Tetsu-to-Hagane
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Influence of Gas Injection Pipe on CO2 Decomposition by CaCl2-CaO Molten Salt and ZrO2 Solid Electrolysis
Sumito OzawaHidetoshi MatsunoAkio FujibayashiTakuya UchiyamaTakafumi WakamatsuNorihito SakaguchiRyosuke O. Suzuki
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2016 Volume 102 Issue 4 Pages 219-225

Details
Synopsis:

The electrochemical decomposition of carbon dioxide to form carbon and oxygen gas was studied in CaCl2-CaO molten salt. The water model experiment was carried out to study on the influence of the tip shape of the pipe, the pipe diameter and wettability to the gas injection pipe for the bubble shape in molten salt. Bubbles were formed in both conditions of horizontal and oblique tip with good wettability of the gas injection pipe. The specific surface area of bubble using oblique tip of the pipe was smaller than horizontal tip. On the other hand, slug flows appeared with poor wettability. In the hot mode experiment, the current density was measured, and the carbon dioxide gas concentration decreased. The carbons were detected from the sample after the experiment. The decrease of carbon dioxide gas concentration using oblique tip were more remarkable than the case using horizontal tip with the same pipe. It is likely that the form of carbon dioxide gases in the molten salt were bubbles shape.

1. 背景

二酸化炭素の増加による地球温暖化が国際的な問題として大きく取り上げられており,その排出量を削減することが全世界的な課題となっている。日本の平成24年度における二酸化炭素排出量は約12億7,600万tonであり,鉄鋼業での排出量は約1億5,000万tonであり全体の11.6%を占める1)

二酸化炭素の発生を伴わない水素による鉄鉱石の還元については幾つか報告がなされているが,吸熱反応などの問題点があり2)商業化までには至っておらず,しばらくの間は炭素による鉄鉱石還元が主流であると考えられる。炭素還元を用いている日本の鉄鋼業は1970年代に二度の石油危機を経験し,それ以降,リジェネレーティブバーナ化による省エネルギー化やコークス乾式消火法(Coke Dry Quenching)導入による排エネルギー回収を行っており3),省炭素の観点からも,我が国の製鉄技術は世界最先端の水準を追求している。

製鉄所における鉄鋼生産においては,種々のプロセスにおいて二酸化炭素が発生するが,最大の発生源は高炉プロセスであり,発生由来は,酸化鉄である鉄鉱石を還元材の炭素により還元し,鉄鉱石中の酸素を除去することに起因する。

日本では2008年度から革新的製鉄プロセス技術開発(COURSE50)において高炉から発生する二酸化炭素の回収技術をも開発しており,今後は回収した二酸化炭素の用途を検討していく必要がある。回収した二酸化炭素については,例えば,地中に埋める技術,いわゆるCCS(Carbon dioxide Capture and Storage)が欧州や米国,日本などを中心に盛んに研究されているが,今後は二酸化炭素の再利用技術,いわゆるCCU(Carbon Capture and Utilization)が期待される。二酸化炭素を効率良く炭素と酸素に分解することが出来れば,それぞれ資源としてリサイクルすることが可能である。特に鉄鋼業界においては,炭素は鉄鉱石の還元剤,酸素は転炉の吹き込みガスとして利用できる。

著者らは,先行研究において溶融の電解とZrO2固体電解質を用いるCO2ガスの分解に関する提案4,5,6,7,8,9)を行った。これは難還元性金属酸化物であるチタン酸化物(TiO2)の新製錬法であるCaO電解・Ca熱還元一体型(OS法)10)を応用したものである。本発明におけるCO2ガス分解反応における投入エネルギーは,CaO電解の電気エネルギーとCa熱還元の熱エネルギーである。CO2発生場所と排熱発生場所である工場が近いことから,熱エネルギーに排熱を利用でき,本発明は製鉄所に有利である。電気エネルギーについても,太陽光や風力などの再生可能エネルギーを利用することで,新規投入エネルギーが少ないCO2分解プロセス確立の可能性がある。特に,本プロセスに利用する電気エネルギーは直流であり,直流発電が主流である再生可能エネルギーの直接利用に有効である。

Fig.1は先行研究4,5,6,7,8,9)における分解メカニズム5,6)を,溶融塩としてCaCl2を用いた場合の模式図である。まず,CaCl2中にCaOを溶解させて酸素イオンを準備する(式1)。これを電解すると,カソードでCaが生成する(式2)。生成したCaは強還元であり,溶融塩中にCO2ガスを導入すると,CO2ガスは熱還元反応を起こし,固体炭素(一部はCOガス)を生成する(式3)。この際に生成したCaOはCaCl2中に溶解し(式1)再びCaを生成する(式2)。この反応連鎖は新たにCaOを投与する必要なく,連続的な還元プロセスである。また,アノードとして酸素イオン伝導体のZrO2固体電解質を電極として利用することで,溶融塩中のO2−を電解によって外部へ移動させる(式4)。陽極内に酸素ガスと反応しないリード線を用いた場合には式4が成り立つが,本研究ではZrO2固体電解質とリード線との導電性の確保のため,便宜的に炭素粉末を充填している。このとき,式4は式5となる。これはCO2ガス生成反応であり,CO2還元によるCとO2生成という本来の意図ではないが研究設備の構造上,採用している。   

CaO=Ca2++O2(1)
  
Ca2++2e=Ca(2)
  
1/2CO2(g)+Ca=1/2C+CaO(3)
  
O2(in molten salt)=O2(in ZrO2)=1/2O2+2e(4)
  
O2(inZrO2)+C=COorCO2+2e(5)

Fig. 1.

 Schematic illustration of reduction mechanism.

さて,この電解機構によるCO2の分解において,溶融塩内に過剰にO2−が存在すると,CO2ガスはO2−と化合してCO32−を生成する (式6)。もっとも,CO32−の電気分解反応(式7)によって炭素が生成されることも報告されている11)。   

CO2(g)+O2=CO32(6)
  
CO32+4e=C+3O2(7)

過去の研究では,アノードであるZrO2固体電解質の表面積を増加させると,CO2ガス分解量の増加を確認し,その結果からCO2ガス分解メカニズムの律速過程の一つに,アノードにおけるZrO2固体電解質内のO2−の移動が考えられると推測した7)。しかし,これ以外のカソード側のメカニズムも寄与していると考えられる。

一方,過去の研究では,溶融塩中へのCO2ガスの吹込みは,カソード電極を兼ねたステンレスパイプの一端を溶融塩に浸漬させ,ステンレスパイプ内部を通貫させて行ってきた。従って,式3に対応する,溶融塩内でのCO2とCaの反応の制御については,CO2ガス気泡の形状および形態把握が重要である。例えば,気泡の微細化によりCO2ガスの単位体積当たりの比表面積を大きくすることで,反応界面積が増加し,CO2ガス分解量の増加が期待できる。また,CO2ガスがカソード電極近傍を上昇することは反応の促進効果が期待できる。しかしながら,実験中の気泡の直接観察は,高温状態保持と気密性の確保の為に高額な設備を要する。一方,水モデル実験は,実験設備は安価であり,実験水準の変更も容易であり,影響因子の大枠を把握する事は有効な手段である。

本研究では,ガスの吹込み部分のステンレスパイプの形状や直径を変更し,水モデル実験と,溶融塩の電解によるCO2分解ホットモデル実験を行い,CO2ガス導入管の形状がCO2分解に与える影響を調査した。

2. 水モデル実験

2・1 実験方法

Fig.2に水モデル実験装置の模式図を示す。水モデル装置は高温溶融塩実験の溶融塩を水に,耐火物坩堝を透明水槽に置き換えた構造であり,水を張った浴の上部中央に溶融塩実験で利用するステンレス鋼SUS316製のガス吹込みパイプを設置した。

Fig. 2.

 Schematic drawing of water model experimental apparatus.

ガス吹込みパイプから発生するCO2ガスの形状を調査するために,水槽の側面および上面にビデオカメラを設置し撮影を行い,1分間あたりに発生した気泡の数とガスの吹込み速度から,気泡1個当たりの平均の体積および単位体積あたりの比表面積を算出した。単位体積当たりの比表面積は,気泡形状を球形と単純に仮定して算出した。ガス吹込み速度は6.7×10−7 m3/sとし,ガスの組成は90%CO2-Arとした。

実験は,ガス吹込みパイプの内外径,ガス吹込み部の先端形状およびパイプ外壁の濡れ性を変化させて行った。ガス吹込みパイプは外径Φ6.0 mm内径Φ4.0 mm(以後,パイプA)と外径Φ3.0 mm内径Φ1.0 mm(以後,パイプB)の2種類とした。また,ガス吹込み部の先端形状は水平と注射針状の45度傾斜の2種類とした。濡れ性については,ガス吹込みパイプの表面に撥水剤を塗布することで接触角を変化させた。撥水剤は,NTT-AT製 撥水材HIREC1000を利用した。接触角の測定は,溶融塩実験で利用するガス吹込みパイプを利用して試みたが,曲面形状の為,水滴形状を維持できなかった事から,SUS316板を用いて代替測定を行った。接触角の測定は4回行ったところ,撥水剤無しでは57から67度であり(濡れ性が良い),撥水剤塗布の場合は102から121度であり(濡れ性が悪い),撥水剤塗布による濡れ性の変化を確認した上で,水モデル試験を実施した。

2・2 実験結果

Fig.3にガス吹込みパイプAにおける,撥水剤を塗布しない条件時の水モデル実験の様子を示す。また,実験条件と結果をTable 1に示す。Fig.3(a)Table 1のTest No.1に対応し,Fig.3(b)Table 1のTest No.2に対応する。ガス吹込み部の先端形状が水平および45度傾斜の両方の条件において,吹き込まれたガスは先端から離脱し,気泡は発生した。Fig.4にガス吹込みパイプAに撥水剤を塗布した条件での水モデル実験の様子を示す。Fig.4(a)Table 1のTest No.5に対応し,Fig.4(b)Table 1のTest No.6に対応する。ガス吹込み部の先端形状が水平および45度傾斜の両方の条件において,吹き込んだガスが吹込み部先端から離脱することなく,吹き込んだガスはガス吹込み管を覆うように上昇し,気泡の発生は確認できなかった。Table 1にまとめたように,撥水剤を塗布しない条件であるTest No.1から4の結果では,同じ内外径の場合は先端形状を45度傾斜させることで気泡の数が増加した。また,吹込みパイプの内外径を小さくすることで,気泡の数は増加した。従って,ホットモデル実験において,ガス吹込みパイプと溶融塩の濡れ性が良い場合は,ガス吹込み部の先端形状を傾斜させることや内外径を小さくするとで,液体中に吹き込まれたCO2ガスの単位体積当たりの比表面積は大きくなることから,式3の反応効率の増加には有利になると考えられる。

Fig. 3.

 Experimental photograph of water model with pipe type A. (a) Horizontal tip. (b) Oblique tip.

Fig. 4.

 Experimental photograph of water mode with water-repellent pipe. (a) Horizontal tip. (b) Oblique tip.

Table 1. Experimental conditions and results at water model.
Nozzle conditions
Test No.Pipe typeShape of the pipe terminalWater repellentNumber of bubbles per minuteBubble volume cm3Specific surface area per a bubble cm–1
1AHorizontalNot using1500.2677.513
2AObliqueNot using1920.2088.158
3BHorizontalNot using2520.1598.932
4BObliqueNot using3310.1219.782
5AHorizontalAppliedNo bubbles
6AObliqueAppliedNo bubbles
7BHorizontalAppliedNo bubbles
8BObliqueAppliedNo bubbles

一方,今回の水モデル結果においては,撥水剤を塗布することで濡れ性を悪くした全ての条件において,ガス吹込み部の先端形状や内外径に関わりなく,気泡は発生せず,吹き込まれたガスは吹込みパイプ表面を覆うように上昇した。先行研究において12,13,14),濡れ性が悪い状態の素材に気泡が接触すると,気泡は素材に付着しながら上昇するとの報告がされており,今回も同様の結果であった。

3. 溶融CaCl2-CaOの電解によるCO2の分解

3・1 実験方法

Fig.5にホットモデル実験装置の模式図を示す。実験装置は,実験中に発生したガスを採取できるように坩堝全体を雰囲気制御可能なチャンバーで覆う構造であり,更に,チャンバー外部の発熱体により炉内を高温に保持する事が可能である。溶融CaCl2-CaOの電解に用いるカソード電極は,水モデル実験と同一のSUS316製パイプを用いた。CO2-Ar混合ガスをSUS316製パイプの内部を通して,系外から直接溶融CaCl2-CaO中に導入できる構造である。また,アノードにはY2O3安定化ZrO2固体電解質一端閉管(ニッカトー製,YSZ-8)を使用した。使用した固体電解質の内径は13 mm,肉厚は2 mmであり,実験中の電解温度である1173 Kにおける電気伝導度は9.1 Ω−1 m−1である。なお,アノード内部側は電極と固体電解質との導電性向上を目的として,固体電解質一端閉管の内部に炭素粉末を充填した。実験に用いた坩堝は,実験中に生成するCaに対して耐食性に優れるMgO製とした。また,MgO内部に充填するCaCl2-CaOは,CaCl2試薬(和光純薬工業製,純度95%以上)とCaO試薬(関東化学製,純度99.9%以上)とを混合し,CaO濃度を0.5 mol%に調整した。

Fig. 5.

 Experimental setup of hot model.

次に,本装置と式1から5との対応を説明する。溶融塩中に吹き込まれたCO2ガスの分解が起きると溶融塩中に炭素が析出し,一方,分解されないガスは上昇し溶融塩中から系外に排出される。従って,実験中のCO2分解の有無は系外に排出されるガス組成から情報を得ることができる。また,実験中の電流密度の変化からも反応の検知が可能である。生成した炭素は,実験中には取り出すことができない為,試験終了後に溶融塩を純水等で溶解させ,秤量と分析を実施し,炭素の析出有無を確認した。固体電解質の内部からは,固体電解質を透過した酸素イオンと内部に充填した炭素粉末との反応によりCOやCO2が発生する。これらのガス分析により間接的に酸素を観測可能であるが,装置の構造上,アノードから発生するガスについては測定を行っていない。

実験の手順は,炉内にMgO坩堝を設置し,アノードとなる安定化ZrO2固体電解質一端閉管を坩堝内に設置し,更にCaCl2-CaOを坩堝内に充填した。なお,ガス吹込み管を兼用したカソードとなるSUS316製パイプはチャンバー上部に設置し,CaCl2-CaOが溶融後に装入した。各設備を所定位置に設置後,実験装置内を真空に保ちながら873 Kで約10時間保持することで,試薬の脱水処理を行った。その後,Ar雰囲気において1173 Kに昇温し,CaCl2-CaOの溶解後に,ガス吹込みを兼用したカソードとなるSUS316製パイプを溶融塩中に浸漬させた。次に,CO2-Ar混合ガスを溶融塩中に6時間以上吹込み,溶融塩中にCO2を溶解・飽和させた。飽和状態の確認は,溶融塩を通過し系外へ排出されるガスのCO2濃度を分析し,吹込みCO2濃度と比較し,同じであることにより行った。次に,CO2-Ar混合ガスの導入を続けながら,電圧を印加し,CO2分解を開始した。印加電圧範囲は,CaO分解電圧である1.6 V以上,CaCl2の理論分解電圧である3.2 V以下となり,本実験での印加電圧は3.1 Vとした。すなわち,溶融塩中に十分なCO2が存在する状態から電圧を印加することから,CO2と式(2)により発生するCaとの反応は,電圧印加と共に行われる。CO2ガスの分解調査は,実験中に電解中溶融塩を通過し,系外へ排出されるガスのCO2およびCOの濃度を赤外線吸収法によって連続的に測定することで行った。所定時間電圧印加後に実験を終了し,Ar雰囲気で冷却後に炉内から試料を回収した。回収した試料を純水および酢酸を用いて洗浄し,透過型電子顕微鏡(TEM;Transmission Electron Microscope)による観察とエネルギー分散型X線分析(EDX;Energy dispersive X-ray spectrometry)による元素分析によりCO2分解によって生成する炭素の生成有無を確認した。なお,固体電解質の溶融塩への浸漬深さは,実験後の状態から推測すると,40 mm程度と考えられる。CO2分解量の増加には,アノードの固体電解質およびガス吹込みを兼用したカソードとなるSUS316製パイプの浸漬深さを深くすることは有効であるが,溶融塩溶解時の嵩が低下した際に試料の追加装入ができないチャンバー構造の為に,浸漬深さは40 mm程度となった。固体電解質の内径が13 mmであることから,浸漬深さ40 mm時に相当する溶融塩側の固体電解質の内表面積は1.6×10−3 m2である。

ガス吹込みを兼用したカソードとなるSUS316製パイプの内外径および先端形状を変更しCO2分解実験を行った。使用したSUS316製パイプは水モデルと同様に,2種類の直径のパイプAとパイプBであり,ガス吹込み部の先端形状は水平と注射針状の45度傾斜の2種類の形状の組み合わせ,合計4種類とした。また,ガス吹込み速度は5.2×10−7 m3/sとし,ガスの組成は9.7%CO2-Arとした。従って,CO2吹込み量は2.3×10−6 mol/sであり,CO2分解に必要な電流値は,式(2)および(3)より,0.89 Aとなり,電流密度としては,溶融塩側の固体電解質の内表面積は1.6×10−3 m2である事から,5.2×102 A/m2となる。また,印加電圧3.1 Vにおいて,CO2分解に必要な電流値0.89 Aとなる電気抵抗値は3.4 Ωである。実験時の主な電気抵抗は,固体電解質の内部抵抗,電解質一端閉管の内部に充填した炭素粉末の接触抵抗,溶融塩の浴抵抗,が考えられる。固体電解質の1173 Kにおける電気抵抗は,厚み,内表面積および電気伝導度から,0.13 Ωとなる。固体電解質一端閉管の内部に充填した炭素粉末の接触性が良好であり接触抵抗が小さく,浴抵抗も小さい場合は,吹込んだCO2を全量分解できる条件である。なお,浴抵抗の測定を試みたが電位が安定せず算出が困難であった。本研究程度のスケールでは,浴抵抗は無視できるほど小さいと考えられる。主な抵抗を固体電解質のみと考えた場合,電気伝導度が0.13 Ωにおける電流値は23 Aとなり,実験時の最大の電流密度は1.4×104 A/m2程度と試算される。

3・2 実験結果

Fig.6にパイプAを使用したCO2分解実験時の電圧印加による電解中のガス濃度および電流密度の一例を示す。ガス吹込み部の形状はFig.6(a)は水平形状であり,Fig.6(b)は注射針状の45度傾斜の結果である。電圧印加と共に電流密度が計測され,ZrO2固体電解質のアノードとしての作用が確認できた。さらにCO2ガス濃度の急激な低下が計測されたことから,溶融CaCl2-CaOを用いて,CO2の分解に成功した。また,ブドワー平衡を考慮した際に,生成した炭素と導入したCO2ガスが反応してCOを生成することが懸念されたが,COガスの増加は殆ど見られなかった。これは生成したCOガスもCaによって還元されたと考えられる。時間経過と共に,緩やかに電流密度は低下し,CO2濃度は緩やかに上昇した。電流密度の低下は,アノード側の固体電解質の内部に充填した炭素粉末が電解と共に発生した酸素と反応し(式5),電極と固体電解質との接触面積低下に起因する電気抵抗の増加が原因と考えられる。Fig.6の結果から,先端形状が45度傾斜の場合は水平形状よりも,電流密度が増加し,CO2濃度の初期濃度からの低下は顕著であった。

Fig. 6.

 Time dependency of gas concentration and current density with pipe type A. (a) Horizontal tip. (b) Oblique tip.

Fig.7にパイプBを使用したCO2分解実験時の電圧印加による電解中のガス濃度および電流密度の一例を示す。ガス吹込み部の形状はFig.7(a)は水平形状であり,Fig.7(b)は注射針状の45度傾斜の結果である。パイプAの結果と同様に,電圧印加と共に電流密度は上昇し,CO2濃度は低下した。しかしながら,パイプAと比較して,電流密度は小さく,CO2濃度の低下も少ない結果であった。

Fig. 7.

 Time dependency of gas concentration and current density with pipe type B. (a) Horizontal tip. (b) Oblique tip.

Fig.8に実験後の回収した試料を純水および酢酸を用いて洗浄し,濾過後に残留した試料の透過型電子顕微鏡画像を示す。EDXにおいて炭素のピークが観測され,残留試料の分析結果と電流印加時のCO2の減少から,本実験によりCO2が分解しCが生成したことを確認した。EDXにおけるCuはステージ台のメッシュに起因するものである。また,Feはカソード由来であり,その触媒作用により炭素の一部はカーボンナノチューブであった。なお,カーボンナノチューブの存在割合は,TEM観察から5から30%であった。

Fig. 8.

 (a) TEM image of sample. (b) EDX analysis.

4. 考察

本実験におけるCO2濃度の低下は,同じ内外径のガス吹込みパイプを用いた場合は,先端形状が45度傾斜の方が水平よりも顕著であった。これは,水モデル実験における,SUS316製パイプに撥水剤を塗布しない場合,すなわち,濡れ性が良い条件における気泡数の増加に対応すると考えられる。気泡数の増加により,溶融塩中に吹き込まれたガスの単位体積当たりの比表面積が増加し,CO2ガスの分解効率が向上したと考えられる。逆に言えば,SUS316製パイプから溶融塩中に吹き込まれたCO2-Ar混合ガスは,水モデルにおける濡れ性が良い条件に対応すると考えられる。また,水モデル実験でのSUS316製パイプに撥水剤を塗布した濡れ性が悪い条件の様に,溶融塩中に吹き込んだCO2-Ar混合ガスがSUS316製パイプを覆うように上昇した場合,本実験装置ではSUS316製パイプはカソード機能も兼ねていることから,電流は遮断されCO2の分解は進行しない,もしくは著しく分解効率は低下すると考えられる。これらの事からも,SUS316製パイプから溶融塩中に吹き込まれたCO2-Ar混合ガスは,吹込み部から離脱し後に溶融塩中を浮上しながらCO2の分解が起きていると考えられる。

Fig.9に,チャンバー上部にガラスの窓を取り付け撮影した,電解中の様子の写真を示す。カソードパイプは,先端形状が水平であるパイプAである。カソードパイプから離れた範囲に,気泡の破裂が観察できた。また,電解の時間経過と共に黒色の物質が析出し,析出範囲は物質時間と共に増加した。

Fig. 9.

 Experimental photograph of hot model.

一方,パイプBを使用したCO2分解実験では,パイプAと比較して,電流密度は小さく,CO2濃度の低下も少ない結果であった。水モデル実験の結果ではパイプAよりもパイプBの方が吹き込まれたガスの単位当たりの比表面積は増加していたことから,式3の反応効率の増加には有利になると考えられたが,予測とは異なる結果となった。これは,カソード電極の面積の違いが原因と考えられる。本実験装置では,SUS316製パイプはCO2ガスの吹込みと共にカソード電極としての機能も担っている。パイプA外径はΦ6 mmに対して,パイプBの外径はでΦ3 mmあり,CO2分解実験時の溶融塩中へのパイプの浸漬深さは同じ40 mm程度である。従って,パイプBの溶融塩中のカソード面積は,パイプAと比較して半分の広さとなり,CO2分解には不利な条件であったと考えられる。また,本研究では,アノードの表面積で規格化することで,電流密度を定義していることから,ガス吹込み部が水平形状におけるパイプBの電流密度は,パイプAと比較して半分程度となった。よって,CO2分解量の向上に対して,カソード電極面積を大きくすることも重要であると考えられる。

5. 結言

溶融CaCl2-CaOを用いたCO2分解におけるガス導入管の影響を解明するために,水モデル実験とホットモデルを行った。本研究で得られた知見を以下に示す。

1.水モデル実験において,ガス吹込みパイプの濡れ性が良い状態では吹き込まれたCO2-Ar混合ガスは,ガス吹込み部の先端形状が水平および45度傾斜の両方の条件において,吹込み部からガスは離脱し,気泡形状であった。一方,濡れ性が悪い場合は,吹き込まれたガスは,何れの条件においても吹込みパイプ表面に強く付着し,その表面を覆うように上昇した。

2.溶融CaCl2-CaOの電解によるCO2の分解実験を行い,電圧印加と共に通電が計測され,排ガス中のCO2ガス濃度は低下した。更に,実験後の回収した試料の透過型電子顕微鏡画像およびEDXから炭素析出を確認した。

3.溶融CaCl2-CaOの電解によるCO2の分解実験において,CO2濃度の低下は,同じ内外径のガス吹込みパイプを用いた場合は,先端形状が45度傾斜の方が水平よりも顕著であった。水モデル実験結果から推測すると,SUS316製パイプから溶融塩中に吹き込まれたCO2-Ar混合ガスは,吹込み部から離脱し,気泡として溶融塩中を浮上しているようであり,この間はCO2の分解が起きていると考えられる。

4.溶融CaCl2-CaOの電解によるCO2分解の効率向上に対して,溶融塩中のCO2気泡の気泡径を小さくすること,すなわち,単位体積当たりの比表面積を大きくすることは有効である。

謝辞

本研究を行うに当たり,実験のご指導を賜りました,北海道大学大学院工学研究院北村三佳氏に厚くお礼申し上げる。

文献
 
© 2016 The Iron and Steel Institute of Japan

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