2016 Volume 102 Issue 2 Pages 80-88
The recrystallization behavior of Cu containing 17% Cr ferritic stainless steel cold-rolled sheets was investigated while evaluating the ε-Cu precipitation behavior during annealing. In the case of Cu in a solid solution before cold rolling, the recrystallization temperature of steel containing more than 1% Cu was high. It was thought that recrystallization was delayed because of the ε-Cu precipitation during annealing. The recrystallization temperature of 1.5%Cu-containing steel with fine ε-Cu precipitation because of aging for a short time before cold rolling was similar to that of Cu in solid solution before cold rolling. In contrast, in the case of coarse ε-Cu precipitation because of aging for long time before cold rolling, the recrystallization temperature decreased and was similar to that of steel with no Cu addition. In addition, the Cu-added steel had a weaker recrystallization texture than the no-Cu steel, but γ-fiber was developed because of aging for a long time before cold rolling. Consequently, the volume fraction and size of ε-Cu precipitation, which caused the recrystallization behavior, were examined quantitatively. The analysis based on the subgrain growth model considering a temperature change in the precipitation state such as the volume fraction and particle diameter using Thermo-Calc. and DICTRA was effective.
ステンレス鋼板は,耐食性,加工性,耐熱性および表面光沢等の多様な要求性能に応じて,CrやNiを始めとする多種の合金元素の調整および製造プロセスの適正化を行って製造される。種々の元素の中でCuは,ステンレス鋼板の様々な特性を向上させるために古くから活用されているユニークな元素と言える。例えば,オーステナイト系ステンレス鋼板では,加工誘起マルテンサイト変態挙動1,2),強度−延性3,4,5)および成形性等6,7,8,9)に影響することが知られており,SUS304J1やSUSXM7等のCu添加鋼がある。また,フェライト系ステンレス鋼板のSUS430J1LやSUS443J1には,耐錆性向上の観点から0.4%程度のCuが添加されている10,11,12,13)。更に,1.5%程度のCu添加とε-Cuの表面析出によって抗菌性を付与させたステンレス鋼板もある14)。最近では,耐熱用途に使用されるフェライト系ステンレス鋼板において,Cuの析出強化を活用して高温強度や熱疲労特性を向上させた鋼が開発されている15,16,17)。これに関連して析出Cuの構造遷移,成長挙動および時効硬化挙動に関する詳細な研究18,19),高温変形過程の析出Cuの形態変化20)や転位との相互作用21)に関する研究も成されている。
ところで,普通鋼においても高強度化を目的としてCu添加に関する研究が数多く報告されているが22,23,24,25,26,27,28,29,30,31,32,33,34,35,36,37,38,39,40,41,42,43,44,45,46,47,48,49,50,51,52),表面赤熱脆性による熱間加工割れが製造課題になる53)。一方,ステンレス鋼は普通鋼と異なり,Cu添加による脆化が生じ難いことが知られており54),今後もステンレス鋼の多彩な特性発現や高付加価値化のためにCuが積極的に活用されると予想される。鋼板の材質特性の制御には,製造過程の金属組織,析出および集合組織等の制御が重要であり,Cu添加鋼の場合はCuの固溶・析出が影響すると考えられる。しかしながら,フェライト系ステンレス鋼板の再結晶挙動に及ぼすCu添加の影響に関する報告例は多くない55,56,57,58)。本研究では,Cu含有フェライト系ステンレス冷延鋼板の再結晶挙動に関して,再結晶過程のCu析出挙動や析出形態に着眼して検討するとともに,サブグレイン(SG)成長モデルを用い,その影響を定量的に考察した。
低炭窒素Ti添加17%Cr鋼に対して,Cuを0.02~1.52%の範囲で変化させた鋼塊を20 kg真空溶解により製造した。Table 1に化学成分を示す。90 mm厚の鋼塊を1250°Cで50 mm厚に鍛造した後,表層を研削加工して40 mm厚にしたサンプルを熱延に供した。熱延においては,サンプルを1150°Cで1時間加熱後,7パスで5 mm厚まで圧延して熱延板とした。この際の最終圧延温度は750°C~800°Cで,圧延完了後室温まで空冷した。次いで,熱延板を大気中で950°Cに加熱し60秒保持した後,水冷処理して熱延・焼鈍板とした。Fig.1に統合型熱力学ソフトウェアThermo-Calc.(FEVER6)59)による平衡状態図と熱延以降の実験工程を示す。950°Cでの熱延板焼鈍により,本実験で用いた全ての鋼でCuはbcc格子中に過飽和に固溶していると予想される。再結晶挙動に及ぼすCu添加量の影響に関する検討においては,熱延・焼鈍板を冷延に供した(実験I)。一方,冷延前の析出形態の影響に関する実験においては,1.5%Cu鋼の熱延・焼鈍板に対して短時間時効と長時間時効の2水準の熱処理を施し,冷延に供した(実験II)。短時間時効処理は,大気中で750°Cに加熱し15分保持した後に空冷した。一方,長時間時効処理は,大気中で750°Cに加熱し100時間保持した後に室温まで炉冷した。冷延圧下率は60%とし,2 mm厚の冷延板を作製した。実験IとIIで作製した冷延板の再結晶挙動を調べる熱処理では,冷延板を500°C~950°Cに加熱し,120秒保持した後に空冷した。この際サンプルの表面に熱電対を取り付けて熱履歴を測温した結果,加熱速度および冷却速度はそれぞれ約3°C/秒および約5°C/秒であった。再結晶挙動は,金属組織の光学顕微鏡観察と硬度測定により調べ,いずれも幅方向に垂直な断面(TD)におけるt/4部位(t:板厚)で行った。硬度はビッカース硬度(Hv1kgf)を5箇所測定し,平均値を用いた。析出物の観察には200 kV-FE-TEM(Field Emission-Transmission Electron Microscope)を用い,切削研磨と電解研磨によりt/4部位から採取したサンプルを観察に供した。集合組織は,X解回折によって測定した(110),(200)および(211)の計3面の不完全反射極点図から計算した結晶方位分布関数ODF(Orientation Distribution Function)を用いて評価した。この際,t/4部位まで減厚した面を化学研磨して測定に供した。ミクロ的な結晶方位の調査はSEM-EBSD(Scanning Electron Microscope-Electron Back Scatter Diffraction)法を用いて,幅方向に垂直な断面(TD)におけるt/4部位の測定(ビームステップ1 μm)および解析を行った。
No. | C | Si | Mn | P | S | Cr | Cu | Ti | N |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
0%Cu | 0.004 | 0.11 | 0.09 | 0.03 | 0.001 | 17.4 | 0.02 | 0.20 | 0.010 |
0.4%Cu | 0.003 | 0.11 | 0.09 | 0.03 | 0.001 | 17.5 | 0.39 | 0.19 | 0.010 |
0.8%Cu | 0.003 | 0.11 | 0.09 | 0.03 | 0.001 | 17.3 | 0.77 | 0.19 | 0.009 |
1.0%Cu | 0.003 | 0.11 | 0.09 | 0.03 | 0.001 | 17.3 | 0.99 | 0.19 | 0.009 |
1.2%Cu | 0.004 | 0.11 | 0.09 | 0.03 | 0.001 | 17.2 | 1.19 | 0.20 | 0.010 |
1.5%Cu | 0.004 | 0.11 | 0.09 | 0.03 | 0.001 | 17.4 | 1.52 | 0.20 | 0.010 |
Calculated phase diagram and schematic of experimental procedure.
Fig.2に各鋼の硬度に及ぼす熱処理温度の影響を示す。0.8%以上のCu添加鋼において,600°Cの熱処理によって硬化する挙動が認められる。これは,冷延板を熱処理する際の昇温過程でCu析出が生じたためと考えられる。約800°C以上の熱処理によって軟化が完了するが,Cu添加量の増加とともに軟化完了温度は高温化しており,従来報告されている0.1%C鋼の結果60)と同傾向である。また,1.5%Cu鋼の軟化完了後の硬度は,他鋼に比べて著しく高硬度である。Fig.3に熱延・焼鈍板(950°C−60秒熱処理後,水冷)および冷延・焼鈍板(950°C−120秒熱処理後,空冷)の硬度について,添加Cu量(at%)の平方根で整理した結果を示す。一般に,固溶強化量は固溶元素が低濃度の場合には濃度の平方根に比例して増加することが知られており61),フェライト鋼におけるCuの場合,その傾きは26/at%1/2と報告されている39)。本結果における水冷材の傾きは22/at%1/2と従来の報告例よりも若干小さい値だが,直線関係を示したことから,熱延板焼鈍後の水冷過程ではCuの析出は生じていないと判断される。一方,空冷処理した冷延・焼鈍板では,1.5%Cu鋼が直線関係から外れており,Cu粒子の析出が冷却中に生じて硬化したと考えられる。
Changes in the hardness of cold-rolled sheets with annealing temperature.
Relation between Cu content and hardness.
Fig.4に冷延板を750°Cで熱処理した後の組織を示す。750°Cの熱処理により0%Cu鋼と0.8%Cu鋼は部分的に再結晶(Fig.4(a),(b)の矢印部)が生じているが,1.0%Cu鋼と1.5%Cu鋼は未再結晶組織である。また,Fig.5に0%Cu鋼と1.5%Cu鋼を750°Cで熱処理した後の結晶方位マップを示す。1.5%Cu鋼は,bccの圧延方位である〈001〉//NDと〈111〉//ND方位を有する展伸した未再結晶組織であるが,0%Cu鋼は部分的再結晶組織であり,平均再結晶粒径は6 μmであった。また,この再結晶粒の結晶方位比率は〈111〉//NDが37%,〈101〉//NDが13%,〈112〉//NDが9%,〈001〉//NDが2%であった。〈111〉および〈101〉//ND方位は,〈112〉および〈001〉//ND方位に比べて冷間加工により導入される蓄積エネルギーが大きく,再結晶核生成段階での方位選択性が高いことから62,63),部分再結晶段階では比較的高頻度になると考えられる。Fig.6に0%Cu鋼と1.5%Cu鋼を800~900°Cで熱処理した後の組織を示す。0%Cu鋼は800°Cで再結晶粒が多数観察され,再結晶がかなり進行している。一方,1.5%Cu鋼は0%Cu鋼に比べて再結晶が遅れており,825°Cで部分的に再結晶粒(Fig.6(c)の矢印部)が観察され,900°Cで再結晶が完了する。光学顕微鏡による組織観察から得られた再結晶開始および完了温度をFig.7に示す。図中にはThermo-Calc.による計算で得られるε-Cuの溶解度線も破線で示している。これより,1%以上のCu添加により再結晶開始および完了温度は高温化しており,Cuの固溶温度以上で再結晶が完了する。Fig.8に1.5%Cu鋼の再結晶過程(775°C)のTEM写真を示す。サブグレイン粒界に微細なε-Cuが多数観察され,サブグレイン粒界の移動をピン止めしていると考えられる。本実験では,冷延前の熱処理でCuは固溶化されていることから,冷延板の熱処理における回復および再結晶初期段階で,駆動力が大きいCu析出が生じることにより母相の再結晶が遅延すると推定される。また,Cuの固溶温度以上ではε-Cuによるピン止め力が作用しないため,再結晶が進行すると考えられる。
Optical micrographs of the longitudinal section of (a) 0% Cu steel, (b) 0.8% Cu steel, (c) 1.0% Cu steel, and (d) 1.5% Cu steel annealed at 750°C for 120 s.
Orientation imaging maps of ND in (a) 0% Cu steel and (b) 1.5% Cu steel annealed at 750°C for 120 s.
Optical micrographs of the longitudinal section of (a) 0% Cu steel annealed at 800°C for 120 s, (b) 0% Cu steel annealed at 900°C for 120 s, (c) 1.5% Cu steel annealed at 825°C for 120 s, and (d) 1.5% Cu steel annealed at 900°C for 120s.
Effects of Cu content and aging treatments before cold rolling on the recrystallization temperatures.
(a) Transmission electron micrograph, (b) diffraction pattern, and (c) EDX spectrum of the particles of 1.5% Cu steel annealed at 775°C for 120 s.
1.5%Cu鋼の熱延・焼鈍板を短時間および長時間時効処理した後冷延し,熱処理した際の組織をFig.9に示す。短時間時効処理の場合((a),(b)),825°Cで部分的に再結晶(Fig.9(a)の矢印部)が生じ900°Cで再結晶が完了する。これは,冷延前にCuが過飽和に固溶している実験Iの1.5%Cu鋼と類似している。一方,長時間時効の場合((c),(d)),実験Iにおける0%Cu鋼や0.8%Cu鋼の様に750°Cで再結晶粒(Fig.9(c)の矢印部)が観察され,850°Cで再結晶が完了している。光学顕微鏡による組織観察から得られた再結晶開始および完了温度をFig.7に示す。短時間時効処理の場合の再結晶温度は,冷延前にCuが過飽和に固溶した場合の再結晶温度と同様で,長時間時効処理によって再結晶温度は低下する。Fig.10とFig.11に短時間時効処理した1.5%Cu鋼の再結晶過程(775°C)のTEM写真を示す。微細なε-Cuが多数観察され,転位およびサブグレイン粒界の移動をピン止めしていると考えられる。一方,冷延前に長時間時効処理した場合,Fig.12に示す様に短時間時効処理の場合と比べてε-Cuは粗大化している。Fig.13に1.5%Cu鋼の冷延板再結晶過程(775°C)のε-Cuの直径分布を示す。ここで,約50個のε-Cuについて,長径と短径の平均値を求めて粒子径を得た*1。冷延前に時効処理を施さない場合と短時間時効処理の場合,平均粒子径は28 nmで同等であった。長時間時効処理の場合,粒子径のばらつきがかなり大きく,平均粒子径は147 nmであった。拡散律速型変態計算ソフトウェアDICTRA(MOB2)65)を用いて,時効温度である750°Cでのε-Cuの成長計算を行った結果をFig.14に示す。また,同図に短時間および長時間時効処理材の冷延板再結晶過程で観察されたε-Cuの直径も示す。ε-Cuの成長は1/3乗則に従っており,計算値と測定平均値はほぼ一致している。1.5%Cu鋼の再結晶挙動は,冷延前の時効処理条件により変化し,短時間時効処理した場合の再結晶挙動は時効処理を施さない場合とほぼ同様で,Cu添加量が少ない鋼に比べて再結晶温度は高くなった。いずれも775°Cにおけるε-Cuの平均粒子径が同等であることから,熱処理前あるいは昇温過程で析出した微細なε-Cuのピン止め力が強く,再結晶が遅延すると考えられる。一方,長時間時効処理によって粗大に成長したε-Cuが存在する場合はピン止め力が弱く,Cu添加量が少ない鋼の再結晶挙動に近くなると考えられる。
*1 TEMで観察される粒子断面の平均直径をdp*とすると,平均粒子径dpはdp=(4/π)dp*で求めた64)。
Optical micrographs of the longitudinal section of 1.5% Cu steel (a) annealed at 825°C for 120 s with aging at 750°C for 0.9 ks before cold rolling, (b) annealed at 900°C for 120 s with aging at 750°C for 0.9 ks before cold rolling, (c) annealed at 750°C for 120 s with aging at 750°C for 360 ks before cold rolling, and (d) annealed at 850°C for 120 s with aging at 750°C for 360 ks before cold rolling.
(a) and (b) Transmission electron micrographs of 1.5% Cu steel annealed at 775°C for 120 s with aging at 750°C for 0.9 ks before cold rolling.
Transmission electron micrograph of 1.5%Cu steel annealed at 775°C for 120 s with aging at 750°C for 0.9 ks before cold rolling.
Transmission electron micrograph of 1.5% Cu steel annealed at 775°C for 120 s with aging at 750°C for 360 ks before cold rolling.
Particle size distribution of the sheets annealed at 775°C for 120 s for 1.5% Cu steel (a) without aging, (b) with aging at 750°C for 0.9 ks, and (c) with aging at 750°C for 360 ks before cold rolling.
Simulation of growth of Cu particles at 750°C using software DICTRA in comparison with TEM measurements in 1.5% Cu steels.
Fig.15に実験Iで得られた0%Cu鋼(880°C焼鈍),1.5%Cu鋼(950°C焼鈍)および実験IIで得られた1.5%Cu鋼の長時間時効処理材(900°C焼鈍)の再結晶集合組織を示す。0%Cu鋼の再結晶集合組織は,{111}〈112〉や{554}〈225〉を主方位としてbcc金属の再結晶方位であるγ-fiber(〈111〉//ND)が発達しているが63),再結晶温度が高温化した1.5%Cu鋼は,再結晶集合組織の発達が弱い。一方,再結晶温度が低温化した1.5%Cu鋼の長時間時効処理材については,0%Cu鋼に比べて強度は若干弱いものの,γ-fiberの発達が認められる。17%Crフェライト系ステンレス鋼の再結晶集合組織形成に及ぼすCu添加の影響ついては,冷延・焼鈍時の{111}〈011〉方位の発達に加熱速度依存性があることが知られている56,57,58)。冷延前にCuを過飽和に固溶あるいは微細析出させ,冷延板焼鈍時に20°C/時間で徐加熱すると,微細なε-Cuの存在が回復段階の転位の再配列や大傾角粒界移動を抑制し,{111}方位がin-situ的に発達すると報告されている56,57,58)。同様な結果が低炭素鋼板を対象とした研究27,28)でも成されているが,10°C/秒等の急熱焼鈍では再結晶が遅れ,{111}方位の発達抑制やr値の低下が報告されており,転位の運動に対する抵抗力が強い微細な析出Cuあるいはクラスターの影響とされている29,33,35,36)。本実験の加熱速度は約5°C/秒であるため,微細なε-Cuに起因して{111}方位の核生成頻度が少なくなり,再結晶集合組織の発達が弱くなると考えられる。一方,急熱焼鈍においても,冷延前のCu固溶化30,33),粗大Ti炭硫化物との複合析出化35),Cuリッチクラスターの生成回避36)による{100}方位の抑制やr値の向上が,低炭素鋼を対象とした研究で示されている。また,17%Crステンレス鋼板でも冷延前の析出処理条件による集合組織の変化が調査されており,1.1%Cu添加鋼を750°Cで10時間析出処理後に冷延し,急速加熱した場合,550°C析出処理材に比べて{100}強度が低下することが示されている56)。本研究における750°Cでの長時間時効によるγ-fiber発達は,従来知見よりも長時間の時効処理によって比較的粗大にε-Cuを成長させたことで,母相の再結晶温度が低温化したため,再結晶初期に形成される{111}方位粒の核生成および成長が促進したと推察される。
φ2=45° sections of ODFs in the center layer for (a) 0% Cu steel annealed at 880°C, (b) 1.5% Cu steel annealed at 950°C and (c) 1.5% Cu steel annealed at 900°C with aging at 750°C for 360 ks before cold rolling, and (d) some important fiber textures and orientations in Euler space. Contour levels: 1-4, step 1.
Cu添加フェライト系ステンレス冷延鋼板の再結晶挙動を調査した結果,約1%以上のCu添加によって再結晶開始および完了温度ともに高温化し,その原因が微細な析出Cuによると推察された。本研究では,再結晶モデルの一つであるHumphreysによるサブグレイン(SG)成長モデル66,67,68,69,70)を用いて定量的に考察する。SG成長モデルは,加工組織をSGの集合体として表現し,熱処理によって特定のSGが粗大化することで不連続再結晶を実現するものである。Fig.16に示す様な解析モデルを考えた場合,再結晶粒とその周りのSG間の界面の移動速度は,(1)式で表される。
(1) |
Idealized cellular microstructure assumed in analysis.
ここで,Mは再結晶粒とサブグレイン間のモビリティー,Gは粒を成長させる駆動力,γはサブグレイン間の界面エネルギー,Rはサブグレイン半径,γは再結晶粒とサブグレイン間の界面エネルギー,Rは再結晶粒の半径である。また,析出物の存在によるピンニング力は負の力として考慮され,Fvおよびdpはそれぞれ析出物の体積率および粒径である。γとMは,方位差を考慮した(2)および(3)式を用いて算出した66,67,71)。
(2) |
(3) |
ここで,θは隣接粒との結晶方位差,Mpは大傾角粒の界面モビリティーであり,Hillert72)が示した(4)式を用いた。
(4) |
冷延板の熱処理過程における温度Tでの粒成長速度から,120 sec保持後の粒径を求めてCu析出状態の影響を考察した。先ず,サブグレイン径を1 μm,非整合の界面エネルギーであるγを0.5 J/m2と仮定し70),0%Cu鋼の950°C焼鈍時の平均再結晶粒径(78 μm)で合わせ込みを行った。次に,1.5%Cu鋼の短時間時効処理材および長時間時効処理材において再結晶過程で観察された平均Cu粒子径,それぞれ28 nmおよび147 nmを用い,各温度での再結晶粒径を式(1)から計算した。この際,FvはFig.1のThermo-Calc.で求まる750°Cでのε-Cuの体積率(0.007)を用いた。Fig.17に0%Cu鋼および1.5%Cu鋼で時効処理を施した場合の再結晶粒径の計算結果を示す。0%Cu鋼では950°C焼鈍時の再結晶粒径で合わせ込みを行っているが,低温側での粒径は750°Cで約4 μmと予測される。0%Cu鋼の750°C焼鈍後の平均再結晶粒径が,Fig.5(a)のEBSD測定で6 μmであった事から,実験結果と計算結果に極端な乖離は無いと判断される。また,1.5%Cu鋼で長時間時効処理を施した場合の再結晶粒径は,0%Cu鋼よりも細粒と予測される。しかしながら,1.5%Cu鋼の短時間時効処理材の結果がFig.17中に表れていない様に,該条件では粒成長が生じず,実験とは大きく異なる結果となった。これはε-Cuの体積率や粒子径を一定と仮定しており,微細ε-Cuによるピン止め効果を過大に見積もったためと考えられる。実際の熱処理過程では,昇温過程や保持中にε-Cuの粗大化や固溶化が生じることが予想されるため,これらを考慮した解析が必要と考えられる。本研究では,各温度でのε-Cuの体積率および直径をそれぞれThermo-Calc.およびDICTRAによって求め,式(1)から再結晶粒径を求めた。Fig.18にDICTRAを用いて800~870°Cにおけるε-Cuの成長挙動を計算した結果を示す。ここで,ε-Cuの初期粒子径は1.5%Cu鋼の短時間時効処理材で観察された28 nmとした。これより,ε-Cu粒子径の温度依存性を見積もることが可能となる。Fig.19にThermo-Calc.とDICTRAを併用してSGモデルで計算した結果を示す。この方法によると,1.5%Cu鋼の短時間時効処理材についても約780°C以上で粒成長が生じ,約830°Cで約10 μmまで成長する。実験IIの結果から,1.5%Cu鋼の短時間時効処理材の再結晶開始温度は約825°Cであったことから,微細析出物による再結晶温度の上昇代を概ね評価出来ていると言える。即ち,Cu添加フェライト系ステンレス鋼の再結晶挙動には,熱処理過程でのε-Cuのサイズおよび体積率変化が大きく影響することが判明した。また,SGモデルにThermo-Calc.とDICTRAを活用した本手法により,再結晶挙動に及ぼす析出物の影響を定量的に把握出来,合金添加量や冷延素材の析出状態によって,適正な焼鈍温度や保持時間の設定ならびに再結晶粒径の予測が概ね可能になる。一方,実際の再結晶過程では不均一に再結晶が進行するが,この要因の一つとして結晶方位の影響が挙げられており,Senumaら69,70)はSGモデルにおいて結晶方位の影響を3パターンに分けてモデル化している。今後は,本研究で用いた様に析出物の影響が強く生じる合金鋼に対する結晶方位を考慮したモデル化,再結晶集合組織および材質予測への発展が必要と考えられる。
Calculated grain diameter obtained using SG model, with assumptions of volume fraction and diameter for particle uniformity.
Simulation of Cu particle growth at 800-870°C in 1.5% Cu steels using the software DICTRA.
Calculated grain diameter obtained using SG model considering changes in volume fraction of particle using the software Thermo-Calc. and diameter of particle using the software DICTRA.
Cuを含有する17%Cr添加フェライト系ステンレス冷延鋼板の再結晶挙動に関して,Cu析出挙動や析出形態に着眼して検討した結果,以下の結論を得た。
(1)冷延前にCuが過飽和に固溶している場合,1%以上Cuを含有する鋼の再結晶温度は高温化する。これは,冷延板の熱処理過程で微細なε-Cuが析出することによって再結晶が遅延すると考えられる。
(2)1.5%Cu添加鋼において,冷延前に短時間時効処理を施して微細(平均直径28 nm)なε-Cuを析出させた場合の再結晶挙動は,Cuが過飽和に固溶している場合と同様である。一方,冷延前に長時間時効処理を施してε-Cuを粗大析出(平均直径147 nm)させた場合,冷延板の再結晶温度は低温化し,Cu無添加鋼の再結晶挙動に近くなる。また,Cu無添加鋼に比べてCu添加鋼は再結晶集合組織(γ-fiber)の発達が弱くなるが,冷延前の長時間時効処理によってγ-fiberが発達する。
(3)サブグレイン(SG)成長モデルをベースにThermo-Calc.とDICTRAを併用してε-Cu析出状態(体積率,粒子径)の温度変化を考慮することにより,再結晶挙動に及ぼすε-Cuの影響を定量的に把握することが可能である。