Tetsu-to-Hagane
Online ISSN : 1883-2954
Print ISSN : 0021-1575
ISSN-L : 0021-1575
Regular Article
In situ Observation of Dendrite Growth in Sn-Bi Alloys under Ultrasonic Vibration Using Time-resolved X-ray Imaging
Tomoya NagiraNoriaki NakatsukaHideyuki YasudaKentaro UesugiAkihisa Takeuchi
Author information
JOURNAL OPEN ACCESS FULL-TEXT HTML

2016 Volume 102 Issue 3 Pages 170-178

Details
Synopsis:

Time-resolved X-ray imaging has been adopted to directly observe the microstructural evolution under the influence of ultrasonic vibration in Sn-21 mass%Bi alloys. Simultaneously with the circulating convection ahead of dendrite tips (10 mm/s), the longitudinal oscillation of dendrites with low frequency (~20 Hz) occurred immediately after an imposition of ultrasonic vibration. The convection ahead of dendrites caused morphological change from dendritic to cellular at the dendrite tip, where the fragmentation rarely occurred. The tip radius of primary dendrite is approximately 3.5 times as large as that prior to the ultrasonic vibration. The growth velocity remarkably decreased due to the promotion of heat flow. In the mushy region, where the dendrite morphology remained mostly unchanged, the fragmentation of primary and secondary arms occurred. Some detached dendrite arms moved to the downstream side along the convection oscillating in the mushy region. The dendrite fragmentation frequently occurred in the downstream side. It is likely that the agitation of liquid induced by the dendrite oscillation as well as high accumulation of solute contributed to the frequent dendrite fragmentation. The solute concentration distribution indicated that the difference in the solute concentration of liquid flowing into the mushy region caused microstructural changes, such as dendrite fragmentation and change in the solid fraction.

1. 諸言

一般的に,鋳造プロセスにおける凝固組織の微細化手法として,冷却速度の制御により核生成数を増加させる急冷凝固法だけでなく,核生成を促進させる接種剤の添加,デンドライトアームの溶断を促進させる電磁撹拌・機械撹拌などが挙げられる1)。近年,凝固組織の微細化が期待できるとして,静磁場と交流電流を重畳させた電磁振動1,2,3)や20 kHz以上の超音波振動の印加4,5,6)が注目されている。超音波振動の印加は,凝固組織の微細化だけでなく,偏析の抑制や介在物の除去などの効果も期待され,古くから数多くの研究が行われている4,5,6)。これまでに,Al合金やMg合金などへの適用が行われ,キャビテーションによる核生成の誘起4,5),音響流やキャビテーションによるデンドライトアームの溶断5)といった微細化機構が提案されている。しかしながら,超音波振動の効果を直接観察・測定することは困難であり,確固たる微細化機構が存在しないのが現状である。

融液に超音波振動を印加すると,超音波振動子から融液中に超音波が伝播すると同時に,超音波を融液に伝達するホーンを源とした音響流が生じる4)。つまり,超音波振動をデンドライト成長過程の融液に印加すると,超音波の周波数でデンドライトが振動すると同時に,デンドライト先端から背後の固液共存領域に音響流(対流)が生じる。前者は,1次効果,後者は2次効果と呼ばれる。また,融液中に印加した超音波の干渉は,るつぼやデンドライト組織などのスケールにも影響されながら,超音波の周波数よりも低い周波数での振動も発生する可能性がある。

一次効果では,振幅が小さいが周波数は高く,粘性の低い融液はデンドライトの振動と一致しないため,デンドライト近傍の溶質輸送に影響を及ぼす可能性がある。一方,2次効果では,音響流によって誘起された固液共存領域の流動は,デンドライトアームのスケールを超えて,熱・物質を輸送するため,マクロな温度場や濃度場を変化させ,デンドライト成長やデンドライトアームの溶断に影響を及ぼすと考えられる。従来の凝固後の組織観察では,1次効果と2次効果を区別することは困難である。これらの影響を個々に検証することが出来れば,微細化機構の解明だけでなく,実証的な知見に基づいた新たな凝固組織制御手法の提案にも繋がると期待される。

近年,第三世代放射光施設において,時間分解X線イメージングを利用して金属合金のデンドライト成長,溶断,相変態などの様々な凝固現象が可視化可能となってきた7,8,9,10)。さらに,固液共存状態の組織の変形現象11,12)や電磁場13),超音波振動14,15,16,17)などの様々な外場下での組織形成のその場観察も活発に行われ,その適用範囲は拡大している。ただし,超音波振動下でのその場観察に関しては,キャビテーションの挙動解明やキャビテーションの微細化への寄与といった研究に限定されている14,15,17)

X線イメージングを利用して超音波振動下で,Sn-Bi合金のデンドライト成長過程をその場観察する手法が開発され,音響流が凝固組織に及ぼす影響(2次効果)が報告されている16)。音響流によって,固液界面前方を循環する対流が発生するだけでなく,約40 Hzの低周波数のデンドライトの縦振動を起こすことが示された。その結果,キャビテーションが起こらない条件下においても,音響流は,デンドライトアームの溶断頻度を増加させ,凝固組織を著しく変化させることが明らかになった。ただし,この観察はデンドライト成長がほぼ停止した条件での観察であり,また,試料の大きさ(10 mm×23 mm)よりも,観察視野が5 mm角と小さいため,局所的な組織変化のみしか観察されていない。

本研究では,先の研究16)に比べて幅の狭い試料とし,対流のドメインも観察領域に含める条件下でデンドライト成長のその場観察を行い,超音波振動によって誘起される音響流(2次効果)が組織形成に与える影響について報告する。また,超音波振動下での固液共存領域の濃度分布を透過X線強度の変化から評価し,凝固組織形成との関係についても報告する。

2. 実験方法

2・1 超音波振動下でのデンドライト成長のその場観察

純度99.99%のSnとBiを用いてSn-21 mass%Bi組成となるように秤量し,アルミナ坩堝中で真空溶解させ,母合金を得た。Snの吸収端以下である29 keV以下の単色光を用いた透過X線像では,Snリッチの固相とBiリッチの液相の間に大きなコントラストが生じ,凝固組織の観察が容易である。また,この組成の試料では,一方向凝固により,柱状晶が形成されるとともに,デンドライトアームの溶断が起こることも知られている8)。このような理由から,Sn-21 mass%Bi組成を選択した。

超音波振動下でのその場観察用の装置の外観をFig.1(a)に示す。カーボンヒータを用いた炉,Z軸ステージと連結した超音波振動子,先端のチップ径が2 mmの超音波ホーンから成る。超音波振動子は,温度上昇による損傷を防止するために,水冷されている。炉には,X線ビームを通過させるために上流側と下流側に穴が設けてあるが,観察領域では,下部から上部に向かって高温となり,鉛直上向きに一方向凝固が可能となっている。超音波印加下で,組織形成を観察するための試料セルの模式図をFig.1(b)に示す。試料セルは,超音波ホーンを溶湯中に浸漬させるための上部の試料浴と下部の観察用試料から成る。セル内部で試料浴と観察用試料は,連結されており,超音波ホーンからの振動が,下部の観察領域に伝播される。実験中,試料浴は全て液相である。上部の試料浴の大きさは,幅24 mm,高さ22 mm,厚さ8 mmであり,試料の大きさは,幅4 mm,長さ23 mm,厚さ300 μmである。

Fig. 1.

 Setup for in-situ observation of dendrite growth in Sn-Bi alloys under ultrasonic vibration16). (a) Furnace, ultrasonic transducer, and ultrasonic horn and (b) schematic of specimen cell, located in the furnace.

観察領域の下部からSn-Bi合金の試料を冷却速度5 K/minで凝固させ,柱状晶のデンドライトの先端が,超音波ホーンのチップ先端から約2 mmまで達した時,20 kHzの周波数(f)の超音波振動を印加した。波長(λ=c/f)は,200°CでのSn-Bi合金における音速(c≈1900 m/s)18)を用いると,約100 mmである。試料の長手方向の長さ(23 mm)よりも大きいため,本実験の試料セル内には,定在波は形成しない。

時間分解X線イメージングを利用したその場観察の実験は,放射光施設SPring-8のビームライン20XUで行った。透過像のコントラストが最良となるように,X線エネルギーを29.0 keVに設定した。CMOS型カメラを用いたビームモニタにより透過像を撮影した19)。ピクセルサイズは6.49 μm,観察視野は約5.0 mm角,フレームレートはおよそ100 fpsである。

2・2 透過X線強度を利用した液相濃度,固相分布の評価

透過X線強度を利用して,濃度分布あるいは固相分布を以下の手順で評価した。超音波印加前の固液界面から十分離れた液相(初期組成)の透過X線強度I0Lおよび固液共存領域の液相の透過X線強度ILは,入射X線強度I0,線吸収係数μ,厚さt(ここでは一定とする)を用いて,それぞれ次式で表される。   

IL0=I0e(μcelltcell)e(μ0talloy)(2.1)
  
IL=I0e(μcelltcell)e(μtalloy)(2.2)

ここで線吸収係数と厚さの添え字のcell,alloyは,それぞれ試料セル,試料を示す。式(2.1),(2.2)より,線吸収係数の相対的な変化は,   

μμ0μ0=lnIL0lnILlnIL0(2.3)

となる。初期組成である平均の質量分率の透過X線強度を基準にして,相対的な線吸収係数の変化を定量的に求めることが出来る。

Sn-Bi合金の単相(液相もしくは固相)の線吸収係数μは,構成元素の質量吸収係数(μ/ρ),平均の密度ρ,質量分率cを用いると,次式となる。   

μ=ρ[(1c)(μρ)Sn+c(μρ)Bi](2.4)

X線が液相のみを透過する領域を考える。平均質量分率からの組成変化が小さく,液相密度の変化も質量分率の差に比例すると近似できるとすると,   

ρ=ρ0+(ρc)0Δc(2.5)

となる。Δcは,平均質量分率c0からの差分であり,平均質量分率の液相密度をρ0としている。式(2.3),(2.4)から,   

Δμμ0=μμ0μ0=ρ[(1c)(μρ)Sn+c(μρ)Bi]ρ0[(1c0)(μρ)Sn+c0(μρ)Bi]ρ0[(1c0)(μρ)Sn+c0(μρ)Bi](2.6)

式(2.5)を代入して,整理すると次式となる。   

Δμμ0=Δc[1ρ0(ρc)0+(μρ)Sn+(μρ)Bi(1c0)(μρ)Sn+c0(μρ)Bi]+(Δc)21ρ0(ρc)0(μρ)Sn+(μρ)Bi(1c0)(μρ)Sn+c0(μρ)Bi(2.7)

観察に用いた合金のc0は,0.21である。また,液相密度および液相密度の質量分率は,Snの液相密度(7.00×103 kg/m3)20),Biの液相密度(10.07×103 kg/m3)20)を質量分率で単純に内挿して,それぞれ,   

ρ0=(1c)ρSn+cρBi=7.7×103kg/m3
  
(ρc)0=3×103kg/m3

と概算した。X線エネルギーが29 keVの場合,SnおよびBiの質量吸収係数は,それぞれ0.78,3.4 m2/kgである21)。これらの値を式(2.7)に代入すると,   

Δμμ0=2.4(Δc)+0.78(Δc)2(2.8)

となる。密度など近似・推定値の誤差を考慮しても,例えばΔcが0.1(10 mass%)程度であれば,式(2.8)の右辺の第1項が支配的であり,線吸収係数の相対的な変化は,質量分率の変化に比例する。従って,液相のみの領域では,線吸収係数の変化からBi濃度の変化を計測することができる。

次に,X線が固相を通過する領域について考える。状態図20)より,平均濃度Sn-21 mass%Biの液相と平衡する固相の濃度は,およそ7%である。Sn-7 mass%Bi合金の固相密度を純物質の固相密度から単純に内挿して求めると,7.6×103 kg/m3となる。これらの値を用いて,Sn-7 mass%Biの合金の固相とSn-21 mass%Biの合金の液相の線吸収係数は,それぞれ8.1 m−1,10.1 m−1と概算できる。従って,Sn-21 mass%Biの液相の線吸収係数に対するSn-7 mass%Biの固相の線吸収係数の相対的な差Δμ/μは,およそ−0.2となる。式(2.8)と比較すると,液相中のΔc=8 mass%Biの濃度変化に対応している。固液共存領域では,線吸収係数の変化により,固相率の増加・減少を定性的に観察することが可能である。

3. 実験結果および考察

3・1 超音波振動下でのデンドライト成長

Fig.2(a)に,超音波振動印加前のX線透過像を示す。観察視野は,試料幅(4 mm)よりも大きいため,幅方向は,試料の全体を観察している。デンドライトの一次アームが,鉛直方向に対して約30°傾斜して,成長している。平均の一次アームおよび二次アーム間隔(先端から約500 μm下方の領域で測定)は,それぞれ400 μm,40 μmである。試料厚さが300 μmであるため,デンドライトの一次アームは,厚さ方向に一層分のみである。超音波振動を印加すると同時に,デンドライトエンベロープ(デンドライト先端を結んだ境界)前方の音響流の発生と,デンドライトの振動が起こった。ただし,気泡の発生・破裂といったキャビテーションは観察されなかった。超音波振動印加から10.585秒において,Fig.2(b)に示すように,先端から約170 μmの位置でデンドライトの一次アームが溶断し(Detached dendrite 1),溶断したデンドライトアームが,Fig.2(c)のように固液界面前方の対流に沿って,右方向に直線的に移動した。本実験において,溶断したデンドライトアームが定常的に移動する速度は,およそ10 mm/sであり,定常状態では溶断したデンドライトの移動速度と液相の流動速度は等しいことから,デンドライトエンベロープ付近の音響流の速度は,10 mm/sと評価された。過去の研究で,水溶液中で測定された音響流の流速22,23)よりも一桁程度小さい値であった。試料厚さが300 μmであるため,壁面による粘性抵抗が大きくなっているため,音響流の流速が低下している可能性がある。

Fig. 2.

 (a)-(c) Sequence of dendrite growth under ultrasonic vibration. Detached dendrite 1 is indicated by black arrow in (b) and (c). (d) Time dependence of the x- and y- displacements of undetached dendrite 1 under ultrasonic vibration.

Fig.2(a)に示す溶断していないデンドライト(Undetached dendrite 1)の運動を解析した。透過像において,水平右方向を+x方向,鉛直上向きを+y方向として,超音波印加直後からのデンドライトのx,y位置の時間変化をFig.2(d)に示す。x,y位置ともに,約10 μmの振幅で変動しており,反時計方向に傾斜して振動していた。また,この振動の周期は,約20 Hzであった。音響流によるデンドライトエンベロープ付近の流動と,超音波の周波数と比べて数十Hzの低周波数のデンドライトの振動の発生は,過去の超音波振動下でのその場観察の研究結果16)と同様であった。デンドライトの振動は,Fig.2(d)と同じであるとすると,振幅(A)10 μm,周波数(f)20 Hzから,デンドライトアームの振動の最大速度(Vmax=A×2πf)は,約1.2 mm/sである。振動の速度は,音響流の流速の約1/10であり,この観察領域では,音響流による物質移動が支配的であると考えられる。

Fig.2(a)の丸印で示したPoint Aにおけるデンドライト先端のy方向(鉛直上向き)の位置の時間変化をFig.3に示す。ここで超音波振動印加の開始時間,位置をそれぞれ0 s,0 μmと定義する。超音波印加前は,ほぼ一定の速度で,先端位置は上昇した。この時の界面の移動速度は,約6 μm/sであった。超音波振動印加後,デンドライトの先端位置は,低温側の下部へと後退した。これは,音響流によって,デンドライトエンベロープ前方からの熱の輸送量の増加によって,デンドライト先端が溶解したためである。超音波振動の印加開始から約11秒後に界面の溶解は,ほぼ停止し,その後デンドライト先端位置が再び上昇した。界面の移動速度は約0.6 μm/sであり,超音波印加前と比べて約一桁小さい値であった。

Fig. 3.

 Time dependence of y-position at the dendrite tip.

超音波印加後,Figs.2(a)−(c)に示すようにデンドライト先端付近において,超音波印加前のデンドライト状の形態(Fig.2(a))から,セル状に近い形態(Figs.2(b)−(c))へと変化していた。Figs.4(a)−(d)Fig.2(b)中の四角で囲まれたデンドライト先端付近の拡大図を示す。超音波印加後,二次アームなど高次のアームが発達せず,一次アームの先端が粗大なセル状の形態に変化していた。また,流動に対して,ほぼ垂直方向に成長していた。Fig.4(a)のDendrite Aと示したデンドライト先端の曲率半径の時間変化をFig.4(e)に示す。超音波印加前(Fig.4(a))の曲率半径は,約13 μmであったが,超音波印加後に,曲率半径は時間経過ともに線形的に増大し,約8秒後にはほぼ一定値(約46 μm)を示した。超音波印加直前と比べて,約3.5倍大きくなった。

Fig. 4.

 (a)-(d) Expanded views of dendrite tip in the black box in Fig.2(b). (e) Tip radius of dendrite A plotted against time.

超音波振動の印加により,デンドライト先端の曲率半径が増大した原因の可能性として二つ挙げられる。一つは,上部からの熱流束の増加によるデンドライトの成長速度の低下である。もう一つは,デンドライトエンベロープ付近の音響流による固液界面前方に排出された溶質Biの輸送量の促進,つまり,みかけの拡散係数の増加である。一般的にデンドライト先端の曲率半径は,中立安定条件の波長と相関している。合金の一方向凝固における先端の曲率半径Rは,中立安定条件を用いて,およそ次式で表される24)。   

R=[ΓmGcG]1/2(3.1)
  
GcVD(3.2)

ここで,Γはギブストムソン係数,mは液相線勾配,Gcは先端での濃度勾配,Gは温度勾配,Dは拡散係数である。速度Vの低下および拡散係数Dの増加は,いずれも先端の濃度勾配を低下させ,曲率半径を増加させる。その場観察では,デンドライトの成長速度は,超音波の印加により,1/10になっており,曲率半径は,約3倍程度になると推定される。その場観察では,Fig.4(e)に示すように,3.5倍となっており,上部からの熱流入による成長速度の低下だけでなく,みかけの拡散係数の増加の寄与も含まれている可能性がある。

3・2 超音波振動下でのデンドライトアームの溶断

Figs.5(a),(b),(c)に超音波印加直後(0秒),10.338秒後および22.182秒後のX線透過像をそれぞれ示す。Figs.5(a),(b)中の丸印(赤)は,それぞれ0秒から10.338秒間,および10.338秒から22.182秒間にデンドライトアームが主に溶断した箇所である。溶断頻度の高い領域は,対流の下流側であった。3・4節において後述するが,対流によって,下流側では,Bi濃度の高い液相が輸送されたことが,下流側にデンドライトアームの溶断が集中している理由である。デンドライト先端の領域は,3・1節で述べたように,超音波印加後,対流によって促進された熱流束の影響により,デンドライト先端の領域が溶解し,その後,デンドライトアームが発達していないセル状に近い組織が徐々に発達する。デンドライト先端が溶解する間(超音波印加から約10秒後)は,わずかに溶断は,観察されたが,約10秒後以降は,Fig.5(b)の溶断箇所の分布(約10秒から20秒間)から分かるように,セル状に近い組織が発達すると,先端付近では,ほとんど溶断が起こらなくなった。つまり,対流による溶質輸送や粗大化が起こっているが,デンドライトの形態を保持した固液共存領域で溶断が頻繁に起きていた。Fig.5(b)中の点線枠内で発生した主な溶断過程のスナップショットをFigs.5(d)−(g)に示す。図中の矢印が主に溶断した箇所である。二次アームの溶断が優先的に起こり(Figs.5(d)−(e)),溶断したデンドライトアームは,固液共存領域内の対流に沿って,右方向に徐々に移動した。二次アームが溶断した領域の液相率が増加するため,その領域での流動が促進された結果,一次アームの溶断(Fig.5(f))や周囲の二次アームの溶断(Fig.5(g))が起こった。本実験におけるデンドライトアームの溶断機構は,過去の研究8,16,25,26)と同様に,アーム根元での再溶解であると考えられる。デンドライトエンベロープ付近では,音響流は,左から右に向かう流れである。試料の左側では,高温側から低温側に向かう流れであり,デンドライトエンベロープ前方から,溶質濃度の低い液相が固液共存領域に輸送される。また,固液共存領域中では,高温側の溶質濃度の低い液相が低温側に輸送される。一方,試料の右側では低温側から高温側に向かう流れが形成され,固液共存領域では,溶質濃度の高い液相が輸送される。この時,固液共存領域内では,デンドライトアームの根元などの相対的に曲率半径の小さい領域で,溶質の濃化により局所的に再溶解が起こり,根元のくびれが加速度的に促進され,最終的にデンドライトアームの溶断に至る。

Fig. 5.

 Microstructures before (a) and after the imposition of ultrasonic vibration at (b) 10.388 s and (c) 22.182 s. The location of each detachment of dendrite arm is indicated by a red circle. (d)-(g) Sequence of dendrite fragmentation event in the rectangle in (b).(Online version in color.)

超音波振動の場合,音響流による溶質の輸送に加えて,低周波数のデンドライトの縦振動によって,固液共存領域内において,液相の局所的な撹拌が起こり,溶質分布に影響を与える。Liottiら13)は,パルス電磁場によって誘起された1 Hzの振動がデンドライトアームの溶断に与える影響について調べている。振動効果による固液共存領域内での液相の局所的な運動が,アームの根元の再溶解を促進させ,溶断頻度が増加したと報告している。Fig.6は,デンドライトアームのくびれた部分の模式図である。アームのくびれが進行する過程において,界面の局所平衡が成立する場合,点Aから点Bにむけて界面のBi濃度が低下する。この濃度勾配に従ってBiが輸送されると,B点のくびれが進行して溶断に至る。つまり,流動がない場合,くびれの速度は,界面付近の拡散が律速する。観察された10 μm程度の振幅の振動は,デンドライトアームのスケールで液相の撹拌を起こすため,アームの溶断を促進すると考えられる。従って,本研究では数十Hz程度の低周波数のデンドライトの振動もアームの溶断に寄与していると考えられる。

Fig. 6.

 Schematic of dendrite arm fragmentation.

3・3 固液共存領域での流動と振動

溶断したデンドライトアームの移動から流動を間接的に評価できる。溶断したデンドライトアームは,周囲のデンドライトに拘束されて,その周辺で留まるか,もしくは対流に沿って,下流側に移動し,デンドライトエンベロープ前方へと上昇する二種類のケースがあった。Figs.7(a),(b)に,溶断したデンドライトアームが留まった場合と,移動した場合とにおけるxとy位置の時間変化をそれぞれ示す。Fig.7(a)に示した約70 μmの大きさの溶断したデンドライトアーム(Detached dendrite 1)は,周囲のデンドライトと衝突しながら,振動していた。Fig.7(c)に示すように,x位置は,2.5秒後に音響流の下流方向に25 μm程度移動したのみである。y位置は,30 μm~40 μm範囲で変動しており,20-50 Hzの周期で運動していた。これは,3・1節で述べた振動と一致している。一方,Fig.7(b)に示した約90 μmの大きさの溶断したデンドライトアーム(Detached dendrite 2)は,時間とともに下流側に移動していた。この時の移動の軌跡を同図中に示す。Fig.7(d)に示すように,y方向は周期的に変動しており,約30 Hzで縦振動していた。デンドライトアームの運動の軌跡は,常に縦振動しながら,対流に沿って,徐々に右方向に移動した後,デンドライトエンベロープ前方に移動した。このデンドライト内部での右方向への移動速度は,約0.6 mm/sであり,デンドライトエンベロープ前方の音響流の対流と比較して,約一桁小さい値であった。溶断したデンドライトアームが音響流に沿って,単純に移動するだけでなく,振幅が大きい低周波数の振動が起こり,凝固組織形成に影響を及ぼすことが明らかとなった。

Fig. 7.

 (a)-(b) Snapshots of detached dendrite arms after an imposition of ultrasonic vibration. (c)-(d) Time dependence of the x- and y-displacements in the detached dendrites.

固液共存領域の固相率は,溶断の起こる領域を理解するために必要である。そこで,Fig.5(a)中の点線枠内での領域の超音波印加前の固相率を三次元空間で算出した。100%液相,100%固相および固液共存領域を通過したX線透過強度をそれぞれ,ILISISLとする。ある領域Dの固相率[gs]Dは,試料の厚さが一定の時,次式で表される27)。   

[gS]D=lnISLlnILlnISlnIL(3.3)

透過X線強度から算出した固相率は,約20%であり,固液共存領域の液相透過率は,比較的高く,容易に流動が起こる領域である。ここで,固液共存領域内におけるデンドライトアームの振動による流動を考える。3・1節で述べたように,振幅10 μm,周波数20 Hzのデンドライトの振動の場合,最大速度は,約1.2 mm/sである。周波数20 Hzでデンドライトが縦振動している場合,平板表面の流速の境界層厚さ(δ)は,以下の式で表される28)。   

δ=2μρω(3.4)

ここで,μは粘性係数,ρは密度,ω(=2πf)は振動数である。400°CでのSn-Bi合金の粘度(約1.4 mPa・s)29),200°CでのSn-21 mass%Biの液相密度(7.4×103 kg/m3)20)を用いると,境界層厚さは,約55 μmとなる。デンドライトの一次アーム間隔の1/7程度であり,二次アーム間隔(40 μm)よりも大きい。この時,一次アーム間の物質輸送は,拡散律速から流動律速に変化し,デンドライトアームの振動も撹拌に寄与できることが分かる。

3・4 超音波振動印加による液相濃度分布,固相分布の変化

2・2節で述べた方法により,線吸収係数の相対的な変化から,液相濃度分布および固相分布を評価した。Figs.8(a),(b)に,超音波振動印加直前のX線透過像と超音波振動印加から22.182秒のX線透過像をそれぞれ示す。X線透過像は,入射X線強度で規格化している。右端のデンドライトエンベロープ付近の領域は,溶断したデンドライトアームが固液界面上方へと移動したことによって,溶質が濃化した液相に変化している。Figs.8(c),(d)に,平均質量分率の液相に対する線吸収係数の相対的な変化を示す。試料周辺の厚さが薄くなっている領域(図の縁の青色の領域)を除いて,液相濃度,固相分布を反映したコンター図となっている。デンドライトエンベロープ前方では,Δμ/μが0.01程度増加しており,わずかにBi濃度が増加している。デンドライトエンベロープの背後において,試料左側では,固相が増加し,試料右側で固相は減少している。また,デンドライトエンベロープから数mm下部の領域において,複数の一次アーム間で液相が集中している。いずれの現象も音響流に起因した固液共存領域の流動が引き起こした現象である。

Fig. 8.

 Microstructures of (a) before and (b) after imposition of ultrasonic vibration at 22.182 s. (c) and (d) Contour maps showing the liquid concentration and the solid fraction in (a) and (b), respectively.

Fig.9は,音響流により生じた固液共存領域の流動の模式図である。等温面も同図中に模式的に表している。固液共存領域の液相濃度は,固液界面で平衡が成り立っている場合,温度により決まる。拡散を無視すると,流動による質量保存は,   

ct=Vgrad(c)=1mVgrad(T)(3.5)

Fig. 9.

 Schematic of melt flow induced by ultrasonic vibration in the mushy zone. (Online version in color.)

となる。ここで,Vは流速ベクトル,mは液相線勾配(Sn-Bi系のSn-rich側では負)である。流速ベクトルと温度勾配ベクトルの内積が正の場合,高濃度の液相が流入し,内積が負の場合,低濃度の液相が流入することを示している。Fig.8に示すように,デンドライトエンベロープの背後において,流速ベクトルと温度勾配ベクトルの内積は,左側では負,右側では正である。従って,左側ではより凝固が進行し,右側では溶解が進むことになり,観察結果と一致する。また,3・2節で述べたように,デンドライトアームの溶断は,試料の右側で頻繁に発生しており,高濃度の液相の流入が溶断の促進に寄与している。また,右端の溶断により,固相がなくなった領域の線吸収係数の相対的な変化は,0.03程度であり,式(2.8)によりこの領域のBiの質量分率は,平均質量分率に比べて,0.01-0.02程度増加している。

デンドライトエンベロープから数mm下部の領域において,一次アーム間に液相が集中している傾向は,チャンネル偏析30)の生成機構と基本的に同じである。固液共存領域の流動では,粘性抵抗が低くなる流路が形成され,さらに流路に液相が流入することにより,流路が拡大する。音響流により生じた固液共存領域においてもこのような現象が生じて,特定の一次アーム間を優先的に流動する組織変化が生じたと考えられる。

4. 結言

本研究では,時間分解X線イメージングを利用して,Sn-21 mass%Bi合金を対象に超音波振動下でのデンドライト成長のその場観察を行い,超音波振動によって誘起された音響流(2次効果)およびその音響流が凝固組織に与える影響について調べた。

超音波振動印加と同時に,デンドライトエンベロープ前方で10 mm/sの循環する対流(音響流)と約20 Hzの超音波の周波数よりも低周波数でのデンドライトの振動が起こった。

デンドライトエンベロープ前方からの熱流束の増加により,デンドライトの成長界面は,超音波印加前と比べて約一桁低下した。デンドライト先端において,樹枝状のデンドライトの形態から,超音波印加後に高次のアームの発達のないセル状に近い形態に遷移した。定常状態においてデンドライトの先端の曲率半径は,約3.5倍増大した。このセル状に遷移した領域では,デンドライトアームの溶断はほとんど起こらなかった。

対流による固相率の変化やデンドライトの粗大化は起こっているが,デンドライト形状が保持された固液共存領域内において,超音波印加により一次,二次アームの溶断が起きていた。溶断したデンドライトアームの一部は,音響流の影響により,振動しながら,下流側に移動し,デンドライトエンベロープ前方に移動した。低温側から高温側に液相が流動し,高濃度の液相が流入する音響流の下流側でデンドライトアームの溶断が頻繁に起きていた。音響流によるデンドライトエンベロープ前方での流動だけでなく,低周波数でのデンドライトの振動による液相の撹拌もデンドライトアームの溶断に寄与している可能性がある。

透過X線強度を利用した液相濃度,固相分布から,固液共存領域において,音響流の上流側,下流側では,それぞれ高温側から低温側への流れ,低温側から高温側への流れとなり,流入する液相の溶質濃度の違いが,デンドライトアームの溶断や固相率の変化など組織形成に影響を及ぼしていた。

謝辞

本研究は,SPring-8 のBL20XUにて実施した一般研究課題(課題番号:2012B1174,2013A1351,2014A1251,2015A1177)のビームタイムを使用した。また,科学研究費補助金基盤研究(S)(課題番号:24226018)の成果であるその場観察手法および,その知見を超音波振動下での凝固その場観察に展開した科学研究費補助金挑戦的萌芽研究(課題番号:15K14194)の成果を含んでいる。これらの助成に対して深く感謝いたします。

文献
 
© 2016 The Iron and Steel Institute of Japan

This article is licensed under a Creative Commons [Attribution-NonCommercial-NoDerivatives 4.0 International] license.
https://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/4.0/
feedback
Top