Tetsu-to-Hagane
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Rising Behavior of an Inclusion in a Molten Steel under A.C. Magnetic Field Imposition
Asuka MaruyamaKazuhiko Iwai
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JOURNAL OPEN ACCESS FULL-TEXT HTML

2017 Volume 103 Issue 9 Pages 499-507

Details
Synopsis:

Induction heating of a molten steel in a channel enhances inclusion removal though its purpose is heating. Thus, the optimum operating condition have not been clarified until now. In this study, theoretical analysis and numerical calculation of the inclusion behavior under the imposition of A.C. magnetic field using simple 2D model have been investigated. The rising velocity of the inclusion gradually increases as it approaches to the upper surface because the dominant driving force in the center area of the molten steel is buoyancy force and that in the upper region is a pinch force. Approximate mathematical expressions of the inclusion trajectory have been derived under the consideration of these dominant force. And removal time of the inclusion has been also theoretically derived. The shielding parameter in the range of 5 - 10 is the optimum condition to minimize the inclusion removal time, because the pinch force is weak in the case of small shielding parameter and the electromagnetic force dominant region is limited only in the vicinity of the metal surface in the case of large shielding parameter. The optimum shielding parameter relates channel size with frequency. Increase in magnitude of the magnetic flux density is another method to decrease the inclusion removal time. The pinch force in the vicinity of the channel wall overcome a force by turbulence and Saffman force under a certain condition which can be realized in industry, thus the inclusion reaches the channel wall.

1. 緒言

鉄鋼製造において溶鋼中に生成するAl2O3をはじめとする介在物は,圧延加工時の表面疵1)や,線材加工時の断線2)等,歩留まり低下の原因となるだけでなく,材料の疲労強度の低下3),腐食疲労の促進4)等,材料の寿命を短縮させるので,その除去が必要である。従来,タンディッシュや連続鋳造機の鉛直部において,介在物の浮上分離除去5)が行なわれているものの,溶鋼中における介在物の浮上速度は介在物直径の2乗に比例するため,浮上速度の遅い微小介在物を除去するには,鋳片の引き抜き速度低下,すなわち,生産性の低下を招く。すなわち,浮上分離による介在物除去には限界があり,介在物除去のためのプロセスの研究・開発が盛んに行われている。しかしながら,一度に数百トンもの溶鋼を処理する鉄鋼製造現場において,溶鋼中に数多く存在するミクロンオーダーの介在物を除去し得る方法は限られる。

一方,電磁場を溶鋼に印加することで,溶鋼と介在物との電気伝導度の差に基づく力が介在物に働く6)。この力は介在物に直接作用する外力であるため,電磁場印加により溶鋼中における介在物挙動を積極的に制御できる。また,溶鋼中に存在する複数の介在物挙動を同時制御できるという特長がある。そのため,静磁場と直流電流との重畳印加7),移動磁場の利用8),電磁場と細管との組み合わせ9)等の研究がなされてきた。著者らは,交流電流と直流磁場を利用した振動電磁場印加により,介在物間の衝突頻度を促進させることで凝集を促し,浮上速度を向上させる方法を提案10)するとともに,適切な操作条件を示した11)

一方,タンディッシュ内の溶鋼温度低下防止のために,チャンネルを設けて交流磁場による誘導加熱を行うと,介在物が低減することが報告された12)。これは,チャンネル外側へ向かう向きの,電磁気力の反力が介在物に働くためであると推測されている。Taniguchiらは,既に実用化されている誘導加熱条件を対象として,周波数60Hzの交流磁場を印加された溶鋼中介在物の除去効率を理論的に推算したところ,直径65μm以上の介在物は95%以上除去できることを示した13)。Wangらは,周波数50Hzの交流電磁場印加下における介在物挙動の数値シミュレーションを行い,印加出力増大により介在物の除去率は向上し,その除去率の向上は,介在物直径が大きくなるほど顕著であることを見出した14)。しかしながら,これらの研究は既存の操業条件を対象としており,周波数は商用周波数に限定されているため,介在物除去の観点からの最適操作条件等は明らかではない。タンディッシュで採用されている方法は変圧器と同一原理であり,溶鋼通路を取り囲む鉄芯に交流磁場を与えることで,誘導電流を溶鋼内に誘起して,加熱する。一方,固体金属を対象として交流磁場による誘導加熱が工業的に広く利用されている。これは,被加熱体周囲に配置したコイルへの交流電流通電により誘起された交流磁場が,被加熱体内部に渦電流を生じさせることで昇温に至るものである。これらの違いは,誘導電流や磁場の向きであり,前者においては誘導電流が溶鋼通路軸方向で磁場は溶湯断面内で閉じるのに対して,後者では,誘導電流は溶湯断面内で閉じ,磁場が軸方向となる。それらの相互作用で生じる電磁気力はいずれも溶湯内部へ向かう向きとなり,介在物は壁面へと移動することとなる。従って,電流や磁場の向きは異なるものの,本質的には同一である。

本研究では,溶鋼中介在物除去の最適操作条件を得ることを目的として,交流磁場を印加された水平チャンネル内における溶鋼中介在物挙動の理論解析,および,数値計算を行った。

2. 解析

2・1 解析系

簡単化のため,円筒形のチャンネルではなく,鉛直上向きを正の向きとするy方向に2wの厚みを持つ板状の溶鋼の上下面から,水平方向であるx方向成分のみを有する周波数f,片振幅B0の交流磁場を印加する系を解析対象とする(Fig.1)。誘導電流の向きはz方向,溶鋼に働く電磁気力の向きはy方向となる。介在物には浮力と溶鋼に働く電磁気力の反力とが作用するが,いずれもy方向なので,y方向の運動を解析対象とした。計算に際して用いた溶鋼の物性値は,密度ρf=6958 kgm−3,粘度η=5.28×10−3 Pa・s,電気伝導度σ=7.2×105 Sm−1,であり,介在物としては電気絶縁性の球形Al2O3介在物を想定し,密度ρs=3880 kgm−3とした。また,透磁率μ=4π×10−7 Hm−1は全空間で一定とした。

Fig. 1.

 Coordinate system adopted in this analysis.

2・2 介在物に働く電磁気力と軌跡の計算方法

溶鋼中の磁場分布は,以下の(1)式に示す磁場の拡散方程式を(2)式の境界条件の下で解くことで求められる。その解を以下の(3)式に適用することで,任意の位置,時刻において溶鋼に働く電磁気力Fが求められる。   

B / t = ( 1 / σ μ ) 2 B (1)
  
B | y = ± w = ( B 0 cos 2 π f t , 0 , 0 ) (2)
  
F = J × B = ( 1 / μ ) ( × B ) × B = ( 0 , F , 0 ) (3)

ここで,Bは磁束密度,tは時間,Jは誘導電流を示す。上式の理論解は以下のとおりである。   

F = C 1 [ C 2 cos ( 4 π f t + α ) + sinh 2 ς sin 2 ς ] (4)
  
C 1 = ( B 0 2 R ω ) / [ 2 μ w ( cosh 2 R ω + cos 2 R ω ) ] (5)
  
C 2 = ( cosh 4 ς cos 4 ς ) [ ( cosh 2 R ω + cos 2 R ω ) 2 + sinh 2 2 ς sin 2 2 ς ] 2 ( cosh 2 R ω + cos 2 R ω ) (6)
  
α = π 4 arccos [ 4 sinh ς cosh R ω / 2 cos ς cos R ω / 2 + cosh ς sinh R ω / 2 sin ς sin R ω / 2 2 ( cosh 2 ς cos 2 ς ) ( cosh 2 R ω + cos 2 R ω ) ] (7)
  
ς = ( y / w ) R ω / 2 (8)
  
R ω = 2 π f σ μ w 2 (9)

ここで,Rωはシールディングパラメータと呼ばれる,溶鋼の上下面から印加された交流磁場の溶鋼中への浸透距離に対する,溶鋼中心から上面までの距離wの比の指標となる無次元数である。また,溶鋼に働く電磁気力である(4)式は,右辺第一項の周波数2fの振動力,第二項と第三項の和である溶鋼中心方向へ作用するピンチ力とで構成される。直径D,密度ρsの介在物のy方向の運動方程式は,次式で与えられる。   

d u d t = 1 ( ρ s + ρ f / 2 ) [ 3 C D ρ f 4 D u 2 9 D ρ f η π 0 t d u / d s t s d s + F m + g ( ρ f ρ s ) ] (10)

右辺第一項は粘性抵抗力,第二項はバセット力,第三項は溶鋼に働く電磁気力の反力,第四項は浮力を表す。第二項におけるCDは抵抗係数であり,今回は簡単のため,粒子レイノルズ数Res=ρsDu/η<1を満たすストークス域における抵抗係数CD=24/Resを用いる。右辺第三項の,溶鋼に働く電磁気力の反力Fmは,溶鋼に働く電磁気力Fの−3/4倍となる6)。時刻t=0 sのときy=0 mの位置にあるAl2O3介在物を対象に(10)式を4次のルンゲクッタ法で計算し,介在物の軌跡を求めた。

2・3 振動力,バセット力の有無の影響

介在物挙動の近似式を導出できれば,介在物の溶鋼上面への到達挙動や時間を予測できる。しかしながら,(10)式の解析解は得られない。そこで,(10)式の簡単化のために,溶鋼に働く電磁気力のうち振動力の反力((6)式のC2),および,(10)式のバセット力を無視できるか否かを確認した。

2・3・1 振動力の有無の影響

以降,溶鋼に働く電磁気力のうち振動力の反力を単に振動力と呼ぶ。まず,振動力の有無の影響を調べた。Fig.2は,w=0.075 m,B0=0.3 T,f=50 Hzとして,(A)振動力を考慮した有磁場,(B)振動力を無視した((6)式のC2=0)有磁場,(C)無磁場,のそれぞれの条件において,時間t=0 sのときy=0 mmに位置する直径D=100 μmの介在物軌跡を数値計算した結果を示す。(C)無磁場の場合,常に一定速度で浮上し,約23.6 sで溶鋼上面に到達する。これは,(10)式において介在物に働く粘性抵抗力と浮力とが釣り合い,約32 mms−1の一定速度で浮上すると仮定して理論的に求めた浮上時間と一致する。ここで,定常状態に達するまでの時間は0.1 ms以下と計算され,非常に短いので,慣性項である(10)式左辺は無視できる。有磁場の場合は(A)振動力有り,(B)無しのいずれも,ある臨界点(y=20 mm付近)を超えるまでは,無磁場の場合とほぼ同一の軌跡だが,それ以降は溶鋼上面に向かって加速する。有磁場の場合の溶鋼上面までの浮上時間は,振動力の有無によらず約12.1 sで,無磁場の場合よりも短くなる。溶鋼中心の拡大図(0 mm≦y≦0.2 mm)では,振動力有り,無しの線は重なっている。溶鋼上面の拡大図(73 mm≦y≦75 mm)より,(A)振動力有りの場合,介在物は(4)式における振動力の周波数2fである100 Hzで振動し,(B)振動力無しの場合,溶鋼上面までの浮上時間は振動力有りの場合に較べてわずかに過小評価することが分かる。過小評価の程度は後者基準で約0.01%以下であり,振動力の効果は小さいと言える。

Fig. 2.

 Effect of oscillating force on trajectories of 100 mm diameter inclusion under the condition that w=0.075 m, B0=0.3 T and f=50 Hz; (A) with magnetic field, with oscillation, (B) with magnetic field, without oscillation, (C) without magnetic field.

2・3・2 バセット力の有無の影響

2・3・1項と同一条件(D=100 μm,w=0.075 m,B0=0.3 T,f=50 Hz)で,バセット力の有無の影響を調べた。Fig.3に,(A)バセット力を考慮した有磁場,(B)バセット力を省略した有磁場,(C)無磁場,のそれぞれの場合の介在物軌跡を示す。バセット力の有無によらず介在物軌跡はほぼ同一である。溶鋼中心の拡大図(0 mm≦y≦0.2 mm)では,(A)バセット力有り,(B)無しの軌跡は重なっている。溶鋼上面の拡大図(74.6 mm≦y≦75 mm)から,(A)バセット力有りの場合は,(B)バセット力無しの場合よりもわずかに遅れて溶鋼上面に到達する。バセット力は溶鋼上面近傍で効くものの,バセット力の有無による溶鋼中心から上面までの浮上時間の差は0.005%以下と非常に小さい。以上を鑑みて,(10)式から介在物軌跡の近似式を導出する際には,振動力,バセット力,左辺の慣性項は省略する。

Fig. 3.

 Effect of Basset force on trajectories of 100 mm diameter inclusion under the condition that w=0.075 m, B0=0.3 T and f=50 Hz; (A) with magnetic field, with Basset force, (B) with magnetic field, without Basset force, (C) without magnetic field.

3. 介在物軌跡の近似式

3・1 運動方程式の無次元化

上述のとおり,(10)式における振動力,バセット力,左辺の慣性項を無視すると,介在物浮上の駆動力である,溶鋼に働く電磁気力のうちピンチ力の反力(以降,単にピンチ力と呼ぶ)および浮力の和と,抵抗力である粘性抵抗力とが釣り合う。その簡略された(10)式を,以下に定義する無次元時間 t ,無次元位置 y ,無次元磁場強度 B 0 を用いて無次元化した。なお,無次元時間 t は無磁場の場合(介在物には浮力のみ働く)における,溶鋼中心から上面までの浮上時間で規格化した。   

d y d t = 3 8 B 0 R ω ( cosh 2 R ω + cos 2 R ω ) [ sinh ( 2 R ω y ) + sin ( 2 R ω y ) ] + 1 (11)
  
t = D 2 g ( ρ f ρ s ) 18 η w t (12)
  
y = y w (13)
  
B 0 = B 0 2 μ w g ( ρ f ρ s ) (14)

無次元の浮上速度((11)式の左辺)は介在物直径の関数ではないものの,無次元時間は介在物直径の2乗に比例するので,実際の浮上時間は介在物直径Dの2乗に反比例することに注意を要する。また,(11)式の右辺第一項はピンチ力項,第二項は浮力項である。磁場分布の対称性からy=0でピンチ力は作用しないので,溶鋼中心近傍におけるピンチ力項は1よりも十分小さく,粘性抵抗力と浮力とが釣り合うこととなる。介在物の浮上につれてピンチ力は大きくなり,やがてある位置 y * (以降,釣り合い位置と呼ぶ)で浮力と等しくなる。釣り合い位置において,ピンチ力項は1に等しいので,以下の式が成り立つ。   

3 8 B 0 R ω ( cosh 2 R ω + cos 2 R ω ) [ sinh ( 2 R ω y * ) + sin ( 2 R ω y * ) ] = 1 (15)

(15)式は解析的に解けないものの,釣り合い位置 y * は数値的に求めることができる。釣り合い位置 y * を超えるとピンチ力項は1を上回り,浮力に置き換わってピンチ力が主要な駆動力となる。すなわち,粘性抵抗力とピンチ力とが釣り合う。

3・2 介在物軌跡の近似式

溶鋼中心付近では,(11)式のピンチ力項が1よりも十分小さいので,(16)式の初期条件を用いて介在物の軌跡を求めれば,(17)式が得られる。   

y = 0 a t t = 0 (16)
  
y = t ( y < y * ) (17)

溶鋼中心から釣り合い位置 y * までの無次元浮上時間 t * は次式で関係づけられる。   

y * t * (18)

一方,(11)式のピンチ力項が1よりも十分大きいとき,すなわち y >> y * のとき,(11)式は以下のとおり簡略化される。   

d y d t = 3 8 B 0 R ω ( cosh 2 R ω + cos 2 R ω ) [ sinh ( 2 R ω y ) + sin ( 2 R ω y ) ] ( y > > y * ) (19)

初期条件は以下の通りである。   

y = y * a t t = t * y * (20)

シールディングパラメータRωが1よりも十分大きい条件では,(19)式の解析解は以下の(21)式で与えられる。   

y = 2 R ω arctanh { exp [ ( t t * ) 3 B 0 4 2 R ω exp ( 2 R ω ) + L n [ tanh ( R ω 2 y * ) ] ] } (21)

Rω>1であっても,Rωが1に近い値をとる条件では,(21)式は介在物の無次元位置を過小評価する。すなわち,溶鋼上面までの浮上時間は過大評価される。

3・3 近似式の妥当性

以降,磁場の周波数と強度,チャンネルサイズについて議論するため,無次元磁場強度 B 0 ,シールディングパラメータRωをパラメータとする。対応する印加磁場の片振幅B0,周波数f,溶鋼中心から上面までの距離wTable 1に示す。

Table 1.  Shielding parameter, Rω and non-dimensional number of magnetic field, B 0 used in this analysis and corresponding conditions.
Rω
0.159 1.59 5 10 15.9 159
B 0 7.9 B0 (T) 0.3 0.3 0.3 0.3 0.3 0.3
f (Hz) 0.3 3 10 20 31 311
w (m) 0.3 0.3 0.3 0.3 0.3 0.3
14.1 B0 (T) 0.2 0.2 0.2 0.2 0.2 0.2
f (Hz) 5 50 156 313 500 5000
w (m) 0.075 0.075 0.075 0.075 0.075 0.075
31.7 B0 (T) 0.3 0.3 0.3 0.3 0.3 0.3
f (Hz) 5 50 156 313 500 5000
w (m) 0.075 0.075 0.075 0.075 0.075 0.075
56.3 B0 (T) 0.4 0.4 0.4 0.4 0.4 0.4
f (Hz) 5 50 156 313 500 5000
w (m) 0.075 0.075 0.075 0.075 0.075 0.075

Figs.4(a)−(c)に,無次元磁場強度を B 0 =31.7で一定,シールディングパラメータをRω=0.159,159,1.59,と変化させた場合の介在物軌跡の数値計算結果を,(17)式,(21)式で表される近似式と合わせて示す。なお,近似式の導出では慣性項,バセット力,振動力を省略したが,数値計算ではこれらを全て考慮した。Fig.4(a)に示すRω=0.159の低周波条件では,浮力とピンチ力との釣り合い位置 y * は約1.1と(15)式から計算される。すなわち,0≦ y ≦1の全範囲で(11)式のピンチ力項は1より小さく,浮力が支配的な駆動力なのでほぼ直線的に浮上する。(17)式の近似式はピンチ力を無視しているため,溶鋼上面への到達時間は数値計算結果より約3%遅いものの,両者はほぼ一致している。Fig.4(b)に示すRω=159の高周波条件では, y * は0.72と計算される。 y << y * y >> y * それぞれの領域における近似式である(17)式,(21)式は y * =0.72近傍を除いて数値計算結果とよく一致する。近似式による溶鋼上面までの浮上時間は数値計算より少し短くその差は約0.5%であった。Rω=1.59のときの結果をFig.4(c)に示す。このとき, y * =0.46である。浮力が支配的である y << y * の領域では,(17)式と数値計算結果とは比較的よく一致するものの, y * =0.46に近づくにつれて,(17)式は介在物浮上を過小評価するようになる。 y >> y * の領域において,(21)式は介在物位置を数値計算結果より溶鋼中心側へ評価しているので,溶鋼上面までの浮上時間は過大評価される。(21)式により求まる溶鋼上面までの浮上時間は,数値計算結果に較べて約4%の過大評価であった。

Fig. 4.

 Inclusion trajectory when B 0 =31.7; (a) Rω=0.159, (b) Rω=159, (c) Rω=1.59.

上述のとおり,今回の数値計算では簡単のため,ストークス域における抵抗係数CD=24/Resを用いた。この結果の妥当性検証のため,別途,以下の式で与えられるRes<6000での抵抗係数CD15)を用いて,介在物軌跡の数値計算を行った。   

C D = ( 24 / Re s + 0.54 ) 2 (22)

直径D=100 μm, B 0 =31.7,Rω=1.59の条件下では,溶鋼中心から上面までの無次元浮上時間の,ストークス域における抵抗係数を用いた場合の計算結果は,上記(22)式の抵抗係数を用いた場合よりも約8%過小評価することとなったものの,今回求めた近似式が,介在物のおおよその浮上時間を推定可能であることには変わらない。

4. 介在物挙動に対する操作変数の影響

シールディングパラメータRωが大きな高周波条件では,溶鋼上面近傍で大きなピンチ力が作用する一方,Rωの小さな低周波条件であれば,内部までピンチ力が作用するもののその強度は弱い。そこで,介在物除去最適化の指針を得るために,操作変数が介在物挙動に与える影響について検討した。具体的には,無次元磁場強度 B 0 ,シールディングパラメータRωをパラメータとして,ピンチ力,すなわち,(4)式においてC2=0として求めた溶鋼に働く電磁気力Fに−3/4を乗じた値Fm,pを計算し,浮力に較べてピンチ力が支配的となる領域,および,溶鋼中心から上面までの浮上時間について評価した。

浮力g(ρf-ρs)で無次元化したピンチ力Fm,pRω=0.159,1.59,15.9,159の各条件で計算した結果をFig.5に示す。ただし, B 0 =31.7を一定とした。Rω=0.159では,誘導電流がほとんど流れないので,どの位置においてもピンチ力は小さく,浮力が支配的であり,介在物除去に不適切である。Rω=159では,溶鋼内部では誘導電流はほとんど流れずに,溶鋼上面近傍で大きな誘導電流が発生するので,ピンチ力は溶鋼上面のみに集中し,著しく大きな値を示す。Rω=1.59と15.9の場合,両者の電磁浸透厚みは3倍程度しか異ならず,溶鋼厚みと同一オーダーなので,いずれも磁場は溶鋼中心まで浸透し,かつ内部まで誘導電流が発生するので,ピンチ力も比較的内部から大きな値を示すこととなる。なお,これら4条件の中では,Rω=15.9が溶鋼中心に最も近い位置から介在物に対するピンチ力の効果が顕在化する。すなわち,内部までピンチ力を作用させるには,周波数が高すぎても,低すぎても不適切であり,チャンネルサイズに合わせた適切な周波数が存在する。しかしながら,周波数が高くなるほど溶鋼上面近傍で作用するピンチ力は大きくなり,そこでの介在物の浮上速度は速くなるので,内部からピンチ力が作用する条件で介在物浮上時間が最短とは限らない。そこで,ピンチ力と浮力との釣り合い位置 y * ,および,溶鋼中心から上面までの無次元浮上時間 t r のそれぞれを,無次元磁場強度 B 0 とシールディングパラメータRωを変数として求めた。それらの結果をFig.6Fig.7に示す。Fig.6において,Rω=0.159のときには,磁場強度にかかわらず,常にピンチ力は浮力を下回るので,釣り合い位置 y * は1を上回ってしまい,この図には現れない。介在物に対してできるだけ溶鋼内部でピンチ力を作用させるためには,無次元磁場強度 B 0 を大きくして,シールディングパラメータをRω=5-10の範囲にすれば良い。Fig.7から分かるとおり,溶鋼中心から上面までの浮上時間 t r を短時間にするための条件も同一である。Rω=5-10における溶鋼中心から上面までの無次元浮上時間 t r は, B 0 =56.3で約0.32, B 0 =31.7で約0.38, B 0 =14.1で約0.48, B 0 =7.9で約0.56となり,磁場強度が強いほど浮上時間が短くなる。なお,Rω=0.159のときに,無次元到達時間が1を下回るのは,わずかながらピンチ力が介在物浮上に寄与するためである。以上のことから,溶鋼中心から短時間で介在物を除去するためには,(1)無次元磁場強度を強くすること,(2)Rω=5-10とすること,が適切な操作条件と言える。

Fig. 5.

 Distribution of pinch force normalized by buoyancy force.

Fig. 6.

 Effect of Shielding parameter on position at which pinch and buoyancy forces are balanced.

Fig. 7.

 Effect of Shielding parameter on rising time of inclusion.

今回の解析では,介在物に働くピンチ力は常に鉛直上向きとなる系を対象としたものの,実プロセスで用いられる円筒形チャンネルでは,介在物に作用するピンチ力はチャンネル半径方向外向きに働く。今回の解析結果は,チャンネル中心軸上に存在する介在物の浮上挙動に適用できる。また,チャンネル中央水平断面より上部ならば,介在物に働くピンチ力は浮力と同一方向成分を有するので,そこでの介在物挙動は今回の解析結果とよく似た傾向を示すと考えられる。ただし,チャンネル中心軸上以外に存在する介在物は,チャンネル中心軸上に存在する介在物と比べて,ピンチ力支配領域へ侵入するまでの移動距離が短く,それらの除去時間はやや短縮される。一方,チャンネル中央水平断面より下部では,介在物に働くピンチ力は浮力と逆向き成分を有する。介在物に働くピンチ力が浮力に対して十分に強くなるチャンネル壁近傍の領域における介在物挙動に対しては,今回の解析結果は適用可能である。しかしながら,介在物に働くピンチ力が浮力と近い強さになるチャンネル中央付近での介在物挙動に対しては適用できないので,別途,検討が必要である。また,チャンネル内全体の介在物除去に対する最適条件を明らかにするためは,チャンネル内全ての箇所における介在物挙動を総合的に評価する必要があり,これは今後の検討課題である。

5. チャンネル壁面近傍で介在物に作用する力

5・1 介在物に作用する力の評価方法

チャンネル壁近傍では,耐火物と溶鋼中に含まれるAl脱酸由来のAlが反応することで,Si,C,Oなどの濃度境界層が形成されるので,介在物が濃度境界層の内部に侵入すれば,界面張力勾配を駆動力として,介在物はチャンネル壁に引き寄せられる16)。一般的に,チャンネル内流れは乱流であり13,14),チャンネル壁近傍に速度境界層が形成されるが,その内部の粘性底層と濃度境界層は同程度の厚みなので,介在物がバルク側から粘性底層まで到達すれば,介在物は除去される。一方,速度境界層内部ではチャンネル壁から離れるにつれて流速が増大するので,介在物をチャンネル壁から遠ざける向きへサフマン力が作用する。このとき,ピンチ力がサフマン力を上回れば,介在物は粘性底層へ到達することとなる。また,乱流の乱れ成分による力はバルクから粘性底層への介在物の移動を阻害する。そこで,ここでは乱流の乱れ成分による力,サフマン力,ピンチ力の大きさを評価した。

以降,Fig.1における溶鋼中心から上面までの距離wは円筒チャンネルの半径に相当し,x軸はチャンネル軸方向,y軸は半径方向に相当するものと見なす。乱流の乱れ成分から受ける,介在物の単位体積当たりの力の大きさFtは,乱流の乱れ成分の二乗平均平方根を u ' f , y 2 とすると,次式で与えられる。   

F t = ( 18 η / D 2 ) u ' f , y 2 (23)

一方,円管を対象に乱流の乱れ成分の二乗平均平方根と摩擦速度utとの比, u ' f , y 2 / u t が実験的に求められている17)。そこで,参考文献(17)からチャンネル内流れのレイノルズ数がRe=(2wufρf)/η=5×104(w=0.075 m,uf=0.27 ms−1の条件に相当)のときの値を読み取った。境界層理論で現れる摩擦速度utは以下の式18)から求められる。   

u t = τ 0 ρ f (24)
  
τ 0 = d p d x w 2 (25)
  
d p d x = f D 4 w ρ f u f 2 (26)
  
f D = 0.32 Re 1 / 4 (27)

これらの関係から,乱流の乱れ成分の二乗平均平方根 u ' f , y 2 を求め,乱流の乱れ成分による力の大きさFtを評価した。

介在物の単位体積当たりに働くサフマン力の大きさFSaff.は以下のとおり求めた19,20)。   

F S a f f . = 9.72 π D ( u f , x u s , x ) η ρ f ( u f , x y ) (28)

ここで,uf,xはチャンネル軸方向の局所流速,us,xはチャンネル軸方向の介在物速度である。

サフマン力の大きさFSaff.の評価に必要な流速勾配∂uf,x/∂yは,以下の(29)式21),(30)式22)を用いた。   

y 2 = u t ( w y ) ρ f / η (29)
  
u f , x = [ 5.01 L n ( y 2 ) 3.05 ] u t 5 < y 2 < 30 (30)

ここで, y 2 はチャンネル壁からチャンネル中心軸方向への無次元距離である。ここで対象としたバッファー領域は5< y 2 <30の範囲であり,チャンネル直径w=0.075 m,チャンネル内平均流速uf=0.27 ms−1ならばチャンネル壁からの距離が約280 μm-1.7 mm(0.978< y <0.996)の領域となる。サフマン力の大きさFSaff.は,介在物に対する流体の相対速度,(uf,x-us,x)に比例するが,ここでは(31)式を採用することで,その最大値を求めた。   

( u f , x u s , x ) u f (31)

5・2 介在物に作用する力の比較

チャンネル直径w=0.075 m,チャンネル内平均流速uf=0.27 ms−1,無次元磁場強度 B 0 =31.7,シールディングパラメータRω=1.59,15.9としたときの,直径D=100 μmおよび10 μmのAl2O3介在物のそれぞれに働く単位体積あたりのピンチ力Fm,p,乱流の乱れ成分による力Ft,サフマン力FSaff.,浮力の大きさをFigs.8(a),(b)に示す。浮力は3.0×104 Nm−3である。Fig.8(a)に示すチャンネル壁近傍でのサフマン力は約5×105−1×106 Nm−3程度であり,乱流の乱れ成分による力は約5×104−1×105 Nm−3程度である。従って,介在物を粘性底層へ到達させるには,サフマン力以上のピンチ力が境界層で必要である。Rω=15.9ならば,介在物は確実に粘性底層へ到達し,除去される。商用周波数f=50 Hzに対応するRω=1.59のとき,サフマン力はピンチ力よりもわずかに大きくなる。この条件で介在物を確実に粘性底層へ到達させるには,0.35 T以上の磁場強度が必要である。しかしながら,粒子に対する流体の相対速度が(31)式より小さければ,介在物を除去し得る磁場は B 0 =31.7(B0=0.3T)より小さくてもよい。

Fig. 8.

 Comparison among pinch force, force by turbulence and Saffman force when B 0 =31.7, w=0.075 m, uf=0.27 ms–1; (a) Inclusion diameter, D=100 µm, (b) D=10 µm.

Fig.8(b)より,シールディングパラメータRω=1.59,15.9のいずれの場合も,チャンネル壁近傍で直径10 μmの介在物に作用するサフマン力や乱流の乱れ成分による力はピンチ力よりも大きくなることが分かる。直径10 μmの介在物を粘性底層へ確実に到達させるには,Rω=15.9で0.5T以上,Rω=1.59で1.1Tの強い磁場が必要である。チャンネル壁近傍でのサフマン力は5×106−1×107 Nm−3程度であり,ピンチ力はRω=15.9で4×106 Nm−3程度,Rω=1.59で 8×105 Nm−3程度なので,磁場強度0.3Tで介在物を粘性底層へ到達させるためには,前者で粒子速度が流体速度の3/5程度以上であればよく,後者であれば8%以上であればよいと推算される。この条件は,以下の式で表されるストークス数StがSt<<1となり介在物が流れに乗っていると見なせる場合に,十分起こりうる。   

S t = ρ s D 2 18 η T (32)

ここで,Tは代表時間である。サフマン力が働くのはバッファー領域なので,バッファー領域を通過するのにかかる時間を代表時間Tとする。数値計算結果から,バッファー領域を通過するのにかかる時間Tを求め,(32)式に代入したところ,Rω=1.59のときSt=1.1×10−4Rω=15.9のときSt=2.3×10−4となり,上記の条件を満たす。

6. 衝突頻度関数

直径10 μmの小さな介在物を除去し得るか否か不明な条件である無次元磁場強度 B 0 =31.7の場合においても,Fig.8(a)に示したとおり,直径100 μmの大きな在物は確実に粘性底層に到達して除去されるため,小さな介在物の一部は大きな介在物と衝突・合体し,大きな介在物と共に粘性底層に到達する可能性がある。そこで,交流磁場印加下における直径100 μmの介在物と10 μmの介在物との衝突頻度関数に及ぼす交流磁場印加の影響を評価した。計算条件は,5・2節で述べた,直径100 μmの介在物がピンチ力により除去され得る,無次元磁場強度 B 0 =31.7,シールディングパラメータRω=15.9を対象とした。計算に際して,介在物はチャンネル内流れの主流に乗ると仮定し,全ての介在物の水平方向の速度は同一であるとみなした。また,3・1節で述べたとおり,直径10 μmの介在物の鉛直方向の速度は,直径100 μmの介在物速度の100分の1と非常に小さいので,直径10 μmの介在物の鉛直方向の速度を零とした。

無磁場の場合,チャンネル内の乱流場における乱流エネルギー消散速度はε=3×10−4−2×10−3 m2s−3程度14)であると推定されるが,その条件下での直径100 μmと直径10 μmの介在物間の衝突は,乱流による衝突よりも,介在物直径の差に起因する浮上速度差による衝突が支配的になる11)。そこで,乱流による衝突は考慮せず,浮上速度差のみで介在物同士が衝突するとして,無磁場のときの衝突頻度関数を理論的に求めた。有磁場の場合については,直径100 μmの介在物が溶鋼中心から上面まで到達する時間を465分割し,各位置における介在物振動の20周期分の速度の平均を数値計算にて算出して衝突頻度関数を求めた。計算に際して,直径100 μmの介在物に働く振動力,バセット力などは全て考慮した。

交流磁場印加による衝突頻度関数の増加率γを,無磁場のときの衝突頻度関数に対する,有磁場のときの衝突頻度関数の比として計算した結果をFig.9に示す。交流磁場印加による衝突頻度関数の増加率γは,浮力とピンチ力との釣り合い位置 y * =0.37(Fig.5参照)のやや手前から急激に増加した。これは,ピンチ力によって加速される直径100 μmの介在物と,ほとんど動かないと見なした直径10 μmの介在物との速度の比率は磁場の有無によらず一定であるものの,速度差の絶対値が大きくなるためである。なお,衝突頻度関数の増加率γはストークス域における抵抗係数を用いた場合の値であり,上記(22)式の抵抗係数を用いた場合の値よりも過大評価しているが,傾向は変わらない。従って,小さな介在物は大きな介在物と衝突・合体することで,粘性底層へ到達し,除去される可能性がある。

Fig. 9.

 Increasing ratio of collision frequency function by imposing A. C. magnetic field in the case that diameters of the inclusions are 100 µm and 10 µm, B 0 =31.7 and Rω=15.9.

7. 結言

交流磁場による溶鋼誘導加熱プロセスにおける介在物除去のための操業指針を得ることを目的とし,浮力と同じ向きにピンチ力が働く交流磁場印加条件を解析対象として,介在物挙動の理論解析および数値計算を行った。得られた主な成果を以下に示す。

・溶鋼内部までピンチ力を作用させるには,周波数が高すぎても,低すぎても不適切であり,シールディングパラメータがRω=5-10を満たす周波数が適切である。

・チャンネル中心部から短時間で介在物を除去するための適切な操作条件は,(1)大きな無次元磁場強度,(2)シールディングパラメータの範囲が5-10,である。

・強度0.3Tの交流磁場を印加した場合,介在物をランダムに運動させる乱流の乱れによる力,チャンネル壁から離す向きに作用するサフマン力に較べて,100 μmの介在物に対してはチャンネル壁へ向かわせるピンチ力が大きくなり,10 μmの介在物に対してはチャンネル壁へ向かわせるピンチ力が小さくなる操業条件が存在する。そのような条件下でも,浮力に較べてピンチ力が大きな領域では,磁場印加により衝突頻度関数が増加するので,小さな介在物は大きな介在物と衝突・合体することで除去される可能性がある。

謝辞

本研究の遂行にあたり,大阪電気通信大学井口学教授には大変有用なご助言をいただきました。ここに記して感謝の意を表します。

文献
 
© 2017 The Iron and Steel Institute of Japan

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