2018 Volume 104 Issue 2 Pages 65-71
The shape change due to hot compression of the porosities formed in center of the steel ingot of carbon steel S25C and stainless steel SUS316L was sequentially, nondestructively and three-dimensionally observed by synchrotron X-ray laminography. As a result, it was revealed that closure of porosities was easier in SUS316L than in S25C. In addition, when the compression ratio increased, originally high aspect ratio porosities (length/width ratio, ℓ/w > 2.5) became decoupled. Larger porosities were more readily closed with smaller compression ratio. As a result of verifying the difference in closure behavior between S25C and SUS316L by Finite Element Method (FEM), it was demonstrated that the hydrostatic integration was larger for SUS 316L of which work hardening coefficient was smaller. This result was consistent with the experiment as results that porosities of SUS 316L tended to close easily.
鋼塊を製造する際に生成された凝固時の収縮に起因する中心空隙は,応力が負荷された時の潜在欠陥として作用し,脆性破壊のみならず,延性破壊においてもき裂解放エネルギーであるJ積分値を低下させる1)。材料の安全性を確保するためには,この空隙をなくすことが重要な課題である。その達成には,鋳造段階での生成を極力抑制するとともに,圧延あるいは鍛造における塑性加工条件の適正化により閉塞させる必要がある。塑性加工条件適正化には,数値解析と実験的検証が用いられている。数値解析においては,応力三軸度の積分値である静水圧積分に着目した,Finite Element Method(FEM)による評価が一般的である2–5)。しかし,数値解析のみでは,塑性加工条件設定の際の不確定要素が残り,実際の実験との対比が不可欠である。NakasakiらはFEM解析とプラスティシン実験を比較し,塑性加工工程における空隙閉塞を予測する手法を確立した6)。この研究ではミリオーダーの欠陥を対象にしており,ミクロンオーダーまで凝固空隙を抑制した時の閉塞挙動を,実験的に連続観察した研究例はない。
最近,空隙の一種であるボイドの引張変形における発生−成長−連結に関し,一般的なX線よりも輝度,指向性がともに高い放射光X線を用いて連続的に観察した研究成果が報告されている。Todaらは,二相ステンレス鋼を対象として放射光X線Computer Tomography(CT)法による三次元でかつ連続的にボイドを解析する手法を確立し,フェライト相とオーステナイト相の画像コントラストの差を用いて引張試験におけるボイド発生起点が二相組織界面であることを明らかにした7)。また,Hoshinoらは板厚が1.2 mm以下の平板試験片に適用可能な放射光X線ラミノグラフィー法を開発した8)。CT法では非破壊で三次元的に試料内部を観察することが出来るが,試験片形状が直径1.0 mm以下の球状あるいは円柱状である必要がある。また,CT法では試料をX線に対して垂直な回転軸で測定するのに対し,ラミノグラフィー法では回転軸を数十度傾けて測定することで十分なX線透過強度を得ることが出来るため,平板状の試験片の内部欠陥を非破壊で観察できる。このラミノグラフィー法を適用して,著者らは工業用純鉄とIF鋼の引張試験におけるボイド成長挙動の差異を示し,局部伸びとの関係を明らかにした9)。以上述べた放射光X線ラミノグラフィー法は,熱間圧縮時の空隙の変形挙動を三次元かつ連続的に解析するのに極めて有用である。
一方,Nakamuraらは銅,ニッケル,軟鋼,アルミニウム,ステンレス鋼を用いて熱間圧接試験を行い,圧接限界条件が鋼種により異なることを明らかにした10)。この知見は,圧延および鍛造における空隙の閉塞挙動でも,接合挙動と同様に鋼種により異なることを示唆する。そこで,本報告では,空隙形状および鋼種が空隙の閉塞挙動に及ぼす影響を明らかにすることを目的として,実験による再現と,FEM解析による検証を実施した。供試材には,合金成分の異なる炭素鋼とステンレス鋼を用い,熱間圧縮試験時のひずみを逐次かつ連続的に付与し,放射光X線ラミノグラフィー法により非破壊で三次元的にミクロンオーダーの空隙の閉塞挙動を観察し,さらに,ミリオーダーのFEM解析で鋼種による空隙閉塞性の差を検証した結果を述べる。
化学組成をTable 1に示す。炭素鋼S25Cおよびステンレス鋼 SUS316Lを供試材とした。平均断面径180 mmの実験用小型鋼塊に鋳造し空冷後,中心部より径8 mm,厚さ1 mmの円板状試験片を旋盤にて切り出した。試料組成において十分な放射光X線透過強度を得られるように,試験片の厚さを1 mmとした。本実験には,大型放射光施設であるSPring-8のビームラインBL20XUにおいて,試料の回転軸傾き角45°,voxelサイズ0.51 μmの条件下,検出器に可視光変換型高解像度X線イメージングユニット(浜松ホトニクス社製,BM-AA50およびSCMOS:ORCA FLASH 4.0)を用いた。その際,ラミノグラフィー法8)によりFig.1に示す試験片中心1 mm四方の空隙透過画像データを露光時間600 msの条件で取得した。その後,熱間加工シミュレーター(富士電波工機製,Thermec mastor Z)にて所定の温度(S25C:1200°C,SUS316L:1250°C)に加熱保持し,加工速度1.0 mm/sの条件で同一の試験片について10%の圧縮加工を施した後に除荷冷却し,鋳造材と同様にX線ラミノグラフィー法により空隙の透過画像データを取得した。さらに,圧縮率を逐次20%,30%と増加して測定を繰り返した。得られた透過データをメジアンフィルター処理した後に,二次元断層像をフィルタ補正逆投影法により再構成した。さらに,2048枚の二次元断層像から画像解析ソフト(Avizo 9.1.1)により三次元画像を構築し11),圧縮による空隙の形状変化を調べた。S25Cの圧縮試験片のFE-SEM観察結果をFig.2に示す。SEM観察により,試験片中にサブミクロンオーダーの空隙があることが確認された。一方,ラミノグラフィー法においてサブミクロンオーダーで検出されるボイドの数は,Fig.2より多く,ノイズが影響していると考えられる。従って,本研究においては,ノイズの検出を回避するため,画像解析の空隙検出のしきい値を体積100 μm3(球相当径5.8 μm)と決定した。
| Specimen | C | Si | Mn | P | S | Ni | Cr | Mo |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| S25C | 0.27 | 0.18 | 0.42 | 0.01 | 0.011 | 0.06 | 0.18 | 0.02 |
| SUS316L | 0.02 | 0.43 | 1.24 | 0.02 | 0.003 | 12.03 | 16.69 | 2.14 |

Observation area of hot compression test specimen.

SEM image of used for compression test specimen (S25C).
鋼種間の空隙閉塞性の差を明らかにするため,FEMにより静水圧積分,Gm+を以下の式(1)に従い計算した。
| (1) |
ここで,εは相当塑性ひずみ,σmは静水圧応力(MPa),σeqは相当応力(MPa),Cは定数項(=0.024)である。定数項Cは,過去に行われたミリオーダーの人工欠陥での実験結果と,中実モデルFEMの解析結果より算出された値である。本報においては,ミクロンオーダーのFEMを行うことは対象外とし,過去の研究より得られたパラメータCを用いて,ミクロンオーダーの実験結果を中実モデルFEMにて評価した。FEM解析条件をTable 2に示す。解析ソフトにはDEFORM 3DTM(Scientific Forming Technologies Corporation社)を用いた。変形抵抗は,別途,径8 mm,高さ12 mmの試験片を用いた圧縮試験による実測値を適用した。なお,各鋼種の圧縮変形における応力−ひずみ曲線をFig.3に示す。
| FEM code | DEFORM 3DTM |
| Compression temperature | S25C: 1200°C SUS316L: 1250°C |
| Flow stress/MPa | S25C: σ = 51.1 ε0.161 SUS316L: σ = 73.4 ε 0.062 |
| Type of elements | 4 node tetra hedral element |
| Friction coefficient | m = 0.50 (shear) |
| Stroke/mm·s–1 | 1.0 |

Flow stresses of S25C (a) and SUS316L (b).
せん断摩擦係数mについては,円板試験片の熱間圧縮試験時の荷重曲線との合わせこみを行った結果,0.50とした。解析モデルおよびメッシュデータを,それぞれFig.4および5に示す。解析試験片の形状を,放射光X線実験の試験片と同様に直径8 mm,厚さ1 mmとし,1/16モデルを用いた。要素分割は四面体とし,要素数は7844とした。実測および解析圧縮試験片の形状をFig.6に,最大径をFig.7に示す。実測および解析において,30%圧下後にはたる状に変形しており,変形圧縮時の最大径の誤差は実測と解析で最大1.2%程度である。そのため,実験の変形挙動を再現できたと結論できる。実際には,被加工材中に欠陥を有する場合,応力,ひずみの計算結果に影響すると考えられるが,本報告では実際に空隙を有するモデルでの計算は検討外とし,応力,ひずみから簡易的に空隙閉塞を評価できる中実モデルにて検証を行った。

FEM model for hot compression test analysis. (1/16 model)

Meshes for FEM analysis.

Experiment and FEM analysis results of shape for specimen at the compression ratios of 0% and 30%.

Maximum diameter of Experiment and FEM analysis results.
S25CおよびSUS316Lについて,熱間圧縮率を0,10,20,30%と変化させた時の空隙形状変化を放射光X線ラミノグラフィー法で観察した結果を,それぞれFig.8および9に示す。図中では,ひとつの空隙ごとに色分けしてある。いずれの鋼種でも,圧縮率の増加とともに空隙が縮小している様子が捉えられた。空隙の形状は楕円形状に近かったことから,長軸/短軸長さ比,ℓ/wをパラメーターとして圧縮率に伴う形状変化を解析した。ℓを三次元画像解析で測定された最大長とし,wを測定した空隙の実体積とℓから楕円回転体近似した際の短径とした。本報告では,ℓ/wが2.5未満の空隙を低アスペクト比空隙,2.5以上を高アスペクト比空隙と定義し,一つ一つの空隙に着目して形状変化を解析した。両鋼種ともに,ℓ/wが1.4~7.2,体積が376~13262 μm3(球換算で径9.6~29.4 μm)の異なる形状の空隙A~E(A,B,C:S25C,D,E,:SUS316L)について,加工後の形状変化を観察した。S25Cの結果をFig.10に,また,SUS316Lの結果をFig.11に示す。ℓ/w=1.9と比較的球状なS25Cの空隙Aについて見ると,加工後のℓ/wがほとんど変化することなく,初期の形状を保ったまま縮小していた。それに対し,同じくS25Cでℓ/wの大きい空隙B,Cに関しては,加工によりℓ/wの小さな空隙へ分断されていた。SUS316Lについても同様に,ℓ/wが小さい空隙D(ℓ/w=1.4)は初期の形状を保ったまま縮小し,ℓ/wの大きい空隙E は加工によりℓ/wの小さな空隙へ分断されていた。

3D constructed images of porosities by synchrotron X-ray Laminograph method at the compression ratios of 0% (a), 10% (b), 20% (c), 30% (d) for S25C.

3D constructed images of porosities by synchrotron X-ray Laminograph method at the compression ratios of 0% (a), 10% (b), 20% (c), 30% (d) for SUS316L.

Effect of initial porosity size (ℓ/w) on configuration change in compression of S25C: Initial (0%) ℓ/w=1.9 (A), 4.3 (B), 7.4 (C).

Effect of initial porosity size (ℓ/w) on configuration change in compression of SUS316L: Initial (0%) ℓ/w=1.4 (D), 5.4 (E).
S25Cにおける空隙A~Cの加工による体積,Vpの変化をFig.12(a)に,また,SUS316Lにおける空隙D,Eの結果をFig.12(b)に示す。S25Cでは,初期体積の大きい空隙Cの体積減少が著しく,初期体積の小さい空隙A,Bの体積変化が小さかった。この結果は,先に述べたように大きな空隙ほど分断されやすいことを示唆する。SUS316Lについても同様の傾向が認められた。この大きな空隙ほど分断されやすい現象は,大きい空隙ほど加工によるエネルギーの流入が起こりやすいことに起因すると考察される。なお,分断後の形状変化は,S25Cの方がSUS316Lに比較して小さかった。

Void volume change during hot compression for S25C (a) and SUS316L (b).
つぎに,三次元構成画像より得られた圧縮量0%の初期を基準とした空隙の総体積比および総数比の加工量による変化をFig.13に示す。S25C,SUS316Lともに,総体積比は加工量の増加に伴い減少した。一方,総数比について見ると,SUS316Lでは30%加工後に約30%まで減少したが,S25Cでは加工量が20%~30%の範囲で約90%の一定値を示した。この現象については,後にFEMで解析した結果をもとに考察する。

Changes during hot compression in the total volume (a) and the number (b) of porosities of S25C and SUS316L.
S25CおよびSUS316Lについて,0%および30%圧縮時におけるℓ/wと空隙体積の関係を,それぞれFig.14および15に示す。S25CおよびSUS316Lともに,0%の初期状態ではℓ/wが2.5未満の空隙が多数を占めた。また,ℓ/wが大きくなるに従いVpが大きくなる傾向となった。この傾向は,S25Cで顕著に認められた。SUS316Lを30%圧下した試料では,初期に見られたℓ/wおよび体積が大きい空隙はほとんど見られず,ℓ/wが2.5未満の低アスペクト比の空隙が多数を占めた。一方,S25Cでは30%圧下後でもℓ/wおよび体積が大きい空隙が残存していた。

Relationships between porosity length/width, ℓ/w and total porosity volume, Vp at 0% compression (a) and 30% compression (b) for S25C.

Relationships between porosity length/width, ℓ/w and total porosity volume, Vp at 0% compression (a) and 30% compression (b) for SUS316L.
前節に示したS25CおよびSUS316L材のラミノグラフィー法により観察した空隙の加工率による変化について,FEMを用いて数値解析を行い実験結果と比較した。被加工材中心部について計算した静水圧積分値Gm+を,Fig.16に示す。S25Cに比較してSUS316Lにおける静水圧積分値が大きかった。この結果から,空隙はS25CよりもSUS316Lのほうが閉塞しやすいと結論され,前章の観察結果とも一致した。

FEM analysis results of hydrostatic integration, Gm+ during hot compression.
つぎに,式(2)で求めた被加工材の相当塑性ひずみεeq分布および静水圧応力σm分布をFig.17に示す。
| (2) |

FEM analysis results of equivalent strain (a) and hydrostatic stress (b) at the compression ratios of 10%, 20%, 30%.
相当塑性ひずみについて,被加工材中心部で大きくなるのに対し,中心部表面近傍にひずみの小さい領域が見られる。したがって,欠陥が中心部表面近傍に存在した場合,中心部にある場合と比べ,閉塞しにくいと推定される。しかし,凝固欠陥は被加工材の中心に存在するため,中心部で評価を行った。両鋼種とも,加工率の増加とともに相当塑性ひずみ,圧縮の静水圧応力は増加した。S25CとSUS316Lを比較すると,相当塑性ひずみ,圧縮の静水圧応力はSUS316Lのほうが大きかった。先に示した両鋼種の静水圧積分の差は,SUS316Lの加工硬化指数がS25Cよりも小さく加工硬化しにくいため応力,ひずみの集中が起こりやすいことに起因すると考察された。
鋼種および空隙の初期形状が熱間圧縮時の閉塞に及ぼす影響を調べるため,炭素鋼とステンレス鋼の熱間圧縮試験における加工量を10,20,30%と変化させて,逐次,連続的に放射光X線ラミノグラフィー法を用いて空隙を観察し,さらにFEM解析した結果,以下の知見を得た。
(1)熱間圧縮時の空隙の加工量による形状変化を三次元観察した結果,空隙の総数はSUS316Lでは30%加工後に約30%まで減少したが,S25Cでは加工量が20%~30%の範囲で約90%の一定値を示し,S25Cに比較してSUS316Lのほうが閉塞しやすかった。
(2)ℓ/w(長軸/短軸長さ比)が大きい空隙は加工により分断され,体積の大きい空隙ほど縮小が起こりやすかった。
(3)FEM解析による静水圧積分値の検証を行った結果,S25Cに比べ加工硬化しにくいSUS316Lで静水圧積分値が大きく,S25Cに比べSUS316Lでボイドが閉塞しやすい実験結果と一致した。
本研究の遂行を許可していただいたJASRI殿に深く感謝の意を表します。本研究の放射光実験はJASRI承認のもと課題採択番号2016A1183で行いました。