Tetsu-to-Hagane
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Analysis of Carbon Partitioning at an Early Stage of Proeutectoid Ferrite Transformation in a Low Carbon Mn-Si Steel by High Accuracy FE-EPMA
Takako YamashitaMasato EnomotoYuji TanakaHiroshi MatsudaMasayasu Nagoshi
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2017 Volume 103 Issue 11 Pages 622-628

Details
Synopsis:

Understanding of γ→α transformation during intercritical annealing is important to achieve precise control over the mechanical properties of low-carbon steels. And control of the carbon contents in the phases is the most important factor in alloy design for achieving high strength and high ductility. However, it is unusually difficult to determine the carbon contents in multiphase structures with high accuracy. So, we have developed new methods for suppressing hydrocarbon contamination during field emission (FE) EPMA measurements.

Carbon enrichment at γ/α interface and carbon concentration of γ phase in Fe-0.15%C-2%Si-(1.5, 2.0)%Mn steels isothermally transformed at 750 and 800°C was measured using developed FE-EPMA. The paraequilibrium (PE) model gives much better predictions for carbon enrichment in 1.5%Mn steel for 15 s. The NPLE/PLE transition model of local equilibrium gives much better predictions in 2.0%Mn steel. But the interfacial carbon concentration agrees with the composition of PLE/NPLE transition line in all alloys annealing for 1800 s. Furthermore, carbon enrichment shifted from the PE to NPLE model during annealing.

1. 緒言

近年,自動車部材に用いられている高張力鋼板(ハイテン)は,強度と延性の両方を向上させる必要がある。それには,強度を担うマルテンサイトやベイナイトなど硬質相による鋼の生地そのものの高延性化と,残留オーステナイト相による加工誘起変態を利用した伸びの向上の両方の活用が必須である1,2,3)。さらに,マルテンサイトやベイナイトおよび残留オーステナイトを活用して特性向上を図る場合,それぞれの相の形成機構を解明する必要があるが,それには,これら組織と元素の分配挙動の関係,特に二相域焼鈍中の分配挙動を解析することが重要である4,5,6,7,8,9,10)

これらの組織形成の基礎理論となる相変態は,一般的に鉄鋼材料の組成はFe-C-X(Xは置換型合金元素X=X1, X2…)であるため,炭素と他の合金元素の拡散速度が極端に異なり,局所平衡あるいはパラ平衡で相変態が進行するケースが多いと考えられる。局所平衡やパラ平衡の理論解析については,1970年代から,KirkaldyやAaronsonらのグループで精力的に研究されたが11,12,13),当時はFe-C-SiやFe-C-Mn,NiあるいはFe-C-Si-Mnといった3元系および4元系合金をγ化後,冷却して2相域で保持した試料を電子線プローブX線マイクロアナリシス(EPMA)などで元素分析して相分配を測定する手法が用いられていた。これらの研究例は十分に溶体化した粗大な結晶粒を対象とし,しかもSiやMnなど置換型元素の分配を観察できる分配局所平衡(Partition Local Equilibrium, PLE)モードで変態が進行する時間まで保持したものが多かった。

一方,最近の研究では,電界放出型 (Field Emission:以下FEと略す)電子銃を搭載したFE-EPMAを用いて短時間焼鈍の変態挙動の解析が試みられている14,15)。短時間焼鈍の元素分配挙動の解析には,これらの組織と炭素の分配挙動の関係を解析することが重要であるが,通常の分析手法では,測定中における試料表面の分析箇所に蓄積する炭化水素の汚染(カーボンコンタミネーション:コンタミと称す)の影響により,鋼の組織に対応した微小領域の微量炭素の定量は不可能であると考えられてきた。

そこで,著者らはコンタミを大幅に低減させる特殊仕様を組み込んだ,独自のFE-EPMAを開発した。開発した装置は,従来装置では点分析でも0.1 mass%程度に留まっている炭素の定量下限を,二次元分布評価の場合でも0.01%以下に維持できる世界初のFE-EPMAとなった。本装置(Cアナライザー)により,鋼板中の組織に対応した炭素の二次元分布(Cマッピング)を世界で初めて可視化することに成功した16)

本論文ではFe-C-Si-Mn4元系のモデル合金を用いて,溶体化後α+γ2相域で比較的短い等温保持後の組織を凍結した試料を作製した。それらを,Cアナライザーを用いて元素分配挙動を測定するとともに,拡散律速型変態解析ソフトDICTRA17)(DIffusion Controled TRAnsformation)を用いて相変態挙動を解析し,Cの分配挙動について比較した。

2. Cアナライザーの開発と性能16)

2・1 装置開発

従来,鋼中元素の定量分析に用いられてきたEPMAは,測定時に試料表面に蓄積する炭素汚れ,すなわちコンタミのために,炭素の定量評価が困難である。これは,試料の表面や周辺に存在するハイドロカーボン等の汚染物質が入射電子線と相互作用して試料表面に炭素を蓄積するもので,これまでは研磨など試料前処理で試料表面に残存する汚れを極力低減することや,測定室内の試料直上に液体窒素の冷却トラップを設置することで,測定中に蓄積するコンタミを低減してCを測定してきた。しかしながら,従来装置では点分析でも0.1 mass%程度の炭素分析しかできなかった。しかし,著者らは上記コンタミを大幅に低減させる特殊仕様を組み込んだ独自のEPMAを製作することを試みた。

本開発装置における鋼板組織に対応したCを測定する手法は,非破壊で,かつ,分析面積を結晶粒経よりも小さくする必要がある。FE-EPMAは分析面積が小さく,非破壊分析で微小領域のC分析を行うのにもっとも適していると考えられる。

そこで,FE-EPMAをベースとして,EPMAの炭素分析で問題となるコンタミを低減・抑止する技術を開発した。本装置におけるコンタミ低減・抑制技術は,

1.試料周辺のハイドロカーボン除去

…試料室および試料準備室へのプラズマクリーナー装着,液体窒素トラップ装備

2.測定中の試料周辺へのハイドロカーボン蓄積抑制

…試料温度を100°Cに保持できるFE-EPMA用加熱ステージ

3.高感度化による測定時間の大幅削減

…炭素用分光結晶を3台併用

の3点である。

まず,試料へのプラズマ照射によるコンタミ削減はSEMやTEM観察では実績があるが,EPMAの測定室でプラズマ照射することは検出器先端の有機膜にダメージを与えるためEPMAでは実績がなかった。そこで,プラズマによるEPMAの検出器へのダメージを避けるために検出器前に保護板を設置し,プラズマ照射時に検出器先端が露出しないように改造した。しかしながら,プラズマ照射しただけでは電子線照射時間増加とともに,プラズマ照射の効果はなくなりコンタミが蓄積する。そこで,2点目の技術として,EPMAでは初となる加熱ステージを作製した。さらに,信号強度を増加させて短時間で分析を終了すればコンタミ蓄積前に測定を完了できると考え,炭素に対して感度の高い分光素子(LDE6H)を3台搭載した。開発装置のコンタミ削減技術概要をFig.1に示す。

Fig. 1.

 Schematic diagram of developed instrument for carbon mapping in steels.

2・2 Cアナライザーの炭素定量精度

開発した炭素分析用FE-EPMA(Cアナライザー)を用いて,炭素量が既知の試料を定量した値と,測定日も複数でその都度試料前処理を再調整して合計16回測定したときの再現性による定量精度(標準偏差)をTable 1に示す。開発装置では,C=0.089から0.46 mass%の範囲でいずれも約0.01 mass%の定量精度で炭素を分析可能であることがわかる。

Table 1.  Quantification precision according to repeatability using the developed instrument. (mass%) N=16
a) chemical analysis b) EPMA c) difference between a) and b) d) standard deviation of b) e) standard error of b)
0.089 0.084 – 0.005 0.008 0.002
0.188 0.179 – 0.009 0.007 0.002
0.281 0.285 + 0.004 0.009 0.002
0.460 0.481 + 0.021 0.012 0.003

3. 実験

3・1 供試材および実験方法

用いた供試材の化学組成をTable 2に示す。これらは実験室にて真空溶解した後,熱延および冷延して厚さ1 mmの鋼板とし,Fig.2に示した熱処理を施した。950°Cでγ単相にした後,二相域の750°Cまたは800°Cで15 sおよび1800 s保持後水冷した試料のL断面を鏡面研磨し,CアナライザーにてC,Si,Mnの定量分析を実施した。

Table 2.  Chemical composition of alloys (mass%).
Alloy C Si Mn
A 0.15 2.0 1.5
B 0.20 2.0 1.5
C 0.15 2.0 2.0
Fig. 2.

 Schematic diagram of heat treatments.

Cアナライザー測定は,まずCの測定を実施し,加速電圧7 kV,照射電流5×10−8 Aで行い,ビーム径は最小(Focused)とした。さらに,詳細は別報に委ねるがコンタミの蓄積しにくい測定条件18)で,Cの定量ライン分析または定量マッピング分析を実施した。今回用いた測定条件におけるCアナライザーのC分析の空間分解能は100 nm以下であり,Cの定量方法は,Fe-C合金標準試料を用いた検量線法を用いた。次いで,同一視野のSi,Mnの測定を行った。Si,MnはK線を分析するためとS/N比の観点から加速電圧9 kV,照射電流1×10−7 Aに変更して測定した。なお,今回用いた試料は後述のようにSi,Mnは分配しないと予想されるが,そのことを各鋼種1試料ずつ確認して,その他の試料のSi,Mn測定は省略した。

さらにCアナライザー測定箇所の同視野の組織観察を行うために,Cアナライザー測定後の試料を軽く研磨してからナイタール(3%)でエッチングし,FE-SEM(Carl Zeiss製Supra55VP)で観察した。観察には,組織の微細構造まで観察するために,加速電圧1 kVでインレンズ(物質強調)像を用いた。

3・2 DICTRA計算方法

本研究における相変態挙動を解析するためにDICTRA(ver. 2015b)を用いた。DICTRAは局所平衡を前提として拡散方程式を解くソフトウエアであるが,Thermo-Calcと連動して動作するためThermo-Calcの熱力学データを使用できるほか,CALPHAD法で評価された多元系の拡散係数を拡散データベースより持ち込んで計算することができる19)

今回の計算に用いたDICTRAの計算モデルをFig.3に示す。用いた熱力学データベースはTCFE7,拡散データベースはMOB2である。検討に用いた4元系モデル合金の初期組織は,結晶粒径が比較的粗大であることからセルの形状は矩形として,時間経過とともにγ相セルの左側からα相が成長するように設定した。さらに,核生成を取り扱わない拡散現象に限定して計算するために,セルの左側にあらかじめ非常に薄い(1×10−9 m幅)α相を設定した。セル全体の長さは結晶粒径のばらつきを考慮し,粒径の最大値と最小値それぞれの1/2の25 μmおよび10 μmとし,通常の局所平衡のほかパラ平衡(paraequilibrium, PE)モードによる750°C,800°Cでの等温変態を1800 sまで計算した。

Fig. 3.

 Calculation condition of the phase transformation in DICTRA.

4. 結果および考察

4・1 Cアナライザーによる供試鋼の炭素分析結果

合金 Aの750°C,15 s保持した試料のC定量マッピング測定結果および同視野を低加速FE-SEMで観察した組織とともにFig.4に示す。図にはマッピング中心の矢印(⇒)位置をライン分析したプロファイルも同時に示すが,測定した箇所は旧γ粒界から生成したαγ相を分断することなく,α/γ境界以外のC濃度が均一なマルテンサイト相とα相が生成している箇所であり,マルテンサイト相の中心はバルク濃度(C=0.15 mass%)であり,α成長とともに吐き出されたCが界面に濃化している様子が明確に測定されていることがわかる。また,界面への濃化が見られない箇所もあり,界面によって変態速度に差があると予想される。

Fig. 4.

 SEM images and quantitative carbon mapping and line analysis of alloy A for annealed at 750°C for 15 s using the developed FE-EPMA (C-analyzer).

次に,同じ合金Aの750°C,15s保持後の試料で,フェライト変態が進みα相同志が合体して島状にγ相が残存する箇所の,Cアナライザー測定結果とFE-SEM観察結果をFig.5に示す。同じ保持時間でも変態の進行している場所ではγ相へのC濃化が進行し,γ(冷却時にマルテンサイトに変態している)相中心のC濃度も高くなっていることがわかる。粒径の大きいγ相の中心は先ほどと同じバルク濃度(C=0.15 mass%)であるが,Fig.5ではほとんどの界面において,程度が異なるもののCは濃化していることがマッピング測定より明らかになった。すなわち,測定場所や界面によっても,その濃化度合や変態の進行速度が異なることがデータによって示され,面分析の重要性が示唆された。

Fig. 5.

 SEM images and quantitative carbon mapping and line analysis of alloy A for annealed at 750°C for 15 s using the C-analyzer.

また,炭素量が異なる合金Bの750°C,15 s保持後の試料の同様の測定結果をFig.6に示すが,炭素量が高いために合金Aよりもγ相分率が多い結果となっている。α相の生成量が多い界面では炭素の吐き出しが多く,界面へのC濃化量も増加していることがマッピング結果より明らかであり,移動している界面を捉えていると予想される。

Fig. 6.

 SEM images and quantitative carbon mapping and line analysis of alloy B for annealed at 750°C for 15 s using the C-analyzer.

最後に,合金A,Bの750°C,15 s保持後試料の,Cアナライザーによる低倍率のC定量マッピング測定結果をFig.7に示す。まず,いずれの試料も粒径の大きいγ粒の中心部分の炭素濃度はバルク濃度であるが,コンタミの影響のほとんどないCアナライザーでは,マッピング結果より合金 AとBの0.05 mass%というわずかなバルクの炭素濃度差は明確に測定可能である。また,炭素量の少ない合金 Aの方が,フェライト変態が進行してγ粒径が小さい部分にC濃化していることが明確にとらえることができ,従来技術では不可能であったC濃度の2次元の可視化に成功したと言える。

Fig. 7.

 Quantitative carbon mapping of alloy A, B for annealed at 750°C for 15 s using the C-analyzer.

4・2 DICTRA計算結果

炭素の高精度定量分析が可能になったので,二相域焼鈍におけるC分配挙動を解析するためにDICTRAを用いてγα変態の計算を行った。DICTRAの計算結果の一例として,合金Aの750°C焼鈍時におけるα相分率時間変化をFig.8(a)および(c)に示す。保持時間1800 sでは不分配局所平衡:No-Partition Local Equilibrium(NPLE)領域からPLE領域へ移行しているが,計算結果は省略するがSi,Mnは分配していない。Si,Mnが分配しないことは一部の試料のEPMA測定でも確認した。また,保持時間0,15,1800 sにおけるCのプロファイル計算結果をFig.8(b)および(d)に示す。図の上段(a),(b)はセル幅が10 μm(セル幅は結晶粒径20 μmの半分),下段(c),(d)はセル幅が25 μmの計算結果であるが,セル幅が狭いとセル幅に対する界面移動が相対的に速くなり,ソフトインピンジメントが早期に起こり始めるので,γ相中心のC濃度が速く増加する。

Fig. 8.

 Calculated volume fraction of α phase and C profiles of alloy A in isothermal annealed at 750°C using DICTRA.

さらに,局所平衡モードおよびPEモードで計算した合金Aの750と800°Cで15 s保持と,合金B,Cの750°C,15 s保持後のCプロファイル計算結果をまとめてFig.9に示す。図より,界面のC濃度はセル幅によらず,局所平衡モードよりもPEモードの方が高くなり,変態速度も速いことがわかる。

Fig. 9.

 C profiles in alloys A, B and C isothermally annealed at 750°C for 15 s, simulated under local equilibrium and paraequilibrium using DICTRA.

(脚注)Fig.9のPEモードによるDICTRAのプロファイルについて

PEは合金元素のスパイクがなく,炭素の拡散プロファイルはなだらかに変化すると考えられるが,ここではDICTRAによるシミュレーション結果をそのまま掲載している。

4・3 二相域短時間焼鈍時のγ中炭素濃度

ここで,Cアナライザーによる各試料のC定量マッピングデータを用いて,同時に測定された同一試料の複数界面の炭素濃度を読み取ることによって,それぞれの試料の相変態初期における炭素分配挙動が,局所平衡が支配的なのかパラ平衡が支配的なのかを考察した。相変態がNPLEで進行しているかPEで進行しているかは,Fig.9で示されるようにマトリクス濃度の差はわずかなため,界面のピークの炭素濃化で判断するのがよいと考えられる。しかも,界面の炭素濃度は結晶粒径によらないため,FE-EPMAの空間分解能では多少荒いが,測定点数を増やすことで界面に濃化する炭素濃度の評価を試みた。そこで,合金A,B,Cの750°C,15 s保持後の試料,および合金Aの800°C,15 s保持後の試料をFig.4~6と同様の倍率で5視野以上定量マッピング測定を実施し,α相が生成している5~7か所の切断面のラインデータを読み取った。これら30か所以上のC濃度プロファイルより,界面におけるピークC濃度と,バルク(マトリクス)のC濃度を求めた。

低炭素鋼のフェライト変態は,変態の初期ではPEであるが,その後NPLEを経由してPLEへ移行すると考えられている。たとえば,Hutchinsonら20)は,Fe-C-Ni合金における初析フェライトの成長速度が,変態開始より数十秒後に急激に遅くなることを見出し,成長が遅くなる前の段階ではNiの拡散スパイクが未発達のため,パラ平衡に近い条件で成長し,スパイクが発達した後はNPLEモードに遷移すると述べている。Fig.10a)とb)にFe-C-Mn-Si 4元状態図の局所平衡とパラ平衡下のフェライトの成長の界面共役線を示す。バルク組成Oを通る炭素のcomponent ray(4面体状態図の炭素の頂点からでて,Fe,MnおよびSiの組成比が一定となる直線)が,α/(α+γ)相境界と交わる点をaとし,aを一端とする平衡共役線の他端をそれぞれc,dとする。Fig.10a)でcを通る炭素の等活量線は,3元系と異なり等活量面となるが,その面と炭素のcomponent rayが交わる点bがこの合金の当該温度におけるPLE/NPLE境界である。4元系ではPLE/NPLE境界も全体としては曲面であるが,図中斜線を施した面に相当する。このように,3元系と同様の手法でPLE/NPLE境界や遷移温度を計算できる。本合金は2 mass%のSiを含み,モル分率としてはMnより大きくなるが,α/γ相境界やPLE/NPLE境界に与える影響はMnに比べると小さい21,22)

Fig. 10.

 a) Local equilibrium (ac) and b) paraequilibrium interfacial tie-line (ad) for the growth of ferrite in an Fe-C-Mn-Si alloy (O). O’ is the projection onto the basal plane or Fe-C-Mn phase diagram.

Fig.11に上記手法でThermo-calcを用いて計算した合金Aおよび合金Cのパラ平衡によるα/γ相境界およびT0組成,NPLE/PLE遷移組成を併せて示す。これをみると,a)の1.5 mass%Mn合金では800°C,750°Cともに15 sという短時間焼鈍で,界面の一部はPEモードによるγ相中の炭素濃度に達している。それに対して,b)の2.0 mass%Mn合金では同じ15 s保持後でNPLE濃度近傍である。

Fig. 11.

 Results of C composition measurement in γ phase superimposed on paraequilibrium phase diagram and To composition, NPLE/PLE transition composition.

局所平衡の界面共役線の一端であるFig.10a)のcはMnの拡散スパイクの頂点におけるC濃度である。そこで,保持時間が15 sの試料のフェライトの厚さがFig.4などより~10 μmとすると,平均の成長速度は,v~0.6 μm/sである。γ中のMnの拡散係数をD~10−18 m2/sとすると23),Mnスパイクの幅は,   

w D v = 1.6 × 10 12 m (1)

となり,アナライザーの分解能を大きく下回っている。このことから,NPLEモードにおける点cのC濃度は測定が困難であり,Fig.11の合金A(1.5 mass%Mn)のNPLE境界を越える高いC濃度は,PEモードによる成長を示唆する。また,合金AではPLE/NPLE境界以上のC濃度が観察されたのに対し,15 s保持の合金C(2 mass%Mn)ではPLE/NPLE境界に近いC濃度しか観察されなかった理由としては,1.5 mass%Mn合金ではフェライトの成長速度が速く,かつMn量も少ないため,Mnスパイクの形成に時間がかかると考えられる。実際,Hutchinsonら20)はFe-C-Ni合金のフェライト成長時にα/γ界面を横切るNiの流束がNi濃度に比例することを示し,界面の移動速度が遅いほど大きくなると考察している。実験的にもZ.Q.Liuら14)は,Fe-2 mass%Mn-0.05 mass%Cおよび0.14 mass%C合金の600,650および700°Cで60 s~10000 s等温保持した試料をFE-EPMA分析し,これらの温度でNPLE境界に近いC濃化が得られていることを報告している。

次に,γ相中の炭素量が一定となる1800 s保持した合金A,B,Cを用いて,Cアナライザーによる相中の炭素濃度と局所平衡モードのDICTRAの計算結果を比較した。結果をFig.12に示す。図中,C量の少ない方より,合金Cの800°C,合金Aの800°C,合金Bの750°Cの値である。原点近傍の点は各試料のフェライト領域のCアナライザーの測定値および計算値を用いた。結果より,Cアナライザーの測定結果はいずれもDICTRAの計算結果とよく一致することがわかった。従って,本実験の試料も変態が進行した1800 sでは局所平衡モードのC濃度に近似することと考えられる。

Fig. 12.

 Comparison of C content between measurement value of C-analyzer and DICTRA.

以上より,合金Aでは750°Cおよび800°Cのγα変態において15 sの変態初期ではPEモードで変態が進行するが,保持時間とともにNPLEモードに移行し,1800 s保持するとPLEモードに移行し変態が進行するようになる。さらに,合金Cでは,750°C,15 sではNPLEモードで変態が進行していることが明らかになった。鋼の相変態で初析フェライトの成長でNPLEモードよりも前の段階に存在すると考えられているPEモードでの成長が成分原子の濃度分析により確認された例は初めてであり,今回開発したアナライザーによる高精度のC分析により可能になった。

さらに,これらの事実は,実機プロセスの二相域焼鈍工程においては重要であり,通常均熱時間が120 s程度の短時間のCAL(Continuous Annealing Line)工程における焼鈍では,Mn添加量のわずかな違いによりγα変態速度が変化してしまうことを意味する。変態速度はプロセス条件を決定する上で重要なポイントとなるため,Mn量の影響を把握しておくことが大事である。

5. 結言

測定時のコンタミを抑制することで0.01 mass%の測定精度で微小領域の炭素分析を可能にしたFE-EPMA(Cアナライザー)を開発し,二相域焼鈍中におけるγα相変態初期における炭素分配挙動をDICTRAの計算結果と比較した。その結果,

1)Fe-0.15%C-2%Si-1.5%Mn(mass%)合金では,750°Cおよび800°Cのγα変態において15 s保持後ではPEモードで変態が進行する

2)これらの試料は750,800°Cで1800 s保持するとPLEモードに移行して変態が進行するようになる

3)Fe-0.15%C-2%Si-2%Mn(mass%)合金では,750°C,15 sではNPLEモードで変態が進行している

ことが明らかになった。このことは,Mn量により変態速度が変化することを意味しており,プロセス条件を決定する上で重要である。

しかしながら,DICTRAの計算は1次元であり,今後の組織解析のためには2次元に対応した計算手法の開発が望まれる。

謝辞

本研究は国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)委託事業「革新的新構造材料等研究開発」の一環による成果である。

文献
 
© 2017 The Iron and Steel Institute of Japan

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