Tetsu-to-Hagane
Online ISSN : 1883-2954
Print ISSN : 0021-1575
ISSN-L : 0021-1575
Regular Article
Decorated Dislocations with Fine Precipitates Observed by FIB-SEM Slice-sectioning Tomography
Rika KawanoKenji KanekoToru HaraKazuhiro YamadaYukio SatoKenji HigashidaMasao Kikuchi
Author information
JOURNAL OPEN ACCESS FULL-TEXT HTML

2015 Volume 101 Issue 8 Pages 422-425

Details
Synopsis:

Dispersion behavior of intragranular NbC precipitates them in Nb added austenitic stainless steel were investigated via nanoscopic characterization, FIB-SEM slice-sectioning tomography, energy-dispersive X-ray spectrometry (EDS), selected area electron diffraction pattern (SAEDP) and transmission electron microscopy (TEM). The heterogeneous dispersion of fine intragranular NbC precipitates were visualized, and in particular, it was found that they were on the {111} slip plane and interacted with <110> dislocations.

1. 緒言

材料の強度を高めるメカニズムとして,析出・分散強化,固溶強化,加工強化,そして結晶粒微細化強化の4つの強化機構が知られている。特に,析出・分散強化の場合は,析出物や第二相の形態や析出量だけでなく,サイズ分布,粒子間距離や体積率などの分散状態も機械的特性に大きな影響を及ぼしていることから,これらの因子を最適化することにより,強度の改善が期待できる1,2,3)

鉄鋼材料において,添加する合金元素や熱処理が微構造の制御に繋がり,最終的な機械的特性の向上に大きく寄与することになる。Nb添加鋼では,母相中にNb原子が固溶したり,Nbを主成分とする析出物が生成したりすることで,材料の強化に寄与することが知られている4,5,6,7)。例えば,結晶粒サイズは溶体化温度に依存するが8,9),Nb原子によるドラッグ効果やNbCによるピンニング効果により再結晶速度を遅延させることが可能となる10,11,12)。その結果,結晶粒の微細化を促進することが可能となり,靱性や引っ張り強さの改善が期待できる13,14)。さらに,NbCは析出強化や応力にも大きな影響を及ぼすことや15),NbCの析出がM23C6の析出を誘発したという報告16)や固溶体中のC量の低下が成形性を改善するといった報告17)もなされている。

これまでにもナノNbCの析出挙動や分散状態は走査型電子顕微鏡(SEM)や(走査)透過型電子顕微鏡((S)TEM)等をはじめとする様々な手法により数多く解析されてきている。例えば歪エネルギー低減の為に,粒内の転位上や積層欠陥上で優先的にNbCが規則的に析出することや18,19,20),粒界の欠陥はNbCの核生成サイトとしても機能している21)ことなどが報告されている。

現在では,3次元アトムプローブ法22,23),(S)TEMトモグラフ法24,25,26)や集束イオンビーム(FIB)-SEMシリアルセクショニング法27,28)など,様々な3次元解析手法が確立している。これらの解析手法の中でも,FIB-SEMシリアルセクショニング法は再構築できる体積領域に制限がないというメリットがあり,大体積の微構造を立体的に解析することに適している。さらに,x-y面の分解能はSEMの分解能に,z方向の分解能はスライス厚みに起因することから,必要なボクセル分解能や取得体積を制御することが可能である27,28,29,30)

本研究ではNbを添加したオーステナイト系ステンレス鋼の粒内析出物の微構造をTEMにより,また粒内析出物の分散状態をFIB-SEMシリアルセクショニング法を用いて解析した。

2. 実験方法

2・1 試料作製

本実験で使用した試料の化学成分をTable 1に示す。この試料を1573 Kで3.6 ksの溶体化処理を行い,その後1173 Kで10.8 ksの安定化処理と973 Kで1800 ksの鋭敏化処理を施した。SEM用試料は1 mm×1 mmのサイズに切り出した後に,FIB入射側面と表面をバフ研磨した。TEM用試料は90%の酢酸と10%の過塩素酸により電解エッチングを行い,それぞれの試料を準備した。

Table 1. Chemical composition of Nb added austenitic stainless steel (in wt.%).
CSiMnPNiCrMoCuTiNbAlN
0.0310.371.540.0239.7717.40.10.150.0050.4430.0210.015

2・2 TEMによる2次元解析

析出物の分散状態や微構造の解析はTEMと制限視野電子線回折パターン(SAEDP)により,また組成はSTEM-エネルギー分散型X線分析(STEM-EDS)により解析した。それぞれ用いた装置は,Tecnai-20(FEI, The Netherlands)とJEM ARM-200F(JEOL, Japan)である。

2・3 FIB-SEMによる3次元解析

本研究では,FIBとSEMを組み合わせた3次元解析手法,FIB-SEMシリアルセクショニング法を行った。FIB-SEMシリアルセクショニング法とは,①FIBのGa+ビームにより試料の最表面の一定厚みを削り,②現れた新しい断面をSEMで観察する,という①と②の工程を繰り返し,連続断面SEM像を取得する手法である。今回のFIB-SEMシリアルセクショング法には,FIBとSEM鏡筒を直角に配置したSMF-1000(SII nanotechnology, Japan)を使用した。FIBとSEMが直角であると,FIB加工とSEM観察を行う際の機械的な移動が不要な為,試料ドリフトの少ない連続SEM像を得られ,より精密な3次元再構築が可能となるという特徴がある。この装置を用いて,加速電圧30 kVで電流値3 nAに設定したGa+ビームによって表面を20 nm毎に削り,各断面像を加速電圧0.5 kVのSEMによって観察し,300枚の連続断面像を取得した。その後,AVIZO 6.3(Visual Sciences Group, Germany)を用いて,Fig.1に示すようにSEM像の位置補正や3次元再構築を行った。

Fig. 1.

 A schematic diagram of FIB-SEM slice-sectioning method.

また,電子線後方散乱回折(EBSD)法を用いて今回可視化した領域の母相の結晶面方位を解析した。このとき解析ソフトにはOIM 7.0.1(TSL, USA)を使用した。

3. 結果

3・1 粒内析出物のTEM結果

粒内析出物の微構造や組成はTEMの明視野(BF)像,SAEDP像やSTEM-EDSにより解析を行った。低倍率のTEM-BF像をFig.2(a)からFig.2(c)に示す。これらの像から,粒内には約数十nmの微細な析出物と数μmの粗大な析出物が存在していること,また微細な析出物は特定の方位に線状に配列していることが判明した。また,粒内の微細な析出物のSAEDP像(Fig.3(a))から,オーステナイト鋼の母相中にNaCl構造を有するNbCが存在していることが確認できた。さらに,特定の方向に配列した微細な析出物のTEM-BF像(Fig.3(c))からは,粒内の微細な析出物が転位と絡んでいる様子も確認できた。

Fig. 2.

 A set of low magnified bright-field TEM images (a) to (c), where mixtures of aligned fine intragranular and randomly oriented coarse precipitates are easily seen.

Fig. 3.

 (a) BF-TEM image with slightly higher magnification and (b) SAEDP of NbC obtained from the dotted encircled region inFig.3(a). Fig.3(c) clearly suggests the presences of assocition between dislocations and nanoparticles.

Fig.4(a)のTEM-BF像から,微細な析出物が粒内で線状に析出している様子が窺える。Fig.4(b)Fig.4(a)の視野における母相(FCC)のSAEDP像を示す。電子線の入射方位は[110]であり,透過波の位置を☆で示している。Fig.4(a)で示す粒内析出物の並んでいる方向とFig.4(b)の(111)系を示す回折斑点は直交している。母相の結晶方位と結晶面の相関図(トンプソンの四面体),ならびにFig.4(b)の入射方位である[110]方向をFig.4(c)に示す。このモデル図から,[110]方向を回転軸として,[110]を紙面に対して垂直にすると,Fig.4(b)のSAEDP像が示す実空間と一致する。 この図中の矢印で示す入射方位[110]から観察すると,Fig.4(c)の斜線で示した結晶面(111)が直線で現れることから,Fig.4(a)で観察された線は特定の結晶面(111)を垂直方向から観察したものであると言える。

Fig. 4.

 (a) BF-TEM image showing aligned intragranular precipitates and (b) SAEDP from the region shown in (a).Fig.4(c) is showing a representative Thompsons’ tetrahedron presenting the relationship between (111) and <110>.

次に,Fig.5(a)からFig.5(d)に,STEM像とNbの元素マッピング像を示す。これらの結果から,粒内にNbが濃化している微細な析出物と粗大な析出物が存在することが判明した。TEMによるSAEDP像の結果(Fig.3(b))と併せて考えると,試料全体に分散している微細な析出物はNbCであることが判明した。

Fig. 5.

 Two sets of STEM-ABF image and EDS elemental distribution map of Nb, from fine intragranular precipitates, (a) and (b), and from coarse intragranular precipitates, (c) and (d), respectively.

3・2 粒内析出物のFIB-SEM結果

シリアルセクショニング法により取得した連続断面SEM像の1枚をFig.6(a)に示す。析出物の分散状態を高コントラストで可視化するために,SEM像は2次電子と反射電子を用いて結像した。また,Fig.6(a)の概略図をFig.6(b)に示す。この視野は,粒界3重点を含む視野であり,粒界上や粒内に見られる微細な析出物は母相よりも濃いコントラストで存在していることが分かる。さらに,試料中に時折見られる筋やムラは,試料側面や析出物の隆起を起点とするFIB加工により生じたカーテン効果である。

Fig. 6.

 (a) shows a typical SEM images taken from the specimen with both secondary electron and backscattered electron, and (b) its schematic diagram.

Fig.7(a)に3次元再構築像(3.0 μm×5.0 μm×6.0 μm)を示す。粒内の微細な析出物はある特定の結晶面上に析出しており,それらの面間隔は数百nmの幅を有していた。さらに,Fig.7(b)Fig.7(c)に示すように,これらの結晶面をそれぞれ垂直方向から観察すると,微細な析出物が波状に析出していたことが判明した。

Fig. 7.

 A reconstructed volume (a) and two individual planes (b) and (c).

これらの結果から,母相(FCC)に固溶していたNbとCが,すべり面である{111}面上の転位と反応し,微細な析出物NbCが形成されたと考えられる。

3・3 考察

TEMとFIB-SEMの結果により,Nbを添加したオーステナイト系ステンレス鋼の粒内において,2種類のNbCが存在することが判明した。粗大なNbCは溶体化処理を施したのみの試料からも観察されていることから未固溶のNbCであり,母相と方位関係を持たずにランダムに析出していた。

微細なNbCは,転位や結晶面と結晶方位関係を有して析出しており,特定の結晶面である{111}面上に波状に存在していたことが判明した。これは,置換型元素のNbが刃状転位の転位芯に安定的に偏析し,拡散してきたC元素と反応した結果,{111}面上に微細なNbCが析出したと考えられる。その結果,転位が微細なNbCにより修飾され,Fig.7(b)Fig.7(c)に示す,転位を反映したような波状に析出したと考えられる。これと似たような現象は,刃状転位上に析出したSi中のCu粒子においても報告されている31)

3次元再構築像における微細な析出物NbCの析出面のなす平均角度は73°であり,実際の{111}面同士のなす角70.5°より僅かに大きかった。この角度差は,Fig.8に示すように刃状転位の上昇運動によって数原子分異なる(111)面上に転位が移動した結果,その転位を反映したNbCが生成し,それらを同一平面上に存在するとみなすことで,本来の(111)から+α°だけズレた,見かけ上の(111)ができたからであると考えられる。東田らはCu中の交差した{111}面のなす角が本来の70.5°よりわずかにズレていることを報告している32)

Fig. 8.

 A schematic diagram of the relationship between the “apparent”, (-111) and (111) planes.

4. 結言

FIB-SEMシリアルセクショニング法により,Nb添加オーステナイト系ステンレス鋼中における粒内析出物の3次元的な分散状態を可視化することに成功した。また,SAEDP法やSTEM-EDS法により,粒内の微細または粗大な2種類の析出物が存在し,それらはNbCであることが判明した。3次元再構築像から,粗大な析出物と微細な析出物では析出状態が異なっていることが確認された。粗大な析出物は,母相に対して方位関係を持たずに析出し,微細な析出物は特定の2種類の{111}面上,つまり母相(FCC)に対してすべり面上に乗っていることが判明した。

文献
 
© 2015 The Iron and Steel Institute of Japan

This article is licensed under a Creative Commons [Attribution-NonCommercial-NoDerivatives 4.0 International] license.
https://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/4.0/
feedback
Top