Tetsu-to-Hagane
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Effect of Slag Composition on Phosphorus Separation from Steelmaking Slag by Reduction
Kenji NakaseAkitoshi MatsuiNaoki KikuchiYuji Miki
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2016 Volume 102 Issue 9 Pages 485-491

Details
Synopsis:

Steelmaking slag is recycled and reused, but its utilization is restricted due to its chemical properties. On the other hand, steelmaking slag is considered to be a promising resource of iron and phosphorus in Japan. In this work, reduction of (FetO) and (P2O5) in steelmaking slag and recovery of iron and phosphorus resources were investigated with the aim of developing a new recycling process for steelmaking slag. In order to investigate the effect of slag basicity (%CaO/%SiO2) and FetO content in slag on phosphorus separation from steelmaking slag, steelmaking slags were reduced by carbonaceous material at high temperature by using an induction furnace. From the results, the effects of slag composition, temperature and oxygen partial pressure on phosphorus separation from steelmaking slag were discussed.

1. 緒言

鉄鋼製錬プロセスにおいて発生する高炉スラグはおよそ290 kg/t-pig iron1)程度であり,セメント原料などに有効利用されている。製鋼スラグはおよそ120 kg/t-steel1)程度発生し,土工用の埋め戻し材などに利用されている。製鋼スラグを路盤材に利用するためには,未滓化石灰による膨張崩壊性を低減する必要がある。一方,製鋼スラグ中のFe,CaO源の循環利用を目的として製銑プロセスへのリサイクル等の効果的な処理,利用の研究開発2,3,4)が実施されてきた。しかし,製銑プロセスへリサイクルする際,製鋼スラグ中に含有されるりんが,還元雰囲気の高炉で溶銑に移行するため,鉄鋼製品の品質への悪影響が懸念され,十分実施されていないのが現状である。

製鋼スラグからのりんの除去に関する研究についてはいくつかの報告がある。Shiomiら5)はスラグ塩基度(CaO/SiO2重量パーセント比)が1.1~1.2の合成スラグを黒鉛るつぼ内で溶融させてスラグの還元実験を行い,1773~1873 Kで脱りん率68~94%が達成でき,スラグ中のFetOの還元がP2O5の還元に先行することを見出している。また,スラグ中のP2O5の炭素による還元反応速度が化学反応で律速されるとしている。Takeuchiら6)はFe-Si合金共存下における炭素による転炉スラグの還元実験を行い,りんがP2ガスとなって一部は溶鉄に溶け込み,少なくとも60%が気化除去されて単体のりんとして回収できることを報告している。永田7)は塩基度が2.7の予備処理スラグと黒鉛粉末を混合し,黒鉛るつぼ内で溶融させて還元実験を行い,1896~1938 Kで70%の気化脱りん率が得られたことを報告しており,スラグの撹拌により反応界面積を増大させることで更なる脱りんの促進の可能性について言及している。

さらに近年では,Moritaら8)やToishi and Itoh9)によって急速加熱を用いたスラグからの脱りんに関する研究も行われている。また,Kuboら10)は溶銑脱りんスラグの構成相が,鉄をほとんど含まないりん濃縮相と,りんをほとんど含まない相に大別できることに着目し,強磁場勾配を利用して,スラグから両者を磁気分離する実験を実施し,りん資源の回収の可能性を検討している。

Matsuiら11,12)は,攪拌を付与した条件下で,溶銑予備処理スラグおよび転炉スラグ(塩基度=1.2~4.0)のFetO,P2O5還元挙動と温度の関係を調査し,スラグ中FetOの活量がおよそ0.01以下まで還元された条件において,(P2O5)の除去率が50%を超えることを報告している。

このように,製鋼スラグ中の(P2O5)の還元反応に対してFetO濃度が大きく影響するが,報告例は殆どない。本研究では,製鋼スラグから鉄とりんの還元,分離挙動に及ぼす製鋼スラグ中FetO濃度の影響について調査を行った。

2. 実験方法

製鋼スラグの還元実験に用いた装置の概略図をFig.1に示す。高周波誘導加熱炉にカーボンるつぼ(外径130 mm,内径100 mm)とMgOるつぼ(外径85 mm,内径77 mm)をセットし,MgOるつぼ内にスラグ試料を100 gと還元用炭材を装入して,炉上からArガスを5 NL/min流しつつ,インペラによる機械撹拌(60 rpm)を行いながら所定の温度まで平均15 K/minで昇温した。試料温度は炉上より熱電対を挿入してスラグ上面の温度を測定した。実験に用いたスラグ試料の化学組成をTable 1に,実験条件をTable 2に示す。塩基度調整剤は珪砂(SiO2純度>95 mass%)を用いた。還元用炭材はC純度99 mass%以上の黒鉛を用い,配合量はスラグ中の(FetO),(P2O5)の還元に必要な化学量論値に対して1.5倍とした。スラグ試料および還元用炭材は粒径0.425×10−3 m以下に調整したものを予め混合して装入した。所定温度到達後,30分保持した後に機械撹拌を停止して空冷した。スラグが溶融した実験においては所定温度到達後,0,10,20,30分時にそれぞれ約10 gのスラグを採取した。降温後,るつぼ内から試料を取り出し,スラグとメタルを磁選分離し,それぞれの重量測定,化学組成分析を行った。なお,スラグとメタルの分析には代表性を持たせるために,回収したサンプルを粒径0.25×10−3 m以下に粉砕し,縮分操作を行った後に分析に供した。

Fig. 1.

 Experimental apparatus. (Online version in color.)

Table 1.  Chemical compositions of slag for experiments.
CaO SiO2 Al2O3 MgO MnO P2O5 T.Fe FeO Fe2O3 M.Fe (%CaO)/(%SiO2)
mass%
Steelmaking slag 41.0 13.8 5.6 6.1 2.1 1.6 18.7 11.4 10.8 2.3 3.0
Table 2.  Experimental conditions.
Ch No. Initial FetO (mass%) Target (%CaO)/(%SiO2) Temperature (K) Used slag Rotation speed (rpm)
1-1 12.1 0.5 1523 Steelmaking slag + silica sand 60
1-2 12.1 0.5 1623
1-3 15.9 1.0 1523
1-4 15.9 1.0 1523
1-5 15.9 1.0 1573
1-6 15.9 2.0 1623
1-7 18.8 2.0 1523
1-8 18.8 2.0 1623
1-9 18.8 1.0 1623
2-1 2.4 1.0 1473
2-2 2.4 1.0 1573
2-3 2.0 1.0 1673
2-4 3.0 2.0 1473
2-5 3.0 2.0 1573
2-6 4.9 2.0 1673

3. 実験結果

3・1 スラグ組成の経時変化

スラグ中の(%FetO)と(%P2O5)の経時変化をFig.2Fig.3に示す。図中の実線で示す区間は目的の温度に保持されている時間である。破線で示す区間は昇温・降温速度が実験によって異なるため,評価困難である。

Fig. 2.

 Change of (FetO) during reduction experiments. (Online version in color.)

Fig. 3.

 Change of (P2O5) during reduction experiments. (Online version in color.)

スラグ中のFetO濃度が高い実験1-1~1-9において,80%程度のFetOが還元されているが,塩基度が2.0,または塩基度が1.0で還元温度が1573 K以下の場合にはP2O5の還元量は10~30%に留まった。

次に,スラグ中のFetO濃度が低い実験2-1~2-6において,塩基度=1.0のスラグでは1573 K以上においてP2O5の80~90%が還元された。一方で,塩基度=2.0のスラグでは1673 KにおいてもP2O5の還元は40~70%に留まった。

3・2 実験前後のマスバランス

実験後の試料はメタル,磁着スラグ,非磁着スラグの3種類に分別し,重量割合で評価した。塩基度0.5~2.0の高FetO濃度のスラグを1523 Kおよび1623 Kにおいて還元した後の試料写真をFig.4に示す。塩基度0.5,1.0ではスラグが溶融し,メタルのほとんどが凝集しており,磁着物は得られなかった。塩基度2.0の実験ではスラグは溶融せず,メタルの凝集は限られており,磁着物が多量に得られた。

Fig. 4.

 Images of metal and slag after experiments. (Online version in color.)

実験前の試料に含まれる鉄およびりんの重量を1とした時の,還元後の鉄バランス,りんバランスをFig.5Fig.6に示す。

Fig. 5.

 Mass balance of Fe in experiments. (Online version in color.)

Fig. 6.

 Mass balance of P in experiments. (Online version in color.)

高FetO濃度,塩基度=0.5のスラグを1523,1623 Kで還元処理した実験1-1,1-2について,いずれの条件においても80%程度のFetOが還元されており,P2O5も60%程度が還元されている。

高FetO濃度,塩基度=1.0のスラグを1523~1573 Kで還元処理した実験1-3~1-5について,90%程度のFetOが還元されているのに対し,P2O5は10%程度しか還元されていない。一方で,1623 Kで還元処理を行った実験1-6においては,P2O5も60%程度還元されているが,還元されたりんの大部分がメタル中に取り込まれており,鉄とりんの分離が出来ていない。

高FetO濃度,塩基度=2.0のスラグを1523~1623 Kで還元処理した実験1-7~1-9について,80%程度のFetOが還元されているが,メタルとして分離された割合は10~20%に留まり,残りは粒鉄としてスラグ中に残留した。また,P2O5の30%程度が還元されているが,その20%程度が粒鉄中に取り込まれた。

低FetO濃度,塩基度=1.0のスラグを1473 Kで還元処理した実験2-1ではFetOの還元率は20%に留まり,その全てが微細な粒鉄であった。メタル分析が出来ていないため,りんのマスバランスにおいて,スラグ中に酸化物として存在するりんと粒鉄として存在するりんとを分離出来ていない。次に,1573~1673 Kで還元処理した実験2-2,2-3について,P2O5の還元割合は80~90%であった。ここで,詳細は後述するが,気化脱りんに相当すると考えられる不明りんの割合は,1573 Kで10%程度(実験2-2)であったのに対し,1673 Kでは50%程度(実験2-3)であった。

低FetO濃度,塩基度=2.0のスラグを1473~1573 Kで還元処理した実験2-4,2-5について,P2O5はほとんど還元していない。一方で,1673 Kで還元処理した実験2-6では,P2O5の40%程度が還元した。

4. 考察

4・1 気化脱りん

Fig.5Fig.6に示した様に,りんのマスバランスにおいて最大55%の不明分が得られており,気化除去が進行したと考えられる。Matsuiら10,11)の報告において,還元後スラグのEPMA観察により,還元鉄の中で,スラグと接触していない部分に濃縮したりんが観察されており,還元した粒鉄に気化したりんが吸着されている可能性が示唆されている。上記のように還元された微細な粒鉄が気化したりんの吸着サイトとして働く場合,還元された粒鉄量が少ない条件において,気化したりんが気相へと除去される割合が増加すると考えられ,Fig.6で示した初期FeO濃度が少ない条件において不明りん率が増加する結果と合致する。ここで,気化除去されたりんの形態をFactSage13)による熱力学計算により検討した。Table 2に記載の実験条件のスラグに対し,P2,P,POガスの平衡分圧と温度の関係をFig.7に示す。今回の実験温度においてP2ガスの分圧が最も高く,気化脱りんはP2ガスの形態で進行したと考えられる。以降はりんの不明分をP2ガスとして考察を行う。なお,他にP3,P4,CPなどのガス種も検討したが,いずれもPやPOガスの分圧よりも3桁以上低い結果となったため,可能性から除外した。

Fig. 7.

 Relationship between temperature and equilibrium partial pressure of P2, P and PO gases. (Online version in color.)

4・2 還元が進行する平衡酸素分圧

スラグ中のFeO,P2O5の還元が進行する温度と酸素分圧の関係をFig.8に示す。Fig.8中の線(1-1),(1-2)は以下の式(1)と,(2)~(5)は以下の式(2)~(5)と対応しており,線(1-1),(1-2)はFeO活量が異なる条件を示す。また,式(1)~(5)の標準ギブズエネルギーをそれぞれ式(6)~(10)に示す14)。   

FeO ( l ) = Fe ( l ) + 1 / 2 O 2 ( g ) (1)
  
P 2 O 5 ( l ) = 2 P ( 1 mass % in Fe ) + 5 / 2 O 2 ( g ) (2)
  
P 2 O 5 ( l ) = P 2 ( g ) + 5 / 2 O 2 ( g ) (3)
  
3 CaO ( l ) + P 2 O 5 ( l ) = Ca 3 P 2 ( s ) + 4 O 2 ( g ) (4)
  
CO ( g ) = C ( 1 mass % in Fe ) + 1 / 2 O 2 ( g ) (5)
  
Δ G 1 ° = 242 , 000 46.1 T ( J / mol ) (6)
  
Δ G 2 ° = 1 , 263 , 000 494.6 T ( J / mol ) (7)
  
Δ G 3 ° = 1 , 578 , 000 505.4 T ( J / mol ) (8)
  
Δ G 4 ° = 2 , 850 , 000 614.9 T ( J / mol ) (9)
  
Δ G 5 ° = 139 , 300 41.7 T ( J / mol ) (10)

Fig. 8.

 Equilibrium oxygen partial pressures for various chemical reactions. (Online version in color.)

Fig.8中の平衡酸素分圧と温度の関係を計算する際の仮定をTable 3に示す。線(1-1),(1-2)はスラグ中のFeOが還元される際の反応であり,それぞれFeO活量を0.20,0.04とし,Fe活量を0.82とした場合の関係である。ここで,Fe活量はRaoult則が成り立つと仮定し,メタル組成を[C]=4 mass%,[P]=1 mass%の時のモル分率から決定した。線(3)はスラグ中のP2O5が還元されてPがメタルに取り込まれる際の反応であり,P2O5の活量を0.01,メタル組成を[C]=4 mass%,[P]=1 mass%とした。線(4)はスラグ中のCaOとP2O5からCa3P2が生成する際の反応であり,CaOの活量を0.3,P2O5の活量を0.01,Ca3P2の活量を1とした。線(5)は溶銑中のCとCOガスとの平衡を示し,メタル組成を[C]=4 mass%,[P]=1 mass%,CO分圧を1 atmとした。

Table 3.  Chemical reactions and calculation assumptions. (Online version in color.)

ここで,FeO活量,P2O5活量,CaO活量はそれぞれTable 2に示す実験1-3~1-6および2-1~2-3のスラグ組成について,Ban-ya15)による正則溶体モデルを用いて求めた値程度とした。メタル組成は回収されたメタルの成分値程度の値を仮定しており,相互作用助係数としてePP=0.054,ePC=0.126,eCP=0.051,eCC=0.243を用いた14)

Fig.8より,スラグ中のFeOおよびP2O5の還元が以下の順番で進行することが分かる。

①FeOの還元によりFeが生成

②P2O5の還元により,Pがメタル中に移行

③①,②の還元が進行し,FeOが低位となる

④P2O5の還元により,りんがP2として気相へ移行

この結果は3章で述べた実験結果の傾向と一致する。初期FeO濃度が高い実験1-1~1-9においては,Fig.8中の線(1-1)に相当する酸素分圧から,上記の①~③の様に反応が進行し,FeOとP2O5の還元が進行する。処理温度が高い実験1-6においては,更に④の反応が進行し,Pのマスバランスに不明分が生じた。初期FeO濃度が低い実験2-1~2-6においては,Fig.8中の線(1-2)に相当する酸素分圧から還元が進行するため,上記の①と④の反応が進行する。この結果,実験2-1~2-3においてPのマスバランスに多くの不明分が生じた。

次に,還元剤として添加した炭材によりフォスファイドが生成した可能性についてFig.8にて検討する。Fig.8に示す様に,(2)式,(3)式で規定される酸素分圧は1200°Cで10−14~10−16 atm,1400°Cで10−11~10−13 atm程度であり,式(4)の反応についてこれらの酸素分圧範囲におけるCa3P2の活量を計算すると,1200°Cにおいて3.05×10−9~10−17,1400°Cにおいて3.67×10−9~10−17となる。このように,(2)式,(3)式で規定される酸素分圧においてはCa3P2の活量が桁違いに小さくなるので,リン化物としてはほぼ存在しないと判断した。

4・3 スラグからのりん気化除去条件

スラグからの気化脱りんは,スラグの組成,還元温度,酸素ポテンシャルの影響を受け,個別の影響評価が困難である。そこで,これらの影響を表す指標としてスラグ−メタル間の平衡りん分配比LPを用いて考察を行った。平衡りん分配比LPは以下の(11)式で表される。   

L P = ( % P ) [ % P ] (11)

ガス−スラグ間のフォスフェイトキャパシティーCPO43–は以下で定義される。ここで,(X)およびYはそれぞれスラグ中の成分X,溶鉄中の成分Yを示し,(%X)および[%Y]はそれぞれスラグ中の成分X濃度(mass%),溶鉄中の成分Y濃度(mass%)を示す。   

C PO 4 3 = ( % PO 4 3 ) / ( P P 2 1 2 P O 2 5 4 ) (12)

(12)式と,(13)式に示すP2ガスの溶鉄への溶解反応14)を組み合わせることで,(15)式を得る。   

1 / 2 P 2 ( g ) = P _ (13)
  
Δ G 13 ° = 157700 + 5.4 T ( J / mol ) (14)
  
log ( % P ) [ % P ] = log L P = log C PO 4 3 8236 T + 0.204 + log f P + 5 4 log P O 2 (15)

ここで, C PO 4 3 については,還元処理後のスラグ組成からスラグ/メタル界面のフォスフェイトキャパシティーCPをSuito and Inoue16)による(16)式にて算出し,(17)式による変換を行った値を用いた。   

log C P = 0.0938 { ( % CaO ) + 0.50 ( % MgO ) + 0.30 ( % Fe x O ) + 0.35 ( % P 2 O 5 ) + 0.46 ( % MnO ) } + 32500 T 17.74 (16)
  
log C PO 4 3 = log C P + 21680 T + 1.87 (17)

また,活量係数fPの計算には,各実験におけるメタル中CとPの分析値および熱力学データ13)よりePP=0.054,ePC=0.126を用いた。また,酸素分圧は4・2と同様に正則溶体モデル15)によりFetO活量を計算し,FetO/Fe平衡により求めた。

(15)式を用いて計算したlog LPと,不明りん率の関係をFig.9に示す。log LPと不明りん率にはおよそ良い相関関係が認められ,log LPの低下に伴い不明りん率は向上する。図中にはMatsuiら11,12)の結果範囲を合わせて示すが,塩基度1.0~2.0のスラグを1673 K以下で処理した際の不明りん率は20%程度に留まっている。

Fig. 9.

 Relationship between log LP and undefined ratio of phosphorus. (Online version in color.)

ここで,(15)式中の酸素分圧は,(1)式に示すスラグ中FeOと平衡する酸素分圧から求める。温度とスラグ組成を仮定し,Ban-ya15)による正則溶体モデルを用いることで,FeOの活量を計算することが可能となる。すなわち,スラグ中のFeOと平衡する酸素分圧を,温度とスラグ組成の関数として表すことが出来るので,(15)~(17)式よりlog LPを温度,スラグ組成,メタル組成の関数として表すことが可能となる。還元後のスラグ組成を(mass%Al2O3)=8,(mass%MgO)=6,(mass%MnO)=6,(mass%P2O5)=2とし,(mass%FetO)を0.5,1.0,2.0とした場合のlog LP=0.1となる温度と塩基度の関係をFig.10に示す。ここで,log LP=0.1における計算を行ったのは,Fig.9においてバラつきはあるものの不明りんが確実に確認されている実験条件となっているためである。図中の実線の下側の温度,スラグ塩基度条件にすることで,FetO濃度に応じた気化脱りん促進条件を求めることが出来る。

Fig. 10.

 Relationship between temperature, slag basicity and FeO content in gaseous dephosphorization. (Online version in color.)

5. 結言

製鋼スラグから鉄とりんの分離回収に及ぼすFetO濃度の影響を評価するため,FetO濃度の異なるスラグを高温で還元処理する実験を行い,以下の結論を得た。

(1)塩基度=1.0のスラグにおいて,FetO濃度の高いスラグを1523~1573 Kで還元することで,90%程度の(FetO)が還元される一方で,(P2O5)の還元は10%程度に留まった。FetO濃度の低いスラグを1673 Kで還元することで(P2O5)が還元され,50%以上のりんが不明となり,気化除去されたと考えられた。

(2)塩基度=2.0において,FetO濃度の高いスラグを1523~1623 Kで還元することで,80%程度の(FetO)が還元される一方で,(P2O5)の還元は30%程度に留まったが,スラグは溶融しておらず,大部分がスラグ中の粒鉄として残留した。FetO濃度の低いスラグを1673 Kで還元しても(P2O5)の除去は進行しなかった。

(3)スラグ組成,酸素分圧,処理温度がlog LP≤0.1となる条件において気化脱りんが進行し,log LP≤−1となる条件では50%の気化脱りんが進行した。

本研究は,平成21年度独立行政法人 新エネルギー産業技術総合開発機構(NEDO)「製鋼スラグ資源化技術のためのりん分離回収に関する事前研究」にて行った成果である。

文献
 
© 2016 The Iron and Steel Institute of Japan

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