Tetsu-to-Hagane
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Effect of Morphology of Dual-phase Structure on Inhomogeneous Plastic Deformation and Ductile Fracture in Ti-4%Cr Alloy
Shotaro HashimotoToshihiro TsuchiyamaSetsuo Takaki
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2017 Volume 103 Issue 11 Pages 636-645

Details
Synopsis:

The morphology of (α+β) dual-phase structure in Ti-4%Cr alloy was controlled to be plate-like and equiaxed types by aging treatment and warm rolling, respectively. Tensile testing for the specimens with different morphology revealed that the equiaxed specimen was much superior to the plate-like one in elongation and reduction of area. The inhomogeneous and hierarchical strain distribution was quantitatively visualized for these specimens by DIC method, and it was found that the plastic strain is preferentially introduced into the softer phase of α, which results in a marked strain partitioning between α and β phases, particularly in the plate-like specimen. There were three conditions for preferential plastic deformation in the plate-like specimen: 1. α plate is aligned nearly in the direction of maximum shear stress, 2. the length and width of α plate is relatively large, and 3. Schmidt factor for prismatic slips is relatively large. As a result, the plastic strain is increased in such α plates and expanded along the plate, leading to a void formation at plate/plate or plate/β grain boundary junctions. On the other hand, the equiaxed specimen deforms uniformly with a less strain partitioning, and also, the strained regions are formed separately and hard to connect each other. Since the void formation is significantly delayed due to those reasons, the equiaxed specimen can continue plastic deformation to a higher strain regime.

1. 緒言

Ti-6Al-4V(Ti64)合金に代表される(α+β)二相チタン合金は,加工や熱処理によってαおよびβ粒の形態が様々に変化し,それによって機械的性質が強く影響を受けることが知られている。例えば,Ti64合金をβ変態点以上で溶体化処理,焼入れ後に二相域で時効処理すると,β相中に板状のα粒が分散した組織(板状組織)が得られるが,二相域で鍛造や圧延などの熱間加工を施すと板状のα粒が分断あるいは再結晶することにより等軸粒組織が形成されることが報告されている1)。このような板状組織が等軸粒組織に変化する現象のことを等軸化(Globalization)と呼んでいる。一般に板状組織と等軸組織の機械的性質を比較すると,板状の場合は高い破壊靭性とクリープ耐性を示すのに対し,等軸の場合は引張靭性や高温低サイクル疲労に優れることが知られている。具体的な研究例として,Eylonら2)はTi-6A1-2Sn-l.5Zr-lMo-0.35Bi-0.1Si(Ti-ll)合金を用いて,熱間鍛造および溶体化処理の条件を変化させることで種々のミクロ組織を有する試料を作製し,機械的性質の調査を行っている。その結果,組織等軸化することで良好な延性が得られることを見出し,ボイド成長の観点から延性に及ぼすα粒の形態の影響について考察している。また,Nakaseら3)は温間鍛造で作製されたTi-6Al-4V合金において,初析αのアスペクト比が大きくなるほど,0.2%耐力は低下するが,破断時の断面減少率が増加することを報告している。上記以外にもこれまで,様々なミクロ組織を有するα+β合金の機械性質に関する研究が報告されており4,5,6),組織等軸化に伴う延性改善に関する検討がなされてきた。

二相チタン合金の機械的性質が組織の形態によって変化する理由として,板状組織と等軸組織の間に存在するミクロレベルのひずみや応力の集中サイトの相違,またそれに依存するボイドの形成および連結挙動の相違が挙げられる。一般に,二相組織を有する合金では構成相の硬さやヤング率などの違いに起因して不均一なひずみ/応力分配挙動を生じることが知られている7)。しかし,チタン合金においてひずみの分配や局所化とボイドの形成や連結挙動を関連付けた研究報告例は少なく,これらに及ぼす組織形態の影響も明らかにされていない。二相チタン合金の機械的性質を理解し改善していくには,それらを定量評価し,組織形態との関連性を明らかにしておくことが重要である。その手法として本研究では,近年,塑性ひずみ分布を可視化する有効な手法として注目されているデジタル画像相関(DIC)法の適用を試みた。DIC法は鉄鋼材料,とくにDual-Phase(DP)鋼の変形挙動解析に多く活用されており,不均一な局所ひずみ分布をフェライトとマルテンサイトでそれぞれ分離して定量評価できる手法である。また,変形前後の組織写真があればその倍率に関わらず解析が可能であり,原理的には視野の大きさによらないマルチスケールなひずみ分布評価を行うことができる。Nakadaら8)はDIC法によりDP鋼のマルチスケールなひずみ解析を行い,マクロな変形・ひずみの分布が金属組織形態に起因したミクロな不均一ひずみの連結・伝播により発達すること,すなわちひずみ分布には階層的な構造(hierarchical strain distribution)が存在することを明らかにした。従って,DIC法を二相チタン合金に適用して階層的なひずみ分布解析を行えば,板状組織と等軸組織における塑性ひずみ分布の不均一性の相違を定量的に評価し,変形挙動と力学特性を支配している組織因子の明確化が可能になると期待される。

本研究では,二相チタン合金の一種であるTi-4Cr合金を供試材として,DIC法によるひずみ分布解析を試みた。Crはチタン合金において強いβ安定化能を有し,拡散性も高いため,時効処理によって生成したβ相に濃化して室温でも安定なβ粒を形成させる。そのためTi-4Cr合金では,溶体化処理後に焼入れおよび時効処理を施すことでTi64合金と同様に板状組織を,また温間圧延および時効処理によって等軸組織を形成させることができる9)。またCrは比較的安価な元素であることから,低コストのチタン合金の合金元素の一つとして期待されている10)。本合金を以上の2種類の異なる形態に組織制御した試料に対して,引張変形中に導入される不均一な局所ひずみに及ぼす組織形態の影響について調査を行った。そして組織等軸化に伴う延性改善のメカニズムについて,ひずみ分配,ボイドの形成・連結の観点から考察した。

2. 実験方法

Arガス雰囲気でのアーク溶解によって製造された4 kgのTi-4mass%Cr合金(以下,表記しない限り化学組成はmass%とする)インゴットを供試材とした。インゴットの化学組成をTable 1に示す。インゴットの表面には酸素富化層が存在するため,表面から10 mmを切削して除去した試料を実験に使用した。インゴットから適当な長さに切断して得た試料の鋳造組織を破壊し,均質化を図るために大気中にて973 Kで温間圧延を施し,その後水冷した。次いで,0.1 MPaのAr雰囲気にてβ単相域の1273 Kで600 sの溶体化処理を行った後,水冷することでα’マルテンサイト単相組織を得た(焼入材)。得られた焼入材を1023 Kの二相域で18 ksの時効処理を行い,板状(α+β)組織を形成させた。一方,等軸組織を形成させる目的として,焼入材を1023 Kで20,50,80%の温間圧延を行い,そのまま冷却せずに同温度で18 ksの恒温保持を行った。処理後の各評価に供した板状および等軸組織を有する試料の含有酸素量は0.05%程度であり,両者で相違は見られなかった。

Table 1.  Chemical composition of Ti-4Cr alloy used in this study. (mass%)
Al V Cr Fe O N Ti
< 0.005 < 0.005 3.83 0.022 0.040 0.005 bal.

得られた各試料についてエメリー紙による湿式研磨およびダイヤモンド研濁液による研磨を行った後,5%HF水溶液で腐食を行い,光学顕微鏡および走査電子顕微鏡(SEM:VE-9800,KEYENCE製またはSIGMA500,ZEISS製)を用いて組織観察を行った。一方,SEMを用いたEBSD法により結晶方位解析を行う際には,組織観察と同様の研磨を行った後243 Kにて60%メタノール+35%ブタノール+5%過塩素酸混合液を用いたツインジェット研磨により仕上げた試料を用いた。EBSD法での方位測定においては測定条件を加速電圧20 kV,ステップサイズ0.1~0.25 μmとし,得られたデータについてTSL社製のOIMシステム(OIM analysis Ver 3.08)を用いて解析を行った。また各熱処理を施した試料について10%HF+30%H2O2水溶液により化学研磨を施し,X線回析法(Co-Kα)により相の同定および定量を行った。なお相定量については,αβ各相の回折ピークに指数付けを行った後にそれらの積分強度比を求め,多重度因子やローレンツ因子を考慮した補正を行い算出した11)

引張特性の調査には,平行部6 mm,幅3 mmの板状試験片を用いた。この試験片をインストロン型試験機により,室温においてクロスヘッドスピード0.2 mm/min(初期ひずみ速度5.6×10−5 s−1)の条件で引張試験して評価を行った。ひずみ解析には,デジタル画像相間法(Digital Image Correlation:DIC)を用いた。まず平行部5 mm,幅2 mmまたは平行部10 mm,幅2 mmの小型板状試験片について小型引張試験機を用いてSEM内その場引張観察を行い,変形前後のSEM組織を取得した。次いで,専用のソフトウェア(Vic-2D;correlate, solutions社製)を用いてサブセットサイズ21~61 px,ステップ1 pxの条件で得られたSEM組織についてデジタル画像相間法によるひずみ解析を行った。なお,DIC法では測定したひずみを各成分に分割することや,相当ひずみとして表記することが可能であるが,本研究では引張方向への垂直成分が主要な成分であったため,これに注目してひずみ量を評価した。

各試料の硬さを評価するため,試料全体の平均硬さについてはマイクロビッカース硬さ試験により測定し,また各相の結晶粒内の硬さについては超微小硬度計(ENT-1100A,エリオニクス製)を用いたナノインデンテーション法により測定を行った。なお,ナノインデンテーション法で硬さ測定する際には,試料表面において圧子の間隔を5 μmとして連続測定を行い,得られたデータのうち完全にα相またはβ相の範囲に圧痕が存在するものを各相の硬さとして採用した。圧痕が界面にある場合や二相中どちらに含まれるか不明な場合にはデータを除外して各相の評価を行った。

3. 実験結果および考察

3・1 板状組織と等軸組織の特徴

Fig.1はTi-4Cr合金をβ単相域である1273 Kで0.6 ks保持後,焼入れした試料(焼入材)の光顕組織を示す。XRDで相の同定を行ったところ全てhcp単相であることが確認されたことから,これらの組織は焼入れ時に生成したα’マルテンサイト(以後α’)である。焼入材の旧β粒は数百μmまで粒成長しているが,その内部は極めて微細なプレート状の組織で構成されている。このような初期組織を有するα’組織が時効処理により逆変態する際に,多量に含まれるα’プレート界面がβ相の核生成サイトとなるために微細な板状(α+β)組織が形成され,機械的性質が改善されることが知られている12)Fig.2は焼入材を二相域の1023 Kで18 ks時効処理した試料(板状組織材)のSEM組織およびXRD回折パターンを示す。低倍率のSEM像(a)より,板状組織材では時効処理後も明瞭に旧β粒界が観察され,この旧β粒内は板状のαプレートで埋め尽くされている。また,板状組織材の拡大像(b)から,幅約2 μm,長さ40 μm以上に伸長した粗大な一次αプレートと,これらの間に存在する幅約1 μm,長さ15 μm以下の微細な副次αプレートおよび隙間を埋めるβ相からなる微細な板状組織が形成されていることがわかる。XRD回折パターン(c)からは脆化の原因となるω相のピークは検出されず,組織はα相とβ相のみから構成されていることが確認される。なお,この試料におけるβ相率を回折ピークを用いて算出したところ34%と見積もられた。Fig.3は焼入材に1023 Kで20,50,80%の温間圧延を施し,さらに同温度で18 ks保持した試料の光顕組織および80%温間圧延材のXRD回折パターンを示す。加工率の異なる3試料(a)~(c)より,温間加工率が増加するほど(α+β)組織中のαプレートが分断されてアスペクト比は小さくなり,等軸状に変化していくことがわかる。XRDパターン(d)から板状組織材と同様にω相のピークは検出されず,80%温間圧延材のβ相率は板状組織材とほぼ同じで38%と見積もられた。等軸α粒のサイズは2~3 μmでほとんど一定であり,板状組織のプレート幅と比較しても大きな差はない。すなわち,温間圧延時に再結晶や著しい粒成長は生じていないと言える。以下に示す等軸組織材には,全て完全に等軸化が生じていた80%の温間圧延材を使用することとする。Fig.4は板状組織材および等軸組織材のマイクロビッカース硬さ試験およびナノインデンテーション硬さ試験の結果を示す。マイクロビッカース硬さ(Hv),つまり試料の平均硬さについては,どちらの試料においてもほぼ同じ値を有している。一方,各相のナノ硬さについては,板状組織材の場合α相が3.4,β相が5.2,等軸組織材の場合α相が3.7,β相が5.9 Hit[GPa]であった。この測定結果より,β相がα相に比べて硬質であること,また両試料間で比較すると各相の硬さは同等であることがわかる。Fig.5は板状組織材および等軸組織材のEDSによる元素分析結果を示す。酸素(O),クロム(Cr)はそれぞれα相,β相を安定化する元素であり,Oはα相に,Crはβ相にそれぞれ濃化している。本EDS面分析の結果とX線回折で得られた相比からβ相中のCrが7~9 mass%と見積もられたが,装置の空間分解能の問題から各相中における元素分析については信頼生の高い値は得られなかった。そこでThermo-Calcで各相中の固溶元素の平衡濃度を計算したところ,α相中のCrが0.52 mass%と非常に低濃度となるのに対し,β相中のCrは実験結果とほぼ等しい7.7 mass%に達すると算出され,得られた試料はほぼ平衡状態に達していると推察された。一方,酸素についてはα相中では0.099 mass%,β相中では0.014 mass%と計算された。チタン中では侵入型元素であるOの固溶強化能が非常に高いことが知られているが13),本合金においてはOの含有量がもともと少ないため,Oによるα相の固溶強化に比べてCrによるβ相の固溶強化の方が大きく寄与していると理解される。

Fig. 1.

 Optical micrograph (a) and X-ray diffraction pattern (b) of Ti-4Cr alloy solution-treated at 1273 K for 600 s, followed by water quenching.

Fig. 2.

 SEM images (a) (b) and X-ray diffraction pattern (c) of plate-like specimen.

Fig. 3.

 SEM images of 20% (a), 50% (b) and 80% (c) warm-rolled specimens and X-ray diffraction pattern of 80% warm-rolled specimen (d).

Fig. 4.

 Vickers hardness and nano-indentation hardness of α and β phases in plate-like and equiaxed specimens.

Fig. 5.

 SEM images and EDS maps of plate-like and equiaxed specimens. (Online version in color.)

(α+β)二相組織の結晶学的特徴を明らかにするために,EBSDによる結晶方位解析を行った。Fig.6およびFig.7は,板状組織を有するTi-4Cr合金の結晶方位マップおよび極点図をそれぞれ示している。Fig.6より板状組織において,1つの旧β粒内に一つの晶癖面から生成し得る6つのバリアントがすべて観察され,同一バリアントのαプレートは同一配向を有していることがわかる。α/β二相組織の結晶方位関係を解析したところ,極点図に示されるように1つのβ相内に含まれるすべてのαプレートはそのβ相とBurger’sの方位関係({0001}α //{110}β,〈1120〉α //〈111〉β)14)を有していることが確認された。α相は二相域での時効により粒成長を生じているが,焼入れにより生成したα’の結晶方位をそのまま引き継いでいる。一方,Fig.8およびFig.9は,等軸組織を有するTi-4Cr合金の結晶方位マップおよび極点図を示している。等軸組織においては,α相,β相ともに等軸状かつ微細に分散しており,本観察視野内では比較的ランダムな結晶方位を有していることがわかる。また,α/β二相組織の結晶方位関係を解析したところ,Fig.9に示すように基本的には板状組織の場合と同様にBurgersの方位関係が成立していることが確認されたが,その方位関係から大きく外れているものも存在している。これは,温間圧延時に両相が大きく結晶方位回転を生じたためと考えられる。温間加工によって二相チタン合金の組織が等軸化するメカニズムとして,Okazakiら15)は,α相中に導入されたすべり帯のひずみエネルギーを駆動力として,α/β界面がすべり帯に沿ってα粒内へ侵入し,最終的に基地のβ相により完全に分断されると報告している。一方,Seshacharyuluら16)は再結晶により形成されたα/α界面や動的回復により形成された転位壁が,新たにα/β界面を形成することで界面エネルギーを下げようとする働きによると報告している。しかし,本実験結果においてはα/β間の結晶方位関係が基本的に保たれていることから,結晶方位のランダム化を生じる再結晶は生じていないと考えるべきであろう。したがって,本合金における等軸化のメカニズムとしては,温間圧延によってα相中に導入された転位が再配列して結果的に結晶方位回転を生じ,形成された転位壁部分でα/β界面が形成されることでα相の連結が分断される。このような機構によって等軸化が進行したと推察される。

Fig. 6.

 Orientation imaging maps for α phase (a) and β phase (b) in plate-like specimen. (Online version in color.)

Fig. 7.

 Pole figures of the planes for α phase and β phase shown in the orientation imaging map of Fig.6. (Online version in color.)

Fig. 8.

 Orientation imaging maps for α phase (a) and β phase (b) in equiaxed specimen. (Online version in color.)

Fig. 9.

 Pole figures of the planes for α phase and β phase shown in the orientation imaging map of Fig.8. (Online version in color.)

3・2 引張特性に及ぼす組織形態の影響

Fig.10は板状組織および等軸組織を有するTi-4Cr合金の公称応力−公称ひずみ曲線を示す。両試料間で降伏応力に顕著な差異は認められないが,加工硬化挙動が明らかに異なっており,板状組織材の加工硬化率が等軸組織材に比べて大きい傾向にある。一方,伸びについても両者間に大きな差異があり,全伸びは板状組織材で10%であったのに対して等軸組織材では40%もの値を示した。このような組織形態の変化に伴う延性の向上は汎用のTi-6Al-4V合金でも報告されている17)Fig.11にそれぞれの試料を引張試験後,SEMで破面を観察した結果を示す。板状組織材の破面(a)は,延性破壊を示すディンプルを呈してはいるが,αプレートに対応する伸長したパターンが観察され,さらに旧β粒もしくはαコロニーに対応する大きな破面単位で凹凸が観察される。一方,等軸組織材の破面(b)は,α粒のサイズに対応した微細なディンプルが破面全体に均一に形成されている。また破断後の試験片のマクロ形状に注目すると,板状組織材では板幅方向および板厚方向のどちらもほとんど絞れることなく破断していたのに対し,等軸組織材ではどちらの方向にも大きく絞れており,等軸組織材が板状組織に比較して局部変形能に優れることが明らかであった。一般に,延性破壊を引き起こすボイドの形成および連結には応力やひずみの局在化やそれに伴う延性ダメージの蓄積が大きく影響することが知られている。つまり,組織形態が大きく異なる上記の二種の合金においても,変形に伴うひずみの局在化の挙動が大きく異なり,結果的に延性破壊挙動や伸びの相違を生じさせたと考えられる。

Fig. 10.

 Nominal stress - nominal strain curves of plate-like and equiaxed specimens.

Fig. 11.

 SEM images of fracture surface in plate-like (a) and equiaxed (b) specimens.

3・3 不均一変形挙動に及ぼす組織形態の影響

3・3・1 Ti-4Cr合金における塑性ひずみの階層性

本実験ではSEM内その場引張試験を行い,それにDIC法を適用することで引張変形に伴う不均一変形挙動の評価を行った。Fig.12およびFig.13に,それぞれ板状および等軸組織を有するTi-4Cr合金について,3%の引張変形(加工硬化領域に相当)を付与した後に観察したSEM像を解析して得られたDIC像(εxxひずみマップ)を示す。いずれの図においても明るい紫の部分がα相,暗い紫の部分がβ相に対応している。Fig.12(a)およびFig.13(a)は低倍率で550 μm×350 μmの範囲(マクロスケール)を解析した結果であり,Fig.12(b)およびFig.13(b)は高倍率で50 μm×35 μmの範囲(ミクロスケール)を解析した結果である。なお,マクロスケールにおける破線で囲まれた領域がミクロスケールの解析領域と対応している。まずFig.12(a)より,板状組織ではひずみ量の大きい領域とほとんど変形していない領域がそれぞれ明瞭に観察される。赤やオレンジ色で示されるひずんだ領域は帯状に分布しており,引張方向に対して45度に近い角度で傾斜している。すなわち,最大せん断応力方向に対応したすべり変形を生じていると考えられる。また,組織との対応に着目すると旧β粒界よりも粒内,とくに長く伸長した一次αプレートの束に沿って形成されていることがわかる。前述のようにαβより軟質であり,優先的に塑性変形を生じやすいことから,αプレートの中でもマクロ的な応力方向に伸長した形状のものが選択的に変形を生じていると推察される。またFig.12(b)よりひずみ量の最大値を定量評価したところ30%以上に達する領域が確認された。それに対して硬質な第二相であるβ相は同一外部変形に対してほとんどひずみを生じていない。つまり,α/β相間で著しいひずみ分配を生じていることが示されている。これは同時に相間で著しい応力分配が生じていることも意味しており,前掲Fig.10の応力−ひずみ曲線で示された板状組織材における高い加工硬化率の要因になっていると理解される。一方,Fig.13(a)に示すように等軸組織材のひずみ分布は均一であり,若干のひずみの高低は確認されるものの板状組織材と比較してその程度は非常に小さい。Fig.13(b)より,α相へ集中した最大ひずみ量は高々10%であった。またひずみの集中が生じるα相が局在していないこともマクロで均一なひずみ分布が得られた理由であると言える。以上のように塑性変形によって生じる不均一なひずみ分布には階層的な構造が存在しており,マクロスケールでの不均一な変形領域はミクロ組織に対応して生じる局所的な高ひずみ領域と合致している。したがって,材料のマクロな延性破壊挙動を解明するには,ミクロな塑性変形の不均一をもたらす組織因子の理解が重要であると言えよう。

Fig. 12.

 Strain distribution analyzed by DIC in 3% tensile-deformed plate-like specimen. Rectangular area of image (a) corresponds to the observation area of image (b). (Online version in color.)

Fig. 13.

 Strain distribution analyzed by DIC in 3% tensile-deformed equiaxed specimen. Rectangular area of image (a) corresponds to the observation area of image (b). (Online version in color.)

3・3・2 二相間のひずみ分配とα相における塑性変形条件

前項で示されたとおり,二相チタン合金では二相組織の形態によって塑性変形の不均一性が異なることが示されたが,ミクロレベルでの塑性変形の不均一は結晶学的な特徴によっても影響されると考えられる。チタン合金ではα相にて柱面すべり{1010}〈1210〉が代表的なすべり系であることが知られているため,この面方位と引張軸方位との関係を考慮して塑性変形の不均一性について議論すべきである。そこでEBSD法による方位解析とDIC法によるひずみ分布解析を同一視野で行い,塑性ひずみ分布と結晶方位を含む組織因子との相関について調査を行った。Fig.14は,降伏直後まで引張変形させた板状組織材についてSEM内その場測定によって得られたDIC像(a),EBSD方位像(b),および柱面すべりのシュミット因子マップ(c)を示している。なお,DIC像中の破線はEBSDの観察領域に対応している。また,シュミット因子は柱面すべり{1010}〈1210〉に対する値である。前項では加工硬化に相当する3%の外部ひずみを付与した試料のDIC像に対して検討を行ったが,降伏直後においても不均一ひずみ挙動に関して同様の傾向を示していることがわかる。したがって,降伏時点ですでに不均一なひずみ分配が生じ,その傾向を維持したまま変形が進行していくと考えられる。同一視野から得られたDIC像(a)より板状組織では,同一配向のαプレートに大きなひずみが集中している様子が明確に示されている。またFig.12の結果と同様に,引張方向に対して45度に近い角度で変形帯が傾斜していることも確認される。一方で,変形したαプレートの結晶学的特徴に着目すると,方位像(b)およびシュミット因子マップ(c)から塑性変形を生じた粗大なαプレートの束は同一の結晶方位を有しており,結晶学的に同一のバリアントである。つまり,結晶方位もαプレートの変形条件として考慮すべきである。Fig.15に降伏直後まで引張変形させた板状組織材のDIC像における各αプレートの平均ひずみと種々の因子との関係をまとめた結果を示す。引張方向とのαプレートの角度(a)に関して,30~60度においてひずみの値は大きく,0または90度に近いものはほとんど変形していないことからαプレートの配向が塑性変形の生じやすさに強く関係している。伸長方向のαプレートの長さ(b)については,プロットはややばらついているが,長さが大きいほどひずみの値は大きくなる傾向がある。なお,大きな平均ひずみを有した20 μm以下の小さいプレートが存在しているが(白丸で示す),これはひずみ集中が生じた一次αプレートの近傍に存在していたためその影響を受けた二次αプレートであり,本質的には変形を生じやすいプレートではなかったと考えられる。シュミット因子と平均ひずみの関係(c)に注目すると,0.3以上のシュミット因子を有するαプレートにおいてひずみが大きくなる傾向にある。ただし,二次αプレートについては,シュミット因子が0.5に近いものであってもほとんどひずみは集中していなかった。以上の結果から,板状組織においてα相の優先塑性変形条件をまとめると以下の項目が挙げられる。

αプレートの配向(伸長方向)がマクロな最大せん断応力方向に近いこと。

②伸長方向のプレート長さと幅が大きいこと。

③柱面すべりのシュミット因子が大きいこと。

Fig. 14.

 Strain distribution under 0.75% tensile deformation (a), orientation imaging map (b) and Schmidt factor for prismatic slips (c) in plate-like specimen. (Online version in color.)

Fig. 15.

 Changes in average strain of an α plate as a function of angle from tensile direction (a), length of α plate (b) and Schmidt factor (c) in plate-like specimen. The white circles in (b) shows the data of secondary α plates.

次に,降伏直後まで引張変形させた等軸組織材についてSEM内その場測定によって得られたDIC像(a),EBSD方位像(b),および柱面すべりのシュミット因子マップ(c)をFig.16に示す。等軸組織材においても,Fig.13(b)に類似したミクロ組織に対応したひずみ分布が得られ,降伏時点で発生したα/β相間のひずみ分配が変形に伴い発達していくと考えられる。しかし,各α相でのひずみ集中の程度に板状組織材で見られたような顕著な差異は認められず,集中するひずみの値も小さいことがわかる。等軸組織材の場合にはα粒のサイズはほぼ同じであり配向も存在しないことから上記①と②の条件は関係しない。また集合組織の発達によりシュミット因子がほぼ同一の高い値に揃っており,③の条件の寄与も小さい。したがって,等軸組織材では板状組織材と比較してα相の塑性変形条件が弱くなり,極端なひずみの局在化が発生することなく均一なひずみ分布が得られたと理解される。

Fig. 16.

 Strain distribution under 0.75% tensile deformation (a), orientation imaging map (b) and Schmidt factor of prismatic slips (c) in equiaxed specimen. (Online version in color.)

Fig.17はそれぞれFig.14(a)およびFig.16(a)のひずみ解析結果をα相とβ相に分別してヒストグラムで表した結果である。また,それぞれの平均ひずみ量をTable 2に示す。両試料ともに,α相とβ相を比較すると硬質なβ相よりも軟質なα相で平均ひずみの値は大きく,前述した観察結果と一致している。DICで測定される平均ひずみは測定箇所によって大きく変動するため,本測定における平均ひずみが両試料で一致はしていないが,α/β間の平均ひずみの比に着目すると,板状および等軸組織材でそれぞれ2.05,1.55であり,板状組織材の方が顕著にひずみ分配が生じていることがわかる。また,α相中のひずみの不均一性という観点からも両試料間に大きな差異がある。板状組織ではひずみ分布が高ひずみ側に広がり,平均ひずみの4倍以上の局所ひずみが生じている場所も存在しているのに対して,等軸組織ではひずみ分布が比較的狭い範囲に留まっており均一に分布する傾向にある。一方,両試料間のβ相のひずみ分布は組織形態によらず類似しており,最大のひずみや平均ひずみに大きな差異は認められない。以上のようなα相へのひずみ分配の程度や分布の差異が両試料の延性破壊挙動に影響し,伸びの相違につながると推察される。

Fig. 17.

 Micro-scale strain histograms for α and β phases under 0.75% tensile deformation in plate-like (a) and equiaxed (b) specimens.

Table 2.  Average strains of α and β phases estimated by DIC method in plate-like and equiaxed specimens.
applied strain (%) average strain (%) α-average strain (%) β-average strain (%)
Plate 0.76 1.31 1.4 0.68
Equiaxed 0.75 0.78 0.82 0.53

3・3・3 引張変形に伴う不均一な局所ひずみの推移とボイドの形成

両試料の引張変形に伴う不均一変形挙動の推移を評価するため,付与ひずみ量を連続的に変化させてその場観察を行った。Fig.18に板状組織材の引張変形に伴うεxxひずみ分布の変化,ならびに破断した試料の縦断面から観察されたボイドのSEM像を示す。まず低ひずみ(a)では前述の優先塑性変形条件を満足したαプレートに不均一にひずみが集中すると同時にα/β間でひずみ分配が生じる。初期に塑性変形を開始した箇所には変形に伴いますますひずみが集中するようになり,ひずみ分配は顕著になっていく(b)(c)。さらに高ひずみが導入されると,粗大な一次αプレートの界面に沿ってひずみ集中部が連結して広範囲に広がり,変形帯が発達していく(d)。ボイドはそのようなひずみ集中部で発生すると考えられ,実際に破断部近傍では粗大なαプレートと別のプレートとの交点にボイドが局在している様子が観察されている(e)。このようなプレート界面で発生したボイドが破断時にプレートに沿って成長すると,破面にはトンネル状のボイド18)が形成されることになりFig.11(a)に示された伸長ディンプル状破面の形成も合理的に説明できる。このような板状組織材における破面の形成機構をFig.19に模式的に示す。プレートの引張軸方向に対する配向やサイズ,シュミット因子が優先塑性変形条件を満たしひずみが集中した一次αプレートでは,他のプレートやβ粒界との交差点で大きな応力集中を生じてボイド発生の起点になる。これがプレートのエッジに沿って成長することでトンネルボイドが形成され,破面には長い伸張ディンプルとなって現れる。その伸長ディンプルの間隙には小さな二次αプレートが存在しているので,そこでも同様にボイドのエッジ方向への成長が起こることでFig.11(a)に見られるようなαプレートの分布に対応する特徴的なディンプル破面が形成されると考えられる。

Fig. 18.

 Change in strain distribution in plate-like specimen with tensile deformation, observed at 1% (a), 3% (b), 5% (c) and 10% (d). And SEM image (e) of the cross section perpendicular to the tensile direction of fractured plate-like specimen. (Online version in color.)

Fig. 19.

 Schematic illustration showing the formation mechanism of fracture surface characterized by elongated dimples in plate-like specimen.

一方,Fig.20は等軸組織材の引張変形に伴うεxxひずみ分布,ならびに破断時におけるボイドのSEM観察結果を示す。等軸組織材では,まずα/β相間で硬さの差に起因したひずみの分配が開始する(a)。変形が進行すると多くのα粒にひずみが集中するようになりひずみ分配の程度も大きくなる(b)(c)。さらに高ひずみが導入されるとひずみ分配はますます顕著になるが,ひずみ集中部がβ相で分断されているため,それらが連結することはなく,板状組織材のような変形帯も形成されない(d)。そのため,α/β界面でのボイドの発生が遅延し,生成したボイドも散在している(e)。その結果,Fig.11(b)に示したように,破面全体でα粒のサイズや分布に対応した微細で等方的な形状を有するディンプルが形成されたと考えられる。以上の観察結果から,等軸組織材における高延性の主要因は,α/β相間の極端なひずみ分配とひずみ集中部の連結の抑制,そしてそれが高ひずみ領域までボイドの発生を抑制する効果にあると結論できる。

Fig. 20.

 Change in strain distribution in equiaxed specimen with tensile deformation, observed at 1% (a), 3% (b), 5% (c) and 10% (d). And SEM image (e) of the cross section perpendicular to the tensile direction of fractured plate-like specimen. (Online version in color.)

4. 結言

α相が板状および等軸状の2つの異なる組織形態を有するTi-4mass%Cr組成の(α+β)二相合金における引張変形挙動ならびに変形中に導入される局所ひずみ分布について調査し,本合金の延性や破壊挙動に及ぼす二相組織形態の影響について検討を行った結果,以下の知見を得た。

(1)等軸のα組織を有するTi-4Cr合金は,板状のα組織を有する合金に比べて,引張試験における伸びと絞りが著しく優れている。

(2)二相チタン合金の塑性変形によって生じる不均一なひずみ分布には階層的な構造が存在しており,マクロスケールで観察される不均一な変形帯は,ミクロ組織に起因して生じる局所的な高ひずみ領域と合致している。本研究で用いた二相チタン合金においては,α相が軟質相,β相が硬質相として働き,引張変形に伴い両相間に著しいひずみ分配が発生する。

(3)板状組織材におけるα相の優先塑性変形条件として,

αプレートの配向(伸長方向)がマクロな最大せん断応力方向に近いこと

②伸長方向のプレート長さと幅が大きいこと

③柱面すべりのシュミット因子が大きいこと

が挙げられ,これらの条件を全て満足するαプレートが変形初期から優先的に塑性変形を開始し,その後の変形によって主なひずみ集中サイトとなる。そのようなひずみ集中が生じたαプレートでは,他のプレートやβ粒界との衝突部で早期にボイドが形成され,それらが連結して成長することにより低ひずみ域での破断の原因となる。

(4)等軸組織材では,相間のひずみ分配は小さく,比較的均一に塑性変形を生じる。またひずみ集中サイトが分散して存在するためその連結も生じ難く,ボイド生成が遅延するため良好な延性が得られる。

文献
 
© 2017 The Iron and Steel Institute of Japan

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