2016 Volume 102 Issue 9 Pages 544-552
To clarify the controlling factors affecting fatigue crack initiation life in poly-crystal ferritic steel, we first observed the initiated fatigue crack morphology during four-point in-plane cyclic bending tests using bcc Fe-16 mass% Cr alloy with a huge grain. The experimental slip trace analyses were compared with those of the calculated shear stress among 24 slip systems based on finite element analysis (FEA). The focus was placed upon the relationship between fatigue crack initiation and the operated slip system. Under the high-cycle-fatigue condition, the inhomogeneous stress distribution was predicted by taking into account the elastic anisotropy. It was clarified that the fatigue cracks tend to initiate at sites where stress concentration was predicted by FEA, Furthermore, the slip trace near fatigue cracks was confirmed to correspond to the dominant slip systems identified by shear stress analysis. However, the fatigue initiation life depended not only on the applied stress amplitude and/or shear stress on the primary slip system, but also on the characteristics of the active slip systems, which were classified into two types. The fatigue crack initiation life, in the case of the cross slip dislocation type was longer than that in the case of the Lomer-Cottrell locking dislocation type. It was inferred that the nature in the dislocation interaction leads to the difference in the fatigue crack initiation life.
金属材料において疲労寿命は,信頼性に関わる重要な特性である。しかしながら,疲労き裂の発生挙動は未だ十分に解明されていない点が多い。これは,多結晶金属においては,構成する相,結晶粒形態および個々の結晶の弾塑性異方性の影響により,微視的に不均一な応力−ひずみ状態となることによると考える。また,高サイクル疲労においては巨視的降伏応力以下で進行する微視的な累積塑性ひずみを定量評価することが困難であることも一つの要因である。近年においては,このような観点から金属のすべり変形を取り込んだFEM解析によって,変形中の力学的状態を定量化しようという研究が進められている。Aoyagi and Hasebeらは回位モデルに基づき,変位の二次勾配を用いて転位密度の発展を解き,変形中の転位構造を表現することに成功している1)。また,Dunneらは転位の活性化過程に基づいた構成式を構築し,疲労変形中の挙動についても解析を行い,疲労き裂の発生位置と累積塑性ひずみとを対応させることに成功した2)。しかし,疲労き裂発生寿命の定量的な予測までには至っていない。これは疲労変形中の素過程が十分に明らかになっていないこと,き裂発生をもたらす支配的現象とき裂発生のクライテリアを十分に表現できていないためと推定する。
これまで著者らは,Feの疲労き裂発生挙動の解明を目的として,粗大粒からなる多結晶体であるFe-16mass%Cr合金の4点曲げ切欠き疲労試験を行い,実験結果と結晶塑性FEM解析との比較検討を行った3)。この解析では1つのすべり系の活動によって,他の全てのすべり系が潜在的に硬化する完全等方硬化を表現した構成式を用いた。その結果,計算で示された繰返し変形後の累積塑性ひずみが局所的に蓄積した箇所がき裂発生箇所と一致した。しかし,累積塑性ひずみ量とき裂発生寿命との間には,相関が認められなかった。さらに,結晶粒内で疲労き裂が発生したものでは,き裂近傍で観察されたすべり帯とき裂との対応が取れていない課題も存在した。この結果を踏まえ,本研究では,粗大な多結晶体のFe-Cr合金を用いて4点曲げ切欠き疲労試験の追加実施と解析を行い,活動すべり系と疲労き裂発生挙動の関係を詳細に調査した。その結果に基づき,BCC金属であるFeの疲労き裂発生寿命を支配する因子を明確化することを目的とした。
供試材の化学組成をTable 1に示す。実験室にて真空溶解し鋳造した鋳片を,30 mmの板厚まで熱間圧延した。その後,Ar雰囲気中で1373 K×72 hr保持の熱処理を施すことにより,平均結晶粒径が3.0 mm以上となるフェライト単相の粗大結晶粒から成る多結晶体を作製した。得られた粗大結晶粒材はFig.1a)に示した4点曲げ切欠き疲労試験に加工した。本試験片の切欠きは,応力集中係数が2.9であり,疲労き裂の発生位置を限定させるために導入したものであるが,多結晶体における疲労き裂発生挙動の解明を目的とすることから,切欠き底に1~3個の結晶粒が配置するような切欠きサイズを注意深く選定した。また,板厚方向の粒界配置の影響を極力低減させながら面外変形を避けることを考え,試験片板厚は1.4 mmとし,さらに切欠き底に配置した結晶粒が板厚方向に貫通したもののみを評価用の試験片として選択的に採用した。得られた6種の試験片表面は,鏡面仕上げの後に化学研磨を行い結晶粒界が観察可能な表面へと仕上げた。疲労試験には,Fig.1b)に示すMTS社製10 ton疲労試験機を用いた。周波数15 Hz,応力比R=−1,荷重一定の条件下で疲労限250万回として試験を実施した。なお,疲労試験中はFig1b)に示した観察窓にマイクロスコープをセットし,2700回毎に切欠き近傍の表面状況を写真撮影した。本研究では,疲労き裂長さが50 μmを超えた繰返し数を疲労き裂発生寿命とした。Fig.2には観察した疲労き裂の例を示す。Fig.2b)のように複数のき裂発生が認められた試験片については,初期に発生した疲労き裂の繰返し数をき裂発生寿命として採用した。なお,いくつかの試験片については疲労試験後に,き裂近傍からFIBにてTEM薄膜試料を作製し,転位下部組織の観察を実施した。
| C | Cr | Ni | P | S | Ti | Al | N |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 0.0007 | 16.4 | 0.1 | 0.031 | 0.0062 | 0.11 | 0.012 | 0.00363 |

a) Geometry of specimen and b) apparatus for a cyclic four-point in-plane bending test.

Examples of the observed fatigue crack initiation with a) one main crack and b) main crack together with sub-crack.
本研究では4点曲げ切欠き試験片を用いていることから,Fig.3に示した領域のみからなる多結晶体モデルとした。疲労試験前に予めマイクロスクープにて撮影した界面の中で,EBSPによって15゜以上の方位差を持つ界面を結晶粒界と定義し,それに対応する界面をトレースすることで,試験片表面の結晶粒形態を再現した。なお,結晶粒界は試験片板厚方向に平行に貫通すように配置している。この領域での要素サイズは,切欠きに対して十分に小さくなるよう,平均要素サイズを50 μmとした。各結晶粒にはEBSPにて測定したオイラー角から局所座標系を定義し,C1111=277 GPa,C1212=119 GPaおよびC4444=79 GPaの値を用いて,弾性異方性を再現した3)。なお,多結晶領域以外は等方弾性体として扱い,E=210 GPa,ν=0.3の値を材料定数として与えている。それぞれの解析モデルは,多結晶領域以外は面外への変位を拘束し,試験時の負荷条件を再現するようFig.3に示した拘束と負荷を与えた。ソルバーにはLS-Dyna-v971を用いて弾性解析を行った。なお,各すべり系に作用するせん断応力τkは,解析より得られた応力テンソルσとすべり面法線ベクトルnkおよびすべり方向ベクトルvkを用いて,次式(1)にて求めた値を採用した。
| (1) |

Schematic illustration showing crystal structure of specimen analyzed and exploited mesh for finite element analysis (FEA).
なお,本研究では,{123}(111)を除いた24個のすべり系について取り扱った2)。
Fig.4a)~f)には6種の4点曲げ切欠き試験片の疲労試験における,き裂発生後のマイクロスコープ写真を示した。各試験片の疲労き裂の発生位置は試験片によって異なる。例えば,試験片AではFig.4a)の矢印で示したように,結晶粒界で疲労き裂は発生し伝播しているように観察される。しかし,切欠き底での粒界の配置が試験片Aと類似している試験片Cでは,負荷した荷重が高いにも関わらず結晶粒界での疲労き裂の発生は明確に認められない(Fig.4c)。また,試験片Dでは同じように切欠き底に粒界があるが結晶粒内で疲労き裂が発生している(Fig.4d)。これらの結果は多結晶体内部での応力分布の差に由来するものと考え,FEM解析で求めた発生応力との比較を行った。Fig.5a)~f)にはピーク荷重時点におけるMises応力の分布を示した。いずれの試験片においても,今回のFEM解析においては,き裂発生位置と応力集中箇所とがマクロには一致していることが分かる。疲労き裂の発生が明確には認められなった試験片Cでは結晶粒界近傍に応力集中が認められるので,この箇所で疲労が最も進行していたことが予想される。この結果は,金属組織形態と弾性異方性のみを考慮することで,疲労き裂の発生位置を極めて高い精度で予測することが出来ることを示していると考えられる。これは,本疲労試験において,大きな結晶回転を伴わないことによると考えらえる。

Fatigue cracks observed during cyclic test in specimens a) A to f) F.

Distribution of principal stress amplitude calculated by FEA for specimens a) A to f) F.
以上の結果を踏まえ,Fig.6には疲労き裂発生位置の主応力振幅とき裂発生寿命の関係を整理した。その結果,疲労き裂発生寿命は弾性異方性のみを考慮した応力値のみでは説明ができないことがわかる。例えば,いずれも結晶粒界近傍で応力集中を示した試験片CとAでは,むしろ発生応力の高い試験片Cの方が疲労き裂発生寿命が長い。一方,試験片Cと同程度の主応力振幅である試験片Fは,き裂発生寿命が著しく短く,切欠き底に粒界が配置していない場合の方が10倍以上も早期に疲労き裂が発生しているように見れる。以上の事実は,多結晶体での疲労き裂発生寿命は,結晶粒内,結晶粒界あるいはその近傍といったき裂の発生サイトによって支配されているわけではないことを示している。そこで,これらの疲労き裂発生寿命の結果の違いを明確にするため,疲労き裂発生位置近傍の活動すべり系と疲労き裂との関係を次節で議論する。

Relationship between number of cycles to crack initiation and calculated principal stress amplitude for specimens from A to F.
Fig.7a)およびb)には,粒界近傍で応力集中を示した試験片AおよびCの粒界近傍のSEM写真を示した。試験片Aにおいては,疲労き裂は粒界の左側に位置する結晶粒内の粒界近傍に位置しており,疲労き裂近傍では突出しを伴う複数のすべり帯が観察された。電解研磨による切欠き端部のダレの影響ですべり帯が湾曲しており明確ではないが,疲労き裂はすべり帯に沿って発生しているように観察される。試験片Cでは,粒界近傍の左側の結晶粒内で突出しを伴うすべり帯が観察された。この位置はFEM解析で最もMises応力が高い位置と一致する。このすべり帯は自由表面で段差が認められることから,停留き裂である可能性もあるが,SEM観察結果からはその区別は出来なかった。しかしながら,このすべり帯が疲労き裂の核になりうることが予想される。

SEM micrographs showing slip bands near initiated crack of specimens a) A and b) C.
観察されたすべり帯と活動すべり系の関係を調査するため,試験片Aの疲労き裂発生位置における各すべり系のせん断応力をFig.8a)に,優先すべり面トレースと観察されたすべり帯トレースの関係をFig.8b)の正極点図上に併せて示した。試験片Aでは,主すべり系は(101)[111]であり,次いで(211)[111],(101)[111]および(211)[111]の4つのすべり系が高いせん断応力を有する。しかし,これらのすべり面は観察されたすべり帯トレースとは一致しないが,すべり帯はそれぞれのすべり面トレースの合ベクトルと一致する。すなわち,これら4つのすべり系が同程度のせん断応力を受けていることから,いずれもがほぼ等しい量で活動していた結果,観察された方向にすべり帯が形成したことが予想され,このすべり帯を核として疲労き裂が発生したと推察した。

Shear stresses for twenty four slip systems together with pole figures projecting active slip plane near initiated crack and observed slip band for specimen A.
次にFig.9には,試験片Cで突出しを伴うすべり帯が観察された位置での各すべり系のせん断応力および優先すべり面とすべり帯トレースとの関係を示した。試験片Cでは,優先すべり系が(112)[111]および(101)[111]の2つと予想されるが,すべり帯トレースはいずれのすべり面とも一致しない。試験片Cにおいても試験片Aと同様に,すべり帯はそれぞれのすべり面トレースの合ベクトルと一致していた。以上の議論のように,活動すべり系のすべり面のトレース解析結果から,疲労き裂の発生挙動には優先すべり系の活動とそれに伴い形成したすべり帯が深く関与していることが推察された。

Shear stresses for twenty four slip systems together with pole figures projecting active slip plane near initiated crack and observed slip band for specimen C.
そこで,他の試験片についても同様のトレース解析を行った。Fig.10a)−d)には試験片B,試験片D,試験片Eおよび試験片Fのき裂発生位置近傍のSEM写真を示した。また,Fig.11a)−d)には各すべり系のせん断応力,およびそれから予想される優先すべり面トレースと観察されたすべり帯トレースの関係を正極点図上に示した。Fig.10に示すように,試験片B,D,EおよびFでは疲労き裂近傍にすべり帯が明確に観察され,疲労き裂はすべり帯に沿った方向に発生し伝播していることがわかる。試験片Bでは(211)[111]が最も高いせん断応力を有しており,疲労き裂はこの主すべり面と一致した(Fig.10a)およびFig.11a))。また,すべり帯の拡大観察から,次にせん断応力が高い(110)[111]と(101)[111]のすべり面トレースと一致する微細な鋸歯状の突出しが連結していることが分かる。したがって,試験片Bではこれらのすべり方向を共有する3つのすべり系のいずれもが活動していたことが予想される。試験片Dでは(121)[111]および(110)[111]が高いせん断応力を受けていると考えられ,すべり帯の拡大観察ではこれらのすべり面トレースに沿った入込みが確認され,主としてこれらのすべり系の活動によって形成したすべり帯を核として疲労き裂が発生したものと考えられる(Fig.10b)およびFig.11b))。試験片Eでは(101)[111],(110)[111],(112)[111]および(121)[111]の4つのすべり系のせん断応力が高い。これまでの解析結果と同様に,すべり帯の方向はいずれのすべり面トレースとも一致しないが,それぞれのすべり面トレースの合ベクトルの方向と一致しているように観察される(Fig.10c)およびFig.11c))。試験片Fでは,疲労き裂近傍にすべり帯の形成が確認されない。しかし,(101)[111],(101)[111],(112)[111]および(112)[111]の4つのすべり系の活動が予想され,これらのすべり面トレースの合ベクトル方向が疲労き裂の巨視的な伝播方向と一致している(Fig.10d)およびFig.11d)。したがって,これらのすべり系の活動が疲労き裂の発生に関与していたものと考えられる。

SEM micrographs showing slip bands near initiated crack of specimens a) B, b) D, c) E and d) F.

Shear stresses for twenty four slip systems together with pole figures projecting active slip plane near initiated crack and observed slip band for specimens a) B, b) D, c) E and f) F.
以上の解析から,今回観察された疲労き裂はすべり帯を核として発生しており,すべり帯は高いせん断応力を受ける複数のすべり系の活動によってもたらされたものであることが明らかとなった。
3・3 活動すべり系の組合せと疲労き裂発生寿命の関係前節の3・2で述べた疲労き裂発生の観察結果および活動するすべり系の解析結果から,疲労き裂発生寿命と活動すべり系のせん断応力値の関係をTable 2に示した。Table 2から明らかなように,せん断応力(すべり量)が高いからと言って,必ずしも疲労き裂発生寿命が短いとは言えず,両者には相関は認められない。これは想定された結果であるが,繰返し負荷を受ける疲労では,疲労き裂発生に至るまでに,転位密度の増加の後,対消滅・再配列を生じ,それに伴う特徴的な転位下部組織が形成される。その際,き裂の核となるすべり帯は,転位下部組織によって形態的な特徴付けがなされる4,5)。すなわち,疲労き裂発生に至るまでの累積塑性ひずみの発展に,転位間の相互作用を考慮する必要がある。疲労き裂発生に関する上に述べた考え方に基づき,本研究における試験片毎の疲労き裂発生寿命の違いを,転位間相互作用の観点から考察する。試験片B, CおよびDでの優先すべり系はいずれもすべり方向を共有した組み合わせであり,これらは交差すべりを生ずる関係にある。一方,試験片A,EおよびFでは4つ以上のすべり系が同程度のせん断応力を有し,その組み合わせはすべり面とすべり方向が異なるLomer-Cottrell固着6)を生ずる組み合わせであることが分かる。Fig.6に示した疲労き裂発生寿命と主応力の関係を,上述したように活動すべり系における転位間相互作用の観点で再整理した結果をFig.12に示す。活動すべり系の転位がLomer-Cottrell固着する関係にある試験片A,EおよびFでは,交差すべりする関係にある試験片B,CおよびDより短寿命側に位置していることが特筆される。すなわち,試験片A,EおよびFにおいては,活動した転位間での固着反応によって不動転位を形成することで,早期に転位密度が増加し,疲労き裂の発生に発展したと推察した。以上のまとめは,多結晶を構成する個々の結晶の異方性に基づく局所的な応力に加え,塑性ひずみの発達箇所での転位間相互作用によって疲労き裂発生寿命が整理されることを示唆している。本研究は粗大結晶粒材の切欠き疲労試験片を用いることで,結晶粒内や粒界近傍に疲労き裂発生位置が限定させたことが実験の特徴である。しかし,本研究では切欠き底から各結晶粒内に分布する応力勾配の影響など,切欠き材による特異性の有無を十分に明らかに出来ていない。そのため,今後は平滑材を用いた実験的研究との比較が必要と考えられる。
| Name of Specimen | |||||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| A | B | C | D | E | F | ||
| Number of Cycles to Crack Nucleation/Cycles | 8.45×105 | 3.11×105 | > 2.5×106 | 8.64×104 | 3.24×104 | 8.37×104 | |
| The Shear Stress Index of Slip System | Primary Slip System | 55.2 MPa (111)[211] |
77.2 MPa (111)[211] |
75.4 MPa (111)[112] |
114.0 MPa (111)[121] |
66.2 MPa (111)[110] |
71.0 MPa (111)[101] |
| Secondary Slip System | 54.7 MPa (111)[101] |
72.3 MPa (111)[110] |
71.6 MPa (111)[101] |
99.5 MPa (111)[110] |
64.6 MPa (111)[101] |
70.4 MPa (111)[110] |
|
| Third Slip System | 52.4 MPa (111)[211] |
72.1 MPa (111)[101] |
59.6 MPa (111)[011] |
79.6 MPa (111)[011] |
63.3 MPa (111)[121] |
65.4 MPa (111)[112] |
|
| Fourth Slip System | 52.3 MPa (111)[101] |
52.2 MPa (111)[110] |
53.6 MPa (111)[101] |
74.7 MPa (111)[121] |
63.1 MPa (111)[112] |
64.2 MPa (111)[112] |
|

Classification of Fig.6 showing the relationship between number of cycles to crack initiation and calculated principal stress amplitude from viewpoint of dislocation-dislocation interaction during cyclic loading.
ところで,上述した繰返し変形中の塑性ひずみと転位間相互作用についてはこれまで多くの知見が得られている。Cuなどに代表されるFCC金属では積層欠陥エネルギーによって,転位下部組織の発展挙動や形態的特徴が決まることが明らかにされている7,8)。また,TiやMgなどのHCP金属ではすべりの非対称性(底面すべり,柱面すべり)が強く,繰返し変形中の硬化発展挙動は,負荷-反転時の活動すべり系の特徴により決まることが示唆されている9)。一方,BCC金属は対称性が高く,積層欠陥エネルギーが高いため,容易に交差すべりを生ずることは周知の事実である。例えば,Fe-Si合金の疲労挙動についての研究においては,Si無添加の場合にはセル構造が発達するのに対し1%Si添加鋼ではベイン構造が発達し,これはSiが交差すべりを抑制するためであると報告されており,交差すべりの影響は固溶元素によって特徴付けられる10)。したがって,本研究のすべり系の組み合わせによる疲労き裂寿命の違いは,交差すべり頻度そのものではなく,Lomer-Cottrell固着反応によって形成される不動転位の発展挙動の違いによってもらされたと予想される。
そこで,活動すべり系の組合せが交差すべりの関係およびLomer-Cottrell固着の関係にある代表的な試験片を用いて,転位下部組織の発達の違いをTEM観察によりを実施した。Fig.12に示した応力振幅は異なるが同程度のき裂発生寿命を持つ試験片D(交差すべりの関係)と試験片F(Lomer-Cottrell固着の関係)の疲労き裂発生部近傍のTEM観察結果を,Fig.13に示す。交差すべりの組み合わせが主となる試験片Dでは,等方的な比較的大きなセル構造を呈しており,一部の転位壁は優先すべり面と対応している。また,セル内には転位が観察されるが転位密度は低い。交差すべりが生ずる場合には,転位の再配列が容易に起こるため安定的な構造となっている特徴がある。一方,Lomer-Cottrell固着の組み合わせとなる試験片Fでは,転位の束が試験片Dのセルサイズよりは小さい間隔で局在化しており,その間には転位が観察され,直線状のものも認められる。これは繰返し変形中において,固着転位に堆積した転位が再配列せず分布した転位下部組織であると考察した。このよう局所的な塑性ひずみの集中が,疲労き裂発生寿命を低下させたと推定した。しかし,疲労き裂の発生と転位構造との関係は推察の域にとどまっており,繰返し数の増加に伴う硬化-軟化挙動や固執すべり帯への遷移までの過程を明確にしていくことは,将来の課題としたい。

TEM micrographs showing dislocation sub-structure near the fatigue cracks of specimens a) D, b) F in Fig.12.
今後は,本研究では未だ不十分な固溶元素と交差すべり頻度の影響や,BCC金属における潜在硬化比など,すべり挙動および繰返し硬化発展挙動を明らかにすることを目的とした実験的研究と,それらに基づいた結晶塑性有限要素法による理論的解析を融合させた体系化した取り組みによって,BCC-Feの疲労き裂発生挙動の解明と疲労き裂寿命の定量的予測が可能となると考える。
本研究では,BCC金属であるFe-16%Cr合金多結晶体の疲労き裂発生寿命を支配する因子を明確にすることを目的に,粗大結晶粒材の4点曲げ切欠き疲労試験を行った。また,同試験片の結晶粒形態を模擬したFEM弾性異方性解析を実施し,優先すべり系と疲労き裂の核となるすべり帯との関係を調査し,以下の結果を得た。
1)疲労き裂は,主として結晶粒形態と弾性異方性に起因した応力集中部で発生する。しかし,疲労き裂発生寿命は疲労き裂発生位置の主応力値あるいはMises応力で決まらない。
2)多くの試験片においては,すべり帯に沿って疲労き裂が発生している。このすべり帯は個々のすべり面とは対応しないが,複数のすべり系が活動することで形成したものと考えられる。
3)疲労き裂発生寿命は優先すべり系の組み合せによって分けられる。Lomer-Cottrell固着の組み合わせでは,早期に疲労き裂が発生する。これは,転位のLocking反応によって繰返し変形中の不動転位の増加を早めたためと考えられる。したがって,BCC金属であるFeの疲労き裂発生寿命においてはすべり系の組み合わせが重要な因子になると考えられる。
これらは粗大結晶粒材の切欠き試験片を用いた結果から得られており,今後,平滑材との比較などで,特異性の有無を確認していく必要があるである。また,交差すべり頻度の影響,あるいはBCC金属における潜在硬化比など,各素過程と繰返し硬化発展挙動との関係を明らかにすることが必要と考える。