2015 Volume 101 Issue 6 Pages 343-350
Chemical recycle process of waste gypsum board obtaining synthetic calcium ferrite for steelmaking have been investigated. Thermodynamic estimation and results of small-scale heating tests revealed that decomposition of gypsum promoted in proper range of partial pressure of O2 and in lower partial pressure of SO2 through preventing formation of CaS. Adding Fe2O3 to gypsum contributed a lowering of decomposition temperature of gypsum resulting in formation of calcium ferrite in lower temperature. Decomposition of gypsum was incomplete after heating in air at 1180 °C. In contrast, calcium ferrite was successfully obtained by 2-step heat treatment of gypsum ; firstly forming CaS thorough reduction by composite carbon and subsequently heating mixture fine between Fe2O3 and CaS at 1180 °C. Furthermore a possibility of forming calcium ferrite was found even in a single heat treatment if we adapt proper gas and material conditions. After trial tests with using large-scale rotary kiln, it was confirmed that heating of sample consisting with gypsum, coke fine and Fe2O3 at temperature less than 1200 °C resulted in the formation of calcium ferrite accompanying with high desulfurization degree of gypsum.
石膏ボードは建築資材として広く普及しており,その生産量はこの30年間で倍以上と飛躍的に伸びている。一方で,建築物の解体時などに発生する廃石膏ボードの排出量も今後ますます増大し,300万t/年に達すると予測されている1)。しかし,廃石膏ボ−ドは,埋め立て処理をすると硫化水素を発生させることから,1999年の廃掃法改正に伴い,安定型から管理型処分が必須となり,安価な埋め立て処理が困難となっている。廃石膏ボードのリサイクル技術として,廃石膏を石膏ボードの原料として活用する方法が開発されているが2),紙との分離が困難な点,石膏ボード中の結晶粒子が石膏化過程で粗大化するため再石膏化しにくい点,から原料石膏の6%に留まっているのが現状である3)。
一方,カルシウムフェライト(CaOとFe2O3から構成される化合物)は,鉄鉱石焼結過程で結合相として形成する鉱物として知られるが,その高い脱リン能力を活用し,転炉吹練時の蛍石代替材として製造検討が進められている4,5,6,7)。さらに,今後膨大な埋蔵量を持つ高リン鉱石8)使用時の対策技術としても重要性が高まると考えられる。
そこで,廃石膏ボードを熱分解処理して脱硫すると同時に,製鉄用資源として有用なカルシムフェライトとして活用するプロセスを検討した。ここで,カルシウムフェライト製造時に発生するSO2は,水酸化マグネシウムを用いた脱硫装置を活用し無害化を図ることで,CaOの再資源化プロセスが構築可能である。更に,得られるカルシウムフェライトは,転炉吹錬用の他に高機能性焼結用原料などへも適用できると考え,高価な産業廃棄物処理の代替となるプロセスを提案できる可能性がある。
まず,標記プロセスの可能性について,熱力学的検討を行い,石膏ボードを用いた基礎試験(電気炉焼成)を実施した。さらに,ロータリーキルン装置を用いた焼成実験を実施した。
Table 1に石膏ボードの成分を示す。国内で製造される数種の石膏ボードの内,広く用いられているのはGB-R(Gypsum Board Regular type)であり,全体の81%を占める。

Chemical compositions of Gypsum Board Products and Coke fine used in this study (mass%).
主成分は,CaOとSであり,CaSO4・2H2Oとして存在している。不純物含有量は少なく,脱硫後は不純物の少ないCaO源として利用できる。石膏ボードの乾式加熱による脱水反応は,以下の過程を経る9)。
CaSO4・2H2O(二水石膏)
→ CaSO4・1/2H2O(半水石膏,130°C)
→ β-CaSO4(可溶性無水石膏,190°C)
→ α-CaSO4(無水石膏,1195°C)
West and Sutton10)は,石膏の熱分解反応に関して,空気中での1225°Cからの熱分解開始,COガス中またはC添加による熱分解開始温度低下,Fe2O3添加によるCaO・Fe2O3生成,を報告している。また,熱分解温度を下げる共存物質として,CaCl2,Pyrite精鉱(FeS2)11),Na2+12)が報告されている。最近,Miharaら13)も,廃石膏の再利用を目的にCO-CO2ガス下でのFe2O3との混合による熱分解促進を見出している。
平衡状態図に関しては,CaSO4-CaO-CaS-SO2-CO-CO2系の相平衡条件が明らかにされている14)。ガス条件による固相安定相の変化も検討されている15)。本章では,2種の気相が関連することを踏まえて化学ポテンシャル図にて検討を行った。
3・1 石膏の熱分解反応石膏ボードの主成分であるCaSO4の熱分解反応は,Table 2中(1),(2)式のように表される。また,熱分解生成物であるCaOと気相の関係として(3),(4)式も関連する。なお,本稿では熱力学データは主としてTurkdogan16)の値を用いた。
| β-CaSO4(s) = CaO + SO2(g) + 1/2 O2(g) (1) ΔGO1 = +461790 - 237.73 T(J) (950-1195 °C) |
| α-CaSO4(s) = CaO+ SO2(g)+1/2 O2(g) (2) ΔGO2 = +453380 - 231.88 T(J) (1195-1365 °C; m) |
| CaO(s) + SO2(g) + 3 CO(g) = CaS(s) + 3 CO2(g) (3) ΔGO3 = -382460 + 177.27 T(J) (1000-1300 °C) |
| CO(g) + 1/2 O2(g) = CO2(g) (4) ΔGO4 = -280660 + 85.30 T(J) (1000-1300 °C) 17) |
| Fe2(SO4)3 = Fe2O3(s) + 3 SO2(g) + 3/2 O2(g) (5) ΔGO5 = +772320 - 723.87 T(J) (400-800 °C) |
| FeSO4(s) = 1/2 Fe2O3(s) + SO2(g) + 1/4 O2(g) (6) ΔGO6 = +203470 - 202.34 T(J) (500-630 °C) |
| FeS(s) + O2(g) = Fe(γ) + SO2(g) (7) ΔGO7 = -206730 + 15.82 T(J) (906-988 °C) |
| 3 Fe2O3(s) = 2 Fe3O4(s) + 1/2 O2(g) (8) ΔGO8 = +237990 - 137.28 T(J) (25-1500 °C) |
| Fe3O4(s) = 3 'FeO'(s) + 1/2 O2(g) (9) log P02 = -33500/T + 13.59 18) |
| ‘FeO’(s) = Fe(s) + 1/2 O2(g) (10) log P02 = -27330/T + 6.67 18) |
| [2CaO・Fe2O3] (s) = 2 CaO(s) + Fe2O3(s) (11) ΔGO11 = +53140 + 2.51 T(J) (700-1450 °C; m) |
| [CaO・Fe2O3] (s) = CaO(s) + Fe2O3(s) (12) ΔGO12 = +29710 + 4.81 T(J) (700-1216 °C; m) |
| 4 C4WF4 + C2F = 10 CWF + 4 C2F + 3/2 O2 (13) 平衡CO2/COから換算 log PO2 = -5.87 (at 1000 °C) 19) |
| 2 C2F + 4 CWF = 2 CW3F + 3 C2F + 1/2 O2(g) (14) ΔGO14 = +459860 + 126.27 T lnT-1133.31 T(J) (767-1102 °C) 20) |
| 3 C2F + 2 CW3F = 4 C2F + 8 'W' + 1/2 O2(g) (15) ΔGO15 = +249280-69.35 T lnT + 433.43 T(J) (857-1092 °C) 20) |
| 1/2 C2F + 'W' = 1/2 C2F + Fe + 1/2 O2(g) (16) ΔGO16 = +504730 + 198.39 T lnT-1670.17 T(J) (852-1087 °C) 20) |
| 1/3 C2F = 2/3 CaO + 2/3 Fe + 1/2 O2(g) (17) ΔGO17 = +288170 + 1.033 T lnT-87.91 T(J) (782-1082 °C) 20) |
Fig.1に(1)~(4)式から得られる1000°C,Ca-O-S系の化学ポテンシャル図を示す。この図から,①低PO2,低PSO2条件でCaSO4がCaOへ熱分解する,②過度にPO2が低下すると,CaSが生成する,ことが分かる。CやCOガスにより石膏の熱分解が促進されることは,多く報告されており10,21),上記解析結果と一致している。

Chemical potential diagram for Ca-S-O system at 1000 °C.
すなわち,石膏ボードを脱硫させる観点からは,①適正なPO2とする(PO2が高いと熱分解しない,一方,PO2が過剰に低いとCaSが生成),②PSO2を低く保つ(ガス気流条件とする),ことが重要であると考えられる。なお,平衡する気相は,PO2の高い順から,SO3,SO2,S2,COS,CS,CS2と変化するが,本研究で想定するPO2の範囲(10−1~10−16 atm)ではSO2が主体であるので,SO2のみを考慮する。
3・2 カルシムフェライト製造の可能性石膏ボードを脱硫し,かつ生成したCaOとFe2O3からカルシウムフェライトを生成させる可能性についてCa-Fe-S-O系の相平衡関係を用いて検討した。本系では,硫酸化物としてCaSO4,Fe2(SO4)3,FeSO4,硫化物としてCaS,FeS,酸化物として,Fe-O,CaO,カルシウムフェライト(2CaO・Fe2O3,CaO・Fe2O3)を考慮する必要がある。さらに,カルシウムフェライトはPO2によって,C4WF4,CWF,CW3F,'W'と複雑に変化する(C:CaO,W:FeO,F:Fe2O3,'W':(Ca,Fe)O)。Table 2に示す,Fe-S-O系について(5)~(10)式,Fe-Ca-O系について(11)~(17)式の熱力学データからFe-Ca-S-O系の相平衡関係を推定した。なおここで,検討しているプロセスの温度が比較的低温であり,液相も存在しないことから,①酸化物へのSの溶解は小さい(ɑOxide=1),②硫酸化物,硫化物CaS,FeSに相互の溶解度がなく,かつ固溶体も存在しない,すなわちɑSulphide=ɑSulphate=1,と仮定した。なお,Fe-Ca-S状態図からは,985°Cにおいて,共晶反応により融液が生成し,1000°Cにおいて,Feと共存する相は(L+CaS+FeS)となるが22),平衡時PO2のデータが不明のため図では省略した。
Fig.2に(1)~(17)式から得られる1000°C,全圧1 atmのCa-Fe-S-O系の化学ポテンシャル図を示す。この結果から,①Fe系硫酸化物(Fe2(SO4)3,FeSO4)生成の可能性はない,②石膏とFe2O3からカルシウムフェライトを製造する際には最適なPO2が存在し,かつ弱還元雰囲気で速やかにSO2ガスを排出することが重要である,③強還元条件ではCaS-FeS融液が生成する,ことが示唆された。

Chemical potential diagram for Ca-Fe-S-O system at 1000 °C. Gray lines represent reaction routes of calcium ferrite formation in test 1 to 3 in Chapter 4.
また石膏単味のCaSO4/CaO平衡線(Fig.1)と本系のCaSO4/CaO平衡線を比較すると,Fe2O3を共存させることにより,石膏単味よりも高PO2,高PSO2化している。これは熱分解温度が低温化することを示し,石膏の熱分解処理にFe2O3を添加させることは,カルシウムフェライトの製造のみならず,石膏熱分解温度の低温化にも寄与することが分かった。
すなわち平衡論的には,石膏ボードとFe2O3を原料として比較的低温でカルシウムフェライトを製造することが可能である。その生成条件は,基本的に前節で示した石膏単味の熱分解反応の促進条件と同一であり,適正なPO2とすること,PSO2を低く保つこと,であると考えられた。
焼成実験では,Table 1に示すボード状の紙付き石膏ボード(GB-R)を−63 umに破砕したものを用いた。破砕時に残留した大片の紙は取り除いた。Fe2O3源として特級試薬Fe2O3(99%以上)を用いた。
空気中での反応を検討するために,石膏ボードと試薬Fe2O3を混合後,空気中で焼成する試験を実施した。生成するカルシウムフェライトを2CaO・Fe2O3, CaO・Fe2O3,CaO・2Fe2O3(以降C2F,CF,CF2と表す)と想定し,CaO:Fe2O3のモル比を2:1,1:1,1:2とした。石膏ボード粉と試薬Fe2O3を所定の割合で30分間自動乳鉢で混合後,①水添加後に手造粒して顆粒状,②圧粉成型タブレット(Φ15 mm,h 4 mm,W 1.7 g,成型圧4 Mpa),の2種類の試料を作成した。箱形電気炉を用い,1180°C,4時間空気中で焼成した。焼成温度はCF-CF2共晶(1205°C)の融液生成を避けるため,1180°Cとした。
焼成後の試料は,X線回折で生成物の半定量分析を実施した。強度比の高い以下の格子面間隔(Å)における強度の純物質との比から半定量した。一部の試料については組織観察を行った。
CaSO4;3.49,CaS;2.013,CaO;2.4059,Fe2O3;1.6941,
Fe3O4;2.0993,CF2;2.579,CF;4.612,2CF;7.37
石膏ボードの反応特性としては,CaSO4の熱分解とCaSへの転換が起こる。そこで,石膏ボードの脱硫率Dsに着目し,Dsを焼成中の重量変化を考慮して式(18)から求めた。
| (18) |
石膏の熱分解温度は,CやCO-CO2条件下では1000°C以下に低下する。さらに,Fe2O3が共存するときに,低温熱分解が促進されることも報告されている。そこで一度,石膏ボード,C,Fe2O3を含む混合粉を熱分解し,その熱分解粉を用いてカルシウムフェライトの生成させる2段プロセスを検討した。
混合粉の組成は,予備試験で最も低温(892°C)で熱分解開始を示した組成(石膏ボード78 mass%,コークス粉18 mass%,試薬Fe2O3 10 mass%)を選んだ。標記混合粉を30分間自動乳鉢で混合後,熱分解させた。熱分解は,混合粉をPtるつぼに入れた後,縦型電気炉でN2 5 L/min流通下で1100°C,2時間で行った。得られた熱分解粉に,試薬Fe2O3をCaO:Fe2O3のモル比が2:1,1:1,1:2となるように添加した後焼成し,カルシウムフェライトを製造した。焼成は実験1と同様に,タブレット状にした後,箱形電気炉を用い,1180°C,4時間で焼成した。
4・3 1段反応による脱硫およびカルシウムフェライト生成(実験3)工業的には1段プロセスが製造効率から理想的である。そこで,上記2段階反応を1段で再現可能かを検討した。石膏ボード,コークス粉と過剰の特級試薬Fe2O3を加えて,熱分解とカルシムフェライト生成を1段で行う実験を実施した。
実機適用を想定して混合粉に水を添加後,手造粒して顆粒状の試料を作成した。焼成条件は,実験2の2段反応において,1180°Cで融液生成が見られたことを考慮して1100°Cとし,4時間で焼成した。1段反応を促進させるためには,反応場での気相中SO2濃度やO2濃度が重要であると考え,試料上にArを1 L/minで吹き付ける影響,コークス粉配合割合の影響も検討した。
4・4 大型ロータリーキルン焼成テスト(実験4)前節の1段反応の検証として,大型ロータリーキルン(全長6.5 mL,有効長4.9 mL,Fig.3)での連続装入試験を実施した。原料は石膏ボード(GB-R),コークス粉,試薬Fe2O3用い,配合を石膏ボード:コークス粉:Fe2O3=72:18:10(mass%)とした。混合粉を粒径4~8 mm,水分3.9%のミニペレットとして,キルンに供した。原料中T.SとT.Feはそれぞれ14.2 mass%,7.1 mass%であった。焼成物は,化学分析の他,組織観察,X線回折,EPMAで解析を行った。

Appearance of rotary kiln. Distance from discharging hole T1; 0 m, T2; 0.5 m, T3; 1.5 m.
Fig.4,Fig.5に空気中焼成成試験(実験1)の結果を示す。生成したカルシウムフェライトはいずれの石膏ボード配合比率でもCF2であった。これは,石膏ボードの熱分解が十分に進まず,見掛け上,低CaO条件であった影響と考えられる。顆粒状の方がCF2生成量は多かった。これは,タブレット状では,熱分解で生成するO2,SO2ガスが十分系外に排出されず,熱分解が十分に進まなかった影響と考えられる。石膏ボード配合比率が低いほど,脱硫率は高かったものの,60%に留まった(Fig.5)。

Changes in mineral composition of samples after heating at 1180 °C in air for 4 hours with CaO/Fe2O3 (Test 1).

Changes in T.S content after heating and desulfurization degree of gypsum with CaO/Fe2O3 (Test 1).
同じ試料条件で示差熱天秤(N2雰囲気,10°C/min)で石膏の熱分解開始温度を測定すると,同様に石膏ボード配合比率が低くCaO含有量が低い程,熱分解開始温度は低下した23)(Fig.6)。よって,石膏ボード配合比率が低いほど,脱硫率も高かったのは,熱分解温度が低下し,分解反応が促進されたためと考えれる。

Changes in decomposition temperature of gypsum with CaO/Fe2O3 measured by TG23).
以上から,1180°C,空気中での石膏ボードの焼成では,カルシウムフェライトは生成するものの,CaSO4の完全分解は困難であり,PO2の低下などの組合せが必要であることが分かった。
5・2 2段反応(実験2)実験2の2段処理の熱分解過程で得られた熱分解粉を解析した結果,T.S=31.7 mass%,T.C=4.4 mass%であり,X線回折から,CaSと同定された。コークス粉添加により,熱分解時のPO2が低下し,CaSO4がCaSとなったものと考えられる。グラファイト添加でも同様の知見が得られている24)。
Fig.7に2段プロセスによるカルシウムフェライト製造試験結果(実験2)を示す。CaO/Fe2O3=0.7以上で,多量のカルシウムフェライトが生成した。生成物のT.Sは,0.2 mass%以下と低く,石膏ボードの脱硫も十分進行していた。なお,本条件では熱分解粉中のカーボンの燃焼により融液が生成していた。

Changes in a) mineral composition and b) desulfurization degree with CaO/Fe2O3 in 2-step heat treatment (Test 2).
よって,石膏ボードを一度強還元条件でCaSに還元した後に,Fe2O3を添加してて,空気中焼成すると,石膏ボードが完全に熱分解されてカルシウムフェライトが生成することが分かった。
5・3 1段反応(実験3)Fig.8で同様の効果を1段処理で狙った試験の結果を示す。空気中に保持した条件での焼成では,脱硫率は最大でも35%までしか到達しなかった。一方,Ar吹き付けによって,脱硫率が向上し,特に低CaO/Fe2O3条件でその影響が大きかった。さらに,コークス粉の配合を増やすと脱硫率が向上し,最大95%,T.Sが0.5 mass%まで到達した。また,いずれの場合も,生成したカルシウムフェライトはCF2であった。

Influences of a) gas condition and b) coke fine ratio on desulfurization degree of gypsum in single-step heat treatment (Test 3).
よって,1段反応でも,生成SO2ガスの反応場からの除去と反応場のPO2低下により,石膏ボードの脱硫およびカルシウムフェライトの生成が可能であることが分かった。
5・4 ロータリーキルン焼成試験結果(実験4)Table 3にロータリーキンル試験水準と結果を示す。Run 1,Run 2は炉内が高温となり,T2が1050°Cを越え,成品は溶融状態であった。高温かつ滞留時間を長時間とした水準では,高い脱硫率を示した。
| Run No. | Residence time | Temperature | Appearance of product | T.S of product | SOx in exhaust gas | desulfurization degree | ||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| T1 | T2 | T3 | Exhaust gas | 1 | 2 | |||||
| min | °C | °C | °C | °C | mass% | m3 | % | % | ||
| 1 | 140 | 1250 | 1075 | 762 | 362 | molten | 0.4 | 0.644 | – | 80.9 |
| 2 | 25 | 1250 | 1150 | 809 | 325 | molten | 16.6 | 0.140 | – | 17.6 |
| 3 | 140 | 1081 | 1039 | 690 | 300 | pellet | 2.8 | 0.625 | 92.7 | 78.5 |
1 Calculated from sulfur content in product
2 Calculated from SOx concentration of exhaust gas
ロータリーキルン操業の安定性を考慮すると,融液が発生する高温条件での操業は,脱硫は進むものの,望ましくない。Run 3のように温度を低温に保っても,滞留時間を十分長くすれば,ある程度の脱硫率まで到達することが分かった。C量の調整などによりCaS生成を最小化すれば,より高い脱硫率が期待できる。
実験1の焼成後試料の組織写真をPhoto 1に示す。顆粒状試料中にはCF2生成が観察された。一方,タブレット状では試料表層部のみ少量のCF2が見られ,中央部には未熱分解石膏が多く残存していた。試料の充填構造で大きく組織が異なったことは,石膏の脱硫,その後のカルシウムフェライト形成に,ガス拡散条件が大きく影響を及ぼしていることを示唆する。

Microstructures of mixtures of gypsum board and hematite after heating in air (Test 1), H=Fe2O3, CF2=CaO·2Fe2O3, G=CaSO4.
Fig.9,Photo 2にロータリーキルン試験(Run 3)の原料投入後,時系列的に排出された焼成物を採取し,解析した結果を示す。いずれの焼成物も非晶質スラグが存在し,構成鉱物の半定量値の合計は100%とはならなかった。どの試料にも未熱分解CaSO4は検出されず,CaSは焼成時間とともに減少する傾向があった(Fig.9)。生成カルシウムフェライトはC2Fのみが検出された。

Changes in mineral composition and desulfurization degree of product samples with operation time in rotary kiln test, Run 3.

Microstructures of products sampled by operation time in rotary kiln test, Run 3. A; CaS + C2F type , Pale: C2F, Gray; CaS, Dark: pore, B; Magnetite + slag type, Pale: Magnetite, Gray; Slag, C; C2F type, Gray; C2F, Dark; Pore.
組織は,A)CaS+C2F,B)マグネタイト+スラグ,C)C2F主体,の3種に分類された。Bは,焼成温度が高く,カルシムフェライトがスラグとマグネタイトに分解溶融したものと考えられる。この組織には未熱分解CaSO4は極少量検出される一方,CaSの共存は観察されなかった。
焼成時間が短時間でもC2Fが生成されており,C2Fの生成速度は十分速いと考えられる。
以上の結果から,含炭ペレット化した石膏のキルン焼成では,CaSO4は容易にCaSに還元され,その後のCaSの酸化過程で脱硫が進行するものと考えられる。
6・2 カルシウムフェライト生成メカニズムCa-Fe-S-O系化学ポテンシャル図(Fig.2)を用いると,各実験での脱硫,カルシウムフェライト生成メカニズムは以下のように考えられる。
実験1では,空気中焼成であったため,石膏ボードの熱分解反応が遅く,完全な分解まで至らなかった(図中①)。実験2では,熱分解過程でCaSを生成し,CaSの酸化とともにカルシウムフェライトが生成した(図中②)。実験3およびロータリーキルン焼成では,内装カーボンの燃焼によって還元雰囲気が生じるとともに,気相中SO2ガスを除くことにより熱分解反応が促進され,その後酸化過程でカルシウムフェライトが生成したと推定される(図中③)。
6・3 キルン焼成における反応過程の推定カルシウムフェライトの形成反応を検証するため,キルン焼成の30分中断時のペレット試料のEPMAによる元素分析解析(ZAFF補正法)を実施した。試料は4・4節と同一のペレットであり,小型キルンで焼成した。焼成後試料の構成鉱物はCaO 5%,C2F 54%,CaS 32%,CaSO4 4%(mass),T.Sは10.6 mass%であった。Photo 3に組織写真,Table 4にEPMA解析結果をそれぞれ示す。コークス粉の灰分由来と推定されるSiO2の周囲にCaOが生成しており,2~3 mass%のSが含有されていた。また,球状CaSの周囲にC2Fが生成していたことから,C2F生成メカニズムは,式(19)に示すCaSとFe2O3の直接反応と考えられる。
| (19) |

Microstructures of mixtures of gypsum board, coke fine and hematite after heating in kiln for 30 minutes. Each number is in correspondence with that in Table 4.
| Portion | Ca | Fe | S | O | Total | Identified phase |
|---|---|---|---|---|---|---|
| mass% | ||||||
| 1 | 0.5 | 0.3 | 0.0 | 30.8 | 31.6 | SiO2 |
| 2 | 0.6 | 0.3 | 0.0 | 33.2 | 34.2 | |
| 3 | 41.8 | 1.1 | 3.4 | 39.7 | 86.0 | CaO |
| 4 | 43.7 | 2.5 | 1.6 | 35.2 | 82.9 | |
| 5 | 31.5 | 36.1 | 0.7 | 28.4 | 96.7 | C2F |
| 6 | 31.9 | 35.2 | 3.6 | 28.5 | 99.3 | |
| 7 | 57.1 | 0.8 | 45.0 | 2.7 | 105.5 | CaS |
| 8 | 56.9 | 0.6 | 44.8 | 2.6 | 104.9 | |
Fig.10にキルン焼成時の反応過程の推定を示す(PSO2=0.01 atm一定とした。実際はガス側条件で変化する)。昇温に伴い,コークス粉が燃焼してPO2が低下し,CaSO4の熱分解が促進される。このとき酸化鉄と接触している部分では,カルシウムフェライトが生成する。本試験の配合条件ではFe2O3に対してCaO過剰であるので,過剰なCaO分はCaSまで還元される。あるいは,800°C以下,PO2<10−18であれば直接CaSO4がCaSに転ずる。その後コークス燃焼の終了に伴いPO2が上昇し,バーナーによる昇温も進む。Run 1,Run 2のように固体温度が1200°Cを越える条件では溶融が進み,組織は液相主体となり,冷却時に過飽和となったマグネタイトが晶出する(B組織)。Run 3のように固体温度が1100°C以下に抑えられると,液相を介さずに式(19)に示すCaSからのカルシウムフェライト生成が起こる。この過程が不完全であったものが,Aタイプの組織に相当する。部分的にはCaSO4からのカルシウムフェライト生成も起き,これがC組織に相当すると思われる。また,キルン内の温度,雰囲気の不均一性に応じて,生成物にばらつきが生じたと考えられる。

Reaction route during rotary kiln test, Run 3. A,B and C represent microstructure types shown in Photo 2.
廃石膏ボードの資源化の可能を探るため,廃石膏ボードを用いたカルシウムフェライトの合成を試みた。その結果,以下の知見を得た。
1)石膏ボードの熱分解温度は,低PO2化,低PSO2化で低温化する。但し,低PO2条件ではCaSが生成するので,石膏ボードの脱硫処理にはPO2制御が重要である。
2)石膏ボードに酸化鉄を加え,PO2とPSO2を適正に制御するこで,石膏の熱分解温度が低下するとともに,カルシウムフェライトの生成が期待できる。
3)石膏ボードの空気中,1180°Cでの焼成では,CaSO4の完全分解は困難であった。一方,石膏ボードを一度強還元条件でCaSに還元した後に,Fe2O3を添加し,空気中焼成すると石膏ボードが完全に熱分解されてカルシウムフェライトが生成した。さらに,生成SO2ガスの反応場からの除去と反応場のPO2低下を確保すれば,1段反応でもカルシウムフェライトの生成が可能であることが分かった。
4)ローターリーキルンによる焼成実験を実施し,含炭化とFe2O3の共存の効果により,高い石膏の脱硫率が得られること,およびカルシムフェライトが生成すること,を確認した。溶融を抑制した1200°C以下での操業でも,脱硫率は93%と高かった。今後,低温での高脱硫率を追求すべく,基礎試験で最適原料条件,キルン操業条件を明らかにする必要がある。