Tetsu-to-Hagane
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Heat Recovery Process from Packed Bed of Hot Slag Plates
Nobuyuki ShigakiHiroyuki ToboSumito OzawaYasutaka TaKazuma Hagiwara
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2017 Volume 103 Issue 2 Pages 111-118

Details
Synopsis:

Reduction of CO2 emissions from the steelmaking process is strongly required for prevention of global warming. One promising heat resource that is estimated to have great potential for energy saving is the waste heat of steelmaking slag, which has a temperature of above 1 673 K in the molten state. This molten slag can be solidified in a plate-like shape by feeding it on the surface of water-cooled rolls, and the heat of the plate-like slag can be recovered easily in spite of its low heat conductivity. When these hot slag plates are packed in a slag chamber, the heat of the slag can be recovered by heat exchange with a counter current gas flow. Because the efficiency of gas-slag heat transfer changes depending on the shape of the packed slag, it is difficult to estimate the efficiency of slag heat recovery without evaluating the accuracy of the heat transfer coefficient in the bed. In this work, the effect of the slag shape on the accuracy of the heat transfer equation was evaluated by conducting both laboratory-scale and pilot-scale slag heat recovery experiments and performing a fitting analysis by using a slag packed bed heat transfer simulation model. A comparison of the experimental results and calculation results confirmed that the heat transfer coefficient can be estimated by using Johnson-Rubesin’s equation modified by a correction factor in case the packed materials are plate-like. The effect of the correction factor on the efficiency of slag heat recovery at the industrial scale was also estimated.

1. 緒言

鉄鋼業界からの炭酸ガス排出量は国内全炭酸ガス排出量の約15%と主要な割合を占めており,製造プロセスにおける炭酸ガス排出量の更なる削減が求められている。そのような中,日本の高炉メーカーでは,製鉄所から発生するCO2の削減技術の開発を目標としてNEDOプロジェクト「環境調和型製鉄プロセス技術開発(COURSE50)」に取り組んでいる1,2)。COURSE50プロジェクトにおいて,CO2分離に必要な熱エネルギーを供給するための製鉄所内の未利用排熱回収も主要な開発課題の一つである。製鉄所の現状プロセスにて未使用かつ回収可能な未利用排熱のうち,特に溶融スラグの保有熱は,他の未利用排熱と比べて,温度,熱量共に高く,有望な熱源である。このスラグからの熱回収に関して,従来,風砕法3,4,5,6)や機械式アトマイズ法7,8,9,10)など,様々な熱回収方式が試みられてきた11,12)。しかしながら,溶融スラグは温度および組成による粘度の変化など物性値変化が大きく,工業スケールでは上手く運用出来ていない。また,凝固スラグの熱伝導率は,コークスなど他の材料の熱伝導率よりも小さいため,凝固スラグ充填層からの熱回収効率は,コークス乾式消火設備(CDQ)のような既存の熱回収装置と比べて小さくなる。このスラグからの熱回収に関して,近年,水冷式の双ロールによりスラグを連続的に板状に凝固成形する方法が開発されている13)。ロール上で凝固成形されたスラグの板厚は小さく,スラグの熱伝導率の小ささに起因したスラグ表面温度低下の影響を抑制出来るため,熱回収効率の向上が期待できる。しかしながら, このような板状凝固スラグは,CDQにおけるコークスや高炉における焼結鉱のような塊状物質を充填する従来の充填層に対して充填物形状が異なるため,充填層内の伝熱挙動が明らかでない。充填層方式の熱回収自体は様々な工業プロセスにおいて用いられており,その特性について実験および計算による評価が行われてきた。その結果,充填層内におけるガスと固体充填物との熱伝達は,充填物の形状により大きく影響を受けることが明らかになっている14,15,16,17,18)。今回,このような板状スラグからの熱回収に関して,スラグ熱回収ラボ実験結果から得られる熱回収ガス温度履歴と,スラグ充填層伝熱シミュレーション結果から得られる熱回収ガス温度履歴とを比較することにより,スラグ充填層内の熱伝達係数予測式の精度検証およびスラグ形状が熱伝達係数に与える影響についての評価を行った。また,本プロセスの実証試験としてパイロット設備を建設し,実際のスラグを用いた試験においても同様に熱回収可能である事を実証すると共に,その効率評価を行った。

2. スラグ熱回収実験

2・1 スラグ熱回収ラボ実験

最初に,板状凝固スラグを用いたラボスケールでのスラグ熱回収実験を実施した19)Fig.1に板状凝固スラグの作製方法および加熱方法,Fig.2に板状スラグからの熱回収実験方法をそれぞれ示す。先ず,高周波溶解炉内の黒鉛るつぼ中でスラグを溶解した後,Fig.1のように鋳型上で板状に凝固させた。凝固スラグ板厚は,金属ローラーで平坦化させることで7 mmに調製した。この板状凝固スラグを破砕およびサイズ分けして平面寸法30~50 mmの板状スラグサンプル20 kgを作製した。この板状スラグサンプルを鉄製容器に入れた状態で加熱炉にて温度T0[K]まで再加熱した後,Fig.2に示す内径Φ300 mmの円筒形の熱回収装置に装入し,下部多孔板より空気を流量V[L/min]で送風して熱回収を行った。再加熱スラグ装入時のスラグ温度低下を防止するため,前記加熱炉は熱回収装置の直近に設置し,加熱炉から取り出し後1 min以内に熱回収装置にスラグを装入して熱回収を行った。Table 1に本実験の実験条件を示す。実験はスラグ再加熱温度T0および空気流量Vをそれぞれ変化させて実施した。

Fig. 1.

 Laboratory-scale slag heat recovery experiment (slag casting, sizing, and reheating processes).

Fig. 2.

 Laboratory-scale slag heat recovery experiment (slag heat recovery chamber).

Table 1.  Experimental conditions.
Slag weight
M [kg]
Slag reheating temperature
T0 [K]
Gas flow rate
V [L/min]
Case 1 20 823 60
Case 2 20 823 200
Case 3 20 1273 200

2・2 スラグ熱回収パイロット試験

次に,上記スラグ熱回収プロセスの実証試験のため,充填層内径を上記ラボ熱回収設備の約6.5倍にスケールアップしたパイロット試験を実施した20,21)。本パイロット設備の工程図をFig.3に示す。本設備は,熱回収のための高温凝固スラグを供給するFig.3左側の双ロール式スラグ連続凝固パイロット設備(以下,双ロール設備)と,高温凝固スラグを受け入れて熱回収を行うFig.3右側のスラグ熱回収パイロット設備(以下,スラグ熱回収設備)の両設備から構成される。双ロール設備の外観写真をFig.4に,設備仕様をTable 2に示す。本設備は,近接した状態で外向きに回転する2つの水冷ロール,溶融スラグを水冷ロール上に最大2 t/minの流量で供給するためのスラグ鍋傾転装置,および水冷ロール上で凝固された板状スラグを搬送するコンベアから構成される。本実験の対象スラグはクロム鉱石溶融還元炉スラグとした。スラグ鍋傾転装置は,工場から搬出される溶融スラグ運搬鍋を搭載でき,油圧シリンダーで鍋傾転角度の増加量を高精度に制御できる。スラグ熱回収設備の外観写真をFig.5に,設備仕様をTable 2に示す。本設備は,双ロール設備のスラグ搬送コンベア末端から供給される温度1273 K以上の高温の板状スラグを,スライド式シュートを用いて熱回収試験用に一部採取し,熱間破砕機にて破砕を行う。スラグが板状で搬送中に温度低下し易いため,温度低下防止のため破砕後スラグをバケットエレベーターで熱回収設備へ連続搬送する。熱回収設備内にスラグを装入後,スラグ充填層下部からブロワ2基で送風を行いスラグの熱を回収する。今回建設したパイロット設備はボイラ等の熱利用設備は設けていないため,回収ガスは温度履歴等の測定後に散水スプレーで冷却し,サイクロンで除塵して放散する。Table 3にパイロット試験条件を示す。パイロット試験はCaseAとCaseBの計2回実施した。双ロール設備の鍋傾転速度は,双ロール設備のスラグ供給量が約1.0 t/minになるよう調整した。冷却ロール回転速度は,凝固スラグが安定的に巻き上がる10 rpmに設定した。スラグ熱回収設備のスラグ採取量はスライド式シュートで調整して,1.7 tおよび4.8 tの2条件にて実施した。送風量は最大7200 Nm3/hとした。

Fig. 3.

 Process drawing of Slag heat recovery plant.

Fig. 4.

 Twin-roll plant.

Fig. 5.

 Slag heat recovery plant.

Table 2.  Specifications of pilot plants.
Equipment Specifications
Twin-roll plant Cooling roll Dimensions Φ1.6 m × W1.5 m
Number of rolls 2
Material Cu
Rotation speed Max.20 rpm
Cooling water flow rate 125-130 m3/h/roll
Ladle tilting machine Tilting speed Max.6.5°/min
Load Max.140 t
Conveyer Dimensions W1.3 m × L14.5 m
Lifting height 5.5 m
Speed 25 m/min
Material SUS304
Slag heat recovery plant Crusher Capacity 1.0 t/min
Bucket elevator Transport capacity
(Slag charging rate)
1.0 t/min
Heat recovery chamber Chamber size L1.5 m × W2.0 m × H2.5 m
Capacity Max.6 t
Blower Gas flow rate Max.6000 Nm3/h
Motor 75 kW
Number of blowers 2
Cyclone Size Φ2.2 m × H7.5 m
Table 3.  Operating conditions of slag heat recovery pilot test.
Case A Case B
Twin-roll plant Ladle tilt machine Tilt speed [mm/s] 0.8 1.0
Cooling roll Rotation speed [rpm] 10 10
Slag heat recovery plant Amount of slag charged [t] 1.7 4.8
Gas flow rate [Nm3/h] 6000 7200

3. 実験結果

3・1 スラグ熱回収ラボ実験結果

Fig.6に,Table 1の実験条件で行ったスラグ熱回収ラボ実験にて得られた熱回収ガス温度履歴を示す。Case1に対してガス流量を増やしたCase2では熱回収初期のピーク温度が上昇すると共に,ピーク後の温度降下が大きくなっている。グラフの温度ピーク位置が初期温度立ち上がり位置から右側にずれているのは,測定開始直後の回収ガスと装置内壁との接触による温度低下の影響である。ガス流量が増加すると充填層内のガス滞留時間が短くなるが,Fig.6の結果ではガス流量の大きいCase2の方が回収ガス温度が増加している。充填層内のガス−スラグ熱伝達係数はガス流量が大きくなると増加するため,スラグからの熱伝達量が増加した事によると考えられる。スラグ再加熱温度の高いCase3では,熱回収ガス温度はCase2よりも高く,スラグ温度差による伝熱量の差を示している。

Fig. 6.

 Temperature profile of hot air obtained in slag heat recovery experiments.

3・2 スラグ熱回収パイロット試験結果

パイロット試験の実施状況をFig.7およびFig.8に示す。Fig.7は双ロール設備のコンベア末端から落下する板状凝固スラグをスライド式シュートで採取した直後に熱間破砕している状況である。熱間破砕された板状凝固スラグは,Fig.7の左側に位置するバケットエレベーターのスラグ装入口へ直送される。Fig.8は,スラグ熱回収設備の内部観察用の監視カメラ画像であり,破砕後のスラグが高温状態のままで熱回収設備内へ装入されている。スラグ装入口近傍に設置した赤外線サーモグラフィーを用いて測定したスラグ装入温度は約1373 Kであった。Fig.9は本パイロット試験におけるスラグ充填高さである。パイロット試験で得られた熱回収ガス温度履歴をFig.10に示す。熱回収ガス温度はスラグ充填量に応じて上昇しており,スラグ充填量の多いCaseBにおける熱回収ガス最大温度は989 Kであった。熱回収ガス保有熱量のうち413 K以上の熱量を利用可能な有効熱量とした際の熱回収率は43%(対,溶融スラグ熱量)であった。スラグが板状であるため送風量が増加すると充填層の流動化が懸念されるが,当該試験条件では充填層の流動化は生じなかった。Fig.11は熱回収後スラグの写真であり,その形状から熱回収中にスラグが圧壊せずに板形状を保持していたことが分かる。代表サンプルを用いて測定したスラグ平均板厚Tは7 mmであった。Fig.12は,Fig.11の熱回収後スラグ60 kgをJIS標準篩分法にて粒度分布測定した結果である。結果より,充填物の大半は凝固スラグ平均板厚以上のサイズで破砕されており,平均板厚未満サイズの微粒分は少なかった。当該スラグは板状であり,破砕時に板厚を分割する方向への割れは起こり難いため,Fig.11の横軸は破砕粒子の平面寸法Lと見なせる。以下式(1)に,粒子サイズdpと流動化開始ガス流速Umfとの関係を示す。Umfは粒子形状係数φによって変化するが,スラグ形状を近似的に寸法T×L×L[mm]の平板として,φを体積形状係数,dpをL×L面を円近似した換算直径とすると,式(1)より,UmfはLに依存せずTのみに依存する。Umfは板厚7 mmの当該板状スラグで約10 m/sとなる。今回実施したパイロット試験での最大ガス流速は2.4 m/sでUmfより小さいため,熱回収中のスラグ充填層の流動化を抑制出来たものと推測される。   

U mf = ϕ 2 d p 2 ( ρ s ρ g ) g 1650 μ g = π 2 T 2 ( ρ s ρ g ) g 26400 μ g [ ϕ = V d p 3 V = TL 2 d p = 2 L π 1 / 2 ] (1)

φ:粒子形状係数

dp:粒子サイズ[m]

ρs:粒子密度[kg/m3]

ρg:ガス密度[kg/m3]

g:重力加速度[m2/s]

μg:ガス粘度[Pa・s]

Fig. 7.

 Appearance of hot slag plates crushed before charging into chamber.

Fig. 8.

 Hot slag plates being charged into chamber.

Fig. 9.

 Level of charged slag in chamber.

Fig. 10.

 Temperature profile of hot air.

Fig. 11.

 Appearance of slag plates discharged after heat recovery.

Fig. 12.

 Distribution of slag particle size measured after heat recovery.

4. 考察

4・1 スラグ充填層伝熱モデル

スラグ充填層から熱回収を行う際のガス温度履歴および充填層内ガス温度分布を計算するため,スラグ充填層伝熱モデルを作成した。Fig.13にモデル概要図を示す。本モデルは,スラグ充填層内を高さz方向に1次元モデル化し,Δz幅で分割したメッシュ内でスラグ粒子とガスとの熱交換量を計算する。当該メッシュ内のスラグ粒子の有効伝熱面積は,スラグ形状,充填層空隙率,スラグ嵩比重等の入力値から計算される。スラグ表面のガス−スラグ熱伝達係数およびスラグ粒子内温度分布は,何れもスラグ充填層モデルから独立したスラグ単一粒子伝熱モデルを用いて計算している。スラグ単一粒子伝熱モデルは,スラグ形状が球状か板状かによって以下式(2)または式(3)の熱伝導方程式を選択的に用いる。ガスとスラグ表面との熱伝達は以下式(4)であり,式中の表面熱伝達係数hsはスラグ形状に応じて後述する式により計算する。スラグ充填層表面からの輻射放熱については,Fig.13の破線矢印のように1次元化した外壁に平均的に着熱する形で近似した。当該モデルは定常計算と非定常計算の2種類を実行可能とした。前者は,スラグ装入・排出量やガス送風量などの操業条件が一定で充填層温度分布が時間変化しない定常運転状態であり,後者は,上記操業条件が変動して充填層温度分布が時間変化する非定常運転状態である。バッチ操業である先述のスラグ熱回収ラボ実験およびパイロット試験は,スラグ装入量および排出量を0とした非定常計算にてガス温度履歴を求める。一方,実機設備の設計においては,操業条件を一定とした定常計算にてガス温度履歴を求める。   

( ρ s H s ) t = r 2 r ( r 2 Γ s H s r ) (2)
  
( ρ s H s ) t = r ( Γ s H s r ) (3)
  
Q s g = h s ( T s T g ) (4)

Hs:スラグ比エンタルピー[J/kg]

Γs:ks/Cs

Cs:スラグ比熱[J/kgK]

ρs:スラグ密度[kg/m3]

ks:スラグ熱伝導率[W/mK]

Ts:スラグ表面温度[K]

Tg:ガス温度[K]

t:時間[s]

r:粒子深さ方向距離[m]

Qs-g:スラグからガスへの熱流[W/m2]

hs:スラグ表面の熱伝達係数[W/m2K]

Fig. 13.

 Schematic diagram of model for calculation of heat recovery in slag packed bed.

4・2 スラグ熱回収ラボ実験結果および熱伝達係数予測式の精度検証

上記スラグ充填層伝熱モデルにおいて,充填するスラグの形状が,スラグ充填層内のスラグ粒子表面におけるガス−スラグ熱伝達係数hsに与える影響を評価するため,下記式(5)のRanz-Marshall式22)(以下R-M式)および下記式(6)のJohnson-Rubesin式23)(以下J-R式)の両式をそれぞれ用いた。R-M式は,CDQにおけるコークスや高炉における焼結鉱のように,球状粒子に近似出来る充填物の充填層内伝熱計算のために一般的に用いられている。J-R式は,板状物質の表面における強制対流伝熱の計算のために用いられる。各式における補正係数αβは,充填層内の粒子充填状態および粒度分布の影響を補正する係数である。R-M式は,単一粒子の際にα=1となるが,例えば高炉内の伝熱計算ではαは0.2程度の値となる24)。本報ではJ-R式においてもR-M式と同様に補正係数βを与えた式を用いた。   

h s = α k g D p ( 2.0 + 0.6 Pr 1 / 3 Re 1 / 2 ) Pr = C g μ k g Re = D p V g ν (5)
  
h s = β k g L m ( 0.037 Pr 1 / 3 Re 4 / 5 ) Pr = C g μ k g Re = L m V g ν (6)

Cg:ガス比熱[J/kgK]

kg:ガス熱伝導率[W/mK]

Vg:ガス流速[m/s]

μ:ガス粘度[Pa・s]

ν:ガス動粘度[m2/s]

Dp:粒子平均径(R-M equation)

Lm:粒子平均辺長(J-R equation)

αβ:補正係数(単一粒子:α=1.0,無限平板:β=1.0)

上記両式はレイノルズ数Reに掛かる指数が異なり,J-R式の指数の方が1.0に近いため,Reに対してより線形に近い形でhsが変化する。Reはガス流速Vgに比例するため,Vgを変化させた実験結果に対して上記スラグ充填層伝熱モデル計算結果をフィッティングした際のVg変化に対するαおよびβの安定性は,上記熱伝達係数予測式における予測精度を表す。Vgは入側ガス流量に依存する。また,スラグ温度Tが変化すると熱回収ガスの体積膨張量が変化するため,Vgはスラグ温度Tにも依存する。よって,VgおよびTを変化させたTable 1の条件にてスラグ熱回収ラボ実験を実施した。また,ラボ実験と同条件でのスラグ充填層伝熱モデル計算を行い,得られた熱回収ガス温度履歴の計算値がラボ実験で実測した熱回収ガス温度履歴と一致するαおよびβをそれぞれ求め,VgおよびTの変化に対するαおよびβの安定性を比較した。本実験はFig.14に示すようなバッチ運転であるため,ガス温度履歴の計算は非定常計算にて実施した。充填粒子寸法は,J-R式では7×30×30 mm,R-M式では前記寸法の板状粒子と表面積および体積が等しい球形粒子の換算直径に近似して計算した。Fig.15~Fig.17に結果を示す。Fig.15およびFig.16は,Table 1の各条件で熱回収実験を行った際の熱回収ガス温度履歴の実測値と,各実測値に対して熱回収ガス温度履歴の計算結果が合致するように,R-M式のαおよびJ-R式のβをフィッティングした計算結果とをそれぞれ併記したものである。Fig.17は,Case1のαβ値(α1,β1)を基準値1とした際のαβの変化率である。図の結果より,R-M式のαよりもJ-R式のβの方が,変化率が小さく,安定性が高い。従って,本実験のように充填スラグが板状である際のスラグ充填層内熱伝達係数hsはJ-R式の方が高精度である。最も高い温度で実験したCase3におけるβ値は0.25であった。この値は無限平板上での値1.0に比べて小さく,R-M式におけるα値と同様の傾向を示した。

Fig. 14.

 Operating conditions of slag heat recovery experiment for calculation.

Fig. 15.

 Results of α fitting analysis (R-M equation).

Fig. 16.

 Results of β fitting analysis (J-R equation).

Fig. 17.

 Comparison of stability of values of α and β.

4・3 スラグ熱回収パイロット実験での熱伝達係数予測式の精度確認

Fig.18に,パイロット試験CaseBで得られた熱回収ガス温度履歴の実測値と,J-R式を用いたスラグ充填層伝熱モデル計算結果との比較を示す。計算条件はTable 4に示す。熱伝達係数式の補正係数βは0.25~0.42の範囲で変化させて計算を行った。本パイロット設備は,ラボ熱回収実験装置に比べてガス温度測定箇所までの空塔領域が長く,熱回収ガスの温度が装置内壁影響により変化し易い。装置内壁への蓄熱量は,内壁材料の熱容量および装置内壁に外側から設置した熱電対の温度変化より求めることが出来る。よって,Fig.18では,当該内壁への蓄熱量をガス温度変動分として補正した熱回収ガス温度履歴計算結果を,ガス温度履歴の実測値と比較した。Fig.18の結果より,計算で求めた熱回収ガス温度履歴のカーブ形状は実測値と概ね一致している。補正係数βは,本パイロット試験では0.42で熱回収ガスのピーク温度が計算結果と一致した。β値がラボ実験結果より大きい理由としては,ラボ製作スラグと双ロール設備で製作したスラグとの形状差や充填状況の差による影響が考えられる。パイロット設備でも先述のラボ実験結果と同様にβが1.0より低い値となっており,板状スラグ充填層の特徴として熱伝達係数が無限平板上での値よりも小さくなることが分かった。

Fig. 18.

 Comparison of measured and calculated gas temperature.

Table 4.  Conditions of slag heat recovery calculations.
Calculation method Transient
Calculation time [min] 80
Chamber cross section [m2] 3
Slag weight [t] 4.8
Slag temperature [K] 1373
Slag bed porosity 0.55
Slag bed bulk density [t/m3] 1.0
Gas flow rate [Nm3/h] 7200
J-R eq. Correction value β 0.25, 0.33, 0.42

4・4 補正係数βと実機スケール設備のスラグ熱回収効率との相関

次に,熱伝達係数の補正係数βが,実機スケールのスラグ熱回収設備の熱回収効率に与える影響について,上記スラグ充填層伝熱モデルを用いた計算により評価を行った。本計算は,実機スケール操業を想定して,スラグ装入・排出量および送風量が一定でスラグ充填層温度分布の変動が無い定常計算にて実施した。Fig.19に計算前提とした操業条件を示す。操業条件として,スラグ装入量および排出量60 t/h,スラグ装入温度1373 K,充填層内径Φ2.5 m×充填層高さH(3 m,6 m),充填層空隙率0.55,熱回収ガス流量40,000 Nm3/h(温度973 Kでのガス空塔速度8.0 m/s)とした。装置外壁からのヒートロスは10 kW/m2一定値とした。Fig.20およびFig.21に計算結果を示す。熱回収率ηβ値の低下に伴い減少する。スラグ充填高さが3 mであるFig.20では,βが1から0.2に低下した際の熱回収率は48%から33%に減少している。また,β値の低下に伴い,熱回収ガス温度は減少し,熱回収下部スラグ排出温度は増加する。これらは何れもガスとスラグとの熱交換効率の低下によるものである。即ち,スラグ装入量60 t/hと充填層寸法から決まるスラグ滞留時間内に十分な熱回収ができず,スラグが高温で排出されるため熱回収率が低下する。スラグ排出温度を下げて熱回収率ηを増加させるためには,充填スラグが充填圧により圧壊しない範囲で充填層高さを増加してスラグ滞留時間を増加する方法が有効である。スラグ充填層高さを3 mから6 mに増加したFig.21の結果では,Fig.20の結果に比べてスラグ排出温度が低下して熱回収率が増加している。特にβが小さい図の左側での増加率が大きく,全体としてβ値の変化に対してスラグ処理能力の変動が小さくなっている。

Fig. 19.

 Operating conditions of actual slag heat recovery plant for calculation.

Fig. 20.

 β sensitivity analysis for slag heat recovery system (height of packed bed: 3.0 m).

Fig. 21.

 β sensitivity analysis for slag heat recovery system (height of packed bed: 6.0 m).

5. 結言

本報では,板状凝固スラグ充填層内の熱伝達挙動について,ラボ実験,パイロット試験,および新規作成したスラグ充填層伝熱モデルを用いたシミュレーションにより評価を行った。板状凝固スラグ充填層内におけるガス−スラグ熱伝達係数はJohnson-Rubesin式に補正係数βを掛けた式で予測可能である。当該補正係数βは,充填層内においては無限平板上での値1.0より小さい値となる。また,実際のスラグを用いたパイロット試験を実施し,パイロットスケールでも同様の結果が得られた。当該補正係数は,実機スケール設備における熱回収効率に影響し,補正係数の低下に伴い熱回収後スラグ排出温度が増加して熱回収率が低下する。実機スケール設備設計時は,スラグ充填層高さを増加することで当該補正係数値による影響が軽減され,より安定な操業が可能である。

本成果は,国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託業務の「環境調和型製鉄プロセス技術開発(COURSE50)」の開発テーマの1つとして実施した研究の結果得られたものです。

文献
 
© 2017 The Iron and Steel Institute of Japan

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https://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/4.0/
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