Tetsu-to-Hagane
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Evaluation of Dendrite Structure in Alloys
Takumi HatayamaYukinobu NatsumeKenichi Ohsasa
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2017 Volume 103 Issue 12 Pages 695-702

Details
Synopsis:

Methods for evaluating dendrite structure of an Al-5mass%Si alloy were investigated based on the fractal dimension and dimensionless perimeter. A phase-field simulation was carried out and calculated columnar dendrite showed a self-affine fractal characteristics. However, difference was small between self-affine parameters for x and y directions that mean columnar dendrites can be regarded as a self-similar fractal. Unidirectional and isothermal solidification experiments were carried out and it was shown that the fractal dimension and dimensionless perimeter of dendrites were determined only by local solidification time, and irrespective of solidification manner and dendrite morphology. This result demonstrated the potential of the fractal dimension and dimensionless perimeter as parameters for estimating local solidification time of an ingot. The tensile test showed that the tensile strength increased with increase in fractal dimension or dimensionless perimeter of dendrites in test specimens. Permeability of dendrite arrays were estimated by using the dimensionless perimeter as the tortuosity factor of interdendritic liquid channels. Obtained permeability corresponded to reported values.

1. 緒言

大型鋼塊や連続鋳造鋳片内に生じるマクロ偏析は,最終製品の品質に大きな影響を与えるために,現在までに多くの研究が成されてきた1,2,3,4,5,6,7,8)。マクロ偏析の生成原因は,デンドライト間隙の合金元素や不純物元素が濃化した液相が,熱や溶質対流,凝固収縮流等により長範囲を移動することによる。デンドライト間液相流動を抑制する方法の一つとしてデンドライト形態を緻密にし,デンドライト間液相の流動抵抗を高める方法が有効である。ここで,デンドライト形態を緻密に制御するための基礎技術として,デンドライト形態を定量的に評価するパラメータが必要になる。

従来デンドライト形態を定量的に表現する方法としては一般にデンドライト一次アーム間隔,二次アーム間隔が用いられてきた。著者らはこれらに加えてデンドライト形態を定量的に評価するパラメータとしてデンドライトの「フラクタル次元」および「無次元周囲長」が有効であることを明らかにした9,10,11)。また「無次元周囲長」を適用することによりデンドライト間液相の流動性を示す透過率を求めることが可能であることを示した9,10)

「フラクタル理論」は1970年代中頃に自己相似性を有するパターンを記述するために提唱されたもので,その後材料組織評価への応用例も報告されている12,13,14,15)。また,デンドライト形態はフラクタル特性を持つことが報告されている16,17)。著者らの従来の研究ではデンドライトのフラクタルを自己相似フラクタル18)として取り扱ってきた。しかし,結晶形態に異方性がある場合には自己アフィンフラクタル19)による解析が妥当であるとの報告が成されている20,21)。そこで本研究ではフラクタル次元をデンドライト形態評価のパラメータとして用いる際の基礎として,フェーズフィールド法で作成したデンドライトを対象として,合金のデンドライトは自己相似フラクタルと自己アフィンフラクタルのどちらが妥当であるかをまず明らかにすることを目的とした。

著者らはAl基合金を対象として一方向凝固実験を行い,合金凝固時の部分凝固時間とフラクタル次元,無次元周囲長との関係を調査し,部分凝固時間が同じであれば凝固組織形態および観察断面に寄らず,デンドライトの「フラクタル次元」および「無次元周囲長」は同じになることを明らかにした11)。本研究ではこの研究をさらに発展させ,冷却方法が異なる場合についても同じ結果が得られるか検討した。さらに,異なる「フラクタル次元」および「無次元周囲長」の鋳造試料から引張試験片を作成し,「フラクタル次元」および「無次元周囲長」と鋳造材の機械的性質との関係を調査した。最後に,一方向凝固実験で得られた比較的広い範囲で変化する「フラクタル次元」および「無次元周囲長」を有する合金試料の実組織から透過率を評価することを試みた。

2. 実験方法

2・1 一方向凝固実験

Fig.1に一方向凝固実験の実験装置を示す。鋳型は高さ200 mmの断熱性イソライトレンガに内径30 mmの円筒状の穴を開けて作製した。作製した鋳型にK熱電対を鋳型底部から10 mm,20 mm,50 mm,80 mm,120 mm,180 mmの位置に設置して試料の測温を行った。試料はAl-5mass%Si合金を対象とし,電気炉内でアルミナルツボを用いて大気中溶解して過熱度100 Kで炉内に保持した。鋳型を1023 Kに予熱した後,Fig.1に示すように鋳型を水冷ボックス上に設置し,直ちに試料溶湯を上部より注湯した。凝固後試料を高さ方向に沿って10 mm間隔で切断し,横断面,縦断面および斜断面を研磨してデンドライト組織形態を顕出し,フラクタル次元と無次元周囲長の測定を行った。フラクタル次元は自己相似フラクタルの測定法であるボックスカウント法18)を用いた。無次元周囲長は本来単独のデンドライトの周囲長と当該デンドライトと同じ面積を有する円の円周との比として定義したが,その後著者らは拡張した無次元周囲長を定義した11)Fig.2に模式的に示すようにある断面に観察される初晶デンドライトの面積の総和をS1とする。また初晶の総周囲長をL1とする。次にS1と同じ面積を有する円の円周をL2として比L=L1/L2を当該組織の無次元周囲長と定義した。

Fig. 1.

 Experimental apparatus.

Fig. 2.

 Procedure for measuring dimensionless perimeter of dendrites in an experimentally observed structure.

2・2 等温凝固実験

凝固方法が異なる時のフラクタル次元および無次元周囲長と部分凝固時間との関係を一方向凝固実験の結果と比較するために炉冷と空冷の試料を作成した。試料の組成はAl-5mass%Siで試料約35 gをアルミナルツボに設置し,電気炉内で溶解した。試料温度が1023 Kに達した後炉の電源を切って炉冷を行い,空冷の場合は炉外に試料を出して冷却を行った。試料中央部にK熱電対を設置し,測温を行った。凝固終了後試料を中央縦断面で切断し,デンドライト組織を顕出した後,フラクタル次元と無次元周囲長の測定を行った。

2・3 引張試験

鋳造材のデンドライト組織のフラクタル次元および無次元周囲長と機械的性質の関係を調査するために引張試験を行った。Al-5mass%Si合金を試料とし,冷却速度(部分凝固時間)の異なる試験片を作製するために金型,アルミナ製,イソライトレンガ製の3種類の鋳型を使用した。鋳型は内径30 mm,高さ180 mmに統一し,電気炉内で試料を溶解後,鋳込み温度1000 K(過熱度100 K)で各鋳型に鋳込んだ。鋳造した試料からJIS4号試験片を成形加工し,引張試験片を作製した。引張試験は島津精密万能試験機オートグラフAG-Xを使用し,クロスヘッド速度は10 mm/minとした。引張試験後,破断した試験片を切断し,破断面近傍のデンドライト組織のフラクタル次元と無次元周囲長の測定を行った。

3. 結果および考察

3・1 自己アフィンおよび自己相似フラクタル

Al-5mass%Si合金を対象としてフェーズフィールド法を用いて柱状晶形態と等軸晶形態のデンドライトを作成した。フェーズフィールドモデルとしてKKSモデル22)を用いた。計算に用いた要素サイズはΔx=Δy=1.0×10−8 mで,計算領域は,x方向1000メッシュ,y方向1000メッシュの1000×1000メッシュの均一要素に分解した正方形領域とし,そのサイズは1.0×10−5 mである。作成した柱状晶および等軸晶デンドライトのフラクタル特性を検討した。

ある図形の一部をx方向とy方向に均等に拡大しても同じ図形が現れる場合,この図形は「自己相似フラクタル」である。一方,図形に異方性がある場合,均等に拡大すると相似性が成立しないが,x方向とy方向に対して異なる比率で拡大したときに相似性が成立する場合,この図形は「自己アフィンフラクタル」である。

自己アフィンフラクタルの判定は次のように行う19)。適当な最小単位の長さスケールa0を定義し,図形を構成する曲線任意の2点A,B間の長さをa0の個数Nとして測定する。次にAB間のN個の全測定点のx,y座標の標準偏差X,Yを求める。   

X=1Ni=1N(xixc)2Y=1Ni=1N(yiyc)2(1)

ここでxC,yCは曲線ABの重心で,次式で表される。   

xc=1Ni=1Nxiyc=1Ni=1Nyi(2)

与えられた曲線上で任意の2点をさらに選んで上の測定手続きを繰り返して多数の組(N;X,Y)を求め,X,YNに対して   

X=C1×NLxY=C2×NLy(3)

の関係が成立する時,この曲線は自己アフィンフラクタルであり,Lx,Lyは自己アフィン指数と呼ばれる。また,もしLx=Lyであれば,この曲線は自己相似フラクタルである。

Fig.3上部にフェーズフィールド計算で作成した等軸晶形態と柱状晶形態のデンドライトを,下部に(3)式の標準偏差X,YNの関係を対数で表示したものを示す。直線関係が成立しており,Fig.3上部に示すデンドライトはフラクタルである。またFig.3(a)の等軸晶では自己アフィン指数Lx=0.42,Ly=0.43でほぼ等しく両者の直線は重なっており,自己相似フラクタルであることを示している。一方,柱状晶形態のFig.3(b)ではLx=0.55,Ly=0.50と異なっており,自己アフィンフラクタルであることを示している。しかしその差は小さい。Fig.3(b)に示される柱状デンドライトは単数であるが,複数存在する場合はその異方性はさらに減少することが予想される。従って,柱状晶形態のデンドライトを自己相似フラクタルとして取り扱っても誤差は小さいと思われる。

Fig. 3.

 Calculation of self-affine parameter by the evaluation of standard deviation along x and y axes of the dendrites. Self-affine parameters are evaluated from the standard deviations for equiaxed and columnar dendrites. (a) LX=0.42, LY=0.43, (b) LX=0.55, LY=0.50

3・2 凝固実験

3・2・1 一方向凝固組織

一方向凝固実験において試料の測温結果から,一方向凝固過程での試料底部チルからの高さ方向に沿った各位置での冷却速度と部分凝固時間を求めた。チル近傍では冷却速度が大きいが,チルから離れるに従って急速に減少し,それに伴って部分凝固時間が増加した。Fig.4に一方向凝固したAl-5mass%Si合金試料のマクロ結晶粒組織とミクロ組織「デンドライト組織」を示す。マクロ組織の左側にマクロ組織を明瞭に表すために,マクロ組織の模式図が描かれている。マクロ組織では水冷チル部近傍でチル晶が生成し,続いて柱状晶が発達して底部から160 mmの位置で柱状晶−等軸晶遷移(CET)が起こり,等軸晶領域へと遷移している。Fig.4右には柱状晶領域,CET部,等軸晶領域の縦断面および横断面のミクロ組織(デンドライト組織)が示されている。柱状晶領域では縦断面には柱状デンドライト組織が観察されるが,横断面では柱状晶領域でも等軸晶形態のように観察されているのが分かる。一方,CET部では縦断面には柱状形態と等軸形態のデンドライトが同時に観察されている。部分凝固時間が大きかった等軸晶領域では縦断面,横断面とも粗大な等軸デンドライトが観察される。このように,一方向凝固試料では観察断面によってデンドライト組織形態が異なることが分かる。

Fig. 4.

 Macro and micro Structures of a unidirectionally solidified Al-5mass%Si alloy ingot.

3・2・2 フラクタル次元と無次元周囲長

Fig.5(a, b)にAl-5mass%Si合金試料のデンドライト組織から測定したフラクタル次元Dfおよび無次元周囲長Lと部分凝固時間tfの関係を示す。図には一方向凝固試料と空冷凝固試料の測定結果を同時に示してある。フラクタル次元Df,無次元周囲長Lはともに部分凝固時間tfの増加に伴い減少している。一方向凝固試料のフラクタル次元Df,無次元周囲長Lはともに柱状晶,CET,等軸晶のような凝固組織形態の変化に関わらず連続的に減少している。さらに一方向凝固試料の横断面,縦断面,斜断面のフラクタル次元Df,無次元周囲長Lは部分凝固時間が同じであれば,同じ値を示している。Fig.5(a, b)中に○で示した部分凝固時間に対応する組織のデンドライト組織がFig.5(c)に示されている。一方向凝固試料(部分凝固時間118 s)ではこの部分が柱状晶領域になっており,横断面と縦断面のデンドライト組織は異なっている。一方,空冷凝固試料(部分凝固時間126 s)では等軸晶形態となっている。このように凝固法が異なると凝固組織が異なることが分かる。炉冷試料は空冷試料に比べてより粗大な等軸晶形態となっていたが,部分凝固時間が831 sと大きく,Fig.5には示していないが,フラクタル次元Dfおよび無次元周囲長Lのデータ(tf=831s,Df=1.08,L=3.5)は(Fig.5(a,b))の部分凝固時間の延長線上に位置していた。このことからデンドライト組織のフラクタル次元Df,無次元周囲長Lは凝固方法,凝固組織形態に関わらず部分凝固時間にのみ影響されると考えられる。

Fig. 5.

 Changes in the fractal dimension (a) and dimensionless perimeter (b) of dendrites along with local solidification time in Al-5mass%Si alloy ingot. Lower photographs (c) show the dendrite structures of an air cooled sample with local solidification time of 126 s, and unidirectionally solidified samples with local solidification time of 118 s. (both positions are denoted by circles in upper figures (a) and (b).)

Fig.6に一方向凝固試料の柱状晶領域で測定したフラクタル次元Dfと無次元周囲長Lとの関係を示す。Fig.6中に示されているRは直線回帰したときの相関係数を示しており,両者の間には高い相関関係が認められる。ここで,フラクタル次元は約1.1~1.4の範囲で変化しているのに対して,無次元周囲長Lは約5~20の範囲で変化している。

Fig. 6.

 Relationship between fractal dimension Df and dimensionless perimeter L in a unidirectionally solidified Al-5mass%Si alloy ingot.

3・2・3 フラクタル次元と二次デンドライトアーム間隔

Fig.7に一方向凝固したAl-5mass%Si合金試料の柱状晶領域で測定した二次デンドライトアーム間隔と,同一場所で測定したフラクタル次元との関係を示す。二次デンドライトアーム間隔λ2の増大とともにフラクタル次元Dfは減少しており,両者の間には負の相関が成立している。部分凝固時間tfが増大すると二次デンドライトアーム間隔λ2はオストワルド成長により粗大化し,両者の間にはλ2tf1/3の関係が成立することが知られている23)Fig.7に示されるように,フラクタル次元Dfと二次デンドライトアーム間隔λ2の間に負の相関が認められることから,フラクタル次元Dfの部分凝固時間tfに伴う変化もオストワルド成長と関係していることが予想される。Fig.8に部分凝固時間tfの1/3乗と,縦断面および横断面で測定したフラクタル次元Dfとの関係を示す。フラクタル次元Dfは部分凝固時間tfの1/3乗に対して負の相関を示しており,粗大化を表すパラメータであることを示している。ここで,Fig.8に示すフラクタル次元Dfは,Fig.4に示すように柱状晶,CET,等軸晶領域全体にわたって連続して変化していることが特色である。

Fig. 7.

 Relationship between fractal dimension Df and secondary dendrite arm spacing, λ2 measured at the columnar region of the longitudinal section in the unidirectionally solidified Al-5mass%Si alloy ingot.

Fig. 8.

 Relationship between cube root of local solidification time, tf1/3 and fractal dimension, Df in the Al-5mass%Si alloy ingot.

従来,部分凝固時間は二次デンドライトアーム間隔(SDAS)から推察されてきたが,SDASの測定は柱状デンドライトを対象として成長方向に平行な面でなければ困難であった。しかし,フラクタル次元および無次元周囲長は凝固組織に関わらず,また観察断面に関わらず測定が可能で有り,部分凝固時間を簡便に評価出来るパラメータである可能性が考えられる。

3・3 フラクタル次元および無次元周囲長と機械的性質

鋳造材の機械的性質は合金成分,凝固条件,熱処理等により決定される。アルミニウム合金鋳物においては特に冷却速度の変化に伴う二次デンドライトアーム間隔が機械的性質に大きく影響を与える24)。前節で示した二次デンドライトアーム間隔とフラクタル次元との相関性から,フラクタル次元および無次元周囲長と鋳造材の機械的性質との間にも相関関係があることが予想される。そこで,本研究ではフラクタル次元および無次元周囲長の異なる3種の鋳造材から作成した試験片を用いて引張試験を行った。試料内に熱電対を入れることで引張試験の結果に影響が出ることを考慮して熱電対による測温は行わず,引張試験後の凝固組織のフラクタル次元から部分凝固時間を推定した。

Fig.9(c)に異なる材質の鋳型に鋳込むことにより作成した鋳造試料のデンドライト組織を示す。イソライト鋳型で作成した試料のデンドライト組織が最も粗大で,アルミナ鋳型,金型の順でデンドライト組織が細かくなっており,この順でフラクタル次元Dfおよび無次元周囲長Lが増加する結果となった。Fig.9(a)にフラクタル次元DfおよびFig.9(b)に無次元周囲長Lと引張強さσu,との関係を示す。フラクタル次元Dfおよび無次元周囲長Lの増加とともに引張強さσuが増加しており,両者に相関があることが分かった。一方,Fig.9には示していないが,破断伸び,0.2%耐力については大きな差は見られなかった。これは鋳造の際に脱ガスなどをしていないため,鋳造時に発生したガスや凝固収縮により,ポロシティができ,それが影響したためではないかと考えられる。

Fig. 9.

 Relationships between fractal dimension Df (a), dimensionless perimeter L (b) and tensile strength Mu. Dendrite structures of an Al-5mass%Si alloy samples cast in an isolite, alumna and metal molds are shown in (c).

3・4 透過率の見積もり

著者らはフェーズフィールド法で作成したデンドライトを対象として,固液共存体を毛細管の束とみなしたモデルに基づき,固液共存体の透過率を評価することを試みた9,10)

このモデルでは柱状デンドライトに平行な流れに対する透過率KPおよび柱状デンドライトに垂直な流れに対する透過率KNは次式で表される。   

KP=fL2λ128πτ3(4)
  
KN=fL2λ1λ28πτ3(5)

ここでfLは液相率,λ1は一次デンドライトアーム間隔,λ2は二次デンドライトアーム間隔である。τは流路が直線ではないことを表すねじれ因子(tortuosity factor)25)で,これに無次元周囲長を代入すると透過率が評価できることを明らかにした。本研究では今回一方向凝固実験で得られた,部分凝固時間の変化に対応して幅広くデンドライト組織が変化したAl-5mass%Si合金試料の実組織から透過率を評価することを試みた。モデルの詳細は文献10)に記載されている。

(4),(5)式から透過率を算出するためには一次デンドライトアーム間隔λ1と二次デンドライトアーム間隔λ2の値が必要になる。ここで,柱状晶領域では縦断面のデンドライト組織から一次デンドライトアーム間隔λ1と二次デンドライトアーム間隔λ2の測定が可能であったが,等軸晶領域では一次デンドライトアーム間隔は測定が困難であったため等軸デンドライトアーム間隔で代用した。τ(tortuosity factor)には横断面,縦断面のそれぞれでの無次元周囲長を適用した。

Fig.10に一方向凝固したAl-5mass%Si合金試料の底部チルから高さ方向に沿った各位置のデンドライト組織から(4),(5)式より求めた柱状デンドライトに平行な流れに対する透過率KPおよび柱状デンドライトに垂直な流れKNを示す。横断面,縦断面の無次元周囲長を適用した場合,差はほとんどなく,チルからの距離が増加するにつれてKPおよびKNの値は増加している。これはチルからの距離が増加するにつれて無次元周囲長Lが減少し,デンドライト組織の複雑性が減少することに起因している。また,KPの方がKNより大きい値を示しており,実際の透過率の傾向を再現している。Fig.10中○で示したCETより上部の等軸晶領域ではKPおよびKNとも透過率値が急激に減少している。今回用いたモデルは柱状晶を対象としたもので,一次デンドライトアーム間隔と2次デンドライトアーム間隔のデータを必要としているが,等軸晶では両者の区別が困難であったため,等軸晶部分は式(4),(5)の一次および二次デンドライトアーム間隔λ1,λ2の項に等軸晶間隔の平均値を等しく用いたため透過率が小さくなったと考えられる。等軸晶領域の透過率の見積もりには今回のモデルが妥当かを含め,今後さらなる検討が必要と思われる。

Fig. 10.

 Changes in permeability KP (a) and KN (b) along with the distance from the chill.

今回求めた透過率の妥当性を検討するためにSugawaraら10),Apelianら26)の透過率の値と比較を行った。SugawaraらはPhase-field法によりデンドライト組織を再現し,フラクタル次元,無次元周囲長を測定し,実測のデンドライトアーム間隔を用いて透過率の算出を行った。一方,Apelianらの実験は液相と固相が共存している温度でデンドライト間液相を,圧力をかけて分離させた後,残ったデンドライトネットワークに一定圧力差の下で蒸留水を流し,流出量と圧力差の関係からDarcy則を用いて透過率を導出している。Fig.11に本解析結果と菅原ら,Apelianらの実測の透過率を比較して示す。本解析で求めた柱状晶に平行および垂直な流れに対する透過率KP,KNはSugawaraら,Apelianらの実測した透過率と等しいオーダーとなっている。このことから,実際のデンドライト組織の無次元周囲長を,透過率を見積もるためのねじれ因子(tortuosity factor)の項に適用することは有効であると考えられる。

Fig. 11.

 Comparison of calculated (present study) and reported permeability for parallel and normal flow to primary dendrite arms. Calculated permeability are estimated by regarding the dimensionless perimeter of dendrites as the tortuosity factor of the liquid channels in a mushy zone during the solidification of an alloy.

4. 結言

本研究ではAl-5mass%Si合金を対象として,デンドライト組織形態を定量的に評価する指標としてフラクタル次元および無次元周囲長が有効であるかを調査した。得られた知見は以下の通りである。

(1)フェーズフィールド法で作成したデンドライトを対象としてフラクタル特性を調査した。その結果,柱状デンドライトの自己アフィン指数はLx=0.55,Ly=0.50と異なっており,自己アフィンフラクタルであることを示した。しかし,その差は小さく,自己相似フラクタルとみなしても誤差は小さいと考えられた。

(2)一方向凝固,空冷および炉冷で冷却法が異なり,デンドライト組織が異なっても,フラクタル次元および無次元周囲長は部分凝固時間にのみに規定される。

(3)鋳造材のフラクタル次元および無次元周囲長が増加すると引張強さは増加した。しかし,破断伸びδ,0.2%耐力に関しては,差は見られなかった。

(4)実際のデンドライト組織の無次元周囲長を透過率見積もりのための固液共存体の液相チャンネルのねじれ因子(tortuosity factor)の項に適用することは有効であると考えられる。

文献
 
© 2017 The Iron and Steel Institute of Japan

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