Tetsu-to-Hagane
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Interaction between Alumina Inclusions in Molten Steel Due to Cavity Bridge Force
Katsuhiro Sasai
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2016 Volume 102 Issue 4 Pages 187-195

Details
Synopsis:

The formation and extinction behavior of cavity bridges has been experimentally evaluated by allowing the cylindrical particles simulating inclusions to approach and separate off in mercury and in molten steel. An interaction model of spherical alumina particles close to the actual inclusion shape due to cavity bridge force has been developed on the basis of the experimental results. Using this interaction model, the processes of agglomeration and separation of alumina inclusions in molten steel have been analyzed, and the agglomeration force due to cavity bridge force has been discussed in comparison with different agglomeration forces that are derived from the van der Waals force in molten steel and the capillary force on the surface of molten steel. When two isospherical alumina inclusions are approaching each other in molten steel, a large agglomeration force of 1.54 d·σFe (d: the diameter of alumina inclusions, σFe: the surface tension of molten steel.) is generated by the cavity bridge formation from the interparticle surface distance of 0.07 d, and then the agglomeration force also gradually increases to reach the maximum value of 1.88 d·σFe in complete contact state. Conversely, when two isospherical alumina inclusions in molten steel are separated from the contact state, a large agglomeration force of 0.92 d·σFe and above is maintained until the cavity bridge extinction in the interparticle surface distance of 0.12 d, whereas the agglomeration force gradually decrease from 1.88 d·σFe. In addition, it is assumed that alumina inclusions in aluminum deoxidized molten steel principally agglomerate and coalesce on the basis of the agglomeration force derived from very strong cavity bridge force in comparison with the van der Waals force in molten steel and the capillary force on the surface of molten steel, and coarse alumina clusters are thus formed in molten steel.

1. 緒言

最近の品質要求レベルの更なる厳格化に応えるためには,溶鋼中に懸濁しているアルミナ介在物の凝集機構を科学的に解明し,それに基づきアルミナ介在物の凝集合体を促進し,浮上分離に有利な粗大介在物として溶鋼中から確実に除去する必要がある。

著者は,前報1)において,溶鋼中アルミナ介在物の凝集機構を溶鋼・介在物間の界面化学的な相互作用の観点から解明するため,溶鋼中のアルミナ粒子間に働く凝集力を流体力学的な作用とは独立に抽出し,直接測定する新たな実験方法を確立した。この方法を用いて,溶鋼中のアルミナ粒子間に大きな凝集力が作用することを実証すると共に,界面物性を考慮して実測された凝集力を解析することにより,溶鋼中のアルミナ粒子間に働く凝集力はvan der Waals力ではなく,溶鋼がアルミナ粒子と濡れ難いために生じる空隙架橋力に起因することを示した。これらの結果によれば,溶鋼中のアルミナ介在物が流体力学的な作用により接近すると,或る粒子間表面距離からアルミナ介在物間に空隙架橋が形成され凝集力が作用しはじめることが予想される。この凝集力の作用距離が長い程,アルミナ介在物同士の凝集確率は高まるため,前報1)における凝集力の絶対値測定に加えて,それに与える粒子間表面距離の影響を解明することは,アルミナ介在物の凝集機構を理解する上で重要と考えられる。

本研究では,空隙架橋力による凝集力に対する粒子間表面距離の依存性を明らかにするため,水銀中および溶鋼中でアルミナ介在物を模擬した円柱間における空隙架橋の生成・消滅挙動を観察した。得られた結果を,粒子間表面距離を考慮した空隙架橋力による相互作用モデルにより解析すると共に,このモデルを実介在物形状に近い球形アルミナ粒子まで理論拡張し,空隙架橋力による溶鋼中アルミナ介在物間の凝集力におよぼす粒子間表面距離の影響を定量的に評価した。さらに,本相互作用モデルから計算した空隙架橋力による凝集力を,溶鋼中のvan der Waals力および溶鋼表面上のCapillary力を起源とする他の凝集力と比較することにより,界面化学的相互作用の観点から溶鋼中アルミナ介在物の凝集機構を検討した。

2. 実験方法

2・1 水銀中ガラス円柱および銅円柱の空隙架橋形成実験

溶鋼中の介在物間に形成される空隙架橋の挙動を,模擬介在物として石英ガラス円柱を用いた水銀実験により調査した。水銀中での空隙架橋形成実験装置をFig.1に示す。水銀用の容器は幅60 mm×高さ65 mm×奥行き30 mm(内寸)の透明アクリル製である。直径4~8 mm,長さ25 mmのガラス円柱2個を鉄製の固定アームと可動アームの下部に線接触するように平行に取り付け,水銀中で空隙架橋を観察できるようにガラス円柱の円形断面を透明アクリル製容器の前面に密着させた。固定アームは透明アクリル製容器に,一方可動アームはマイクロメーターと同方式のスケール付きダイヤルと連動する可動ステージに取り付けられている。ダイヤルを回転させると,可動アームのガラス円柱は固定アームのそれに平行状態で接近または分離する方向に移動し,スケール指示値からはガラス円柱の移動距離を測定できる。

Fig. 1.

 Experimental device for cavity bridge formation between glass or copper cylinders in mercury.

透明アクリル製容器に,ガラス円柱の中心より15 mm上方の位置まで水銀を満たした。水銀中でガラス円柱を完全に接触させ,空隙架橋を形成させた。その位置を基点に可動アームのガラス円柱を遠ざける方向に移動させ,空隙架橋の変化を観察した。空隙架橋が消失してからガラス円柱の間隔をさらに数mm広げ,完全にガラス円柱間の相互作用をなくした後,反対に可動アームのガラス円柱を固定アームのそれに徐々に近づけた。ガラス円柱同士が接近し最終的に接触するまでの間,空隙架橋の生成状態を観察した。水銀と円柱との濡れ性を変化させるため,一部の実験ではガラス円柱の替わりに銅円柱を用いた。

2・2 溶鋼中Al2O3円柱間の空隙架橋形成実験

溶鋼中Al2O3介在物間の空隙架橋生成におよぼす粒子間表面距離の影響を調査するため,前報1)で凝集力を測定したAl2O3円柱を溶鋼中に浸漬する実験を行った。溶鋼中での空隙架橋形成実験装置をFig.2に示す。空隙架橋観察用の一対のAl2O3円柱は,平行に配置した直径8 mm,長さ50 mmの二等円柱Al2O3(純度99.6 mass%)間に,円柱間表面距離の調整と円柱間への溶鋼充満を目的に,厚み0.1~1.2 mmに重ね合わせた鉄箔(厚み50 μm)を挟み,その両端をアルミナセメントで固定することにより作製した。このAl2O3円柱を溶鋼中に浸漬するため,一端を外径8 mm,長さ500 mmのアルミナ製保護管の先端に取り付けた。溶解炉は,高周波誘導加熱されたグラファイト円筒を発熱体とする抵抗加熱炉である。内径40 mm,高さ150 mmのアルミナ製るつぼに電解鉄600 gを入れ,Arガス雰囲気中で溶解した。溶鋼温度を1600°C一定にすると共に,鉄箔を挟んで固定した一対のAl2O3円柱を未脱酸溶鋼中(溶存酸素濃度は0.025 mass%程度)に浸漬した。0.08 mass%Al濃度(平衡酸素濃度0.0004 mass%)を目標にAl脱酸してから,Al2O3円柱をAl脱酸溶鋼中に5分間保持した。その後,溶解炉の電源を切り,Al2O3円柱を浸漬した状態で溶鋼を凝固させた。実験後に凝固鋼塊と共にAl2O3円柱を横断面で切断し,空隙架橋の生成状態を観察した。なお,鉄箔を挟んで両端をアルミナセメントで連結した二等円柱Al2O3を溶鋼中に浸漬すると,Al2O3円柱間の表面距離は,アルミナセメント連結部の熱膨張により広がり,反対にAl2O3円柱自身の径方向の熱膨張により狭まるため,溶鋼中での円柱間表面距離を計算(Al2O3の熱膨張係数8.1×10−6 K−1)しても常温で規定した値より1.3%程度拡大するだけであり,本研究では円柱間表面距離におよぼす熱膨張の影響は無視できる。

Fig. 2.

 Experimental device for cavity bridge formation between Al2O3 cylinders in molten steel.

3. 実験結果

3・1 水銀中ガラス円柱および銅円柱間の空隙架橋形成

水銀中のガラス円柱同士および銅円柱同士を接触状態から引き離す場合の空隙架橋の変化をFig.3に示す。なお,aは円柱間表面距離,dCYは円柱直径である。銅円柱を水銀中で完全に接触させてから徐々に引き離す一連の過程(Fig.3(E)~(H))において,円柱間に空隙架橋は観察されなかった。一方,ガラス円柱を水銀中で完全接触させると,接触部に空隙架橋が形成された(Fig.3(A))。ガラス円柱を遠ざけていくと空隙架橋頸部の幅は徐々に小さくなり(Fig.3(B)),或る円柱間表面距離で最小となった(Fig.3(C))。ガラス円柱をさらに引き離すと空隙架橋頸部の幅が若干広がると共に,空隙架橋の内部から表面に向けて水銀が徐々に満たされ,最終的に空隙架橋形状の窪みも消失した(Fig.3(D))。反対に,水銀中でガラス円柱を接近させていくと,分離の際の変化をほぼ逆にたどって空隙架橋を生成し,さらに空隙架橋頸部の幅を徐々に広げながらガラス円柱同士は完全に接触した。

Fig. 3.

 Changes in the cavity bridges when the glass cylinders or copper cylinders (dCY=8 mm) in mercury are separated from each other. (A) a=0 mm between glass cylinders, (B) a=0.2 mm between glass cylinders, (C) a=0.5 mm between glass cylinders, (D) a=0.7 mm between glass cylinders, (E) a=0 mm between copper cylinders, (F) a=0.2 mm between copper cylinders, (G) a=0.5 mm between copper cylinder, (H) a=0.7 mm between copper cylinders.

以上の結果から,水銀中におけるガラス円柱同士の接近と分離の何れの場合でも,透明アクリル製容器の前面から観察される空隙架橋頸部の幅が最小となる際に,観察面より水銀内部にある円柱間では真の空隙架橋が生成(接近の場合)または消滅(分離の場合)すると見なし,この時の円柱間表面距離を最大空隙架橋長さDCB,Maxと定義した。Fig.4にガラス円柱の直径と最大空隙架橋長さとの関係を示す。最大空隙架橋長さは,上述のガラス円柱の接近と分離を数回繰り返して測定した値を,分離時と接近時の各々について平均化したものである。最大空隙架橋長さは分離の場合(DSCB,Max)に比べて接近の場合(DACB,Max)に小さくなっているが,何れの場合にも最大空隙架橋長さは正の値(DSCB,Max=0.40~0.42 mm,DACB,Max=0.23~0.24 mm)であり,ガラス円柱が完全接触しなくても空隙架橋を生成することが分かる。また,本測定の範囲では,最大空隙架橋長さに対する円柱直径の影響は比較的小さかった。

Fig. 4.

 Relation between the diameter of glass cylinders and the maximum length of cavity bridges.

3・2 溶鋼中Al2O3円柱間の空隙架橋形成

凝固鋼塊中のAl2O3円柱断面における空隙架橋の形成状態をFig.5に示す。Al2O3円柱間が遠く離れている場合にはその間は溶鋼で満たされているが(Fig.5(A),(B)),Al2O3円柱同士が比較的接近してくると空隙架橋が観察される(Fig.5(C),(D),(E))。溶鋼中でもAl2O3円柱が完全に接触しない状態で,空隙架橋を形成することが分かる。

Fig. 5.

 State of cavity bridge formation in the section of the Al2O3 cylinders (dCY=8 mm) in the solidified steel ingot. (A) a=0.7 mm between Al2O3 cylinders, (B) a=0.5 mm between Al2O3 cylinders, (C) a=0.4 mm between Al2O3 cylinders, (D) a=0.3 mm between Al2O3 cylinders, (E) a=0.1 mm between Al2O3 cylinders.

溶鋼実験における二等円柱Al2O3間の空隙架橋生成状態を,円柱直径と円柱間表面距離に対応させてFig.6にまとめて示す。空隙架橋がある場合を○印,空隙架橋がない場合を●印とした。直径8 mmのAl2O3円柱では,0.4~0.5 mmの間の円柱間表面距離を境に空隙架橋が生成・消滅する。本実験では,鉄箔を挟んだ二等円柱Al2O3を,酸素濃度が高くAl2O3と濡れやすい未脱酸溶鋼に浸漬するため,Al2O3円柱間は一旦溶鋼で満たされる。その後,Alを添加して脱酸すると溶鋼はAl2O3と濡れ難くなるため,円柱間表面距離が比較的近い場合Al2O3円柱間から溶鋼が排出され,空隙架橋を生成する。このため,溶鋼実験で得られる空隙架橋生成・消滅の円柱間表面距離0.4~0.5 mmは,溶鋼を排出して空隙架橋を形成する円柱接近の場合の最大空隙架橋長さに相当する。また,直径8 mmの円柱について,接近の際の最大空隙架橋長さを比較すると,溶鋼−Al2O3系の測定値0.4~0.5 mmは水銀−ガラス系の測定値0.23 mmに比べて2倍程度大きくなっている。

Fig. 6.

 Influence of cylindrical diameter and surface distance between cylinders on cavity bridge formation between Al2O3 cylinders in molten steel.

4. 考察

4・1 空隙架橋形成におよぼす濡れの影響

水銀中の銅円柱間には空隙架橋は観察されなかったが,水銀中のガラス円柱間と溶鋼中のAl2O3円柱間には空隙架橋が形成された。空隙架橋を形成するか否かは,粒子と液体金属との濡れ性に依存する。水銀−銅系ではアマルガム生成の反応を伴うため,銅は水銀とよく濡れることが知られている。Nakaeら2)のメニスコグラフ法による初期濡れの測定結果から水銀の表面張力を用いて銅と水銀との接触角を算出すると,平均で73°である。反対に,ガラスは水銀と濡れ難く,その接触角は140°程度3)である。また,Al脱酸溶鋼とAl2O3との接触角は前報1)で測定しており152.6°である。以上の結果から,粒子と液体金属との接触角が90°以上で粒子が液体金属に濡れ難い場合に,液体金属中の粒子間に空隙架橋が形成されるものと考えられる。

4・2 空隙架橋形成を伴う液体金属中円柱間の相互作用

4・2・1 液体金属中円柱間の相互作用モデル

液体金属との濡れ性が悪い二等円柱が狭い間隙を隔てて接近すると,Fig.7に示すように円柱間に空隙架橋が生じる。この場合,二等円柱間に生じる単位長さ当たりの凝集力FA,S(N・m−1)は空隙架橋と液体金属間の圧力差ΔPLM(Pa)と液体金属の表面張力σLM(N・m−1)に起因する力の和で表され,(1)式となる。   

FA,S=2X4ΔPLM+2σLM(1)

Fig. 7.

 Interaction model between two isodiametric cylinders or two isospherical particles in liquid metal involving cavity bridge formation.

X4は空隙架橋頸部の半幅(m)である。Fig.7の幾何学的条件から(2)式の関係が得られる。   

X42+2R3X4+(a2/4+arCY+2R3rCYcosθP-LM)=0(2)

R3は空隙架橋の曲率半径(m),rCYは円柱半径(m),θP-LMは円柱と液体金属との接触角(°)である。Laplaceの関係より(3)式が成り立つ。   

ΔPLM=σLM/R3(3)

(2)式および(3)式よりR3を消去して整理すると,X4に関して(4)式が得られる。   

X42+2σLM/ΔPLMX4+(a2/4+arCY+2σLM/ΔPLMrCYcosθP-LM)=0(4)

(4)式からX4を求めると(5)式となる。   

X4=σLM/ΔPLM+{(σLM/ΔPLM)2a2/4arCY2σLM/ΔPLMrCYcosθP-LM}1/2(5)

(5)式を用いてX4を求め,この値を(1)式に代入することにより,液体金属中における二等円柱間の凝集力を算出できる。また,二等円柱を徐々に引き離すことによりaがDSCB,Max(円柱分離時の最大空隙架橋長さ)に達すると,X4は0となり空隙架橋は消滅する。この条件を(4)式に適用して整理した(6)式を解くと,DSCB,Maxは(7)式のように求まる。   

DCB,MaxS2+4rCYDCB,MaxS+8σLMrCYcosθP-LM/ΔPLM=0(6)
  
DCB,MaxS=2rCY+(4rCY28σLMrCYcosθP-LM/ΔPLM)1/2(7)

4・2・2 水銀中ガラス円柱への相互作用モデル適用

Fig.4のガラス円柱分離時の水銀実験データーを(6)式に適用し,空隙架橋と水銀間の圧力差を算出すると平均で1670 Paとなる。なお,水銀の表面張力は0.465 N・m−1 4),水銀とガラスとの接触角は140°3)とした。このΔPLM(=1670 Pa)に対応する空隙架橋の曲率半径を(3)式から計算すると0.278 mmとなり,水銀実験の観察から求まるR3の平均値0.267 mmとほぼ一致する。よって,実験結果から得られたΔPLMの値はLaplaceの関係を満足しており,妥当な値であると判断される。

ΔPLMを1670 Paとして(7)式から計算される円柱分離時の最大空隙架橋長さをFig.4に実線で示す。計算値は実験値を良く再現しており,円柱直径が変化した場合にもDSCB,Maxを(7)式から推定できることが分かる。また,Fig.4には(7)式から計算されるDSCB,Maxの55~61%の値を一点鎖線で示しており,実測DACB,Maxの平均値は計算DSCB,Maxの58%と概略一致する。よって,粒子接近時の最大空隙架橋長さは粒子分離時のそれに比べて58%に減少することが分かる。これは,粒子接近に伴う空隙架橋の形成には,粒子間に挟まれた液体金属内での核生成が必要であり,粒子分離時の最大空隙架橋長さの58%まで粒子を過剰に接近させることにより空隙核の生成に要する駆動力が得られるためだと推定される。

4・2・3 溶鋼中Al2O3円柱への相互作用モデル適用

円柱分離時における最大空隙架橋長さを推定する(7)式を,Fig.6の溶鋼実験結果に適用する。実験に用いた溶鋼は純鉄組成に近いAl脱酸溶鋼であるため,前報1)の結果からAl脱酸溶鋼の表面張力を1.884 N・m−1,Al脱酸溶鋼とAl2O3との接触角を152.6°,空隙架橋と溶鋼間の圧力差を3.86×103 Paとした。これらの値を(7)式に代入することによりDSCB,Maxを計算し,Fig.6に実線で示す。Fig.6には,DSCB,Maxの49%および61%の値を一点鎖線で併記した。溶鋼実験で得られたDACB,Maxの0.4~0.5 mmは,(7)式で計算されるDSCB,Maxよりも短く,その49~61%程度の値であることが分かる。水銀実験でも,実測DACB,Maxの平均値は(7)式から計算されるDSCB,Maxの58%であり,溶鋼実験結果の範囲内である。また,Al脱酸溶鋼中における直径8 mmの二等円柱Al2O3について,(1)式と(5)式を用いて円柱間表面距離0 mmの空隙架橋力による凝集力と空隙架橋頸部の半幅を計算すると,各々14.86 N・m−1と1.44 mmとなる。これらの値は,前報1)においてAl脱酸溶鋼中のAl2O3円柱同士を完全接触させて実測した凝集力の平均値14.86 N・m−1と空隙架橋頸部の半幅1.35 mmとほぼ一致する。

以上の結果から,溶鋼中Al2O3円柱間の凝集力と最大空隙架橋長さは,Al2O3が溶鋼に濡れ難いことに起因する空隙架橋の形成に基づいた相互作用モデルにより説明できることが分かる。

4・3 空隙架橋形成を伴う溶鋼中Al2O3介在物の凝集・分離機構

4・3・1 溶鋼中球形Al2O3介在物間の相互作用モデルへの理論拡張

溶鋼中におけるAl2O3介在物同士の相互作用を明らかにするため,液体金属中の二等円柱についてその妥当性が検証された相互作用モデルを,幾何学的条件が介在物により近い球形粒子に拡張し,溶鋼中の二等球Al2O3介在物に関する相互作用モデルを導出する。Fig.7に示すように粒子間表面距離a(m)だけ離れて空隙架橋を形成している二等球Al2O3介在物間に働く凝集力FA,S(N)は,(1)式と同様に,空隙架橋と溶鋼間の圧力差ΔPFe(Pa)と溶鋼の表面張力σFe(N・m−1)に起因する力の和として(8)式のように表される。   

FA,S=πR42ΔPFe+2πR4σFe(8)

R4は空隙架橋頸部の半径(m)である。二等球Al2O3介在物の場合でも,円柱の場合と同様に(9)式の幾何学的条件が成立する。   

R42+2R3R4+(a2/4+ar+2R3rcosθAl2O3Fe)=0(9)

ここで,θAl2O3-Feは溶鋼とAl2O3との接触角(°),rはAl2O3介在物の半径(m)である。Laplaceの関係より二等球Al2O3介在物間に形成された空隙架橋と溶鋼間の圧力差は(10)式で表される。   

ΔPFe=σFe(1/R31/R4)(10)

(9)式および(10)式よりR3を消去し,R4に関して整理すると(11)式が得られる。   

R43+A1R42+A2R4+A3=0(11)

ここで,A1,A2およびA3は,各々(12)式から(14)式で表される。   

A1=3σFe/ΔPFe(12)
  
A2=a2/4+ar+2σFercosθAl2O3Fe/ΔPFe(13)
  
A3=(a/4+r)aσFe/ΔPFe(14)

(11)式の三次方程式には3つの解が存在するが,前報1)でも示したように,少なくとも二等球Al2O3介在物が完全に接触する状態で空隙架橋頸部の半径が正の実数となる物理的条件を満足することから,二等球Al2O3介在物間のR4は(15)式となる。   

R4={B2/2+(B3/108)1/2}1/3+{B2/2(B3/108)1/2}1/3A1/3(15)

B1,B2およびB3は各々(16)式から(18)式で与えられる。   

B1=A12/3+A2(16)
  
B2=2/27A13A1A2/3+A3(17)
  
B3=108(B22/4+B13/27)(18)

よって,(15)式から得られたR4を(8)式に代入することにより,ある粒子間表面距離を隔てて空隙架橋を形成している二等球Al2O3介在物に働く凝集力を計算できる。また,二等球介在物同士が分離するにつれてR4は小さくなるが,二等円柱粒子の場合とは異なり,(10)式の制約条件(ΔPFeは一定値)によりR3も小さくなるため,R4が0となる前に(9)式の幾何学的条件が破綻することにより空隙架橋は消滅する。すなわち,二等球介在物が徐々に分離する際の最大空隙架橋長さDSCB,Maxは,幾何学的条件とLaplaceの関係の両方を満たしうる最大の粒子間表面距離を意味し,R4が正の最小値となった場合に達成される。

4・3・2 空隙架橋形成を伴う溶鋼中Al2O3介在物の凝集・分離に関する理論検討

Al2O3円柱を用いた溶鋼実験と同様に,Al脱酸溶鋼の表面張力を1.884 N・m−1,Al脱酸溶鋼とAl2O3との接触角を152.6°,空隙架橋と溶鋼間の圧力差を3.86×103 Paとし,(15)式のR4が正の最小値となるようにaを少しずつ増加させながら試行錯誤的に与えることによりDSCB,Maxを求めた。なお,Al2O3介在物接近時の最大空隙架橋長さDACB,Maxは,水銀中ガラス円柱間と溶鋼中Al2O3円柱間の空隙架橋形成に関する実験結果に基づき,DSCB,Maxの58%とした。その結果,介在物分離時および接近時の最大空隙架橋長さは,各々(19)式および(20)式となる。なお,dはAl2O3介在物の直径で,本計算では0.1~100 μmの範囲とした。   

DCB,MaxS=0.12d(19)
  
DCB,MaxA=0.07d(20)

(8)式および(15)式から粒子間表面距離a・d−1と空隙架橋力による二等球Al2O3介在物間の凝集力FA,S・(d・σFe)−1との関係を計算しFig.8に,溶鋼中のAl2O3介在物が接近・分離するFig.8の(a)~(e)の過程における空隙架橋の生成状態を模式的にFig.9に示す。Fig.8より介在物直径100 μm(実線)と0.1 μm(一点鎖線)の各凝集力には,0.08 d以上の粒子間表面距離で若干の差が見られるが,Al2O3介在物の直径が0.1~100 μmの範囲であれば凝集力の計算結果はその直径によらずFig.8の実線で示される一つの関係でほぼ整理される。この結果から,溶鋼中でAl2O3介在物が接近して凝集する過程および凝集したAl2O3介在物が分離する過程は,空隙架橋の生成・消滅と関連して以下のように説明される。溶鋼中でAl2O3介在物同士が接近し(Fig.8(a)Fig.9(a)),その粒子間表面距離が0.07 dになると空隙架橋を形成すると共に,Al2O3介在物間に1.54 d・σFeの凝集力が発生する(Fig.8(b)Fig.9(b))。Al2O3介在物の粒子間表面距離がより狭くなると凝集力は徐々に大きくなり,最終的にAl2O3介在物は完全接触し,1.88 d・σFeの凝集力で強固に接触状態を維持する(Fig.8(c)Fig.9(c))。反対に,接触しているAl2O3介在物が何らかの外力により分離し始めると,凝集力は接近過程で急激な凝集力変化を生じた粒子間表面距離0.07 dを超えて0.12 dまで徐々に減少して,0.92 d・σFeに達する(Fig.8(d)Fig.9(d))。粒子間表面距離がさらに広がれば,空隙架橋の消滅と共に,凝集力は一挙に低下する(Fig.8(e)Fig.9(e))。このように,空隙架橋力による凝集力はAl2O3介在物が完全に接触している状態で最大となるが,空隙が存在する最大の粒子間表面距離0.07 d(介在物接近時)と0.12 d(介在物分離時)においても,Al2O3介在物間には各々1.54 d・σFeと0.92 d・σFeの大きな空隙架橋力による凝集力が相互に作用することが分かる。

Fig. 8.

 Relation between the interparticle surface distance and the agglomeration force between two isospherical Al2O3 inclusions due to cavity bridge force.

Fig. 9.

 Schematic illustration of cavity bridge formation in the process of approach and separation of Al2O3 inclusions in molten steel.

4・4 溶鋼中でのAl2O3クラスター形成における支配凝集力

4・4・1 van der Waals力による溶鋼中Al2O3介在物間の凝集力

液体中で固体粒子同士が接近した時に働く相互作用は,主に拡散電気二重層の重なり合いによる反発力と分散力(van der Waals力)からなる。溶鋼中のAl2O3介在物においては拡散電気二重層を考慮する必要がないため,溶鋼中の二等球Al2O3介在物同士には近似的に(21)式で示されるvan der Waals力による凝集力FA,V(N)のみが作用する5)。   

FA,V=Hr/(12a2),ar(21)

ここで,Hは鉄を媒質とするAl2O3介在物間の実効Hamaker定数(J)である。Taniguchiら6)は,水溶液中でのAl2O3粒子の乱流凝集実験により求めたAl2O3粒子のHamaker定数と常温鉄のそれを1600°Cに温度換算し,それらの値にHamaker定数の結合関係を適用することにより溶鋼中Al2O3粒子間の実効Hamaker定数2.3×10−20Jを得ている。よって,(21)式を用いて二等球Al2O3介在物間に作用するvan der Waals力による凝集力を,Al2O3介在物間の表面距離に応じて推定することが可能である。

4・4・2 Capillary力による溶鋼表面上Al2O3介在物間の凝集力

前節までに,液体金属中で濡れ性の悪い固体粒子同士が狭い間隔を隔てて接近すると,Fig.7に示すように固体粒子間での液体金属の排出により空隙架橋が形成されるため,空隙架橋と液体金属間の圧力差と液体金属の表面張力に起因して凝集力が発生することを明らかにした。一方,液体金属と濡れ難い固体粒子同士が液体金属表面で接近する場合には,Fig.10に示すように固体粒子の濡れ性に起因する液面変形を通して,液体金属の表面張力のみから水平方向のCapillary力が誘起され,これにより固体粒子間に凝集力(引力)が作用すると考えられる7)。以下では,本研究の空隙架橋力による凝集力との比較を目的に,Capillary力による凝集力を評価する。

Fig.10.

 Schematic illustration of capillary meniscus around two isospherical particles.

溶鋼表面上における二等球Al2O3介在物間のCapillary力による凝集力FA,C(N)はPaunovら8)の解析から近似的に(22)式で与えられる。   

FA,C=2πσFeQ2/(a+2r),rCa+2rq1(22)
  
rC=1/2{rsinθAl2O3Fe+(r2sin2θAl2O3Fe+4QrcosθAl2O3Fe)0.5}(23)

rCは(23)式で示されるAl2O3介在物と溶鋼表面の接触線の半径(m),Qは毛管電荷(m),qは(ρFe・g/σFe)0.5で定義される毛管定数(m−1),ρFeは溶鋼の密度で7000 kg・m−3,gは重力の加速度(m・s−2)である。Al2O3介在物の粒子間表面距離が無限大における毛管電荷の極限値Q(m)はChanら9)の解析から(24)式のようになる。   

Q=1/6q2r3(24ρAl2O3/ρFe+3cosθAl2O3-Fecos3θAl2O3-Fe)(24)

ρAl2O3はAl2O3介在物の密度で3970 kg・m−3である。微細粒子では毛管電荷の粒子間表面距離依存性が弱いため8),Qは近似的にQに等しいと見なせる。よって,(24)式からQを求め,この値を(22)式に代入することにより,Capillary力による凝集力を計算することができる。なお,Al脱酸溶鋼のq−1は5240 μm,さらに半径500 μm以下のAl2O3介在物のrCはsinθAl2O3-Fe・r=0.46 rで近似できるため,本研究では(22)式の適用条件rC≪a+2r≪q−1をほぼ満足している。

4・4・3 溶鋼中Al2O3介在物間に作用する凝集力の比較検討

直径10 μmの二等球Al2O3介在物間に作用する種々の凝集力におよぼす粒子間表面距離の影響をFig.11に示す。溶鋼中のAl2O3介在物間に働く凝集力の起源としては,van der Waals力と本研究の空隙架橋力が考えられる。van der Waals力による凝集力は,粒子間表面距離が10−2 μmから1 μmまで広がるにつれて9.58×10−11 Nから9.58×10−15 Nに低下しており,粒子間表面距離の増加に伴い急激に低下する弱い短距離力である。これに対し,空隙架橋力による凝集力は,同様の範囲で粒子間表面距離を広げても3.50×10−5 Nから2.53×10−5 Nまで僅かに減少するだけで,空隙架橋が消失しない限り1.73×10−5 N以上に維持される。このため,空隙架橋力による凝集力は,van der Waals力によるそれに比べてはるかに強い長距離力と言える。一方,溶鋼表面上のAl2O3介在物間には,同様の粒子間表面距離で,Capillary力を起源として3.40×10−18~3.09×10−18 Nの凝集力が作用する。粒子間表面距離の拡大に対して,Capillary力による凝集力の減少量は比較的小さく長距離性を示すが,その絶対値はvan der Waals力に基づく凝集力よりも小さい。Fig.11にMizoguchiら10)がAl脱酸溶鋼表面上の直径10 μm程度のAl2O3介在物について,加速度測定から求めたCapillary力による凝集力を斜線領域で示す。彼らの実測値は,粒子間表面距離27~49 μmの範囲において2.64×10−16~1.27×10−16 N程度で,計算値の180~350倍である。これは,Mizoguchiらが測定対象にしたAl2O3介在物が非球形の複雑な形状をしているためであり10),彼らの実測値はCapillary力により溶鋼表面上の球形Al2O3介在物間に働く凝集力としては二桁程度大きめの評価となっている。それにも関わらず,彼らにより実測されたCapillary力による凝集力は,van der Waals力に基づくそれよりも一桁程(18~49倍)大きいだけであって,空隙架橋力によるそれと比べれば遙かに小さな引力といえる。

Fig. 11.

 Effects of interparticle surface distance that affects various agglomeration forces acting between two isospherical Al2O3 inclusions.

Al2O3介在物の粒子間表面距離を介在物直径の5%として,二等球Al2O3介在物間の種々の凝集力におよぼす介在物直径の影響を計算し,Fig.12に示す。溶鋼中における二等球Al2O3介在物の直径が10−1 μmから103 μmまで増大すると,van der Waals力による凝集力は3.83×10−12 Nから3.83×10−16 Nに減少するが,空隙架橋力によるそれは3.12×10−7 Nから2.98×10−3 Nに増大し,常にvan der Waals力を起源とするそれよりも強くなっている。一方,Capillary力により溶鋼表面上の二等球Al2O3介在物間に作用する凝集力は,同様の介在物直径の拡大に伴い3.24×10−28から3.24×10−8 Nまで急激に大きくなり,介在物直径50 μm以上ではvan der Waals力による凝集力よりも強くなっている。しかし,介在物直径を103 μmまで大きくしても,Capillary力による凝集力は依然空隙架橋力による凝集力の約1/105倍で非常に小さい。

Fig. 12.

 Effects of inclusion diameter that affects the various agglomeration forces between two isospherical Al2O3 inclusions.

以上のように,溶鋼中で作用する空隙架橋力による凝集力は,Al2O3介在物の粒子間表面距離やAl2O3介在物直径の変化にも関わらず,溶鋼中のvan der Waals力や溶鋼表面上のCapillary力に起因する凝集力よりも遙かに大きいため,溶鋼中でAl脱酸により生成したAl2O3介在物が溶鋼流に乗って互いに接近すると,主に空隙架橋力による凝集力が作用し,Al2O3介在物が凝集合体して,溶鋼中で粗大なアルミナクラスターを形成するものと考えられる。

5. 結言

水銀中および溶鋼中で介在物を模擬した円柱粒子を接近・分離させ,空隙架橋の生成・消滅挙動を実験的に評価した。実験結果に基づいて作成した空隙架橋力による円柱粒子の相互作用モデルを実介在物形状に近い球形Al2O3粒子に理論拡張し,この相互作用モデルを用いて溶鋼中Al2O3介在物の凝集・分離過程を解析すると共に,溶鋼中のvan der Waals力および溶鋼表面上のCapillary力を起源とする他の凝集力と比較検討した。その結果,Al2O3介在物の凝集機構に関して,以下の結論を得た。

1)水銀中の銅円柱間には空隙架橋は生成されないが,水銀中のガラス円柱間と溶鋼中のAl2O3円柱間には空隙架橋が形成されることから,粒子と溶融金属との接触角が90°以上で粒子が溶融金属に濡れ難い場合,溶融金属中の粒子間に空隙架橋が形成されるものと考えられる。

2)溶鋼中で二等球Al2O3介在物が接近する場合,0.07 dの粒子間表面距離から空隙架橋の生成により1.54 d・σFeの大きな凝集力が発生し,その後も凝集力は徐々に増大しながら完全接触の状態で最大値1.88 d・σFeに達する。

3)反対に,溶鋼中の二等球Al2O3介在物が接触状態から分離する場合,空隙架橋力による凝集力は1.88 d・σFeから徐々に減少するが,0.12 dの粒子間表面距離で空隙架橋が消滅するまでの間は,0.92 d・σFe以上の大きな凝集力が維持される。

4)Al脱酸により溶鋼中に生成したAl2O3介在物は,溶鋼中のvan der Waals力や溶鋼表面上のCapillary力に比べて非常に強い空隙架橋力を起源とする凝集力により凝集合体し,溶鋼中で粗大なアルミナクラスターを生成するものと考えられる。

文献
 
© 2016 The Iron and Steel Institute of Japan

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