Tetsu-to-Hagane
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Effects of Temperature and Oxygen Potential on Removal of Sulfur from Desulfurization Slag
Akitoshi MatsuiYu-Ichi UchidaNaoki KikuchiYuji Miki
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2016 Volume 102 Issue 10 Pages 553-559

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Synopsis:

The effects of temperature (1373-1673 K) and oxygen potential on removal of sulfur from hot metal desulfurization slag were investigated in laboratory-scale experiments. Both CaS and CaSO4 exist as sulfur compounds in hot metal desulfurization slag. CaS can be removed under the condition of higher oxygen potential, whereas CaSO4 can be removed at a lower oxygen potential. Thus, in order to remove both CaS and CaSO4 from desulfurization slag, it is important to control the temperature and oxygen potential to the optimum values. In this study, a higher sulfur removal ratio exceeding 90% was obtained under the conditions of a temperature range of 1473-1673 K and oxygen potential range of 10–3-10–8 atm. These results were in good agreement with thermodynamic calculations.

In order to confirm the possibility of reusing desulfurization slag as flux after sulfur removal, hot metal desulfurization experiments were carried out with a 70 kg-scale laboratory furnace. At the same CaO amount in the desulfurization flux, [S] content at 900 seconds after flux addition was approximately equal to that when using virgin flux. The effect of SiO2 contamination due to slag recycling on the desulfurization rate constant K was also estimated.

From these experimental results, it may be suggested that removal of sulfur from desulfurization slag is an effective approach for constructing a slag recycling system.

1. 緒言

近年,鋼の高品質・高機能化が進んでいる。例えば,石油・天然ガス開発関連で使用される厚板,ラインパイプ材は延性,低温脆性,溶接特性,耐水素誘起割れ特性などにおいて厳しい品質が要求されている。なかでも鋼中介在物として生成するMnSは耐水素誘起割れの起点となるなどの悪影響を及ぼすため,鋼材成分の極低硫化が求められる。このような極低硫鋼溶製のニーズに対応すべく,溶銑予備脱硫処理プロセスが広く工業化されている。

溶銑予備脱硫処理プロセスは,例えば,撹拌羽根(インペラー)によって機械撹拌を付与しつつCaO系フラックスを添加する方法1)が広く展開されている。このような処理後の脱硫スラグのEPMA観察を行うとスラグ粒子の周辺部のみにSが分布していることが報告2)されている。溶銑脱硫の反応効率を向上させるために脱硫剤の投射添加による反応界面積の増加2)や容器底部傾斜による脱硫剤巻き込み促進技術3)などが開発され,脱硫コスト低減と脱硫スラグ発生量削減に寄与している。

製鋼スラグは種々の研究開発4)により製鉄所外での路盤材などへ利用拡大が図られているが,溶銑脱硫スラグはCaO分を多く含むためセメント原料等への利用に限られており,必ずしもその付加価値は高くない。そこで,溶銑脱硫スラグを冷却破砕後に篩別・磁選して鉄を分離した後に焼結原料としてリサイクルする方式5)や,再度脱硫剤として溶銑脱硫プロセスへリサイクルし,未利用CaO分を再活用することで,脱硫コストおよび脱硫スラグ発生量を低減する方法6)も開発されている。これら製鉄所内での脱硫スラグの再利用は,焼結設備での排煙脱硫能力や,リサイクル回数増加に伴う脱硫スラグ中Sの濃化に見合った溶銑予備脱硫処理能力の確保などの観点から,リサイクル量が制約されるのが実状となっている。

脱硫スラグからSを効率的に除去することができれば,S濃度の制約を受けることなくCaO系副原料として製鉄所内でのリサイクル量を拡大することができる。Moriら7)は高炉スラグ,転炉スラグを想定してCaO/SiO2=1~3とした試薬合成スラグを用い,酸素又はAr雰囲気,1823 Kでの実験結果を報告している。また,Kobayashiら8,9)は,CaO-Al2O3-CaF2系の二次精錬工程で発生した脱硫スラグを対象に,Ar-O2雰囲気,1173~1373 Kで実験を行い,酸化処理によってスラグ中SをSO2として除去できる可能性を示した。しかし,スラグからのS除去に関する研究知見は少なく,溶銑脱硫スラグを対象とした実験結果は報告されていない。

そこで,本研究では溶銑脱硫スラグからのS除去に及ぼす処理温度,酸素分圧の影響を基礎的に調査し,更にS除去後スラグの溶銑脱硫処理への再利用実験を実施したので報告する。

2. 実験方法

2・1 スラグからのS除去実験

スラグからのS除去実験に用いた装置の概略図をFig.1に示す。所定温度(1373~1673 K)に制御した加熱炉内に,Air或いはCO/CO2混合ガスを2 NL/min.流して炉内酸素分圧を調整後,粒度0.25×10−3 m以下に粉砕調整したスラグ試料3×10−3 kgを入れたアルミナボート(95 mass%Al2O3-3 mass%SiO2,幅17 mm,高さ12 mm,長さ80 mm)を炉内に装入し60分保持した。Kobayashiら8,9)はCaF2含有脱硫スラグを60分加熱処理することで硫黄の除去機構を検討した。本研究においても,スラグからのS除去率を確実に評価するために,Kobayashiらの実験条件にならい加熱時間を60分とした。炉内温度は熱電対を用いて測定しつつ一定に制御し,CO/CO2比は0.003,0.03,0.3とした。試料には,CaS(純度99.99%)およびCaSO4(純度98%)試薬および,溶銑脱硫スラグ(S濃度=2~3 mass%)を用いた。60分保持後,スラグ試料を取り出して急冷し化学分析に供した。実験後のアルミナボート内スラグを目視観察したところ,本実験のいずれの条件においてもスラグはほぼ固体状態であった。実験前後のスラグ中S濃度から(1)式によりS除去率を評価した。   

S(%)=(mass%S)(mass%S)(mass%S)×100(1)

Fig. 1.

 Experimental apparatus in slag desulfurization experiments. (Online version in color.)

2・2 S除去後スラグの再利用実験

S除去後スラグの溶銑脱硫処理への再利用実験に用いた装置の概略図をFig.2に,実験条件をTable 1に示す。高周波誘導加熱炉内はマグネシアスタンプにて施工し,浴直径0.25 m,浴深0.20 mとした。高周波誘導加熱炉内で溶銑70 kgを溶解し,[mass%C]=4.5%,[mass%S]=0.028%の成分に調整した。成分調整後,黒鉛製インペラーを浸漬しモーターにより回転駆動させた。インペラー浸漬深さは,溶銑の静止湯面からインペラー上面までの距離を0.1 mとした。回転数は電圧により制御し,回転数計測器で回転数を調整し700 rpmとした。回転数は次の(2)~(7)式の機械撹拌による撹拌動力10)が,実機相当となるよう設定した。   

P=NPρn3d5(2)
  
NP=aRe+B(103+1.2Re0.66103+3.2Re0.66)p×(ZD)(0.35+2b/D)(3)
  
a=14+(2b/D)×{670(d/D0.6)2+185}(4)
  
B=10{1.34(2b/D0.5)21.14(d/D)}(5)
  
p=1.1+4(2b/D)2.5(d/D0.5)27(2b/D)4(6)
  
Re=ρnd2/μ(7)

Fig. 2.

 Experimental apparatus in hot metal desulfurization experiments. (Online version in color.)

Table 1. Experimental conditions of hot metal desulfurization experiments.
No.H-1H-2
MetalWeightkg7070
[mass%C]mass%4.54.5
[mass%S]mass%0.0280.028
TemperatureK15731573
FluxVirgin fluxkg/t-metal5.1
Desulfurization slag after slag desulfurizationkg/t-metal7.5
Weight of CaOkg/t-metal5.05.0
ImpellerRotation speedrpm700700
Immersion depthm0.10.1
Experimental timesec.900900

ここで,P:撹拌動力(W),NP:動力数(−),ρ:液相の密度(kg/m3),n:回転数(1/s),d:インペラー直径(m),Re:レイノルズ数(−),a, B, p:比例定数(−),D:容器直径(m),Z:浴深(m),b:インペラー高さ(m),μ:液相の粘度(Pa・s)である。

所定の回転数になった時点で,粒度0.25×10−3 m以下に調整した脱硫用フラックスを上方より添加し,所定時間間隔毎にメタルサンプリングを行い脱硫挙動を調査した。水準H-1では,溶銑脱硫スラグに対してS除去処理を施したスラグを脱硫フラックスとして用いた。水準H-2では,新規のCaO系フラックスを用いた。両水準ともCaO原単位が5.0 kg/t-metalとなるよう調整した。なお,実験中の溶銑温度は1573±10 Kの範囲で調整した。脱硫フラックス添加から900秒後に回転を停止し,インペラーを引き上げて実験を終了した。

3. 実験結果

3・1 CaS試薬およびCaSO4試薬からのS除去実験結果

溶銑脱硫スラグに対してX線回折分析を行い,S化合物の同定を行った結果をFig.3に示す。溶銑脱硫スラグ中のS化合物としてCaSとCaSO4が混在することが分かった。スラグ中CaSとCaSO4は(8)式の関係に従い,酸素分圧に応じてその存在割合が変化し,酸素分圧が高いほどCaSO4が多くなると考えられる。脱硫スラグからのS除去のためには,スラグ中硫黄化合物の形態を把握したうえで,適正な酸素分圧に制御する必要があると考えられる。   

CaS+2O2(g)=CaSO4(8)

Fig. 3.

 X-ray diffraction pattern of hot metal desulfurization slag. (Online version in color.)

溶銑脱硫スラグからのS除去率を向上させるためには,CaSおよびCaSO4のそれぞれの化合物からのS除去条件を明確にする必要がある。そこで,まずCaSおよびCaSO4試薬を用いて,それぞれの試薬からのS除去に必要な酸素分圧を調査した。1573 K,60分保持における酸素分圧と,試薬からのS除去率の関係を調査した実験結果をFig.4に示す。なお,酸素分圧は各実験のCO/CO2比と温度より,次の(9),(10)式の熱力学データ11)を用いて算出した。   

O2(g)+2CO(g)=2CO2(g)(9)
  
ΔG9o=568020+175.540T[J](10)

Fig. 4.

 Removal ratio of sulfur from CaS and CaSO4 reagents. (Online version in color.)

ここで,T:温度(K)である。温度一定の条件においては,CaSは酸素分圧が高いほど試薬からのS除去率が高くなった。一方,CaSO4は酸素分圧が低いほど試薬からのS除去率が向上することが分かった。つまり,CaSおよびCaSO4からのS除去は次の(11),(12)式に従ってSO2ガスとして気化するものと推定される。   

(CaS)+32O2=(CaO)+SO2(11)
  
(CaSO4)=(CaO)+SO2+12O2(12)

したがって,溶銑脱硫スラグからのS除去率向上のためには,CaSおよびCaSO4化合物双方からのS除去率が高くなる条件を見出す必要があると考えられる。

3・2 溶銑脱硫スラグからのS除去実験結果

温度1373~1673 K,60分保持における酸素分圧と,溶銑脱硫スラグからのS除去率の関係を調査した実験結果をFig.5に示す。温度1373 Kの条件においては,溶銑脱硫スラグからのS除去率は70%以下に留まった。温度1473~1673 Kの条件においては,酸素分圧10−3~10−8 atmの範囲において90%以上のS除去率が得られることが分かった。また,大気雰囲気中での溶銑脱硫スラグからのS除去においては,温度が高くなるほど,S除去率の向上は認められたものの,1573 Kおよび1623 Kにおいても除去率は89%にとどまった。本研究の溶銑脱硫スラグ中のS化合物が全てCaSであればスラグ中のSはほぼ全てがSO2ガスとして除去されると考えられるため,残りの11%程度がCaSO4化合物であったと推定される。

Fig. 5.

 Removal ratio of sulfur from hot metal desulfurization slag at various temperatures and oxygen potentials. (Online version in color.)

つまり,CaSとCaSO4化合物が混在する溶銑脱硫スラグからのS除去においては,温度1473~1673 K,酸素分圧10−3~10−8 atmの範囲に制御してS除去処理を行うことで高いS除去率が得られることが分かった。

3・3 S除去後スラグを再利用した溶銑脱硫実験結果

前節において溶銑脱硫スラグからのS除去に必要な条件を見出せたことから,続いてS除去処理後の脱硫スラグを再利用した溶銑脱硫実験をホットモデルにより行った。S濃度の低位な溶銑脱硫スラグを再利用することで,溶銑脱硫処理における新規の石灰系フラックスの削減や,製鉄所内で発生する溶銑脱硫スラグ量を削減できる可能性が期待される。

S除去溶銑脱硫スラグの準備にあたり,溶銑脱硫スラグからのS除去は1573 K,酸素分圧10−4.6 atmの条件で実施した。ホットモデル実験における溶銑中の硫黄濃度の時間変化をFig.6に示す。S除去後スラグを利用した場合(水準H-1)において,240秒経過までの[S]濃度の低下速度がやや低位であったものの,900秒経過後の到達[S]濃度は新規フラックスの場合(水準H-2)とほぼ同等であった。両水準はTable 1に示したように,フラックス中のCaO量が一定になるよう調整している。つまり,溶銑脱硫スラグに対して適切な温度・酸素分圧の条件でS除去処理を施した溶銑脱硫スラグは,溶銑脱硫処理における脱硫フラックスとして再利用できると考えられる。

Fig. 6.

 Change in [S] content in hot metal desulfurization experiments. (Online version in color.)

4. 考察

4・1 S除去に及ぼす温度の影響

溶銑脱硫スラグからのS除去率の温度依存性をFig.7に示す。1573 K以上では,CO/CO2比の影響は小さく,いずれもS除去率は78%を超える比較的高い値であることが分かる。一方,1473 K以下で急激な温度依存性を示しており,またCO/CO2比の影響も大きくなっている。Kobayashiら9)はスラグからの硫黄の除去率と温度の関係を調査しており,処理温度が低い場合には,(8)式の反応が進行してCaSO4が生成しスラグ中に残留するため,硫黄の除去率が低位となることを報告している。本研究においても,Airを用いた条件においてはKobayashiらの報告と同様に(8)式の反応が進行している可能性が考えられる。一方,1373~1473 Kにおいては,CO/CO2=0.3の低酸素分圧の条件が最も硫黄除去率が低位となっており,この点は(8)式の反応では説明できず,処理後スラグ中の硫黄化合物の形態調査等の詳細解析が課題であるものの,溶銑脱硫スラグからのS除去による再利用プロセス構築を考える場合,その処理コスト・消費エネルギーを低減するためには低温での処理が好ましいと考えられる。すなわち,酸素分圧を適正な値に制御し,且つ低温処理を行うことで競争力の高いスラグ再処理プロセスを実現できると考えられる。

Fig. 7.

 Effect of temperature on removal ratio of sulfur from desulfurization slag. (Online version in color.)

4・2 S除去条件の熱力学的検討

3・1節の試薬を用いた実験で明らかとなったように,CaSとCaSO4からのS除去率と酸素分圧は逆の相関をもっており,CaSおよびCaSO4からのS除去は(11),(12)式に従ってSO2ガスとして気化するものと推定された。

一方,Fig.5の溶銑脱硫スラグを用いた実験結果からは1473 K以上で酸素分圧が10−3~10−8 atmの範囲において高いS除去率を示した。Fig.3で示したように溶銑脱硫スラグはCaSとCaSO4が混在しているが,このような温度・酸素分圧の範囲においては双方のS化合物からS除去が期待できる可能性がある。S除去挙動を定量的に検証するために,FACT Database/FactsageTM6.1ソフトウェア12,13)を用いてS安定相の熱力学的計算を行った。計算結果をFig.8に示す。Fig.8中には溶銑脱硫スラグからのS除去実験結果のプロットも併記した。白抜きプロットは溶銑脱硫スラグからの脱S率が90%未満であり,塗潰しプロットは脱S率が90%以上の結果を示している。計算結果からは硫黄酸化物であるSOxが安定となる温度,酸素分圧の領域(Fig.8中のハッチング部)が存在することが分かる。溶銑脱硫スラグからの脱S率が90%以上であった条件も,ほぼこの領域に合致していた。また,1773 K,PSO2=2%におけるCaO-Al2O3-SiO2スラグ中のS溶解度は,酸素分圧が10−4~10−6 atmの範囲で極小となることが報告14)されている。これは,本実験結果およびFig.8の熱力学計算結果ともおよそ一致する傾向にある。すなわち,溶銑脱硫スラグからのS除去に最適な処理温度および酸素分圧は熱力学的観点から定量的に説明できることが実証された。

Fig. 8.

 Thermodynamic calculations of stable sulfur phase. (Online version in color.)

ここで,溶銑脱硫スラグとガス間の反応について考える。本研究では,所定温度・雰囲気での保持時間を60分一定としたため,溶銑脱硫スラグからのS除去に関して速度論的な考察を行うことはできないものの,Fig.8に示した熱力学平衡で概ね実験結果が説明できることから,比較的S除去速度は大きいものと推察される。石灰石へのSO2吸収性能を調査した研究15)においては,多孔質な石灰石ほどSO2吸収速度が大きいことが示されている。今回の研究対象である溶銑脱硫スラグも石灰をベースとした溶銑脱硫処理によって発生したものであり,比較的多孔質な形態であることがNakaiら2)によって示されている。本研究における溶銑脱硫スラグからのS除去処理後のスラグEPMA分析結果の代表例をFig.9に示す。S除去処理後のスラグも多孔質な性状であり,Sは比較的均一に除去されている様子が観察される。つまり,溶銑脱硫スラグが多孔質な性状であることも,ガスとの接触界面積増大の観点から,S除去反応を優位に進めることができる重要な特性であると考えられる。溶銑脱硫スラグからのS除去速度や必要な処理時間の考察については今後の課題である。

Fig. 9.

 EPMA mapping image of slag after sulfur removal treatment.

4・3 S除去後スラグの脱硫能

Fig.6で示したようにS除去後の溶銑脱硫スラグを溶銑脱硫に再利用した場合でも,900秒後の到達硫黄濃度はほぼ同等であった。しかし,フラックス添加後240秒程度までの脱硫挙動について,溶銑脱硫スラグを再利用した水準でやや脱硫速度が低位な傾向にある。

溶銑脱硫反応が溶鉄側境膜内物質移動律速であり,(13)式の脱硫反応速度式16)に従うと仮定し,メタルサンプル採取時間毎の見かけの脱硫反応速度定数K(1/min)を評価した結果をFig.10に示す。   

d[mass%S]dt=K[mass%S](13)

Fig. 10.

 Behavior of desulfurization rate constant K.

フラックス添加後240秒程度までの脱硫反応速度定数Kは溶銑脱硫スラグを再利用した水準H-1で低位であることが分かる。本研究における溶銑脱硫実験後のスラグ分析値をTable 2に示す。水準H-1ではスラグ中SiO2濃度が高いことが分かる。再利用スラグを用いた場合,SiO2がCaOと反応して化合物を形成するため,脱硫に有効なCaO分が減少し,脱硫反応速度定数が低下する可能性が考えられる。

Table 2. Slag composition after hot metal desulfurization experiments.
CaO mass%SiO2 mass%Al2O3 mass%MgO mass%T.Fe mass%
H-1 (Desulfurization slag)63.2114.12.353.0211.3
H-2 (Virgin flux)71.457.431.332.3310.6

Nakaiら17)はリサイクルスラグの利用効率について実験を行い,リサイクルスラグ中のSiO2濃度の影響について考察している。本研究はNakaiらとほぼ同等の条件でホットモデル実験を実施したため,脱硫反応速度定数Kについて直接比較を行った。脱硫実験終了後のスラグ中SiO2濃度と脱硫反応速度定数Kの関係をFig.11に示す。図中の線分は,スラグ中のCaO分が図中に示したSiO2との化合物を形成することにより,脱硫反応に寄与する有効なCaO分が減少したとして計算された脱硫反応速度定数Kである。なお,ここでは,脱硫反応速度定数は有効CaO量に比例すると仮定されている。

Fig. 11.

 Effect of (SiO2) content in slag on desulfurization rate constant K.

本研究の結果はNakaiらの考察とほぼ同様に,SiO2の増加に伴い脱硫反応速度定数が低下する傾向を示している。すなわち,S除去後の溶銑脱硫スラグを再利用する際には,スラグ中SiO2の増加分を考慮して添加量を決定する必要があることが分かった。但し,Nakaiらの結果が主に3CaO・SiO2化合物の形成から推定されるラインに沿っているのに対し,本実験は3CaO・2SiO2化合物のラインに沿っている。この差の要因の1つとして,Nakaiらの実験では,リサイクルスラグの粒度を−1 mm~+10 mmとしているのに対し,本研究では0.25 mm以下に調整したものを用いたため,比較的有効なCaO分が見かけ上増加した可能性も考えられるが,定量的な解析は今後の課題である。

5. 結言

溶銑脱硫スラグからのS除去および,溶銑脱硫処理への再利用について,小型ホットモデル実験により調査し,以下の結論を得た。

(1)CaS試薬,CaSO4試薬からのS除去実験の結果,CaSは高酸素分圧ほど,CaSO4は低酸素分圧ほど,試薬からのS除去率が向上した。

(2)溶銑脱硫スラグからのS除去実験の結果,温度1473~1673 K,酸素分圧10−3~10−8 atmの範囲においてスラグからのS除去率が90%以上であった。

(3)熱力学計算によりS安定相を検討した結果,温度1473~1673 K,酸素分圧10−3~10−8 atmの範囲においてSOxとCaOが安定共存する領域が存在することが分かった。溶銑脱硫スラグからのS除去に必要な温度と酸素分圧は熱力学計算から決定できる。

(4)S除去後のスラグを用いた溶銑脱硫実験の結果,同一CaO原単位において,900秒経過後の到達[S]濃度は新規脱硫フラックスの場合とほぼ同等であった。S除去後スラグは溶銑脱硫処理における石灰源として再利用できると考えられる。

文献
 
© 2016 The Iron and Steel Institute of Japan

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