2017 Volume 103 Issue 12 Pages 668-677
Synchrotron X-ray radiography was used to study tensile and compressive deformations of semi solid Al-Cu and/or Fe-C alloys. In the case of tensile deformation of globular Al-Cu sample at ~60% solid, relatively high strain regions were formed even at mean strain of 0.005. The normal strain rate at the regions was 10 times as high as mean normal strain rate (3.45×10–3 s–1). At mean strain of 0.04, tensile deformation was localized in the high strain region, resulting in the formation of internal cracking in the plane normal to the tensile axis. On the other hand, in the case of compressive deformations of globular Al-Cu sample at ~55% solid and polygonal Fe-C sample at ~73% solid, shear bands with decreased solid fraction were formed at the domains tilted by approximately 45 degrees with respect to compressive plane. Rearrangement of solid particles including translation and rotation caused the shear induced dilation at the shear domains. Shear strain was localized at the shear domain with decreased solid fraction. Deformation of the polygonal solid particle of Fe-C sample caused a force to transmit over a longer distance than for the globular Al-Cu sample. Shear fracture finally occurred due to inadequate liquid flow into the expanding spaces between solid particles caused by shear-induced dilation. The solid/solid interaction including impingement between solid particles and rearrangement has significant role in the compressive deformation. These observations demonstrated that the mechanism of cracking formations induced by compressive deformation was totally different from that in the tensile deformation.
鋳造プロセスにおいて,固液共存状態では様々な変形挙動が起こることが知られている1,2,3,4,5,6,7)。例えば,双ロールキャスティングではロール回転による圧縮応力と同時にせん断応力が発生したり,連続鋳造法では曲げ,曲げ戻しによる圧縮・引張応力と同時にせん断応力が発生したり,ダイカスト法では注湯圧力による圧縮応力と同時にせん断応力が発生したりする。このように製造プロセスにおける外的要因や凝固収縮などの内的要因により,固液共存状態において,変形が起こり,割れや偏析などの鋳造欠陥の原因となることがある。融点近傍のI領域での内部割れは,凝固末期に結晶粒界に残存する液膜部分に,曲げや熱応力などの外場により,引張応力を受けると発生する8,9,10,11)。また,バンド偏析と呼ばれるマクロ偏析は,せん断領域において固相同士の相互作用によって広がった固体の間隙に周囲から液相が流入することによって低固相率の領域がバンド状に形成される。凝固後に正偏析やポロシティを含んだバンド偏析が形成されると考えられている6,7)。特に固液共存体の引張変形による内部割れの発生に関しては,実験,理論両面から精力的に行われてきた8,9,10,11)。連続鋳造法の鋳片の内部割れの場合,未凝固鋳片の引張試験などにより,内部割れ限界歪が調査されている12,13)。鋼種などの実験条件によりばらつきはあるが,ひずみ速度10−3~10−4 s−1で0.3%から3.8%の範囲であり12,13),内部割れとマクロな力学挙動の関係が報告されている。ただし,いずれも内部割れの判定は,マクロな組織観察に限定されており,割れ形成時のデンドライト樹間の液膜状態などのミクロな組織変化は不明である。固液共存体の圧縮変形に関しても半溶融鋳造プロセスの開発などに向けてマクロな力学特性の研究が中心に行われている14,15,16,17)。
固液共存状態での変形過程では,固相−固相間,固相−液相間の相互作用の結果,固相粒子同士の衝突,固相粒子の移動・変形,固相粒子の凝集/非凝集化,液相流動など,複雑な組織変化が起こり,固相と液相の運動は一致していない1,5,6)。またその変形挙動は,固相率,固相粒子径,形態などの初期組織,ひずみ速度,液相の粘性や固相粒子間の液相の形態などに影響される1,3)。そのため,従来の凝固後の組織観察では多様な相互作用で起こる変形現象を正確に把握することは困難である。
近年,日本のSPring-8に代表される第3世代の大型放射光施設において,硬X線単色光の吸収イメージングを利用して,様々な金属合金のデンドライト成長やデンドライトアームの溶断などの凝固現象の時間分解その場観察が盛んに行われている18,19,20,21,22,23)。また,同技術を利用して,金属合金における固液共存体のせん断変形過程の時間分解その場観察が開発され,粒子スケールでの変形挙動や凝固割れの形成機構などが報告されている24,25,26,27,28,29,30)。組織形成に関して実証的な知見を与える固相粒子スケールでの直接観察は,鋳造欠陥の低減・予測手法の提案にとって有効であり,その場観察の結果を基に固液共存体の変形によって偏析を再現する2流体マクロモデルの構築も行われている31)。粒子スケールでのその場観察により,固液共存状態でのせん断変形は,主に固相粒子が液相中で,回転・並進運動する再配列が担っていることが初めて明らかにされている。この固相粒子の再配列によって起こるせん断ひずみの局在化は,偏析や割れなどの鋳造欠陥の形成に関係していることが実証されている24,25,26,27,28,29,30)。固相粒子の再配列と液相の流動を考慮した内部割れの定量評価も行われており,従来の引張変形だけでなく,せん断変形によっても内部割れが生じることが明らかとなっている29)。最近では,X線トモグラフィーを利用して,三次元空間で固液共存体の引張および圧縮変形をその場観察する研究も行われている9,10,32,33)。引張応力,圧縮応力が作用する法線面において,変形中での固相間の液膜の変化やポロシティの発生・成長などのミクロな組織変化の観察や三次元空間での内部割れの形態の評価が中心である。ただし,これまで内部割れとの関係が実証されてきたせん断応力が生じるせん断面における,固相粒子の運動や液相流動などの変形挙動については議論されていない。
本研究では,時間分解X線イメージングを利用して,粒子スケールで固液共存体の引張,圧縮変形過程のその場観察により,固相粒子の運動や固相粒子間の液相の状態の変化などのミクロスケールでの変形挙動や内部割れの形成機構を明らかにする。またこれまで報告例のない,固液共存体の引張,圧縮変形過程におけるせん断面での変形挙動にも着目し,内部割れとの関係について調べる。そこで,Al-Cu合金もしくはFe-C合金において,固液共存体の引張変形および圧縮変形挙動を粒子スケールでその場観察可能な装置の開発を行った。Al-Cu合金の引張および圧縮変形挙動や割れの形成機構および変形モードによるそれらの違いについて調査する。また圧縮変形においては,固相粒子の形態の異なるFe-C合金も併せて実験を行い,Al-Cu合金との変形挙動の違いについても調査する。
固液共存体の引張変形のその場観察を行うために開発した実験装置をFig.1(a)に示す。赤外線イメージ炉と炉内で上下に駆動する試料用ステージから主に構成される。赤外線イメージ炉には,X線ビームを透過させるために上流側と下流側にはφ10 mmの観察窓を設置している。
Setup for in situ observation of semi-solid tensile deformation.
Al-10mass%Cu組成となるように秤量し,カーボン坩堝中で大気溶解した。この時,等軸晶が分散した凝固組織を得るためにAl-TiB2合金(Al-5mass%Ti-1masss%B合金)をAl-10mass%Cu合金の質量に対して0.3mass%程度添加した。鋳鉄製金型へ鋳込み,母合金を得た。引張試験を行うために,Fig.1(b)に示すように長さ40 mm,幅5 mm,厚さ200 μmのダンベル状に加工を行い,試料用ステージに設置した。この時,試料上部は,炉内に設置されているBN製プレートとステンレス製ねじで常に固定されている。固液共存状態まで昇温後,所望の固相率となるようにある一定の温度で保持し,試料ステージを一定の速度(10 μm/s)で引き下げて,N2フロー中で引張試験を行った。
2・2 Al-Cu合金およびFe-C合金の固液共存体の圧縮変形のその場観察圧縮変形のその場観察用の実験装置は,過去の固液共存体のせん断変形のその場観察用の装置と同一である24,25,26,27,28,29,30)。Fe-2mass%C-1mass%Mn-0.5mass%Si(以下,2mass%C鋼)組成となるように秤量し,アーク溶解後,急冷して母合金を作製し,所望の大きさに切断および研磨を行った。Al-15mass%Cu組成の試料については,2・1節と同様の方法で作製した。その場観察に用いた圧縮変形用の試料セルの模式図をFig.2に示す。アルミナ板から成る鋳型は,実験中,常にアルミナ製ねじによって固定されており,その内部に試料が設置されている。試料の大きさは,Al-Cu合金の場合,4 mm角で,厚さ200 μm,Fe-C合金の場合,4 mm角で,厚さ150 μmである。両側からアルミナ板,BN板で挟み,アルミナ製ねじで固定されている。この観察セルを真空チャンバー内のカーボンヒータの炉内に設置し,チャンバー内を10 Pa以下に減圧した。固液共存状態まで昇温後,所望の固相率となるようにある一定の温度で保持し,試料下部からアルミナ板(Fig.2)を一定の移動速度(10または100 μm/s)で上昇させ,圧縮試験を行った。
Schematic of compressive deformation cell for semi solid alloys.
引張試験と圧縮試験のその場観察は,それぞれ,大型放射光施設SPring-8のビームラインBL20B2とBL20XUで行った。いずれのビームラインもイメージングを指向したビームラインである。X線エネルギーは,透過像における固相と液相のコントラストが最良となるように設定し,20B2,20XUでは,それぞれ18.0,21.0 keVとした。ビームライン20B2では,CMOS型カメラを用いた可視光変換型ビームモニタにより,露光時間およそ1 sでX線透過像を撮影した。観察視野は,およそ5 mm角であり,ピクセルサイズは,5 μm/pixelである。一方,ビームライン20XUでは,フレームレートの高いCMOS型カメラを用いた可視光変換型ビームモニタにより,1-100 fpsの速度でX線透過像を撮影した。観察視野は,およそ5 mm角であり,ピクセルサイズは,6.4 μm/pixelである。BL20B2とBL20XUのビームラインは,ほぼ同じピクセルサイズで,撮影が可能であるが,後者の方が,より高い時間分解能で撮影が可能である。
2・4 固液共存体の初期固相率の算出Al-Cu合金の引張変形と圧縮変形の場合,固液共存状態において,固相粒子の大きさ(平均90 μm)が試料の厚さ(200 μm)よりも小さいため,厚さ方向に2粒子分程度重なっている。そこで,X線透過強度を利用して,三次元空間で固相率を測定した。液相,固相,固液共存領域を通過したX線透過強度をそれぞれ,IL,IS,ISLとする。ある領域Dの固相率[gs]Dは,試料の厚さが一定であると仮定すると,次式で表される。詳細は,参考文献25に記載されている。
(1) |
一方,Fe-C合金の圧縮変形の場合,固液共存状態において,固相粒子の大きさと試料の厚さがほぼ同一であるため,二次元平面で固相率の算出を行った。X線透過像から,各固相粒子の輪郭を抽出して,固液界面を分離し,固相と液相の面積比から二次元の固相率fsを算出した。ここで,固相粒子とAl2O3板の間には液相が存在しており,真の固相率は二次元の固相率よりも低い。しかし,固相粒子径が試料厚さとほぼ同じであり,変形は面内で起こるため,二次元の固相率が変形の特徴を示す指標としては適当である。
2・5 固液共存体の引張変形における平均ひずみ固液共存体の変形では,固体に比べて力は試料全体に伝播するとは限らず,さらに不均一変形を起こす場合にはひずみの大きさは試料中の位置に依存する。そのため,試料長さとヘッドの移動距離から単純にひずみを定義することができない。そこで,本研究では,最終的に割れを発生させる不均一変形のスケールに比べて十分に大きいスケールで平均ひずみを定義し,局所的なひずみと区別した。
引張試験において,変形が局在化し,割れが形成する領域を挟む2点を設定し,2点間の距離の変化をフレーム毎に測定し,平均ひずみを評価した。平均のひずみεは,変形前の2点間距離をℓ0,変形後の2点間距離をℓとすると,下記の式で表される。
(2) |
また,平均ひずみ速度
(3) |
式(2),(3)で示されるように,平均ひずみは,2点間の設定に依存することになる。2点の設定については,3・1節で観察結果を用いて説明する。
2・6 局所ひずみ速度本研究では,透過像において鉛直方向の上向きをy軸,透過像の水平方向の右向きをx軸とした座標系で解析した。固相粒子の平均粒子径の約2倍の領域での透過像のパターンに注目し,フレーム間の透過像の相関から算出したパターンの移動速度を,それぞれの領域での固相粒子の平均速度と定義した。フレーム間の相関からパターンの移動速度を求める方法の詳細は,参考文献26に記載されている。
固相粒子の移動速度のx成分をux,y成分をuyとすると,引張・圧縮方向のひずみ速度ε22と引張・圧縮方向に平行な面内のせん断ひずみ速度ε12は,それぞれ次式で表される。
(4) |
(5) |
固相粒子に着目した質量保存則は,次式で表される。
(6) |
本実験において変形前の固相率はほぼ均一であり,
(7) |
となる。したがって,固相粒子の移動速度の発散は固相率の変化に対応し,発散が正であれば固相率が低下していることを表す。
2・7 割れなどの定義本稿において,固液共存体の割れは,凝固組織において力学的作用により固相間隙が粒径程度まで拡大し,周囲に比べて顕著に固相率が低い領域が粒子スケールで連続した組織と定義する。固相間隙が拡大した領域に液相が流入して間隙に液相が存在する割れを内部割れと呼び,凝固後には偏析帯となる。一方,試料内部で液相が流入せずに空洞が形成した場合にはポロシティと呼び,試料表面から内部まで空洞もしくはガスが侵入した開口部をもつ割れを外部割れと呼ぶ。ただし,本研究で観察した試料厚さは,Al-Cu合金の場合,200 μm,Fe-C合金の場合,150 μmである。液相の流動と空隙の形成は,試料サイズが影響していると考えられる。そのため,液相流動が関与する,内部割れ,外部割れを形成する条件には薄膜試料とバルク試料に差がある可能性があるが,固液共存体における固相粒子の運動と固相間隙の形成機構は同一である。
Al-10mass%Cu合金の試料の引張変形前のX線透過像をFig.3(a)に示す。輝度の高い灰色の領域が固相で,輝度の低い黒色の領域が液相である。また,組織内に点在している白い領域はアルミニウム酸化物である。引張変形前は,球形に近い固相粒子が均一に分散しており,平均粒子径(d)は約90 μmである。式(1)から算出した三次元固相率は,約60%である。引張変形時にFig.3(a)中の点線上の27個の固相粒子を抽出し,時刻t1=4 s,t2=12 s,t3=20 sの時のz位置とその変位をそれぞれ測定した。Fig.3(b)の縦軸は,Fig.3(a)の鉛直方向に対応しており,横軸は各粒子のz位置の変位である。不均一な変形が顕在化する前の4 sと12 sの変位に注目すると,上部では観察視野上端から300 μmまでの領域で,下部では3200 μm以下の領域で変位の変化が小さく,相対的な位置関係の変化は小さい。12 sと20 sの間に局所的な変形が支配的になり,300~3200 μm部分では変位が不連続になっているが,上部300 μm以上と下部3200 μm以下の領域は変位の変化は小さい。つまり,観察視野内において,引張開始直後からFig.3(a)中に示すA-B間の領域,つまり,固相粒子径に比べて32倍程度大きい領域が変形を担っている。固相粒子径と比較して,マクロスケールの不均一変形が変形開始とともに起こることを示している。
(a) Microstructure before tensile deformation of Al-10mass%Cu sample at gs ~ 60%. (b) Time dependences of z displacement of solid particles located in the dotted line.
2・5節で説明したように,平均ひずみは基準となる距離の定義に依存するので,本研究では,引張変形初期から変形を担った領域に対応するA-B間の距離を基準として平均のひずみを定義した。A-B間の距離は2.9 mmであり,引張り速度が10 μm/sであることから,変形開始時の平均ひずみ速度は3.45×10−3 s−1となる。一方,試料長さから評価した試料全体の平均ひずみ速度は2.50×10−4 s−1であり,平均ひずみ速度よりも約一桁小さい。実際に変形を担っている領域を基準にしたひずみを定義しているため,平均ひずみは試料長さから算出したひずみよりも大きくなる。
Fig.4はAl-10mass%Cu合金の引張変形過程のX線透過像と2・6節で求めた局所ひずみ速度ε22の二次元分布である。また,全体の変形量を表すために平均ひずみεも示しており,引張変形開始時の平均ひずみ速度は3.45×10−3 s−1である。Figs.4(b)と(f)は,それぞれ平均ひずみ0.005の透過像と局所ひずみ速度の分布を示している。引張変形の観察において,移動速度x成分uxはほぼゼロであり,移動速度y成分uyが支配的である。そのため,ひずみ速度テンソルの成分に比べて大きい値を示す局所ひずみ速度をε22と表示している。平均ひずみが0.005の時,観察領域の上部から1.1 mm付近にひずみ速度が高い線状の領域(以下,不均一変形帯と呼ぶ)が二つある。透過像によると,この不均一変形帯では20 μm程度,つまり,0.2粒子径程度の固相粒子間の間隙が形成されている。ただし,この不均一変形帯の初期組織は,他の領域に比べて固相粒子の間隙が広いといった不均一はマクロスケールで観察されていない。つまり,固相粒子の配置のわずかな差である粒子スケールでの不均一が不均一変形帯の形成に結びついている。変形開始からFig.4(b)まで,平均ひずみ速度ε22は3.40×10−3 s−1である。一方,二つの不均一変形帯の局所ひずみ速度ε22は2×10−2 s−1であり,この変形初期段階でも変形のほとんどは不均一変形帯が担っている。
(a-e) Tensile deformation of Al-10mass%Cu sample at gs ~ 60%. (f-i) Distributions of tensile strain rate (ε22) at ε=0.005, 0.010, 0.025, and 0.040.
Fig.4(c)に示す平均ひずみが0.010においても,2×10−2 s−1程度の局所ひずみ速度の高い線状の二つの不均一変形帯(Fig.4(g))が観察されるが,平均ひずみ0.005の時に比べて大きく下部に移動している。つまり,平均ひずみが0.005から0.010までの間(時間間隔は1.8 s)に,不均一変形帯が遷移したことを示している。
平均ひずみが0.025になると,Fig.4(h)に示すように上側の不均一変形帯の活動は停止し,下側の不均一変形のみが活動しており,不均一変形帯の集約が進んでいる。透過像(Fig.4(d))では,下側の変形帯での固相粒子間の間隙は50 μm程度になり,不均一変形帯に形成された固相粒子間の間隙が明瞭に観察される。平均ひずみが0.040になると,一つの変形帯のみが活動して固相粒子間の間隙も100 μm程度となり,内部割れが形成された(Figs.4(e),(i))。この時,局所ひずみ速度は,平均ひずみ速度の約10倍である5×10−2 s−1まで増加し,不均一変形が進行している。
引張試験では引張方向に対してほぼ垂直面内で固相粒子の間隙が拡大した割れが発生し,過去の固液共存体の引張試験において観察される割れと類似していた9,10,11)。単純な引張変形では引張方向に垂直な面で固相粒子間の間隙が拡大し,割れが形成される現象は,合金や引張条件によらず,一般性がある。
先に述べたように,固液共存体のせん断変形では,固相粒子が回転・並進運動する再配列により,せん断ひずみの局在化が起こり,割れや偏析の形成に繋がることが報告されている24,25,26,27,28,29,30)。本観察の引張変形でも鉛直方向から45°の面にせん断応力が作用している。せん断応力が最大となる面においても,固相粒子の再配列などの固相間の相互作用はなく,せん断面での不均一変形は観察されなかった。
以上の観察から,引張変形では次のような変形過程を経て,割れが発生した。
Stage1:試料下部の引き下げにより変形を開始した直後から平均ひずみが0.025までの間,長手方向の長さ40 mmの試料において,z方向に2.9 mm(32個の固相粒子径に相当)の領域(A-Bで挟まれる領域)で複数の不均一変形帯が活動して,試料の変形が起こる。不均一変形帯は引張方向に垂直な面内で生じた。また,複数の変形帯は引き下げた試料下部から離れた領域に形成された。
Stage2:複数の不均一変形帯が一つの不均一変形帯に集約されるが,この過程で不均一変形帯の移動も起こる。
Stage3:平均ひずみが0.040において,集約された不均一変形帯で変形が局在化し,引張応力に対して法線面に割れが発生する。
3・2 固液共存体の圧縮変形のその場観察 3・2・1 Al-Cu合金の圧縮変形Fig.5(a)に圧縮変形前のAl-15mass%Cu合金の試料のX線透過像を示す。圧縮変形前は,スポット状に輝度の低い領域(液相率が高い領域)が観察される以外,平均粒子径(d)が約90 μmの球形に近い固相粒子がほぼ均一に分散している。式(1)から算出した三次元固相率は,約55%である。圧縮試験では,Al2O3板の移動距離を固相粒子の平均粒子径(d)で規格化した。Al2O3板の5.6d移動後の透過像をFig.5(b)に示す。試料左右の下部のみが外側に膨らんでおり,試料の下端から約2.6 mm以上の領域では,試料の形状の変化は観察されなかった。つまり,Al2O3板を下部から5.6dだけ上昇させたとき,固相粒子を通して力が伝播した領域では圧縮方向に28固相粒子径分(28d)のみであり,引張変形の場合と比べて力の伝播範囲は限られていた。
Microstructures of Al-15mass%Cu sample (a) before and (b) after a 5.6d increment of the Al2O3 push-plate motion.
Fig.5(b)の実線枠内で示した領域では,試料下部の左右の角から斜めに中心に向かって低固相率の領域が形成されている。この領域では,変形過程中に固相間隙が拡大し,周囲から液相が流入することによって,6-8粒子分程度の幅を有したバンド状の低固相率の領域が観察された。バンド領域と圧縮面のなす角度は30°~45°であり,圧縮ではなくせん断によりバンド状の低固相率の領域が形成されたと考えられる。
試料の形状の変化が観察されたFig.5(a)中の点線枠内の領域において,固相粒子の運動を2・6節に示した方法で解析を行った。Al2O3板が0.6d,1.7d,5.6dの移動時の固相粒子の速度ベクトル(透過像の上に矢印で表示),局所的な圧縮を示す局所ひずみ速度ε22,局所的なせん断を示す局所ひずみ速度ε12,固相率の変化を表す固相速度の発散DivをFigs.6(a-c),(d-f),(g-i),(j-l)にそれぞれ示す。ただし,ひずみ速度の評価は,Al2O3板の変位が約0.2dとなる時間間隔で行った。
(a-c) Solid velocity vectors, (d-f) strain rates(ε22), (g-i) shear strain rates(ε12), (j-l) divergences of solid rate(Div) of Al-15mass%Cu sample after 0.6d, 1.7d, and 5.6d increments of Al2O3 push-plate.
Al2O3板が0.6d変位の時の固相粒子の運動(Fig.6(a))は,下部から1.4 mmの領域に限られる。変形を開始すると,圧縮力が作用する領域から内部に向けて圧縮変形が開始するが,Fig.6(d)に示すように圧縮方向に垂直な面に,局所的な圧縮を示す局所ひずみ速度の高い3本の不均一変形帯が生じていた。一方,局所的なせん断を示す局所ひずみ速度は,Fig.6(g)に示すように左側の下部を除いて正値と負値が混在した帯が3本存在し,変形は特定の領域で局所的に起こっている。また,せん断ひずみ速度の高い領域はわずかに上に凸の形状になっている。初期から不均一変形を起こす現象は,引張変形(3・1節)の観察結果と一致している。
固相粒子の速度ベクトルは,主に三つの領域に分けることができる。試料の中央付近では,圧縮方向への運動が支配的であるが,中心から左右外側に向かうにつれて,圧縮方向に対して,垂直方向の速度成分が大きくなり,Al2O3板の変位が増加するにつれて,その傾向は顕著である(Figs.6(b),(c))。この固相粒子の運動のパターンは,固相粒子同士の衝突および固相粒子の並進,回転運動による再配列の結果である。固相粒子を通して力が伝播する際に,接触する二つの粒子の重心位置は移動方向の直線上にないため,下方からの力は分散する。この現象は圧縮変形に対してみかけ体積が膨張することを示している。試料の左右の端では,それぞれ左方向,右方向への力が相対的に大きくなり,左右に拡大するように移動する。その結果,Fig.6(b)に示すような左右対称な三つの領域が形成された。固相粒子の速度の大きさは,試料下端から遠くなるにつれて,減少している。試料の形状の変化が観察された2.6 mm以上の領域では,Al2O3板を5.6d上昇させても固相間相互作用による力が伝播せず,固相粒子の運動はほとんど観察されなかった。
局所的なせん断を示す局所ひずみ速度の分布(Figs.6(g-i))では,固相粒子1粒子分以下の0.6dの変形の極初期において,局所的な変形を示す不均一変形帯は水平方向に広がる傾向があるが,Al2O3板の変位が大きくなるにつれて,試料の左側と右側では,せん断ひずみ速度ε12はそれぞれ正と負になっており,その大きさは中央部に比べて大きい。左右それぞれの領域において,試料下部の左右の角から斜めに中心に向かって,せん断ひずみ速度の高い領域が局在化(試料左側で赤の領域,試料右側では青の領域)していた。0.6d,5.6dのAl2O3板の変位での赤色の領域と青色の領域における平均のせん断ひずみ速度は,7×10−3 s−1,−5×10−3 s−1および7×10−3 s−1,−6×10−3 s−1であった。ここで,試料の圧縮方向の長さℓ0,Al2O3板の移動速度vとすると,試料全体のひずみ速度は,1×10−3 s−1(=v/ℓ0)となる。つまり,試料全体のひずみ速度より,約5-7倍大きい値であった。また,固相速度の発散(Figs.6(j-l))は,せん断ひずみ速度が局在化した領域で,固相率が低下(赤色)していた。ひずみ速度が局在化した領域と固相率が低下した領域が一致した領域をせん断帯と定義すると,6-8粒子分の範囲で圧縮面に対して30~60度の角度でせん断帯が形成された(Figs.6(k-l))。つまり,固液共存体の圧縮変形では,せん断応力が大きくなる領域において,せん断応力に対する不安定性により局所的に固相粒子の再配列が起こり,せん断ひずみの局在化によって,周囲より固相率が低いせん断帯が形成されることが明らかとなった。固相粒子の並進,回転運動によって,せん断ひずみ速度の局在化やせん断帯の形成は,中程度の固相率(三次元固相率:約40-60%),試料全体のひずみ速度が比較的小さい(10−3 s−1)条件下での固液共存体のせん断変形のその場観察における結果と同一である24,25,26,27,28,29,30)。
Al2O3板の変位が大きくなると,Fig.6(l)の点線で示すように,圧縮面に対して30°~45°の角度で周囲よりも低固相率のせん断帯が形成されるだけでなく,試料が左右に広がる側面近傍の領域においても固相率が低下した領域が形成され,Fig.5(b)の点線の枠内で示すように,透過像においても固相間隙の拡大が観察された。一般的に圧縮変形の場合,試料と接触している上下のパンチ(本研究ではAl2O3板)と試料との摩擦の影響のために試料は樽状となる。本条件の場合,上述したように固相間相互作用による力の伝播が試料上端まで伝わらなかったため,試料下部のみ樽状に近い変形となったが,固相の再配列によるみかけ体積の膨張により樽状の膨らみは,完全固相の連続体よりも大きく,試料の左右側面の周辺部には鉛直・水平方向のいずれも固相粒子間の間隙が拡大する。
3・2・2 Fe-C合金の圧縮変形金属材料の融液の粘性は,数mPa程度であり,合金系による差は小さい。また,Al-Cu系とFe-C系ではいずれも固相粒子が液膜状の液相により力学的に孤立した組織となる 24, 25, 26, 27, 28, 29, 30)。 そのため,固相粒子が液膜により孤立する合金系では,固液共存体の変形は類似している。ただし,上述したように,固相率が20~30%以上の固液共存体の変形挙動は,固相の力学特性よりも固相粒子の形態や固相率などの初期組織やひずみ速度などに強く依存する。そこで,3・2・1節で示した球形に近い固相粒子が分散したAl-Cu合金の場合と比較できる,ポリゴン状固相粒子の形態を有するFe-C合金において,同様の固液共存体の圧縮試験を行った。
2mass%C鋼の試料(二次元固相率73%)の圧縮変形前のX線透過像をFig.7(a)に示す。輝度の高い灰色の領域が液相で,輝度の低い黒色の領域が固相である。固相粒子の平均結晶粒子径は,約120 μmであり,ポリゴン状の形態である。ここで,粒子形態を評価するためにShape factor(F)を用いた。
(8) |
Microstructures of Fe-2mass%C-1mass%Mn-0.5mass%Si sample at fs ~ 73%. (a) before and (b) after a 3.3d increment of the push-plate motion. (c) The displacement field during 0.5d increment, where each vector is the displacement of one globule.
ここでAは粒子の面積,Uは粒子の周囲長であり,球の場合(透過像では円)ではFは1となる。式(8)より,Al-Cu合金(3・2・1節)およびFe-C合金のShape factorはそれぞれ約0.87,0.78であり,Fe-C系の方がより球から逸脱した形状である。試料全体のひずみ速度は,試料の圧縮方向の長さℓ0,Al2O3板の移動速度vから,2×10−2 s−1(=v/ℓ0)である。Al2O3板の3.3d変位後のX線透過像をFig.7(b)に示す。試料中央付近の黒い直線の模様は,試料を挟んでいるAl2O3板に入射したX線がブラッグの反射条件を満たして回折し,その領域の透過X線が低下した領域であり,組織の変化とは無関係である。Al2O3板の変位の増加に伴い,上下のAl2O3板とAl2O3板と接触している試料との摩擦力により,試料の左右両側の中央部分が優先的に外側に膨らみ,試料全体が樽状に変形した。樽状の変形と同時に,試料下部の左右の角から圧縮面に対して40°~50°の角度で中心に向かって固相率の低い領域や外部割れがバンド状に形成された。また,Al-Cu合金の場合(3・2・1節)と同様に,バンド状の低固相率の領域や割れの形成だけでなく,試料が左右に拡大して変形する側面の近傍においても低固相率の領域や空隙が形成された。
Al2O3板が2.8dから3.3dに変位した時の131個の固相粒子の移動ベクトルの分布をFig.7(c)に示す。固相粒子の移動方向は,Al-Cu合金の場合(Fig.6(b))と領域の形状は異なるが,白い点線で示すように,三つの領域に分けられる。上下のAl2O3板の近傍と試料の中央部分では,固相粒子は,圧縮方向への並進運動が支配的である。一方,中心から左右外側に向かうにつれて,圧縮方向に対して垂直方向の成分が大きくなり,移動方向が変化していた。Fig.7(b)中の白色の点線枠内における低固相率の領域の形成過程のスナップショットをFigs.8(a)−(c)に示す。Figs.8(d)−(f)は,Figs.8(a)−(c)と同一で画像処理後の図(液相を白で表す)である。Al2O3板の挿入距離の増大(2.2dから4.4d)に伴い,固相粒子同士の衝突および固相粒子の並進,回転運動を伴う固相粒子の再配列によって,固相間隙が拡大した。この時,周囲から液相が流入することによって,周囲より固相率の低いバンド状の領域が形成された。Al2O3板の挿入距離の増大につれて,固相間隙がさらに拡大すると,液相圧力の低下によって,気相が内部へと侵入し,最終的に外部割れが形成された(Fig.7(b))。また,固相粒子は,ポリゴン状の形態であるが,変形過程において固相粒子そのものの塑性変形は観察されなかった。
(a-c) Compressive deformation of Fe-C sample at fs ~ 73% every 1.1 d displacement. (d-f) The dilation of solid particle assembly, where liquid regions between solid particles are defined as white.
次に,Fig.8の領域を含む,Fig.7(b)中の直線枠内の領域において,Al2O3板が2.8dから3.3dへ変位した時の固相粒子の運動を2・6節に示した方法で解析を行った。Fig.9(a)にAl2O3板の3.3d変位後のX線透過像を示す。また,固相粒子の速度ベクトルの分布をFig.9(b)に示す。Fig.7(c)で示したように,試料の角から圧縮面に対して40°~50°の角度の方向では,固相粒子の移動方向が圧縮方向に対して,垂直方向への移動成分が大きくなっている。この固相粒子の運動のパターンは,固相粒子同士の衝突および固相粒子の並進,回転運動による再配列(Fig.8)の結果である。局所的なせん断を示す局所ひずみ速度ε12と固相率の変化を示す固相粒子の速度の発散Divの分布をFigs.9(c),(d)にそれぞれ示す。せん断ひずみ速度が高くなっている領域(赤の領域)がバンド状に局在化した。平均のせん断ひずみ速度は,1×10−1 s−1であり,試料全体のひずみ速度より,約10倍大きい値であった。また,せん断ひずみ速度が局在化した領域内で,固相率の低下(赤の領域)を示した。すなわち,Al-Cu合金の場合と同様に,固液共存体の圧縮変形では,せん断応力が生じるせん断面において,約9粒子分の幅のせん断帯や割れが形成されることが明らかとなった。
(a) Microstructure of semi-solid Fe-C sample fs ~ 73% after 3.3d increment of Al2O3 push-plate. (b) Solid velocity vector. (c) Shear strain rate. (d) Divergence of solid rate in a 0.5d increment of the push-plate motion.
Al-Cu合金とFe-C合金の両者において,圧縮変形によって,せん断面で割れが形成されたが,マクロな試料形状の変化に違いが観察された。この原因として,固相粒子の運動の違いが挙げられる。Al-Cu合金の場合,Fig.6で示したように試料下部から圧縮方向に2/3までの範囲しか固相粒子の移動は観察されなかった。Shape factor(F)においても示したように,Al-Cu合金の固相粒子は,Fe-C合金に比べて,球形に近い形態である。そのため,固相粒子が並進・回転運動する際に,周囲の固相粒子との接触は小さくなり,Fe-C合金に比べて力学的作用は,長距離に作用しない。また,Fe-C合金の固相粒子は,厚さ方向に一粒子分のみしか存在しないため,変形は二次元的である。Al-Cu合金の場合,固相粒子は,厚さ方向に2粒子分以上存在するため,固相粒子間の相互作用による力が厚さ方向にも分散し,Fe-C合金と比べて圧縮方向への力学的作用の伝播距離は短くなると考えられる。
3・3 固液共存体の引張および圧縮変形の特徴と違い三次元固相率60%,球形に近い固相粒子が分散したAl-Cu合金の固液共存体の引張変形(変形開始時の平均ひずみ速度3.45×10−3 s−1)では,せん断応力が最大となる45度方向には,割れは形成せず,引張応力に対して垂直面内でのみ割れが形成された(3・1節)。一方,三次元固相率55%,球形に近い固相粒子が分散したAl-Cu合金の固液共存体の圧縮変形(試料全体のひずみ速度1×10−3 s−1)では,せん断応力が最大となる鉛直方向から約45度に近い方向で割れが形成された(3・2・1,3・2・2節)。両者の初期組織およびひずみ速度は,ほぼ同一であるため,割れの形成機構の違いの原因として,引張変形と圧縮変形における固相粒子間の力の伝播モードの違いが挙げられる。Figs.10(a),(b)に固液共存体の引張および圧縮変形の際の固相粒子の運動と液相流動の模式図をそれぞれ示す。二つの固相粒子が重心を結んだ線上で引っ張られる場合(Fig.10(a)),固相粒子間には直接力が伝播することはない。拡大する固相間の間隙に液相が流入するため,間隙の圧力が低下する。また,液相が間隙に流入する場合には液相の粘性により固相粒子には間隙を拡大させない方向に力は作用する。複雑な形状をした固相粒子では間隙が拡大するときにも固相粒子間に直接的に力が働くが,固相粒子に作用する力は,間隙の液相圧力の低下に伴う圧力勾配による力と液相の流動による粘性による力が支配的である。一方,二つの固相粒子が重心を結んだ線上で圧縮される場合(Fig.10(b)),固相粒子は物理的に接触し,力が伝播する。固相粒子の移動にともなう液相流動により,圧力勾配による力と粘性による力も作用するが,物理的に接触した固相粒子間に作用する力が支配的になる。そのため,固液共存体では,引張変形と圧縮変形では,力が伝播する因子が異なり,変形の形態にも違いが起こったと考えられる。その結果,固液共存体の変形において,いずれも変形に対する不安定性が存在し,前者では,最大法線応力となる垂直面で間隙が拡大し,後者では,最大せん断応力となる鉛直から45度傾いた面において間隙が拡大し,割れが形成された。
Schematic of solid motions and fluid flow in tensile and compressive deformations.
引張変形と圧縮変形のいずれにおいても,固液共存体の変形は不均一であるが,割れの変形機構が異なることが明らかになった。鋳片の変形を考える上で変形機構の違いを考える必要がある。Fig.11は,連続鋳造法において鉛直方向に鋳込まれた鋳片の移動方向が水平方向に変化する模式図である。曲げの前半は外側で引張変形,内側で圧縮変形が起きるが,曲げの後半では逆転する。つまり,鋳片を一旦曲げてもとに戻す変形では,引張変形と圧縮変形のいずれも起こる。先に述べた引張変形では引張方向に垂直な面で割れが発生し,圧縮では圧縮方向に対して45度の面で割れが生じることになる。この考え方が正しければ,割れが生じた面を三次元で把握できれば,引張変形時,あるいは,圧縮変形時のいずれかで割れが発生したか,同定できることになる。
Schematic of curved part of continues casting.
本研究では,時間分解X線イメージングを利用して,Al-Cu合金の固液共存体の引張変形と圧縮変形のその場観察を行い,粒子スケールでの変形挙動,割れの形成機構について調べ,変形モードによるそれらの違いについて議論した。また,固相粒子形態の異なるFe-C合金の圧縮変形のその場観察も行い,Al-Cu合金との変形挙動の違いについても調べた。
(1)三次元固相率60%,球形に近い固相粒子が分散したAl-Cu合金の固液共存体の引張変形(変形開始時の平均ひずみ速度3.45×10−3 s−1)では,平均ひずみが0.025までの間,引張方向に対して垂直面内で,複数の不均一変形帯が活動し,試料の変形が起こった。平均ひずみが0.040になると,集約された不均一変形帯において,変形が局在化し,引張方向に対して法線面で割れが発生した。この時,局所ひずみ速度は,平均ひずみ速度の約10倍の5×10−2 s−1まで増加した。
(2)三次元固相率55%,球形に近い固相粒子が分散したAl-Cu合金の固液共存体の圧縮変形(試料全体のひずみ速度1×10−3 s−1)および二次元固相率73%,ポリゴン状の固相粒子が分散したFe-C合金の固液共存体の圧縮変形(試料全体のひずみ速度2×10−2 s−1)において,せん断応力が最大となる圧縮面に対して45°に近い角度において,バンド状に周囲より低固相率のせん断帯や割れが形成された。この時,せん断領域では,固相間の相互作用による固相粒子の再配列によって,せん断ひずみ速度の局在化が起こり,その大きさは,試料全体のひずみ速度より一桁近い高い値を示した。ポリゴン状の固相粒子のFe-C合金の方が,固相間相互作用による力の伝播が長距離まで伝播しており,Al-Cu合金とのマクロな試料形状の違いが観察された。
(3)固液共存体の引張変形と圧縮変形では,いずれも不均一変形を示すが,割れの形成機構が異なる原因は,固相粒子間の力の伝播モードの違いが挙げられる。圧縮変形では,引張変形と同様に,液相流動により,圧力勾配による力と粘性による力も作用するが,物理的に接触した固相粒子間に作用する力が支配的である。
本研究は,SPring-8 のBL20B2およびBL20B2にて実施した一般研究課題(課題番号:2014B1090,2015A1318,2015B1055,2016B1084)のビームタイムを使用した。また,科学研究費補助金基盤研究(B)(課題番号:16H04546),基盤研究(S)(課題番号:24226018)の成果を含んでいる。これらの助成に対して深く感謝いたします。