Tetsu-to-Hagane
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Long-term Dissolution Characteristics of Various Fertilizers Made of Steelmaking Slag in a Desalted Paddy Soil Environment (Recovery of a Paddy Field Damaged by the Tsunami Using Fertilizer Made of Steelmaking Slag-2)
Michimasa OkuboNobuhiro MaruokaHiroyuki ShibataXu GaoToyoaki ItoShin-ya Kitamura
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2015 Volume 101 Issue 8 Pages 457-464

Details
Synopsis:

To evaluate the effect of steelmaking slag as fertilizer in a flooded paddy field, a soil-filled column testing method was developed. The original soil and the soil after desalting with and without fertilizer made of steelmaking slag were used. Three brands of fertilizer with different compositions and phase ratios were evaluated.

The results showed a pH increase and Ca supplement after the application of fertilizer made of steelmaking slag, and these changes were independent of the brand. The dissolution of Ca was higher when fertilizer with high CaO concentration was used. The composition of the fertilizer had an effect on cation dissolution behavior not only of Ca, but also of Mn, Si, and Mg. The cation mass balance before and after the experiment was studied. Most of the Na was contained in the water and was washed out during the experiment. The application of fertilizer did not affect the residual Na concentration clearly. The amount of Ca supplied by the fertilizer was almost the same as that contained in the soil, and a significant difference in the amount of Ca was observed between the fertilizer brands that used. In addition, it was deduced that free-CaO and the solid solution phase of 2CaO·SiO2 and 3CaO·P2O5 was dissolved and supplied additional Ca during the experiment, but the matrix phase was not dissolved and, thus, remained in the soil.

1. 緒言

前報1)で述べたように,東日本大震災に伴う大津波によって被災した水田を復旧させるためには,石灰資材とケイ酸資材の散布が効果的であるが,製鋼スラグは水溶性の高いfree-CaOや2CaO・SiO2と3CaO・P2O5の固溶体相を多く含むため,優れた資材であると期待されている。これに応えて,日本鉄鋼協会では,産発プロジェクト「製鋼スラグによる東日本大震災で被災した沿岸田園地域の再生」を2012年4月にスタートさせ2),市販の製鋼スラグ系肥料を除塩した水田へ施用し,良好な結果を得ている3,4,5,6)。しかし,製鋼プロセスは多段分割精錬であり各工程から出るスラグ組成は異なる上に,冷却方法も必ずしも制御されていない。前報で示したように,これまでもカラム試験により水田環境下での鉄鋼スラグ系肥料を評価した研究は報告されている7,8)。しかし,いずれも連続溶脱条件とは言えない条件での実験であり除塩土壌を対象としたものではない。また,施用量が実際の水田における標準的な量に比べて非常に多いことやスラグ処理後の土壌の交換性陽イオン濃度が測定対象となっていない等が問題点として指摘される。さらに,これらの研究では鉱さいの種類を変えているが,鉱さい組成や組織は充分には分析されていなかった。これに対して,著者らは,様々な事象が複雑に絡み合いながら長期的に変化して行く水田環境において,肥料としての製鋼スラグの作用を評価するため,湛水期の水田土壌を模擬した新しい実験方法を考案した1,9)。前報では,除塩された水田土壌環境における製鋼スラグ系肥料の長期溶出挙動を明らかにしたが,引き続き本報では様々な銘柄の製鋼スラグ系肥料を用いて同様の実験を行い,スラグ組成や鉱物相の違いを明らかにした。

2. 実験方法

水田土壌環境を模擬するためのカラム試験装置は前報1)で示したものを用いた。土壌は前報と同じ,宮城県大崎市古川の沖積土壌(以降,原土壌)を使用した。原土壌を用いた除塩土壌の作成方法も前報と同じである。つまり,木くず等の不純物を取り除いた原土壌を容器に入れ,人工海水アクアマリン(八洲薬品製)を土壌1 kgあたり1 L加えて混合した。人工海水を混合後,30~60分間静置し,表層水を取り除いた。その後,土壌表層に約5 cmの水相ができるよう蒸留水を加え混合し,再び表層水を取り除くことで除塩処理を行った。この操作を表層水のEC(電気伝導度)が基準値以下になるまで繰り返し,最後に表層水を取り除き大気中で乾燥させた後,1 mmメッシュのふるいにかけて粒度調整を行い除塩土壌とした。

本研究で用いた製鋼スラグ系肥料の組成をTable 1に示すが,FAは塩基度が低くfree-CaOも少ないがT・Feがやや高い特徴を持つ。また,FCは塩基度が高くfree-CaOも多いがT・Feがやや低い特徴を持ち,FBは両者の中間的な特徴を持つ。いずれも粒径500 μm以下に整粒し,前報と同様に水田へのケイ酸肥料の一般的な施用量である200 kg/10a(=200 g/m2)に相当するように,土壌1 g当り9.565×10−4 gを用いた。

Table 1. Composition of fertilizer made of steelmaking slag (mass%).
FAFBFC
T-Fe22.919.017.6
M-Fe1.81.21.4
FeO20.710.310.9
Fe2O37.214.011.0
SiO217.511.411.5
CaO31.342.647.6
Al2O33.51.53.0
MgO5.98.95.6
MnO5.94.01.6
P2O52.82.22.6
S0.080.050.04
Pb< 0.01< 0.01< 0.01
Cr0.140.150.13
F0.040.030.04
f-CaO1.616.858.48
f-MgO0.0180.0140.01
CaO/SiO21.83.74.1
Fe2+/Fe3+3.20.81.1

尚,スラグ系肥料の分析は(株)日鉄テクノリサーチで行い,T・Fe,CaO,SiO2,Al2O3,MgO,MnO,P2O5は蛍光X線分析法,M・FeとFeOは滴定法,Pb,Crは酸溶解−ICP発光分析法,Fはランタンアリザリンコンプレキソン吸光光度法,Sは燃焼−赤外線吸収法,f・CaOはエチレングリコール溶解法,f・MgOは硝酸アンモニウム溶解−ICP発光分析法を,それぞれ用いた。また,鉱物相は,試料を樹脂に埋め込み断面を研磨した後,EPMAで分析した。製鋼スラグは主に水に溶けやすい2CaO・SiO2-3CaO・P2O5の固溶体相(以下,C2S-C3P相と称する。)と水に溶けにくいマトリックス相で構成されている10)ため,EPMAでのC2S-C3P相の組成分析結果と,スラグ全体の化学分析結果との比較から,マスバランス計算によりC2S-C3P相の相分率を算出した。その結果をTable 2に示す。

Table 2. Phase ratio of fertilizer made of steelmaking slag (%).
PhaseFAFBFC
C2S-C3P32.546.949.5
f-CaO1.66.98.5
M·Fe1.81.21.4
Others64.145.140.7

実験手順も前報1)と全く同じであり,十分に混合した土壌とスラグをカラムに装填後,空気飽和のイオン交換水を投入し,pH,ORP,温度を測定し0日目として記録した。土壌溶液はカラム内表面水の水位が1日当たり約0.5 cm低下する量を,下部の採取管を通して吸引採取した。採取後に同量の空気飽和水をカラム上部から補充した。サンプリングの頻度は2日に1度とし約2か月間に渡って行った。

カラム実験終了後,上澄み液を採取して取り除いたのち,カラム中の土壌を取り出して空気乾燥させ,交換性陽イオンの濃度を分析した。また,同様の手法でカラムに投入する前の土壌も土壌分析を行った。上澄み液は,最採取水と同じ方法で組成を分析した。分析方法は前報で記載したので省略する。

尚,本論文では原土壌を(OSM),除塩土壌を(DSM)と略し,原土壌にFAの製鋼スラグ系肥料を混合したものを(OSM+FA)と記載する。

3. 実験結果

3・1 pHとORPの変化

pHおよびORPの経日変化をFig.12に示す。すべての系で,時間とともにpHは上昇し,ORPは減少した。前報で述べたように,これは,湛水により嫌気性微生物の代謝によって土壌中の酸素が消費され酸化性雰囲気から還元性雰囲気に移行し,その際に酸化鉄の還元に伴う水素イオンの消費によってpHが上昇するという水田土壌の特性を現わしている。

Fig. 1.

 Changes in the pH of the desalted and original soil with various fertilizers made of steelmaking slag.

Fig. 2.

 Changes in the oxidation-reduction potential (ORP) of the desalted and original soil with various fertilizers made of steelmaking slag.

原土壌,除塩土壌とも初期pHは約5.0で,スラグ系肥料を施用した場合には,除塩土壌で約6.0,原土壌で約5.5に上昇した。いずれの場合も,時間とともに上昇したが,除塩土壌は原土壌より低く推移した。これに対してスラグ系肥料を施用することで30日以降も原土壌と同程度の値を示し,いずれの銘柄であってもpH矯正作用が確認できた。pHの上昇は除塩土壌ではFBが,原土壌ではFCがやや大きかったが銘柄による差は小さかった。

一方,初期ORPはスラグ系肥料の施用で原土壌,除塩土壌ともに低下し,その後の低下速度も増加している。ORPの減少速度は原土壌に比べて除塩土壌は低下したが,いずれの銘柄を用いた場合でも,スラグ系肥料の施用により原土壌と同じ程度に回復しており,銘柄による大きな差は認められなかった。

3・2 Na,Ca,Mgの挙動

Fig.35にNa,Ca,Mg濃度の経日変化を示す。

Fig. 3.

 Changes in the Na content of water samples taken from the desalted and original soil with various fertilizers made of steelmaking slag.

Fig. 4.

 Changes in the Ca content of water samples taken from the desalted and original soil with various fertilizers made of steelmaking slag.

Fig. 5.

 Changes in the Mg content of water samples taken from the desalted and original soil with various fertilizers made of steelmaking slag.

Naは原土壌にはほとんど含まれないが,除塩土壌には,除塩処理を行っても多量に含まれており,これが,水を入れ替える事で次第に低下して行く。スラグ系肥料を施用した場合の初期濃度の低下幅はFBが大きいが,10日程度経過した後は,いずれの場合も差が見られなかった。

Caの初期濃度は,除塩処理により溶脱するため,原土壌に比べて除塩土壌の方が低かったが,スラグ系肥料を施用すると,初期濃度も含めて高く推移した。施用の効果は60日時点まで持続しており,いずれの銘柄でも原土壌と同じ程度にまで改善されている。しかし,30日以前で比較すると除塩土壌でも原土壌でもFC,FB,FAの順にCa濃度は高くなっている。これはスラグ系肥料の塩基度やfree・CaO濃度と良く対応した傾向である。

Mgは海水に含まれるため,原土壌に比べて除塩土壌の方が高くなっているが,スラグ系肥料を施用する初期濃度を除いて全般的に高くなっている。銘柄の差は大きくはないがスラグ系肥料のMgO濃度が高いFBがやや高い傾向を示している。

3・3 Fe,Mnの挙動

Fig.67にFe,Mn濃度の経日変化を示す。

Fig. 6.

 Changes in the Fe content of water samples taken from the desalted and original soil with various fertilizers made of steelmaking slag.

Fig. 7.

 Changes in the Mn content of water samples taken from the desalted and original soil with various fertilizers made of steelmaking slag.

Feに関しては原土壌,除塩土壌ともスラグ系肥料の施用による明確な増加は見られず,除塩土壌に対するFBのみ特異な挙動を示したものの,他については銘柄の差も顕著では無かった。尚,スラグ系肥料を用いた場合の方が,いずれの場合でも初期の増加速度が速くなりピークを示す時期が早くなった。

Mnは土壌自体からの溶出量がFeよりも小さいこともあり,Feよりもスラグ系肥料の施用による効果が顕著に出ている。特に原土壌,除塩土壌とも,FAを用いた場合にMn濃度は最も高くなったが,スラグ系肥料の組成もFAのMnO濃度が最も高く対応している。

3・4 Si,Pの挙動

Fig.89にSi,P濃度の経日変化を示す。

Fig. 8.

 Changes in the Si content of water samples taken from the desalted and original soil with various fertilizers made of steelmaking slag.

Fig. 9.

 Changes in the P content of water samples taken from the desalted and original soil with various fertilizers made of steelmaking slag.

Siは原土壌,除塩土壌ともスラグ系肥料施用により初期にやや高くなり,銘柄ではFAの場合にSi濃度は最も高くなった。スラグ系肥料の組成もFAのSiO2濃度が最も高く対応している。

Pは除塩土壌の方が原土壌に比べて高く,スラグ系肥料施用による効果や銘柄による差は見られなかった。尚,いずれの場合もPO43−濃度の挙動はPと一致していた。

3・5 SO42−,NH4+-Nの挙動

Fig.1011にSO42−,NH4+-N濃度の経日変化を示す。

Fig. 10.

 Changes in the SO42– content of water samples taken from the desalted and original soil with various fertilizers made of steelmaking slag.

Fig. 11.

 Changes in the NH4+-N content of water samples taken from the desalted and original soil with various fertilizers made of steelmaking slag.

SO42−の初期濃度は除塩土壌の方が原土壌より高く,スラグ系肥料の施用によりさらに増加した。銘柄ではFBを用いた場合に最も濃度が高かった。いずれもスラグ系肥料を施用した場合は急激に減少し10日前後で約1.0 mg/Lになった。

NH4+-Nは除塩土壌の場合に日を経つにつれ増加し11日前後でピークとなり,その後減少した。スラグ系肥料を施用する事でやや高い値を示したが銘柄の差は明確ではなかった。

3・6 実験前後のCa,Mg,Naのマスバランス

前報と同様に実験前後の物質収支を計算した。土壌に吸着している交換性陽イオン量は,土壌分析結果とカラムに装入した土壌の空乾質量から求め(Adsorbed by Soil),採取水に含まれる量は,採取量と採取水組成を積算して求めた(Sampling Water)。また,実験後の間隙水中に含まれる量は,間隙水と土壌の体積比から間隙水質量を求めた,間隙水の組成は実験後に分析した表層水と同じと仮定して計算した(Pore Water)。スラグ系肥料に含まれる量は施用量と組成から求めた(Slag)。また,実験前にスラグ系肥料を施用した場合には,Table12とEPMAで得られたC2S-C3P相組成から,スラグ系肥料のC2S-C3P相に含まれていたCa,free-CaOに含まれていたCa,および,それ以外(Matrix)の部分に含まれていたCaに分けて表示した。尚,Mgはすべて,それ以外(Matrix)の部分に含まれるものとした。

結果をFig.1214に示す。

Fig. 12.

 Mass balance of Na in the desalted soil with various fertilizers made of steelmaking slag before and after the experiment.

Fig. 13.

 Mass balance of Ca in the desalted soil with various fertilizers made by steelmaking slag before and after the experiment.

Fig. 14.

 Mass balance of Mg in the desalted soil with various fertilizers made by steelmaking slag before and after the experiment.

Naは,ほとんどが採取水,間隙水にあり,実験後も吸着して残っている割合は20%以下である。また,スラグ系肥料施用により土壌に吸着しているNaはやや減少しているが銘柄の差は明確ではない。Caはスラグ系肥料からの供給量が土壌に含まれていた量に匹敵するほど多く,銘柄の差も顕著である。このうち,実験中の採取水や実験後の間隙水に含まれる量は10%程度に過ぎず,大部分は土壌に吸着しているが,スラグ系肥料を施用した場合,実験前後でのCa総量の差が大きいことがわかる。これは,水に溶けやすいfree-CaOとC2S-C3P相は実験中に溶解しCaを供給したが,水に溶けにくい,その他の相は完全には溶解できずに残存しているためと推察される。これに対してMgはスラグ系肥料からの供給量は土壌に含まれていた量の多くても25%程度である。また,スラグ系肥料を施用した場合には,実験前後でのMg総量の差が現れているが,その差はCaよりは小さいことがわかる。

4. 考察

4・1 スラグ系肥料組成と長期溶出挙動の対応

定性的ではあるが,各元素の溶出挙動に及ぼすスラグ系肥料銘柄の影響を,組成と比べてTable 3に示す。このように,CaO濃度が高いFAからはCaが,MnO,SiO2濃度が高いFCからはMn,Siが,MgO濃度が高いFBからはMgの溶出が多くなっており,スラグ系肥料の組成が溶出挙動に反映されていると思われる。FeについてはFBが特異な挙動をしたため相間は明確ではなかった。

Table 3. Comparison of the dissolution behavior of each cation and the difference in the concentration of each oxide between the fertilizers made of steelmaking slag. (Ca, Mg, Fe, Mn, Si; dissolution behavior, CaO, MgO, T-Fe, MnO, SiO2; concentration difference)
Soil SolutionCaFA≪FB≪FC
Slag Comp.CaOFA (31.3) < FB (42.6) < FC (47.6)
Soil SolutionMgFB > FA ≒ FC
Slag Comp.MgOFB (8.9) > FA (5.9) ≒ FC (5.6)
Soil SolutionFeFB < FA ≒ FC
Slag Comp.T-FeFB (19.0) < FA (22.3) > FC (17.6)
Soil SolutionMnFA > FB > FC
Slag Comp.MnOFA (5.9) > FB (4.0) > FC (1.6)
Soil SolutionSiFA > FB ≒ FC
Slag Comp.SiO2FA (17.5) > FB (11.4) ≒ FC (11.5)

4・2 長期溶出挙動の経日変化

土壌溶液中の各種元素濃度変化挙動を見ると,Fe濃度は初期濃度が低い状態から増加し,ピークを持った後減少に転じるのに対して,Ca,Mn,Mg等の濃度は初期濃度が高い状態から減少し,数日で増加に転じ,その後ピークを持って再び減少するというパターンを見せる。前報で述べたように,土壌溶液中のFe濃度は微生物の作用によって還元されて増加するが,pHが高い場合には微生物の活動が活発になり還元状態が発達するため,よりFe濃度が高くなる。ここでは,Fe濃度の推移について,電位-pH図で考察してみる。

Fig.15にHSC Chemistry 6.1で計算した298 K,100 kPでのFe-H2O系の電位-pH図を示す。図中にはモル濃度を1~10−6の濃度範囲で変化させた境界線を示すが,FeはB領域に位置するときはイオンとして存在し,A領域とC領域に位置するときは固体として存在することがわかる。図中にはFig.12に示した測定値を書いてあるが,いずれの条件でも実験初期はA領域に位置するため,Feは固相が安定で溶解しない。しかし,時間経過とともに微生物の活動によりORPは低下し,B領域にはいるためFe2+のイオンとして存在できるようになる。その後はpHがさらに上昇し,約6を超えるとFe3O4安定のC領域にはいるため,析出し土壌溶液中Fe濃度は低下することになる。Fig.1617に代表的なFe濃度とORPおよびpHの関係を示すが,初期にORPが低下するにつれFe濃度が上昇する事や,pHが6以上で急激に低下することがわかる。

Fig. 15.

 The pH-potential equilibrium diagram for the Fe-H2O system in comparison with the experimental results.

Fig. 16.

 Typical relationship between the oxidation and reduction potential and Fe content of water samples taken during the experiment.

Fig. 17.

 Typical relationship between the pH and Fe content of water samples taken during the experiment.

これに対して,Ca,Mg,Mnの電位-pH図を計算すると,実験条件全域で不溶相がないことがわかる。つまり,各元素の濃度変化の理由として,Feのように固相析出では考えられない事になる。これらの元素濃度の変化の理由の一つに土壌表面のイオン吸着量の変化が考えられる。Saigusaら11)は,pH上昇に伴い陽イオン交換容量(Cation Exchange Capacity; CEC)が大きくなるという実験結果を示している。ここで,CECとは土壌が吸着できるイオンの総量を示している。本実験では,実験初期にpHが急速に上昇するため,この時期は土壌のCECが増加し,Ca,Mg,Mn等が吸着できるサイトが増えるものと思われる。その結果,これらの元素は土壌に吸着した交換性陽イオンとなり,土壌溶液中に溶解している濃度が減少したと推測できる。一方,さらに時間がたつとORPの低下に伴いFeが多量に溶出するため,土壌溶液中のFe濃度が急上昇してくる。pHが引き続き上昇しているので土壌のCECも増加しているはずであるが,土壌溶液中のFe濃度の増加量が他元素と比較して圧倒的に多いため,土壌表面に吸着していた他のカチオンが土壌表面から追い出され土壌溶液に移行し,土壌溶液中のCa,Mg,Mn等の濃度が増加に転じたと推測できる。その後,さらにpHが高くなるとFe3O4安定領域に移行するため,土壌溶液中のFe濃度が減少する。これにより土壌溶液に追い出されたカチオンは土壌表面に再度移行するため土壌溶液中のCa,Mg,Mn等の濃度は再び減少したと推測できる。

5. 結論

組成や鉱物相比率が異なる3銘柄のスラグ系肥料を用いた長期溶出試験を実施し,原土壌と除塩土壌に対する施用効果を評価した。実験は,開発した湛水期の水田土壌を模擬するためのカラム装置を用いて60日間にわたって行った。その結果,以下の事が明らかになった。

1)除塩土壌に対して,いずれの銘柄でもpH改善やCa供給効果が認められた。CaO濃度が高いFAからはCaが,MnO,SiO2濃度が高いFCからはMn,Siが,MgO濃度が高いFBからはMgの溶出が多くなっており,スラグ系肥料の組成が溶出挙動に反映されていた。

2)実験前後のマスバランスを計算した結果,Naは,ほとんどが採取水,間隙水にあり,実験後も吸着して残っている割合は20%以下であり,スラグ系肥料銘柄の差は明確ではなかった。これに対してCaは採取水や間隙水に含まれる量は10%程度に過ぎず,大部分は土壌に吸着していたが,スラグ系肥料からの供給量が土壌に含まれていた量に匹敵するほど多く,銘柄の差も顕著であった。また,スラグ系肥料を施用した場合,水に溶けやすいfree-CaOとC2S-C3P相は実験中に溶解しCaを供給したが,水に溶けにくい,その他の相は完全には溶解できずに残存していると推察された。

3)土壌溶液中の各種元素濃度変化挙動を見ると,Fe濃度は初期濃度が低い状態から増加し,ピークを持った後減少に転じるのに対して,Ca,Mn,Mg等の濃度は初期濃度が髙い状態から減少し,数日で増加に転じ,その後ピークを持って再び減少するというパターンを見せた。これに対して,Fe-H2O系の電位-pH図によるFe溶解条件との対応,および,pHと陽イオン交換容量の関係から考察を加えた。

謝辞

本研究は,日本鉄鋼協会・産発プロジェクト「製鋼スラグによる東日本大震災で被災した沿岸田園地域の再生」で行われたものであり,多くの助言をいただいたプロジェクトメンバーの方々,および,スラグ系肥料を提供いただいたミネックス株式会社,産業振興株式会社,JFEスチール株式会社に心から謝意を表します。

文献
 
© 2015 The Iron and Steel Institute of Japan

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https://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/4.0/
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