2016 Volume 102 Issue 3 Pages 105
本特集号は,平成24年度より活動を行ってきた「電磁振動印加時の物理現象解明」研究会の成果をまとめたものである。凝固や精錬などの高温プロセスにおいて,溶質分布や温度分布は流動を通して制御可能である。流動は均一な外力を与えても生じない。力の向きとは直交方向に力の大きさが変化するような状態を作り出すことで,流動は誘起される。例えば,無限に拡がった平行平板間の液体に,平板と平行方向の外力を均一に加えても流動は起きないが,平板と直交方向に外力の勾配があれば,流動は生じる。平板(固体)表面では流速ゼロなので,外力勾配が同一ならば平板間距離が短くなるほど流速は低下する。故に,代表長さが小さくなるほど流動の誘起は困難となる。一方,振動はその波長のスケールで振動する物理量(運動や力など)の向きが変わる。そこで,我々は振動に着目した。研究会では,交流電磁場による電磁振動と超音波とを取り上げ,振動印加時に生じる流動,液相中の第2相挙動や凝固組織に与える影響など,物理現象を基礎的な観点から明らかにすべく研究を進めてきた。従って,今日,明日にでも,あるいは近未来に本成果を現場で利用する段階には至っておらず,本成果を工業的に利用するには,まだまだ,通電方法や超音波の照射方法など,解決すべき問題が多々ある。しかしながら,何もしないと未来は開けない。研究会設立をお認め頂いた日本鉄鋼協会の度量の大きさに感謝する次第である。ブレークスルーした暁には,デンドライト樹間や高固相率での流動誘起が可能となり,結晶粒制御,等軸晶率増加,溶質濃度分布制御により偏析低減や析出物制御,元素の過剰添加抑制,熱処理時間の短縮,介在物凝集による鋼の高清浄化など,様々なことが期待できる。まだまだ,やるべきこと,やり残したことは山ほどあるが,千里の道も一歩から,である。ここで得られた成果が礎となり,将来の研究,あるいは技術の一翼を担っているのであれば,望外の喜びである。