2015 Volume 101 Issue 7 Pages 400-405
Among various kinds of shape memory alloys, an Fe-based alloy indicates excellent formability, machinability and weldability. Additionally, its production cost is lower than other alloys. Therefore, it is attempted that the alloy be applied to structural members such as joints for pipelines, splice plates for railways, bolts and nuts, etc. When the alloy is used for the members, it is conceivable to deform flexurally at higher deformation rate because of earthquake, typhoon and related natural phenomena. Thus, it is important to investigate rate sensitivity of the alloy. In this study, a three-point bending test by using a thin plate made of Fe-28Mn-6Si-5Cr alloy is conducted at various normalized deformation rate such as 3.5×10–5, 3.5×10–4, 3.5×10–3, 3.5×10–2, 12.6 and 27.4 s–1. The rate sensitivity of its bending deformation under loading and shape memory effect by heating after unloading are investigated. As a result, it is shown that the positive rate sensitivity under loading, which means the load level increases with increasing in the deflection rate, can be observed in the alloy. However, it is hard to conclude that the shape memory effect depends on deflection rate clearly in the quasi-static region.
鉄基形状記憶合金は,これまで様々な材料学的研究が盛んに行われている1,2,3)。これらの研究により,機械的性質は大きく向上し,現在では,Fe-28Mn-6Si-5Cr合金が,管継手をはじめとした構造用材料として試験的に実用化されている4,5,6)。しかしながら,本合金を構造用部材として適用し,安全かつ合理的な設計を行うためには,構造体を形成する前段階における材料自体の力学的特性を把握することが不可欠となる。
Fe-28Mn-6Si-5Cr合金を用いた形状回復による締結部材として,例えば管継手のプラント等への適用を考える。この場合,管継手に作用する地震,台風等による外力を考慮すれば,軸方向およびねじり変形だけでなく,曲げ変形も同様に考慮すべき変形モードとなる。特に,一般に継手だけでなく,バルク材においても曲げ強度は,軸方向の強度に比して低い。従って,曲げ強度の検討は非常に重要となる。また,プラント等では,先の自然災害に伴う高速変形が作用する場合が十分に考えられる。そのため,高速度における材料自体の曲げ変形挙動を解明する必要があるものと考えられる。
従来,Fe-28Mn-6Si-5Cr合金の力学的特性に関する研究として,一定応力作用下における形状回復挙動についての研究7),非比例負荷8)や多軸応力9,10)が作用する場合についての研究が遂行されており,また,熱・力学的11,12)繰り返し負荷に関する研究についても散見される。一方,Ti-Ni合金では準静的荷重13)ならびに衝撃荷重下14)において明確な速度依存性を示すことが報告されているが,Fe-28Mn-6Si-5Cr合金については変形速度に着目した研究は行われておらず,その速度依存性について調査することは重要であるものと考える。
そこで,本研究ではFe-28Mn-6Si-5Cr合金製板状平滑試験片を用いて,種々の変形速度において3点曲げ試験を行い,Fe-28Mn-6Si-5Cr合金単体が示す曲げ変形挙動ならびに形状回復における速度依存性について実験的に調査する。まず,インストロン型材料試験機を用いて,後述する正規化たわみ速度10−5~10−1/sの範囲において試験力−たわみ曲線および加熱後の形状回復率を得る。続いて,分割式Hopkinson棒法に基づく衝撃3点曲げ試験装置を用い,正規化たわみ速度が101~102/sの範囲における試験力−たわみ曲線を求める。得られた結果より,Fe-28Mn-6Si-5Cr合金の曲げ変形特性における速度依存性について検討する。
本研究では供試材として,鉄基形状記憶合金の一種である淡路マテリア製Fe-28Mn-6Si-5Cr合金を用いる。Table 1に化学成分(mass%),Fig.1に使用した試験片の(a)写真,(b)形状および寸法をそれぞれ示す。また,Table 2にTable 1の合金15,16)およびFe-28Mn-6Si-6Cr合金12)のマルテンサイト変態開始温度Ms点および逆変態終了温度Af点を示す。この図に示すように,本研究では,幅12 mm,高さ7 mmの長方形断面を有し,長さ100 mmの寸法をもつ板材試験片を用いる。試験片は試験力−たわみ曲線測定用と曲げ試験後に0という初期値をもつ形状回復時のひずみ(以降,形状回復ひずみとして記述する)測定用の2種類を用意し,形状回復ひずみを測定する際,試験片中央,下表面に高温用ひずみゲージ(共和電業製 KFH-5-120-C1-16)を貼付する。供試材をFig.1に示す形状に切削加工を行った後,1223 Kにおいて30分間加熱し,水中急冷する溶体化熱処理を施す。この熱処理により,切削加工時に生じた残留応力が除去され,均一な組織となる。また,3点曲げ試験を行う際には,試験片と治具との間で生じる摩擦の影響を除去するため,2000番の研磨紙を用いて試験片表面を研磨し,モリブデングリスを塗布する。
C | Si | Mn | P | S | Cr | N | Ni |
---|---|---|---|---|---|---|---|
0.01 | 6.06 | 28.15 | 0.003 | 0.013 | 4.82 | 0.009 | 0.04 |
Ms [K] | Af [K] | |
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Fe-28Mn-6Si-5Cr | 253 ~ 298 | 403 ~ 458 |
Fe-28Mn-6Si-6Cr | 243 | 432 |
Specimen for 3-point bending test.
Fig.2に準静的試験で用いたインストロン型材料試験機(島津製作所製 オートグラフAG-250kN)および3点曲げ用治具を示す。支持点間距離は80 mmに設定する。試験中,レーザー変位計(KEYENCE製 LB-02/LB-62)により,試験片中央部に生じるたわみを測定する。たわみ速度は,クロスヘッド速度により制御し,8×10−3,8×10−2,8×10−1,8 mm/sの4種類に設定する。試験力−たわみ曲線を求める場合には,クロスヘッド変位を制御することにより,変位を10 mm与えた後,除荷するよう制御プログラムを設定する。この際,試験片の変形はたわみのみを測定するため,ひずみゲージの貼付はしない。一方,形状回復ひずみを測定する場合には,変位を1.5 mm与えた後,除荷する。その後,試験装置から取り外した試験片を,乾燥炉(アズワン製 ON450)に置き,523 Kに加熱する間に,貼付した高温用ひずみゲージにより形状回復ひずみを測定する。この際,昇温プログラムは7.2 ks経過後,523 Kに到達するよう加熱し,1.8 ks保持した後,炉冷するように設定する。なお,上記2種の試験法において,異なった最大変位量を用いる理由は,1.5 mmを超えたクロスヘッド変位を与えると,形状回復ひずみ測定試験においてのみ貼付したひずみゲージが,検知可能な最大ひずみを超過するためである。高温用ひずみゲージは,ブリッジボックスに接続し,シグナルコンディショナー(共和電業製 CDV-700A)へ出力し,信号を増幅する。
(a) A photograph and (b) schematic illustration of testing machine and experimental setup for quasi-static 3-point bending test.
Fig.3は本試験で用いた衝撃3点曲げ試験装置17)の概略図を示す。本装置は,空気圧縮機,空気銃,打撃棒,入力棒,2本の出力棒,ブリッジボックス,シグナルコンディショナー,オシロスコープから構成されている。打撃棒および入出力棒の材質はSUJ2であり,入出力棒および打撃棒の寸法はそれぞれφ16×4000 mm,φ16×500 mmとする。入出力棒の長手方向中央部において,ひずみゲージを表裏軸対称位置に曲げひずみを消去するためにそれぞれ貼付している。これらのひずみゲージは,ブリッジボックスに接続し,シグナルコンディショナー,オシロスコープへ出力する。打撃棒速度は,ファイバーセンサーを空気銃の先端に15 mmの間隔で2本ずつ対となるように取り付け,打撃棒が通過する際の電圧変化を専用のアンプにて増幅し,オシロスコープに出力することによって測定する。オシロスコープに出力される各センサーからの出力電圧の立ち上がり開始点の時間間隔を測定し,打撃棒速度を算出する。
Schematic illustration of testing apparatus and experimental setup for impact 3-point bending test based on the split Hopkinson pressure bar method.
分割式Hopkinson棒法により得られた実験結果の整合性を示す評価式として,初等材料力学より外力である試験力Pinp(t)および支持点反力Psup(t)を用いて,力の釣り合いより次式の関係が成立する。
(1) |
なお,試験が適切に実施されていない場合は,試験片がもつ慣性の影響により,慣性力が作用し上式が満足されない17,18,19)。本研究では,最大変位が生じるまでの時間において上式に示す関係を成立していれば,Pinp(t)とPsup(t)の動的平衡が保持されており,実験結果が妥当であるものと評価する。
一般に,分割式Hopkinson棒法に基づく3点曲げ試験においては,反射および透過応力波に振動が生じ,正確な挙動の評価が困難であることが問題とされている18)。このような振動を抑制するために,本研究では亜鉛製の円柱型パルスシェーパーを打撃棒と入力棒の間に設置する18)。このパルスシェーパーの役割は,打撃棒の衝突によって生じた入射波を,矩形波からランプ波へと変換することである。変換されたランプ状の入射波により,外力の立ち上がりを緩やかとなり,その結果,振動が抑制可能となる18)。
衝撃試験においては,Fig.1に示した平滑試験片を用い,打撃棒速度を10 m/sおよび20 m/sに設定した上で,実験を実施する。過去に,SUS304製3点曲げ試験片を対象に有限要素法を用いて,打撃棒速度10 m/sにおける円柱型パルスシェーパーの最適寸法について検討が行われている20)。本研究では,この結果を参考に予備実験を実施した結果,パルスシェーパーはφ8×6の円柱形とする。
Fig.4に,準静的3点曲げ試験から得られた正規化試験力−正規化たわみ線図を示す。ここで,縦軸は次式で定義する正規化試験力
(2) |
Normalized force-normalized deflection curves under quasi-static test at various deflection rate.
ここで,Zは試験片の断面係数,lは支点間距離,σyは降伏応力,Pは試験力を示す。また,横軸は次式で定義する正規化たわみ
(3) |
ここで,hは試験片の高さ,δはたわみ,
Fig.5は,高温用ひずみゲージによって測定した,各たわみ速度におけるひずみの時刻歴を示す。図中,与えた炉内温度の時間変化を灰色実線で示している。この図において,負荷によって生じたひずみを初期値とすれば,その初期値からの変化量が形状回復ひずみに相当する。この図より,いずれのたわみ速度においても,形状回復ひずみは,加熱初期(0~1.8 ks)では比較的小さく,更なる温度の上昇(1.8~3.6 ks)に伴って急激に減少することがわかる。その後,緩やかに漸減し,時間がほぼ5.4 ksに達すると,すなわち約480 K付近で形状回復は完了していると考える。温度保持後冷却過程中(9 ks~)にひずみが減少しているが,これは形状回復によるものではなく,加熱により生じた熱ひずみが減少することによるものと考える。また,たわみ速度が形状回復ひずみに及ぼす影響は,除荷後の残留ひずみに統計的ばらつきが生じるため,Fig.5に示す加熱後の残留ひずみを用いて比較することが困難である。そのため,除荷後の残留ひずみεu,形状回復ひずみεr,塑性ひずみεpを用い,次式で定義される形状回復率η21)を導入する。
(4) |
Time history of strain and temperature by heating of the specimens obtained by tests at various deflection rate.
なお,上式によりηを求める際,εuおよびεrには2章で説明した試験片中央部に貼付けしたひずみゲージによって測定した値を用いる。
Fig.6は,準静的試験において,形状回復率を対数たわみ速度に対して描画した形状回復率−たわみ速度の関係を前述した熱処理の有無により示す。この図からわかるように,準静的試験において,形状回復率は明確なたわみ速度依存性を示すとは言い難い。Nishimuraら22)は,成分は若干異なるが鉄基形状記憶合金において,マルテンサイト変態によって生じるひずみは,マルテンサイト体積分率に依存すると仮定し,構成モデルを提案している。また,このモデルを用いた解析結果は,実験結果を首尾よく表現可能なことを示し,モデルの妥当性を証明している。本研究でもこの立場をとり,形状回復ひずみはマルテンサイト生成量に依存するものと考える。従って,準静的試験に相当する速度域では,マルテンサイト生成量がたわみ速度に依存するという結論を得ることは困難である。 さらに,形状回復ひずみは,熱処理の有無,すなわち残留応力の有無に依存しないものと考えられる。
Relationship between ratio of shape recovery and normalized deflection rate in cases with and without heat treatment.
式(1)に示した試験中の試験力と支持点反力における動的平衡条件を確認するため,Fig.7(a),(b)に試験力および支持点反力−たわみ関係を示す。この図より,式(1)のように,試験力と2倍の支持点反力は試験片への負荷が終了するまでほぼ一致している。このことから,式(1)に示した力の釣り合いを保ち,動的平衡が成立していることがわかる。したがって,衝撃3点曲げ試験結果は妥当であると考えられる。
Dynamic equilibrium between input force and supporting force at different impact velocities.
Fig.8は,それぞれ打撃棒速度9.0 m/sおよび21.5 m/sにおける正規化たわみ速度の時刻歴を示す。この図に示すように,大きな振動は観察されないが,たわみ速度は一定ではなく,時間とともに変化する波形を描いている。また,この図より正規化たわみ速度の最大値はそれぞれ18.4/s,42.7/sとなることがわかり,この図を用いて,正規化たわみ速度の時間平均値を計算すると,それぞれ12.6/s,27.4/sとなる。一般に,たわみ速度が時間に依存する場合,時間平均値により実験結果の代表速度を表すことから19),本研究においても代表速度として時間平均後の正規化たわみ速度を用いる。
Time history of normalized deflection rate at impact velocity of 9.0 and 21.5 m/s.
Fig.9に,(a) 準静的から衝撃試験における試験力−たわみ曲線,(b) 正規化たわみ0.005における正規化試験力−正規化たわみ速度関係を片対数グラフにて表す。図(a)中,直線は弾性領域におけるはり理論から導出される直線,図(b)中の直線は点で表されるデータの近似直線をそれぞれ示している。この図(a)から,曲げ変形挙動下において,衝撃変形にわたって,試験力は明確なたわみ速度依存性を示すことがわかる。また,図(b)より,その変化は本研究の速度域において,外力が対数たわみ速度に対して線形的に増加することがわかる。
(a) Normalized force-normalized deflection curves at various deflection rate and (b) relationship between normalized force at 0.005 of normalized deflection and normalized deflection rate.
ここでは,実験結果において観察された,たわみ速度の増加に伴う試験力の増加,すなわち正のたわみ速度依存性について,考察を加える。
まず,速度の増加に伴って増加する外力から算出される応力が上昇するためには,以下の2種のメカニズムが考えられる。一方は塑性ひずみが生じていることから,通常の金属材料において観察される,塑性変形に伴う転位運動の抵抗に対する速度依存性,他方は,マルテンサイト変態,および生成したマルテンサイト相に起因する速度依存性である。
Fig.5より,18 ksにおいて,概ね0.2%程度の残留ひずみを観察可能である。これは温度上昇による逆変態が完了後に残留したひずみであることから,塑性変形に起因する永久ひずみであると考えられる。各たわみ速度間で加熱前に生じているひずみの差を,形状回復後も概ね継承していることから,生じた残留ひずみはたわみ速度に依存せずほぼ一定であるものと考える。0.2%程度の非常に小さい塑性ひずみが,速度に依存せずほぼ一定であることから,前者の転位の運動に対する抵抗の速度依存性が主要因であると結論付けることは困難である。
一方,たわみ速度の増加に伴い,試験片にはマルテンサイト変態に伴う潜熱の発生,および変態ひずみの発生に伴う非弾性仕事による熱が生じ,試験片の温度が上昇するものと考えられる。一般に,マルテンサイト変態を誘起するために必要な応力は,温度の上昇に伴って増加する3,8)。ここで,Fig.6より,形状回復率も塑性ひずみと同様,たわみ速度依存性を示さないことから,一定のたわみを与えた場合,たわみ速度に依存することなく,速度の変化に対してほぼ一定の塑性ひずみ,およびマルテンサイト変態に伴うひずみ,すなわち一定量のマルテンサイト相が生じるものと考えられる。そのため,Fig.5およびFig.6に示すように,一定のたわみを生じさせた時,一定量のマルテンサイトが生成され,たわみ速度が増加する際には,マルテンサイト変態を誘起するために必要な応力が増加することによって,試験力が上昇する。このとき,塑性ひずみを生じているという実験結果から,塑性変形に伴う温度上昇が起因となる熱軟化によって,試験力が低下することが考えられるが,変形初期においてはマルテンサイト変態による変形が支配的であると考えられることから,その影響は小さいと考えられる。したがって,たわみ速度の上昇に伴って発生する非弾性仕事による熱が変形挙動における速度依存性の一因であると考えられる。また,温度上昇が主要因であると仮定した場合,Fig.9で示した結果より,前述の低速度域におけるたわみ速度依存性,すなわち非弾性変形による温度上昇に伴う外力上昇のメカニズムが,衝撃試験においても成立するものと推測可能である。
本研究では,温度上昇やマルテンサイト相の生成量を測定していないことから,上記考察は推察の域を出ない。今後,この推察を証明するためには,変形中の温度上昇,およびマルテンサイト相の生成量を測定する必要がある。なお,衝撃試験において生成量の測定を実現するため,所望の変形量に達した状態で試験片を装置から取り出すことを試みようとすれば,非常に高速な応力波の往復によって試験片には付加的な変形が進行する。従って,変形量に応じたマルテンサイト相の生成量を測定するためには多大な困難を伴う。以上より,変形中の温度測定,ならびにマルテンサイト相の生成量だけでなく,衝撃試験中のマルテンサイト相の生成量を捕捉する方法の確立が急務であると言える。
本研究では,Fe-28Mn-6Si-5Cr合金を用いた製作した平滑試験片により,3.5×10−5,3.5×10−4,3.5×10−3,3.5×10−2,12.6および27.4 s−1の正規化変位速度の下,準静的および衝撃3点曲げ試験を行い,たわみ速度が変形挙動ならびに形状回復率に及ぼす影響を実験的に評価することを目的とした。以下に得られた主な結果を示す。
(1)準静的および衝撃試験において,たわみ速度の上昇に伴い試験力が増大し,変形挙動におけるたわみ速度依存性を示した。
(2)準静的試験において,形状回復率はたわみ速度に依存しないことを示した。このことから,準静的試験では,マルテンサイト生成量はたわみ速度に依存しないものと考えられる。