Tetsu-to-Hagane
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Dynamic Material Flow Analysis of Stainless Steels in Japan
Yasunari MatsunoMasashi Kimura
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2016 Volume 102 Issue 11 Pages 653-659

Details
Synopsis:

Dynamic material flow analysis of stainless steels in Japan during 1956-2014 has been conducted. End uses of stainless steels were divided into 9 categories, i.e. construction, industrial machinery, electrical and electronic equipment, household and commercial appliance, passenger vehicle, truck and bus, other transportation, container, and other products. Stainless steels were divided into ferritic stainless steels and austenitic stainless steels. It was found that in-use stocks of austenitic stainless steels for construction, industrial machinery, electrical and electronic equipment, household and commercial appliance, truck and bus, container, and other products have reached constant levels. On the other hand, only those for truck and bus, container have been reached constant levels for ferritic stainless steels. It was estimated that the maximum in-use stock per capita for ferritic, austenitic and the total stainless steels was 59 kg/cap., 106 kg/cap., 163 kg/cap., respectively.

1. 緒言

1・1 背景

ステンレス鋼は,炭素鋼,アルミニウムに次いで消費量の多い素材である。世界のステンレス鋼生産量は,2014年では2001年の2倍ほどに増大し,全生産量の半分以上に当たる21,692 ktが中国で生産されている1)。また,世界のNiの需要の61%をステンレス鋼が占めており2),Niは可採年数の少ないレアメタルのひとつであることからも,今後は使用済み製品からの分別回収など循環利用の促進が必要である。そのためには,社会中のステンレス鋼のストック量を把握するとともに,将来の需要と使用済み製品に含有される排出量を推計する必要がある。

マテリアルフロー分析(Material Flow Analysis,MFA)は,社会における素材のフローとストックを把握するのに有用な手法であり,近年,各種素材に対して適応されている。MFAは,静的(Static)MFAと動的(Dynamic)MFAの二つに分けられる。前者は,ある地域の例えば1年間などの限られた期間内における素材のフローを解析するものであり,後者は,素材のフローを過去各年に遡り,時系列で解析する。素材の社会中に蓄積されている量を把握し,将来のリサイクルポテンシャルを把握するためには動的MFAを実施する必要があり,2000以後,世界において盛んに実施されてきている3)

ステンレス鋼のMFAに関して,かつて著者らは日本国内におけるステンレス鋼の動的MFAを実施した。しかしながら,それは2006年までの動的MFAであり,その時点では,日本国内におけるステンレス鋼の消費量およびストック量ともまだ単調増加の一途辿り,飽和傾向は見えていなかった4,5)

一方,Barbaraらは,世界のステンレス鋼のマテリアルフロー分析を実施しているが,これは動的MFAではなく,2000年および2005年時点でのフローの解析にとどまっている。Barbaraらの報告では,中国におけるストックへのフローが急増していること,中国における使用済み製品に含有されるステンレス鋼のフローは2015から2020年ごろから始まることを予想している6)。動的MFAを実施する主な目的の一つに,将来の世界の各種素材のストック量および需要量を推計することにある。先進国における対象とする素材の一人当たりのストック量が最大値に達している(飽和している)場合,その値を用いて,今後,途上国が経済発展および人口増大した場合に,どれだけのストック量および需要量となるかを推計することができる3,7)。それゆえ,各種素材の一人当たりの飽和量を推計することは重要である。

本論文においては,日本におけるステンレス鋼のCr系およびNi系に分けて動的MFAを2014年まで実施したところ,多くの用途に関して蓄積量の飽和傾向が見られたので報告する。

2. 手法

ステンレス鋼は,性質,製法,用途などから,大きくCr系ステンレス鋼とNi系ステンレス鋼に分類される。さらに,Cr系ステンレス鋼はCrの含有率の違いにより,13Cr系ステンレス鋼,18Cr系ステンレス鋼と分類される。Ni系ステンレス鋼でも同様に,Ni,Cr,Moの含有率の違いにより,Ni-Cr系ステンレス鋼とNi-Cr-Mo系ステンレス鋼に分類される。さらに細かく分類可能であるが,本研究においてはCr系ステンレス鋼とNi系ステンレス鋼に区別して推計を行った。

以下,日本に関するステンレス鋼の動的MFAの実施方法を説明する。Fig.1にステンレス鋼の生産・出荷から国内最終投入量に至るまでのフローを示す。各フローのデータ収集および推計方法について説明する。

Fig. 1.

 Diagram of flows for stainless steels. (Online version in color.)

2・1 用途別・合金別受注量

既存研究5)に倣い,用途区分を,建設,産業機械,電気機械,家庭用業務用機械,自動車,その他輸送,容器,その他の8つの用途に統合した。なお,受注量は全て同じ統計8)からデータを得ているものの,年度により統計区分や記載方法が異なる。それらは,既報5)に示すとおりに分類化した。用途別・合金別受注量データの取り扱いに関して,本研究の既報5)との相違点は,以下のとおりである。1)用途別受注量のうち次工程用に関しては,1979年度以後は,一部もしくは全ての用途に関して(用途別)需要量が示されていたのでそれらのデータを用いた。そして非報告者用需要量および輸入量を含む最終用途不明分に関しては,8用途の受注量(既知分)に基づいて按分した。2)容器用に関しては2013年度および2014年度においてCr系,Ni系の区別がないため,2012年度の鋼材受注量における容器用の合金種比率を用いて按分した。3)「その他」用途に関しては1979年度以後Cr系,Ni系の区別がないため,他の7用途のCr系およびNi系の合金別受注量に基づいて按分した。

なお,統計8)におけるデータは年度ベースであるため,各年につき前年度投入量×1/4と当該年度投入量×3/4を合算することにより,暦年ベースの用途別合金別投入量を得た。さらに,2・3にて詳述するように,自動車に関しては,乗用車とバス・トラック毎に,間接輸出入量に関する経年データが推計できたので,最終製品供給量(Inputs to end-uses)を乗用車とトラック・バスの用途に按分した。

2・2 加工スクラップ発生量の推計

製品加工の際には加工スクラップが発生し,これを除くことでステンレス鋼の最終製品への供給量が求められる。既報5)の用途別加工スクラップ発生率を用いて,用途別加工スクラップ発生量を推計した。

2・3 間接輸出入量の推計

自動車を除く7用途(建設,産業機械,電気機械,家庭業務,他輸送,容器,その他)に関しては,以下のようにして間接輸出入量を推計した。普通鋼とステンレス鋼の使用用途は近いことから,普通鋼材の間接輸出入率を既報5)より得て,普通鋼材の間接輸出入率を,ステンレス鋼にも適用した。なお,2000年度以後に関するデータは得られなかったので,それ以後は2000年の用途別間接輸出入率と同じとした。

自動車用途については,まず,最終製品供給量を乗用車とトラック・バスの用途に分配し,トラック・バスは乗用車の2倍のステンレス鋼使用の原単位を有するものとした9)。このとき,以下の式のように配分できる。   

=×(+×2)(1)
  
=××2(+×2)(2)

また,自動車の間接輸出入率については自動車の新規登録台数(=生産台数−輸出台数+輸入台数)を用いて,以下のようにあらわされる。   

=(3)

式(1)(2)(3)の生産台数および新規登録台数については文献10)より得た。なお,1956年から1959年,1961年から1964年について生産台数・新規登録台数が得られなかったため,それぞれの年間について,1955年と1960年の生産台数・新規登録台数より得た間接輸出入率を使用した。

以上のとおり各フローのデータを得て,国内投入量(Inputs to Society)を推計した。

2・4 製品の寿命分布

用途別寿命分布については全てWEIBULL分布関数を用いた。そして,平均寿命と形状係数の設定については既報5)に倣いつつ,以下の点を修正した。建設用に関しては,文献4,11)より,平均寿命を30年とした。家庭業務用は流し台,厨房器具に最も多く使用されていることから,建設用と同じく30年と設定した。なお,容器用途に関しては,コンテナ,ドラム缶,ビール樽,ボンベ,牛乳輸送缶などが含まれている。コンテナは長期間使用されるゆえ,既報5)では容器の平均使用年数を30年としていた。しかしながら,その他の用途に関しては相対的に短期間使用のものが多いので,本報では減価償却資産の耐用年数12)より3年とした4)。統計データの用途区分の細分化の限界により,解析結果に不確実性が生じていることに留意する必要がある。

以上をTable 1にまとめて示す。

Table 1. Average lifetime and shape parameter for Weibull distribution.
End usesAverage lifetime (Year)Shape parameters of Weibull distribution functions
Buildings and construction302.7
Industrial machinery302.7
Electrical and electronic equipment122.7
Household and commercial appliance302.7
AutomobilePassenger vehicle8.8-11.94.4-8.0
Truck and bus8.5-139.4-22
Other transportation402.7
Container32.9
Other products152.7

2・5 用途別一人当たり飽和ストック量の推計

以上の述べてきた手法に基づき,用途ごとにステンレス鋼材の日本国内蓄積量の推計を行った。人口については統計13)より引用した。推計した各用途蓄積量を,各年の日本の人口を用いて除することにより,一人当たりの蓄積量を求めた。この一人当たり蓄積量の最大値を一人当たりの飽和ストック量とした。

3. 結果と考察

推計した用途別・合金別の国内投入量をFigs.2-4に示す。国内投入量(合計)に関しては,かつては建設用への投入が大きく,最大で352 kt(1997年)であったが,近年は減少傾向にあり,2014年では概ね200 ktの投入となっている。近年で投入量の増大が著しいのは乗用車であり,特にCr系ステンレス鋼が顕著であり,1973年の5 ktから増加し続け,2014年には170 ktとなっている(Fig.3)。2014年における乗用車用途への投入量(合計)は213 ktであり,全用途の中で最も大きくなっている。Ni系ステンレス鋼に関しては,建設,産業機械の投入割合が大きく,2014年それぞれ151 kt,97 ktとなっている(Fig.4)。

Fig. 2.

 Inputs of stainless steel in Japan (Total). (Online version in color.)

Fig. 3.

 Inputs of stainless steel in Japan (Ferritic). (Online version in color.)

Fig. 4.

 Inputs of stainless steel in Japan (Austenitic). (Online version in color.)

ステンレス鋼の用途別・合金別の蓄積量をFigs.5-7に示す。2014年の蓄積量に関しては,合計で20,200 kt,Cr系で7,400 kt,Ni系で12,800 ktである。Cr系ステンレス鋼は近年においても蓄積量が増大しているが,Ni系に関しては2007年の13,000 ktをピークに減少している。それらが相殺し,ステンレス鋼全体での蓄積量の,直近5年間での増大率の平均は0.6%/year程度にとどまっている。2014年において,ステンレス鋼の合計で最も蓄積量が大きいのが建設用途で6,940 kt,続いて産業機械が3,870 kt,家庭業務が3,220 ktとなっている。

Fig. 5.

 In-use stock of stainless steel in Japan (Total). (Online version in color.)

Fig. 6.

 In-use stock of stainless steel in Japan (Ferritic). (Online version in color.)

Fig. 7.

 In-use stock of stainless steel in Japan (Austenitic). (Online version in color.)

Cr系ステンレス鋼に関しては2014年において,家庭業務用の蓄積量が最も大きく1,800 ktであり,続いて乗用車1,570 kt,建設1,290 ktとなっている。乗用車は,近年の投入量の増大に伴い蓄積量も増大しているが,トラック・バスおよび容器の用途に関しては,それぞれ2007年,2012年に蓄積量の最大値をとりそれ以後は減少している。建設,電気機械,家庭業務,他輸送用途の蓄積量の増大は微量であり,直近5年間での増大率の平均はそれぞれ,1.5%/year,0.9%/year,0.2%/year,2.3%/year程度にとどまっている。

Ni系ステンレス鋼に関しては,長年投入量の占める割合の大きい建設と産業機械の蓄積量が大きく,2014年においてそれぞれ5,650 kt,3,290 ktとなっている。産業機械,電気機械,家庭業務,トラック・バス,容器,その他用途に関しては,それぞれ2013年,2011年,2006年,2003年,2013年,2004年に蓄積量の最大値をとりそれ以後は減少している。建設用途は直近5年間での増大率の平均は0.07%/yearであり,概ね飽和しているといえる。一方,乗用車およびその他輸送用途では蓄積量がいまだ増大の傾向にある。

一人当たりの蓄積量の最大値および該当年をTable 2に示す。一人当たりのステンレス鋼の最大蓄積量は,Cr系が59 kg/人,Ni系が106 kg/人,合計で163 kg/人となった。蓄積量が最も大きいのが,建設用途であり55 kg/人である。続いて,産業機械が31 kg/人,家庭業務が26 kg/人となっている。

Table 2. Maximum in-use stock per capita of stainless steels in each end-use.
End-useFerriticAusteniticTotal
Amount (kg/cap.)YearAmount (kg/cap.)YearAmount (kg/cap.)Year
Buildings and construction102014452014552014
Industrial machinery4.62014262014312014
Electrical and electronic equipment3.620141.920115.32012
Household and commercial appliance142014122006262007
AutomobilePassenger vehicle1220143.32014162014
Truck and bus6.620073.420039.52007
Other transportation1.020146.120147.02014
Container0.120120.619950.71995
Other products5.920138.02004132006

ステンレス鋼の用途別・合金別の老廃スクラップ排出量の推計結果をFigs.8-10に示す。老廃スクラップ排出量に関しては,Cr系およびNi系とも単調増大の傾向であり,2014年では合計783 kt,Cr系で321 kt,Ni系で462 ktである。2014年における加工スクラップの排出量を推計したところ,それぞれ,244 kt,139 kt,105 ktであり,老廃スクラップの排出量が,加工スクラップを大きく上回っている。

Fig. 8.

 Obsolete scrap generation of stainless steel in Japan (Total). (Online version in color.)

Fig. 9.

 Obsolete scrap generation of stainless steel in Japan (Ferritic). (Online version in color.)

Fig. 10.

 Obsolete scrap generation of stainless steel in Japan (Austenitic). (Online version in color.)

4. 結論

1956年から2014年における,日本のステンレス鋼の用途別・合金別動的マテリアルフロー分析を行った。Ni系ステンレス鋼に関しては,産業機械,電気機械,家庭業務,トラック・バス,容器,その他の用途に関して,蓄積量が過去に最大値をとりそれ以後は減少している。一方,Cr系ステンレス鋼は,トラック・バスおよび容器用途のみが過去に最大値をとりそれ以後は減少している。但し,建設,電気機械,家庭業務,他輸送用途の蓄積量の増大は微量であり,概ね飽和傾向を示している。一人当たりのステンレス鋼の最大蓄積量は,Cr系が59 kg/人,Ni系が106 kg/人,合計で163 kg/人となった。

謝辞

本研究を遂行するに当たり,JSPS科研費25241027の助成を受けた。また,ステンレス協会の加藤明彦氏にはデータ提供の協力をいただいた。謝意を表する。

文献
 
© 2016 The Iron and Steel Institute of Japan

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https://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/4.0/
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