Tetsu-to-Hagane
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Forming Processing and Thermomechanical Treatment
Influence of Injection Distance on Water Droplet Behavior in High Pressure Descaling
Yuta Tamura Satoshi UeokaYukio KimuraKazuhisa Kabeya
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2018 Volume 104 Issue 10 Pages 577-584

Details
Synopsis:

Hydraulic descaling is used in hot rolling mills in order to remove scale and prevent surface defects. Because the impact pressure of the descaling jet is one important factor from the viewpoint of mechanically breaking and applying thermal shock to scale layers, the water jet structure and the droplet velocity should have large effects on scale breaking properties. However, the influence of the injection distance on the jet structure and the droplet velocity has not been clearly understood. In this work, the behavior of changes in the descaling jet structure and attenuation of the water droplet velocity along the injection distance were investigated experimentally. High pressure descaling nozzles with pressures up to 25 MPa were used, and the injection distance was varied in the range from 30 to 400 mm. The jet structure was observed with a high speed camera, and the water droplet velocity and diameter were measured with a phase Doppler analyzer. It was confirmed that the jet structure changes continuously through a process of continuous flow, break-up, water lump, and water droplet. It was found that a continuous flow can be kept for a long distance by using a low injection pressure and large flow rate, and the water droplet diameter also becomes larger, which reduces velocity attenuation. These deformation properties of the jet structure are related to the Weber number expressed by the relative velocity between a water droplet and the surrounding air. A smaller Weber number is effective for reducing velocity attenuation over a long injection distance.

1. 緒言

鋼板の熱間圧延工程では表面欠陥の発生を防止するため,加熱炉内で生成する一次スケールや圧延中に生成する二次スケールを高圧デスケーリングによって除去している。特に近年,自動車用鋼板などの表面品質に対する要求はますます厳しくなりつつあり,高圧デスケーリングによるスケール除去技術は重要となっている。

高圧デスケーリングによるスケール剥離機構は高圧水の衝突による機械的応力や水冷却による熱応力が影響すると言われており1),高圧水の噴射圧力や流量が大きいほど2,3),ノズルから鋼板までの距離が短いほど4)スケールが剥離し易いとされている。高圧デスケーリングによるスケール剥離機構は未だ不明な点があるものの5),デスケーリング能力を評価するにあたり高圧水の衝突圧力が有効な指標の一つであることが示されており6),ノズルから鋼板までの距離が長くなると液滴速度が減衰するため衝突圧力が小さくなることが知られている。一方,ウォータージェット加工の分野で用いられるアルミニウムなどの軟質金属の壊食量から衝突圧力や壊食能力を評価する手法7)がデスケーリングの能力評価にも用いられており6),ノズルから鋼板までの距離が近すぎると壊食量が減少して衝突力が低下することを示唆する結果が示されている7)。一般的に高圧の水噴流では液滴が衝突する際は水撃力が発生するが8),噴射初期は連続流であるため発生する衝突圧力は動水圧となり,液滴衝突時よりも衝突圧力が数倍小さくなる9)。したがって,高圧デスケーリングにおいて高い衝突圧力を得てスケール除去能力を確保するためには,ノズルから噴射される高圧水の飛行中の挙動や液滴速度の減衰特性を把握することが重要であると言える。

ノズルから噴射される流体の微粒化機構に関しては,気液間の相対速度に基づく界面の不安定変動によって連続流が分裂し,液体の破断と凝集などが基本要素となって微粒化すると一般的に言われており10),その分裂特性はノズルの種類や噴射条件,液体の種類などによって変化する。また,スプレー水のような液膜の分裂は様々なモデルが提案されており1114),周囲気流との速度差によって発生するせん断力によって液膜が分裂し1113),分裂した液膜が表面張力によって液柱状となり,液柱もやがて分裂して液滴が生成するとされている14)。しかしながら,このような微粒化現象は非定常性が強く,非常に複雑であり,特に高圧デスケーリングのように扇状に噴射されるようなノズルに着目した研究は少ない。扇状ノズルの噴流特性としてファインスリットノズルによる衝突圧力の減衰特性が報告されているが15),噴射距離が液滴速度や液滴挙動に及ぼす影響は明確ではなく,高圧で扇状に噴射されるデスケーリング水の飛行中の挙動や速度の減衰特性は十分に解明されていない。

本研究では,高圧デスケーリングにおいて噴射距離が液滴挙動や液滴速度に及ぼす影響を調査するため,噴射圧力や噴射流量を系統的に変化させて高速度カメラによる液滴挙動の観察と位相ドップラー法1618)による液滴速度と液滴径の測定を実施し,高圧デスケーリングにおける流体の基礎特性を調査した結果について報告する。

2. 実験方法および実験条件

2・1 高速度カメラによる流体挙動の観察

デスケーリングノズルから噴射された流体の挙動を調査するため,高速度カメラによる観察を行った。実験装置をFig.1に,実験条件をTable 1に示す。デスケーリングスプレーの噴射幅方向中央部をライトで照射しながら,高速度カメラにて撮影した。高速度カメラはPHOTRON社製のFASTCAM SA-X2にNikon社製の拡大レンズAF Micro-Nikkor 200 mm f/4Dを付けて使用し,フレームレートを30万fps,露光時間0.29 μsとした。撮影サイズと画素はそれぞれ7 mm×2.2 mm,256×80ピクセルとしており,空間分解能は27.3 μm/ピクセルである。

Fig. 1.

Experimental set-up for high speed camera.

Table 1. Experimental conditions in laboratory test.
Effects of pressure Effects of water flow rate
Injection pressure 10, 15, 25 MPa 15 MPa
Water flow rate 7.35 × 10–4 m3/s 3.67, 13.82, 22.00 × 10–4 m3/s
Injection distance 30, 60, 90, 120, 150, 200, 300, 400 mm
Spray angle 40°
Water temperature 30 °C

実験は水温を30°Cに保った貯水槽からポンプで水を供給し,デスケーリングノズルから鉛直方向下向きに広がり角40°で扇状に高圧水を噴射した。噴射圧力と噴射流量の影響をそれぞれ調査するため,噴射流量を7.35×10−4 m3/sに揃えて噴射圧力を10~25 MPaに変化させた条件と,噴射圧力を15 MPaに揃えて噴射流量を3.67~22.00×10−4 m3/sに変化させた条件で実験した。これらは圧力と流量条件ごとにスプレーノズルのオリフィス径が異なるデスケーリングノズルに変更することで行い,撮影はノズル噴射口から鉛直下向きの噴射距離30~400 mmの範囲で行った。

2・2 位相ドップラー法による液滴径と速度の測定

デスケーリングノズルから噴射された高圧水の液滴径や液滴速度を調査するため,位相ドップラー法による測定を行った。実験装置をFig.2に示す。なお,実験条件はTable1と同様である。レーザー粒子分析計はTSI社製のPDPA(Phase Doppler Particle Analyzer)装置を用い,レーザー発振器はCOHERENT社製のINNOVA70Cを使用した。レーザーの波長は514.5 nm,ビーム径は1.77 mmである。実験はデスケーリングノズルから鉛直方向下向きに高圧水を噴射し,スプレーの噴射厚みと幅方向の中央部に焦点を合わせて測定した。測定点はノズルを駆動機構によって,噴射方向と厚み方向の2軸を個別に移動させることで合わせた。測定は測定点数が一万点となるまで行い,液滴径は得られた粒径分布から式(1)で算出されるザウター平均粒子径D32と式(2)の算術平均粒子径D10を評価し,液滴速度Vwは測定した全粒子の速度の平均値として評価した。

  
D 32 = i n i d i 3 i n i d i 2 (1)
  
D 10 = i n i d i i n i (2)
  
V w = i n i V i i n i (3)

Fig. 2.

Experimental set-up for phase Doppler method.

3. 実験結果

3・1 高速度カメラによる流体挙動の観察結果

高速度カメラで撮影した画像の一例として,噴射圧力Pと噴射流量Qがそれぞれ15 MPa,7.35×10−4 m3/sでの各噴射距離における流体挙動の変化をFig.3に示す。黒色部がデスケーリング水であり,噴射距離Hが30 mmにおいて流れは連続的であるが流体界面が乱れており,この乱れは噴射直後から観察された。噴射距離60 mmでは連続流の破断が発生しており,120 mmで破断した流体がせん断されて液塊状に分裂している。さらに噴射距離が離れるにつれて,液塊は分裂と合体を繰り返しながら徐々に小さい液滴となっており,様々な大きさの液塊や液滴が混在している。これらの結果は一般的な噴流の微粒化過程と同様であるが,液滴速度が大きいため液塊や液滴の形状は球形ではなく,噴射方向の上流側に尾を引くような形状となっており,周囲空気との相対速度が大きい時に見られるせん断型の微粒化過程と特徴が類似している19)

Fig. 3.

High speed camera images. (P=15 MPa, Q=7.35×10–4 m3/s)

噴射流量7.35×10−4 m3/sにおいて噴射圧力10 MPaと25 MPaを比較した結果をFig.4に示す。噴射圧力10 MPaでは噴射距離60 mmでも完全に破断するには至っておらず,連続流領域が長くなっている。また噴射距離400 mmで比較すると,噴射圧力が高い25 MPaの方が液滴径は小さい傾向にあった。次に,噴射圧力15 MPaで噴射流量3.67~22.00×10−4 m3/sを比較した結果をFig.5に示す。噴射流量が増加するほど連続流が破断する距離が長くなり,液滴径も大きくなっている。特に噴射流量22.00×10−4 m3/sでは,噴射距離400 mmでも流体は主に液塊状態として存在していた。

Fig. 4.

Effect of injection pressure on water droplet behavior. (P=10, 25 MPa, Q=7.35×10–4 m3/s)

Fig. 5.

Effect of water flow rate on water droplet behavior. (Q=3.67×10–4, 13.82×10–4, 22.00×10–4 m3/s, P=15 MPa)

上記のように高圧水の噴射条件によって連続流や破断流,液塊,液滴が発生する噴射距離が異なり,流体の分裂特性に差が生じている。特に破断流や液塊,液滴が発生する距離が短い条件ほど空間に占める空気の割合,すなわちボイド率が大きい傾向にあった。そこで,本試験では高速度カメラの画像を二値化処理してボイド率を定量化することで流体の分裂特性を評価した。なお,評価したボイド率は二次元であり,噴射厚み方向を含めた体積占有率は評価していない。高速度カメラ画像の二値化処理結果の一例をFig.6に,各噴射距離におけるボイド率をFig.7に示す。デスケーリング水を扇状に噴射しているため噴射距離が離れるにしたがってボイド率は増加していくが,噴射圧力が高く,噴射流量が小さいほどボイド率が高い傾向となった。

Fig. 6.

Binary image of high speed camera image. (Injection distance 60 mm, Q=3.67×10–4 m3/s)

Fig. 7.

Relationship between injection distance and void fraction.

3・2 液滴径と液滴速度の測定結果

位相ドップラー法により得られた液滴速度と平均液滴径の測定結果の一例として,噴射圧力15 MPa,噴射流量7.35×10−4 m3/sでのザウター平均粒子径と平均流体速度の測定結果をFig.8に示す。噴射距離が長くなるにつれて液滴径が小さくなっており,連続流や破断流の領域では速度の減衰は小さく,液塊領域から徐々に速度の減衰が大きくなっていることがわかる。特に噴射距離200 mm以上の液滴径が小さい領域では速度の減衰が大きい。

Fig. 8.

Influence of injection distance on Sauter mean diameter and mean velocity. (P=15 MPa, Q=7.35×10–4 m3/s)

噴射圧力が液滴速度や液滴径に及ぼす影響として,噴射流量7.35×10−4 m3/s,噴射圧力10 MPa~25 MPaにおける各噴射圧力のザウター平均粒子径と平均液滴速度の結果をFig.9に示す。噴射圧力が高いほど液滴速度の減衰が大きく,Fig.4の高速度カメラの観察結果と同様に液滴径が小さくなっている。最後に,噴射流量の影響として噴射圧力15 MPaにおける3.67~22.00×10−4 m3/sの各噴射流量のザウター平均粒子径と平均液滴速度の結果を比較した結果をFig.10に示す。噴射流量が大きいほど液滴速度の減衰が小さく,Fig.5の高速度カメラの観察結果と同様に液滴径が大きくなっている。

Fig. 9.

Effect of injection pressure on Sauter mean diameter and mean velocity. (Q=7.35×10–4 m3/s)

Fig. 10.

Effect of water flow rate on Sauter mean diameter and mean velocity. (P=15 MPa)

4. 考察

4・1 噴射圧力や流量が液滴速度の減衰に及ぼす影響

噴射圧力や噴射流量が液滴速度の減衰に及ぼす影響を考察する。デスケーリングノズルから噴射された液滴は重力,浮力,抗力を受け,液滴が球形であると仮定すると液滴の挙動は以下の運動方程式(4)で表現される。ここで,浮力は重力と比較して小さいため無視している。また,本試験の範囲では式(9)で表される液滴レイノルズ数は650~2500のニュートン域の範囲であるため抗力係数CD値は0.4とした20)

  
m w d V w d t = m w g D (4)
  
m w = 1 6 ρ w π d 3 (5)
  
D = 1 2 ρ a V w 2 ( 1 a ) 2 A C D (6)
  
A = 1 4 π d 2 (7)
  
a = V a V w (8)
  
R e = V w d ν (9)

記号の定義は以下のとおりである。

t:時間(s),mw:液滴重量(kg),g:重力加速度(9.8 m/s2),D:抗力(N),d:液滴径(m),ρw:水の密度(kg/m3),ρa:空気の密度(kg/m3),CD:抗力係数(0.4),Vw:液滴速度(m/s),Va:周囲空気の速度(m/s),a:スリップ比,ν:空気の動粘性係数(m2/s)

空気中の液滴は周囲空気を随伴しながら飛行して周囲空気との相対速度の2乗に比例した抗力Dを受けるため,液滴速度の減衰を考える上で周囲空気との速度差は非常に重要である。しかしながら,周囲空気の速度Vaは未知数であり本実験では測定できていない。そこで,周囲空気の速度と液滴速度の比としてスリップ比aをフィッティングパラメーターとして導入し,液滴速度を測定値から逆計算することで 液滴速度と周囲空気の速度比を求めた。式(4)を変形すると,液滴速度の時間変化は式(10)で表わされる。

  
d V w d t = g 3 4 d C D V w 2 ( 1 a ) 2 ρ a ρ w (10)

式(10)から,液滴径dが小さいほど液滴速度の減衰dVw/dtが大きくなることがわかる。液滴径と周囲空気の速度は逐次変化して液滴速度の減衰に影響するが,これらの時間変化を考慮して初等解析から液滴速度を求めることは難しい。そこで,液滴径に測定値を用い,スリップ比をフィッティングパラメーターとして液滴速度を差分計算によって算出した。ある時刻の液滴速度と噴射距離はそれぞれ式(11),式(12)のようになる。

  
V w i + 1 = V w i + d V w d t Δ t (11)
  
x i + 1 = x i + V w i Δ t + 1 2 d V w d t Δ t 2 (12)

式(11)と式(12)において,液滴径として算術平均液滴径D10の測定値を噴射距離に対して近似した式を用い,時間刻みΔtを1 μsとして液滴速度を計算した。ここで,実験で評価した液滴速度は算術平均値であるため,液滴速度と液滴径の関係を対応させるため液滴径として算術平均液滴径を用いた。計算は噴射距離120 mm以上の液塊,液滴領域で実施し,液滴速度の初期値として噴射距離120 mmでの平均流速の測定値を用いた。

噴射距離に対してスリップ比aを一定として,解析結果と測定値を比較した。比較結果をFig.11に示す。噴射圧力や流量ごとに異なるスリップ比とすることで解析結果と測定値は良い一致を見せている。まず噴射圧力の影響を検討したFig.11(a)について,求めたスリップ比を噴射圧力で整理した結果をFig.12に示す。噴射圧力が高いほどスリップ比が小さくなっており,すなわち液滴と周囲空気との速度差が大きくなることが示されている。Fig.9(b)で示した通り噴射圧力が高いほど液滴速度の減衰が大きいが,これは高圧ほど噴射速度が大きいため周囲空気との相対速度が大きくなり,式(4)中の抗力Dが大きくなったためと考えられる。さらに,周囲空気との速度差が大きいと気液界面に発生するせん断力が大きくなるため,Fig.9(a)のように液滴径が小さくなって,液滴速度の減衰がさらに促進されたと考えられる。

Fig. 11.

Comparison of mean velocity between simulations and experiments.

Fig. 12.

Relationship between injection pressure and slip ratio.

次に噴射流量の影響を検討したFig.11(b)について,求めたスリップ比を噴射流量で整理した結果をFig.13に示す。大流量ほどスリップ比が大きくなっており,液滴と周囲空気との速度差が小さくなることが示唆されている。Fig.10(b)で示した通り噴射流量が大きいほど液滴速度の減衰が小さいが,これは噴射流量が大きいほど周囲空気への随伴力が増大して,周囲空気の速度が大きくなることで液滴と周囲空気の相対速度が小さくなり,抗力が小さくなったためと考えられる。また,周囲空気との相対速度が小さいと気液界面に発生するせん断力が小さくなって液滴が微細化しにくくなるため,Fig.10(a)のように液滴径が大きくなって,液滴速度の減衰がさらに抑制されたと考えられる。

Fig. 13.

Relationship between water flow rate and slip ratio.

Fig.11ではスリップ比は噴射距離に依らず一定値として考えたが,噴射距離に応じてスリップ比をフィッティングした解析結果の一例をFig.14に示す。噴射距離が長くなるにつれてスリップ比を小さくした方が解析結果は測定値とより良く一致した。これは高速度カメラ画像や液滴径測定結果からもわかるように,噴射距離が長くなるにつれて液滴径が小さくなり,かつ扇状に噴射しているため単位体積当りの液滴密度も小さくなるため,周囲空気に対する随伴力が低下して周囲空気の速度が小さくなることを示唆している。なお,本解析で得られたスリップ比は液滴が球形とした場合の値であるが,実際の液滴形状は完全な球形になっていないため,厳密には誤差を含んだ結果となっている。

Fig. 14.

Effect of injection distance on slip ratio. (Q=13.82×10–4 m3/s, P=15 MPa)

以上のように,スリップ比をパラメーターとして解析結果と測定値を比較した結果,噴射圧力が低いほど,また噴射流量が大きいほどスリップ比が大きくなり,すなわち液滴と周囲空気の相対速度が小さくなって液滴速度の減衰が抑制されることが示された。

4・2 噴射圧力や流量が液滴径に及ぼす影響

噴射圧力や噴射流量が液滴径に及ぼす影響について考察した。液滴の分裂は式(13)の液滴ウェーバー数Weが指標となり,液滴ウェーバー数が大きいほど液滴が分裂しやすい。液滴が分裂に至るかどうかの臨界条件は,液滴と気流の接触の仕方や液滴径によって異なるものの,一般的にWe≧10と言われている21)

  
W e = ρ a d ( V w V a ) 2 σ (13)
  
V a = a V w (14)

ここで,σは表面張力(N/m)である。前節で求めたスリップ比と液滴径として平均液滴径D10の測定値を用いて液滴ウェーバー数を求めた。各噴射距離における液滴ウェーバー数の結果をFig.15に示す。まず噴射圧力の影響を検討したFig.15(a)について,噴射圧力が高いほど液滴ウェーバー数が大きく,噴射圧力25 MPaではいずれの噴射距離でもWe>10であり分裂し易い条件であるのに対し,噴射圧力10 MPaでは噴射距離200 mm程度の位置からWe≦10となっており分裂しくい条件となっている。これはFig.4の高速度カメラ画像やFig.9(a)の液滴径測定の結果と定性的に一致している。次に噴射流量影響Fig.15(b)に関しては,噴射距離150 mm程度の比較的短い距離では3.67×10−4 m3/sの方が7.35×10−4 m3/sより液滴ウェーバー数が大きくなっているものの,大流量で液滴ウェーバー数が小さい傾向となっている。特に噴射流量22.00×10−4 m3/sでは噴射距離200 mm程度の位置からWe≦10となっており分裂しくい条件となっている。これはFig.5の高速度カメラ画像やFig.10(a)の液滴径測定の結果と定性的に一致している。一方,300 mm以上の比較的長い距離では大流量ほど噴射速度が大きいこともあり,液滴ウェーバー数の大小関係は逆転しているが,いずれもWe≦10となっており分裂しくい条件となっている。

Fig. 15.

Relationship between injection distance and weber number.

最後にFig.7で示したボイド率について,噴射距離120 mmにおいてボイド率を液滴ウェーバー数で整理した結果をFig.16に示す。噴射条件に関わらずボイド率は液滴ウェーバー数で整理でき,液滴ウェーバー数が大きいほどボイド率が大きくなっていることがわかる。これは,液滴ウェーバー数が大きいほど流体が分裂しやすく,液滴が小さくなることを意味している。

Fig. 16.

Relationship between weber number and void fraction. (Injection distance 120 mm)

以上のように,高圧デスケーリングの分裂挙動は,周囲空気との相対速度で表される液滴ウェーバー数で整理可能であり,長い噴射距離においても液滴が微細化せずに液滴速度の減衰を抑制するには,液滴ウェーバー数を小さくすることが有効である。したがって,噴射圧力や流量が液滴速度や液滴径に及ぼす影響を考慮すると,噴射距離が長い条件では噴射圧力を高くすると液滴速度の減衰が大きく不利であり,大流量化によって速度の減衰を抑制させることが有効であることが示唆された。一方,液滴速度の減衰が比較的小さい近距離の噴射では,デスケーリング能力向上には高圧化による液滴速度の向上は有効であると考えられる。

5. 結言

高圧デスケーリングにおいて噴射距離が液滴挙動や液滴速度に及ぼす影響を調査するため,噴射圧力や噴射流量を系統的に変化させて高速度カメラによる液滴挙動の観察と位相ドップラー法による液滴速度と液滴径の測定を実施し,以下の知見を得た。

(1)デスケーリング水は噴射距離が長くなるにつれて連続,破断,液塊,液滴の順に遷移する。また,噴射圧力が低く,噴射流量が大きいほど連続流領域が長くなるとともに,液滴径も大きくなる。

(2)噴射圧力が低いほど,また噴射流量が大きいほど液滴速度の減衰が小さい。解析結果との比較から液滴と周囲空気の速度差が小さくなって,液滴への抗力が小さくなったためと考えられる。

(3)デスケーリング水の分裂挙動は周囲空気との相対速度で表される液滴ウェーバー数で整理可能であり,長い噴射距離においても液滴が微細化せずに液滴速度の減衰を抑制するには,液滴ウェーバー数を小さくすることが有効である。すなわち,噴射距離が長い条件では大流量化によって液滴速度の減衰を抑制させることが有効であることが示唆された。

文献
 
© 2018 The Iron and Steel Institute of Japan

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