2017 Volume 103 Issue 12 Pages 667
平成26年度から「固液共存体の挙動制御によるマクロ偏析低減研究会」の活動を3年間実施した。本特集号はその成果をまとめたものである。
連続鋳造の中心偏析や各種造塊のV偏析・チャンネル型偏析などのマクロ偏析は,デンドライト樹間の溶質濃化液相が流動によって特定領域に集積することで生成する。その生成過程に液相の流動のみが関与する場合には比較的理解が進んできたものの,中・高固相率の固液共存領域において液相と固相がともに移動するような場合には不明な点が多く残されてきた。鋳塊のさらなる高品質化のため,従来問題とされてこなかった軽微な偏析までも低減することが要求される現在においては,マクロ偏析の生成機構をより詳細に解明することが強く求められている。本研究会の前身となる「ミクロ・マクロ偏析制御研究会(平成21年度−平成24年度,主査:江阪久雄)」では,a)固液共存体の力学挙動の制御,b)凝固組織の等軸化・複雑化による液相流動の制御,というマクロ偏析制御に関する新たな方向性が示され,さらにはc)マクロ偏析モデルの適用範囲の拡張と高精度化という課題が浮き彫りになった。これらの背景を受け,本研究会では,a)固液共存体の力学挙動の解明,b)凝固組織制御,c)シミュレーション・モデルの構築を三本柱とする研究活動を行った。3年間の活動で合計9回の研究会を開催し,産学一体となって議論を進めてきた。
マクロ偏析は肉眼スケールの溶質元素の不均一分布である。しかし,肉眼スケールの空間分解能で観察や解析をくりかえしても,その生成機構を正しく理解することはできない。マクロ偏析の発端となるミクロ偏析はデンドライトのスケールで決まり,固液共存領域の流動はデンドライトのサイズや形態に影響を受ける。そして,熱,物質,運動量の輸送現象論と固体力学を組み合わせた議論が必要である。つまり,典型的なマルチスケール・マルチフィジックスの問題である。さらに,マクロ偏析の原因となる液相流動は,凝固収縮,自然対流,そして固液共存領域の変形に起因する複雑なものであり,連続鋳造では曲げやバルジング,遠心鋳造では回転といった複雑な境界条件の下での強制対流も生じる。そのような実プロセスにおけるマクロ偏析の全容を理解することは,最先端の実験科学と計算科学を駆使しても困難である。しかし,本研究会においては,モデル実験,その場観察,そしてシミュレーションという手段を相補的に活用することで,この複雑な現象の重要な側面をいくつか明らかにすることができた。さらに,今後につながる解析技術の大きな進展もあった。さらなる研究活動が必要であることは言を俟たないが,本特集号にまとめた成果がマクロ偏析制御技術の発展の一助になれば幸いである。