5に示された荷重の増大による接触熱伝達率の上昇は,式(5)から真実接触面積率A0若しくは変形による矩形突起の高さδの変化と考えられる。弾性変形の場合,矩形突起の高さ変化は式(9)で表すことができる。   

δδ=1pE(9)

ここで,ヤング率E,負荷後の矩形突起高さδ’である。本実験の範囲では軟質側の銅のヤング率Eは130 GPa,荷重pは80 MPaであり,負荷後の矩形突起の高さδ’は,負荷前に対して99.94%となることから,その変化は微小である。このため,真実接触面積率A0の変化が主な原因と推定される。

粗さプロフィールが塑性変形すると真実接触面積率A0は,ビッカース硬度Hvの定義から,式(10)の通り荷重に比例すると考えられる1)。   

A0=pHv(10)

一方,弾性変形時には,粗さをcos波と仮定した場合の解析結果から真実接触面積率A0は,式(11)で表されることが知られている13)。   

A0p23(11)

Fig.5に示したように,本実験結果は荷重pの2/3乗と定性的に弾性変形時の理論と一致していることから,接触部においても弾性変形が支配的であったと推定される。

4・3 接触熱伝達率におよぼす酸化物皮膜の影響

3・2節で示したように,酸化物皮膜がFeOの時よりも,Al2O3の時の方が,接触熱伝達率が小さくなった。FeOとAl2O3の酸化物皮膜の厚みは,いずれも80 μmであることから,接触熱伝達率の変化は,酸化物皮膜の熱伝導率の違いに起因していると推察される。FeOおよびAl2O3の熱伝導率の文献値をTable 3に示す。酸化物皮膜の熱伝導率として,FeOでは焼結体の測定結果14)から,Al2O3では溶射物の測定値15)から引用した。最大荷重80 MPaにおける,酸化物皮膜の熱伝導率と接触熱伝達率の関係をFig.10に示す。なお,酸化物皮膜が無い条件は厚み80 μmのステンレス鋼皮膜が付着しているとみなせるため,参考のため図中に,皮膜無しの結果も記載している。接触熱伝達率は,酸化物皮膜の熱伝導率に比例しており,酸化物皮膜を付与した場合は,その皮膜の熱伝導率に比例して接触熱伝達率が低下することが実験的に確認できた。

Table 3. Thermal conductivity of oxide layer.
FeOAl2O3
Thermal conductivity (W/mK)9 14)4 15)

14): Sintering,15): Thermal spraying

Fig.10.

 Relationship between thermal conductivity of scale layer and calculated heat transfer coefficient. (p=80 MPa Low temp. side No-layer1)

4・4 接触界面熱伝達率に及ぼす表面粗さの影響

接触面の熱伝達率(hc1+hc2)の推定を試みる。本実験で算出した熱伝達率は,酸化物皮膜と接触界面を含んだ総括熱伝達率htである。酸化物皮膜の影響は式(7)から求められるため,式(12)により皮膜厚みの影響を除いた接触面の熱伝達率を算出することができる。   

1hc1+hc2=1ht1hc3(12)

最大荷重80 MPaにおける,矩形突起モデルの接触部分の熱伝達率を表す式(5)と酸化物皮膜の影響を除去した接触部の熱伝達率(hc1+hc2)との関係をFig.11に示す。矩形高さδは,算術平均粗さRaを用いて計算した。また,真実接触面積率A0=1.0とした。矩形高さδをRaの1800倍とした時の式(5)を破線で併記した。

Fig.11.

 Relationship between theory and calculated heat transfer coefficient at p=80 MPa.

酸化物皮膜のない実験値は,矩形高さδをRaの1800倍とした時の理論値と良い相関が得られ,矩形突起モデルは定性的に正しいといえる。算術平均粗さRaに補正係数を乗じることで本モデルにおける矩形突起の高さδを求められると考えられる。

次に3・1節で示したステンレス鋼試験片の表面粗さによって接触面の熱伝達率が大きく変化した現象を考察する。式(5)から異なる素材が接触したときの熱伝達率は,熱抵抗の和の逆数となる。そこで,酸化物皮膜が無い条件における各試験片の矩形突起部の熱抵抗をFig.12に示す。ステンレス鋼の熱伝導率は15.9 W/mKであり,銅の400 W/mKに対して3.7%と低い。熱抵抗は,ステンレス鋼側は9~210 m2 K/GWに対して,銅側では0.7~2.7 m2 K/GWとなり,相対的にステンレス鋼側の熱抵抗が大きいため,銅とステンレス鋼の熱抵抗を合計すると,ステンレス鋼側の熱抵抗が支配的になる。そのため,接触部の熱伝導率が小さいステンレス鋼試験片の粗さが変化することによって,接触面の熱伝達率が変化したと推定される。

Fig.12.

 Comparison of thermal resistance of rectangluar protuberant without scale layer.

一方,Fig.11に示す通り,酸化物皮膜がある場合は,皮膜が無い場合に比べて,接触熱伝達率(hc1+hc2)が大きくなり,特にAl2O3皮膜は非常に大きな値となっている。

詳細に確認するために,レーザー顕微鏡で測定したステンレス鋼側の表面プロフィールの例をFig.13に示す。Fig.13(a)の酸化物皮膜が無いラッピング研磨では,ランダムに微小な突起が存在し,Fig.13(b)の酸化物皮膜の無い旋盤加工では,周期的なピッチで突起が存在するが,Fig.13(c)およびFig.13(d)の酸化物皮膜のラッピング研磨では,ボイドに相当する部位で大きな窪みが存在し,ボイド部分を除くと,ほぼ平滑な面となっている。以上から,FeOやAl2O3の酸化物皮膜の表面におけるRaはボイドの影響を受け大きな値として測定されると考えられる。JISに規定される算術平均粗さRaは,測定長Lc=4 mmの区間での平均的な値のため,ボイドの影響により接触部のそれに対して大きめの値となり,実際の接触部の表面粗さを示すパラメータとして適切でないと考えられる。そのため,接触熱伝達率の評価を行うためには,ボイドを除いた実質的に接触に関与する粗さを表すパラメータが重要となると思われる。

Fig.13.

 Comparison of sectional profile for each test pieces.

また,本検討の範囲では弾性変形的な接触となっていることは確認できたものの,接触面積率A0については,明確になっていない。

以上から,ボイド以外の部分の粗さと,荷重による接触面積率A0の変化を考慮することで,接触熱伝達率の予測が可能となると推察される。

5. 結論

熱間圧延や熱間鍛造工程における,圧延ロール,搬送ロール,プレス金型等の低温物と高温の被加工物の接触に伴う熱伝達に対して,弾性変形域の荷重範囲について,基礎的な検討を行った。

異なる表面粗さと酸化物皮膜を持つステンレス鋼と銅を接触させたときの熱伝達率を測定して,荷重,酸化物皮膜,表面粗さの影響を明らかにした。さらに,表面粗さを矩形突起と仮定して,積層平板の伝熱理論に基づいた接触熱伝達率の理論式と実験結果との比較を行い,以下の知見を得た。

(1)本実験範囲は低ヤング率側の銅において,ヤング率と荷重から求めたひずみが0.062%であることから,素材全体は弾性変形範囲と推察される。さらに,接触熱伝達率は荷重pの2/3乗に比例し,定性的に弾性変形時の接触理論と一致していることから,接触熱伝達率の上昇は荷重pの上昇によって,弾性変形的に接触面積率A0が増大することに起因したと推定される。

(2)酸化物皮膜のないステンレス鋼と銅を接触させた場合,熱伝導率の高い銅試験片の表面粗さは,接触熱伝達率に対する影響が小さい。ステンレス鋼の熱伝導率は,銅に対して3.7%程度であることから,ステンレス鋼側の熱抵抗は9~210 m2 K/GWとなり,銅側の0.7~2.7 m2 K/GWと比較して相対的に高いためと推定される。

(3)酸化物皮膜のない試験片では,荷重80 MPaにおける接触部熱伝達率(hc1+hc2)は,Tachibanaのモデルに対して,真実接触面積率A0=1,矩形高さδをRaの1800倍とした時の理論値と良い相関が得られた。酸化物皮膜がある場合は接触熱伝達率が過小となる。レーザー顕微鏡で観察した結果,溶射により作製した酸化物皮膜には多数のボイドが生成しており,接触に直接関与する粗さを適切に把握することが重要であると示唆された。

(4)接触熱伝達率の表面粗さおよび接触固体の熱伝導率の影響は,等価電気回路で記載できる。今後,塑性変形を伴う熱間加工に拡張するには,本手法を用いて塑性変形域における接触熱伝達率を定量的に評価することが重要である。その際,素材表面に存在するボイド以外の実際に接触する部分の粗さと,荷重による真実接触面積率A0の変化の検討が特に重要になると考えられる。

文献
 
© 2015 The Iron and Steel Institute of Japan

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