Tetsu-to-Hagane
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Quantitative Analysis of Mineral Phases in Sinter Ore by Rietveld Method
Toru TakayamaReiko MuraoMasao Kimura
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2017 Volume 103 Issue 6 Pages 397-406

Details
Synopsis:

Quantification techniques of mineral phases in iron ore sinter has been developed by using Rietveld analysis of X-ray diffraction patterns and applied to iron ore sinters made by the sinter pot test in a laboratory. Rietveld refinements successfully determined phase fractions and structural parameters in co-existing phases such as hematite (α-Fe2O3), magnetite (Fe3O4), multi-component calcium-ferrites (SFCA: Ca2 (Ca, Fe, Al)6 (Fe, Al, Si)6O20 and SFCA-I: Ca2(Ca, Fe)3 (Ca, Fe, Al)8 (Fe, Al)8 O20) and other minor phases.

It was found that strength of iron ore sinter was correlated with quantity of magnetite, and not with quantity of calcium-ferrites. And the lattice constants of calcium-ferrites were different among the specimens obtained from different positions within the sinter.

Rietveld analysis was shown to be a straightforward and high-throughput technique for quantification of mineral phases in the iron ore sinter and the obtained crystallographic parameters can be used as a useful indicator to investigate the sinter reaction.

1. 緒言

高炉装入する鉄源の約70%以上を占める高炉用焼結鉱は鉄鋼業において重要な材料である。しかし,近年の著しい鉱石資源劣質化の影響により,焼結鉱品質の悪化が懸念されている。鉱石原料の変化が焼結鉱品質に与える影響を正確に見積もるためには,その品質に大きな影響を与える焼結鉱組織を定量的に解析する必要があり,その評価技術が求められている。

焼結鉱組織は短時間・非平衡の焼結反応によって生成するカルシウムフェライト系融液が周囲の鉄鉱石核粒子に相互拡散しながら広がり,冷却することで形成される。主要相としてヘマタイト(α-Fe2O3),マグネタイト(Fe3O4),カルシウムフェライト,シリケートスラグが存在し,気孔と共に複雑に分布して,焼結鉱品質(強度,被還元性,還元粉化性等)発現の要因となる。特に,カルシウムフェライト系融液から生成し,鉄鉱石核粒子を融着する役割を担うカルシウムフェライトは,焼結鉱の品質や生成反応挙動の解明に重要とされ,その生成機構について多くの研究が実施されている1,2,3,4,5,6,7,8)

焼結鉱中のカルシウムフェライトは,Hancartら1)により,Silico-Ferrite of Calcium and Aluminum(SFCA)というシリカやアルミナ等の脈石成分を固溶する多成分系の連続固溶体であると報告された。その後,Inoue and Ikedaの研究によって,SFCAはパイロキシン層とスピネル層が交互に積層した結晶構造であることが解明された2)。また,Hamiltonら3)は単結晶構造解析によって,SFCAはエニグマタイト構造であるとしてSFCA{Ca2(Ca, Fe, Al)6(Fe, Al, Si)6O20}の結晶構造モデルを決定し,MummeらはSFCAの同族体で化学組成,結晶構造が異なるSFCA-I{Ca3(Ca, Fe)(Fe, Al)16O28},SFCA-II{Ca4(Fe, Al)20O36}の存在を解明した4,5)。また,Sugiyamaらは単結晶構造解析によりSFCAにMgが固溶したSFCAM相の精密構造の決定に成功している6)。Websterらは,X線回折(XRD)を用いた高温in situ実験から,昇温過程において先にSFCA-I相が生成し,その後SFCA相が生成することを見出した。また,化学組成や雰囲気によるカルシウムフェライトの生成挙動の違いを解明した7)。Kimura and Muraoは放射光XRDによる高温in situ実験を昇降温の速度を変えて行い,過冷却によりカルシウムフェライト生成の相転移温度が異なることを示し,実機プロセスの指針として“焼結鉱のCCT図”を提案した8)

微視的には,焼結鉱組織中のカルシウムフェライト組織は生成条件の違いにより針状や柱状の形態をとる9,10)。高い被還元性を有する焼結鉱には針状カルシウムフェライト組織が多く,それは低脈石でかつ比較的低温で焼結反応が進行する条件で生成され易いことが報告されている10)

このように,多成分系カルシウムフェライトの焼結鉱組織や結晶学的評価についての多くの報告がなされているが,そのほとんどが単結晶や数g程度の少量の試料を用いたものである。数10 kgの所謂鍋試験クラスや実機クラスの焼結鉱の評価・分析を行うには,多量の多結晶体試料を簡便かつハイスループットで解析する技術が必要となる。また,複数相の存在が確認されているカルシウムフェライト相を個別に同定・定量することにより,それぞれの相の焼結鉱特性に及ぼす影響を分離して評価することが可能になり,焼結反応挙動に関する情報抽出や焼結鉱品質の推定方法の高精度化が期待できる。しかし,こうした取り組みは少なく,特に実焼結鉱中の多成分系カルシウムフェライトを含めた鉱物相の定量的な解析はほとんど行われていない。

本研究では焼結鉱組織評価の一環として粉末X線回折(XRD)パターンの解析法のひとつで,多数の結晶相が共存する場合でも各相の精密構造の決定と定量が可能であるリートベルト解析11,12)による評価を試みた。焼結鉱中に含まれるカルシウムフェライト相は結晶構造が複雑で回折ピークが重複するため,単純な回折ピークの波形分離で相を定量することは困難である。また,RIR法などの従来の標準試料を用いた定量では上記のピーク分離の問題に加えて,焼結鉱中の多成分系カルシウムフェライトの結晶構造および組成(特に固溶元素の種類・量)が製造条件により標準物質と異なることから,複数相のカルシウムフェライト相の同定と定量が極めて難しい。これに対し,リートベルト解析は結晶構造モデルを用いてXRDパターン全体をシミュレートし,実験で得られるXRDパターンと比較することで,実験と計算XRDパターンの残差が最小になるように鉱物相の結晶格子定数,原子座標などの結晶構造因子や重量分率を最小二乗法で最適化する手法である。XRDパターン全体に対してフィッティングするため回折ピークが存在しないことも情報として活用され,回折ピークが重複するような複数相が含まれる場合でも,高精度での定量が可能である。また,格子定数だけではなく,原子座標などの結晶構造因子も精密化できるため,多成分系カルシウムフェライトのような結晶構造が複雑で広い固溶範囲をもつ連続固溶体の精密構造解析が可能である。さらに,リートベルト解析法では初期モデルと精密化の順序を同一にすれば,繰り返し解析してもほぼ同じ結果に集束し,画像解析の場合に懸念される解析者によるばらつきや恣意性が少ないという利点がある。

本報では,焼結鉱中に含まれる鉱物相の定量評価に対するリートベルト解析の有効性の検証を目的として,機械的強度の異なる焼結鉱試料のリートベルト解析を実施し,化学分析値との比較や焼結鉱の機械的強度と各鉱物相の分率や結晶構造との関係を考察した。

2. 実験

2・1 試料作製

焼結鉱試料の原料は,主に鉄鉱石核粒子と粉鉱石,石灰石,珪石,橄欖岩,コークスなどの付着粉を造粒した凝集体であり擬似粒子と呼ばれる。本擬似粒子には含有CaOが8.2 mass%となるように石灰石を配合し,塩基度CaO/SiO2(重量比)を1.6になるよう珪石,橄欖岩を添加した。また,外数でコークスを4.5 mass%,水分を7.0 mass%添加し,ドラムミキサーにて5分間造粒して作製した。

解析対象の焼結鉱は上記の擬似粒子を直径300 mm×高さ600 mmの円筒状の焼結鍋中に粒度偏析しないように留意して装入して焼成することで作製した(Fig.1(a))。擬似粒子の装入量は60 kg,装入密度は1.62 t/m3である。焼結鍋の最表層からバーナーで90秒間点火し,ブロアー吸引負圧を8 kPa一定で吸引した。上層の焼結鉱(Sample A),中層(Sample B),下層(Sample C)部に挿入した熱電対より測定した各部の熱履歴をFig.1(b)に示す。

Fig. 1.

 (a) Schematic illustration of the sinter pot test, and (b) heating patterns of each layer in the pot.

焼結反応終了後,焼結鍋内の焼結鉱を抜き出し,高さ方向に均等に3分割して,それぞれの部位に対し,JIS M 8711に則った落下強度試験を行った(Table 1)。それぞれの部位から粒径5 mm以上の試料を採取し,振動ミルで粒度が平均約10 μm程度になるまで粉砕したものをX線回折(XRD)測定と化学組成分析に供した。化学組成分析は全鉄定量方法(JIS M 8212),酸化第一鉄定量方法(JIS M 8213),酸化カルシウム定量方法(JIS M 8221),二酸化珪素定量方法(JIS M 8214),酸化アルミニウム定量方法(JIS M 8220)で行った。

Table 1.  Results of a shutter test of each layer.
Sample SI (mass%)
Sample A 73.3
Sample B 85.9
Sample C 89.7

※SI: Weight fraction of grains over +5mm in diameter after shatter test.

また,リートベルト解析の定量精度の検証のために,カルシウムフェライトの単相試料を粉末焼結法により作製した。

2・2 X線回折(XRD)測定

試料形状による優先配向が生じないように留意して,焼結鉱粉末をガラス板製の試料ホルダー(試料部:幅20 mm×高さ18 mm×深さ0.2 mm)に充填し,XRD測定を実施した。XRD測定装置はRigaku製のUltima-IIIを用い,照射X線源はCuKα線とし,管電流,管電圧はそれぞれ40 mAおよび40 kVで測定した。検出器は高速一次元検出器(D/teX Ultra(Rigaku製))を用い集中光学系(Kβフィルタ法)にて測定した。

測定条件は,測定角度範囲2θ=10−140°,ステップ幅(Δ2θ)=0.02°,スキャンスピード=1°/minでのステップスキャンで測定した。発散スリット(DS)は2/3°,縦制限スリット(RS)は10 mmとした。焼結鉱は鉱物相分布の不均一性が高い試料のため,高角範囲で十分な照射面積を得るためにDSをこの値とした。そのため2θ=10−19°の低角度の範囲では入射X線の照射領域の幅方向が試料幅(20 mm)よりも大きくなるので,試料から外れた回折光は全て試料へ照射し回折したと見なし,その範囲の回折光強度には1.66×10−1/sinθ倍の補正を実施した。また,試料ホルダーからの散乱がリートベルト解析の結果に影響を与えないことは事前に確認している。

2・3 リートベルト解析

2・3・1 リートベルト解析の概要11,12)

リートベルト解析では,式(1)で与えられるi番目のステップの回折強度fi(x)を各相について計算し,その和が測定値とできるだけ近くなるように回帰計算を行うことで,各相の分率,結晶構造因子(FK),選択配向性(PK)等の各パラメータを精密化する11,12)。   

f i ( x ) = s S R ( θ i ) A ( θ i ) D ( θ i ) K m K | F K | 2 P K L ( θ i , K ) Φ ( Δ 2 θ i , K ) + y b ( 2 θ i ) (1)

ここで,xは回折角2θiと結晶構造因子を計算した際の構造パラメータ群(格子定数,原子座標,原子変位パラメータ等),sは尺度因子,SR(θi)は試料表面粗さの補正因子,A(θi)は吸収因子,D(θi)は一定照射補正因子,Kはブラッグ反射強度に寄与する反射の種類を示す数値,mKK番目のブラッグ反射の多重度,FKは結晶構造因子,PKは選択配向関数,L(θi,K)はローレンツ偏光因子,θi,Kはブラッグ角,Φ(Δ2θi,K)はプロファイル関数,yb(2θi)はバックグラウンド関数である。

h番目の相の質量分率Rhは式(2)で求められる。   

R h = ( s h Z h M h V h ) / ( j s j Z j M j V j ) (2)

sjshは成分jおよびhの尺度因子,ZjZhは単位胞中の成分jおよびhの化学式数,MjMhは成分jおよびhの化学式量,VjVhは成分jおよびhのユニットセル体積である。

バックグラウンド補正はB-スプライン法で行い,ピークプロファイル関数は分割pseudo-Voigt関数を用いた。選択配向はMarch-Dollase関数を用い補正した。

本解析では,バックグラウンド関数,および各鉱物相の格子定数,プロファイル関数,結晶構造因子を精密化の対象とした。その際に,プロファイル関数中の光学系に依存する値である2次プロファイルパラメータVWは精密化の対象外とした。同じく,結晶構造因子のうち温度因子Tは精密化の対象外とした。また,SFCA,SFCA-Iは構成原子数が多いため,当初,結晶構造因子の全てのパラメータの精密化を試みたが妥当な値に収束しなかった。そこで金属原子に比べて結晶構造因子への寄与が小さいと考えられる酸素の原子座標は固定とした。なお,酸素の原子座標を固定することによる相分率等の他のパラメータへの大きな影響がないことは別途確認した。

解析結果は重みつきの信頼度因子Rwpと指標S(goodness-of-fit indicator)によって良否判断を行った。これらの指標は以下の式(3),(4)にて求めた。   

R w p = [ i w i { y i f i ( x ) } 2 i w i y i 2 ] 1 2 (3)
  
S = [ i w i { y i f i ( x ) } 2 N P ] 1 2 (4)

wiは統計的重み,yiは観測強度,Nは全データ数,Pは精密化するパラメータ数である。

リートベルト解析には,Rigaku製の粉末X線解析ソフトウェアPDXL ver.2.0を用いた。

2・3・2 焼結鉱に適用する結晶構造モデルの選択

リートベルト解析によるプロファイルフィッティングでは,まず試料に含まれる鉱物相およびその結晶構造因子の初期モデルを設定する必要がある。様々な焼結鉱での予備実験の結果,リートベルト解析の初期モデルとして採用した鉱物相およびその結晶構造因子の結晶構造データベース(ICDD)の番号をTable 2に示す。

Table 2-1.  Crystal lattice constants of major mineral phases used for initial structural models.
Crystal phase Major phases
α-Fe2O3 Fe3O4 Ca2.8Fe8.7Al1.2Si0.8O20 (SFCA) Ca3.14Fe15.48Al1.34O28 (SFCA-I) Ca2SiO4
Crystal structure Space Group: R-3c,
a=0.50352 nm,
b=0.50352 nm,
c=1.37508 nm,
α=90.000º,
β=90.000º,
γ=120.000º,
V=0.301921 nm3
Space Group: Fd-3m,
a=0.84045 nm,
b=0.84045 nm,
c=0.84045 nm,
α=90.000º,
β=90.000º,
γ=90.000º,
V=0.593657 nm3
Space Group: P1,
a=0.90610 nm,
b=1.00200 nm,
c=1.09200 nm,
α=60.300º,
β=73.680º,
γ=65.810º,
V=0.781762 nm3
Space Group: P1,
a=1.03922 nm,
b=1.05945 nm,
c=1.17452 nm,
α=94.308º,
β=111.293º,
γ=109.647º,
V=1.105700 nm3
Space Group: P21/n,
a=0.55160 nm,
b=0.67620 nm,
c=0.93292 nm,
α=90.000º,
β=94.313º,
γ=90.000º,
V=0.346991 nm3
References Perkins et al.13)
(ICDD: 01-080-2377)
Fjellvåg et al.14)
(ICDD: 01-089-0688)
Hamilton et al.3)
(ICDD: 01-080-0850)
Mumme et al.4)
(ICDD: 00-052-1258)
Mori et al.15)
(ICDD: 01-076-3608)
Table 2-2.  Crystal lattice constants of miner mineral phases used for initial structural models.
Crystal phase Miner phases
Fe0.925O (FeO) Ca2Fe15.51O25 (CFF) Ca2Fe2O5 α-SiO2
Crystal structure Space Group: Fm-3m,
a=0.43064 nm,
b=0.43064 nm,
c=0.43064 nm,
α=90.000º,
β=90.000º,
γ=90.000º,
V=0.079863 nm3
Space Group: R32,
a=0.60110 nm,
b=0.60110 nm,
c=9.46900 nm,
α=90.000º,
β=90.000º,
γ=120.000º,
V=2.962977 nm3
Space Group: Icmm,
a=0.56432 nm,
b=1.50701 nm,
c=0.54859 nm,
α=90.000º,
β=90.000º,
γ=90.000º,
V=0.466541 nm3
Space Group: P1,
a=0.49160 nm,
b=0.49170 nm,
c=0.54070 nm,
α=90.000º,
β=90.000º,
γ=120.000º,
V=0.113118 nm3
References Fjellvåg et al.14)
(ICDD: 01-089-0686)
Karpinskii et al.16)
(ICDD: 01-078-2301)
Berastegui et al.17)
(ICDD: 01-089-8668)
Pakhomov et al.18)
(ICDD: 01-077-1060)

焼結鉱中の主成分相として,α-Fe2O313),Fe3O414),多元系カルシウムフェライトであるSFCA相3)およびSFCA-I相4),シリケートスラグの一種であるダイカルシウムシリケート(Ca2SiO4)15)を選択した。

また,主成分相以外の鉱物相(微量成分相)として,コークス近傍の強い還元雰囲気で生成する可能性があるウスタイト(FeOx)14),カルシウムフェライト系融液中に脈石が殆ど溶融しない状況で生成の可能性がある,擬2成分系カルシウムフェライトのダイカルシウムフェライト(Ca2Fe2O5)16)とCFF(Ca2Fe15.51O25)17)を追加した。これらは,XRDや顕微鏡による組織観察では明瞭に観察できていないが,微量に含まれる可能性があると判断した。また,鉱石由来の脈石や塩基度調整のため添加したα-SiO2も追加した。

リートベルト解析は段階的に各相の結晶構造因子およびプロファイル関数を精密化する方法で実施した。最初にTable 2に示すα-Fe2O3からα-SiO2の順に,格子定数とプロファイル関数を同時に精密化し,その後,主要な鉱物相であるα-Fe2O3からCa2SiO4までの結晶構造因子を順に精密化した。微量成分相は格子定数とプロファイル関数のみに限定して精密化した。

3. 結果と考察

3・1 リートベルト解析の定量精度の評価

リートベルト解析の定量精度評価を目的とし,粉末焼結法で合成したダイカルシウムフェライト(2CaO-Fe2O3)とモノカルシウムフェライト(CaO-Fe2O3)単相試料を用いて,それらの比率を変えた混合試料を作製し,それらのXRD測定およびリートベルト解析で相分率を求めて仕込み割合との比較を実施した。リートベルト解析は格子定数とプロファイルパラメータのみ精密化対象とした。仕込み割合とリートベルト解析により求めた相分率の関係をFig.2に示す。リートベルト解析によって決定したダイカルシウムフェライトの相分率は,実際の仕込み割合と平均の相対誤差が7%程度とよく一致した。仕込み割合10%以下の試料においては相対誤差が10%~25%程度となり定量精度は低下するが,比較定量は可能であると判断した。

Fig. 2.

 Relationship of nominal weight fraction of mixture of Ca2Fe2O5 and CaFe2O4, and its quantitative value determined by Rietveld analysis.

3・2 焼結鉱試料の構成相の相分率の定量結果

Sample A,B,CのXRDパターンおよび主要な回折ピークの同定結果をFig.3に示す。各試料のXRDパターンを比較すると,カルシウムフェライト相などのピーク強度に差異が確認できるが,その差は小さく,個々のピーク強度の比較のみでは,各相の比率や結晶構造の精密化が困難であることがわかる。

Fig. 3.

 XRD patterns of sinter samples A, B and C. ●: α-Fe2O3, ○: Fe3O4, ◇: SFCA, ◆: SFCA-I, ▲: Ca2SiO4, ◎: FeO, ■: CFF, △: SiO2

これらのXRDパターンについてリートベルト解析を実施した結果の一部をFig.4Table 3に示す。Fig.4上段は,実験およびリートベルト解析の結果得た計算XRDパターンであり,下段は両者の残差である。Table 3は,リートベルト解析で求めた各試料中の鉱物相の分率および信頼度因子(RwpS,式(3),(4))である。Rwpはいずれの試料においても2.0%程度,S値も1.1未満であり,統計的に見てフィッティング良好な結果と判断できる12)

Fig. 4.

 Comparison of the measured (solid line) and the calculated (dotted line) XRD patterns of sinter samples A, B and C. The differential of the profiles were shown in the bottom region of the Figure.

Table 3.

 Quantitative value of mineral phases in sample A, B, and C determined by Rietveld analysis.

リートベルト解析により,主成分のα-Fe2O3,Fe3O4,SFCA,SFCA-I,Ca2SiO4だけでなく,5 mass%未満の微量成分相であるFeOx,CFF,α-SiO2の相分率もリートベルト法で決定することができた。試料中には,α-Fe2O3,Fe3O4のFe-O系酸化物が全体の50 mass%強を占め,多成分系カルシウムフェライト(SFCA+SFCA-I)が全体の約35 mass%を占めた。そして,10 mass%弱のスラグ(Ca2SiO4+α-SiO2)が存在した。今回解析した試料ではCa2Fe2O5はほとんど生成していなかった。

次にリートベルト解析で求めた焼結鉱中の鉱物相における定量値の検証を行った。Table 4にSample A,B,Cの化学分析値,およびリートベルト解析で決定した相分率と各相の構造モデルの組成の積から求めた組成(Rietveld analysis (initial)の欄)を示す。Ca,Si,Alの各成分は酸化物として表記してある。Table 4の最下段の値は,三試料の化学分析値に対するリートベルト解析の相対誤差の平均値である。

Table 4.  Chemical composition of samples A, B and C obtained by chemical and Rietveld analyses.
Sample Method Quantitative value (mass%)
T.Fe CaO SiO2 Al2O3
Sample A Chemical analysis 58.18 9.72 5.49 1.28
Rietveld analysis (initial) 59.8 8.6 4.8 1.6
Rietveld analysis (EDS) 58.9 10.0 5.8 1.2
Sample B Chemical analysis 56.51 10.95 6.75 1.29
Rietveld analysis (initial) 58.2 9.9 5.5 1.7
Rietveld analysis (EDS) 58.9 10.2 5.6 1.4
Sample C Chemical analysis 57.39 10.33 6.01 1.45
Rietveld analysis (initial) 58.4 10.3 5.2 1.7
Rietveld analysis (EDS) 59.5 9.8 5.7 1.3
Relative deviation of Rietveld analysis (initial) 2.5% –7.3% –14.9% 25.3%
Relative deviation of Rietveld analysis (EDS) 3.1% –2.8% –5.6% –5.8%

主成分のTotal Fe(T.Fe)は,リートベルト解析値が化学分析値より若干低いが相対誤差2.5%で定量できている。その一方で,主成分と微量相の両方に含まれるCa,Si,Alの定量値の相対誤差は大きく,特にAlでは25.3%となった。この原因としてリートベルト解析で選択したSFCA,SFCA-I相の初期モデルのAl組成が,実際に焼結鉱中に生成したSFCAおよびSFCA-I相のAl組成よりも大きい可能性が考えられる。また,Si成分の誤差が−14.9%と負になっているのは,リートベルト解析で定量していないアモルファススラグが試料中に含まれている影響も大きいと推察される。

次に,焼結鉱の生成条件とSample A,B,Cの相分率の関係について考察する(Table 3)。焼結鉱(シンターケーキ)中の位置が上部から下層になるに従い,α-Fe2O3が減少し,Fe3O4が増大する傾向が得られた。焼結鉱の強度(SI)は下層が最も高く(Fig.1(c)),Fe3O4分率とSIの間には正の相関があった。Fe3O4は平衡状態において900~1600°Cの温度域で安定的に存在するため,高温ほど生成され易い。それを考慮すると,リートベルト解析の結果はシンターケーキの下層が上層よりも,より高温かつ高温保持時間の長い熱履歴にて焼結反応が進行したと推察される。

一方,融液量と対応していると考えられるカルシウムフェライトの量は,定量誤差を考慮するとその総量は試料間で大きな差異は無く,強いて言えば機械的強度との間には若干負の相関の傾向がある。これは,解析試料が最低限の強度を有する+5 mmの粒度に選別したものを用いたことが原因の一つと考えられる。カルシウムフェライト系融液が十分に生成しない領域は強度が低下して落下衝撃に耐えられない。そのため,粒度−5 mmに破砕され,篩分けされて解析試料から除かれたと推察される。そのため,強度試験前の焼結鉱全体を解析対象とすれば,下層ほどより高温で焼成されカルシウムフェライト系融液量が増大するため,カルシウムフェライトの絶対量は増加する結果が得られたと推察される。

以上のことから,リートベルト解析法で得られた焼結鉱の上層~下層の各部位の鉱物相分率の中で,Fe3O4分率が機械的強度と高い相関があることが明らかになった。Fe3O4分率は焼結反応の温度(900~1600°C)や酸素分圧の履歴を反映しており,機械的強度高い相関を示したと考えられる。本試験では,Fig.1(b)に示すように下層ほど焼成温度が高い。また,排ガス中のO2濃度は上層が15%,下層が12%と下層の方が低かった。これらのことから,下層でのコークス燃焼が上層よりも促進され,その結果として温度上昇と酸素分圧の低下が促進され,下層においてFe3O4の生成量が増大し,かつ強固な焼結鉱が製造されたと推察される。もちろん,機械的強度を始めとする焼結鉱品質の発現には,鉱物相分率以外に気孔や鉱物相の粒度,形状等の他の因子の寄与もある。それらの因子の影響を考慮する出発点として,リートベルト解析による鉱物相の定量化が有効であることが示された。

3・3 構成相の精密構造解析の結果

カルシウムフェライトの相分率そのものは機械的強度と強い相関を示さなかったので,その結晶構造パラメータの詳細が試料間で差異があるかどうかの検討を進めた。カルシウムフェライトはシリカやアルミナ等の脈石成分を固溶する多成分系の連続固溶体であり1),その量によって構造が変化すると考えられる2,3,4,5,6)。そこで,カルシウムフェライト中のCa,Si,Alの量をパラメータとしてリートベルト解析を行ったが,解が収束せず最適化ができなかった。そのためそれらの固溶量を実験的に求めるために,焼結鉱中の組織観察を行い,特定の組織を有するカルシウムフェライト相のFe,Ca,Si,Al量をEDS(Energy dispersive X-ray spectrometry)で定量分析した。

Fig.5にSample A中の脈石が多いカルシウムフェライト組織と脈石が少ないカルシウムフェライト組織の反射電子像を示す。図中の白点はEDS測定を行った位置を示している。Al,Si濃度が高いFig.5(a)中のCF組織をSFCA相,Fe濃度が高いFig.5(b)中のCF組織をSFCA-I相と見なし,測定点の平均組成を反映したカルシウムフェライト組成を求めた。その結果,SFCA相はCa2.3Fe10.3Al0.6Si0.8O20,SFCA-I相はCa3.6Fe15.1Al0.6Si0.7O28と算出され,いずれもAl含有量は今回用いた結晶構造モデルの値よりも少ない結果が得られた。そこで,SFCA,SFCA-I相の組成をEDS分析値に合わせた結晶構造モデル(Table 5-15-2)を用いてリートベルト解析を実施した。SFCAおよびSFCA-I相中の酸素6配位席はFe,Caが置換し,酸素4配位席はFe,Al,Siが置換する。SFCA相の場合,次のような仮定で陽イオン席の占有率を変更して組成を測定値に近くなる様にした(Table 5中に太字で表記)。Caは6配位席の中で酸素結合距離が長いCa/Fe12席を優先置換するので,Ca/Fe12席の占有率で調整する。Siは4配位席のうち最も酸素結合距離が短いSi/Al15席を優先的に置換するのでSiの組成に合わせて占有率を決定した。AlはSi/Al15席およびその次に酸素結合距離が短いAl/Fe6席を優先して置換するため,組成はAl/Fe6席の占有率で調整した。SFCA-I相の場合,初期モデルにはSiが含まれていなかったため,Alが置換している4配位席に統計的に分布すると仮定して占有率を求めた。

Fig. 5.

 Electron micrographs of calcium ferrites and chemical compositions in Sample B determined by EDS. (a) calcium ferrite with high gangue (Ca2.3Fe10.3Al0.6Si0.8O20), (b) calcium ferrite with low gangue (Ca3.6Fe15.1Al0.6Si0.7O28).

Table 5-1.  Structural model of SFCA3) based on EDS analysis.
(a) SFCA3)
Atom Coodinate number Atomic coodinates Occupancy
x y z Ref 3) This study
Fe1 6 0.441 0.596 0.348 1 1
Fe2 6 0.758 0.003 0.254 1 1
Fe3 6 0.669 0.693 0.458 1 1
Fe4 4 0.737 0.217 0.434 1 1
Fe5 4 0.849 0.030 0.741 1 1
Al/Fe6 4 0.837 0.529 0.235 1/0 0.4/0.6
Fe7 6 0.349 0.782 0.049 1 1
Fe8 4 0.934 0.359 0.691 1 1
Fe9 4 0.547 0.635 0.799 1 1
Fe10 6 0.000 0.000 0.000 0.5 0.5
Fe11 6 0.500 0.000 0.500 0.5 0.5
Ca/Fe12 6 0.556 0.904 0.156 0.8/0.2 0.3/0.7
Ca13 7 0.114 0.206 0.420 1 1
Ca14 7 0.127 0.664 0.951 1 1
Si/Al15 4 0.728 0.731 0.929 0.8/0.2 0.8/0.2
Table 5-2.  Structural model of SFCA-I based on EDS analysis.
(b) SFCA-I4)
Atom Coodinate number Atomic coodinates Occupancy
x y z Ref 3) This study
Ca1 6 0.088 0.688 0.079 1 1
Ca2 6 0.4736 0.113 0.920 1 1
Ca3 6 0.0976 0.155 0.181 1 1
Fe4 6 0.3153 0.033 0.632 1 1
Fe5 6 0.1777 0.463 0.354 1 1
Fe/Ca6 6 0.5413 0.399 0.088 0.82/0.18 0.4/0.6
Fe7 6 0.0755 0.789 0.644 1 1
Fe/Al/Si8 4 0.0076 0.088 0.632 0.98/0.02 0.98/0.01/0.01
Fe/Al/Si9 4 0.3767 0.022 0.371 0.96/0.04 0.96/0.02/0.02
Fe10 6 0.2438 0.745 0.489 1 1
Fe11 6 0.622 0.676 0.223 1 1
Fe12 6 0.2457 0.250 0.491 1 1
Fe13 6 0.6021 0.189 0.228 1 1
Fe/Al/Si14 4 0.1316 0.473 0.636 0.84/0.16/0 0.84/0.08/0.08
Fe/Al/Si15 4 0.2404 0.477 0.082 0.9/0.1/0 0.9/0.05/0.05
Fe/Al/Si16 4 0.4955 0.407 0.366 0.94/0.06/0 0.94/0.03/0.03
Fe/Al/Si17 4 0.8431 0.3225 0.091 0.8/0.2/0 0.8/0.1/0.1
Fe/Al/Si18 4 0.1707 0.1876 0.9266 0.7/0.3/0 0.7/0.15/0.15
Fe/Al/Si19 4 0.2484 0.9721 0.0794 0.54/0.46/0 0.54/0.23/0.23
Fe20 6 0.4324 0.7142 0.3574 1 1

リートベルト解析により決定した各鉱物相の分率をTable 6に,SFCA,SFCA-Iの結晶構造因子と各試料中のSFCA相の原子座標等のパラメータをTable 7およびTable 8にそれぞれ示す。Table 5-1Table 8の原子座標を比較すると,特にEDS分析値で占有率を補正したAl/Fe6,Ca/Fe12のサイトにおいて,初期モデルと精密化後モデルとの間に違いが生じた。陽イオンの元素置換による陽イオン−酸素の配位(多面体)の変形(歪み)は一般に置換によるイオン半径の変化により考察することができる。酸素4配位のAl/Fe6サイトでは,Fe3+とAl3+の有効イオン半径はそれぞれ0.039 nm,0.049 nmである。酸素6配位のCa/Fe12サイトでは,Fe3+とCa2+の有効イオン半径はそれぞれ0.055 nm,0.100 nmと大きく異なる。そのため,EDSで確認された様に化学成分が初期モデル(報告値)と異なる本実験のSFCA相では,Feの占有率が変化したと仮定した両サイトにおいて,周りの酸素の配位構造が変化(多面体が歪む)し,陽イオンの原子位置が大きく変化した結果を得たことは妥当と考える。Fig.6(b)にSFCAにおける(111)面の結晶構造を示す。Ca/Fe12サイトと等しい面に配置されたサイトはFe2,Al/Fe6,Fe7,Fe8,Fe9,Fe10,Fe11で,このCa/Fe12サイトの占有率の変化は隣接するこれら各サイトの原子座標に影響を及ぼす可能性が高い。

Table 6.  Quantitative value of mineral phases in samples A, B, and C determined by Rietveld analysis based on EDS analysis.
Table 7.  Crystal lattice constants of SFCA and SFCA-I refined by Rietveld method.
Sample Ca2.3Fe10.3Al0.6Si0.8O20 (SFCA) Ca3.6Fe15.1Al0.6Si0.7O28 (SFCA-I)
Sample A Space Group: P1,
a=0.9102(3) nm,
b=1.0124(2) nm,
c=1.0986(2) nm,
α=60.30(2)º,
β=73.42(2)º,
γ=65.57(2)º,
V=0.7966(5) nm3
Space Group: P1,
a=1.0364(6) nm,
b=1.0483(5) nm,
c=1.1780(6) nm,
α=94.16(2)º,
β=111.50(3)º,
γ=110.09(2)º,
V=1.0891(6) nm3
Sample B Space Group: P1,
a=0.9109(2) nm,
b=1.0122(4) nm,
c=1.0984(4) nm,
α=60.21(2)º,
β=73.32(2)º,
γ=65.48(2)º,
V=0.7955(5) nm3
Space Group: P1,
a=1.0406(5) nm,
b=1.0541(5) nm,
c=1.1733(6) nm,
α=94.63(4)º,
β=110.82(4)º,
γ=110.05(4)º,
V=1.0993(4) nm3
Sample C Space Group: P1,
a=0.9110(3) nm,
b=1.0110(3) nm,
c=1.0983(3) nm,
α=60.23(2)º,
β=73.39(2)º,
γ=65.48(2)º,
V=0.7948(4) nm3
Space Group: P1,
a=1.0373(4) nm,
b=1.0540(5) nm,
c=1.1720(6) nm,
α=94.25(3)º,
β=111.51(3)º,
γ=109.99(3)º,
V=1.0959(8) nm3
Table 8.  Atomic coordinates of SFCA phases in (a) Sample A, (b) B, and (c) C determined by Rietveld analysis.
Fig. 6.

 Polyhedral representation of the SFCA3) structure. (a) shows stacking of the spinel and the pyroxene modules and (b) shows the projection along (111).

S: Spinel module (M4T2O8), P: Pyroxene module (Ca2M2T4O12), T: Tetrahedral site, M: Octahedral site

但し,前述したようにAl,Caが置換するサイトを仮定し,さらに酸素位置を固定して精密化しているため,構造最適化された陽イオンの位置のずれの定量精度が不十分な可能性も大きい。ずれの方位やずれの絶対量を定量的に決定するためには,置換するサイトの特定や酸素位置の最適化を含めた更なる研究が必要と考えている。

なお,本報告では酸素の原子座標を固定することによる相分率や格子定数に大きな影響がないことは別途確認している。また,Table 3の文献値を用いた計算結果と比較し,EDS分析値を反映した場合の方がRwp値は良好であった。カルシウムフェライトの総量が1-2ポイント変化したが,試料間の主要相の相分率の大小関係が変化するほどではなく,リートベルト解析によるSFCA,SFCA-Iの定量的評価は十分可能であると考える。実際,EDS分析値を反映した構造モデルにより,脈石に関する化学分析値との相対誤差が大幅に改善されていることが分かる(Table 4)。

3・4 鉱物相の格子定数の検証

3・3節ではカルシウムフェライト中の固溶成分をEDSの値で補正した初期構造モデル(Table 5)を用いて各試料のリートベルト解析を行った。本節では各鉱物相の格子定数の結果について考察する。得られたSample A,B,C中の各鉱物相の格子定数を文献値のそれと合わせてFig.7に示す。

Fig. 7.

 Comparison of lattice constants refined by Rietveld analysis of major mineral phases in samples A, B and C, and the one reported in ICDD.

Fig.5のEDS組成を用いリートベルト解析で精密化したSample A,B,C中の鉱物相の格子定数とICDDの報告値のそれとを比較すると,(a)α-Fe2O3,(b)Fe3O4,(e)Ca2SiO4の格子定数は試料間の差が非常に小さく,また報告値のそれとも大差なかった。これらの相の結晶構造は試料間でほぼ同一であることを示している。

一方で,焼結鉱試料中のCa2.8Fe8.7Al1.2Si0.8O20(SFCA)およびCa3.14Fe15.48Al1.34O28(SFCA-I)の格子定数は,試料間で差異があり,かつICDDの報告値とも異なっている。ICDDの報告値とSample B中カルシウムフェライトの化学組成との違いはEDS観察で確認したが(Fig.5),それは格子定数の差異にも現れている。Fig.6(a)に示す通り,SFCAはパイロキシン層とスピネル層が交互に積層した結晶構造で,置換による電荷バランスと結晶歪みの緩和が脈石成分の固溶や置換サイトを決めると報告されており2,6),格子定数の差異が確認されたこととこれらの報告内容は一致する。

ICDDの報告値では,SFCAのFe/(Al+Si)原子比は8.7/(0.8+1.2)≒4.4である。それに対してEDSの結果を踏まえたリートベルト解析の構造モデルでは,Fe/(Al+Si)=10.3/(0.6+0.8)≒7.4となる。各原子の有効イオン半径を考慮すると,脈石成分Al,Siの固溶量が減少すると,SFCAの格子定数が大きくなると予測される6)(Fig.7(c))。

一方,Ca3.14Fe15.48Al1.34O28(SFCA-I)の格子定数は,試料により傾向が異なった。Fe/(Al+Si)原子比を比較すると,ICDDの報告値ではFe/(Al+Si)=15.48/(1.3+0)≒11.6,EDS分析値はFe/(Al+Si)=15.1/(0.6+0.7)≒11.6と同等である。試料中のSFCA-IはICDDの報告値と同等量の脈石成分が固溶しているが,有効イオン半径の小さいSiを含む。そのため,試料間の格子定数のばらつきはSi/Al比が異なるSFCA-Iが生成しているためと推察される。本研究では,EDS組成の補正にてSFCA-IにSiの固溶を無理に仮定した初期構造モデルを用いており,これが格子定数の結果に影響を与えている可能性もある。一方で,SFCA-I相の特徴である長周期構造由来のピークはXRDパターンの2θ=11 deg.付近に確認されており(Fig.3),これらの条件を満たす結晶構造モデルの再検討も今後は必要であると考える。

以上の結果からリートベルト解析により各鉱物相の格子定数を精密化できることがわかった。その結果,α-Fe2O3やFe3O4等の格子定数は試料間でほぼ同一であったのに対して,カルシウムフェライトの格子定数は試料間で差異があることが判明した。カルシウムフェライトは連続固溶体であり,その固溶量によって格子定数が変化していると考えられる。そうした因子を考察する上で,リートベルト解析による鉱物相の結晶パラメータの定量化が有効な方法のひとつであることが示された。

4. 結言

焼結鍋試験で製造した焼結鉱試料の,XRD測定およびリートベルト解析を実施した。その結果,焼結鉱中の主要な鉱物相としてα-Fe2O3,Fe3O4,SFCA(Ca2.8Fe8.7Al1.2Si0.8O20),SFCA-I(Ca3.14Fe15.48Al1.34O28),Ca2SiO4が含まれ,微量成分相としてFeOx,CFF,α-SiO2が含まれること,および各相分率の定量がリートベルト解析で可能であることを化学分析値との比較により実証した。

焼結鍋の異なる部位の焼結鉱は熱履歴によりマクロ特性(SI)が異なるが,Fe3O4量の相分率がそれと直結する指標であることが判明した。カルシウムフェライトの総量は焼結鍋の部位間で明瞭な差異は確認されなかった。

リートベルト解析により,相分率だけでなく,格子定数等の結晶パラメータの精密化も可能であることを確認した。α-Fe2O3やFe3O4等の格子定数は試料間でほぼ同一であったのに対して,カルシウムフェライトの格子定数は試料間で差異があることが判明し,脈石成分の固溶量と関係していることが示唆された。

従来の組織学的な知見に,リートベルト解析により解明されたこれらの結晶学的知見を補完することにより,焼結鉱の品質設計と焼結反応履歴の推定に活用できる指標を提供できると期待される。

文献
 
© 2017 The Iron and Steel Institute of Japan

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