Tetsu-to-Hagane
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Space Division Temperature Model for Run Out Table of Hot Strip Mill
Kazuhiro HoushuyamaHiroyuki ImanariKazuhiro OharaTatsuma KobayashiRyuichi MagariyamaRyo Watanabe
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2017 Volume 103 Issue 1 Pages 19-26

Details
Synopsis:

Recently requests for high added value steel products have been increased to produce vehicles. Since strip temperature in hot strip mills is one of the most important factors to determine the material properties, temperature control on Run Out Table (ROT) is crucial. In conventionally used temperature model, running steel strip is divided into segments of the same length, and then strip temperature is calculated for each segment. In this paper, we propose a new temperature model in which area of ROT is divided into sections fixed in space and strip temperature is calculated in each section. The proposed model is considered to be useful for model-based design of the temperature control since positional relation between cooling valves, i.e. control inputs and sections can be invariant. The validity of the proposed model is confirmed by numerical simulations.

1. 緒言

近年,鉄鋼製品における高付加価値鋼材の需要が高まっている。その一例として自動車などに用いられるハイテン材があり,強度を保ちつつ軽量化が実現できることから,燃費の向上に貢献している。鋼板の生産には材料を高温に加熱し連続的に加工する熱間圧延工程が必須であり,そこでは仕上圧延機により所望の厚さに加工された鋼板をRun Out Table(以後ROTと略記する)において冷却し,最終的な製品に仕上げている。鋼板温度は材料特性を決定する主要因の一つであり,ROTにおける温度制御は所望の材料特性を満たす鉄鋼製品を生産するために重要である。

ROTは仕上圧延機から巻取機までの搬送区間に位置し,長さは数十mから100 mを超える規模の設備である。上下に冷却水を注水するためのバルブが並び,鋼板温度の制御はバルブの開閉パターンを変化させることで行う。仕上圧延機出側における鋼板温度(Finisher Delivery Temperature,以後TFDTと略記する)を,巻取機における温度(Coiling Temperature,以後TCTと略記する)が目標値となるようにROTでの注水により冷却する。TCTの目標値を実現するバルブの制御を巻取温度制御と呼ぶ。また,指定された材料特性を実現するために,ROT中間地点の温度やROTにおける鋼板の冷却速度を制御する場合もある。

一般的なROTでは鋼板温度計の位置が制約されることから温度制御に用いるモデルの精度は特に重要で,そのため温度予測モデルの構築手法に関する研究が従来数多くなされている1,2,3)。モデルの構築において高温かつ高速に搬送される鋼板に注水を行う際の冷却現象を数式表現することは容易ではなく,この課題に対して熱伝達特性を同定する試み4,5)や機械学習によるモデルの精度向上6,7)が図られている。しかし,熱伝達特性の同定は実機適用まで至っておらず,一方,機械学習を用いた温度モデルでは学習が終了するまでに長い時間を要し,設備更新など操業状態の変化に伴うデータ蓄積が必要であるといった問題が存在する。従って,高精度な制御を実現するために,温度モデルの改善は依然として求められている。

一般的に用いられている温度モデル1,2,3)は搬送される鋼板に着目している。一例として,今成らのモデル1)は,鋼板の先端から尾端までをセグメントと呼ばれる数m単位の固定長の切板に分け,移動を続ける各セグメントの温度を予測している。これらの従来モデルに対して,本研究では設備に固定した空間を分割する空間分割温度モデルを提案する。提案モデルは,ROT中の鋼板が通過する空間を長手方向と板厚方向にそれぞれセクションとして区分し,各セクションにおける熱流に基づいて温度計算を行う。提案モデルはその特徴として,バルブ位置とセクションの関係が固定されていることから,制御入力と状態の関係が端的に表現されるという利点を持ち,モデルベースでの制御系設計を容易とすることが期待される。

2. ROTの冷却設備と制御

2・1 設備の概要

ROTにおける冷却設備の概要をFig.1に示す。ROTでは,一定間隔で並んだ搬送ロールが回転することで,鋼板を上流から下流へと運ぶ。また,冷却設備として上部バルブと下部バルブが長手方向に複数個並んでおり,個々のバルブを開閉させることで冷却水量の調整を行う。一般に,1バルブあたりの流量が大きく急冷却に用いられるノーマルバルブが長手方向の上流に設置され,流量が小さく巻取温度の微調整に用いられる精細バルブが下流に設置される。鋼板温度の計測には放射温度計が用いられる。ROT上に中間温度計が設置される場合もあるが,本研究ではFig.1に示すように,仕上圧延機出側温度計(FDTP)と巻取温度計(CTP)が設置されている設備を対象とする。なお,本稿で用いるパラメータについては,その一覧を付録Table A1に示す。

Fig. 1.

 Cooling devices of ROT.

ROTにおける入出力の関係をFig.2に示す。Fig.2において,Tin[K]はROT入側の鋼板温度,Tw[K]は冷却水温度,Ta[K]は周囲空気温度,h[m]は鋼板の板厚,w[m]は鋼板の板幅,v[m/s]は鋼板搬送速度を表す。TinTwTahw,およびvは製品の仕様や周囲条件により決まる外部変数である。unはノーマルバルブ開閉操作,udは精細バルブ開閉操作を表す。unおよびudは制御入力であり,上下に並んだ各バルブの開閉を上流から順に1/0を成分とするベクトルで表す。Tout[K]はROT出側の鋼板温度,Tr[K]は搬送ロール温度,TFDT[K]はFDTPによるTinの計測値,TCT[K]はCTPによるToutの計測値を表す。

Fig. 2.

 Input output relation.

2・2 制御系の概要

巻取温度制御では最終的な温度であるTCTを目標値に保持すること,および長手方向の鋼板温度分布を望ましい形に制御することが目的となる。一般に,普通鋼板の製造時にはTCTの制御のみが行われ,高級鋼板を製造する際にはTCTの制御に加えて長手方向における温度分布を制御する。なお,温度分布は鋼板をどのような過程で冷却しているかを示しており,温度分布の制御により鋼板温度履歴を制御することができる。

Fig.3にフィードフォワード制御(Feed Forward Control,以後FF制御と略記する)とフィードバック制御(Feed Back Control,以後FB制御と略記する)から構成される一般的な巻取温度制御系のブロック線図を示す。Fig.3において,PFig.2に示したROTの入出力関係を表す。Fig.3では,制御において主要な変数である制御入力unud,外部変数vTin,出力TFDTTCTを明示しており,その他の外部変数は省略している。CFFはFF制御のコントローラを表し,TCTの目標温度Tref[K]とTFDTからノーマルバルブの開閉パターンunを決定する。CFBはFB制御のコントローラを表し,TrefTCTの偏差を解消するため,TCTを用いて精細バルブの開閉パターンudを決定する。また,鋼板搬送速度vはROTの動特性上大きな影響を与えることから,制御時にはvを予測し,その速度予測値v*[m/s]を用いてCFFおよびCFBをスケジューリングしている。

Fig. 3.

 Block diagram.

2・3 従来のモデルと制御系設計

FF制御においてノーマルバルブの開閉パターンunを決定するためには,温度モデルを用いた鋼板温度の予測計算が必要となる。従来提案されている鋼板温度予測モデル1)の概要をFig.4に示す。このモデルでは,Fig.4に示すように搬送される鋼板を先端から尾端まで任意長のセグメントに分割し,各セグメントに対して熱収支を計算することで温度予測を行う。板厚方向の温度分布に関してはセグメント毎に有限差分法を用いて数値計算を行う。また,温度モデルの高精度化のため,温度の測定値とモデル予測値の偏差に基づいてモデルパラメータの学習を行う。FB制御では,制御入力である精細バルブudと巻取温度計の間で生じる搬送時間をスミスむだ時間補償法により補償している。

Fig. 4.

 Conventional model.

3. 空間分割温度モデル

3・1 設備に対する空間分割

提案する空間分割温度モデルでは,Fig.5に示すように,設備に固定した空間をセクションとして分割し温度計算を行う。従来提案されている鋼板温度予測モデル1)ではセグメントの長さを一定とする必要があり,バルブとセグメントの位置関係が時間変化する。これに対して,空間分割温度モデルではセクション長を任意に調節することができ,制御入力であるバルブとセクションの位置関係が変化しない。さらに,適切なセクション分割を行うことで,精度を保ちつつ計算負荷を小さくできる。たとえば,バルブ設置位置ではセクション長を短く,搬送区間ではセクション長を長く設定することが可能である。また,すべての熱移動をセクションにおける熱流の総和として捉えることで,温度変化を記述する微分方程式を解析的に表現することが可能となる。この微分方程式表現を用いることで,平衡状態と平衡状態近傍における動特性の導出が可能となり,モデルベースでの制御系設計に用いやすいモデルとなることが期待できる。

Fig. 5.

 Space division temperature model.

板厚方向にi番目,長手方向にj番目のセクションをψi,jと表す。長手方向については,ノーマルバルブと精細バルブが設置されているそれぞれの区間ではバルブとセクションが1対1に対応するように区分し,ROT入側および出側の搬送区間では1つのセクション長がノーマルバルブのセクション長と同程度になるよう区分する。板厚方向に関しては鋼板の厚さに応じて分割数を決定する。また,Fig.6に示すように鋼板の搬送に用いられる搬送ロール部分もセクションとみなし,搬送ロール温度を計算する。これにより搬送ロールと鋼板の接触による鋼板の温度変化が反映される。ここで,搬送ロールと鋼板との接触による熱伝導に関しては,長手方向の単位長における平均接触面積を導入することにより,搬送ロールのピッチには無関係とすることが出来る。

Fig. 6.

 Conveyance roll section.

セクション分割が3×3の場合における空間分割温度モデルの全体像をFig.7に示す。ここで,搬送ロールと鋼板との接触による影響は3・2・7節で詳しく述べ,Fig.7では省略する。搬送ロール図において,Ti,j[K]はセクションψi,jの温度を表す。隣り合うセクションの温度は鋼板搬送による熱流および板厚方向の熱伝導における計算で用いられる。uは制御入力であるバルブ開閉パターン表し,バルブの種類によってノーマルバルブまたは精細バルブのどちらかとなる。

Fig. 7.

 Relationship between sections.

3・2 鋼板温度の計算

3・2・1 考慮する熱流

鋼板温度は各セクションψi,jにおける熱流の流入と放出に基づいて計算を行う。ψi,jの温度Ti,jのダイナミクスは式(1)で与えられる。   

d T i , j d t = q ( T i , j ) M i , j ϕ ( T i , j ) (1)

式(1)においてq(Ti,j)[W]は考慮する熱流の和,Mi,j[kg]は質量,ϕ(Ti,j)[J/kgK]は比熱を表す。q(Ti,j)で考慮されていない熱流として変態発熱がある。変態発熱については3・2・8節で述べるように,比熱ϕ(Ti,j)を温度の関数とし,変態発熱が生じる温度帯に見かけの比熱を加えることで考慮する8,9)。本研究において考慮する熱流の和q(Ti,j)を式(2)に示す。   

q ( T i , j ) = q c o n _ u p p e r ( T i , j ) + q c o n _ l o w e r ( T i , j ) + q t r a ( T i , j ) + q w a t ( T i , j ) + q a i r ( T i , j ) + q r a d ( T i , j ) + q r o l l ( T i , j ) (2)

式(2)においてqcon_upper(Ti,j)[W]は板厚方向上部からの熱伝導,qcon_lower(Ti,j)[W]は板厚方向下部からの熱伝導,qtra(Ti,j)[W]は長手方向の熱流,qwat(Ti,j)[W]は水冷熱伝達,qair(Ti,j)[W]は空冷熱伝達,qrad(Ti,j)[W]は放射熱,qroll(Ti,j)[W]は搬送ロールとの接触熱伝導を表す。以上で述べたモデルで考慮する熱流をFig.8で模式的に示す。

Fig. 8.

 Considered heat flow.

3・2・2 鋼板内板厚方向の熱伝導

内部における板厚方向の熱移動はセクション間の熱の受け渡しとして考える。熱伝導は鋼板温度および鋼種に依存するため,熱伝導率k(Ti,j)[W/mK]を鋼種ごとに実験値より求めた温度の関数で表現する。上のセクションからの熱流qcon_upper(Ti,j)および下のセクションからの熱流qcon_lower(Ti,j)を式(3),式(4)に示す。   

q c o n _ u p p e r ( T i , j ) = k ( T i 1 , j ) S i , j d ( T i 1 , j T i , j ) (3)
  
q c o n _ l o w e r ( T i , j ) = k ( T i + 1 , j ) S i , j d ( T i + 1 , j T i , j ) (4)

式(3),式(4)においてSi,j[m2]は表面積,d[m]は1セクションあたりの板厚を表す。板厚方向内部のセクションでは上下セクションと,最上部セクションでは下のセクションと,最下部セクションでは上のセクションおよび3・2・7節で述べるロールセクションと熱流のやり取りがある。

3・2・3 鋼板搬送による熱流

鋼板搬送による熱流は,鋼板の移動に伴って上流から下流へ熱流を受け渡すことで考慮する。鋼板搬送による熱流qtra(Ti,j)を式(5)に示す。   

q t r a ( T i , j ) = ϕ ( T i , j ) A v ρ T i , j 1 ϕ ( T i , j ) A v ρ T i , j (5)

式(5)においてA[m2]は1セクションあたりの断面積,ρ[kg/m3]は鋼板の密度を表す。

長手方向最上流のセクション(j=1)では,1つ上流のセクションから熱流を受け取る代わりに,ROTに搬送されてくる鋼板温度Tinをもとに計算された熱流を受け取る。長手方向最上流のセクション(j=1)における長手方向セクション間で受け渡す熱流qtra(Ti,1)を式(6)に示す。   

q t r a ( T i , 1 ) = ϕ ( T i , 1 ) A v ρ T i n ϕ ( T i , 1 ) A v ρ T i , 1 (6)

3・2・4 水冷熱伝達

高温の鋼板に冷却水を注ぐと,冷却水が鋼板と接触する前に水蒸気に変わる膜沸騰が生じ,次に鋼板温度の低下に伴って鋼板と冷却水の接触が部分的に起こる遷移沸騰,そして鋼板と冷却水が完全に接触する核沸騰へと推移していく。膜沸騰から核沸騰の変化に伴い,水による冷却能力が増進することが知られている10)が,高温かつ高速で搬送される鋼板に対し沸騰状態を考慮した熱伝達を厳密に表現することは困難である。そこで,実験値を基に近似した温度の関数として,水冷熱伝達率hw(Ti,j)[W/m2K]は式(7)で与えられるものとする。   

h w ( T i , j ) = e a b T i , j + c (7)

式(7)においてa,b,cは水冷熱伝達率係数であり,使用許可を得た実機データより同定する。

冷却バルブにはノーマルバルブと精細バルブがあり冷却能力が異なる。また,上下面でも1バルブあたりの冷却能力が異なる。そこで,冷却水のかかる面積Swi,j[m2]に調整係数をかけることで冷却バルブの種類および上下位置による冷却能力の違いを表現する。水冷による熱流qwat(Ti,j)を式(8)に示す。   

q w a t ( T i , j ) = { h w ( T i , j ) S w i , j ( T w T i , j ) ( i = 1 , m ) 0 ( o t h e r w i s e ) (8)

式(8)においてSwi,j[m2]は水冷面積を表す。ここで,水温Tw変化が大きくないことから定数とする。また,水冷熱伝達は鋼板表面にあたる上部(i=1)および下部(i=m)で生じる。

3・2・5 空冷熱伝達

空気による冷却は冷却水が接していないすべての表面部分で起こるものとする。空冷における熱伝達率も温度に依存することが知られているが,温度による変化量は小さいため本稿では空冷熱伝達率ha[W/m2K]は定数として扱う。空冷熱伝達による熱流qairi,j(T)を式(9)で与える。   

q a i r ( T i , j ) = { h a ( S i , j S w i , j ) ( T a T i , j ) ( i = 1 , m ) 0 ( o t h e r w i s e ) (9)

なお,周囲空気温度Taは変化が小さいことから定数とする。また,空冷熱伝達は鋼板表面にあたる上部(i=1)および下部(i=m)で生じる。

3・2・6 熱放射

熱放射はすべての鋼板表面で生じる。熱放射による熱流qradi,j(T)を式(10)に示す。   

q r a d ( T i , j ) = { ϵ σ S w i , j ( T a 4 T i , j 4 ) ( i = 1 , m ) 0 ( o t h e r w i s e ) (10)

式(10)においてϵ[−]は放射率,σ[W/m2K]はステファンボルツマン定数を表す。また,熱放射は鋼板表面にあたる上部(i=1)および下部(i=m)で生じる。

3・2・7 搬送ロールセクション

鋼板を板厚方向にm分割する場合,搬送ロール位置に対応するセクションはψm+1,jとなる。この搬送ロールセクションψm+1,jにおける温度計算は式(1)を用い,熱流は鋼板との接触熱伝導qcon_roll(Tm+1,j)[W],水冷熱伝達qwat_roll(Tm+1,j)[W],空冷熱伝達qair_roll(Tm+1,j)[W],熱放射qrad_roll(Tm+1,j)[W]を考える。本稿では同じ大きさのロールが等間隔に並び,各ロールは半径r[m],厚みrw[m]の中心部が空洞の円筒と仮定する。

鋼板と搬送ロールの接触面積Srm,j[m2]を式(11)に,鋼板セクションがロールから受ける熱流qroll(Tm,j)を式(12)に,搬送ロールセクションが鋼板から受ける熱流qcon_roll(Tm+1,j)を式(13)に示す。   

S r m , j = S u l m , j (11)
  
q r o l l ( T m , j ) = S r m , j d k ( T m , j ) + r w k r ( T m + 1 , j T m , j ) (12)
  
q c o n _ r o l l ( T m + 1 , j ) = q r o l l ( T m , j ) (13)

式(11),式(12)および式(13)においてSrm,j[m2]は鋼板と搬送ロールの接触面積,Su[m]は単位長あたりの平均接触面積,lm,j[m]はセクションの長手方向長さ,kr[W/mK]は搬送ロール熱伝導率,Tm+1,j[K]は搬送ロールセクション温度を表す。

搬送ロールの水冷は鋼板の冷却水による影響を考え,下部注水バルブが開いているセクションで生じるとし,閉じているセクションでは0とする。搬送ロールの水冷熱伝達による熱流qwat_roll(Tm+1,j)[W]を式(14)に示す。   

q w a t _ r o l l ( T m + 1 , j ) = h r S w m + 1 , j ( T w T m + 1 , j ) (14)

式(14)においてhr[W/m2K]は搬送ロール水冷熱伝達率,Swm+1,j[m2]は搬送ロール水冷面積を表す。

搬送ロールの空冷は鋼板および冷却水と触れていない表面で生じる。搬送ロールの空冷熱伝達による熱流qair_roll(Tm+1,j)を式(15)に示す。   

q a i r _ r o l l ( T m + 1 , j ) = h a ( 2 π r S r m , j S w m + 1 , j ) ( T a T m + 1 , j ) (15)

搬送ロールの熱放射は鋼板と接触していないすべての表面で生じる。搬送ロールの熱放射による熱流qrad_roll(Tm+1,j)を式(16)に示す。   

q r a d _ r o l l ( T m + 1 , j ) = ϵ σ ( 2 π r S r m , j ) ( T a 4 T m + 1 , j 4 ) (16)

円筒と仮定した搬送ロールの内側については,空冷および熱放射が生じているが,これらの影響は小さいと考えられるため,本稿では無視する。

3・2・8 変態発熱

ROTでは,冷却に伴って結晶構造が変化し発熱が起こる温度帯が存在する。変態発熱が起こる温度帯では見かけ上冷却が弱まることから,鋼種ごとに比熱を温度の関数ϕ(Ti,j)として与えることで考慮する8,9)。本稿では鋼種ごとのデータ11)をもとに比熱と温度の関係を決定した。

3・3 鋼板先尾端におけるモデリング

鋼板到達前や通過後のセクションは空気が占めており,鋼板搬送中のセクションは鋼板で満たされている。このように,鋼板の先端と尾端の位置によりセクション内の物質が異なるため,長手方向間の熱流に関して一様と仮定した式(5)では鋼板先尾端の移動による温度変化を表現できない。そこで,鋼板先尾端の移動に対応したサブモデルを構築する。

鋼板先尾端が位置するセクションでは,セクション中に鋼板と空気が混在する。従って,鋼板先端における熱流の計算ではFig.9ように,長手方向に関して受け取る熱流qtra_in[W]はひとつ上流のセクション温度を用い,受け渡す熱流qtra_out[W]は周囲空気温度を用いて計算をする必要がある。同様に,鋼板尾端においてはFig.10ように,長手方向に受け取る熱流qtra_inは周囲空気温度を用い,受け渡す熱流qtra_outは鋼板尾端部分の温度を用いて計算しなければならない。そこで,鋼板先尾端位置による条件分岐で鋼板先尾端を考慮する。

Fig. 9.

 Heat flow calculation of head.

Fig. 10.

 Heat flow calculation of tail.

FDTP位置を0[m]とした時の鋼板先端位置xhead[m]およびxtail[m]は式(17),式(18)で与えられる。   

x head = v d t (17)
  
x tail = x head l steel (18)

式(17)および式(18)においてlsteel[m]は鋼板全長を表す。算出した鋼板先端位置xheadおよび鋼板尾端位置xtailと各セクション長からそれぞれの鋼板先端および尾端が位置する長手方向セクション番号nheadntailを求める。そして,鋼板先尾端位置から各セクションを「鋼板先端が存在」,「鋼板尾端が存在」,「鋼板で満たされている」に場合分けをする。長手方向セクション間で受け渡す熱流qtra(Ti,j)を式(19)で示す。   

q t r a ( T i , j ) = { ϕ ( T i , j ) A v ρ T i , j 1 ϕ ( T i , j ) A v ρ T a ( j = n head ) ϕ ( T i , j ) A v ρ T a ϕ ( T i , j ) A v ρ T tail i , j ( j = n tail ) ϕ ( T i , j ) A v ρ T i , j 1 ϕ ( T i , j ) A v ρ T i , j ( o t h e r w i s e ) (19)

式(19)において,Ti,jtail[K]は鋼板尾端温度を表す。鋼板先端については,式(19)におけるパラメータが既知であるため計算可能である。鋼板尾端については,未知である鋼板尾端温度Ti,jtailをセクション中の鋼板が満たす割合を用いて求めることが必要である。しかし,計算負荷が大きくなるため,鋼板尾端が着目しているセクションに到達したときのセクション温度を鋼板尾端温度Ti,jtailとし,鋼板尾端がセクション内に存在している間は温度変化しないものと仮定して,計算を行う。

4. シミュレーション

4・1 シミュレーション条件

構築した空間分割温度モデルを数値シミュレーションにより検証する。具体的な設備に関するパラメータと製品寸法は,実際の設備および鋼板の値に基づく。鋼板に関しては,材料A(板厚2.5 mm)と材料B(板厚5.7 mm)の2種類を用い,比熱および熱伝導率は鋼種によって選択する。長手方向のセクションはROT入側搬送区間,ノーマルバルブ区間,精細バルブ区間,ROT出側搬送区間に分け,それぞれの区間でセクション長を定めて等分割する。板厚方向のセクションは長手方向の位置に依らず3等分している。鋼板搬送速度v,鋼板搬入温度Tin,バルブ入力unudは実験値を時系列信号としてモデルに入力する。搬送速度vは,加速開始時間で初期速度から最高速度まで加速する。搬送ロールと鋼板の接触面積は調整パラメータとする。

シミュレーションは時間t=0[s]で鋼板先端がFDTPに到達するものとし,t=0[s]における鋼板セクション温度および搬送ロールセクション温度は周囲空気温度Taと同じとする。シミュレーションにおける差分計算は陽解法を用いる。

4章で用いたシミュレーションパラメータをTable 1に示す。

Table 1.  Simulation parameter.
Parameter Material A Material B
steel grade low-carbon manganese
initial speed [m/s] 10.0 4.68
start point of acceleration [s] 4.81 9.96
acceleration rate [m/s2] 2.86 × 10–1 3.28 × 10–2
maximum speed [m/s] 11.4 6.60
identified parameter of hw [–] a = 3.40
b = 4.90 × 10–3
c = 2.00 × 10–3
heat transfer coefficient of ambient ha [W/m2K] 1.16
emissivity ϵ [–] 8.00 × 10–1

4・2 シミュレーション結果

材料Aと材料Bのそれぞれに対して,実設備における温度測定値,従来モデル1)および空間分割モデルにより計算されたTCTを比較する。従来モデルは板厚方向の温度分布をセグメント毎に有限差分法を用いて計算しており,上部表面に対応する鋼板温度をTCTとする。提案モデルではCTPの位置に対応するセクション温度をTCTとする。材料AにおけるTCTの比較結果をFig.11に,材料BにおけるTCTの比較結果をFig.12に示す。Fig.1112より提案する空間分割温度モデルはいずれの場合においても従来モデルと同等かそれ以上の精度を持つことが確認できる。従来モデルと提案モデルの結果に差異が生じている理由として,提案モデルでは搬送ロールとの接触による熱流を考慮していることが挙げられる。セクションと搬送ロールの位置関係が時間変化しないことから,提案モデルは従来モデルと比べて搬送ロールとの接触による熱流が考慮しやすいという特徴を持つ。

Fig. 11.

 Comparison of CT (material A).

Fig. 12.

 Comparison of CT (material B).

Fig.13に材料Bにおける鋼板の長手方向の温度分布とバルブ入力を示す。Fig.13に示されるように,提案モデルでは温度分布の時間変化が推定可能となることから,温度分布を目標の形とすることで材料特性の向上を図る温度制御に展開することが期待される。

Fig. 13.

 Section temperature and valve input.

Fig.1415に鋼板先端および尾端における温度分布を示す。鋼板の先端と尾端で温度が鋭く変化しており,このことから,3・3節の鋼板先尾端モデルは鋼板の先端および尾端の到達を想定した温度応答を再現しているといえる。

Fig. 14.

 Section temperature of material head.

Fig. 15.

 Section temperature of material tail.

5. 結言

本稿では,制御系設計に直接用いることを目的とする熱間圧延Run Out Tableを対象とした空間分割モデルを提案し,数値シミュレーションにより提案モデルの有効性を確認した。従来の鋼板温度予測モデルと比較して,提案モデルはバルブ位置とセクションの関係が固定されていることから制御入力と状態の関係が端的に表現され,制御系設計に用いやすいモデルであると考えられる。また,提案モデルの調整パラメータ数は,従来モデルの材料全長に亘って切り板ごとに温度を補正するパラメータが不要になるなど半分程度に減り,セクションを適切に分割することによりモデル精度を確保した上で計算負荷が小さくできるといったメリットを持つ。シミュレーション結果より,提案モデルは従来モデルと同等またはそれ以上の精度を持つことが確認された。また,鋼板先尾端が到達した際の温度変化の応答についても十分な再現性があることを確認した。今後は,本研究で提案した温度モデルを用いた巻取温度制御系の設計を行う。

付録.変数表

本稿で用いたパラメータの一覧をTable A1に示す。Table A1において添え字i,jは板厚方向にi番目,長手方向にj番目のセクションを表している。

Table A1.  Parameter.
TFDT finisher delivery temperature [K]
TCT coiling temperature [K]
Tin temperature of ROT entry [K]
Tout temperature of ROT delivery [K]
Tw temperature of coolant [K]
Ta temperature of ambient [K]
Ti,j temperature of section i,j [K]
Tref target temperature [K]
un normal valve operation [–]
ud detail valve operation [–]
h thickness [m]
w width [m]
v speed [m/s]
v* speed predicted value [m/s]
Mi,j mass [kg]
Si,j surface [m2]
Swi,j surface covered by coolant [m2]
d thickness per section [m]
A cross section [m2]
ϕ(Ti,j) specific heat [J/kgK]
k(Ti,j) thermal conductivity [W/mK]
hw(Ti,j) heat transfer coefficient of coolant [W/m2K]
ha heat transfer coefficient of ambient [W/m2K]
ρ density [kg/m3]
ϵ emissivity [–]
σ Stefan-Boltzmann constant [W/m2K]
q(Ti,j) heat flow [W]
qcon_upper(Ti,j) heat flow of heat conduction from upper [W]
qcon_lower(Ti,j) heat flow of heat conduction from lower [W]
qtra(Ti,j) heat flow of heat transfer [W]
qwat(Ti,j) heat flow of water cooling [W]
qair(Ti,j) heat flow of air cooling [W]
qrad(Ti,j) heat flow of thermal radiation [W]
qroll(Ti,j) heat flow of heat transfer with conveyance roll [W]
Tm+1,j temperature of conveyance roll section [K]
r radius of conveyance roll [m]
rw thickness of conveyance roll [m]
Su average contact area per unit length [m]
lm,j longitudinal length of section [m]
Srm,j contact area of materials and conveyance roll [m2]
Swm+1,j surface of conveyance roll covered by coolant [m2]
kr thermal conductivity of conveyance roll [W/mK]
hr heat transfer coefficient of conveyance roll [W/m2K]
qcon_roll(Tm+1,j) heat flow of heat transfer with material (conveyance roll) [W]
qwat_roll(Tm+1,j) heat flow of water cooling (conveyance roll) [W]
qair_roll(Tm+1,j) heat flow of air cooling (conveyance roll) [W]
qrad_roll(Tm+1,j) heat flow of thermal radiation (conveyance roll) [W]
xhead position of material head [m]
xtail position of material tail [m]
lsteel material length [m]
Ti,jtail temperature of material tail [K]

文献
 
© 2017 The Iron and Steel Institute of Japan

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https://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/4.0/
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