Tetsu-to-Hagane
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Mechanical Properties of Fe2Al5 and FeAl3 Intermetallic Phases at Ambient Temperature
Tadashi TsukaharaNaoki TakataSatoru KobayashiMasao Takeyama
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2016 Volume 102 Issue 2 Pages 89-95

Details
Synopsis:

In the present study, hardness, elastic modulus and fracture toughness of η-Fe2Al5 (oC24 structure) and θ-FeAl3 (mS102 structure) single phase alloys have been examined by various indentation methods. The average hardness of η and θ phases measured by Vickers indentation are 8.5 GPa and 7.8 GPa, respectively. The hardness variations are approximately 20% in η phase and 15% in θ phase, which are associated with their orientation dependence. A trend was found that the hardness becomes lower close to the [001] indentation direction in both phases. The elastic moduli of η and θ phases measured by nanoindentation are higher than the modulus of pure Fe (about 200 GPa). The fracture toughness of η and θ phases measured by indentation fracture method are 1.38 and 1.27 MPa·m1/2, respectively. The anisotropy of their toughness was not found in the present measurements.

1. 緒言

Fe-Al2元系には種々の金属間化合物が存在する1)。Fe-rich側の化合物であるFe3AlおよびFeAlは耐摩耗性や耐硫化特性,耐酸化性に優れるため,実用化に向けてそれらの機械的性質に関する多くの研究がなされている2)。一方,Al-rich側のFe-Al化合物であるFe2Al5およびFeAl3(Fig.1)は硬く,非常に脆性的な化合物であると認識されており,その機械的性質を調べた研究はほとんどない3)

Fig. 1.

 Fe-Al binary phase diagram1).

Al合金めっき鋼板の研究開発4)において,近年Al-rich側の金属間化合物が注目されている。Tsuruら5,6,7)はAl-Mg-Si系合金めっきが犠牲防食作用を有することを示し,資源の枯渇が指摘されている亜鉛によるめっき鋼板との代替に向けた開発を行っている。このAl合金めっきと鋼板の界面にη-Fe2Al5およびθ-FeAl3金属間化合物相(Fe-Al合金層)が形成する8,9)。そのため,鋼板とめっき層の密着強度はFe-Al合金層を構成するAl-richの2種類の金属間化合物の機械的性質に依存する。これまでの予備実験において,曲げ変形による溶融Alめっき鋼板におけるめっき層の剥離は合金層に生じるき裂発生を伴うことを見出した10)。き裂発生に要する臨界ひずみおよび応力を用いてAl合金めっき層の密着強度を定量的に評価する11)ためには,Fe-Al合金層(η-Fe2Al5相,θ-FeAl3相)の機械的性質,特に弾性率および破壊靭性値を調べる必要がある。

Fig.2にη-Fe2Al5相およびθ-FeAl3相の結晶構造を示す。η相およびθ相はそれぞれ斜方晶,単斜晶系の構造を有し,Pearson symbolはそれぞれoC2412)mS10213)で表される。これらの構造は,純Fe(Pearson symbol:cI2,格子定数:2.93 Å)と比較して,低い対称性を有し,はるかに大きい格子定数および構成原子の数を持つ。したがって,η相およびθ相の機械的性質を理解するには,その異方性を考慮する必要がある。Alめっき/鋼板界面に形成した両相の硬さの報告例14,15)は存在するが,その異方性は考慮されていない。また,Al合金めっき鋼板における鋼板/Alめっき層界面に形成するη相は鋼板内側(ND方向)に向かって[001]配向する4,16)。そのため,η相に関しては,特に[001]方位の機械的性質を知ることが重要である。しかし,Alめっき/鋼板界面に形成した合金層の厚さは数μmから数10 μmであるため8,9),直接これらの性質を調べることは困難である。

Fig. 2.

 Crystal structures of (a) η-Fe2Al5 phase with an orthorhombic oC24 structure12) and (b) θ-FeAl3 phase with a monoclinic mS102 structure13). (Online version in color.)

そこで本研究では,η-Fe2Al5およびθ-FeAl3単相合金を溶製し,ビッカース硬さ試験を用いて硬さの異方性を検討した。また,異なるインデンテーション法を用いて両相の弾性率および破壊靭性値を調べた。

2. 実験方法

本研究では,アーク溶解を用いて溶製したAl-25FeおよびAl-28.6Fe(at.%)の合金をそれぞれθ-FeAl3およびη-Fe2Al5単相材として用いた。比較材として純Fe(純度99.99%)を用いた。これらの合金の組織観察は,電界放射型走査電子顕微鏡(FE-SEM)を用いた。両合金の相同定および結晶方位解析は,加速電圧20 kVにて電子線後方散乱回折(EBSD)法を用いた。

両合金の機械的性質の測定に先立って,マイクロビッカース硬度計を用いて異なる荷重における圧痕付近のき裂発生の有無を確認し,その結果に基づいて弾性率および破壊靱性測定のための荷重を選定した。この結果を基に,き裂発生の臨界荷重(Wc)以下で弾性率,臨界荷重以上で破壊靭性値の測定を行った。

弾性率の測定は微小押し込み硬さ試験法17),破壊靭性値の測定はビッカース硬さ試験によるIndentation Fracture(IF)法18)を用いた。Fig.3に弾性率(E)および破壊靭性値(KIc)の測定に必要な因子を示す。算出方法を示す。弾性率(E)は,バーコビッチ型圧子を装着した微小押し込み硬さ試験より得られた荷重−変位曲線における最大荷重Pmax[N]到達後の傾きから塑性変形量h1[m]および弾性変形量h2[m]を測定し,式(1)を用いて算出した17,19)。   

E=1.77×102×Pmax/(h1×h2)(1)

Fig. 3.

 Required parameters for the measurement of (a) elastic modulus and (b) fracture toughness by the indentation methods.

負荷および除荷試験は,最大荷重までの分割数500,1分割における負荷および除荷間隔0.02秒の条件下(最大荷重まで到達時間および荷重0 Nまでの除荷時間が1秒である)にて行った。本実験で測定した弾性率は試料とダイヤモンド圧子(弾性率:1050 GPa,ポアソン比:0.1)の両方の変形を反映した値であるため,複合則を用いて試料の弾性率を計算した19)。その際,試料のポアソン比は金属材料の一般的な値である0.3と仮定した。弾性率測定では,各方位につき9点測定し上下2点を除いた5点の平均値を採用した。

破壊靭性値(KIc)は,ビッカース試験による圧痕の4隅からき裂が十字に発生した場合のき裂長さの平均値l[m],硬さHv[GPa]および荷重P[N]から,式(2)を用いて算出した18)。各方位につき1~3点の測定を行い,その平均値をKIcとした。   

KIC=2.96×(Hv×P/4l)1/2(2)

なお,式(2)を用いたKIcの算出はビッカース圧痕4隅からPalmqvist型のき裂の発生18)を仮定したものである。本研究では圧痕を導入した試料表面を研磨し,き裂がPalmqvist型であることを確認している。

3. 実験結果

3・1 単相合金の組織

Fig.4およびFig.5にAl-28.6FeとAl-25Fe合金の反射電子像(BEI)およびEBSD解析結果をそれぞれ示す。両合金とも,凝固方向に伸長した柱状組織であり,柱状粒の幅は約100 μmである。EBSDによる相同定の結果,Al-28.6FeおよびAl-25Fe合金はそれぞれη-Fe2Al5単相およびθ-FeAl3単相であることがわかった(Fig.5)。また,Fig.4(b)中の矢印で示す箇所に代表されるように,伸長したθ-FeAl3粒の粒界近傍は若干暗いコントラストを示す。これは,包晶反応(L+η→θ)に起因する若干高いAl濃度の領域に対応すると推察される。なお,本研究における両合金における機械的性質の測定は,結晶粒のほぼ中心の位置で行った。

Fig. 4.

 Back-scattered electron images showing microstructures of (a) η-Fe2Al5 and (b) θ-FeAl3 single phase alloys.

Fig. 5.

 Back-scattered electron images showing microstructures of (a) Fe2Al5 and (c) FeAl3 single phase alloys and corresponding orientation color maps of (b) Fe2Al5 and (d) FeAl3. In these EBSD results (b, d), the colors represent the indentation direction (ID) according to the orientation color keys. The lines represent larger misorientation than 15°.

3・2 ビッカース硬さ

3・2・1 き裂が発生する臨界荷重

Fig.6にηおよびθ単相合金のビッカース硬さ試験による圧痕近傍の二次電子像(SEI)を示す。両合金とも荷重0.25の圧痕近傍においてき裂は観察されないが(Fig.6(a, d)),荷重0.49 Nでは圧痕近傍にき裂が発生する(Fig.6(b, e))。その後,荷重の増加に伴いき裂の数は増加し,荷重1.96 Nでは圧痕の四隅からき裂が計4本ずつ十字に発生した(Fig.6(c, f))。これらの結果より,ビッカース硬さ試験においてき裂が発生する臨界荷重(Wc)は0.25 Nであることがわかった。

Fig. 6.

 Secondary electron images showing the Vickers-indented surface on (a, b, c) η-Fe2Al5 and (d, e, f) θ-FeAl3 at different loads: (a, d) 0.25 N, (b, e) 0.49 N and (c, f) 1.96 N.

3・2・2 硬さの異方性

弾性率および破壊靭性値の測定に先立って,ビッカース硬さ試験を通じてη相およびθ相の硬さの異方性を調べた。Fig.7にη相およびθ相のビッカース硬さと荷重の関係を示す。いずれの荷重においてもη相はθ相より約1 GPa高い値を示す。き裂が発生しない荷重0.10 Nにおいてη相およびθ相の硬さはそれぞれ8.5および7.8 GPaであり,これらの測定誤差はそれぞれ約20%,約15%である。

Fig. 7.

 Vickers Hardness of η-Fe2Al5 and θ-FeAl5 phases measured at different indentation loads.

Fig.8に,6種類の結晶方位を持つη-Fe2Al5単結晶の硬さを示す。ビッカース圧子の圧入方位は,[010]および[100]を晶帯軸周りの方位である。これらの方位は,EBSD解析により同定した(Fig.5)。図中の灰色の帯は,荷重0.10 Nにおける硬さの誤差範囲を示す。なお,同一方位における硬さの測定誤差は約0.2 GPaであり,図中の黒丸の大きさ以内である。[010]軸を晶帯軸とした面の法線方向から圧入した場合(Fig.8(a)),[001]方位に最も近い方位aで最も低い値(7.7 GPa)を示し,[100]方位に近付くにつれて硬さは増加し,方位cで最も高い値(9.2 GPa)を示した。[100]軸を晶帯軸とした面の法線方向から圧入した場合(Fig.8(b)),[001]軸方位に最も近い方位dで最も低い値(7.7 GPa)を示し,[010]方位に近付くにつれて硬さが増加し,方位fで最も高い値(8.9 GPa)を示した。各方位における硬さの差は,荷重0.10 Nで得られた硬さの誤差内に収まっている。したがって,η-Fe2Al5単結晶における機械的性質はおよそ20%の方位依存性を示し,特に[001]方位近傍で硬さは低い値を示す。

Fig. 8.

 Change in the Vickers hardness of η-Fe2Al5 phase depending on the indentation direction. These were measured at a load at 9.8×10–2 N. The measured values were plotted along (a) [010] zone axis and (b) [100] zone axis. The gray zones indicate the deviation of measured hardness.

Fig.9に,3種類の方位を有するθ-FeAl3単結晶の硬さを示す。圧入方向は,[010]軸を晶帯軸として回転させた3方位である。η-Fe2Al5同様,荷重0.10 Nにおける硬さの誤差範囲(15%)を灰色の帯で示している。[001]方位近傍の方位bにおいて最も低い値(7.3 GPa),[100]方位近傍の方位cにおいて最も高い値(8.4 GPa)を示した。η-Fe2Al5同様,各方位における硬さの差はいずれも帯内に収まっていることから,θ-FeAl3単結晶における硬さは15%程度の異方性を有し,特に[100]方位近傍で低い値を示すことがわかった。

Fig. 9.

 Change in the Vickers hardness of θ-FeAl3 phase depending on the indentation direction. These were measured at a load at 9.8×10–2 N. The measured values were plotted along [001] zone axis. The gray zone indicates the deviation of measured hardness.

3・3 弾性率

Fig.10にη-Fe2Al5,θ-FeAl3および純Feの微小押込み硬さ試験による圧痕近傍のSEIを示す。いずれの試料においても荷重0.10 N以下では,圧痕近傍にき裂およびすべり線は認められない。η相およびθ相のおける圧痕の大きさは純Feと比べて1/3程度とほぼ同じであり,形状に大きな違いは認められなかった。なお,両相とも異なる方位から圧入した圧痕の形状に大きな変化は認められなかった。

Fig. 10.

 Secondary electron images showing the nano-indented surface on (a) η-Fe2Al5, (b) θ-FeAl3 and (c) pure Fe at a maximum different load of 9.8×10–2 N.

Fig.11に,最大荷重(Pmax)9.8×10−3 Nの条件下における微小押込み硬さ試験にて得られた荷重−変位曲線を示す。試験に供したη-Fe2Al5およびθ-FeAl3単結晶の圧子圧入方位を標準ステレオ投影図上に併せて示す(Fig.11(b, c))。η相の最大変位は0.18 μmであり,θ相に比べてわずかに低い。除荷後,試料の弾性特性に応じて変位は減少し,η相およびθ相のどちらもほぼ同じ0.12 μmにて荷重は0 Nになった。なお,両相から得られた荷重−変位曲線は,塑性変形開始に対応すると考えられる顕著なpop-in(一定荷重にて変位が大きく増大する現象)19,20)は認められなかった。一方,純Feはη相およびθ相と比べ3倍程度大きな最大変位0.46 μmを示した。除荷後は比較的緩やかな変位減少を示し,0.42 μmで荷重は0 Nになる。最大変位は試料が硬いほど小さくなり,荷重−変位曲線から予想されるη相およびθ相の硬さの傾向はビッカース硬さの傾向と一致する。

Fig. 11.

 (a) Load-displacement curves of η-Fe2Al5, θ-FeAl3 and pure Fe obtained by nano-indentation and inverse pole figures showing the indentation direction for (b) Fe2Al5 and (c) FeAl3. (Online version in color.)

Fig.12に,(a)2種類の圧子圧入方向におけるη-Fe2Al5単結晶の弾性率および(b) 単一の圧子圧入方向におけるθ-FeAl3単結晶の弾性率と最大荷重の関係を示す。また,比較として純Feの結果を併せて示す。なお,純Feの圧子圧入方向は[011]に近い方位である。本研究で測定した弾性率は,最大荷重増加に伴い低い値を示す傾向にある。純Feの弾性率は最大荷重4.8×10−2 N以上において約200 GPaと一定値を示し,従来バルク材にて測定された値21)と良く対応している。η-Fe2Al5単結晶の弾性率はAおよびBの両方位において純Feより50 GPa以上高い値を示す。001方位に近い方位Aの弾性率は方位Bのものよりいずれの最大荷重においても低い。これらの弾性率の値は最大荷重の増加に伴って減少するが,純Feの弾性率が約200 GPaに飽和する最大荷重9.8×10−3 Nでは,方位AおよびBにおいてそれぞれ222,253 GPaである。このη-Fe2Al5単結晶における[001]方位近傍の低い弾性率は,ビッカース硬度の方位依存性(Fig.8)と同じ傾向を示す。θ-FeAl3単結晶の弾性率は1方位のみの測定であるが,η相単結晶の方位Aと同様の傾向を示した。その値は最大荷重9.8×10−2 Nにおいて220 GPaである。なお,本実験の微小押込み硬さ試験から得られる弾性率は荷重依存性が認められる。弾性率の絶対値として妥当と考えられる値は,純Feにおいて200 GPaで一定値となった最大荷重9.8×10−2 Nの試験の結果であると推察される。

Fig. 12.

 Elastic moduli of (a) η-Fe2Al5 and (b) η-FeAl3 measured by nano-indentation at different maximum loads, together with the result of pure Fe.

3・4 破壊靭性値

Fig.13に,異なる方位からビッカース圧子を圧入した(a)η-Fe2Al5および(b)θ-FeAl3単結晶のき裂長さと荷重の関係を示す。両試料とも,荷重0.25 Nを超えるとき裂が発生し,その後荷重の増加に伴いき裂長さは増大する。η相のき裂平均長さは,測定荷重に依らずθ相のものとほぼ同じである。η相に発生したき裂長さにおいて,本研究で測定した方位A,B,C間での差は認められない。θ相においても方位によるき裂長さの大きな差は認められない。

Fig. 13.

 Change in the length of cracks propagated from the indent corners on the surface of (a) η-Fe2Al5 and (b) η-FeAl3 as a function of indentation load. The attached inverse pole figures indicates the indentation direction measured in this study.

Fig.14に,η-Fe2Al5および(b)θ-FeAl3単結晶の破壊靭性値と荷重の関係を示す。ηおよびθ両相とも破壊靭性値は荷重依存性を示さず,それぞれ1.38,1.27 MPa・m1/2である。これらの値は代表的なセラミックス材料であるAl2O322)と比べてやや低く,Fe系金属間化合物Fe2Nb23)とほぼ同等である。今回測定した範囲内では破壊靭性値の異方性の有無は確かめられなかった。なお,以上の実験において測定された機械的特性の値をまとめたものをTable 1に示す。

Fig. 14.

 Fracture toughness of η-Fe2Al5 and θ-FeAl3 phases measured at various indentation loads, together with those of other materials23,24).

Table 1. Average hardness (Hv), average elastic modulus (E) and fracture toughness (K1C) of η-Fe2Al5, θ-FeAl3 and pure Fe measured in the present study.
PhaseHv / GPaE / GPaK1C / MPa·m1/2
(Load / N)(Load / N)(Load / N)
Fe2Al58.472381.38
(9.8 × 10–2)(9.8 × 10–2)(9.8 × 10–1)
FeAl37.822201.27
(9.8 × 10–2)(9.8 × 10–2)(9.8 × 10–1)
Fe0.78195
(1.96)(9.8 × 10–2)

4. 考察

本研究は,η-Fe2Al5およびθ-FeAl3の平均硬さはそれそれ8.5 GPaおよび7.8 GPaであり,20%および15%の方位依存性を示すことを明らかにした。溶融Alめっき鋼板に形成したη相の硬さも最大20%程度の測定誤差を示し14,15),これは方位依存性に対応すると考えられる。特にη相は[001]圧入方向(c軸方向)において低い硬さを示し(Fig.8),その方位依存性は弾性率の傾向と対応する(Fig.12)。このη相における[001]方向に沿った低い硬さおよび弾性率は,oC24構造におけるAl副格子の低い占有率に起因すると推察される。η相の正方晶oC24構造は[001]方向に沿って配列した低占有率を持つ複数のAl副格子を有する12,16)。この低占有率のAl副格子は結晶内の空孔に相当すると考えられ,η相における[001]方向に沿った空孔の存在は,[001]方向の低い弾性率および硬さに寄与すると推察される。

η相およびθ相におけるナノインデンテーションの荷重−変位曲線が明瞭なpop-in挙動を示さない(Fig.11)ことは,室温における両相の塑性変形が困難であることを示す19)。η相およびθ相の破壊は脆性的に起こると仮定すると,両相の破壊靭性値は表面エネルギーに強く依存する25)。したがって,表面エネルギーの面方位依存性が強い結晶の場合,き裂は低い表面エネルギーのへき開面に優先的に開口する。本研究では,異なる圧子圧入方向から測定したにもかかわらず,η相およびθ相の圧痕四隅からき裂は発生し(Fig.6),それらの破壊靭性値の方位依存性は小さいことを明らかにした(Fig.13)。したがって,η相およびθ相における表面エネルギーの面方位依存性は小さいと考えられる。また,本実験で測定したη相単結晶の破壊靭性値は約1.3 MPa・m1/2(Fig.14)と,薄膜多結晶で測定された値(0.26~0.51 MPa・m1/2)26)よりもやや高い。これはη相中の結晶粒界が破壊靭性値を低下させることを示唆し,η相の多結晶において優先的な粒界破壊が起こりうると推察される。なお,η相およびθ相の二相合金の値(1.1 MPa・m1/2)27)は,本研究で測定したη相およびθ相単結晶のものとほぼ同じである。したがって,η相とθ相の異相界面はき裂発生および伝播の抵抗とならないことが示唆される。

5. 結言

本研究では,インデンテーション法を通じ,η-Fe2Al5,θ-FeAl3の硬さ,弾性率および破壊靭性値を調べ,以下の結果を得た。

(1)η相およびθ相の平均硬さはそれそれ8.5 GPaおよび7.8 GPaであり,結晶方位によってそれぞれ20%および15%の差が生じる。両相とも[001]方位近傍において低い硬さを示す傾向がある。

(2)弾性率はη-Fe2Al5およびθ-FeAl3ともに純Feより20 GPa以上高い値を有し,η相では[001]方位近傍で低くなる傾向を示した。

(3)η-Fe2Al5およびθ-FeAl3の破壊靭性値はそれぞれ1.38,1.27 MPa・m1/2であり,他の脆性的な金属間化合物と同程度である。

謝辞

本研究は,文部科学省・元素戦略プロジェクト「亜鉛に替わる溶融Al合金めっきによる表面処理鋼板の開発」によって行われた研究の一部である。ここに特記して謝意を表す。

文献
 
© 2016 The Iron and Steel Institute of Japan

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