Tetsu-to-Hagane
Online ISSN : 1883-2954
Print ISSN : 0021-1575
ISSN-L : 0021-1575
Regular Article
Effect of Graphite and Eutectic Carbides on the Seizure and Wear Characteristic in Wear-resistant Cast Iron
Kazuki FujioAtsushi YamamotoSusumu Nishikawa
Author information
JOURNAL OPEN ACCESS FULL-TEXT HTML

2015 Volume 101 Issue 7 Pages 372-377

Details
Synopsis:

Seizure tests were carried out on Ni-Cr-Mo abrasion resistant cast irons containing different amounts of graphite and eutectic carbides. Specimens were prepared with changing Cr and Ni contents based on 2.3% C-1.5% Si- 0.6 Mn- 1.8 Mo iron.

Surfaces of the test pieces were finished with mechanical grinding or electro-spark machining up to roughness of Ra:0.30 ~ 0.35. Seizure properties were evaluated with using a high peripheral speed wear tester. Higher load was applied for evaluating seizure property, while lower load was applied for friction coefficient. Weight loss was also measured after testing. Surfaces of the specimen after seizure test were observed with SEM.

The specimens with higher amounts of graphite showed lower friction at the early stage of seizure tests. When the testing load was increased, seizure was significantly occurred on the specimen with graphite.

The effect of graphite for lubrication was also diminished in the case of wear tests under lower load except the early stage of testing.

The electro-spark machining for surface finishing lead to exfoliation of graphite from the surface resulting in increase in friction coefficient. The specimen with higher amount of carbides showed superior wear properties.

1. 緒言

鋼板の熱間圧延では,ロール表面に鋼が焼付くことによって,圧延製品のきずや肌荒れが問題となることがある。特にステンレス鋼板などの変形抵抗が高い材質の熱間圧延においては,焼付きが発生しやすい1,2,3)

「焼付き」という表現は圧延および材料業界でポピュラーに使われているが,その定義は明確ではない。本報で言う「焼付き」とは,高温下で金属同士が化学的に結合する現象に加え,圧延時の摩擦による塑性加工によって圧延材の一部がロール材に移着する現象も含むこととする1)

引抜加工やピストン,軸受などでは潤滑油の供給により焼付きを抑制する方法がよく用いられているが,熱間圧延では高温であるため,潤滑油膜はほとんど無く,ロール表面の酸化膜やロール材質そのものの影響が大きい4)。耐焼付き性の良いロール材質にはアダマイトやグレン,ダクタイルがあり5,6,7),これらは黒鉛が晶出した組織であるため,黒鉛の潤滑性により焼付きが少ないとする報告は多い6,8)

高速度鋼や合金鋼では,黒鉛の他に耐焼付き性を向上させる組織として炭化物を利用している。クロム炭化物やバナジウム炭化物のような硬質粒子を均質に分散させた組織は焼付き性と耐摩耗性を向上する。硬質相が全体の接触荷重を支えるとともに,基地の凝着部が摺動性により移動,成長するのを分断し,焼付きや摩耗を抑制する9)と考えられている。一方,炭化物の多い高クロム鋳鉄は熱伝導率が低いため,ロール表面と内部の熱応力が大きくなり,表面損傷に影響するとの考えもある10)

圧延用ロールには黒鉛と炭化物の面積率の違う製品が多種あり,黒鉛と炭化物のどちらが有効に作用しているのかを明確にする必要がある。そこで,本報では,NiおよびCr濃度を変化させて,黒鉛と炭化物の面積比を変化させた鋳鉄について,焼付き性,耐摩耗性を調べた。

また,ロール表面の加工方法により,黒鉛および炭化物が脱落,割れ,変形し,焼付きおよび摩耗特性に影響を与える可能性があるため,これについても調査した。

2. 実験方法

2・1 実験試料

試料は2.3%C-1.5%Si-0.6%Mn-1.9%Moに,Niを1.4~3.0%,Crを0.04~1.0%添加した3種類の鋳鉄である。それら組成に配合した原材料を高周波誘導炉により1773 Kで溶解し,B号Y型供試材(JIS G5502)を作製した。化学組成をTable 1に示す。

Table 1. Chemical compositions of the cast irons (mass%).
IronCSiMnPSNiCrMo
No.12.341.460.600.0300.0162.940.041.82
No.22.241.450.590.0320.0182.980.481.95
No.32.301.550.690.0310.0161.370.961.82

電気炉を用いて溶製した試料に1273 Kで1.8×105 sの熱処理を施し,鋳造時に偏析する合金元素の均質化および共晶炭化物の一部黒鉛化を図った。1273 Kから冷却速度0.3 K/sで室温まで冷却する焼き入れを行った。その後,723 Kで3.6×105 s保持し焼戻しを行った。全ての熱処理は試料の酸化および脱炭を防止するためArガス雰囲気中で行った。

2・2 試料の組織評価

熱処理を施した試料は,#1500までエメリー研磨,その後2 μmのダイヤモンドスラリーを用いバフ研磨を施し,塩酸ピクリン酸を用いて腐食,SEMで組織観察を行った。SEMの二次電子像および反射電子像を画像解析ソフトで2値化し,黒鉛面積率および炭化物面積率を測定した。用いた画像解析ソフトは日鐵住金テクノロジー株式会社製の粒子解析IIIVer. 3.0であり,700×700 μmの範囲を5視野測定し,平均した。SEM観察を行った試料の研磨面についてロックウェルCスケールで硬さ測定を行った。

2・3 焼付き試験

前述の熱処理を施した試料からFig.1(a)に示す形状の試験片を作製し,Fig.1(b)の形状に加工したS25Cを相手材として,回転する試験片に相手材を押し当てる方法で焼付き試験を行った。試験装置には千穂田精衡株式会社製高周速摩耗試験装置(CHD-6000-HVR型)を用いた。試験片および相手材の試験面は放電加工または研削加工により表面粗さRa0.30~0.35に仕上げた。試験条件は試験片を周速0.1 m/sで回転させ,相手材を荷重98 Nで180 s押し当て表面を慣らした後,60 s毎に294 N連続的に荷重を増し,試験片に取り付けたロードセルで摩擦力を測定した。摩擦力が急激に増加した時点を焼き付きとした。試験後の試験片について表面および断面のSEM観察を行った。断面観察の試料には,前述の方法で研磨およびエッチングを施した。

Fig. 1.

 Schematic illustrations of specimens used for seizure test and wear test.

2・4 摩耗試験

熱間圧延を想定した摩耗試験は多くの研究がされており4,5),ころがりとすべりにより摩耗するとされている。今回の摩耗試験では黒鉛の潤滑性を評価するため,すべり摩耗に着目し,以下の試験を行った。

摩耗試験には前述の焼付き試験と同じ装置を用い,相手材も焼付き試験と同様のものを用いた。試験片周速を0.1 m/sとし,一定の荷重392 Nで3.6×103 sの間摺動し,重量減を測定した。

3. 実験結果

3・1 試料組織

焼付き試験および摩耗試験に用いた試料の二次電子像をFig.2に示す。Fig.2とそれぞれ同一視野の反射電子像をFig.3に示す。二次電子像,反射電子像のいずれにおいても原子量の多い元素は明るいコントラストで観察されるが,反射電子像の方がこの差が顕著に現れる。一方,二次電子像では組織の微細な凹凸が明るいコントラストとなるが,反射電子像ではさほど顕著ではない。これを勘案すると,Fig.2(c)Fig.3(c)中に矢印Aで示した組織は黒鉛であり,No.1の試料中にも多数観察される(Fig.2(a)Fig.3(a))。矢印BおよびCはいずれも共晶炭化物であり,反射電子像でやや暗いコントラストのB(Fig.3(c))がM3C,明るいコントラストのC(Fig.3(d))がM6Cとであると推定される。Dは,基地から析出したMo含有量の低い炭化物と考えられる。基地組織はサイズに差はあるが,すべての試料で焼戻しマルテンサイトである。

Fig. 2.

 Secondary electron images of microstructures in the specimens. (a)(b) Iron No.1, (c)(d) Iron No.2, (e)(f) Iron No.3.

Fig. 3.

 Backscattered electron images of microstructures in the specimens. (a)(b) Iron No.1, (c)(d) Iron No.2, (e)(f) Iron No.3.

これらの試料の黒鉛面積率および炭化物面積率,硬さをTable 2に示す。Crを添加していない試料No.1では炭化物はほとんど観測されず,黒鉛面積率が5.87%であった。Crを1.0%添加した試料No.3では黒鉛はほとんど観測されず,炭化物の合計面積率が19.42%であった。試料No.2はその中間の組織で,黒鉛面積率2.40%,炭化物面積率6.82%であった。硬さは黒鉛面積率が高いほど低く,炭化物面積率が高いほど高い。

Table 2. Graphite and Carbides area fractions and Rockwell Hardness on the specimens.
IronGraphiteEutectic CarbidePrecipitated CarbideTotal CarbideHardness (HRC)
M3CM6C
No.15.871.901.9047.7
No.22.405.141.686.8252.3
No.30.1013.460.615.3519.4254.1

3・2 焼付き試験

研削加工により表面を仕上げた試料No.1~3の焼付き試験の結果をFig.4に示す。(a)は試験開始から終了までを示しており,(b)はその中で試験時間が700 ~1000 sの部分である。荷重が2500 N以下では黒鉛面積率が高いNo.1の摩擦力が最も小さく,次いでNo.2,炭化物面積率の高いNo.3が最も摩擦力が大きかった(Fig.4 (a))。荷重が2500 Nを超えると,その傾向は逆転していき,No.1は荷重が3200 Nを超えた付近で摩擦力が急激に増加した(Fig.4(b))。No.2では荷重が3400 Nを超えた付近で摩擦力が増加し,No.3では急激な増加は見られなかった(Fig.4(b))。

Fig. 4.

 Friction curves obtained with seizure test. (a) Whole curves, (b) curves in the range of 700 to 1000 s for friction time.

焼付き試験後の試料表面の二次電子像および反射電子像をFig.5に示す。(a),(b)が試料No.1,(c),(d)がNo.2,(e),(f)がNo.3であり,左列が二次電子像,右列が反射電子像である。反射電子像中,暗い部分が焼付き箇所である。Fig.5(b)中に矢印AおよびBで示す暗い領域と明るい領域のSEM/EDS分析結果をFig.6(a),(b)に示す。

Fig. 5.

 Microstructures on the surface of specimens after seizure tests. (a)(b) Iron No.1, (c)(d) Iron No.2, (e)(f) Iron No.3. Secondary electron images: (a),(c),(e), and backscatter electron images: (b),(d),(f).

Fig. 6.

 EDS spectra for the points A and B indicated in Fig.5 (b). (a): Point A, (b): point B.

Fig.5(b)の組成像で暗く観察される個所(A)からは酸素が検出され(Fig.6(a)),S25Cの酸化物であると推測される。一方,明るく観察される個所(B)ではNiおよびMoが検出され(Fig.6(b)),ロール材であると考えられる。Fig.5(b), (d)に示したように,No.1,No.2の試料では暗い領域が多く観察され,相手材であるS25Cが移着している範囲が広い。一方,No.3では微少な移着しか観察されない。

焼付き試験後のNo.1およびNo.3の断面観察の結果をFig.7に示す。観察面は写真左手前から右奥へと摺動された面である。試料No.1(Fig.7(a))では,摺動面近傍に塑性流動が観察され,表面付近のマルテンサイト組織が圧壊している。この範囲を塑性変形領域とすると,No.1では20 μm程度の範囲であり,黒鉛もつぶされている。一方,炭化物の多いNo.3(Fig.7(b))では塑性変形領域は5 μm程度と薄く,炭化物の変形はほとんど見られない。

Fig. 7.

 Microstructures in the cross sections of the specimens after seizure tests. (a) Iron No.1, (b) Iron No.3.

3・3 摩耗試験

実験方法2・3に述べたように,摩耗試験には,試験面を研削加工で仕上げた試料と,放電加工で仕上げた試料の2種類を用いた。研削加工により表面を仕上げた試料No.1~3の摩耗試験の結果をFig.8に示す。No.1~3を比較すると,試験開始から1000 s程度までは黒鉛面積率の高いNo.1の摩擦抵抗が最も低く,次いでNo.2,No.3の順に摩擦抵抗が大きかった。1000 sを過ぎると摩擦抵抗の差は小さくなった。

Fig. 8.

 Friction curves for the specimens obtained with wear tests.

試料No.1について,研削加工で表面を仕上げた試料と,放電加工で仕上げた試料についての摩耗試験の結果をFig.9に重ねて示す。摩耗試験初期においては,放電加工で表面を仕上げた試料の方が摩擦抵抗が大きくなったが,これも1000 sを過ぎたあたりから差が小さくなった。

Fig. 9.

 Effects of surface finishing methods on friction coefficient in seizure tests.

摩耗試験の重量減を測定した結果をFig.10に示す。放電加工で試験面を仕上げたものは,No.1とNo.2の重量減は同じでNo.3より多い結果となった。同条件の試験でも,試験面を研削加工で仕上げたものはNo.1の重量減が極めて多く,次いでNo.2,No.3の順に多くなった。

Fig. 10.

 Weight losses of specimens due to wear test.

4. 考察

4・1 焼付きに及ぼす黒鉛と炭化物の影響

組織中の黒鉛は固体潤滑剤として作用し,金属同士の摩擦を軽減する作用が期待されるとする考え方があるが11)Fig.4Fig.8Fig.9に示したように,黒鉛の潤滑性が有効に働くのは,焼付き試験や摩耗試験の初期段階のみである。

焼付き試験で荷重が増大すると,黒鉛の多い試料ほど摩擦力が増し,焼付きを生じやすい(Fig.4)。これはTable 2に示したように,黒鉛の多い試料No.1は硬さが低く,Fig.7(a)のように,摩擦力が一定以上になると,試料表面付近に塑性変形が起こり,接触面積が増加することに起因する。一方,試料No.3のように,高強度の炭化物を多く含む試料は,塑性変形が抑制されるため,接触面積の増加が少なく,焼き付きが生じにくい。この考えは中島らの,硬質相が全体の接触荷重を支えることで焼付きや摩耗を抑制する9)とする考えに一致する。とりわけ,摩擦力が大きい条件では試料表面の温度上昇が考えられ,基地に比べ炭化物の高温での変形抵抗が大きいことが有効に働くと考えられる。

摩耗試験の結果では一定時間を過ぎると黒鉛および炭化物の量にかかわらず摩擦抵抗はほとんど変わらなくなる(Fig.8)。試験初期段階では表面の黒鉛が有効に潤滑作用を示すが,試験中期には黒鉛が剥離・脱落して潤滑作用が無くなることと,負荷荷重が焼付き試験と比較して低いため,素地の塑性変形に差が生じないためと考えられる。特に今回の試料中に晶出した黒鉛は球状黒鉛であるため,片状黒鉛に比べ脱落しやすい。

4・2 材料選択と用途

以上の結果から,黒鉛が固体潤滑剤として摩擦抵抗を下げる効果がある範囲は,使用温度,負荷荷重,摩耗方法が影響する。コンプレサーのスクロールなどの摺動部材では高温,高負荷での変形がなく,同じ箇所が摩擦されるため,黒鉛が接触面に留まることができ,摩擦抵抗を減らす。一方,圧延ロールなど高負荷で使用され,黒鉛が留まることが出来ない条件下では,耐焼付き性・耐摩耗性向上のためには,黒鉛よりも炭化物の方が有効である。

4・3 摩擦係数に及ぼす加工方法の影響

高硬度・高耐摩耗性を示す本材質は放電加工で加工されることも少なくない。摩擦に及ぼす加工方法の影響を考察する。Fig.11に示すように,研削加工で表面を仕上げた試料は表面に黒鉛が露出しているのに対し,放電加工で表面を上げた試料では,表面の黒鉛が脱落している。研削加工後の黒鉛が放電加工よりも小さく見えるのは,極表面の基地が塑性変形し黒鉛に被さっているためである。放電加工では加工面に黒鉛が存在しないため,Fig.9の摩耗試験の初期では研削加工仕上げの試料よりも摩擦係数が大きい。摩耗試験の後期では,研削加工仕上げの試料も表面の黒鉛が脱落し,摩擦係数が増加しているため,加工方法による差が小さくなる。

Fig. 11.

 Microstructures on the surface of specimens after machining. Specimen No.1. (a)(c) Grinding, (b)(d) Electro-discharge machining.

仕上げ加工の手法によって摩耗量が増大するのは,黒鉛の多い試料であり,黒鉛が少なく,炭化物が多い試料は,仕上げ加工の手法によらず摩耗量が少ない。Fig.10に示した摩耗試験の重量減においても,研削加工仕上げの試料No.1の重量減が極端に多い。摩耗試験中に脱落する黒鉛が最も多いことが原因である。

5. 結言

耐摩耗性鋳鉄において,焼付きおよび摩耗に及ぼす,黒鉛と共晶炭化物の影響について以下の結果を得た。

(1)晶出黒鉛の多い試料では,焼付き試験初期の摩擦力は小さいが,試料表面が塑性変形を起こす荷重に達すると摩擦力が増大し,焼付きやすい。

(2)炭化物を多く晶出する組織では高負荷の条件でも炭化物が変形せずに荷重を支えるため,表面の塑性変形を小さくし,優れた耐焼付き性を示す。

(3)低負荷の摩擦試験では黒鉛の晶出が多いほど摩擦係数は小さくなるが,一定時間を経過すると試料表面の黒鉛がなくなり,その黒鉛の潤滑性は薄れる。

(4)表面を放電加工で仕上げた試料は表面の黒鉛が脱落しているため,低負荷の摩擦域でも黒鉛の潤滑性が発揮されない。

(5)摩擦試験の重量減は炭化物が多いほど少なく,表面仕上げの手法の影響を受けにくい。

文献
 
© 2015 The Iron and Steel Institute of Japan

This article is licensed under a Creative Commons [Attribution-NonCommercial-NoDerivatives 4.0 International] license.
https://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/4.0/
feedback
Top