2018 Volume 104 Issue 12 Pages 721
環境負荷を低減するために,自動車の軽量化すなわち使用する部材のハイテン化が急激に進んでいる。その結果,ハイテン材を圧延するために圧延機の負荷が増大している。ハイスロールはその優れた耐摩耗性のために熱間圧延ロールとして広く利用されている。しかし,タンデム圧延機の最終段において現在でもハイスロールを使用出来ない。その理由は,ハイスロールのサーマルクラウンが大きいため通板が不安定になること,およびハイスロールに材料が焼き付き易いため絞り込み事故時のロール損傷が激しいことである。一方,最終段において使用されているニッケルグレーンロールの耐摩耗性はハイスロールの耐摩耗性に比べて著しく悪い。そのため,圧延機負荷の増大により,ニッケルグレーンロールの摩耗が著しく増大している。以上より,最終段においてハイスロールを使用するための課題の克服が必須である。
上記の背景の下に,高温プロセス部会の凝固・組織形成フォーラムの協力により創形創質工学部会に,「熱間圧延ロール研究会」が2014年3月に設立された。同研究会は2017年2月まで3年間活動を行ったが,本特集は同研究会における研究成果より構成される。同研究会の設立時における,同研究会の研究目的は以下の通りである。
熱間圧延ロールに関連した基礎的テーマを扱うことにより,熱間圧延ロールの課題の克服に貢献する。熱間圧延ロールに要求される主な特性は,耐摩耗性と耐損傷性である。しかし,熱間圧延ロールの摩耗メカニズムおよび表面損傷メカニズムは殆ど不明である。そこで,モデル実験である熱間転動摩耗試験,熱間圧延実験,更に熱間圧延の数値解析によりこれらのメカニズムを明らかにする。ところで,従来各社により,熱間転動摩耗試験機を用いて熱間圧延ロールの評価が行われている。しかし,各社の試験機の仕様は様々であり,各社の試験結果を比較出来ない。そこで,標準となるような熱間転動摩耗試験機を新たに製作する。そして,その試験機による摩耗と熱間圧延による摩耗を比較すると共に,その試験機による摩耗特性のデータベースを作成する。また,サーマルクラウンの数値解析と板の蛇行の数値解析の連成解析を行うことにより,絞り込みメカニズム明らかにすると共に,絞り込み事故を防止するための指針を得る。
同研究会の特徴は,主査を含む大部分の同研究会の参加者が,同研究会のために新たな研究テーマを立ち上げた,ことである。そのため,同研究会の3年間の活動期間において,必ずしも十分な研究成果が得られなかった,ことは否めない。しかしながら本特集により,1人でも多くの読者が熱間圧延ロールに興味を持つことを期待したい。また今後,同研究会を引き継ぐ新たな研究会が立ち上がり,熱間圧延ロールに関する課題が更に克服されることを希望したい。