Tetsu-to-Hagane
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Regular Article
Effects of Partitioning of Manganese and Silicon during Intercritical Annealing on Transformation Behavior and Mechanical Properties of Low Alloyed TRIP-assisted Steel Sheets
Tatsuya NakagaitoHiroshi MatsudaYasunobu NagatakiKazuhiro Seto
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2015 Volume 101 Issue 8 Pages 426-434

Details
Synopsis:

The effects of partitioning of Mn and Si during intercritical annealing on transformation behavior and mechanical properties of low alloyed TRIP-assisted steel sheets were investigated by using 0.17%C-1.5%Si-1.7%Mn steel. During intercritical annealing, Mn and Si were concentrated in austenite and ferrite by partitioning, respectively. This partitioning of Mn and Si suppressed bainite transformation during austempering and decreased the volume fraction of retained austenite and its C content. This could be mainly because partitioning of Mn and Si shifted the T0’ curve to the lower C concentration region and stopped bainite transformation at a lower C concentration in residual austenite. The decrease in the volume fraction of retained austenite and its C content deteriorated the ductility of low alloyed TRIP-assisted steel sheets. Although proper intercritical annealing is necessary to increase C content in retained austenite, it should be noted that excessive intercritical annealing can deteriorate the ductility of low alloyed TRIP-assisted steel sheets because of partitioning of Mn and Si.

1. 緒言

近年,自動車の衝突安全性向上とCO2排出量削減の両立を目的に,自動車用鋼板の高強度化が急速に進められてきた。しかし,一般に高強度化に伴い鋼板の延性は低下し,自動車部品のプレス加工時の割れなどの問題が生じる。そこで,高強度鋼板の延性の向上について種々の検討が行われてきた。

その中で,残留オーステナイト(以下残留γとする)のTRIP(Transformation Induced Plasticity)効果1,2)を活用した低合金TRIP鋼板3,4)は優れた延性を有することから,自動車部品への適用が多く進められてきている5,6)。低合金冷延TRIP鋼板は,冷延後の焼鈍過程においてフェライトとオーステナイトの二相域に加熱保持後,ベイナイト変態域まで冷却して保持するオーステンパー処理を施すことにより製造される。常温でオーステナイトを残留させるためには,熱処理工程においてオーステナイトへ炭素(以下Cとする)を濃化させることが重要である。熱処理工程では,まず二相域焼鈍によりフェライトとオーステナイトの二相組織とした後,オーステンパー温度への冷却中のフェライトの生成・成長によりオーステナイトへのCの濃化を進める。さらにその後,オーステンパー処理によりオーステナイトの一部をベイナイトに変態させて未変態のオーステナイトへのCの排出を進め,オーステナイト中のC濃度を増加させる7,8,9,10,11,12,13)。通常の炭素鋼ではベイナイト変態時に炭化物が生成するが,低合金TRIP鋼板ではSiを多量に添加してベイナイト変態時の炭化物生成を抑制することにより14,15),未変態オーステナイトへのCの濃化を促進させる。

このようなCの分配と残留γの生成・安定化との関係およびその機械的特性への影響については,種々の鋼組成,熱処理パターンに対して多く検討されているが,MnやSiなどのC以外の溶質元素の分配の影響についての検討は少ない。例えばDP鋼板では,二相域での長時間保持によりMnがオーステナイトへ濃化し,オーステナイトの焼入れ性が向上することが報告されている16)。一方Minoteらは,低合金TRIP鋼板の焼鈍過程においても,二相域焼鈍時にMnおよびSiの分配が生じ,特にオーステナイトへのMnの分配が大きく起こることを報告している9)。またSawai and Uchidaは,二相域焼鈍時のオーステナイトへのMnの濃化により,最大の残留γ量が得られるオーステンパー処理時間が長時間化することを報告している17)。しかし,残留γの形成に及ぼす二相域焼鈍時のMnおよびSiの分配挙動の影響に関する詳細な報告はなく,その機械的特性への影響についても明確ではない。

本研究では,MnやSiの分配が低合金TRIP鋼板の機械的特性に及ぼす影響を明確にすることを目的とした。まず,二相域焼鈍における保持温度,保持時間とMnおよびSiの分配との関係を詳細に調査し,それらがベイナイト変態および残留γの形成に及ぼす影響を明確にした後,形成した組織と機械的特性との関係について検討を行った。

2. 実験方法

供試鋼としてTable 1に示す組成の鋼を用いた。なお,表中にはThermo-Calcを用いてオルソ平衡で計算したAe1点およびAe3点も合わせて示している。Ae1点は,セメンタイトが完全に固溶する温度,すなわちフェライトおよびオーステナイトの二相領域とフェライト,オーステナイトおよびセメンタイトの三相領域との境界温度とした。供試鋼は50 kg真空溶解炉で溶製し,粗圧延にて厚さ27 mmのスラブとした後,加熱温度1250°C,仕上げ圧延温度900°Cで熱間圧延を施し,600°Cで1 h保持する巻取り相当の熱処理を行い,板厚4.0 mmの熱延板を作製した。熱延板の組織はフェライトとパーライトからなり,偏析やバンド状組織の形成は認められず,均一な組織となっていた。得られた熱延板の表裏面を板厚3.2 mmまで研削した後,板厚1.2 mmまで冷間圧延を行い,次いで塩浴炉を用いてFig.1に示す熱処理を行った。熱処理は800°Cおよび740°Cで所定の時間保持した後,そのまま水冷を行うパターンAと,800°Cおよび740°Cで保持後,400°Cまで10°C/sで冷却後して,その温度で0~3600 sの所定の時間保持した後に水冷するパターンBの2種類のパターンで行った。以下では,800°Cおよび740°Cでの保持を焼鈍処理と記し,400°Cでの保持をオーステンパー処理と記す。パターンAでは焼鈍時のMnおよびSiの分配挙動,パターンBでは残留γの形成挙動および熱処理後の機械的特性に及ぼす上記の元素分配の影響を調査した。

Table 1. Chemical compositions of steel used for experiments and calculation of Ae1 and Ae3 temperatures.
Chemical compositions (mass%)Ae1 (°C)Ae3 (°C)
CSiMnPSAl
0.1731.451.730.0100.0010.03708857
Fig. 1.

 Schematic diagrams of heat treatment pattern.

パターンAで得られた試料に対しては,断面組織観察およびEPMA分析,パターンBで得られた試料に対しては,断面組織観察,残留γ量および残留γ中の固溶C量の測定,引張試験を行った。断面組織観察は,圧延方向に平行な板厚断面(上下が板厚方向)を研磨してナイタール(1%硝酸+エタノール)で腐食した試料を用いて,走査型電子顕微鏡(SEM)により行った。さらに,EPMA分析によりMnおよびSiの分布をマッピングし,各元素の検量線データを用いてオーステナイト中のMnおよびSi濃度を定量化した。残留γ量はCo-Kα線を線源としたX線回折法により,(200)α,(211)α,(220)α,(200)γ,(220)γ,(311)γの回折積分強度比から求めた。X線回折には,板厚1.0 mmまで片面研削を行った後,シュウ酸による化学研磨で研削面を100 μm取り除いた試料を用いた。また,(220)γ面の回折ピーク角度のシフト量よりオーステナイトの格子定数を求め,McDermidら18)がRuhl and Cohen19)およびDyson and Holmes20)の式に基づいて提案した(1)式より残留γ中の固溶C量を計算した。   

a=3.572+0.033×[C%]+0.0012×[Mn%]0.00157×[Si%]+0.0056×[Al%](1)

a:オーステナイトの格子定数(Å)

[C%],[Mn%],[Si%],[Al%]:C,Mn,Si,Al濃度(mass%)

引張試験は,圧延方向を引張方向としたJIS5号型の引張試験片を用い,引張速度10 mm/minで行った。

さらに,フォーマスター試験によりオーステンパー処理時のベイナイト変態挙動を調査した。フォーマスター試験では,パターンBで熱処理したときのオーステンパー処理時における試料の長さ変化率を測定し,その結果からベイナイト変態挙動を定量評価した。

3. 実験結果および考察

3・1 二相域焼鈍時のMnおよびSiの分配挙動

Fig.2に800°Cおよび740°Cでの所定の時間の焼鈍後に水冷した試料のSEM像を示す。焼鈍温度が800°Cの場合,全ての条件において組織はフェライトとマルテンサイトであり,焼鈍時間の増加に伴いマルテンサイトが増加した。また,焼鈍温度が740°Cの場合,焼鈍時間が1 sの条件では組織はフェライトと炭化物の球状化が進んだパーライトの二相組織で,焼鈍時間が3600 sおよび14400 sの条件ではフェライトとマルテンサイトの二相組織となっていた。これら組織中のマルテンサイトは,焼鈍時のオーステナイトが水冷により変態した組織で,フェライトとマルテンサイトの分布は焼鈍時(水冷前)のフェライトとオーステナイトの分布を示している。焼鈍温度が800°Cの条件では逆変態によるオーステナイトの生成が短時間で生じるのに対して,焼鈍温度が740°Cの条件では1 s程度の短時間保持ではオーステナイトの生成が不十分で,熱処理前に存在するパーライトが残存したと考えられる。Fig.3に各焼鈍温度での焼鈍時間と焼鈍時のオーステナイト分率との関係を示す。図中にはThermo-Calcを用いてオルソ平衡で計算したオーステナイト分率を破線で示している。焼鈍時のオーステナイト分率は,焼入れした試料のSEM像から求めたマルテンサイトの面積率と同一とした。焼鈍温度が800°Cおよび740°Cのいずれの場合においても焼鈍時間の増加に伴いオーステナイト分率が増加し,740°C焼鈍に比べて800°C焼鈍の方が到達するオーステナイト分率が高かった。計算で求めた各温度における平衡状態でのオーステナイト分率は,800°Cで約60%,740°Cでは約35%であり,800°Cで1800 sおよび740°Cで14400 sの長時間の焼鈍を行うことで,平衡状態に近いオーステナイト分率となったことがわかる。

Fig. 2.

 SEM images of specimens quenched after intercritical annealing of (a) 1 s, (b) 90 s, and (c) 1800 s at 800°C, and of (d) 1 s, (e) 3600 s, and (f) 14400 s at 740°C.

Fig. 3.

 Changes in volume fraction of austenite during intercritical annealing.

Fig.4に740°Cで焼鈍後,水冷して得られた試料に対して,EPMA分析によりMnとSiの分布を調査した結果を二次元マッピングで示す。焼鈍時間が1 sではMn,Si共にほぼ均一に分布していた。この条件では逆変態によるオーステナイトの生成がほとんど生じておらず,MnおよびSiは分配せずに焼鈍前の状態と同様に均一に分布していたと考えられる。そして焼鈍時間の増加に伴って,Mnはオーステナイトに,Siはフェライトに濃化していた。800°C焼鈍の条件についても同様にEPMA分析を行い,それらの結果から得られたオーステナイト中のMnおよびSi濃度の焼鈍時間に伴う変化をFig.5に示す。800°C焼鈍および740°C焼鈍ともに焼鈍時間の増加に伴ってオーステナイト中のMn濃度は増加,Si濃度は減少し,長時間の焼鈍条件において740°C焼鈍の方がMnの増加量およびSiの減少量は大きかった。この分配はSiに対してMnの方がより顕著で,740°Cで14400 s保持した場合ではオーステナイト中のMn濃度は約2.9%と,鋼中のMn添加量の約1.7倍近い値となった。計算で求めた平衡状態でのオーステナイト中のMn濃度は,800°Cで約2.1%,740°Cで約2.9%であり,オーステナイト分率と同様に,800°Cで1800 sおよび740°Cで14400 sの長時間の焼鈍を行うことで,ほぼ平衡状態まで分配が進んだことがわかる。

Fig. 4.

 SEM images and corresponding EPMA elemental mappings of (b) Mn and (c) Si of specimens quenched after intercritical annealing at 740°C.

Fig. 5.

 Changes in content of Mn and Si in austenite during intercritical annealing.

3・2 オーステンパー処理時の残留γの生成挙動に及ぼす焼鈍条件の影響

Fig.6に各条件で焼鈍した後,10°C/sで冷却し400°Cに到達後,オーステンパー処理なしでそのまま水冷して得られた試料のSEM像を示す。この時の焼鈍条件は,焼鈍後のオーステナイト中のMnおよびSi濃度を変化させる目的で,各焼鈍温度においてMnおよびSi濃度が平衡状態相当となる条件および平衡状態に到達する前の中間の条件を選択した。すべての条件において組織はフェライトとマルテンサイトの二相組織で,マルテンサイト分率,すなわち水冷前のオーステナイト分率は約30%となっており,焼鈍条件による差異はほとんど認められなかった。Table 2に,400°Cまでの冷却前(焼鈍終了時)および冷却後(オーステンパー処理開始時)のオーステナイト分率を,各焼鈍条件について比較して示す。焼鈍温度が800°Cの条件では,冷却前のオーステナイト分率は約60%であり,冷却後の分率よりも高かったことから,冷却中にオーステナイトからのフェライト変態が生じて,オーステナイト分率が低下したと考えられる。それに対して焼鈍温度が740°Cの条件では,冷却前のオーステナイト分率と冷却後の分率の差はわずかで,冷却中のフェライト変態はほとんど生じなかったと考えられる。

Fig. 6.

 SEM images of specimens after heat Pattern B of Fig.1 with austempering time of 0 s at 400°C with intercritical annealing of (a) 90 s and (b) 1800 s at 800°C and of (c) 3600 s and (d) 14400 s at 740°C.

Table 2. Changes in volume fraction of austenite by cooling of 10°C/s between end of intercritical annealing and start of austempering.
800°C740°C
90 s1800 s3600 s14400 s
Before cooling (End of intercritical annealing)56%
61%
33%
31%
After cooling (Start of austempering)31%33%29%29%

Fig.7に各条件で焼鈍した後,400°Cまで冷却しオーステンパー処理を施したときの,オーステンパー処理時間と残留γ量および残留γ中の固溶C量との関係を示す。いずれの焼鈍条件においても,残留γ量および残留γ中の固溶C量ともにオーステンパー処理時間の増加に伴い増加した。さらにオーステンパー処理時間が長くなると,残留γ量および残留γ中の固溶C量ともに飽和し,一部の条件で極大を示した後減少した。残留γ量が長時間のオーステンパー処理で減少する理由として,ベイナイト変態の進行に伴う未変態オーステナイトの減少および炭化物の析出によるオーステナイトの不安定化の可能性が考えられる。本研究では残留γ量の減少が生じた時点では残留γ中の固溶C量は増加していたことから,上記のうち前者の影響が大きいと考えられる。この残留γ量および残留γ中の固溶C量の増加には,800°C焼鈍に比べて740°C焼鈍の方が長時間のオーステンパー処理を要し,同じ焼鈍温度では焼鈍時間が長い方が長時間のオーステンパー処理を要した。また,残留γ量と残留γ中の固溶C量の最大値は,800°C焼鈍に比べて740°C焼鈍の方が低く,さらに,800°C焼鈍ではそれらに及ぼす焼鈍時間の影響が小さいのに対して,740°C焼鈍では焼鈍時間の長時間化により両者ともに低下した。

Fig. 7.

 Changes in (a) volume fraction of retained austenite and (b) C content in retained austenite during austempering at 400°C after intercritical annealing of 90 s and 1800 s at 800°C and of 3600 s and 14400 s at 740°C.

Fig.8に各条件で焼鈍し,400°Cで1800 sのオーステンパー処理を施した後,水冷して得られた試料のSEM像を示す。焼鈍温度が800°Cの条件ではラス状の組織であるベイナイトが多く認められたのに対して,焼鈍温度が740°Cの条件ではベイナイトの生成量が顕著に減少していた。また,いずれの焼鈍温度においても焼鈍時間が長い方がベイナイトの生成量は減少していた。

Fig. 8.

 SEM images of specimens after austempering at 400°C for 1800 s with intercritical annealing of (a) 90 s and (b) 1800 s at 800°C and of (c) 3600 s and (d) 14400 s at 740°C.

Fig.9にフォーマスター試験により各条件で焼鈍した後,400°Cまで10°C/sで冷却してオーステンパー処理を施したときの,オーステンパー処理時間に対するベイナイト分率の変化を示す。オーステンパー処理時のベイナイト分率の変化は,フォーマスター試験での試験片の長さ変化率がベイナイト分率に対して線形で変化すると仮定し,オーステンパー処理時間1800 sの試料のSEM写真から求めたベイナイト分率をもとに計算した。オーステンパー処理時間の増加に対して,ベイナイト分率は増加した後飽和する傾向を示し,焼鈍温度が低いほど,また焼鈍時間が長いほど飽和するベイナイト分率は低くなった。また,焼鈍温度が800°Cの条件において,オーステンパー処理時間の増加によりベイナイト分率が飽和した後,わずかに減少する傾向が認められた。これは,長時間のオーステンパー処理により,ベイナイト中での炭化物の析出により体積収縮が起こり,それを反映した可能性が考えられる。Fig.10に飽和時のベイナイト分率を1として規格化した時の,オーステンパー処理時間に対するベイナイト変態率の変化を示す。なお,740°Cで14400 sの焼鈍条件では,オーステンパー処理時間が1800 sでまだ飽和には達していないが,その増加率はわずかであることからほぼ飽和に達していると考え,オーステンパー処理時間が1800 sでのベイナイト分率をこの条件における飽和値とした。焼鈍条件の低温化および長時間化により,飽和するベイナイト分率が低下するだけでなくベイナイト変態が遅延し,その結果,残留γ量および残留γ中の固溶C量の増加に長時間のオーステンパー処理を要するようになったと考えられる。従来,ベイナイト変態挙動に及ぼす添加元素の影響として素材の鋼成分を変化させた検討がなされており,Siに比べてMnの影響が大きく,Mn濃度の増加によりベイナイト変態が遅延し,連続冷却時のBs点が低下することが報告されている21)。本研究では鋼組成のMn量は一定としているが,二相域焼鈍時のMnの分配によりオーステナイト中のMn濃度が変化し,ベイナイト変態挙動に影響を及ぼしたと考えられる。Fig.11に各焼鈍条件におけるオーステナイト中のMn濃度と,各オーステンパー処理時間でのベイナイト分率との関係を示す。いずれのオーステンパー処理時間においても,オーステナイト中のMn濃度の増加に伴いベイナイト分率は低下している。この結果から,オーステナイト中のMn濃度の増加によりベイナイト変態が遅延し,さらに,ベイナイト変態が停止し飽和する分率が低下したことがわかる。

Fig. 9.

 Changes in volume fraction of bainite during austempering at 400°C.

Fig. 10.

 Changes in ratio of volume fraction of bainite to maximum one during austempering.

Fig. 11.

 Effect of Mn content in austenite after intercritical annealing on volume fraction of bainite during austempering at 400°C.

Fig.12に各条件で焼鈍したときの,オーステナイト中の組成におけるT0線の計算結果22)を示す。ベイナイト変態が停止したオーステンパー条件で得られた残留γ中の固溶C量も,あわせてFig.12に示す。以下では,残留γ中の固溶C量はオーステンパー処理時の未変態オーステナイト中の固溶C量とほぼ等しいと考えて考察を行う。T0線はフェライトとオーステナイトの自由エネルギーが等しくなる温度と組成を示し,ベイナイト変態が無拡散変態により生じるという考え方に基づくと,T0線以上の温度あるいはT0線以上のC濃度ではベイナイト変態は生じない23,24)。低合金TRIP鋼板ではSiを多量に含有し,ベイナイト中の炭化物の生成が抑制されるため,ベイナイト変態の進行に伴い未変態のオーステナイトにCが濃化する。そして,そのC濃度がT0組成に達するとベイナイト変態が停止し,ベイナイト分率が飽和すると考えられる。低温長時間焼鈍によりベイナイト変態が停止し飽和する分率が低くなったのは,MnおよびSiの分配が進むことでT0線が低C側に移行し,その結果,ベイナイト変態に伴う未変態オーステナイトへのC濃化が少ない状態でベイナイト変態が停止したことが要因として考えられる。ベイナイト変態の停止により残留γ中の固溶C量が飽和したときの値は,焼鈍温度が800°Cの条件ではほぼT0線に近い値となっており上記の考え方で説明が可能であるが,焼鈍温度が740°Cの条件ではT0線に対して乖離し,低い値となっている。ベイナイト変態が生じる条件については,厳密にはベイナイト変態のstored energy を考慮したT0’で考える必要がある25)。ベイナイト変態のstored energyは,変態時のオーステナイト結晶格子の剪断変形と変態による体積膨張に必要なエネルギーで,stored energyが大きいほどT0’は低C側に移行する。Bhadeshiaらによりベイナイト変態のstored energyとして400 J/molという値が提唱されている26)。一方,ベイナイト変態のstored energyは変態温度に依存し,温度が高くフェライトおよびオーステナイトの降伏応力が低下すると,変態により生成したベイナイトやその周りの未変態のオーステナイトに塑性変形が生じ,その結果,変態に伴いベイナイト中に導入される弾性ひずみが緩和されstored energyが低下するという報告もある27)。また,ベイナイト変態と同様に無拡散変態であるマルテンサイト変態に対するNi,Cr,Mnなどの元素添加の影響として,T0が低下することとあわせて,オーステナイトの降伏応力が上昇しstored energyが増加することで,Ms点が低下することが報告されている28)。本研究ではベイナイト変態温度は一定としているが,焼鈍条件の違いによるオーステナイト中のMn濃度の差異によりベイナイトおよびオーステナイトの降伏応力が変化し,ベイナイト変態のstored energyが変化した可能性が考えられる。すなわち,焼鈍温度が740°Cの条件において,残留γ中の固溶C量の飽和値がT0線に対して大きく乖離し低い値となったのは,オーステナイト中のMn濃度の増加により,オーステナイトおよび変態により生じたベイナイトが固溶強化されることで,ベイナイト変態のstored energyが増加したことが一因となっていることが考えられる。Table 3に各焼鈍条件で作製した材料間におけるstored energyの差を示す。ここでは,上記の考え方に基づいて,各焼鈍条件で得られた残留γ中の固溶C量の飽和値がT0’と等しくなるstored energyを計算し,800°Cで90 sの焼鈍条件を基準としたときの各条件との差を示している。この結果から,残留γ中の固溶C量の飽和値がT0線と乖離する原因がベイナイト変態のstored energyによると考えた場合,その値は二相域焼鈍時のMnおよびSiの分配の進行により増加し,同じ母材組成であっても焼鈍条件によって約500 J/molの変化が生じていると考えられる。

Fig. 12.

 Calculated T0 curves by using chemical compositions in austenite after intercritical annealing, compared with carbon content in retained austenite when bainite transformation stopped during austempering.

Table 3. Differences in estimated stored energy of bainite transformation of steels heat-treated in each intercritical annealing condition.
Intercritical annealing conditionsChemical compositions of γDifferences in estimated stored energy (J/mol)
800°C-90 s1.9Mn-1.45SiBase
800°C-1800 s2.1Mn-1.3Si-1.5
740°C-3600 s2.5Mn-1.25Si224.3
740°C-14400 s2.9Mn-1.2Si515.8

以上をまとめると次のようになる。低温長時間焼鈍によりMnおよびSiの分配が進むことでオーステンパー処理時のベイナイト変態が抑制され,熱処理後に得られる残留γ量および残留γ中の固溶C量の最大値が低下する。このようなベイナイト変態の抑制は,MnおよびSiの分配によりT0’が低C側へ移行することに起因すると考えられる。

3・3 熱処理後の機械的特性に及ぼす二相域焼鈍条件の影響

Fig.13に各焼鈍条件における,オーステンパー処理時間と熱処理後の引張り強さ(以下TSとする)および均一伸び(以下U.ELとする)との関係を示す。全ての焼鈍条件において,オーステンパー処理時間の増加に伴いTSが低下し,U.Elは増加した。また,焼鈍温度が高く焼鈍時間が短いほどTSが低く,U.ELが高くなった。上記のようなオーステンパー処理時間の増加に伴うTSの低下およびU.ELの増加は,3・1節で述べたようなベイナイト変態の進行に伴う最終組織でのマルテンサイトの減少および残留γの増加により生じたと考えられる。

Fig. 13.

 Changes in (a) tensile strength and (b) uniform elongation during austempering after intercritical annealing of 90 s and 1800 s at 800°C, and of 3600 s and 14400 s at 740°C.

Fig.14に延性の指標となるTSとU.ELの積(以下,TS×U.ELとする)と残留γ量および残留γ中の固溶C量との関係を示す。TS×U.ELは焼鈍条件に関係なく残留γ量と残留γ中の固溶C量で整理することができ,残留γ量および残留γ中の固溶C量の増加に伴い増加した。オーステナイト安定化元素であるMnの濃度が高い方が残留γの安定性が向上することが知られており29),それによる延性の向上が想定される。対して,本研究では焼鈍条件によってオーステナイト中のMn濃度が変化したが,延性に対する影響はほとんど認められなかった。これは,本研究におけるオーステナイト中のMn濃度の変化によるオーステナイトの安定性への影響が小さかったためだと考えられる。本研究におけるオーステナイト中のMn濃度の変化は約1%であり,残留γの安定性を示す1つの指標であるMs点で考えた場合,例えばMs点に及ぼす化学成分の影響としてSteven and Haynes30)によって提示されている(2)式より,上記Mn濃度の変化はC量として約0.07%に相当する。   

Ms(°C)=561474×[C%]33×[Mn%]17×[Ni%]17×[Cr%]21×[Mo%](2)

[C%],[Mn%],[Ni%],[Cr%],[Mo%]:C,Mn,Ni,Cr,Mo濃度(mass%)

Fig. 14.

 Effects of (a) volume fraction of retained austenite and (b) C content in retained austenite on product of tensile strength (TS) and uniform elongation (U.EL) of specimen after heat treatment of Pattern B in Fig.1.

Fig.14(b)からわかるように,上記の変化は本研究における残留γ中の固溶C量の変化に比べて小さく,二相域焼鈍条件の差異によるオーステナイト中のMn濃度の変化が延性に及ぼす影響は小さかったと考えられる。

以上のように,二相域焼鈍時のMnおよびSiの分配は,本検討鋼の延性に対して直接的に影響を及ぼしたのではなく,オーステンパー処理時のベイナイト変態挙動や残留γの生成挙動を介して影響を及ぼしたと考えられる。すなわち,二相域焼鈍時のMnおよびSiの過度な分配によりオーステンパー処理時のベイナイト変態が抑制され,その結果,熱処理後の残留γ量および残留γ中の固溶C量が減少し,延性が低下する。従って,低合金TRIP鋼板において,二相域焼鈍はオーステナイトへのCの濃化のために必要であるが,MnやSiの分配が過度に生じる条件での焼鈍は延性の低下を招くため,これらを考慮した適正な条件とする必要がある。

4. 結言

0.17%C-1.5%Si-1.7%Mn鋼を用いて,低合金TRIP鋼板の二相域焼鈍時のMnおよびSiの分配挙動を調査し,残留γの形成および熱処理後の機械的特性に及ぼすMnおよびSiの分配の影響について検討を行った結果,以下の知見が得られた。

(1)二相域焼鈍により,オーステナイトへMnが濃化しフェライトへSiが濃化するMnおよびSiの分配が生じ,その濃化量は焼鈍温度が低く焼鈍時間が長い方が大きくなる。特に,Siに比べてMnの方が顕著に分配し,740°Cで14400 s保持することで,鋼中のMn添加量の約1.7倍まで濃化する。

(2)二相域焼鈍時のMnおよびSiの分配により,オーステンパー処理に伴う残留γの生成が遅延し,熱処理後に得られる残留γ量および残留γ中の固溶C量の最大値が低下する。これは,主にオーステナイト中のMn濃度の増加に伴うベイナイト変態の遅延およびT0’線の低C側への移行によるベイナイト変態量の減少により起こると考えられる。

(3)熱処理後の機械的特性について,延性の指標となるTS×U.ELは焼鈍条件に関係なく残留γ量と残留γ中の固溶C量で整理することができ,残留γ量および残留γ中の固溶C量の増加に伴い増加した。すなわち,二相域焼鈍時のMnおよびSiの分配は,低合金TRIP鋼板の延性に対して直接的に影響を及ぼすのではなく,オーステンパー処理時のベイナイト変態挙動や残留γの生成挙動を介して影響を及ぼすと考えられる。

(4)低合金TRIP鋼板において,二相域焼鈍はオーステナイト中のC量の増加のために必要であるが,MnやSiの分配が過度に生じる条件での焼鈍は延性の低下を招くため,これらを考慮した適正な条件とする必要がある。

文献
 
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