Tetsu-to-Hagane
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Experimental Investigation on Inducement Mechanism of Compressive Strength of Iron Ore Granule
Takayuki MaedaMasamine MatsuoKo-ichiro OhnoKazuya Kunitomo
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2017 Volume 103 Issue 6 Pages 238-245

Details
Synopsis:

Granulation experiment was carried out by using four kinds of iron ores, and the compressive strength of granules was measured. Moreover, inducement mechanism of compressive strength of iron ore granule was investigated by adding clay or reagent hematite. The results obtained are follows:

(1) From the results of strength measurement of granule made from iron ores which have different kinds of gangue mineral and have different amount of gangue, in the case of Ore A which has little gangue quantity, the wet strength exceeded the dry strength. On the other hand, the dry strength of Ore B, C and D including the gangue minerals exceeded the wet strength.

(2) The wet strength of granules was not changed when clay or reagent hematite was added, even if the amount of added clay and reagent hematite increased. It is thought that the effect of gangue mineral and particle size on the wet strength are small, and the adhesion force between particles by liquid bridge is dominant.

(3) The dry strength of granule was improved only when clay was added. It is considered that clay mineral and iron ore adhered with electric action when clay mineral and iron ore closed with van der Waals forces range in the process of drying the water because clay mineral was charged negative and iron ore was charged positive.

1. 緒言

鉄鉱石には鉄源となる酸化鉄以外にも脈石成分であるシリカ,アルミナや粘土鉱物などが存在している。近年,鉄鉱石の採掘場所や品質の多様化と劣質化のために鉄分を多く含む高品位な鉄鉱石や,高炉にそのまま装入できる粒度の大きな塊鉱石が枯渇しつつある1,2)。中国やインドなどで鉄鉱石の需要が高まる中,生産性を下げることなく,脈石成分を多く含む低品位な鉱石や粉鉱石をどのように使用していくかが課題となってきている。低品位な鉱石を取り扱う場合,その鉱石を粉砕し,有効成分と脈石成分を分離して,高品位で粒度の小さな鉱石を取り出している。鉄鉱石の粒径が小さくなると還元性は良くなるが,粉鉱石をそのまま高炉に装入してしまうと,炉内の還元ガスの流れを阻害し,ガス分布の不均一化を招き,高炉操業の歩留まりを低下させる。そのために,高炉に装入される鉱石は整粒により下限が8~10 mm,上限が25~30 mmの粒度に揃えられる。このとき所定の鉱石粒度に満たない粉鉱石は焼結鉱として高炉に装入されている。

ところで焼結鉱は,鉱石と熱源となるコークスを焼結機に装入し,1300°C~1400°Cで焼き固められて製造されるが,その予備処理として粉鉱石は造粒という過程を経て焼結機に装入される。この造粒という過程は粉鉱石,コークス,石灰などの原料に水分を添加することで粒度を大きくすることであるが,造粒物の構造や強度に及ぼす要因として脈石成分,粒度分布,添加水分量,造粒時間等3,4,5,6,7,8,9,10,11,12,13,14,15)が知られている。また,造粒物が焼結機内に装入される際および焼結過程において崩壊を起こすと焼結反応を均一かつ十分に反応させることはできない。したがって,造粒物には供給ホッパ−装入時に崩壊しないこと(落下強度),供給ホッパ−内で崩壊しないこと(圧潰強度)および焼結過程,特に乾燥帯において崩壊せず保持されていること(乾燥後強度)が求められている。そのため,造粒物を強度という観点から設計していくことが重要となってくる。

上記のように,造粒物は水分を添加することで粒子同士が結びついているが,焼結鉱製造の過程で水分が蒸発していく。そのため,造粒物には水分が粒子の周りを取り巻いている“湿潤状態”と,水分がなく粒子のみになった“乾燥状態”という2つの異なる状態が生まれる。著者らは前報16)で,試薬ヘマタイトの場合は湿潤状態での圧潰強度は乾燥後に比べて大きいが,鉱石の場合は湿潤状態の圧潰強度は乾燥後に比べて小さくなっていることを報告している。これは,試薬ヘマタイトには含まれていない脈石成分が乾燥後強度に影響を与え,鉱石の造粒物の乾燥後強度が向上したのではないかと考えられる。しかし,強度に関係する脈石成分は何であるのか,鉱石に脈石成分を添加した場合に強度は向上するのかということに関しては解明されていない。

そこで,本実験では,鉄鉱石造粒物の湿潤強度と乾燥後強度の発現機構を解明することを目的とした。なお,造粒物は様々な粒度の粉鉱石を用いて製造されるため,核粒子と呼ばれる粒子の周りに微粒子が付着している造粒物および微粉粒子のみで構成されている造粒物が存在している。しかし,どちらの造粒物も崩壊は微粉粒子部分で起っているため,実験対象として今回は後者の造粒物を取り扱うことにした。

2. 造粒物の強度に及ぼす脈石成分の影響

2・1 試料および実験方法

実験にはTable 1に示す化学組成の異なる4種類の鉄鉱石を−250 μmに篩った粉鉱石を使用した。

Table 1.  Chemical composition of iron ores (mass%).
T·Fe FeO CaO SiO2 Al2O3 MgO CW
Ore A 68.3 0.32 0.06 0.98 0.32 0.08 0.61
Ore B 61.2 0.19 0.02 3.5 2.35 0.06 5.8
Ore C 63.5 0.27 0.04 3.88 2.23 0.08 2.16
Ore D 63.1 0.28 0.01 6.63 0.97 0.01 1.51

鉱石Aは脈石成分をほとんど含まない高品位な鉱石であり,試薬ヘマタイトに近い。鉱石Bは結晶水含有量,脈石量が他の鉱石よりも多く,SiO2とAl2O3がほぼ同程度含まれている。鉱石CもSiO2とAl2O3がほぼ同程度含まれているが鉱石Bに比べ,結晶水含有量が低い。鉱石DはSiO2の含有量が多くなっている。各鉱石の粒度分布を測定した結果をFig.1に示す。また,測定の結果得られた,鉄鉱石の平均粒径をTable 2に示す。Fig.1Table 2より,各鉱石の平均粒径は同程度であるが,鉱石Aには10 μm以下の粒子は存在しないこと,また鉱石Dには1 μm以下の粒子が存在しないこと,さらに鉱石B,Cは超微粒子と呼ばれる1 μm以下の粒子を含んでいることが分かる。

Fig. 1.

 Particle size distribution of iron ores.

Table 2.  Mean particle diameter of iron ores.
Ore A Ore B Ore C Ore D
Mean particle diameter 133 μm 137 μm 124 μm 180 μm

造粒実験には,鉱石A,B,C,Dをそれぞれ500 g量り取り,タイヤ型ペレタイザー16)を用いた。造粒条件は,ペレタイザーの回転速度30 rpm,造粒時間8分間に統一した。適切な添加水分量は鉱石によって異なるため,予備実験として添加水分量の調査を行った。様々な添加水分量で造粒実験を行い,上記の造粒条件下で造粒できる最適水分量をそれぞれの添加水分量とした。なお,最適水分量の決定は前報告17)と同様に行い,外観より造粒に寄与していない粉鉱石が擬似粒子の表面に存在する場合は水分不足と判断し,擬似粒子の表面に水分が一部染み出している場合を水分過多であると判断した。したがって,造粒が十分進行し粉鉱石が擬似粒子の表面に存在せず,かつ擬似粒子の表面に水分が染み出していない場合を最適水分量とした。添加水分量は鉱石Aが70 cc,鉱石Bは90 cc,鉱石Cは70 cc,鉱石Dは80 ccとなった。鉱石によって添加水分量に差はあるが,使用した鉱石にはよらず造粒物に含まれる水分量は約10 mass%程度であった。水分の添加方法は,噴霧器を用いて3秒毎に試料に噴きつけた。造粒時間中,水分を添加している時間は約2分間で,その後は水分添加なしで造粒した。

造粒後の造粒物を2等分し,それぞれ乾燥前後の強度測定に用いた。強度測定前に各粒子の直径をノギスで測定し,その後各粒子の強度を測定した。なお,強度測定した試料は完全に球形ではないため,測定した各粒子の直径を基に,例えば4.5±0.2 mmの粒子の3~5個の強度を4.5 mmの粒子の強度と定義し,造粒物の強度と粒径との関係を求めた。強度試験には引張圧縮試験機16)を用いて,湿潤圧潰強度と110°C,24時間乾燥させた後の乾燥後圧潰強度を測定して強度評価を行った。圧縮速度は5 mm/minと最も遅い設定にしてある。圧力がピ−クに達した後10%以上低下する荷重を最大荷重P(N)とした。圧潰強度は造粒物を球形と仮定し,造粒物が破壊した時の最大荷重P(N)を造粒物の断面積(m2)で割ることで算出した。

2・2 結果および考察

2・2・1 造粒物の圧潰強度

造粒物の湿潤および乾燥後圧潰強度の平均値と造粒物の粒径の関係をFig.2~5に示す。Fig.2は鉱石A,Fig.3は鉱石B,Fig.4は鉱石C,Fig.5は鉱石Dの結果を示している。これらの図で,○印は湿潤状態,●印は乾燥後の圧潰強度を示している。

Fig. 2.

 Wet and dry compressive strength of granules (Ore A).

Fig. 3.

 Wet and dry compressive strength of granules (Ore B).

Fig. 4.

 Wet and dry compressive strength of granules (Ore C).

Fig. 5.

 Wet and dry compressive strength of granules (Ore D).

これらの図より,脈石成分の少ない鉱石Aは粒径が大きくなるに連れて強度が低下する傾向にあり,乾燥前後の強度は脈石成分を比較的多く含んでいる鉱石B,C,Dに比べて非常に小さいことが分かる。また,鉱石Aの圧潰強度は乾燥後強度の方が湿潤強度よりも小さくなり,試薬ヘマタイトと同様の傾向を示した。

一方,脈石成分を比較的多く含んでいる鉱石B,C,Dの湿潤状態の強度は造粒物の粒径によらず一定の強度を持っているが,乾燥後は粒径が大きくなるに連れて強度が低下する傾向にあることが分かる。また,鉱石B,C,Dは湿潤強度のほうが乾燥後強度よりも小さいという傾向を示した。

各鉱石の湿潤状態と乾燥後の強度を比較すると,前報16)の結果と同様に,脈石成分の多い試料と少ない試料で湿潤強度と乾燥後強度の大小関係が異なるという傾向は鉱石が異なっても同様であった。この結果から,湿潤強度と乾燥後強度の発現機構の違いには脈石成分が関係しているものと考えられる。

また,Fig.2~5より,鉱石種によって乾燥後強度が異なることが分かる。さらに,これらの図より,乾燥後強度は鉱石Aの場合は6.5~9.5 kPa,鉱石Bの場合は80~125 kPa,鉱石Cの場合は85~110 kPa,鉱石Dの場合は30~65 kPaとなっており,鉱石BおよびCの乾燥後強度は鉱石Aや鉱石Cよりも大きくなっていることも分かる。脈石成分であるAl2O3とSiO2が同量含有している鉱石B,Cの乾燥後強度が高く,次はSiO2の量が多い鉱石Dとなっており,脈石成分がほとんど含まれていない鉱石Aは最も乾燥後強度が小さくなっている。

ところで,前報16)で報告したように,脈石成分を含まない試薬ヘマタイトの場合は,造粒前の粒子の表面性状や粒度分布が異なっていても乾燥後強度が湿潤強度を上回ることはなかった。したがって,以上の結果から,鉱石中に含まれる脈石成分が湿潤強度よりも乾燥後強度を向上させていると考えられる。そこで,乾燥後強度を向上させる成分を調査するために,鉱石中に含まれる成分の同定をX線回析分析(XRD)によって調査した。

2・2・2 鉱石中の脈石成分の調査

XRD測定はターゲットCu(40.0 kV,40.0 mA),開始角度3.0°,終了角度90.0°,ステップ角度0.3°/min,散乱スリット1.0°,発散スリット1.0°,受光スリット0.3°の条件で行った。XRD測定結果をFig.6に示す。

Fig. 6.

 X-ray diffraction pattern of iron ores.

この図より,乾燥後強度が湿潤強度を下回っている脈石成分の少ない鉱石Aにはヘマタイトの回折線のみが認められ,乾燥後強度が湿潤強度を上回っている鉱石B,C,Dにはヘマタイトの他にゲ−サイトと脈石成分としてシリカが含まれていることが分かった。鉱石B,Dに多く含まれるAl2O3成分に関する鉱物は明確には同定されなかった。さらに,SiO2とAl2O3の化合物であるカオリナイトの存在も確認できなかった。

そこで,次により詳しい脈石成分の存在状態と分布についての調査を行うことにした。試料として脈石成分を多く含む鉱石B,C,Dの3種類の粉鉱石それぞれ樹脂埋めし金蒸着させた試料を走査型電子顕微鏡(SEM,SHIMADZU SSX-550)にて鉱石粒子の観察を行い,さらにエネルギー分散型X線分析(SHIMADZU SEDX-500,以下EDSと称する)を用いて元素分析を行った。その時の分析条件は加速電圧:15 kV,分解能:10 eV/Ch,シェーピング・タイム:2 μs,電子プローブ径:4 μmである。

Fig.7に結果の一例として,SEM像およびEDSを用いて撮影した鉱石B,DのFe,Si,Alの各元素の特性X線像を示す。

Fig. 7.

 SEM images and characteristic X-ray maps of Ore B and D.

Fig.7より,鉱石B,D共にSiが単独で存在する場合と,SiとAlが共存する領域が存在していること分かる。ここには示していないが,鉱石Cの場合も同様な領域が存在していた。

Siが単独で存在している領域はSiO2が単相で存在しているものと考えられ,AlとSiが共存する領域は,粘土鉱物であるカオリナイト(Al2Si2O5(OH)4)として存在しているものと考えられる。また,そのカオリナイトは粒子表面近傍に多く分布し,その存在割合は定性的には鉱石B>C>Dの順であることも分かった。

以上のことから,乾燥後強度が湿潤強度を上回っている鉱石の成分にはカオリナイトとシリカが存在していることがわ分かった。さらに,前述した乾燥後強度の大きい順は鉱石B,C>Dであることから,乾燥後強度を向上させる成分はカオリナイトであると考えられる。

3. 造粒物の強度発現機構

乾燥後強度が湿潤強度を上回った鉱石には粘土鉱物のカオリナイトが含まれていた。また,乾燥後強度が特に高い鉱石B,Cには1 μm以下の微粒子が含まれていた。このことからこの章では,他の鉱物とは異なる傾向を示した鉱石Aに対し,粘土およびは試薬ヘマタイトを添加することによって強度が変化するかどうかを調べた。

3・1 試料および実験方法

鉱石には脈石成分をほとんど含まない高品位な鉱石Aを用いた。鉱石Aに添加する添加物として,粘土鉱物であるカオリナイトを含む粘土と試薬ヘマタイトをそれぞれ用いた。鉱石Aに対して粘土および試薬ヘマタイトをそれぞれ1 mass%,3 mass%,5 mass%になるように添加し,試料の総重量は500 gとした。造粒条件,添加水分量および造粒物の評価方法は2章と同様である。

Fig.8に使用した粘土のXRD分析結果を示す。この図より使用した粘土にカオリナイトとSiO2が存在することが分かった。

Fig. 8.

 X-ray diffraction pattern of clay.

Fig.9に使用した粘土および試薬ヘマタイトの粒度分布を示す。この図より,添加する粘土および試薬ヘマタイトの粒度分布はほぼ同じであり,また,粘土に含まれる1 μm以下の微粒子は約10%,試薬ヘマタイトに含まれる1 μm以下の微粒子は約13%であり,本実験で使用した粘土と試薬ヘマタイトの粒度分布および微粒子含有量はほぼ同じであると考えられる。したがって,粘土および試薬ヘマタイトを添加した造粒物に及ぼす粒度分布および微粒子の影響は小さいものと考えられる。

Fig. 9.

 Particle size distribution of Ore A, reagent Hematite and clay.

3・2 結果および考察

3・2・1 湿潤強度発現機構

Fig.1011に造粒物の湿潤状態での圧潰強度と造粒物の粒径の関係を示す。Fig.10は粘土を添加した場合,Fig.11は試薬ヘマタイトを添加した場合である。

Fig. 10.

 Wet compressive strength of particles added clay.

Fig. 11.

 Wet compressive strength of particles added reagent Hematite.

これらの図より,粘土や試薬ヘマタイトを添加しても,鉱石Aの湿潤状態での圧潰強度に及ぼす添加量の影響は小さいことが分かる。また,粘土を添加した場合の湿潤強度は,試薬ヘマタイトを添加した場合の湿潤強度と差がないことも分かる。この結果は,粘土鉱物および微粒子の添加は湿潤強度に影響を与えなかったことを示している。そこで,湿潤状態ではどのような力が造粒物内で働いているのか考察してみる。

一般に粉体粒子間力の主な付着力はvan der Waals力,静電引力,液体架橋力であると考えられている。まず,van der Waals力についての検討してみる。

湿潤状態は水分を含んでいるので,Fig.12に造粒物の水分量についての3つのモデルを示す。この3つのモデルで,(a)は最も水分が少なく粒子の凹凸に水分が入り込んだだけのペンデュラ−域と呼ばれる状態,(b)はファニキュラ−域と呼ばれる粒子の周りを水分が取り込んだ状態,(c)はキャピラリ−域と呼ばれる最も水分が多く粒子間の空隙をすべて水分が埋めた状態である。キャピラリ−状態になるまで水分を添加すると通気性が悪化18)し,焼結機内の歩留まりを下げてしまうと考えられる。したがって,今回の造粒実験では飽和水分量と呼ばれる“粒子を取り囲む最小限の水分量”を試料に添加している((b)にあたる)。粒子表面に水が付着する事によって,粒子間距離(あるいは粒子群間距離)が増大し,van der Waals力が影響しない程粒子間距離長くなったため,van der Waals力は寄与しなかったと考えられる。

Fig. 12.

 Stage of wetting of particle.

また,静電引力も同様に粒子間距離が増大し,静電引力が影響しない程粒子間距離長くなったため寄与しなかったと考えられる。

したがって,湿潤状態の粉体粒子間力の主な付着力は水の液体架橋力が支配的であったと考えられる。すなわち,添加した水の液体架橋力が支配的であったため,粘土および試薬ヘマタイトを添加した場合の造粒物の湿潤強度に差がなかったものと考えられる。

3・2・2 乾燥後強度発現機構

Fig.1314に造粒物の乾燥後の圧潰強度と造粒物の粒径の関係を示す。Fig.13は粘土を添加した場合,Fig.14は試薬ヘマタイトを添加した場合である。

Fig. 13.

 Dry compressive strength of particles added clay.

Fig. 14.

 Dry compressive strength of particles added reagent Hematite.

これらの図より粘土は添加量に応じて乾燥後強度が向上しているが,試薬ヘマタイトを添加した場合,添加量を増やしても乾燥後強度は変化していないことが分かる。また,Fig.3~5の鉱石B,C,Dの乾燥後強度と比較すると,粘土を3 mass%添加した乾燥後強度は鉱石Dの乾燥後強度と同程度,粘土を5 mass%添加した乾燥後強度は鉱石B,Cの乾燥後強度と同程度であることも分かった。

Fig.1516はそれぞれ粘土あるいは試薬ヘマタイトを1 mass%添加した造粒物の湿潤および乾燥後の圧潰強度を比較したものを示す。

Fig. 15.

 Wet and dry compressive strength of particles added 1 mass% clay.

Fig. 16.

 Wet and dry compressive strength of particles added 1 mass% reagent Hematite.

これらの図より,試薬ヘマタイトを添加した場合,湿潤強度が乾燥後強度を上回り,鉱石Aのみの場合の傾向と同様であった。一方,粘土を添加した場合,1 mass%添加しただけで乾燥後強度は湿潤強度を上回り,乾燥後強度に影響を与えたことが分かる。

ところで,一般に酸化物の最表面は-OH基で覆われており,接触している溶液のpHに依存して,表面は+にも−にもなり得る。酸化物の表面電荷数が等しくなる固有のpH(荷電ゼロ点:point of zero charge)が存在し,ヘマタイトの場合は8.0~9.019,20),マグネタイトの場合は6.519),SiO2の場合は1.8~2.519,20),Al2O3の場合は9.1~9.219,20),カオリナイトの場合は4.021)であると報告されている。

したがって,pH7の水の中では鉱石Aおよび試薬ヘマタイトは正の電荷に帯電しているものと考えられる。一方,pH7の水の中では粘土の主要鉱物であるカオリナイトとSiO2の粒子表面は負の電荷に帯電しているため,粘土も負の電荷に帯電していると考えられる。上述したように,湿潤状態では粒子は水に取り囲まれているが,乾燥する過程で水分が減少してくると,水あるいは水膜の表面張力によって粒子は引きつけられ,粒子間の接近が増大する。粒子間距離が静電引力の圏内まで接近すると,負の電荷を帯びた粘土粒子と正の電荷を帯びた鉱石粒子は静電引力で密着し,van der Waals力で強く結びつくと考えられる。一方,試薬ヘマタイトを添加した場合は造粒物の粒子はほぼFe2O3で構成されているため,正の電荷を帯びたFe2O3粒子には反発力が働き,Fe2O3粒子同士は結びつくことができないものと考えられる。以上の現象が造粒物内で起こるため,粘土を添加した場合のみ乾燥後強度が上昇したものと考えられる。

乾燥後に上記で示したような粒子の挙動が起こっているのかを調べるために,粘土を1 mass%添加した造粒物および試薬ヘマタイトを5 mass%添加した造粒物を樹脂埋めし,SEMで断面観察を行った。その観察結果をFig.17に示す。

Fig. 17.

 SEM images of granules added 1 mass% clay and 5 mass% reagent Hematite.

この図より,粘土を添加した造粒物では鉄鉱石粒子と粘土粒子が密着し,粘土粒子が鉄鉱石粒子同士を結び付けていることが分かる。一方,試薬ヘマタイトを添加した造粒物は粘土を添加した場合と異なり,鉄鉱石粒子と試薬ヘマタイト粒子間に隙間が存在し,鉄鉱石粒子と試薬ヘマタイト粒子が密着せずに鉄鉱石粒子同士を結び付けていないことが分かる。

したがって,乾燥後の強度は上述した機構によって発現するため,粘土を添加した場合のみ乾燥後強度が上昇したものと考えられる。

次に,鉱石Aに対して粘土を1,5 mass%添加した造粒物および鉱石B,C,D中に存在するカオリナイトの面積率を求め,乾燥後強度とカオリナイト量の関係を調べた。カオリナイトの面積率は,EDS分析で得られた元素マッピング画像を用い,140 μm×140 μmの画像5箇所(粘土添加の造粒物は10箇所)を画像解析することにより求めた。なお,EDS分析によりSiとAlが共存する箇所をカオリナイトとし,鉱石B,C,Dの場合は粒子同士の接触に関与すると考えられる粒子表面に存在するカオリナイトの面積率を,鉱石Aに対して粘土を1,5 mass%添加した場合は粘土中に存在するカオリナイトの面積率を求めた。

Fig.18に鉱石Aに粘土を1,5 mass%添加した造粒物および鉱石B,C,D中に存在するのカオリナイトの面積率と粒径6~8 mmの造粒物の乾燥後強度の関係を示す。なお,ここには示していないが,粒径6±0.5 mmおよび9±0.5 mmの造粒物の乾燥後強度とカオリナイトの面積率の関係もこの図と同様な関係が得られた。

Fig. 18.

 Relationship between area ratio of Kaolinite and compressive strength.

この図より,カオリナイトの面積率の増加に応じて乾燥後の圧潰強度が増加していることが分かる。また,カオリナイトの面積率が3%以上では乾燥後の圧潰強度は増加しなくなる傾向にあることも分かる。ところで,1 μm以下の微粒子は粘土に8 mass%,鉱石Bに11 mass%,鉱石Cに11 mass%,鉱石Dに0 mass%存在しているが,粘土を1 mass%添加した試料よりも鉱石Dの強度が2倍程度大きいことおよび粘土を5 mass%添加した試料と鉱石Bの強度が変わらないことから,乾燥後強度に及ぼす1 μm以下の微粒子の影響は小さいものと考えられる。したがって,カオリナイトの面積率が増加するにつれて乾燥後強度が増加するのは,鉱石粒子間の結合よりも強い粘土粒子と鉱石粒子間の結合の箇所が増加するためであると考えられる。また,カオリナイトの面積率が3%以上では乾燥後の圧潰強度は増加しなくなる傾向にあるのは,ここには示していないが粘土を5 mass%添加した造粒物では粘土粒子が鉱石粒子間の空隙をほとんど埋めていたことから,カオリナイトの面積率が3%程度で粘土粒子が鉱石粒子の周りを覆い尽くしたためであると考えられる。

4. 結言

脈石成分および脈石量の異なる鉄鉱石を用いて造粒実験を行い,造粒物の圧潰強度測定を行うとともに,粘土あるいは試薬ヘマタイトを添加することで造粒物の強度発現機構を調査し,以下の知見を得た。

(1)脈石成分や脈石量の異なる鉱石を用いた造粒物の強度を測定した結果,脈石量の少ない鉱石Aの場合,湿潤強度が乾燥後強度を上回った。一方,脈石成分を含むその他の鉱石B,C,Dは鉱石Aとは逆の傾向を示した。また,鉱石B,C,Dには共通して粘土鉱物であるカオリナイトを含有していた。

(2)粘土あるいは試薬ヘマタイトを添加した造粒物の湿潤強度は,粘土や試薬ヘマタイトの添加量を変化させても変化はなかった。これは湿潤強度には脈石成分や粒度の影響は小さく,添加した水の液体架橋による付着力が支配的なためであると考えられる。

(3)粘土あるいは試薬ヘマタイトを添加した造粒物の乾燥後強度は,粘土を添加することで向上した。この原因は,乾燥の過程で粒子間の水分が蒸発し,van der Waals力圏内まで粒子が接近する際に負に帯電した粘土鉱物と正に帯電した鉱石粒子が電気的作用で密着することによるものと推定される。

(4)鉄鉱石粒子表面のカオリナイトの面積率が増加するにつれて造粒物の乾燥後強度も増加するが,カオリナイトの面積率が3%以上では乾燥後の圧潰強度は増加しなくなる。これはカオリナイトの面積率が3%程度で鉱石粒子の周りを覆い尽くしたためであると考えられる。

文献
 
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