Tetsu-to-Hagane
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Intergranular Fatigue Crack Initiation and its Associated Small Fatigue Crack Propagation in Water-quenched Fe-C Fully Ferritic Steel
Motomichi KoyamaZhou-Jia XiYuichi YoshidaNobuyuki YoshimuraKohsaku UshiodaHiroshi Noguchi
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2016 Volume 102 Issue 5 Pages 268-273

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Synopsis:

The fatigue crack initiation and propagation behavior of a water-quenched binary Fe-C fully ferritic steel was investigated though rotating-bending fatigue testing. Intergranular and transgranular crack initiation and propagation were observed. The intergranular crack propagation did not stop, while the transgranular crack propagation was retarded by crack closure and strain aging. As a result, intergranular cracking was the dominant cause of fatigue damage in the steel. A considerable number of cracks were initiated; these propagated through coalescence, which occurred mainly at the grain boundaries. Dominancy of the intergranular fatigue crack propagation increased with increasing stress amplitude. In addition, the steel showed coaxing effect significantly. The coaxing effect suppresses crack initiation as well as crack propagation.

1. 緒言

鉄鋼構造部材においては疲労現象が事故の主要因であるとして,疲労損傷発達挙動に関する研究が多岐に渡って推進されている。疲労損傷発達を支配するき裂発生および伝ぱ機構の幾つかは明らかとなっているが,それら機構の発現は化学組成や温度,結晶方位などに依存するため,疲労特性は大きなバラツキを含む。このバラツキが高い安全率の原因になっており,先進高強度鉄鋼材料のポテンシャルを最大限利用することの障害となっている。安全率の低減,すなわち疲労特性のバラツキを制御するためには,より詳細な疲労き裂発生・伝ぱの影響因子を詳細に解明することが要求される。

疲労損傷発達過程は二つに分けられる。すなわち,疲労き裂発生および伝ぱである。溶体化処理された鉄鋼材料の平滑試料でさえ,疲労寿命の約70%が疲労き裂の伝ぱ寿命で支配されている1)。さらに,疲労き裂伝ぱは短いき裂の伝ぱと長いき裂の伝ぱに分類される。上述の疲労特性のバラツキは,短いき裂の伝ぱが主因である。疲労き裂について,“短い”2,3,4)ということは様々な定義があり,I)機械的に短いき裂1,5),II)微視組織的に短いき裂6),III)物理的に短いき裂7,8,9),IV)化学的に短いき裂10)が知られる。各定義の短いき裂は,き裂伝ぱに影響する種々な因子が有効に働くき裂長さに基づき定義され,それぞれの定義における長いき裂と短いき裂の境界き裂長さは大きく異なる。例えば,化学的に短いき裂の最大き裂長さがおよそ10 mm 2) であるのに対して,微視組織的に短いき裂の最大き裂長さは粒径の数倍,すなわち,数十μmから数百μm 2) である。ここで,産業上利用される鉄鋼材料において,ほとんどの場合に数十から数百μm程度の介在物や微小疵が存在し,これらが疲労き裂発生を引き起こす応力集中サイトとして働くということに注目されたい。これら応力集中サイトから生じる微小き裂の発生直後のき裂長さは数十μm程度であり,疲労寿命の観点ではこのような微小き裂が数百μmまで進展するまでの寿命が全体の疲労寿命の大部分を支配している。このき裂長さに対応する“短いき裂”は微視組織的に短いき裂および機械的に短いき裂に対応する。つまり,一般的に用いられるCompact tension(CT)試験で対象とされる十分に小規模降伏条件を満たしたき裂長さよりも微小なき裂長さである微視組織的に短いき裂および機械的に短いき裂11)に注目することが,疲労寿命のバラツキを生む主因子を理解する上で重要である。本研究では,金属組織学的視点にたち,微視組織的に短いき裂に注目する。以下,微小き裂はすべて微視組織的に短いき裂を指す。

金属学的観点において,微小き裂の伝ぱに由来する疲労特性のバラツキは,対象とする鉄鋼材料の微視組織12,13,14)および固溶原子の拡散・偏析15,16,17)が主要因であると考える。より具体的には,微視組織と強度に影響する化学組成が微小き裂の伝ぱ挙動において重要な役割を担っている。特に鉄鋼材料における炭化物形成や炭素偏析など炭素に関連する現象は,疲労特性に限らず強度全般を取り扱う上で最重要因子である。例えば,我々の前研究においてはセメンタイトの形態が疲労強度だけでなく,微小疲労き裂伝ぱ挙動にも顕著な影響を与えることを見出した18)。一方,セメンタイトの効果とともに重要因子として挙げた炭素拡散・偏析の微小疲労き裂進展への効果は,いまだ未解明な点が多いものの,その重要性は広く認識されている。特に,き裂先端近傍における炭素のひずみ時効硬化は疲労き裂の停留を助長することが報告されている15)ので,疲労限を制御する上で重要である。

上述のとおり,炭素拡散・偏析と微小き裂伝ぱの関係は未解明重要課題である。この課題解明のためには,フェライト単相のFe-C二元合金を用いた単純な組織および化学組成における実験が要求されるが,このような単純化された条件における研究はこれまで試みられていない。ひずみ時効硬化を含む固溶炭素の影響を実験的に追及することは,鉄鋼材料の疲労特性を理論的に理解するにあたって不可欠である。本研究では,フェライト単相組織を有する水焼入れFe-C二元合金を用いて,固溶炭素の種々な効果と微小き裂発生・伝ぱの相関を明らかとする。

2. 実験方法

2・1 試料

上述のとおり,実験条件の単純化のため,フェライト単相組織を有するFe-C二元合金を作製した。化学組成はC=0.017,Si≤0.003,Mn≤0.003,P≤0.002,S≤0.0003,Ti≤0.002,Al=0.052,N=0.0009(mass%)である。試料は700°C,3.6 ksで溶体化処理を施した。室温において炭素をすべて固溶状態とし,かつ可能な限り炭素の偏析を抑制するため,冷却時には水焼入れを行った。熱処理をした試料の平均結晶粒径は約65 μmである。試料は炭素の室温偏析を防ぐため,加工および試験時を除いて常に−87̊°Cで保管した。ただし,機械加工時に多少の室温炭素偏析は起こっていると考える。本合金の機械的性質をTable 1に示す。これら引張特性は室温,ひずみ速度10−3 s−1で測定された。回転曲げ疲労試験片は旋盤によってFig.1に示す形状に加工した。微小き裂伝ぱと組織の関係を観察するため,試験前に3%硝酸と97%エタノール(vol%)の混合液によって試料の機械研磨表面をエッチングした。

Table 1.  Tensile mechanical properties used in this study. These properties are average values of three tests.
Upper yield strength Lower yield strength Ultimate tensile strength Elongation
305 MPa 281 MPa 406 MPa 27%
Fig. 1.

 The schematics for the specimen geometries of (a) tensile and (a) rotary bending fatigue tests.

2・2 疲労試験

小野式回転曲げ疲労試験を室温(298 K),周波数f=50 Hzで行った。応力比Rは−1,波形は正弦波を用いた。本研究における疲労限は107サイクル後に破断しない最大の応力振幅とした。疲労き裂長さはレプリカ法によって表面起伏を転写し,光学顕微鏡観察することで直接測定した。レプリカシートとして34 μm厚さのアセチルセルロースフィルムを用い,これを酢酸メチルに浸漬し,試験片に張り付けることで転写した。

さらに,本鋼のコーキシング効果も研究対象とした。コーキシング効果は疲労限よりも低い応力レベルにおける疲労変形およびその後の段階的な応力上昇によって疲労強度を強化する現象である。例えば,252 MPaの疲労限を有する軟鋼においてコーキシング効果の一例が報告されている19)。軟鋼における疲労試験において,応力振幅を疲労限以下に設定し,107サイクル毎に3 MPa上昇させたとき,325 MPaまで疲労破壊を示さない。その他,コーキシング効果についての初期の研究はKommers20)やBennett21)らによって報告されている。ここで注目されたいのは,オーステナイト鋼を例外として22,23),ひずみ時効硬化が起こる金属材料において顕著なコーキシング効果が観察される点である24)。より詳しく言及すると,炭素鋼のコーキシング効果はひずみ時効硬化に由来する疲労き裂の停留現象に起因している。このような背景のもと,多くの研究者は疲労き裂の伝ぱ寿命に対するコーキシング効果を理解するため,微小き裂の成長挙動に着目してきた24,25,26,27,28)。よって本研究においても,本鋼の疲労限に対応する応力振幅から107サイクル毎に5 MP上昇させることでコーキシング効果を評価した。

3. 結果および考察

Fig.2は応力振幅−破断サイクル数線図である。本鋼の疲労限は210 MPaと測定された。210 MPaにおいて7×106サイクル後,疲労き裂は粒界で発生し,粒内へ伝ぱした(Fig.3(b))。しかし,このき裂はその後107サイクルまで停留し続けた(Fig.3(c))。すなわち,この疲労限はき裂発生ではなく,き裂伝ぱに必要な臨界遠方応力によって決定されている。

Fig. 2.

 Stress amplitude-number of cycles diagram. The open marks indicate the fatigue lives of broken specimens. The solid mark indicates unbroken. The steps after the 107 cycles indicate the results of the coaxing effect test.

Fig. 3.

 Replica images showing non-propagating fatigue crack at the fatigue limit (210 MPa). (a) 0 cycle. (b) 7×106 cycles. (c) 1×107 cycles.

コーキシング効果15,16,17)を評価するため,Fig.2中に示すように210 MPaにおいて107サイクル後,107毎に応力振幅を5 MPaずつ増加させた。試料は疲労限よりも有意に高い240 MPaまで増加させた後にも破壊を示さなかった(コーキシング効果を含まない場合は,240 MPaでは1.8×106サイクルで破断)。さらに,210 MPaで形成した疲労き裂は250 MPa以下では進展しなかった。この現象は炭素のひずみ時効硬化に由来することが知られる15,16,17)。コーキシング効果のための試験中,240 MPaまで増加させた後でもFig.3に示すき裂以外に,新たな疲労き裂発生は確認されなかった。これらの事実は,ひずみ時効硬化がき裂の発生および伝ぱの両方の抑制に寄与することを意味している。また,ひずみ時効硬化による疲労き裂発生の抑制は,粒界疲労き裂発生機構についての重要な側面を示唆している。すなわち,粒界疲労き裂は粒界近傍の応力増大によるものではなく,塑性ひずみ集中によって発生するということである。本質的に,ひずみ時効硬化発現のためには塑性ひずみが要求される。それ故,疲労き裂発生が粒界近傍の応力集中に支配されるのであれば,ひずみ時効硬化は粒界き裂発生抵抗の増大には寄与しない。つまり,最弱粒界は225 MPaに上昇させた段階でき裂発生をともない,この新たに形成したき裂が伝ぱすることで,試料が破断に至るはずである。一方,塑性ひずみ集中が粒界き裂発生の主因子である場合を考えると,疲労限において,粒界近傍に塑性ひずみ集中がき裂発生を伴わない程度に起こるとき,ひずみ時効現象によって粒界近傍が硬化する。結果として,応力振幅増大後も粒界き裂が発生しないと考える。今回の実験事実として応力振幅上昇後も新たなき裂は発生していないので,粒界疲労き裂は対応する破面が脆性的に見えるものの,その主因は塑性ひずみ集中であると考える。

Fig.4(a)および4(b)に240 MPaの応力振幅での疲労き裂長さおよび対応する疲労き裂伝ぱ速度を示す。図中の初めのデータ点以前にはき裂は存在しない。Fig.5(a)および5(b)に示すように,この応力振幅では,粒界および粒内疲労き裂がともに発生した。粒界き裂発生は上述に議論したように,塑性ひずみ集中に起因している。延性材料の粒内疲労き裂は,微視組織スケールの比較的塑性変形し易い領域の塑性ひずみ集中に由来するので,この粒内き裂発生も塑性ひずみ集中によると考える。疲労き裂の数はサイクル数の増大とともに多くなり,それらき裂発生サイトは主に粒界である。炭素は粒界の強度/硬さを強くする29)ので,本鋼における粒界き裂形成の容易さは,粒界炭素偏析を含む従来鋼30,31,32)と比較して低い粒界強度も一因であると考えられる。実際に,本鋼と比較して同程度の結晶粒径(または,それよりも大きい粒径)を有する焼鈍し低炭素鋼が粒内き裂発生を示すことが報告されている33,34)。すなわち,粒界強度を低下させる効果は,塑性ひずみ集中に由来する粒界上のき裂発生を助長すると考える。

Fig. 4.

 (a) Fatigue crack length and (b) propagation rates plotted against number of cycles at the stress amplitudes of 240 and 270 MPa.

Fig. 5.

 Replica images showing (a) intergranular (N=3.6×105) and (b) transgranular (N=5.4×105) fatigue crack initiation at the stress amplitude of 240 MPa. Both view fields are identical.

Fig.4(b)中の矢印で示すように,いくつかの疲労損傷成長段階においてき裂の伝ぱ速度が不連続に増大していることに注目する。Fig.6(a)から6(c)にみられる疲労き裂の合体が,急激なき裂伝ぱ速度の増大の原因である。主き裂の進展を支配する伝ぱ径路は主に粒界である。この粒界き裂疲労進展と比較して,ほとんどの粒内き裂は停留している。Fig.7(a)および7(b)に示すように,270 MPaでさえ,複数の疲労き裂が粒内において停留している。これら粒内停留き裂は粒界に分岐することで進展を継続し,き裂が粒界に沿っている限りは停留しなかった。疲労限以上のすべての応力振幅において同様の傾向が観察され,主なき裂伝ぱ径路は粒界であった。主き裂のみに注目すると,粒内き裂伝ぱの範囲に対する粒界き裂の範囲は240 MPaで67%,270 MPaで75% (Fig.7(c))であった。粒界き裂が停留しなかったこと,また,粒界き裂発生が塑性ひずみ集中に起因することを考えると,粒界き裂伝ぱはき裂の鈍化/再鋭化による進展機構35,36)ではなく,主き裂先端の塑性ひずみ集中による粒界き裂発生・合体の繰り返しによると考えられる。換言すると,粒界疲労き裂成長はひずみ誘起の損傷形成に起因するもので,すべり変形に関連するき裂先端形状の変化によるものではないと考える。Mode Iき裂進展機構として知られるき裂の鈍化/再鋭化機構では,すべり変形によるき裂先端位置の変化がき裂進展を律速する。しかし,粒界上き裂先端の原子配列の対称性および,すべり変形のみで考えるき裂の進展方向の観点から,き裂の鈍化/再鋭化機構では疲労き裂が粒界を伝ぱする現象を説明しない。すなわち,本鋼の疲労き裂伝ぱにおいて,すべりの結晶学的特徴に依存するき裂伝ぱ(粒内き裂進展)および,成長したき裂のマクロスケールの合体(Figs.6(a)−6(c))だけでなく,主き裂先端近傍に繰り返し形成する粒界き裂とのミクロスケールの合体も主因子として働いていると考える。

Fig. 6.

 (a,b) fatigue crack propagation and (c) its associated coalescence at the stress amplitude of 240 MPa. The yellow and red arrows indicate main and sub crack tips, respectively.

Fig. 7.

 (a,b) Non-propagating fatigue crack phenomenon in the grain interior, and (c) intergranular fatigue crack propagation at the stress amplitude of 270 MPa.

Fig.8および9は240 MPaで得られた破面を示している。Fig.8に示される破面はA,B,Cの三つの領域に分類される。き裂発生位置の試料表面近傍に対応する領域Aは,Fig.9(a)にみられるように粒界破壊の特徴を有している。この粒界破面の特徴はFig.5(a)および6に示した粒界き裂発生・伝ぱの結果形成したと考える。明瞭なストライエーションは粒界破面上に観察されない。この事実は,粒界き裂伝ぱがき裂の鈍化/再鋭化機構によるものではなく,粒界き裂発生の繰り返しであること支持している。対照的に,Fig.9(b)に対応する領域では,典型的な疲労由来のストライエーションが観察され,これは粒内疲労き裂伝ぱに対して従来報告されているき裂の鈍化/再鋭化機構35,36)でき裂が伝ぱしたことを示している。すなわち,本鋼の疲労き裂伝ぱにおいて,き裂発生の繰り返しで進展する機構と従来の機構の両方が有意に働いている。これら粒界き裂伝ぱと粒内き裂伝ぱの機構に基づく考察は,上述の二種の伝ぱにおけるき裂の停留挙動の差異に理解を与える。つまり,き裂発生の繰り返しで進展する粒界き裂は,き裂先端において粒界き裂発生が容易な条件においては,き裂の閉口現象とは関係なく次々とき裂が発生し,主き裂と合体するために停留しない。一方,き裂の鈍化/再鋭化による粒内き裂は塑性誘起き裂閉口37)などのき裂の閉口現象によって停留する。このき裂の停留挙動の差異に起因して,粒界き裂伝ぱが本鋼のき裂進展機構の主因子として働いたと考える。

Fig. 8.

 Fracture surface at the stress amplitude of 240 MPa.

Fig. 9.

 Magnified images showing (a) intergranular feature and (b) fatigue striations, which correspond to the regions outlined by the yellow dashed lines in Fig.8. The yellow arrows in Fig.9(b) indicate examples of fatigue striations.

破断に至るまでの粒界き裂伝ぱ過程について,破面の特徴から考察を試みる。Fig.8中の領域Aにみられる特徴として,疲労き裂進展が少なくとも二つのき裂発生サイトから進行していることが挙げられる。Fig.10(a)および10(b)に,複数のき裂発生サイトから伝ぱした場合と,単一のサイトから伝ぱした場合に想定される疲労破面形態をそれぞれ模式的に示す。今回用いた鋼の場合,試料表面から複数のき裂が発生するので,それらき裂が伝ぱし,合体した結果,領域Aのような破面が形成したと考える。このき裂進展の初期段階が終了するときには,き裂長さはFig.4(a)に示した破断時のき裂長さ(7 mm)に近い5 mmにすでに達している。つまり,この粒界破面を含む領域に対応する疲労き裂進展段階が全体の疲労寿命を支配していると考える。次に,複数のき裂発生サイトから伝ぱしたき裂が合体し,き裂の前縁に生まれる応力集中に起因して,き裂進展速度が局所的に加速する。このき裂の進展段階が領域Bに対応する。領域Bが終了する段階で,破断直前のき裂長さ7 mmに達する。最後に,試料は引張応力によって破壊し,領域Cを形成する。

Fig. 10.

 Schematic illustrations of (a) the present fracture surface and (b) general fracture surface.

4. 結論

本研究では,従来鋼と比較して炭素偏析が少なく,第二相を含まないFe-0.017C水焼入れ鋼を用いて,微小き裂発生および伝ぱにおける固溶炭素の効果を調査した。本鋼の粒内疲労き裂は,疲労限よりも高応力であっても停留することが確認された。しかし,停留したき裂は粒界に分岐し,この粒界疲労き裂は,粒界に沿って伝ぱする限り停留しなかった。これらの事実は,ひずみ時効硬化が粒内の微小き裂伝ぱの停留に寄与することを示唆している。また,疲労限から応力振幅を107サイクル毎に徐々に増大させることで,ひずみ時効に由来するコーキシング効果を発現させると,疲労き裂伝ぱだけでなく,粒界および粒内疲労き裂の発生も抑制された。ひずみ時効硬化は塑性ひずみを必要とするので,このコーキシング効果による粒界き裂発生の抑制は,粒界き裂発生が塑性ひずみ集中に起因することを示唆しており,予ひずみによって粒界き裂発生および伝ぱが抑制可能であることを示している。

文献
 
© 2016 The Iron and Steel Institute of Japan

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