Tetsu-to-Hagane
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Effect of Carbon Dissolution Reaction on Wetting Behavior between Liquid Iron and Carbonaceous Material
Ko-Ichiro OhnoTakahiro MiyakeShintaro YanoCao Son NguyenTakayuki MaedaKazuya Kunitomo
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2016 Volume 102 Issue 12 Pages 684-690

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Synopsis:

A low carbon operation is an unfavorable situation for liquid permeability around cohesive zone, because liquid volume will increase against solid coke in there. In order to keep a healthy operation with this technique, information of wetting behavior between liquid iron and coke should be correctly understood. However, there is not enough information about wetting behavior between them, because of many difficulties about wettability measurement from an active reaction between iron and carbonaceous materials. In this study, a sessile drop method with molten sample injection system was applied to measurement of wetting behavior between liquid iron and carbonaceous material at 1673 K for excluding reaction between samples before starting measurement. Carbonaceous material’s substrates were made from mixture powder of graphite and alumina by hot press at 1873K. From the results, following knowledge was revealed. Molten iron samples un-saturated with carbon showed bigger values of contact angles, 110°~120°, at initial stage, than apparent constant values of them, 85°~100°, at latter stage. It indicated a reaction between iron and carbonaceous materials had obvious effect on wetting behavior between them due to decrease an interfacial energy during the reaction. Mixed alumina powder in the substrate prevented to wetting behavior of iron sample on carbonaceous materials, and they changed their apparent constant contact angles from 115° to 130°. The alumina powder had effects on not only wetting behavior but also reaction between iron and carbonaceous materials.

1. 緒言

CO2排出量削減に対する大きな社会的要求に基づき,製鉄プロセスにおいては低炭素操業が主流となりつつある。特に高炉操業を代表とする一般的な製銑製鉄プロセスにおける低炭素化は,コークスを代表とする炭材使用量の削減と同義である。この変化はコークス層の薄層化を引き起こし,液相体積がコークス層に対して相対的に増大するため,炉内の通気および通液性に大きな変化をもたらす。これは高炉の安定操業には好ましくない状況である。特に,融着帯近傍の通液性は高炉内全体の通気の安定性に大きな影響を与えている。すなわち,融着帯近傍のコークス充填層における液相の振る舞いに関して正しく理解することは重要である1)

これまで多くの研究者が,融着帯近傍の通液性について議論を行ってきた2,3,4,5,6,7,8,9,10)。それらの報告において,通液性はコークス層中の空隙に保持される液ホールドアップ量によって評価されている。Ohgusuら4)は,次に示す静的ホールドアップ量hs[−]の推算式を提案している。   

h S = 9.96 { ρ l g D 2 | σ cos θ | } 1.38 (1)

ここで,ρlは液相の密度[kg・m−3],gは重力加速度[m・s−1],Dは系の代表長さ[m],σは液相の表面張力[N],θは液相の接触角[°]を意味する。

この式から,静的ホールドアップ量は融体物性に強く依存することがわかる。すなわち,融体物性に関する知見は,融着帯近傍の液相挙動を理解するために,最も重要な情報である。式(1)には,3つの融体物性値が含まれている。密度や表面張力は液相自体の物性値であるが,濡れ性は液相と他の相との相互作用で決定される。この相互作用のため,濡れ性は他の物性値に比べて測定が困難で,十分な報告値が存在しない。その測定を困難にしている最も大きな理由の一つに,液相と炭材間の活発な反応が影響している。この反応は液相と炭材間の界面エネルギーを減少させると考えられている11)

濡れ性は,Youngの式で定義される接触角θで評価される。   

σ g s = σ l s + σ g l cos θ (2)

ここでσlsσglσgsはそれぞれ,固液,気液,固気の界面エネルギーを意味する。この式(2)から,固液の界面エネルギーσlsの減少は接触角θに直接影響し,その界面反応は接触角測定に明らかな影響を及ぼすことがわかる。

融着帯近傍には,溶鉄と溶融スラグが液相として存在する。両液相とも,溶鉄への炭素溶解,溶融スラグの溶融還元などで,炭材と反応する可能性を持つ。溶融スラグと炭材の濡れ性も重要であるが,本研究においては溶鉄と炭材間の濡れ性に及ぼす炭素溶解反応の影響について注目することとした。これは従来の濡れ性評価法を用いて測定されていたために,既存の溶鉄の濡れ性に関する報告値が,正しく評価されていない可能性が示唆されているためである。最も一般的な濡れ性測定法は静滴法である。本測定法において,測定対象である試料液滴は一般的に,測定温度へ昇温する過程において,基板上で溶解されることによって得られる。この手法では,測定開始以前の昇温過程において基板と試料が反応する影響を排除できないため,試料液滴と基板が反応する実験系においては大きな問題を含むことになる。本研究では,この問題を除外するため溶融試料滴下装置を備えた静滴法を用いて,溶鉄と炭材間の濡れ性の評価を行った。

同時に,炭素溶解反応の反応界面における溶鉄の濡れ性が反応速度に及ぼす影響を調査するため,溶鉄浴への炭素溶解速度測定も併せて行った。炭材中灰分は溶鉄への炭素溶解反応に明らかな影響を及ぼすことが,前報19,20)を含みこれまでに多く報告されている11,12,13,14,15,16,17,18,19,20)。灰分が共存する状態での炭素溶解挙動の知見は,石炭やコークスなどの灰分を多く含んだ実炭材と溶鉄との濡れ性を正しく理解するうえで必要不可欠である。これまでに溶鉄の濡れに対する灰分の影響について議論された報告は存在するが,それらの結果は従来型静滴法を用いている点や,実炭材由来の天然の灰分を対象としている複雑さから問題を有している可能性が示唆される21,22)

本研究では,灰分が濡れ性に及ぼす影響を単純化するため,黒鉛粉とAl2O3粉から作製した模擬コークスを使用した。本測定系における溶融試料滴下装置を備えた静滴法の有用性の評価と,溶鉄の濡れ性に及ぼす灰分の影響を明らかにすることを,本研究の目的とする。

2. 実験

反応界面における炭素溶解挙動が模擬コークスに対する溶鉄の濡れ性に及ぼす影響について調査を行うため,2種類の実験を行った。一つは溶融試料滴下装置を備えた静滴法を用いた,溶鉄と模擬コークスの接触角測定であり,もう一つは模擬コークスから溶鉄への炭素溶解速度測定である。

2・1 実験試料

本研究では溶鉄の濡れ性に及ぼす炭材中灰分の影響について注目した。溶鉄の濡れ性に及ぼす灰分の影響については,これまでに多くの報告があるが,それらの報告は実際のコークス灰や石炭灰を用いたものであった。それらは多成分系の灰組成であるから,その結果は非常に複雑な影響を含んだものであった21,22)。そして揮発成分,硫黄分,固定炭素の質などがその濡れ性に影響を与える可能性も示唆される。本研究では実験条件を単純化するために,黒鉛粉とAl2O3粉から作製した模擬コークスを用いた。Fe-C融液の表面張力に硫黄が与える影響を排除するために,人造黒鉛を炭材として使用した。石炭灰やコークス灰の主要成分はSiO2であることが知られているが,それは模擬コークス作製時に以下の反応によって黒鉛と反応する可能性がある。   

SiO 2 + 3 C = SiC + 2 CO (3)

この影響を排除するために,本研究では炭材と反応し難い材料としてAl2O3を用いた。Al2O3粉と黒鉛粉の粒径はそれぞれ3 μmと−45 μmとした。Al2O3粉は黒鉛粉に対して体積比で0 vol%,10 vol%,20 vol%,30 vol%となるように配合し良く混合した。混合粉は,それぞれの実験に用いる形状に成形するために,多目的高温炉(FVPHP-R-3,富士電波工業)を用いて,Ar雰囲気下1873 Kにおいて3.0 MPaの圧力で30分間加圧成形した。炉体は15 K/minで加熱し,炉本体電源を切ることによって冷却した。

接触角測定のための基板の形状は,一辺が20 mmの正方形で,厚みは5 mmとした。炭素溶解速度測定用試料の形状は,直径10 mm,長さ25 mmの円柱状とした。基板は表面粗さを統一するために#3000のエメリー紙で研磨をおこなった。Table 1に全ての炭材試料のアルキメデス法による気孔率の測定結果をしめした。

Table 1.  Physical properties of carbonaceous material samples.
Density (g/cm3) Void Ratio (vol%)
0% Al2O3 Substrate 1.797 20.5
Rod 1.542 31.8
10% Al2O3 Substrate 2.036 16.3
Rod 1.525 37.3
20% Al2O3 Substrate 2.243 13.8
30% Al2O3 Substrate 2.547 8.2

両実験におけるFe-C試料は高純度電解鉄と黒鉛から作製した。これらの材料は所定の配合率で混合した後1000 gずつAl2O3坩堝に装入し,Ar雰囲気下で高周波溶解炉を用いて溶解した。接触角測定におけるFe-C試料の炭素濃度は,実験温度1673 Kにおける炭素飽和溶解濃度である4.89 mass%を基準に決定され,4.90 mass%,4.31 mass%,3.56 mass%の三種類の試料が準備された。炭素溶解実験におけるFe-C試料の炭素濃度は,Table 2に示すように各実験温度において炭素溶解許容量が十分に確保できる炭素濃度に決定した。

Table 2.  Carbon concentrations of iron samples for experiments.
Experimental Temperature (K) Carbon concentration (mass%) Carbon saturating concentration (mass%)
Wettability measurement 1673 4.90 4.89
4.31
3.56
Measurement of carbon dissolution rate 1573 3.7 4.64
1623 3.5 4.77
1673 3.0 4.89

2・2 実験方法

接触角測定において,本研究では溶融試料滴下装置を備えた静滴法を用いた。その装置の概要をFig.1に示す。本装置は黒鉛の発熱体を用いた炉と溶融試料滴下装置から構成される。炉には,高温その場接触角測定を可能にするためサファイア製の窓を有する。溶融試料滴下装置はFig.1に示すようにAl2O3製漏斗とAl2O3製押し棒で構成され,それぞれ試料を基板直上保持し,漏斗から押し出すために使用される。本装置は液滴滴下距離を最小にするために基板直上10 mmの位置に設置される。加熱炉内は高純度Ar雰囲気(99.995%,O2<3 ppm)に保持し,Fe-C試料と黒鉛の発熱体を酸素から保護した。

Fig. 1.

 A schematic illustration of sessile drop method with molten Fe-C injection system.

基板試料と溶融試料滴下装置は15 K/minで1673 Kまで昇温され,その後均熱条件とするため30分間保持を行う。その後,Fe-C試料は基板上に速やかに滴下される。この滴下時点から,デジタルカメラを用いて1673 Kの基板上液滴の映像を30分間記録する。漏斗から落下した直後の液滴の振動の影響を排除するために,本測定では液滴滴下後10秒経過の時点を測定開始0 sと定義した。本測定においては,この測定開始0 s以降は液滴振動の影響はないものとした。こうして得られた画像から,Fe-C試料と基板の接触角を測定した。測定終了後,炉は炉体の電源を切ることによって冷却した。

冷却後の試料は,Fe-C試料と基板の界面を観察するために,樹脂埋めし1 μmのダイアモンドペーストを用いて研磨した。研磨後の試料は光学顕微鏡によって観察を行い,また界面近傍におけるAl2O3の分布を測定するためにEDS(SEM-EDX500,島津製)による分析を行った。

炭素溶解速度測定は,前報19)と同様にAr雰囲気下において高周波誘導加熱炉を用いて行った。Fe-C試料は100 gずつAl2O3製坩堝(高さ45 mm,内径38 mm)に装入し,炉均熱帯中央部に設置した。本測定において,Fe-C試料の表面温度を放射温度計により測定した。Fe-C試料は高周波誘導加熱に伴う電磁力によって強力に攪拌されているため,この表面温度はFe-C試料温度を代表しているものとして取り扱った。炭素棒試料は,Fe-C試料が所定の実験温度に昇温するまで坩堝の直上にて保持した。Ar雰囲気下所定の実験温度で,炭素棒は所定時間10 mmの深さで浸漬され,その後一定時間経過毎にSiO2製チューブを用いて2 gずつFe-C試料を採取した。炭素溶解速度を決定するために,採取されたFe-C試料の炭素濃度は燃焼赤外吸収法によって測定された。720 s経過した測定終了時点で,炭素棒は坩堝中Fe-C試料から引き上げられ,Ar雰囲気下で急冷された。炭素棒引き上げ時に付着していたFe-C試料と炭素棒の反応界面を観察するために,引き上げられた炭素棒は樹脂埋めし1 μmのダイアモンドペーストを用いて研磨した。

3. 実験結果

3・1 溶鉄の模擬コークスに対する接触角測定結果

Fig.2にAl2O3を含まない炭材基板と異なる炭素濃度のFe-C試料を用いた接触角の測定結果を,Fig.3に異なるAl2O3含有量の炭材基板と炭素飽和Fe-C試料を用いた接触角の測定結果を示す。これらの接触角は全て,初期の値から徐々に減少し,一定時間経過後にある一定の値を示すという,同様の傾向を示した。Fig.2からFe-C試料の炭素濃度が低いものほど接触角が小さく,Fig.3から模擬コークス基板中Al2O3含有量が多い試料ほど接触角が大きくなることがわかる。

Fig. 2.

 Effect of carbon concentration in iron sample on wettability of 0 vol% Al2O3 substrate at 1673 K.

Fig. 3.

 Effect of Al2O3 content in the simulant coke substrate on wettability of 4.9 mass% Fe-C liquid sample at 1673 K.

Fig.4に光学顕微鏡による冷却後試料の界面の観察結果を示す。この図からFe-C試料は炭素飽和濃度の試料であっても,炭材基板中に浸食していることが確認された。

Fig. 4.

 Optical micrographs of the cooled sample’s interfaces.

3・2 模擬コークスから溶鉄に対する炭素溶解速度

Fig.5に,異なる温度における10 vol% Al2O3含有模擬コークスからの炭素溶解量測定結果を示す。炭素溶解量は実験時間が経過し実験温度が高いほど多くなった。

Fig. 5.

 Carbon dissolution behavior from 10 vol% Al2O3 simulant coke rod at different temperatures.

炭素溶解速度を推定するために,前報19)と同じく以下の仮定を置いた。高周波加熱による電磁撹拌力によって,Fe-C試料が十分に強撹拌されているため,溶鉄中の物質移動は無視できるとする。これは即ち,本研究における炭素溶解速度の律速段階は,界面化学反応であることを意味する。模擬コークスの表面流れを厳密に確認できたわけではないが,実験結果と解析結果の一致から本仮定の妥当性を確認した。浸漬した模擬コークスは,溶解反応進行中も円筒形状を保持しているものとした。

模擬コークスとFe-C試料間の炭素物質移動の基礎式を(4)式に示す。   

( d m d t ) = 2 π r l k (4)

ここで,tは反応時間[s],mは模擬コークス中の炭素量[g],rは模擬コークス試料の中心から反応界面までの距離[cm],lは模擬コークス試料の鉄浴への浸漬深さ[cm],kは反応速度定数[g/cm2s]を示す。

初期条件および境界条件を次に示す。   

t = 0 ; m = m 0 , r = r 0 (5)
  
t = t ; m = m , r = r (6)

ここでm0は模擬コークス中の初期炭素量[g],r0は模擬コークス試料の初期半径[cm]を示す。

これらの式からMampelの式23)として知られる(7)式および(8)式が導出される。   

1 ( 1 α ) 1 2 m 0 π r 0 l = k t (7)
  
α = 1 m m 0 (8)

Fig.6に,1673 Kにおける(7)式の左辺の値と反応時間の関係を示す。これらの直線関係の傾きから,各実験条件における反応速度定数kが算出できる。この結果からTable 3に示すように0 vol% Al2O3含有模擬コークスの溶解速度は,10 vol% Al2O3含有模擬コークスの溶解速度よりも明らかに大きいことがわかる。

Fig. 6.

 Relationships between reaction time and left-hand values of Equation 7 at 1673 K.

Table 3.  Reaction rate constants of carbon dissolution from 0 vol% Al2O3 simulant coke and 10 vol% Al2O3 simulant coke.
k (g·cm–2·s–1)
Temperature (k) 0 vol% Al2O3 10 vol% Al2O3
1673 1.90 × 10–3 1.12 × 10–4
1623 1.07 × 10–3 6.80 × 10–5
1573 6.15 × 10–4 3.90 × 10–5

各実験温度においてFig.6のようにして得られた反応速度kの温度依存性からFig.7に示すようなアレニウスプロットを作成した。この図から活性化エネルギーEa[J]を算出し,Fig.7に併記した。その結果,両者の活性エネルギーにはほぼ差が無いことがわかった。

Fig. 7.

 Arrhenius plots of carbon dissolution reaction from simulant coke rods.

この炭素溶解反応における有効反応界面積は,単位面積当たりの黒鉛占有率で与えられると考えられる。そこで,Fig.8に示すような模擬コークス断面の画像解析を行い,黒鉛占有率を測定した。面積率の計算を行う際には,各試料につき5箇所を撮影したデータを使用し,それらの誤差は5%以内でありほぼ同様の組織を有することを確認した。本解析の結果,Table 4に示すように0 vol% Al2O3含有模擬コークスの黒鉛占有率は64%,10 vol% Al2O3含有模擬コークスの黒鉛占有率は52%となり,Table 3に示されるような10倍の反応速度差を説明するのに十分な差異とは考え難い。

Fig. 8.

 Evaluation of graphite occupancy from cross-section image analysis.

Table 4.  Area ratios of simulant coke’s components evaluated from image analysis of cross-section observation.
Graphite (Area%) Al2O3 (Area%) Pore (Area%)
0 vol% Al2O3 64.0 0 36.0
10 vol% Al2O3 51.8 20.1 28.1

Fig.9に示したように,1673 Kにおいて作製した急冷試料反応界面の観察結果から,模擬コークスの溶解による浸食形状が両者の間で大きく異なることがわかった。10 vol% Al2O3含有模擬コークスでは単純な浸食形状を示したのに対して,0 vol% Al2O3含有模擬コークスでは浸食形状が比較的複雑な形状を示していた。複雑な浸食形状を持つ反応界面ほど,炭素溶解反応においてより大きな反応界面積を持つものと考えられる。浸食形状観察結果からの反応界面積の推定を行うために,単位長さあたりの浸食長さを次の様に定義した。

Fig. 9.

 Erosion shape observations for evaluation of apparent effective reaction area ratio.

炭素溶解による仮想の浸食線Lh[μm]をFig.9のline Hの様に仮定する。Fe-C試料の界面長さLi[μm]をFig.9のline Iの様に測定する。界面においてAl2O3や空孔によってその接触が阻害されている長さLb[μm]をFig.9のline Bの様に測定する。これらの値から,みかけの有効反応面積率Aeff[−]を式(9)から算出する。   

A e f f = ( L i L b L h ) 2 (9)

Fig.10に炭素溶解速度とみかけの有効反応面積率の関係を示す。この結果は,みかけの有効反応面積率が,黒鉛占有率よりも炭素溶解速度の差を説明するのに適している可能性を示唆している。この考察から,浸食形状は炭素溶解速度に明らかな影響を示すうえ,その浸食形状はFe-C融液の模擬コークスに対する濡れ性から影響を受けることが示唆される。

Fig. 10.

 Relationship between carbon dissolution rate and apparent effective reaction ratio.

4. 考察

4・1 模擬コークス基板からFe-C液滴への炭素溶解量

Fig.2Fig.3から初期の接触角と安定後の接触角には明らかな差が存在することがわかった。Fig.4からは,その接触界面において炭素溶解反応が生じていることが確認された。接触界面において化学反応が生じると,その界面のギブスの自由エネルギーが減少するため界面張力が減少すると考えられている11)。この固液間の界面張力の減少は,Youngの釣り合い式から接触角を減少させると考えられる。そこで,界面における炭素溶解反応と接触角変化の関係を議論するために,本研究では模擬コークス基板からFe-C液滴への炭素溶解量を見積もる必要がある。

しかしながら界面の複雑な形状からFe-C液滴を基板上から適切に分離することが難しく,基板上のFe-C液滴の炭素量を直接測定することは困難である。そこで,本研究では以下に示す画像解析から炭素溶解量を簡易に見積もった。Fig.11に示すような界面の光学顕微鏡写真から,基板中への鉄試料侵入深さDintrusion[cm],基板中において侵入鉄が占める面積率Riron[−]を測定する。この侵入した鉄と同体積の炭素が溶鉄中に溶解したと仮定する。式(10)において,上述の測定値とTable 1の基板密度ρsub[g/cm3]を用いて単位面積当たりの炭素溶解量Cdissolution[g/cm2]を算出した。   

C d i s s o l u t i o n = D i n t r u s i o n × R i r o n × ρ s u b (10)

Fig. 11.

 Estimation of carbon dissolution amount from the optical micrograph at the interface.

Fig.12に炭素溶解量と初期接触角から安定後接触角までの接触角変化量の関係を示す。この図から両者の間には明らかな相関関係がみられた。これら接触角変化から,Youngの式を用いた以下に示す方法で界面張力の変化量を算出した。Fe-C融液の表面張力はFe-C融液中の炭素濃度が変化しても一定であると仮定する24)。液相と固相の表面張力の値は文献値を用いる25)。初期の界面張力,安定後の界面張力を,上述の各種表面張力および本測定で得られた接触角をもちいて,それぞれ算出した。それらの差分を本研究では界面張力変化として定義した。Fig.13に炭素溶解量と界面張力変化の関係を示す。Fig.12Fig.13の結果から,炭素溶解に有利な条件では界面張力が減少するため接触角が減少することがわかった。

Fig. 12.

 Relationship between amounts of carbon dissolution and contact angle variations from the initial contact angle to the constant contact angle.

Fig. 13.

 Relationships between amounts of carbon dissolution and the interfacial tension variations.

これらの結果には,炭素飽和Fe-C試料の結果も含まれる。本来,この条件では炭素溶解反応は生じることができない。しかしながら,本研究においては界面の観察結果から,反応が生じていることが確認されている。さらに詳細な議論が必要であるが,反応界面において準安定状態が起因の過飽和が生じていた可能性が示唆される。

炭素溶解速度測定の結果は,Al2O3粉は炭素溶解反応に悪影響を与えることを明らかに示唆している。この影響によりFig.13において炭素飽和Fe-C試料間に違いが生じたものと考えられる。

本考察の結果から,既報の溶融試料滴下装置を用いていない測定結果は,真の接触角からの偏倚を含んでいると考えられる。これは,従来型の清滴法が測定温度までの昇温時における鉄試料と炭素基板間の反応の影響を排除できなかったためである。たとえば,Humenikら26)は1673 Kにおける炭素飽和溶鉄の黒鉛基板上における接触角は110°であると報告している。この値は本測定結果における安定後接触角の値105°に似通っているが,初期接触角とは明らかに異なる値となってしまっている。この比較から,溶融試料滴下装置を用いていない測定結果は,界面反応によって真の接触角の値よりも小さく見積もられている可能性が示唆される。

4・2 初期接触角に及ぼす基板へのAl2O3混合の影響

0 sにおける初期接触角の測定結果をFig.14に示す。すなわち,反応界面における反応影響は理想的には無視できる条件である。この場合,接触角は直接炭素基板の表面性状の影響をうけることになる。Tsarevskii and Popel27)は1673 Kにおける炭素飽和溶鉄のAl2O3基板上の接触角は133°であると報告している。Fig.14に示すように,この値は20 vol% Al2O3含有模擬コークス基板の値とほぼ同様であり,30 vol% Al2O3含有模擬コークス基板の値よりも小さい。基板に対するAl2O3添加の影響のみでは,この傾向を説明することはできないと考えられる。

Fig. 14.

 Effect of Al2O3 content in substrate on initial contact angle.

すなわち,微小時間における炭素溶解反応の影響,基板構成物質の不均一分布など他の要因が初期接触角に与える影響を将来さらに考慮する必要があると考えられる。

5. 結言

溶鉄と炭材基板間の濡れ性を評価することを目的として,溶融試料滴下装置を備えた静滴法を用いた接触角測定を行うと同時に,炭素溶解速度を測定し以下の結果を得た。

炭素未飽和溶鉄の初期接触角の値は,安定後接触角よりも大きい値を示した。これは炭素溶解反応が明らかに濡れ性に影響を及ぼしていることを示唆している。また同様の傾向が炭素飽和溶鉄を用いた結果においても観察された。これは準安定状態が起因の炭素過飽和が要因になり生じたものと推察される。

基板中に混合されたAl2O3粉は,炭素基板上での鉄試料の濡れ性を妨げ,安定後接触角を増大させた。Al2O3粉は濡れ性のみならず,有効反応面積を変化させたため炭素溶解反応にも影響を及ぼした。

謝辞

著者らは,学術的助言を賜った日本鉄鋼協会「低炭素高炉実現を目指した固気液3相の移動現象最適化研究会」に謝意を示します。

文献
 
© 2016 The Iron and Steel Institute of Japan

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