2016 Volume 102 Issue 8 Pages 425-433
CO2 emissions in steel works accounts for about 15% of those in Japan (2015), and most of those are from blast furnace iron-making process. To reduce CO2 emissions, utilization of woody biomass in blast furnace is considered. Woody biomass has the characteristic of carbon neutral and high reactivity. So CO2 emissions can be reduced by the use of woody biomass as coke substitution. High reactivity of reducing agent is expected to decline thermal reserve zone “Trz” temperature, which causes improvement of reaction efficiency in the blast furnace and lowering of reducing agent rate. To verify the effect of the use of woody biomass on thermal reserve zone temperature, we executed experiment to evaluate the effect of charcoal coexisting in the ore layer on reduction behavior of iron oxide with the adiabatic blast furnace inner reaction simulator (BIS). With heat and mass balance analysis, we evaluated the effect of declining Trz temperature on lowering of reducing agent rate and the effect of utilization charcoal as coke substitution on reducing CO2 emissions in blast furnace process.
As a result, charcoal lowered the Trz temperature and carbon consumption. We estimated that charcoal can reduce CO2 the amount of CO2 emissions 33%. So that, we think that charcoal can be used as coke substitution.
近年,製造業ではエネルギー効率改善による地球温暖化ガスの排出削減が求められている。特に日本のCO2排出量における鉄鋼産業の占める割合は約13%であり1),中でも高炉法は,コークス(炭素)を還元材として用いたプロセスであり,鉄鋼産業のCO2排出割合中の60%を占めている2)。そのため鉄鋼産業のCO2排出量削減への寄与は非常に大きく,新規技術による高炉エネルギー原単位の削減が期待されている。
高炉プロセスのエネルギー原単位削減のためには,高炉の低還元材比操業が基本であり,高品位原燃料によって達成は容易である。しかし日本では,固有の原料事情から劣質な原燃料の使用が求められており,安定的な低還元材比操業の達成は制約される。よって,従来の還元材であるコークスの代替として,発生したCO2がCO2排出量にカウントされないカーボンニュートラルエネルギー且つ,入手が容易で品質が比較的安定している「木質バイオマス」の利用が期待されている。鉄鋼における木質バイオマスの利用に関しては,炭化を経由した木質系バイオマスの高炉への吹き込み技術3,4),またコークス炉での利用を目的とした基礎研究が検討されている5,6)。但し,木質バイオマスの高炉吹き込み利用は,微粉炭と比較して発熱量が低いため羽口先の分解熱保障から高炉操業範囲を狭くすることが懸念される。コークス炉投入については,コークス強度の低下に起因した高炉操業の不安定化が懸念されるため,その使用比率は制限される。
そこで,木質系バイオマスの高炉への利用方法の一つである,コークスの代替として使用する方法を検討した。特にブラジルの高炉で使用実績のある「木炭」に着目した7)。木炭を高炉プロセスに適用した木炭高炉の特徴は,物理的強度の弱さから炉高が上げられず,低い点にある。そのため木炭高炉は大型化が難しく,有効炉内容積は40~300 m3,生産量50~500 t/d程度が普通である。一方で木炭は,一般的にCO2ガスとの反応性が良好であり7),通常より高炉内の低温部からソリューション・ロス反応が開始するため,高炉の熱保存帯温度を低下できると考えられる。その結果として,還元反応の高効率化が得られるため,大型高炉に適用することで還元材比の低減とCO2排出量の低下が期待されている8)。但し,大型高炉への木炭の適用知見が無いと共に,コークス代替として木炭を検討する上で,コークスと木炭の性状の違いや,木炭とCO2ガスの反応性,木炭使用による高炉シャフト部の還元効率の向上およびCO2削減効果の定量評価などCO2削減の手段としての効果的な知見が無いことが課題であった。
本報告では,コークスと木炭の性状評価と,木炭のCO2ガスとの反応性評価を実施し,大型高炉へ木炭を適用した場合における高炉シャフト部の還元効率の向上およびCO2削減効果の定量評価を行い,コークス代替として木炭の有用性の検証を行った。
試料は,実機コークスと,千葉県内にて市販されている木炭2種(カシ炭,ナラ炭)それぞれの炭材に対して,まず物理特性評価として気孔径分布,気孔率,比表面積(BET法)の測定を行い,合わせて顕微鏡組織観察も実施した。次に高炉内におけるコークスの役割である通気・通液性維持への影響を検討するために圧潰強度,回転強度試験を実施した。圧潰強度試験はJIS M8718に従い粒径9-13 mmの試料30個の平均値を評価した。回転強度試験は,粒径9-13 mmの試料100 gを焼結鉱RDI用(JIS M 8720)の試験装置へ投入し,大気中30 rpmで30分間回転させた後,粒径が3 mm以下の試料の質量割合から評価した。化学特性評価として組成分析とXRD分析を実施した。
2・2 コークスと木炭の反応性評価コークスと木炭の反応性評価は,Fig.1に示すコークス反応シミュレーター(CRS)を用いた9)。試料は粒径9-13 mmに調整し,200 gを反応管内に装入し,ガス流速20 l/minにて反応管下部からガスを流し,室温から1100°Cまで昇温した。ガス組成および昇温パターンは2種類の条件で実施した。1つ目の条件(パターン1)は,ガス組成CO/CO2=50%/50%,昇温速度10°C/minとした。2つ目の条件(パターン2)は,Table 1に示すように高炉内の炉頂から融着帯上部まで模した条件とした。またどちらの条件下でも,木炭の揮発分を補正するため,窒素ガスにて,同様の昇温条件で重量変化の測定を行った。

Test equipment of CRS.
| Temperature (°C) | Rate of temperature increase (°C/min) | Gas (CO/CO2)=vol%/vol%) |
|---|---|---|
| RT ~ 600 | 10 | 50/50 |
| 600 ~ 700 | 55/45 | |
| 700 ~ 800 | 60/40 | |
| 800 ~ 900 | 65/35 | |
| 900 ~ 1000 | 1 | 70/30 |
| 1000 ~ 1100 | 5 | 75/25 |
実験は,Fig.2に示す実炉を模擬することができるBIS(Blast furnace Inner reaction Simulator)炉試験装置を用いて行った。BIS炉試験装置は,還元材比に相当するInputガス(ボッシュガス)を断熱化した反応管上部から注入し,偏差制御により伝熱・還元・ガス化反応を進行させることで,実高炉内と同様の温度分布・ガス条件を再現でき,得られた炉内温度,ガス分析結果とリスト線図を用いて還元材比の低減効果を評価することができる8)。

Test equipment of BIS (Blast furnace Inner reaction Simulator).
試験にはTable 2に示す組成の焼結鉱,コークス,小塊コークス,ナラ炭を用いた。試料の粒径は,焼結鉱をシャフト下部での粒径の低下を考慮し10 mm~15 mmに,コークス,小塊コークスおよびナラ炭は反応管径の制約から9 mm~13 mmに調整した。本実験では,試験設備制約からコークスと小塊コークスは同等の試料を使用しており,焼結鉱層へ混合装入するコークスを小塊コークス(Nut coke)と定義した。
| Sample | Composition (mass%) | Size (mm) | |||||
| T.Fe | FeO | CaO | SiO2 | Al2O3 | MgO | ||
| Sinter | 58.18 | 6.61 | 9.16 | 5.63 | 1.62 | 0.79 | 10-15 |
| Sample | Proximate analysis | Ultimate analysis | Size (mm) | ||||
| Ash (mass.%, dry) | VM (mass.%, dry) | C (mass.%, dry) | H (mass.%, dry) | N (mass.%, dry) | O (mass.%, dry) | ||
| Nara Charcoal | 2.0 | 14.6 | 82.9 | 2.65 | 0.26 | 12.3 | 9-13 |
| Coke | 11.8 | 0.8 | 85.6 | – | – | – | 9-13 |
| Nut coke | 11.8 | 0.8 | 85.6 | – | – | – | 9-13 |
Table 3にBIS炉試験条件,Fig.3に装入方法を示す。Case1をベースとし,InputFe,Cが同等となるように,Case2では鉱石層に小塊コークスを均一に混合装入し,Case3は鉱石層に木炭を均一に混合装入した。実験は実際の高炉操業条件を模擬したものとし,Case1~3では還元材比(RAR)481 kg/tp,コークス比(CR)349 kg/tp,微粉炭吹き込み量(PCR)132 kg/tpにおける小塊コークスと木炭を使用した条件比較を行った。Case4, 5は更に還元材比を下げた条件における木炭使用の検証を行った。またボッシュガス量および組成は全てのCaseにおいて一定とした。
| Case1 | Case2 | Case3 | Case4 | Case5 | |||
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| Mass of charged material | Sinter | (g/ch) | 463 | 463 | 463 | 463 | 463 |
| Coke | (g/ch) | 100 | 79.2 | 79.3 | 80.2 | 61.5 | |
| Nut coke | (g/ch) | 0 | 20.8 | 0 | 0 | 0 | |
| Nara Charcoal | (g/ch) | 0 | 0 | 20.8 | 0 | 20.8 | |
| Charged T.Fe | (g/ch) | 269 | 269 | 269 | 269 | 269 | |
| Charged T.C | (g/ch) | 85.6 | 85.6 | 85.6 | 68.7 | 68.7 | |
| CR | (kg/tp) | 349 | 349 | 349 | 280 | 280 | |
| PCR | (kg/tp) | 132 | 132 | 132 | 132 | 132 | |
| RAR | (kg/tp) | 481 | 481 | 481 | 412 | 412 | |
| Bosh Gas | Bosh gas volume | (Nm3/tp) | 1343 | ||||
| CO | (%) | 36 | |||||
| H2 | (%) | 7 | |||||
| N2 | (%) | 57 | |||||

Sample charging procedure of BIS tests.
Fig.4に各炭材の表面のSEM観察結果を示す。コークスは50 μm以上の粗大な気孔があり表面が平滑であることに対し,カシ炭やナラ炭等の木炭は,50 μm以上の粗大な気孔が存在することに加え10 μm以下の微細気孔が無数に観察された。また各炭材の気孔径の分布を測定した結果をFig.5に示す。コークスの気孔の半分以上が10 μm以上であることに対し,木炭は80%以上が10 μm以下の微細な気孔であった。更にTable 4に示す各炭材の気孔率と比表面積の測定結果から,木炭はコークスと比較して気孔率が高く,比表面積が高位であることが判明した。これらより木炭はガスとの接触面積が多く,コークスに比べてガスとの反応性が高いと推察される。

Surface microstructure of samples uses in laboratory tests. (a) coke, (b) Kashi charcoal, (c) Nara charcoal

Pore size distribution of coke and charcoal used in laboratory tests.
| Porosity % | Specific surface m2/g | |
|---|---|---|
| Coke | 38.0 | 3.4 |
| Kashi charcoal | 52.6 | 26.1 |
| Nara charcoal | 53.8 | 24.6 |
次に各炭材の圧潰強度と回転強度の試験結果をTable 5に示す。コークスに対し,木炭2種の圧潰強度と回転強度は低位であった。木炭の強度が低い理由として,Table 4に示すように,木炭はコークスと比較して,全体の気孔率が高位であることが原因と考えられる。このことから,コークスに対する木炭の代替割合は,装入物へ加わる荷重の大きさ,すなわち高炉の内容積で決まると考えられる7)。
| Crushing strength (N/P) | Degradation –3 mm (%) | |
|---|---|---|
| Coke | 455.7 | 2.14 |
| Kashi charcoal | 261.7 | 3.63 |
| Nara charcoal | 232.2 | 4.84 |
続いて各試料の組成分析の結果をTable 6に示す。コークスと木炭の違いとして,灰(Ash)はコークスの方が多いことに対し,揮発分(VM)は木炭の方が多かった。
| Sample | Proximate analysis | Ulminate analysis | ||||
|---|---|---|---|---|---|---|
| Ash (mass%, dry) | VM (mass%, dry) | C (mass%, dry) | H (mass%, dry) | N (mass%, dry) | O (mass%, dry) | |
| Coke | 11.8 | 0.8 | 85.6 | – | – | – |
| Kashi charcoal | 6.2 | 14.5 | 79.1 | 2.36 | 0.28 | 12.1 |
| Nara charcoal | 2.0 | 14.6 | 82.9 | 2.65 | 0.26 | 12.3 |
これは,木炭が樹木の乾留物であるのに対し,コークスの原料である石炭は地下資源であり,炭素質以外の無機鉱物が含まれているためと考えられる。
次に各炭材のXRD分析結果をFig.6に示す。コークスおよび木炭は,2θ=10~30°付近にグラファイト(C)のピークが観測され,特にコークスには木炭と比較してシャープなピークが確認された。この理由としてコークスは,その形成過程において液相から炭化が進むため,配向の揃った結晶構造が形成されることに対し,木炭は固相から炭化が進むため,結晶子も小さく互いの方位が乱雑な構造であるからと考えられる10)。ここで炭化度を定量評価するため,あらかじめ各炭材のC濃度に対して5 mass%混合したCaF2とC強度の比によって求まるCのピーク高さおよび,ピークの半値幅を測定した結果をTable 7に示す11)。その結果,コークスに比べ木炭のピーク高さは低く,半値幅も広かった。これは木炭の炭化度がコークスと比較して低いことを意味しており,ガスとの反応性が高くなると考えられる。以上より物理特性だけでなく化学特性もCO2ガスとの反応性が高いことが示唆される。

XRD pattern of samples. (a) Coke, (b) Kashi charcoal, (c) Nara charcoal
| Sample | Peak height (–) | Half bandwidth (–) |
|---|---|---|
| Coke | 0.88 | 26.1 |
| Kashi charcoal | 0.34 | 59.0 |
| Nara charcoal | 0.37 | 57.1 |
パターン1とパターン2の温度ガス条件における,コークスおよび木炭の重量変化について評価した結果をFig.7,Fig.8にそれぞれ示す。パターン1ではコークスが1021°Cから重量変化が開始しているのに対し,木炭はカシ炭が851°C,ナラ炭が810°Cと低温側から変化している。パターン2においてはコークスが970°Cから重量変化しているのに対し,木炭はカシ炭が841°C,ナラ炭が846°Cと低温側から変化している。いずれにおいてもコークスと比較して,木炭の反応開始温度が低く重量変化も大きいことから,性状評価で推察したように,木炭はCO2ガスとの反応性が高いことを確認した。したがって木炭をコークス代替として高炉で使用することにより,熱保存帯温度の低下が期待できる。またパターン2の条件は高炉を模擬しているため,反応開始温度が熱保存帯温度の目安になると考えられる。

Weight change of samples in “pattern 1” of CRS tests. (a) Coke, (b) Charcoal

Weight change of samples in “pattern 2” of CRS tests. (a) Coke, (b) Charcoal
以上より,木炭の使用方法を先の強度試験結果と併せて考慮すると,小塊コークスの代替として使用することが望ましいと考えられる。小塊コークスとは炉内反応効率の向上を目的として鉱石層中に混合装入しており,コークスに対して粒径が約10 mm小さく,強度の制約が小さい(DI1506:77%)還元材のことであり,木炭の特性に適していると考えられる。
3・3 木炭使用による高炉シャフト部における反応挙動評価 3・3・1 木炭使用時の高炉シャフト部における還元反応挙動評価Fig.9にCase1~3の炉内温度分布を示す。横軸は,炉頂試料上面を0とし,レースウェイ位置を1とした無次元高さを表している。その結果,ベースとなるCase1や小塊コークスを使用したCase2と比較して,木炭を使用したCase3では炉内温度の低下が確認された。ここで昇温速度が最も低くなる温度(Fig.9中●印)を熱保存帯温度と考えた場合,各Caseにおける熱保存帯温度はFig.10のようになった。小塊コークスを使用したCase2では熱保存帯温度の低下は小さかったが,木炭を使用したCase3では熱保存帯温度の低下が顕著に表れていた。この理由として,今回の実験では,コークスと小塊コークスの粒径に差がないため熱保存帯温度の低下は小さかったが,木炭の場合,前報で述べたようにCO2との反応性が高いため,小塊コークスと同等の粒径でも熱保存帯温度が大きく低下したと考えられる。加えてFig.11に示す炉内ガス組成分布からも,木炭を使用したCase3では他の条件と比較してηCOが700°C付近から減少しており,COガスがより低温から発生していることが確認できる。また木炭を使用したCase3の熱保存帯温度は739°Cであるが,3・2で記述したナラ炭の反応開始温度の846°Cよりも低い値となっている。これはTable 2に示すように,ナラ炭は揮発分に含まれるH2の量が多いことから,焼結鉱の水素還元による吸熱反応が増加し炉内が低温化したため,ナラ炭の反応開始温度より低温になったと考えられる。

Temperature distribution at Case1~3 of BIS tests.

Thermal reserve zone temperature at Case1~3 of BIS tests.

Distribution of Gas composition at Case1~3 of BIS tests.
次に各Caseの炉内温度と焼結鉱の還元率の関係をFig.12に示す。木炭を使用したCase3では,他の条件に比べ低温化から還元が開始し,1150°Cにおいても還元率は高位であった。これは熱保存帯温度の低下により,炉内の還元効率が向上したことが要因と考えられる。

Reduction degree of sinters at Case1~3 of BIS tests.
これまで木炭を鉱石層へ混合装入することで熱保存帯温度が低下し,還元効率が向上することを確認した。そこで還元材比の低下に伴うCO2排出量削減効果と,木炭をコークス代替として使用することによるカーボンニュートラルを考慮したCO2排出量削減効果について熱物質収支評価を行った。
評価方法としてリスト線図12)を用いた。リスト線図を用いる理由として,操業の理想状態との差や,操業条件変更時の予測が簡易に行える高炉の実操業で用いられている実績のあるツールだからである。以下の記号は参考文献12)に準ずる。
評価方法は,設定条件であるボッシュガスCO 36 vol%,H2 7 vol%,N2 57 vol%,1343 Nm3/t,出銑条件Fe 94.13 mass%,Si 0.35 mass%,Mn 0.25 mass%,P 0.1 mass%,C 4.5 mass%,をもとにE点を,炉頂ガスCO 23.02 vol%,CO2 22.00 vol%,H2 4.00 vol%,N2 50.98 vol%をもとにA点を求め操業線を引いた。熱収支を満足する操業線が通らなければならないP点は,本来下記に示すΔ1とΔ2から求める。
しかし不明項や仮定が多くなるためプロセス帯の熱収支は保存され,P点は一致しうるとみなした。その上でP点はCase1の操業線も通ることから,BIS炉試験を行う上での仮想操業条件である送風温度1178°C,送風湿度18.6 g/Nm3,酸素冨化率2.71%より求めることが可能なΔ1と操業線の交点からP点を求めた。シャフト効率は,Case1より得られた熱保存帯温度1028°Cをもとに評価したW点(ウスタイト−鉄還元平衡点)より求めた。
次にFig.11よりCase2およびCase3で得られた熱保存帯温度1024°C,739°C付近において還元平衡に達していることから,少なくともシャフト効率が維持されると仮定し,Case2およびCase3で得られた熱保存帯温度1024°C,739°Cから算出したW点とシャフト効率から新R点を求め,操業条件を変更しても保存されるP点とを結び,それぞれの操業線を得た。以上の方法により得られた操業線に基づき,Case1,Case2およびCase3における還元材比とCO2排出量を求めた。
Fig.13にCase1~3のリスト線図の重ね合わせを示す。またFig.14にFig.7の1<O/C<2,0<O/Fe<1.5の範囲の拡大図を示す。Fig.13およびFig.14より,小塊コークス使用のCase2は,熱保存帯温度がほとんどベースと変化しなかったため,Case1の操業線とほぼ重なっていた。一方で,木炭を使用したCase3は,高反応性に加えて揮発分の水素の効果による熱保存帯温度の低下の影響によりW点がリスト線図の右側(高CO2側)に移動し,操業線の傾きが小さくなった。操業線の傾きは,還元材比に相当するため,木炭使用により還元材比が低減されていることが示唆された。

Rist diagram at Case1~3 of BIS tests.

Rist diagram at Case1~3 of BIS tests. (1.0 < O/C < 2.0)
この操業線に基づきE点より羽口で燃焼した炭素量を,B点よりソリューションロス反応の炭素量を,出銑条件より浸炭の炭素量を求め,還元材比を算出した。Case1における還元材比を100%とした場合に対して,小塊コークス,木炭使用時の還元材比低減効果の割合をFig.15に示す。その結果,小塊コークスと木炭のそれぞれの還元材比は,0.2 mass%,14.4 mass%低減しており,木炭を高炉で使用することで,還元材比の大幅な低減が期待できる。またCase1におけるCO2排出量を100%とした場合に対して,小塊コークス,木炭使用時のCO2排出量削減効果の割合をFig.16に示す。その結果,小塊コークスと木炭のそれぞれCO2排出量は,0.2 mass%,16.2 mass%低減した。更に木炭から発生したCO2排出量は16.8 mass%存在するが,木炭はカーボンニュートラルであるためCO2排出量として計上する必要がない。そのため木炭使用によって化石燃料由来のCO2排出量を33 mass%削減できると期待される。

Effect to reduce RAR ratio of Nut coke and Nara charcoal.

Breakdowns of effect to reduce CO2 emission ratio of Nut coke and Nara charcoal.
コークスの代替として,木炭を使用した場合,還元材比を14.4 mass%低減できることが判っている。そこでTable 3に示すように,Case1のベースから還元材比を14.4 mass%低減(RAR:412 kg/tp)させたCase4,更に木炭を使用したCase5にて試験を実施し,木炭使用試験(Case3)から見積もられた還元材比低減効果が妥当か検証を試みた。
Fig.17,18にそれぞれCase1,4,5の炉内温度分布および,炉内温度と焼結鉱の還元率の関係を示す。Fig.17から,Case4はベースに対して,無次元高さ0.2~0.4の範囲において温度が低くなっていた。これは還元材比が低減した分だけ,COガスの間接還元量が減少し,反応熱(発熱)が減少したため炉内温度が低下したと考えられる。一方で木炭を使用したCase5は,Case3と同様に水素還元による吸熱反応が増加したことで炉内が低温化したと考えられる。次にFig18より,Case4は還元材比が低い影響を受けて1150°Cの還元率がベースと比較して低位であった。それに対してCase5は,木炭を使用したことで還元効率が向上し,Case4と比較して還元遅れが改善傾向にあるが,ベースと比較して還元率は低位であった。これは炉内温度が低下したことに伴う焼結鉱の還元速度低下の影響が,W点の移動によるガス駆動力の効果よりも大きくなったためと考えられる。そのため木炭使用による還元材比低減を実現するためには,焼結鉱の低温域での被還元性を改善し,焼結鉱側の反応速度も維持する必要があると考えられる13)。

Temperature distribution at Case1, 4 and 5 of BIS tests.

Reduction degree of sinters at Case1, 4 and 5 of BIS tests.
高炉操業においてCO2ガスの排出削減を行うため,従来の還元材であるコークスの代替として,木質バイオマスの「木炭」を検討した。木炭はCO2ガスとの反応性が良好であり,還元反応の高効率化が得られるため,還元材比の低減に伴うCO2排出量の低下が期待されている。今回はコークスと木炭の性状評価と,木炭のCO2ガスとの反応性評価を実施し,木炭使用による高炉シャフト部の還元効率の向上およびCO2削減効果の定量評価を行うことで,コークス代替として木炭の有用性を検証した結果,以下の知見を得た。
(1)コークスが約1000°Cから反応開始することに対し,木炭は約850°Cと低温から反応が開始した。加えて重量変化量も大きいため,高反応性であることが明らかとなった。
(2)高反応性の要因として,10 μm以下の微細気孔が多く存在しており気孔率および比表面積が総じて高いことや,方位が乱雑で結晶子が小さい組織であるため炭化度が低いからと考えられる。
(3)上記より,高炉の熱保存帯温度の低下が期待されるが,強度が低位であるため,その使用方法は通常コークスと比較して強度制約の低い小塊コークスの代替が望ましいと考えられる。
(4)BIS炉試験の結果,木炭を高炉に使用することで,熱保存帯温度が約750°Cまで低下することが判った。それに伴い炉内の還元効率が向上し,1150°Cにおける焼結鉱の還元率は高位となった。
(5)コークスや小塊コークスに対して木炭を使用した時の還元材比は14.4 mass%低減し,CO2排出量は木炭のカーボンニュートラル分を考慮すると33 mass%低減できることがリスト線図から見積もられた。
(6)更に還元材比を14.4 mass%低減させた条件下においても,木炭使用によって熱保存帯温度が低下し,還元効率向上に伴う,還元遅れの改善を確認することができた。
e:(W/18)/(0.21×2/0.0224)
W:送風湿分[g/Nm3]
qsl:コークスのソリューションロス反応[kJ/molC]
qb:空気の顕熱[kJ/molO]
qc:コークスの燃焼熱[kJ/molO]
qe:−qes+qer+(X2w−1)qw[kJ/molH2O]
qes:H2Oの顕熱[kJ/molH2O]
qer:CとH2Oの反応熱[kJ/molH2O]
X2w:H2のW点のX軸の値
qw:H2OとCOの反応熱[kJ/molH2]
yf:ysi+yMn+yP[molO/molFe]
ysi:SiO2の還元によってガス化したOの量[molO/molFe]
yMn:MnOの還元によってガス化したOの量[molO/molFe]
yP:P2O5の還元によってガス化したOの量[molO/molFe]
a:微粉炭中のH2の量[molH2/molC]
b:O2富化量[Nm3/Hr]
yj:微粉炭中のCの量[molC/molFe]
qj:qjd+qjs−bqc+a(X2w−1)qw
qjd:添加物のC,H2,O2への分解熱[kJ/molCH4]
qjs:分解した添加物の顕熱[kJ/molCH4]
f:溶銑の顕熱[kJ/molFe]
l:スラグの生成熱と顕熱[kJ/molFe]
P:炉壁からの熱損失[kJ/molFe]
yfqf:ysiqsi+yMnqMn+yPqP[kJ/molFe]
qsi:SiO2の還元熱[kJ/molO]
qMn:MnOの還元熱[kJ/molO]
qP:P2O5の還元熱[kJ/molO]
γqγ:CのFeへの溶解熱[kJ/molFe]
Yw:シャフト効率100%におけるW点のY軸の値
ql:FeのCOによる還元熱[kJ/molO]