Tetsu-to-Hagane
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Effects of Si Solid Solution in Fe Substrate on the Alloying Reaction between Fe Substrate and Liquid Zn
Satoru Kobayashi
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2017 Volume 103 Issue 7 Pages 429-433

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Synopsis:

Effects of Si solid solution in Fe substrate on the formation of Fe-Zn intermetallic layers between the Fe(-Si) substrate and liquid Zn were investigated using a combinatorial technique. The formation of ζ-FeZn13 layer was promoted by Si solid solution upto 2 at.% in the Fe substrate but retarded by further Si solid solution. The formation of δ1-FeZn7-10 phase and Γ-Fe3Zn10 phase was retarded by Si solid solution upto 10 at.%. The investigations on the rate of Fe dissolution from the Fe substrate to the Zn liquid, the Fe and Si contents in the δ1 phase suggest that the retardation of the Fe-Zn intermetallic layer formation by Si solid solution in the Fe substrate is caused by the difficulty in the nucleation of δ1 phase in the lower Si contents less than 3 at.% and by the decrease in the rate of Fe dissolution to the Zn liquid in the higher Si contents.

1. はじめに

溶融亜鉛めっき鋼板は,亜鉛の犠牲防食作用による優れた耐食性および優れた生産性等の理由により,自動車車体用鋼板として利用されている1)。溶融亜鉛めっき鋼板のめっき/母材界面にはFe-Zn系およびFe-Al系の金属間化合物が合金層として形成され,それら合金層の相構成および構造がめっきの機械的特性に大きな影響を与えると考えられている。これまでに行われた合金層の構造,相形成に関する研究により1,2),0.15 wt.%程度の少量のAlを含むZnめっき鋼板の場合,まず,Fe-Al系化合物がめっき/母材界面に形成され,続いて,Fe-Al系化合物上またはそれを侵食しながらFe-Zn系の化合物がZnリッチのものから順に形成されることが分っている。

最近,鋼材の高強度化に伴い,高強度鋼に添加されるSiが溶融亜鉛めっきにおける合金化反応を遅滞させ,めっきプロセスの障害となる問題が顕在化している3,4)。Si添加による合金化反応遅滞の原因については,還元処理中の鋼板表面でのSi系酸化物の生成に起因するもの,Fe-Al系合金層への固溶による同合金層の拡散バリアとしての機能の強化に起因するもの,また,Fe-Zn合金層への固溶によるFeとZnの相互拡散の遅滞によるもの等の様々な指摘がなされている5,6)。しかしながら,それらの指摘は状況証拠に基づいた定性的なものが多く,以下の理由により,合金化反応に及ぼすSiの効果が十分理解されているとは言えない:

①合金層の形成には,酸化反応と合金化反応が関わり,それぞれの効果が区別しにくい。

②多元系での反応のため,どの段階のプロセスが鋼中のSiの影響を受けているのか必ずしも明確ではない。

③Siの分配挙動が明らかではない。

本報告では,溶融Znめっきの合金化反応の基礎となるα-Fe/L-Zn間の合金化反応に及ぼすSi添加の効果を抽出評価することを目的に,酸化反応とFe/Al間の合金化反応の影響を排除できる実験を設定した。具体的には,母材を想定したFe/Fe-Si合金拡散対試料表面に対して純Znを電析させた複合拡散対試料を準備して,合金化熱処理前後の合金化層の形成に及ぼす母材へのSi固溶の効果を調べた。

2. 実験方法

母材を想定したFe/Fe-Si合金拡散対試料は,純FeとFe-10 at.%Si(5.3 wt.%Si)2元合金を拡散接合し,Fe/Siの連続的な濃度勾配を導入することにより準備した。以後,断りがない限り各元素の濃度は原子濃度で表記する。純FeとFe-10%Si合金は4N純度のFeと6N純度のSiを溶解原料としてアーク溶解によりボタンインゴットに溶製し,所定のサイズに切断,表面研磨を行った後に面接触させた状態で,真空中900°Cにて200 hの熱処理(拡散熱処理)を施した。その後,Siの濃度勾配を導入した拡散対試料を表面研磨した後,電析法により約7 μmのZnを付着させた。電析はpHが1~2となる酸性浴で行った。合金化熱処理は,塩浴を用いて,450°Cにて10 sから60 sまでの時間行い,熱処理後は水冷した。

合金化熱処理前後の組織は電解放出型の走査型電子顕微鏡(FESEM)を用いて観察した。組織観察表面は,熱処理中の外周表面から約1 mm内部の断面に対して機械研磨および化学研磨または機械研磨および集束イオンビーム(FIB)を施すことで準備した。合金層中の各元素の濃度プロファイルは,試料断面においてエネルギー分散型X線分光器(EDS)を用いて分析した。濃度の定量化はZAF法により行った。各相の同定には,電子線後方散乱回折法(EBSD)を併せて利用した。

3. 結果および考察

3・1 拡散対試料におけるFe母材中のSi濃度プロファイル

Fig.1に拡散対試料の断面写真とFe母材において形成されたSiの濃度プロファイルを示す。拡散熱処理前では,写真左側は純鉄,右側はFe-10Si合金であった場所であるが,写真中央部の接合界面から左右数100 μmの範囲にSiの濃度傾斜が認められる。900°C/200 h熱処理によるSiの拡散距離を報告された拡散係数7)を用いて見積もると264 μmとなり,実験結果と良い一致を示す。Si濃度プロファイルは左右非対称であり,これはSiの拡散係数が高Si濃度程小さくなることを定性的に示唆している。

Fig. 1.

 Cross sectional micrograph and Si concentration profile in the Fe-Si substrate in the diffusion couple sample.

3・2 合金化処理後のFe-Zn合金層の観察と相の同定

Si濃度の異なる領域において形成された合金層を観察した。Fig.2およびFig.3に450°C/10 sおよび450°C/60 s合金化処理後に形成された合金層近傍の組織写真の例をそれぞれ示す。Fe-Zn合金層の相領域の決定は,電子顕微鏡組織,EDSによる濃度プロファイルおよびEBSDパターンの解析に基づいて行った。EDSにより得られた濃度プロファイルおよびEBSDパターンの例をFig.4に示す。

Fig. 2.

 Backscattered electron images of the intermetallic layers formed between the Fe-Si substrate and the liquid Zn at different Si contents in the substrate after an alloying heat treatment at 450°C for 10 s. The Si contents shown in the images are expressed by atomic percent.

Fig. 3.

 Backscattered electron images of the intermetallic layers formed between the Fe-Si substrate and the liquid Zn at different Si contents in the substrate after an alloying heat treatment at 450°C for 60 s. The Si contents shown in the images are expressed by atomic percent.

Fig. 4.

 Examples of phase identification for intermetallic phases: (a) Si=0%, 450°C/10 s, (b) Si=0.3%, 450°C/60 s.

η-Zn相からはhcp構造の鮮明なEBSDパターンが得られたが(Fig.4(a)),ζ相からは鮮明なパターンが得られなかった。それらの結果とFe/Zn濃度プロファイルを考慮して両相を区別した。δ1相からは六方晶系のEBSDパターンが得られた(Fig.4(a, b))。鉄側の合金層は,EBSDパターンおよびFe/Zn濃度比から一部Γ相と同定された(Fig.4(b))。しかし,Γ1相の有無については判断できず,そのため,δ1相のFeリッチ側の相境界の位置およびその組成は本研究では明らかになっていない。

3・3 合金層における相形成のSi濃度依存性

Fig.5およびFig.6に450°C/10 sおよび450°C/60 s合金化材において合金層を横切るように測定したFe/Zn濃度プロファイルをそれぞれ示す。450°C/10 s試料では,ζ相の形成はSiフリーの領域においては認められないが,1.4%Siにおいて認められるようになる。その生成量はSi濃度の増加に伴い一旦増加した後に低下する傾向を示す。このζ相の形成速度のSi濃度依存性の傾向は,溶融亜鉛めっき鋼板においても認められている8)。一方,δ1相の層厚みは,Si濃度の増加に伴い単調に低下する。この傾向も溶融亜鉛めっき鋼板において認められている6)。450°C/60 s試料では,低Si濃度の場合にはΓ相がFe側に認められるが,Si濃度の増加に伴いその厚みは薄くなる。

Fig. 5.

 The Fe/Zn concentration profiles along the intermetallic phase layers formed on the substrate at different Si contents after an alloying heat treatment at 450°C for 10 s: (a) 0%Si, (b) 1.4%Si, (c) 3.1%Si, (d) 4.5%Si, (e) 7.3%Si.

Fig. 6.

 The Fe/Zn concentration profiles along the intermetallic phase layers formed on the substrate at different Si contents after an alloying heat treatment at 450°C for 60 s: (a) 0.2%Si, (b) 0.4%Si, (c) 1.2%Si, (d) 2.4%Si, (e) 3.4%Si.

3・4 Feの溶出量の母材Si濃度依存性

Fe/Znめっきにおける合金化反応では,Znリッチの化合物から順に形成される。そのため,合金化の初期反応では,L-Zn(液相)側へのFeの溶出が合金化速度を支配する重要なプロセスとなると考えられる。そこで,合金化初期のFe/Zn濃度プロファイルより,Feの溶出量を評価した。具体的には,450°C/10 s試料の濃度プロファイルにおいて,Fe/合金層界面からめっき側10 μmのFe濃度の積分値(Fig.5中網掛けした領域の面積)を求めた。その結果を合金層の厚みと共に母相Si濃度に対してプロットしてFig.7に示す。Feの溶出量はSi濃度の増加に伴い一旦増加した後に低下する。この傾向は,ζ相の厚みのSi濃度依存性の傾向と定性的に一致するが,δ1相のそれとは一致しない。従って,Feの溶出量のSi濃度依存性はζ相の形成傾向を定性的に説明し得るが,低Si濃度側での合金化反応遅滞(δ1相の形成の遅滞)を説明できない。

Fig. 7.

 The Effect of Si contents in the substrate on the amount of Fe dissolution and the thickness of the intermetallic phase layers estimated from the Fe/Zn concentration profiles in Fig.5 in the sample heat treated at 450°C for 10 s.

3・5 δ1相中Fe濃度のSi濃度依存性

Fe/Zn濃度プロファイルの詳細な調査により,合金化初期に形成されるδ1相中のFe濃度が母材Si濃度に依存することが分った。δ1相中のFe濃度を母材Fe中のSi濃度に対してプロットしてFig.8に示す。合金化初期(450°C/10 s試料)では,δ1相中のFe濃度は,Siフリーの場合には8~10%であるが,Siが母材に1%以上固溶すると12%以上の値に上昇する。一方,合金化の進んだ450°C/60 s試料では,δ1相中のFe濃度は母材Si濃度に依存せず8~16%となる。δ1相の核生成がFe母材と過飽和なFeを含むζ相の界面で生じると考えると,得られた結果は,母材のSi濃度が増加するとδ1相の核生成に必要なFe濃度が高くなり,δ1相の核生成が遅くなることを示唆する。

Fig. 8.

 The dependence of the Fe content in the δ1 phase on the Si content in the substrate. The Fe content on the Fe rich side is only advisory. The hatched composition ranges correspond to those for the δ1p and δ1k phase regions at 450°C in the Fe-Zn binary phase diagram reported by Kainuma et al.7).

Kainuma and Ishida9)は,δ1相のδ1p相とδ1k相への相分離挙動について調べ,δ1相は約550°C以下において両相に相分離し,両相の組成域は450°Cにおいてそれぞれ8~9%および10.5~13%であると報告している。この報告を考慮すると,今回得られた結果は,Siフリーの場合にはFe濃度の比較的低いδ1p相が先に核生成した後にFe濃度の比較的高いδ1k相が生成するが,Siが母材に固溶した場合にはδ1p相よりもδ1k相が先に生成するとも考えられる。

3・6 Fe/Zn合金層の形成に及ぼす母材Si固溶の効果

以上の結果より,母材へのSi添加によるFe/Zn合金化反応の遅滞の原因として2つの原因が考えられる。一つ目の原因は,母材へのSi添加によりδ1相の核生成が生じにくくなることに起因するものである。二つ目の理由は,母材のSi濃度が3%以上の場合には,Si濃度の増加に伴いZn液相中へのFeの溶出速度が低下することによるものである。

以下では,母材へのSi添加により何故δ1相の核生成が困難になるのかについて考察する。Fig.9に合金層を横切るSiの濃度プロファイルの例を示す。いずれの相および合金化反応時間においても合金層へのSiの分配は少なく,Siが濃化した領域は認められなかった。また,特筆すべき点は合金層中のSi濃度が合金化時間の増加に伴い低下する点である。Fig.10δ1相中のSi濃度と母材Fe中のSi濃度の関係を示す。合金化時間の増加によるδ1相中のSi濃度の低下は明確である。また,合金化時間の違いによるδ1相中のSi濃度の差は,母材のSi濃度の増加に伴いより顕著になることも分かる。以上の結果より,δ1相は合金化反応初期では過飽和なSiを含み,熱力学的に不安定な状態となっていると考えられ,このことがδ1相の核生成を遅滞させた一因であることが示唆される。換言すれば,Fe-Zn系へのSiの混合によりδ1相の自由エネルギーが増加し,δ1相の生成に対する駆動力が低下したと考えることができる。

Fig. 9.

 The Si concentration profiles along the intermetallic phase layers at different conditions: (a) 450°C/10 s Si=3.1%, (b) 450°C/60 s Si=3.4%

Fig. 10.

 The relationship between the Si content in the δ1 phase formed on the alloying heat treatment and the Si content in the substrate.

Parott and Dauphin10)は,δ1相中のSiの固溶量は450°Cにおいて約1%であると計算しているが,10 sから60 sへの熱処理時間の増加により同Si固溶量が0.2%程度まで低下している本研究結果から,その信頼性は低いと考えられる。

4. まとめ

拡散対手法を用いてα-Fe/L-Zn間の合金化反応に及ぼす母材Fe中へのSi固溶の効果を調べ,以下の結果を得た:

(1)ζ相の形成は,母材Fe中への2 at.%程度までのSiの固溶により促進されるがそれ以上の固溶により遅滞する。δ1相およびΓ相の形成は,母材Fe中への10%までのSiの固溶によりSi濃度の増加に伴い遅滞する。

(2)L-ZnへのFeの溶出量は,Si濃度の増加に伴い一旦増加した後に低下する。

(3)合金化反応初期におけるδ1相中のFe濃度はSiの固溶に伴い増加する。

(4)δ1相中のSi濃度は合金化時間の増加に伴い低下する。

(5)以上の結果より,SiのFe母材への固溶によるα-Fe/L-Zn間の合金化反応の遅滞の原因として,低Si濃度側ではδ1相の核生成の遅滞,高Si濃度側ではδ1相の核生成の遅滞に加え,Feの溶出速度の低下が示唆された。

謝辞

本研究を遂行するにあたり,大阪府立大学 高杉隆幸教授および物質・材料研究機構(現 九州大学)津崎兼彰教授の支援を受けたので謝意を表する。また,試料作製に当たり,物質・材料研究機構 原由佳氏,原徹氏の協力を得た。感謝の意を表する。

文献
 
© 2017 The Iron and Steel Institute of Japan

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