2016 Volume 102 Issue 10 Pages 599-606
Industrial pure iron specimens with the thickness varied from 0.2 to 2.0 mm were investigated in tensile test to examine the influences of specimen thickness on elongation and deformation energy.
Conventionally, the total elongation of tensile specimen can be converted by JIS 0202-1987 formula, which is related to the tensile test specimen thickness. However, in this experiment, it was noticed that there were number of factors which led to the inaccuracy in the result. The total elongation was influenced by the stress triaxiality. According to the FEM (Finite Element Method) analysis, it showed that the stress triaxiality increased significantly with the thinner specimen, this was due to the void growth behavior, observed by SEM (Scanning Electron Microscope) under low voltage. These results revealed that voids nucleation and growth behavior influenced by the stress triaxiality were the main cause for the formula incompatibility.
After the tensile test, stress-strain curve can be obtained and categorized into the uniform and local deformation. The uniform deformation energy was not depended on the specimen thickness in contrast to duplex stainless steel of previous study. On the other hand, the local deformation energy lowered with the decrease in specimen thickness as with duplex stainless steel. These results indicated that the void nucleation and growth behavior had a significant impact on the total elongation.
引張試験は,材料の強度・延性を評価するもっとも一般的に用いられている手法である。この試験で求められる降伏点,引張強さは示強性の物理量であり,板厚方向に5結晶粒以上存在するならば,板厚あるいは径などの形状の影響は受けない1)。しかし,伸びは形状の影響を受け,1880年にはすでにBarbaが均一伸びは標点間距離に比例し,局部伸びは試験片の断面積の平方根に比例するとして,式(1)に示す全伸び予測式を提示している2)(Barbaのオリジナル論文は古いため,参考文献として解説を示す)。
| (1) |
ここで,(1)式のEltotは全伸び,a, bは材料による実験定数,A0は試験片の初期断面積,L0は標点間距離である。
その後,Oliverも同様に引張方向のひずみ分布から予測式を求めており2), それを用いて式(2)に示す板厚予測式がJIS化されている(JIS 0202-1987 No.1152)3)。
| (2) |
ここで,Eltot'は予測したい板厚での全伸び,L'0,A0'はそれぞれ予測したい試料の標点間距離および初期断面積,K,K’はそれぞれ実測値のある基準板厚と予測したい板厚での標点間距離および断面積から求められるパラメーター,nは材料固有の定数である。
現在,このOliverの式が試験片の形状補正の式として多く用いられている。本式を用いることで,平行部長さと板幅の比が5.5以上の条件下で,全伸びは試験片の形状に依存せず一定となるとされている。しかし,実際の全伸びは,応力三軸度に関係するボイドの発生,連結,合体挙動4,5,6)(以後,ボイド形成挙動と称す)に支配される局部伸びを含むため,Oliverの式のように板厚に起因する引張方向のひずみ分布の相違だけで板厚を精度良く補正することは出来ないと考えられる。とくに,板厚が薄くなった場合,ボイド形成挙動が板厚の大きい材料とは異なることで,このボイド形成挙動の差に起因するOliverの式を用いた補正と実験結果との乖離が顕著になると予想される。著者らは,二相ステンレス鋼の板厚を0.2~2 mmまで変化させた試料を用い,Oliverの式では板厚補正が出来ないことを,応力三軸度の観点から考察した7)。しかし,二相ステンレス鋼を含めた複相鋼では伸びに及ぼす組織因子が複雑なため,Oliverの式で板厚補正が出来なかった理由が,板厚に起因する応力三軸度の相違のみで理解できるかは明らかでない。本報告では,組織因子が単純な析出物を含まないフェライト単相の工業用純鉄について,全伸びに及ぼす板厚の影響をOliverの換算式と対比して研究した結果を述べる。
一方,ボイドの形成挙動と板厚の関係を解析するためには,その過程の内部エネルギー変化を調べる方法が,以下の理由により有効である。引張試験により,試験片(系)になされる仕事(ω)は試験片の内部エネルギー変化(ΔU)と熱(Δq)に変換される。著者らは,二相ステンレス鋼において,板厚を0.2~1.2 mmと変化させ初期ひずみ速度1×10−3/sの引張試験中の温度変化を測定した結果,いずれの板厚の試験片でも,引張試験の進行とともに徐々に温度は増加したが,試験終了までの温度上昇は1.5~2°Cで板厚による差は認められなかったこと等から,Δqは無視できるとの結論を得ている7)。純鉄はステンレス鋼に比較して熱伝導率が大きいため,この知見は本研究に適用できる。したがって,引張試験における試験片の内部エネルギー変化は以下の(3)式で示される8)。
| (3) |
ここで,σは応力,εはひずみ,Vは系(本研究においては標点間の平行部)体積である。
さらに,局部変形域におけるボイドの成長過程は,非線形破壊力学を用いることでエネルギー的取り扱いが可能である。すでに,Gao and Kimは,亀裂先端のエネルギー解放率であるJ−積分値が,ボイド形状および体積率と相関することを示している9)。また,Nagumoはボイドの成長とクラックの発生をエネルギー的に考察している10)。これらの知見は,応力−ひずみ曲線から得られるエネルギーが,材料評価指標の一つとなることを意味する。著者らは,フェライト単相16%Cr鋼において,応力−ひずみ曲線から得られる均一変形エネルギーはCr析出物間隔に依存しないが,局部変形エネルギーは,析出物間隔の増大とともに大きくなることを実験的に示した11)。
本報告では工業用純鉄を用い,引張試験における伸びに及ぼす板厚の影響を調べた後に,さらに変形エネルギーの板厚依存性について,従来の二相ステンレス鋼の結果と比較しながらボイドの形成挙動および応力三軸度と関連させて考察する。
供試材には,化学組成をTable 1に示す市販の熱間圧延−焼鈍プロセスで作製した板厚4.0 mmの工業用純鉄を用いた。また,板厚中心部の圧延方向直角面について,EBSD(Electron Back Scatter Diffraction)により組織解析した。この純鉄から板厚を0.2,0.5,1.2,2.0 mmと変化させた平行部幅3 mm,平行部長さ30 mmの形状の引張試験片を圧延方向と平行に板厚1/4部分から採取した。表面を1200番のエメリー紙で仕上げ,引張試験に供した。なお,緒言で述べたように,Oliverは試験片形状の補正には平行部長さ(Lc)と平行部幅(W)の比Lc/Wが5.5以上とする必要があるとしているが,本研究に用いた試験片形状はこの条件を満たしている。
| C | Si | Mn | P | S | Al | N |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 0.0028 | 0.001 | 0.16 | 0.011 | 0.004 | 0.001 | 0.0017 |
島津製作所製オートグラフ(AG-IS)を用いて,初期ひずみ速度1.0×10−3/sの条件で引張試験を行った。なお,試験片平行部上に標点間距離20 mmのマーカーを記し,その変化をカメラで撮影し変位を求めた。
2・3 ボイド観察引張試験後,板厚に対して破面垂直面を微細切断機で切り出し,樹脂に埋め込み,順次150~2000番のエメリー紙を用いて湿式研磨し,さらにアルミナバフによる鏡面研磨仕上げを施した(Fig.2参照)。その後,日立ハイテクノロジーズ社製フラットミリング装置 (IM-3000)により,加速電圧4 kVで試料傾斜角80°,試料回転速度25 rpmの条件でArスパッタリングを180 s行い,表面の損傷層およびコンタミネーションを除去しSEM観察試料とした。これらの試料について,Carl Zeiss社製FE-SEM (Ultra55)を用い加速電圧5kVの条件でAsB(Angle selective Backscatter)像を取得し,ボイド観察を行った。本手法により,0.1 μmの大きさのボイドまで抽出可能である11)。

Finite element meshes of tensile test specimen for analyzing stress triaxiality (a) t=0.2 mm, (b) t=1.2 mm.

(a) IPF image and (b) Kernel average misorientation image of base metal obtained by EBSD analysis.
ボイド観察の結果を,相当塑性ひずみと対応させ,各相当塑性ひずみにおける測定面積(本研究による一例を示すと,板厚1.2 mmの相当塑性ひずみ1.73の領域において17 μm×276 μm)で規格化した単位面積当たりのボイド数,ボイド総面積をボイド数で除した各ボイドの平均面積を,板厚を変化させた供試材について求めた。
なお,相当塑性ひずみは,引張試験後の板厚と板幅から断面積を求め,(4)式から算出した値を用いた。
| (4) |
ここで,Sはボイド観察部の測定断面積である。
さらに,EBSD解析により破断後の組織を観察し,ボイドの発生起点を調べた。
2・4 応力三軸度と板厚の関係の有限要素法解析引張過程での応力三軸度の変化と板厚の関係を評価するため,Fig.1に示す引張試験片の1/8モデルでABAQUS. ver.6.1.2を用いてFEM解析を行った。本解析では,試験片形状因子のみを抽出するため,解析モデルの板厚のみを変え,材料特性値は同一とした。応力−ひずみ値は,代表として板厚0.2 mmの実験値を用い,また,最大荷重以降の局部変形域の応力−ひずみ値は,Swiftの式で推定した。なお,各要素のデータとして,密度7830 kg/m3,ヤング率206 GPa,ポアソン比0.3を用いた。
Fig.2(a),(b)は,それぞれOIM(Orientation Imaging Microscopy)から求めたIPF(Inverse Pole Figure)像とKAM(Kernel Average Misorientation)像である。KAM像の結果,本試験片には大角粒内に数度の方位差を持つ部位の存在が認められた。なお,平均結晶粒径は約35 μmであったため,もっとも薄い板厚0.2 mmの試験片においても,板厚方向に5結晶粒以上存在しており,Fukumaruらが示している強度の評価に考慮が必要な板厚と結晶粒径の範囲内ではない1)。
引張試験により得られた応力−ひずみ曲線をFig.3に,板厚と引張強さ(TS),下降伏点(LYS)の関係をFig.4に示す。引張強さと下降伏点には板厚依存性が認められなかった。

Nominal stress and nominal strain curves of 2.0, 1.2, 0.5, 0.2 mm thickness specimens for industrial pure iron.

Effects of specimen thickness on lower yield stress (LYS) and tensile strength (TS) for industrial pure iron.
また,板厚と全伸びの関係を,(2)に示す式で換算した結果とともにFig.5に示すが,実験結果と換算式の乖離が確認された。一般的に鉄鋼材料ではnの値が0.3~0.4とされており12),Fig.5には基準板厚を2.0 mm,n=0.4とした結果を示したが,n=0.3として計算してもOliver式で換算した全伸びは実験結果と乖離した。また,その他の板厚を基準として換算を行ったところ,同様に実験結果との乖離が確認された。これらの結果から,本引張試験で求めた全伸びに及ぼす板厚の影響について,Oliverが提唱した因子だけでは説明できないことが明らかとなった。

Relationships between total elongation and specimen thickness obtained by experiments and converted from the JIS 0202-1987 No.1152.
ボイドの生成と成長挙動に及ぼす板厚の影響を,SEM観察により調べた。SEM観察によって得られたAsB像を用いて,画像解析ソフトImageJによりボイドと母相を二値化することで,ボイド面積,個数等を算出した11)。Fig.6(a),(b)に二値化する前後の写真を示す(相当塑性ひずみεeq≒1.50)。(a)は二値化前のAsB像であり,(b)は二値化により,ボイドだけを取り出した像である。

Void observation result by SEM for specimen of 0.5 mm thickness at εeq≒1.50: (a) AsB image, (b) thresholding result of AsB image.
単位面積あたりのボイド数と相当塑性ひずみの関係をFig.7に示す。図中の矢印はボイドが確認された相当塑性ひずみを示しており,この値は板厚により大きく変化しなかった。なお,破面近傍ではボイド連結が進み,ボイド個数が減少した。ボイド一個あたりの面積と相当塑性ひずみの関係をFig.8に示す。板厚が小さくなるに従い,ボイドは破面近傍で大きく成長することが明らかになった。これらの結果から,板厚によって応力三軸度が異なることが推測される。この点に関しては,応力三軸度と板厚の関係を有限要素法で解析した結果を踏まえ,後に考察する。

Relationships between number of void and equivalent plastic strain for industrial pure iron.

Relationships between average void area and equivalent plastic strain for industrial pure iron.
相当塑性ひずみが0.79および0.71である,破面から600,700 μmにあるボイドのEBSD解析結果をFig.9(a),(b)に示す。(a)は結晶方位マップから明らかに大角粒界でボイドが発生していることを示す画像であり,一方,(b)は大角粒内で,わずかに方位コントラストが認められる箇所からボイドが発生している画像である。Fig.10はFig.9(b)に示したボイド近傍の結晶方位の変化をOIMによって解析した結果を示す。Fig.10中のStは解析の開始位置,Fは解析の終了位置である。ボイドの長軸先端で2°程度の結晶方位差が生じていたため,方位コントラストは一つの結晶粒内で2°程度傾いた箇所であると考えられる。また,Fig.2に示したように,本供試材には引張試験前にすでに数度の方位差が存在するので,この箇所からもボイドが発生したものと推定される。なお,発生起点は7割が大角粒界であった。

Voids nucleation sites observation results by EBSD micrographs (t=1.2 mm).

Crystallographic orientation difference analysis result in Fig.9(b) (Black field represents CI < 0.1).
3・2で述べたように,相当塑性ひずみの増加によるボイドの成長挙動には,板厚の影響があることが確認できた。この現象は応力三軸度に起因すると考え,それぞれの板厚における応力三軸度を有限要素法で解析した。応力三軸度は三軸平均応力を相当応力で除したパラメーターであり,以下の(5)式によって示される。
| (5) |
ここで,σhは三軸平均応力,σeqは相当応力,σ1,σ2,σ3はそれぞれx,y,z方向の応力である。
有限要素法解析により得られた公称応力−公称ひずみ曲線および応力三軸度と公称ひずみの関係を,板厚0.2 mm,1.2 mm,2.0 mmの場合についてFig.11に示す。実験方法で述べたようにFEM解析は,すべての板厚で同じ材料特性値を用いている。FEMにおいて破断点は解析できないため,各板厚の破断点を,Fig.3の実験データの破断時の応力値として決定した。この場合,メッシュに入力されるデータは板厚に依らず全て一定としたが,引張試験における力学条件が板厚によって異なるため,Fig.11に示すように局部変形域で伸びおよび応力三軸度(試験片中央部の解析値)に板厚依存性が認められた。この結果から,板厚が減少するに伴い破断時の応力三軸度の値は小さくなるが,局部変形域における応力三軸度の上昇率が大きいと言える。板厚の違いにより力学的条件が異なると先に述べたが,この差異を明らかにするため,板厚および板幅方向のそれぞれのひずみを,公称ひずみと対応させて整理した。その結果をFig.12に示す。Fig.12(b)に示す板幅方向のひずみ(Δw/w0:平行部初期板幅w0,平行部の板幅変化Δw)は板厚の影響は小さいが,一方Fig.12(a)に示す板厚方向のひずみ(Δt/t0:試験片初期板厚t0,試験片中央部の板厚変化Δt)において板厚が0.2 mmと小さくなると局部変形開始(公称ひずみ0.16)に伴い急激に上昇する傾向が見られた。この結果より,板厚が小さいほど,局部変形開始時に急激な板厚減少によるくびれが生じ,断面が糸巻き型の形状に近づくことで正の応力が印加されると考えられる。このため応力三軸度が局部変形開始時に急激に増加する結果となったと推察される。

Nominal stress - Nominal strain curves and stress triaxiality profiles obtained by FEM analysis.

Relationships between thickness strain, width strain and nominal strain for industrial pure iron.
延性破壊エネルギーの板厚依存性とボイド形成挙動について考察する。Fig.11に示したように,応力三軸度が板厚に依存している結果から,伸びがボイド形成挙動に支配される局部変形域において,局部変形エネルギーは板厚の影響を受けることが推測される。しかし,変形エネルギーと板厚の関係については,現在,基礎的に明らかにされていない。そこで,変形エネルギーから均一変形と局部変形に分離してそれぞれのエネルギーを求め,板厚依存性を調べた結果をFig.13に示す。なお,応力−ひずみ曲線の面積から求めた変形エネルギー(系である試験片の内部エネルギー変化)は試験片形状に依存する示量性の物理量のため,標点間距離の体積で除し1原子あたりの内部エネルギー変化(eV/atom)である示強性の物理量として板厚の影響を考察した。Fig.13より,均一変形では1原子あたりの内部エネルギー変化(均一変形エネルギーと称す)の板厚依存性が認められず,局部変形では1原子あたりの内部エネルギー変化(局部変形エネルギーと称す)が顕著に認められた。

Relationships between uniform deformation energy, local deformation energy and specimen thickness of tensile test for industrial pure iron.
Fig.11に示した有限要素法解析結果より,板厚が減少すると,局部変形域の応力三軸度の上昇率が大きくなる。したがって,板厚が小さいほどこの応力三軸度の増加により低ひずみの領域でボイドが連結し,局部変形エネルギーが小さくなったと推察できる。なお,二相ステンレス鋼の実験結果では,局部変形域におけるボイド間の引張変形に伴うナノインデンテーンション硬さの上昇量が板厚減少に伴い小さくなること,すなわち塑性変形量が小さくなることが明らかとなっている7)。
つぎに,本研究で対象とした工業用純鉄および著者らがすでに明らかにした二相ステンレス鋼7)について,Fig.14に示す1原子あたりの内部エネルギー変化と板厚の関係を考察する。工業用純鉄,二相ステンレス鋼ともに,局部変形エネルギーには板厚依存性が認められたが,均一変形エネルギーについて見ると,二相ステンレス鋼では板厚依存性が認められるものの,工業用純鉄では板厚依存性が認められなかった。

Relationships between uniform deformation energy, local deformation energy and specimen thickness of tensile test for industrial pure iron and duplex stainless steel7).
二相ステンレス鋼の単位面積当たりのボイド数と相当塑性ひずみの関係を,Fig.15に示す7)。また,Fig.15およびFig.7の矢印に示されるボイド発生の相当塑性ひずみ量と板厚の関係をFig.16に示す。工業用純鉄においては,ほぼ同じ相当塑性ひずみでボイドが発生しているが,二相ステンレス鋼においては板厚に応じてボイドが発生する相当塑性ひずみが変化している。

Relationships between number of void and equivalent plastic strain for duplex stainless steel7).

Relationships between equivalent plastic strain of void nucleation and specimen thickness for industrial pure iron and duplex stainless steel7).
従来,ボイドの発生は最大荷重以降,ネッキングを起こすと同時に発生すると言われている13)。しかし,フェライト−オーステナイト二相ステンレス鋼では,各相の応力−ひずみ関係が異なることに起因して二相界面でひずみが生じる14)ことから,二相ステンレス鋼において必ずしもネッキングと同時にボイドが発生するとは言えない。最近のTodaらの研究により,二相ステンレス鋼におけるボイド発生起点は二相界面であり,最大荷重に達する以前にボイドが発生することが明らかにされた15)。一方,二相ステンレス鋼では工業用純鉄とは異なり,板厚が大きくなるとボイドが発生する相当塑性ひずみが増加する結果をFig.15に示した。この結果と戸田らの二相ステンレス鋼では最大荷重に達する前にボイドが発生するとの結果から,Fig.16に示すように二相ステンレス鋼では,引張試験における均一変形領域で,板厚減少に伴い少ないひずみ量でボイドが発生しやすくなるため,Fig.14に示すように板厚が小さいほど均一変形エネルギーが減少したと考えられる。本研究の対象である工業用純鉄は,最大荷重からボイドが発生するタイプであり,局部変形域でのボイド成長の差から局部変形エネルギーのみに強い板厚依存性が生じたと考察される。
板厚を0.2~2.0 mmに変化させたフェライト単相組織の工業用純鉄について,引張試験における伸びに関し,Oliverの式による板厚換算式が適用できるか否かを調べた。さらに,応力三軸度の板厚依存性の観点から,塑性変形に伴うボイド成長挙動と応力−ひずみ曲線から求めた内部エネルギー変化に及ぼす板厚の影響を考察した。得られた主な結論を以下に示す。
(1)引張試験における全伸びの値は,JIS 0202-1987 No.1152による換算式とは一致しなかった。
(2)ボイド形成挙動をSEMで調べた結果,ボイドは板厚の変化によらず,大角粒界または数度の結晶方位差をもつ粒内から発生した。
(3)板厚の減少に伴い,ボイドは破面近傍で急峻に成長した。また,ボイドが発生する相当塑性ひずみに及ぼす板厚の影響は,すでに本研究と同様の手法で明らかにされている二相ステンレス鋼より小さかった。
(4)有限要素法解析から,板厚の減少に伴い応力三軸度の上昇率が増加することが明らかとなった。板厚による破面近傍でのボイドの成長挙動の差異は,この有限要素法解析結果に対応した。
(5)内部エネルギー変化を均一変形と局部変形域に分離した場合,工業用純鉄では均一変形エネルギー(均一変形域での1原子あたりの内部エネルギー変化)は板厚に影響せず一定であり,局部変形エネルギー(局部変形域での1原子あたりの内部エネルギー変化)は板厚の減少に伴い低下した。この結果は,ボイドが発生する相当塑性ひずみの板厚依存性が小さいことに起因する。一方,ボイドが異相界面において,均一変形域で発生する二相ステンレス鋼では,ボイドが発生する相当塑性ひずみに板厚依存性があり,その結果,均一変形エネルギーにも板厚依存性が認められた。
以上の結果から,全伸びの板厚補正にあたり,局部変形域で応力三軸度の相違に起因するボイドの生成−成長−連結挙動を考慮する必要のあることが明らかとなった。さらに,このボイドの成長挙動は,局部変形エネルギーで解析できると結論された。