Tetsu-to-Hagane
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Effect of Atmospheric Gas Composition on Gas Absorption during Tapping
Atsushi OkayamaYoshihiko Higuchi
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2017 Volume 103 Issue 9 Pages 508-516

Details
Synopsis:

The effect of atmospheric gas on gas absorption phenomena during tapping was studied by water model experiments. Atmospheric O2 gas composition around water stream was set as 20.9 (base), 11.0 and 4.0 vol% during tapping and changes of dissolved oxygen (DO) were observed. Experimental results were estimated with the kinetics formula considering dilution, volumetric coefficient (AkO) and saturated DO (CDO*). Experimental and calculated values were in good agreement with each other so that the utility of this method was confirmed.

Ar blow experiments were also estimated with the same method and atmospheric O2 gas consumption around plunge pool were discussed. Gas phase flow were visualized with volume fluid method (VOF) solver of OpenFOAM. In addition, O2 estimation model based on mass balance of oxygen was consisted. By using these methods, gas behavior around plunge pool were quantitatively discussed.

1. 緒言

製鋼工程において,溶鋼を別の容器に移し替える際に注入流が生じ,注入流が周囲のガスを巻き込むことで窒素ピックアップもしくは再酸化が生じることが課題となっている。転炉からの出鋼を考えた場合,注入流のガス吸収挙動は容器容量や注入高さといった設備面に依存する因子,溶鋼温度や成分といった操業面に依存する因子の他,出鋼孔の溶損具合や転炉の傾動角によって変化する溶鋼の注入速度といった両者不可分な因子が密接に関係している。

これまでに溶鉄系のガス吸収挙動に関する既往研究として,窒素を底吹きした際の窒素吸収挙動1,2,3,4),溶鉄への窒素吹き付けに伴う吸窒速度5),窒素吸収速度に及ぼす界面活性元素,圧力の影響6)といった研究が報告されており,気液間でのガス吸収メカニズムの解明が進められてきた。注入に伴うガス吸収を検討する場合,ガス吸収が生じている滝壷の観察,評価が不可欠であり,これまでに水,水銀を用いた注入流の到達深さ,空気巻込み量の推定式7)が報告されている。また,転炉出鋼時の溶鋼の広がりやガス巻込み量を考慮したガス吸収モデル8,9,10)が報告されているが,溶鋼系では出鋼時のサンプル採取の困難であることもあり,速度論的な検討が十分にされたとは言えない状況である。一方,化学工学の分野では水モデルを用いた注入流の直接観察11)やガス吸収挙動解析12,13)を始め,多くの研究が報告されているが,時間経過とともに容器内の液体量や落下距離が変化する状況が十分に解明されたとは言えない状況である。このような状況を踏まえ,著者らは前報14)にて転炉からの出鋼を模擬した水モデルを用い,容器内の水中溶存ガス濃度を連続測定することで注入中のガス吸収速度を算出し,注入高さやノズル径といった因子が注入時のガス吸収挙動に及ぼす影響を明らかにするとともに,注入時のガス吸収挙動が滝壷の生成に応じて,I:成長期,II:遷移期,III:安定期に分類でき,注入に伴う濃度希釈を考慮した吸ガス速度式で整理できることを示した。しかしながら,注入高さやノズル径を最適化したとしても溶鋼の移し替えの際に注入流が生じるのは不可避であることから,ガス吸収を抑制するには不活性ガス等を用いてガス吸収が生じている部分のガス分圧を低下させることが有効であると考えられる。この考えに基づき,連続鋳造時に取鍋からタンディッシュに溶鋼を注入する際はロングノズルを使って大気を遮断する15),もしくは,注入流周囲をAr雰囲気に保つことで窒素ピックアップや再酸化を抑制する対策16)が取られている。気相中のガス濃度の影響に着目して検討した例として,転炉出鋼の際に取鍋内にドライアイスを入置した状態で溶鋼を注入した研究17)が報告されている。この研究では,ドライアイスが気化して生じたCO2によって取鍋内雰囲気の窒素分圧が低下するとともに,酸化性ガスが存在することで溶鋼への吸窒が抑制されると考察されている。この研究で示されるように,注入流を大気遮断できれば吸窒を抑制できると考えられるが,傾動する転炉本体および台車を含む取鍋といった設備全体を非窒素雰囲気にすることは工業的に実現不可能であり,吸窒が生じる部分に限って局所的に窒素濃度(または,分圧)を低下させ,出鋼時の吸窒を抑えるのが効果的と考えられる。しかしながら,開放系の設備において窒素濃度(または,分圧)が低い状態を維持することは難しく,処理中にはガス濃度変化が生じるが,注入に伴うガス吸収挙動をガス濃度の変化と同時に取り扱った研究は見あたらない。

そこで,本報は,前報と同じ転炉出鋼を模擬した水モデルを用い,注入時の容器内ガス濃度を変化させた条件での注入中のガス吸収速度を実験的に算出するとともに,容器内のガス流出入挙動を数値計算および物質収支モデルで再現,検討することを試みた。

2. 実験方法

予め溶存酸素(Dissolved oxygen,以下DO)を低減した水を使って注入流を作り,転炉から取鍋に出鋼する際の溶鉄−窒素系のガス吸収挙動をWe数を揃えた水−酸素系の模型実験で再現した。溶鋼−窒素系と水−酸素系では温度や圧力といった条件が異なるものの,滝壷の生成および浴内に巻き込まれたガスが液体に吸収される反応のうち物質移動に関わる領域の挙動自体は系やサイズに依存しないと考えられる。容器内に注入される水は主に滝壷部で酸素を含むガスを巻込むことでDOが増加するため,注入中のDO測定実験を通して,転炉出鋼時の吸窒挙動に及ぼすガス成分の影響を検討できる。前報では,この水モデルを用いて注入高さやノズル径がガス吸収速度に及ぼす影響を調査し,希釈を考慮した吸ガス速度式で定式化した。しかしながら,前報は大気雰囲気での実験であり,容器内ガス濃度を変えた条件でもこの手法が適用できるかどうか確認できていない。そこで,容器内ガス濃度を変えた条件でのDO挙動を調査して吸ガス速度式の適用可否を検討した上で,さらに注入時に希釈ガスを導入することによりガス中酸素濃度を経時的に変化させた条件でのDO挙動を解析した。

2・1 転炉出鋼模擬水モデル

Fig.1に示すように,転炉を模擬した容器を上部に,取鍋を模擬した容器を下部に配置した水モデルを構築した。上容器の底部に設けたノズルおよびバルブを介して,上容器内の水を下容器に注入可能である。上下容器は同一中心軸上にあり,ノズルならびに注入流の落下位置は上下容器の中心から内径の1/4だけ離れた位置である。本実験の装置条件をTable 1に示す。溶鋼を模擬した水の量は上下容器合わせて0.055 m3であり,初期状態では上容器に0.050 m3,下容器に0.005 m3保持し,初期注入高さ(下容器内の水面からノズル下端までの距離)を0.80 mに固定した。内径φ14 mmのノズルを介して上容器から下容器に注入する際,両容器内に設置した溶存酸素計(TOA DKK製,DO-31P,以下DO計)でDOを1秒毎に連続測定した。飽和DOは水温に影響されることから,水温は293±1Kに調整した。また,下容器内のガス中酸素濃度を酸素濃度計(泰榮電器製,OM-25MF,以下O2計)で連続測定した。雰囲気は1 atmの大気下を基本としたが,下容器内ガスの初期酸素分圧を調整する場合には,上下容器間の空間を密閉し,空気の進入を遮断した状態で雰囲気調整用Arを導入した。雰囲気調整用Arの導入中,この密閉空間は大気圧に対してわずかにプラス圧を維持することにより,空気の侵入を防いだ。注入中に希釈用Arを吹き込む際は,注入流が通過可能なように中央部が開口しているリングを下容器上部に取り付け,そのリングの円周方向に均等に4分割した位置に取り付けた内径φ10 mmノズルから鉛直下向きにArを吹き込んだ。

Fig. 1.

 Experimental apparatus.

Table 1.  Experimental settings.
Item Setting
System Water-Oxygen
Volume of water 0.050 + 0.005 m3
Initial height (from water surface to bottom of nozzle) 0.80 m
Diameter of vessel φ400 mm
Diameter of nozzle φ14 mm
Initial DOupper, DOlower < 0.80 ppm
Temperature of water 293 ± 1 K
Atmosphere Air + Ar, 1 atm (O2=1~20.9 vol%)

実験条件をTable 2に示す。下容器内の初期ガス中酸素分圧が注入挙動に及ぼす影響を検討するため,Run.A,Run.BおよびRun.Cのガス中酸素濃度をそれぞれ20.9,11.0,および,4.0 vol%に設定し,DO挙動を調査した。また,注入中の希釈Ar吹き込みの影響を検討する為,Run.Dでは大気雰囲気にてリングに取り付けたノズル4箇所からArを0.0005 m3/s吹込み,Run.Eは予め下容器内をAr置換した状態から同様にArを吹き込んだ。

Table 2.  Experimental conditions.
Run A B C D E
Atmosphere Open Close Open
Ar replacement done
Ar flow rate (Nm3/s) 0.0005
O2 in vessel (vol%) 20.9 11 4 20.4 →5 < 1 →5

2・2 実験手順

予め,上下容器に所定量の水を満たし,所定の水温に調整するとともに,水中にArを吹込んでDOを0.80 ppmまで低下させた。注入を開始する前に下容器内ガスの酸素濃度を所定の値に調整した後,上容器底部のバルブを開けて注入を開始し,上容器の水が無くなるまでDOを連続測定した。下容器内のガス中酸素濃度を調整する際は,両容器間の密閉空間の酸素濃度が一定値になることをO2計で確認した後に水の注入を開始した。なお,注入中において,下容器内のガス中酸素濃度を測定する際は,O2計本体から分離させたセンサ部を下容器内に導入し,水平方向の位置は固定したまま水面の上昇に合わせてセンサ部を上昇させ,測定位置が常に水面上約40 mmになるように調整した。また,Run.A,DおよびEの条件において,下容器内の水量が0.020,0.030,0.040,0.050 m3となるタイミングで水面下約50 mm位置から注入流に巻き込まれた滝壷ガスを採取し,滝壷ガス中酸素濃度を測定した。

2・3 ガス吸収速度式

前報14)において,雰囲気ガス濃度が一定の条件で,注入中のガス吸収速度は,(1)式に示す希釈を考慮した形式の速度式で表せること,注入中の吸ガス容量係数AkOを(2)式から(4)式までの関係式を用いて算出することができること,を明らかにした。ただし,容器内の水量は(5)式,AkO_calc.は(6)式,Hp_calc.は(7)式を用いて求めた。本報では同様の手法を用いて注入中のDO挙動を解析し,ガス中酸素濃度を変えた条件であっても(1)式が適用できるかを確認するとともに,注入中に下容器内に希釈ガスを導入することによりガス中酸素濃度を時間変化させた際のDO挙動を解析した。   

d C DO d t = A k O _ obs . V t ( C DO * C DO ) + C DO u Q t ρ V t (1)

ただし,CDO:下容器側の溶存酸素濃度(ppm),AkO_obs.:吸ガス容量係数(m3/s),V:下容器内の水の体積(m3),Q:注入流の質量流量(kg/s),ρ:水の密度(kg/m3),CuDO:上容器側の溶存酸素濃度(ppm)であり,右肩の*は飽和状態を示す。上付きの添え字が無い場合は下容器内の値を表し,上付きのuを添えた場合は上容器内の値を表すものとする。また,下付きの添え字tは時間を表す。   

I : Growth ( 0 < H p _ obs . / H p _ calc . < 0.5 ) A k O _ obs . / A k O _ calc . = 15.53 ( H p _ obs . / H p _ calc . ) 4.19 (2)
  
II : Transition ( 0.5 H p _ obs . / H p _ calc . < 0.85 ) A k O _ obs . / A k O _ calc . = 1.05 ( H p _ obs . / H p _ calc . ) 0.31 (3)
  
III : Steady ( 0.85 H p _ obs . / H p _ calc . ) A k O _ obs . / A k O _ calc . = 1.00 (4)
  
v 0 = 2 g h (5)
  
A k O _ calc . = 3.1 10 4 N s 0.77 d 0 0.1 L s 0.5 (6)18)
  
H p _ calc . = 1.20 v s 0.77 d 0 0.625 L s 0.094 (7)18)

ただし,Hp:水面からの気泡到達深さ(m),v0:ノズル取付位置での注入流速(m/s),g:重力加速度(=9.81 m/s2),h:上容器側のノズル取付位置と上容器の水面との間の鉛直方向距離(m),Ns:注入に伴う動力(N),d0:ノズル直径(m),Ls:注入流の長さ(m),vs:水面位置における注入速度(m/s)である。

3. 実験結果

3・1 ガス中酸素濃度の影響

下容器内のガス中酸素濃度を変えて調査したRun.AからCの注入中の下容器内のガス中酸素濃度および滝壷ガス中酸素濃度の経時変化をFig.2に示す。大気中での実験であるRun.A,周囲からの空気の進入を遮断することで下容器内のガス中酸素濃度を調整したRun.BとCの何れにおいても,ガス中酸素濃度の注入中の変化は観察されなかった。また,Run.Aにおいて,滝壷ガス中酸素濃度の変化も見られないことから,気泡からのガス吸収に伴う酸素濃度変化は僅かであり,Run.BおよびCに関しても滝壷部で巻き込まれた滝壷ガス中の酸素濃度は下容器内のガス中酸素濃度とほぼ同じと見なして良いと考えられる。

Fig. 2.

 Changes of O2 in lower vessel and plunge pool during tapping (Run.A~C).

そこで,滝壷ガスの酸素濃度を(1)式に代入しDOの計算値を求めた。ここで,(1)式中の飽和DO濃度は水に溶解できる酸素濃度であり,ヘンリーの法則に従ってガス中の酸素分圧に比例することに加え,水温や溶存塩類濃度に影響を受ける。下容器内のガス中酸素濃度20.9,11.0,4.0 vol%を酸素分圧に換算し,水温を293 K,溶存塩類濃度を0 mg/Lとし,測定位置での水圧および水蒸気圧を無視してヘンリーの法則に基づき計算するとそれぞれCDO*=8.80,4.64,1.69 ppmが得られる。これらを(1)式に代入して得た計算結果をFig.3に示すが,DO測定値と良く一致した。以上から,下容器内のガス中酸素濃度を変えた条件でも(1)式の適用が可能であると考えらえる。

Fig. 3.

 Changes of DO in lower vessel during tapping (Run.A~C).

3・2 Ar吹込み条件

注入中にリングに取り付けたノズルから希釈用Arを吹込んだRun.DおよびEの下容器内のガス中酸素濃度および滝壷ガス中酸素濃度をRun.Aの結果と合わせてFig.4に示す。Fig.4には,Run.DおよびEのDO測定値から逆算して求めた滝壷ガス中酸素濃度の計算値を破線で示す。Run.Dでは注入開始時に20.4 vol%であった下容器内のガス中酸素濃度が時間経過と共に徐々に低下し,注入末期には5 vol%まで低下した。また,予め下容器内をAr置換したRun.Eでは注入開始時には1 vol%未満であった下容器内のガス中酸素濃度が時間経過とともに徐々に増加し,注入末期には5 vol%まで増加した。空気とArの密度はそれぞれ1.29,1.78 kg/m3(273 K,1 atm)であり,Arは空気よりも重いが,下容器内で混合された空気とArの混合ガスの一部は下容器上部から排出される一方で,注入流に随伴して空気が下容器内に流入する。注入末期は下容器のほとんどが水で満たされ,Run.DとEはノズルから吹込むAr流量が同じであるため,注入末期の下容器内のガス中酸素濃度は近い値になったと考えられる。一方,Run.DとEの滝壷ガス中酸素濃度の挙動はRun.Aと異なり,時間経過とともに下容器内のガス中酸素分圧よりも高くなる挙動を示した。このことから,滝壷ガスには下容器内のガスが多く含まれるものの,注入流に随伴して容器外の空気が流入していることが示唆される。また,DO測定値から求めたガス吸収サイトでの酸素濃度は下容器内のガス中酸素濃度よりも高く,注入流近傍のガス中酸素濃度に近かった。Run.DおよびEの注入中のDO挙動をFig.5に示す。Fig.5には,ヘンリーの法則が成り立つとして実測した下容器内のガス中酸素濃度から飽和DOを与えた条件で算出したDOの計算値を細線で示した。また,後述する酸素濃度推定手法で求めた滝壷ガス中酸素濃度から飽和DOを与えて算出した計算DOを太線として合わせて示す。実測した下容器内のガス中酸素濃度をもとに再現したDOの計算値(細線)は,Run.D,Eの両者ともに実測したDO挙動よりも低くなる傾向となったが,注入流周囲のガス中酸素分圧をもとに再現したDOの計算値(太線)は実測したDO挙動を概ね再現できた。これらの結果から,ガス濃度が変化する条件で注入中のガス吸収挙動を検討するには,主なガス吸収サイトと考えられる滝壷,もしくは滝壷に巻き込まれるガスが存在する注入流周囲のガス濃度を把握する必要があることが分かった。

Fig. 4.

 Changes of O2 in lower vessel during tapping (Run.A,D,E).

Fig. 5.

 Changes of DO in lower vessel during tapping (Run.A,D,E).

4. 考察

注入に伴うガス吸収挙動を考える場合,滝壷周囲を含む容器内のガス濃度を見積もることはガス吸収現象を正しく理解する上で非常に重要である。注入時は,注入流に巻き込まれる形で容器外の空気が下容器内に流入するとともに,注入に伴う下容器内の液面高さ上昇によって下容器内のガスが押し出されて雰囲気へ排出される。また,不活性ガスを吹き込む条件では,下容器内に吹き込んだガスの分だけ下容器内のガスが下容器外へ排出される。さらに,下容器内に不活性ガスを導入する条件では,注入流に巻き込まれるガス成分に不活性ガスが加わるためガス吸収挙動はより複雑になる。この時,水モデルにおいては滝壷に巻き込まれるガスを採取して分析することもできるが,実操業を想定した場合,巻き込まれたガスの採取はおろか注入流周囲のガスを採取することも極めて難しい。そこで,数値計算を用いてArを吹込む条件で容器内のガス流れを可視化するとともに,水モデルにおいてArを吹込む条件での容器内のガス中酸素濃度を検討できる簡便な推定手法を構築した。

4・1 Ar吹込み時の容器内ガス流れ

酸素濃度推定手法を構築するにあたり,数値解析に有用な種々の機能のライブラリで構成されるCFDプラットフォームであるOpenFOAMを用いて,注入時の下容器内およびその上部領域でのガス流れを可視化した。注入現象は液相中にガスが巻き込まれる現象であることから,Volume of Fluid法による混相流ソルバであるcompressibleInterFoamを用いた非定常解析を行った。支配方程式を(8)式から(14)式に示す。   

ρ t + ( ρ u ) = 0 (8)
  
( ρ u ) t + ( ρ u u ) = P + Θ + f s t + ρ g (9)
  
ρ T t + ρ u T α T + ( ( u P ) + ρ K t + ( ρ u K ) ) ( F C v _ l + 1 F C v _ g ) = 0 (10)
  
F t + ( F u ) = 0 (11)
  
ρ = ρ l F + ρ g ( 1 F ) (12)
  
ρ l = c o n s t . (13)
  
ρ g = P / ( R T ) (14)

ここで,ρ:密度(kg/m3),u:流速(m/s),P:圧力(Pa),Θ:粘性応力(kg/(m2・s2)),fst:表面張力項(kg/(m2・s2)),ρl,g:密度(kg/m3),T:温度(K),α:熱拡散係数(kg/(m・s)),K:K=1/2・|u|2F:液相のvoid率(−),Cv_l,g:定容比熱(J/(kg・K)),R:気体定数(J/(kg・K))である。

境界および計算格子をFig.6に,境界条件をTable 3に,解析条件をTable 4に示す。計算格子は下容器および上容器底部までの空間を対象とした。これまでにも注入流をCFDで解析した例19,20)が報告されているが,注入流へのガス巻き込みの再現と計算負荷を勘案し,注入流周囲の格子サイズを2.5 mmとし,格子数は1160549とした。解析はRun.D,Eの条件を再現した水−Ar系とし,リングに取り付けたノズル4箇所(Inlet2)からArを0.0005m3/sで吹込む状況を再現した。注入流を流入させる境界条件として,(5)式から求まる上容器からの水の流速をもとにノズル(Inlet1)から供給する水の流速を時間変化させて与えた。

Fig. 6.

 Boundary and mesh.

Table 3.  Boundary conditions.
Pressure Velocity Liquid ratio
Inlet1 zero gradient fixed value 1
Inlet2 zero gradient fixed value 0
Outlet fixed value zero gradient zero gradient
Wall fixed value no slip zero gradient
Table 4.  Simulation settings.
Item Setting
Solver OpenFOAM 2.3.1 compressibleInterFoam
Time marching Euler explicit
Convection term scheme upwind method
Temperature 293 K
Fluid density liquid: 1000 kg/m3, gas: 1.78 kg/m3
Fluid viscosity liquid: 0.854 mPa·s, gas: 0.0184 mPa·s

計算結果の例として,下容器内の水量が0.030 m3となる注入開始後58秒時点での流速ベクトル分布をFig.7に示す。下容器内のガスの平均流速は0.10 m/s程度で,注入流周囲のガスが引き込まれるように注入流に向けて流れており,下容器外からの空気が滝壷周囲に供給される様子が判明した。一方,注入流と中心線を挟んで反対側には下容器から上向きのベクトルが見られる。また,容器内は注入流およびリングに取り付けたノズルから吹込んだArによって複雑な流れが形成されており,滝壷近傍とその周囲では絶えずガスの循環が生じていることが分かった。Fig.8に示すように,リング設置位置の水平断面におけるガス流速の垂直成分(Uy)に着目すると,注入流近傍は下向き流れが生じているが,その強い下向きの流れは注入流に近い部分に限られていることが分かった。一方,注入流から離れたリングに近い部分では上向き,すなわち下容器からガスが流出する流れが生じており,下容器内のガスが流入,流出を繰り返していることが分かった。また,Fig.9に示すように液面から30 mm位置での水平方向のガス流速(Uxz)に着目すると,滝壷から離れた位置でも比較的大きな流速が得られており,下容器内でガスが混合されていることが分かった。

Fig. 7.

 Gas-liquid interface and flow vector. (Online version in color.)

Fig. 8.

 Distribution of Uy at a top of lower vessel. (Online version in color.)

Fig. 9.

 Distribution of Uxz near water surface. (Online version in color.)

4・2 ガス中酸素濃度推定モデル

数値計算で検討した下容器内のガス流れから下容器内を,注入流が通過することに伴い雰囲気から空気が流入してくるRegion1,Arが吹きこまれるとともに周囲の領域とガスが混合する領域としてRegion2に大別した。これら領域に雰囲気および滝壷を加え,Fig.10に示したガスの移動を物質収支モデルで検討した。滝壷にはRegion1と同じ濃度のガスの巻込みと浮上が同時に生じると仮定し,Region1,Region2それぞれの体積をV1およびV2(m3),酸素濃度をO1およびO2(vol%)と置くと,各領域での酸素量の変化速度を(15),(16)式のように表すことができる。

Fig. 10.

 Schematic representation of gas flow.

Region1   

d ( V 1 O 1 ) d t = O 2 Q Ex O 1 Q Ex + O Air Q Air O 1 Q Air O 1 Q W ε O 1 Q En + O 1 Q En (15)

Region2   

d ( V 2 O 2 ) d t = O 1 Q Ex O 2 Q Ex O 2 Q Ar O 2 Q W ( 1 ε ) (16)

ただし,QEx(m3/s):Region1とRegion2間のガス交換流量(m3/s),OAir:空気中の酸素濃度(=20.9 vol%),QAir:空気侵入流量(m3/s),QAr:Ar吹込み流量(m3/s),QW:水面上昇に伴うガス流出流量(m3/s),QEn:Region1と滝壷間のガス流入出量(m3/s),ε:Region1の体積割合(%)である。

Region1に着目すると,Region2からO2QExの酸素が流入するとともに,同流量でO1QExの酸素がRegion2に排出される。また,容器外からOAirQAirの酸素が流入する一方で,同じ流量でO1QAirの酸素が容器外に排出される。さらに,注入に伴う水面上昇に応じて,O1QWεの酸素が容器外に排出される。Region1ではO1QEnの酸素が滝壷に巻き込まれ,またRegion1に戻ってくる流入出が生じている。Region2に着目すると,Region1からO1QExの酸素が流入するとともに,同流量でO2QExの酸素がRegion1に排出される。吹込んだAr中には酸素が含まれていないためAr吹込みによる酸素増加は生じないが,Ar吹込み速度と同流量でO2QArの酸素が容器外に排出される。また,注入に伴う水面上昇に応じて,O2QW・(1-ε)の酸素が容器外に排出される。ただし,今回の検討では各領域において完全混合を仮定し,温度変化に伴う気体の体積変化は考慮しなかった。本報では,(15),(16)式に測定値を代入し,酸素濃度変化速度に影響するεや到達酸素濃度に影響するQAirを決定し,Region1およびRegion2での酸素濃度挙動を再現した。なお,実際には容器内には濃度分布が生じているが,この取り扱いにより容器内の複雑な濃度分布を簡素化し,容器内の領域としてRegion1とRegion2を仮定した際のガス中酸素濃度挙動を検討できる。本手法はガス種に依存しないことから,溶鋼系で吸窒挙動を検討する際にもガス濃度変化を簡便に見積もる手法として適用できると考えられる。

4・3 容器内酸素濃度の経時変化

始めに,下容器内をAr置換しないでArを0.0005 m3/s吹込んだRun.Dにおける下容器内のガス中酸素濃度挙動を解析する。測定したAr吹込み位置近傍のガス中酸素濃度,滝壷に巻き込まれたガス中酸素濃度を,後述する条件を代入して算出した計算酸素濃度と合わせてFig.11に示す。Fig.11中の黒塗りプロットは滝壷に巻き込まれたガス中酸素濃度でRegion1に対応し,白抜きプロットは下容器内のAr吹込み位置近傍のガス中酸素濃度でRegion2に対応する。ここで,Region1およびRegion2ともに注入末期は注入終了に伴い上容器からの水の供給が無くなる。また,注入末期は水面位置が安定することで雰囲気からの空気流入とArによる希釈がバランスして,酸素濃度変化が小さくなると考えられる。このため,注入末期のRegion2では(16)式の左辺および右辺第4項は0と置けることから,(16)式は(17)式のように書き換えられ,さらに(17)式を整理すると(18)式のように書き換えられる。   

0 = O 1 Q Ex O 2 ( Q Ex + Q Ar ) (17)
  
O 1 = O 2 ( 1 + Q Ar Q Ex ) (18)

Fig. 11.

 Changes of O2 in lower vessel during tapping (Run.D).

(18)式に,注入末期でのO1=11.2 vol%,O2=5.4 vol%,さらにQAr=0.0005 m3/sを代入すると,QExは0.000465 m3/sと算出された。さらに,Run.Dの初期酸素濃度Oini=20.4 vol%として,Fig.11に示す酸素濃度挙動を再現可能なεおよびQAirを求めるとそれぞれε=0.35,QAir=0.00027 m3/sと算出された。Run.Dの解析結果では,QArQExがほぼ同じ流量であり,QArのおよそ半分の流量の空気が容器内に流入していることになり,滝壷周囲とのガス交換,注入に伴う空気巻込みが頻繁に生じていることが明らかとなった。さらに,この時のεQExQArQAirはそのままに,OiniのみをRun.Eの測定値である1.0vol%に変えて求めた酸素濃度挙動を,測定値および推定値のプロットとともにFig.12に示す。ここで,Fig.12中の黒塗りプロットは滝壷に巻き込まれたガス中酸素濃度でRegion1に対応し,白抜きプロットは下容器内のAr吹込み位置近傍のガス中酸素濃度でRegion2に対応する。本手法を用いることでRun.Eの下容器内のガス中酸素濃度挙動および滝壷ガス中酸素濃度挙動を概ね再現できた。また,Fig.5に太線で示したように,本手法で算出した滝壷ガス中酸素濃から求めた計算結果は実測したDO挙動を精度良く再現できており,本手法の有用性が確認できた。

Fig. 12.

 Changes of O2 in lower vessel during tapping (Run.E).

推定モデルを使って算出したQArQAirおよびQWから求めた下容器と雰囲気間の流入出量と注入開始後59秒時点での数値計算の結果の比較を試みた。推定モデルでの流出量は0.00115 m3/s,流入量は0.00027 m3/sに対し,数値計算の流出量は0.00194 m3/s,流入量は0.00120 m3/sであり,数値計算の方が推定モデルよりも0.008 m3/s程度大きい結果であった。(15),(16)式において容器外から流入するのはQAirのみであり,その時の酸素濃度OAirは空気中の酸素濃度としたが,容器上部では雰囲気とのガス交換に至らない範囲で,同じ濃度のガスによる循環が生じていると考えられる。この循環に伴う移動量をQCirとおくと(15),(16)式はそれぞれ(19),(20)式となり,酸素収支としてはキャンセルされて0となるがガス移動量はQCir分だけ多くなる。数値計算の方が推定モデルよりも流入出量を大きく算出するのはQCirを含めて計算しているためであり,容器内に流入するガスの3/4程度は元々容器内にあったガスの流入出に起因するものであることが示唆された。   

d( V 1 O 1 ) dt = O 2 Q Ex O 1 Q Ex + O Air Q Air O 1 Q Air ( O 1 Q W + O 1 Q Cir O 1 Q Cir )ε O 1 Q En + O 1 Q En (19)
  
d ( V 2 O 2 ) d t = O 1 Q Ex O 2 Q Ex O 2 Q Ar ( O 2 Q W + O 2 Q Cir O 2 Q Cir ) ( 1 ε ) (20)

本報では,滝壷周囲での酸素濃度を考慮した反応解析を行い,水−酸素系においてガス吹込み条件での注入中の吸ガス挙動を概ね再現できた。本解析手法を溶鋼−窒素系に適用することを考えた場合,水−酸素系では考慮していなかったガス温度の影響に伴うガスの体積変化が生じることで現象はより複雑になることが予想されるが,本報で構築した手法に温度の影響を組み込むことで溶鋼−窒素系への適用も可能であると考えられる。今回の解析では数値解析を用いることで下容器内のガス流れを可視化したが,ガス濃度を考慮した解析,すなわち下容器内が空気で満たされた状態でArを吹込んだ条件でのガス濃度分布を再現するまでには至っていない。また,滝壷部での気泡巻き込みを表現するには滝壷部での格子の解像度を高めることが必要である。数値計算は近年高精度化ならびに大規模化されてきており,今後はますます適用範囲が広がると予想され,注入現象をより深く検討するためにも数値計算とモデル化を組み合わせた解析が進むことが期待される。

5. 結言

転炉出鋼を模擬した水モデルを用い,ガス濃度が異なる条件における注入時のガス吸収速度を調査した。実験結果をもとに,滝壷周囲の酸素濃度挙動を推定する物質収支モデルを構築し,数値計算結果と比較することで容器内のガス流入出挙動を検討した。その結果,以下の知見を得た。

(1)ガス濃度が異なる条件における注入時のガス吸収挙動を,滝壷深さHpと吸ガス容量係数AkOに基づいた手法で再現でき,本手法の有用性が確認できた。

(2)水モデル実験結果から逆算して算出したAr吹込み条件における滝壷部の酸素濃度は,その周辺で測定した酸素濃度よりも高く,容器外から空気が供給されていることが推定された。この時のガス流れを数値計算で再現し,注入流周囲のガスが注入流に引き込まれて滝壷周囲に供給される様子が判明した。

(3)容器内の酸素の物質収支に基づいたガス中酸素濃度推定モデルを用いて,注入流が通過する領域およびArを吹込む領域の酸素挙動を再現できた。推定モデルで得た流速と数値計算結果を比較した結果から,注入時に容器内に進入するガスの内訳は,注入流に巻き込まれて容器内に流入する大気中の空気が1/4,容器内に存在していたガスが再度進入するものが3/4程度と見積もられた。

文献
 
© 2017 The Iron and Steel Institute of Japan

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