Tetsu-to-Hagane
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Numerical Analysis of Centrifugal Separation Behavior during Centrifugal Casting Using Particle Method
Naoya HirataKoichi Anzai
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2017 Volume 103 Issue 12 Pages 771-779

Details
Synopsis:

Centrifugal force is applied to a molten metal during a centrifugal casting process. Therefore, grains of primary solidified phase, inclusions or other additional agents are separated if centrifugal force is strong. The centrifugally separated structure is strongly influenced by a relationship between solidification rate of castings and centrifugal separation speed. However, it is difficult to observe or measure what happens in the process because the process is carried out under high temperatures and the material is usually opaque. Therefore, we tried to observe the centrifugal separation behavior during the centrifugal casting process by using 2-phase flow simulation based on MPS (Moving Particle Semi-implicit) method which is one of particle methods. We simulated centrifugal separation behaviors in the process and investigated an influence of density difference between the phases, particle size, viscosity and rotation speed. As a result, the centrifugal separation behavior was well simulated by the particle method, and also well evaluated by Stokes’s law by considering an influence of an apparent viscosity increase caused by an error included in the MPS method.

1. 緒言

遠心鋳造品に見られる欠陥には,ラミネーション偏析や,鋳物内面(回転中心側)から外面(鋳型側)にかけての意図しない組織傾斜が挙げられる。前者は主に固液共存域における,初晶と残存液相の回転方向のせん断流れ挙動に起因すると考えられている1,2)。このせん断流れ挙動は鋳物内側の溶湯表面の揺らぎに影響を受けるため,鋳型の回転数を上げて遠心力を強くすることで,ラミネーション偏析の低減が可能であるとされている3,4,5)。一方で,後者は主に鋳物の外面から内面に向かう指向性凝固中の溶質再分配や,密度の異なる相の遠心分離が原因と考えられている6)。遠心分離を抑制するためには遠心力を弱める,凝固中に密度差が生じない物質を用いるなどの方法が考えられるが,遠心力を弱めると上記ラミネーション偏析の可能性が高くなり,また密度差が生じない物質を用いようとすると,利用可能な材料が限られる。近年,この組織傾斜を積極的に利用し,複合材としてSiC等を添加して遠心分離させることで,傾斜機能材料として利用するための研究も行われている。しかし,その組織分布を制御するためには凝固速度と遠心分離速度のバランスを精度良く予測する必要があり,実用に際しては課題が多い7)

遠心鋳造は高温かつ不透明なプロセスなため,実機における溶湯内部挙動のその場観察は困難なことから,水や透明有機物を用いた可視化実験が行われることが多い3,4,5)。一方で,実際の鋳物に近い物性値を用いた場合の挙動を予測するために,コンピュータを用いた数値解析によるアプローチも試みられている8,9,10)。なかでも多相・多領域問題の移動現象解析に適する手法として,ラグランジュ系解析手法の一種である粒子法が注目されている11)。粒子法によれば,遠心鋳造における複雑な複合現象の同時かつ容易な解析が期待できる。著者らは前報12,13)にて,粒子法により遠心力と重力が遠心鋳造時の流動・伝熱挙動に及ぼす影響,そして溶湯中のせん断流れ挙動を良く表現できることを明らかにした。しかし,多相およびその密度差を考慮してはいないため,遠心分離挙動解析への適用性については明らかになっていない。そこで本研究では粒子法により密度差のある2相流解析を行い,遠心鋳造時の溶湯中の遠心分離挙動解析への適用性を明らかにすることを目的とした。

2. 数値解析手法

本研究では前報12,13)に引き続き粒子法の一種であるMPS(Moving Particle Semi-implicit)11)法を採用した。主となるプログラムは前報とほぼ同様なので,本報においてはその特徴を概説し,改良した部分のみ詳述する。

2・1 流動解析手法12,14)

本研究において用いる非圧縮性流れ解析の支配方程式は,次式で表される連続の式およびNavier-Stokesの式である。   

DρDt=0,DuDt=1ρp+ν2u+f(1)

ここでρは密度[kg/m3],tは時間[s],uは速度[m/s],tは時間[s],pは圧力[Pa],νは動粘性係数[m2/s],fはその他の外力[m/s2](重力などの体積力)で,次元は加速度である。式(1)において左辺のD/Dtはラグランジュ微分で,そのまま時間微分に相当する。MPS法では,式(1)を要素間相互作用モデルを用いて離散化し,半陰解法である予測子・修正子法を適用することで流動解析を行う。また,遠心鋳造は溶湯が激しく衝突するため,湯流れ解析の安定化が必須である。本研究では安定化手法として,著者らが提案した速度の補正および粒子間のポテンシャル力14)を用いた。安定化に用いた計算条件は前報12)と同様である。

2・2 遠心加速度の考慮

流動解析において,異なる流体を混合した場合の密度差による対流を考慮するための手法として,一般にはBoussinesq近似15)を用いる。Boussinesq近似では,注目する流体の密度差をNavier-Stokesの式の重力項にのみ適用し,他の項では一定の基準密度(通常は母相のもの)を用いる。しかし,Boussinesq近似は重力項に密度差を考慮するモデルであるため,重力と遠心力が同じ方向に働く鋳型下部では本来の遠心分離作用が働くが,鋳型上部のように重力と遠心力の方向が逆方向となる場合,浮力・沈降力が重力とは逆方向に働く。結果として,Boussinesq近似を慣性座標系による遠心鋳造解析に適用した場合,全体的には密度差の影響は相殺され,遠心分離挙動が見られなくなることがわかった。遠心分離挙動を再現するためには,遠心力に対しても密度差の影響を考慮できるモデルを用いる必要がある。回転座標系によれば,回転中心から放射状に作用する遠心加速度項が導出され,遠心分離のための密度差の影響を容易に扱えることが期待できるが,回転軸を定義する必要があるなど,汎用性は低下する。そこで,本研究では汎用性を考慮し,慣性座標系において遠心分離を扱える手法を提案することにした。

遠心鋳造における流動解析では,予測子における仮の速度は回転の接線方向を向いているため,仮の位置の計算では鋳物外側に移動する。しかし,外面が鋳型で拘束されているため,修正子において連続の式を満たすように内側へ速度・位置が修正される。このときの修正に係る加速度が遠心加速度である。隣接する流体に密度差があり,同じ遠心加速度がかかっている場合,本来は密度の大きな物質が密度の小さな物体を押しのけて,より外面に移動しようとする力,すなわち慣性力の差により遠心分離する。本研究では,この修正子における速度・位置修正時の密度差の影響について,流体の種類に応じて異なる密度を圧力項に適用することで考慮することにした。

具体的な手順としては,まず予測子において重力項以外は基準密度を用いて圧力分布を算出する。得られた圧力分布下で,修正子により密度差を考慮した位置・速度の修正を行う。従来のモデルからの変更は,修正子の圧力項の分母を基準密度から各流体の密度に変更するのみである。

2・3 解析モデル

本研究では,前報12,13)と同様に鋳型の回転軸が重力方向に対して直角となる横型遠心鋳造を対象とし,解析は回転軸に対し直角となる2次元平面で行った。Fig.1に要素代表長さがr0=1.0 mmの場合の初期要素配置を示す。重力gは鉛直下方に働くとする(|g|=g=9.8 m/s2)。内径dmold=0.1 mの鋳型要素を時計回りに一定の回転数で回転させ,幅0.012 mの湯口から溶湯要素を1.0 m/sにて0.3 s流入させた。この場合,鋳型内の空隙に対する溶湯の充填率は約50%で,溶湯の厚みは0.014~0.015 m程度となる。溶湯要素は,流入口の左側から流体A,右側から流体Bを5:1の割合で流入させた。鋳型−溶湯要素間は非すべり条件とした。本研究では流体Aを母相とみなし,流体Bの密度を変化させることで遠心分離挙動を観察した。本来,遠心鋳造における遠心分離の解析においては,母相中に浮遊する介在物等や等軸晶の,固体としての挙動を取り扱うべきであるが,本研究においては単純のため,いずれの流体にも前節までに述べた粒子法による流動解析を適用し,流体種類の違いの影響は密度に関する項のみ考慮することとした。

Fig. 1.

 Calculation model.

計算に用いた物性値および解析条件をTable 1およびTable 2に示す。本研究では,まず流体A,B間の密度差が大きい場合(Δρ=10%),要素代表長さが中程度(r0=1.0 mm),粘性が低い場合(ν=10−5 m2/s),および十分にパイプ形成が可能な遠心力が得られる回転数として500 rpmの場合を基準条件とした。そして,要素代表長さをr0=2.0,1.0,0.5 mmの3通り,流体の密度差をΔρ=0,1,5,10%の4通り,動粘性係数を低粘性の場合(ν=10−5 m2/s)と高粘性の場合(ν=10−4 m2/s)の2通り,そして鋳型の回転数を通常の回転数(500 rpm)および高回転数(750 rpm)の2通りと変化させ,それぞれの条件が遠心分離挙動に及ぼす影響を調べた。

Table 1. Material properties.
Fluid AFluid B
Density [kg/m3]70007000 (Δρ = 0%)
6930 (Δρ = 1%)
6650 (Δρ = 5%)
6300 (Δρ = 10%)
Kinematic viscosity [m2/s]1.0 × 10–51.0 × 10–5
1.0 × 10–41.0 × 10–4
Table 2. Calculation conditions.
ParametersValues
Particle size [r0/mm]0.5, 1.0, 2.0
Rotation speed [rpm]500, 750

まず,流入開始時から密度差を考慮した場合には,遠心力によりパイプが形成・安定するまでの2.0 s間に,流体A,Bがほぼ分離することがわかった。パイプが安定するまでは,溶湯内面において自由表面のゆらぎや表面要素の分離・合流などが生じる上,これらが溶湯内部へも影響するため極めて複雑な流れとなる。そこで,本研究では単純のため,パイプ形状が安定するまでの2.0 s間は密度差をつけずに事前解析を行い,その後に所定の密度差等をつけた本解析を実行することにした。

3. 遠心分離挙動の観察

3・1 パイプ形成・安定までの挙動

まずは事前解析における,流入開始から遠心力により形成したパイプが安定するまでの2.0 s間の様子をFig.2に示す。流体は低粘性,要素代表長さは1.0 mm,回転数は500 rpmとし,流体A,B間の密度差は考慮していない場合の結果である。流体Aを灰色要素,鋳壁最内層,流入口および流体Bを黒色要素で表示した。

Fig. 2.

 Inflow and pipe formation behavior.

Fig.2(a)は流入開始直後の0.1 sの様子である。Fig.2(b)は流入開始から1.0 s経過後の様子である。溶湯要素が遠心力により鋳型内面に張り付き,概ねパイプは形成しているが,まだ中央の空間で飛散している要素が見られる。Fig.2(c)は2.0 s経過後で,中央の空間で飛散する粒子もなく,安定したパイプが形成していることがわかる。流体Bの半径方向分布をみると,2.0 s時点で母相である流体A内に概ね均一に分散しており,その後もほとんど変化しなかった。

3・2 遠心分離過程の観察

次に,本解析における遠心分離挙動の様子をFig.3に示す。Fig.3(a)~(e)は基準条件である密度差がΔρ=10%,要素代表長さがr0=1.0 mm,低粘性(ν=10−5 m2/s),および500 rpmの場合の結果である。鋳型の左下部分を拡大表示してあり,流体A要素を小さな白丸,鋳壁最内層と流体Bの要素を黒丸で表示してある。Fig.3(a)は事前解析直後(流入開始から2.0 s後)であり,Fig.2(c)と同一の結果である。今後はこの状態を開始時刻とした,本解析の経過時間で表示する。Fig.3(b)~(e)は流体A,B間に10%の密度差をつけてから0.2,0.5,1.0,3.0 s後の様子である。Fig.3(b)の0.2 s後ではほとんど変化は見られないが,Fig.3(c)の0.5 sでは表面付近に黒い流体B要素が集まり始めている様子が明らかに見て取れる。Fig.3(d)より,1.0 s後は0.5 s後に対し大きな変化は見られないが,3.0 s経過後のFig.3(e)では,大部分の流体Bが表面に集まっていることがわかる。

Fig. 3.

 Redistribution behavior of fluid B.

なお,ほぼすべての条件において,表面に次いで多くの流体B要素が分布したのは鋳壁付近である。これは,MPS法のアルゴリズムに起因する要素の再配列挙動によるものと考えられ,遠心力が強く働く最外周部分において最密充填状態に配列しようとする力が働くためと考えられる13)Fig.3(f)は,パイプ形成後流体A,B間の密度差をつけずに3.0 s間(予備解析を含めて5.0 s間)解析した場合の結果であり,Fig.3(a)と比較すると流体Bがより均一に分散しており,遠心分離は全く生じていないことがわかる。なお流体A,Bの間に密度差をつけた場合でも,Navier-Stokesの式の圧力項に基準密度のみを用いた場合は,Fig.3(f)とほぼ同様に遠心分離挙動は観察できなかった。

4. 解析条件が遠心分離挙動に及ぼす影響

横型遠心鋳造では重力の影響で溶湯が半径方向に振動することが知られている3,12)。これは重力の影響による溶湯の速度変化によるものと考えられている。流れが重力により加速する時は遠心力が増加し,パイプ厚みが減少する。一方減速する時は遠心力も減少し,パイプ厚みは増加する。このパイプ厚みの変動は鋳型の回転周期に同期しており,ある要素に注目すると半径方向に振動しているように見える。遠心分離挙動はこのような振動と同時に進行するが,個々の要素の挙動を追跡すると複雑になるため,本研究では流体Bの半径方向度数分布と,半径方向の平均位置および速度から,遠心分離挙動を論じることにした。

4・1 要素サイズの影響

まず,基準条件(Δρ=10%,r0=1.0 mm,ν=10−5 m2/s,500 rpm)に対し,要素サイズr0を変化させた場合の遠心分離挙動に及ぼす影響の解析結果を示す。

Fig.4は流体Bの半径方向度数分布の時間変化を示しており,時間は本解析の経過時間である。横軸は回転中心からの距離r[mm]である。半径方向に1 mmごとに領域を分割し,それぞれの領域における流体Bの要素数の,全流体B要素数に対する割合をプロットした。0.034 m付近が溶湯表面,0.050 mが鋳型−鋳物界面である。Fig.4(a)は要素サイズが大きいr0=2.0 mmの場合,(b)は基準となるr0=1.0 mmの場合,(c)は要素サイズが小さいr0=0.5 mmの場合の結果である。まず基準となるFig.4(b)より,予備解析後の度数分布(0.00 s)について,溶湯表面から鋳型内面までほぼ一定の割合で流体Bが分布していることがわかる。時間が経過するにつれ,分布が溶湯表面に向かって移動した。また,Fig.3(b)のように単純な可視化図では0.2 s時に遠心分離挙動をほとんど把握できなかったが,度数分布によれば捕捉可能なことがわかった。一方,要素サイズが大きい場合は,Fig.4(a)より分布の時間・空間的な変動が激しく,遠心分離挙動を明確にとらえることができない。これは要素サイズに対して,度数分布の領域の幅が狭いことも原因と考えられるが,0.80 s,1.00 s,3.00 sでピーク強度が逆転していることから,解析精度が低いことも原因と考えられる。Fig.4(c)より,要素サイズを小さくすると,分布の時間・空間的変化が滑らかになり,遠心分離挙動も明確になった。

Fig. 4.

 Alteration of fluid B distribution: Influence of particle size, Δρ=10%, ν=10–5 m2/s, 500 rpm. (Online version in color.)

次に,流体Bの要素の平均位置と,平均速度の半径方向成分の時間変化をFig.5に示す。Fig.5(a)は流体Bの要素の平均位置の時間変化を示しており,0.0 sから0.6 sまでは0.1 s刻み,以降は0.8 s,1.0 s,3.0 sにおける値をプロットしている。大きな要素サイズの場合,基準および小さな要素サイズの場合と比較するとわずかに鋳物外側に位置し,0.6 s程度まではほぼ同じ速度で回転中心方向に移動するが,その後の移動は遅くなった。基準および小さな要素サイズの場合は位置・速度ともにほぼ同様の時間変化を見せていたが,3.0 s後は小さな要素サイズのほうがより回転中心側まで移動していた。これはFig.4(b)および(c)の度数分布に見られる傾向と同様である。

Fig. 5.

 Alteration of average position and velocity of fluid B particles: Influence of particle size,r0. Δρ: 10%, ν=10–5 m2/s, 500 rpm.

Fig.5(b)は,Fig.5(a)の各プロットから算出した半径方向平均速度の時間変化である。個々の要素の速度から平均値を算出すると,前述の再配列挙動により時間変動が多く見られるため,ここではFig.5(a)の平均位置の時間変化から平均速度を算出することにした。0.1 s以降について,ひとつ前の時間からの平均位置の移動距離を移動時間で除した値を,その時間の流体B要素の平均速度として算出した。たとえば0.1 sには,0.0 sから0.1 s間の移動距離から算出した速度をプロットし,1.0 sには0.8 sから0.2 s間の速度をプロットしてある。回転中心方向が正である。要素サイズが大きい場合は平均速度が激しく上下した。一方基準および小さな要素サイズの場合は,0.6 s付近までは基準要素サイズのほうが速く,それ以降は小さな要素サイズのほうが速かった。Fig.5(a)からはその移動速度の違いは明確に見て取れなかったが,Fig.5(b)より基準および小さな要素サイズの場合の平均移動速度は,最大約1.7倍程度異なることがわかった。

ここで,粒子法における要素サイズが遠心分離挙動に及ぼす影響について考えてみる。一般に,重力や遠心力が働く中で,浮力は母相中に存在する物体の体積に比例する。   

Fb=ρfVf(2)

ここでFbは浮力の大きさ(N),ρf(kg/m3)は母相密度,V(m3)は母相中の物体の体積,f(m/s2)は重力や遠心加速度の大きさである。粒子法における要素サイズが式(2)のVに相当すると仮定すると,要素サイズを小さくすると分離は遅くなり,分布の偏りも弱いはずである。しかし,Fig.4(b)と(c)を比べると,要素サイズが小さい場合は1.0 sまでの分離は遅いものの,その後も分離は進行しており,小さな要素サイズの場合は3.0 s経過後の分離は基準サイズに比べ明確になっている。また,要素サイズが大きい場合のFig.4(a)では流体Bの遠心分離挙動が見られるものの,その分布は滑らかではなく,分離速度等を議論できる精度は得られていない。これらの結果から,現在のところ,要素サイズによる遠心分離傾向の違いは,主として流動解析そのものの精度の違いによると考えられる。流体Bが凝集しクラスタ化することでみかけの体積が増加した可能性もあり,また本研究では界面張力等の影響も無視しているため,要素サイズの影響を明らかにするには,個々の要素の挙動を考慮したさらなる検討が必要である。

計算速度については,本研究における解析モデルでは概ね要素サイズの3乗に反比例した。これは2次元解析であるため,要素数は要素サイズの2乗に反比例し,またクーラン条件において時間増分は要素間距離に比例し,これがほぼ要素サイズに比例するためと考えられる。

以上より,本研究における解析モデルの場合,r0=2.0 mmとすると遠心分離挙動を論じるには精度が不足しており,r0=0.5 mmとするとr0=1.0 mmの場合に比べ約8倍の計算時間を要する。よって,以後は計算速度と精度のバランスを考慮し,要素サイズr0=1.0 mmを用いることとした。

4・2 密度差の影響

続いて,基準条件(Δρ=10%,r0=1.0 mm,ν=10−5 m2/s,500 rpm)に対し,密度差Δρを変化させた場合の結果を示す。

Fig.6は流体Bの半径方向度数分布の時間変化である。Fig.6(a)は密度差をつけなかった場合の結果で,分布に変化はほとんど見られなかった。3.0 s後のグラフはFig.3(f)の可視化結果に対応する。Fig.6(b)は密度差を1%つけた場合で,わずかに回転中心側に分布が移動している様子が見て取れる。Fig.6(c)および(d)は密度差が5%,10%の場合であり,密度差が大きくなるほど遠心分離速度や分布の偏りが大きくなることがわかる。なおFig.6(d)Fig.4(b)と同一のグラフである。

Fig. 6.

 Alteration of fluid B distribution: Influence of density difference of fluids, r0=0.5 mm, ν=10–5 m2/s, 500 rpm. (Online version in color.)

次に,流体Bの要素の平均位置と,平均速度の半径方向成分の時間変化をFig.7に示す。Fig.7(a)より,流体B要素の平均位置の移動は,明確に密度差に依存することがわかる。密度差が1%の場合,Fig.6(b)の分布と同様にわずかに回転中心側に移動する様子が見て取れる。Fig.7(b)より,平均速度の半径方向成分も密度差に依存しており,概ね比例関係にあると考えられる。密度差1%の場合は,平均速度が時間とともに上下に揺らぎ,負の速度(鋳型側への移動)となる場合も見られた。一方,密度差が大きくなるにつれ上下の揺らぎが減少し,一様に速度低下していくようになることから,これは解析の精度の問題よりは,前述のパイプ厚みの時間変動に伴う溶湯内部の半径方向の揺らぎと,密度差による浮力のバランスに起因するものと考えられる。

Fig. 7.

 Alteration of average position and velocity of fluid B particles: Influence of density difference of fluids, Δρ. r0.=1.0 mm, ν=10–5 m2/s, 500 rpm.

4・3 粘性の影響

次に,基準条件(Δρ=10%,r0=1.0 mm,ν=10−5 m2/s,500 rpm)に対し,溶湯の粘性νと密度差Δρを変化させた場合の結果を示す。ここでは,予備解析は同一の条件で解析(Δρ=0%,ν=10−5 m2/s)し,その後の本解析において,粘性および密度差を変化させて解析を行った。本解析において,粘性は流体AおよびBに同一の値を用いた。

Fig.8は溶湯要素の粘性を高くした場合の,流体Bの半径方向度数分布の時間変化である。Fig.8(a)~(c)は流体A,B間の密度差を1,5,10%とした場合の結果である。傾向としては基準の粘性の時と同様であるが,分布の変化速度は遅く,偏りも小さくなった。

Fig. 8.

 Alteration of fluid B distribution: Influence of density difference of fluids with higher viscosity, r0=1.0 mm, ν=10–4 m2/s, 500 rpm. (Online version in color.)

特徴をより詳細に観察するため,基準条件に対し粘性のみを変化させた場合の流体Bの要素の平均位置と,平均速度の半径方向成分の時間変化をFig.9に示す。Fig.9(a)の平均位置の時間変化より,いずれの場合も時間とともに平均位置は回転中央方向に移動していくが,流体の粘性が高い方がその速度が遅いことがわかる。Fig.9(b)より,その速度差は最大で約3倍程度であることがわかった。

Fig. 9.

 Alteration of average position and velocity of fluid B particles: Influence of viscosity of fluids, ν. r0.=1.0 mm, Δρ: 10%, 500 rpm.

4・4 回転数の影響

最後に,基準条件(Δρ=10%,r0=1.0 mm,ν=10−5 m2/s,500 rpm)に対し,鋳型回転数を変化させた場合の結果を示す。

Fig.10は鋳型回転数を750 rpmと高くした場合の,流体Bの半径方向度数分布の時間変化である。回転数が500 rpmの場合(Fig.4(b)もしくはFig.6(d))と比較すると,3.0 s時点の分布の形状はあまり違いが見られないが,1.0 sまでの分布の時間変化をみると,750 rpmのほうが速やかに分布が移動していることがわかる。流体Bの平均位置と,平均速度の半径方向成分の時間変化をFig.11に示す。平均位置の時間変化からは回転数の影響がわかりにくいが,速度変化をみると,分離初期において顕著に違いがみられ,その差はおよそ1.5倍であった。

Fig. 10.

 Alteration of fluid B distribution under high rotation speed, 750 rpm. r0=0.5 mm, Δρ: 10%, ν=10–5 m2/s. (Online version in color.)

Fig. 11.

 Alteration of average position and velocity of fluid B particles: Influence of rotation speed, 750 rpm. r0.=1.0 mm, Δρ: 10%, ν=10–5 m2/s.

4・5 遠心分離速度に影響を及ぼす因子

本研究で用いた解析モデル(以下,本モデルとする)では,本解析において密度差を考慮してから0.1 sの間に遠心分離が開始し,また多くの条件において1.0 s程度で多くの流体B要素が鋳物内側(表面)に向かって分離することがわかった。その間,表面に到達した流体B要素はそれ以上回転中心方向には移動しないため,速度はほぼゼロとみなせる。従って,流体B全体の平均位置・速度は時間とともに低下していく。そこで,本節では最初期(密度差を考慮してから0.1 s間)の平均速度に注目し,各因子の影響度を考察することとした。

遠心分離時の密度差による浮上・沈降の速度を見積もる式として,式(3)に示すStokesの式がよく知られている。   

vs=α(ρpρf)d218μ(3)

ここでvsは終端速度(m/s),αは遠心加速度(m/s2),ρpは粒子密度(kg/m3),ρfは母相密度(kg/m3),dは粒子径(m),μは母相粘度(Pa・s)である。またα=2=r(2πN60)2であり,rは粒子の回転半径(m),ωは回転角速度(rad/s),Nは回転数(rpm)である。これは遠心力下において小さな粒子が流体中を浮上・沈降する際の終端速度を表す式のため,本研究における解析モデルのように2相の液体が揺らぐ中の非定常的な遠心分離速度を定量的に議論することはできないが,主要な影響因子は同様であると考えられる。そこで,式(3)により得られる速度を代表速度とみなし,本研究における解析結果と比較することで,各因子の影響度を考察することにした。

まず式(3)より,終端速度は密度差に比例,粘性に反比例し,また回転数と粒子径の2乗に比例することがわかる。

4・1節の結果から,粒子法における要素サイズの影響は,第1に解析精度に表れると考えられ,遠心分離速度への影響については現段階では不明である。粒子法における遠心分離挙動の物理的意味も現段階では不明確なため,今後さらなる検討が必要である。

4・2節より,遠心分離時の流体Bの平均速度の半径方向成分は概ね密度差に比例することから,式(3)における終端速度と同様の影響度であることがわかる。

4・3節より,本モデルでは,粘性を10倍としたとき平均速度の低下は1/3程度であった。式(3)と比べるとその低下量は小さいが,この主な原因は基準の粘性を用いた場合の粘性流動解析精度にあると考えられる。粒子法における要素は空間的に振動することが多く,見かけの粘性増加として作用することが知られている14)。これは流体の粘性が低いときほどより顕著に見られるため,今回の結果では基準の粘性(低粘性)を用いた場合の平均速度が本来よりも遅かった可能性が考えられる。

4・4節より,本モデルでは,回転数を1.5倍としたとき速度も約1.5倍となった。式(3)では速度の2乗に比例するため,遠心力の影響が小さかったことがわかる。これも粘性の影響と同様に,粒子法における流動解析精度が主たる原因と考えられる。3・2節に述べたように,MPS法のアルゴリズムに起因する要素の再配列挙動13)によるもので,この挙動は要素の振動として現れる。再配列挙動は遠心力が強いほど激しくなるため,結果として生じる見かけの粘性の増加も大きくなったと考えられる。

最後に,終端速度と本モデルにおける移動速度を比較しておく。基準条件を参考にd=r0=0.001(m),r=0.05(m),N=500(rpm),μ=νρ=10−5×7000=0.07(Pa・s)とすると,密度差が1,5,10%のときの終端速度はvs=0.008,0.038,0.076(m/s)となり,本モデルにおける平均速度よりも1桁大きい。これは溶湯表面に到着した流体B要素も含めた全体の平均速度と比較しているためであり,溶湯内部を観察すれば概ね妥当な速度となることが期待できる。しかし,前述のように溶湯内部は重力の影響で半径方向に振動しているため,現段階では信頼性を十分に確保できる結果として整理することはできなかったため,今後の課題としたい。

5. 結論

粒子法を用いて密度差を考慮した2相流動解析を行い,遠心鋳造時の遠心分離挙動解析に対する適用性の検討を行った。要素サイズ,密度差,粘性,回転数の影響を解析することで,以下の知見を得た。

・Navier-Stokesの式において,重力項と圧力項に密度差を考慮することで,遠心分離挙動を解析することができた。

・遠心分離速度はStokesの式により算出される終端速度に概ね対応すると考えられるが,低粘性時や高回転数時は粒子法のアルゴリズムに起因する見かけの粘性の影響を強く受け,本来よりも分離速度が低下する可能性がある。これは粒子法による流動解析の精度に依存するため,より高精度な手法を用いることで改善可能と思われる。

・解析要素サイズは主として流動解析精度に影響し,観察時に不要な振動が生じないよう,十分小さな要素を用いる必要がある。

・粒子法における要素と,Stokesの式における粒子の対応は現段階では不明である。粒子法による遠心分離挙動の物理的意味も含め,今後詳細な検討が必要である。

文献
 
© 2017 The Iron and Steel Institute of Japan

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